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シナリオ詳細

キャンディポップバトルライブ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●カワイイは正義
 輝くネオンとサイリウムの真ん中で、バネ仕掛けのステージから飛び上がる。
 瞬間、わき上がる歓声。スポットライトを四方から浴びながら、赤いツインテールの少女は声を張り上げた。
「みんなーーー! 今日も来てくれてありがとーーーーーー!」
 飛び上がっても不思議とめくれない赤黒チェックのスカートに、フリルのついたアイドル衣装。
「それじゃあ一曲目☆ いっくよーーーーーー!!」
 鳴り響くドラムとギターの音楽。
 その瞬間である。天井から吊るされていた檻が落ち、砕けた檻から全長三メートル近い熊が飛び出した。
 咆哮し、狂乱し、最も近い者へと襲いかかる。ただ命を奪うだけの獰猛な爪が、ツインテールの少女へと迫――。
「cute!」
 爪が繰り出されるよりコンマ五秒早く、ツインテール少女の飛び回し蹴りが炸裂した。
 熊がのけぞるその瞬間に反転。
 踵からの空中後ろ回し蹴りが炸裂し、熊は今度こそ吹き飛んだ。
 回転しながら観客席に激突する熊。
 まるでおかわりでも盛るように、コロシアム状ステージのあちこちに先程同様の暴れ熊が落ちてきた。
 顔を上げ、目に『☆』を浮かべ、キラキラのスマイルを見せるツインテール少女。
「ショータイム!」
 その途端。
 ステージのあちこちからアイドルたちが飛び出してきた。
 ピンクのパーカーを纏ったピンク髪の少年がキラキラにデコレーションした拳銃によるピンポイントな射撃で熊を圧倒すれば、腰まで届く長い黒髪の凜とした女が日本刀で熊を三分割した。
 いかにも筋骨隆々な大男は召喚したツギハギ熊の着ぐるみを装着し、熊を豪快なジャイアントスイングで観客席へと放り投げていく。
 少女向けドールのように着飾った球体関節鉄騎種少女は両手を振り上げ、十指すべてに接続された糸で戦闘人形を操り熊を八つ裂きにしていく。
「わたしたち――『キャンディポップ』を今日もよろしくね☆」
 観客たちは声を上げ、サイリウムスティックを振り乱し、今宵も熱狂の限りを尽くすのだ。

●カワイイは強さ
「ゼシュテル鉄帝国の国民性が、個人の強さを愛好することにあることは知ってるよね。
 それは(場所にはよるけれど)アイドル業界であっても変わらないことみたいなんだ」
 アイドルソングが流れるカフェの一角。壁に並ぶアイドル写真に囲まれながら、カルネ(p3n000010)はジュースのカップを置いた。
 可憐な乙女が鬼のように強いなんてことは、ローレットを軽く見回しただけでも例の多いことだとわかるだろう。
 可愛さと強さは同居できる。その上で、同居することが望まれるのが、ここエーケーシティのアイドル業界であった。
「そうなの☆」
 目に『☆』を浮かべ、横ピースをしてみせる赤いツインテールの少女。
 状況からして分かる通り、彼女が今回の依頼人。アイドルユニット『キャンディポップ』のリーダー、『ストロベリー』である。
「だからね、私たちも『強くてカワイイ』アイドルをやってるの☆
 いつも捕まえてきたモンスターと戦う『バトルライブ』を開いてるんだぁ」
 とろけるように喋るストロベリー。
「ファンのみんなはいつもライブに来てくれてとーっても嬉しいんだけど……。
 そろそろ新規開拓もしなくちゃなの。ストロベリーたちにもぉ、対人戦闘のショーを開く時期が来たのかなぁー……って☆」
 カルネはそこまでの話を区切って、テーブルの向かいに座っているあなたを見た。
「そういうことなんだ。今回は僕らローレットの即席チームをゲストに呼んで『バトルライブ』を開くことになったんだ」
「勿論手加減は抜き☆ 血で血を洗う本気のファイトをファンの皆に届けるよ☆」
 ストロベリーは『☆』の浮かんだ目を、ぎらぎらと凶暴に見開いた。
「そんなバトルが、ファンのみんなはだーーーーーいすき、だからね☆ミ」

GMコメント

■■■オーダー■■■
 鉄帝アイドルユニット『キャンディポップ』のバトルライブに協力します。
 具体的なオーダーは『ライブを盛り上げること』であります。
 なので勝負に勝つことや効率的に戦うことは成功条件に含まれておりません。

 皆さんはライブのゲストとしてステージに立ち、『キャンディポップ』と直接対決を行ないます。
 その際の武装や戦闘方法は自由ですが、この際なのでアイドル性を出していくと楽しいし何よりカワイイと思います。

 『キャンディポップ』は強くてカワイイをモットーにしたアイドルユニットです。
 メンバーの全員が高いアイドル性と個人戦闘力を両立させており、当たり前のように暴れ熊を殴り殺します。
 そのうえでライブにおける『かわいさ』と『つよさ』を観客に見せつけ、虜にすることを生業としているのです。
 そういう意味では鉄帝闘士と同じと言ってもいいかもしれません。

■■■ステージ■■■
 コロシアム(すりばち)状のステージで、観客席が円形に並んでいます。
 ステージインの方法は特に定められていませんので、目立つ方法や素敵な方法を考えて見てください。

■■■バトルライブ■■■
 キャンディポップのメンバー8人とイレギュラーズ8人でバトルライブを行ないます。
 基本的には8対8で一斉にステージインしてドカドカにぶつかり合う予定ですが、『一対一で戦いたい』といった趣向や『タッグマッチを取り入れよう』といった提案をすることで、ライブに味を出すことができるかもしれません。
 やりたいなと思ったらPCどうしの相談で提案してみてもいいかもしれませんね。

 きわめてざっくりと方針を決めるなら、『自分と戦う相手』を決めて各個で別々のバトルを行なうというやり方があります。
 自分と戦ったらおもしろいカードになりそうだなという相手を定めて結びつけていきます。
 勿論その方法をとらなくても全然問題ありません。
 最終目的である『ライブを盛り上げる』のために選択をしてください。
 場合によってはバトルの白熱をねらうためパンドラの消費を行なったり、重傷覚悟で突っ込んだりするのもいいでしょう。

■■■メンバー■■■
 キャンディポップのメンバー八人をざっと紹介しましょう。

・ストロベリー
 赤いツインテール。目に『☆』。
 ステレオタイプな王道アイドル衣装を纏う。
 徒手格闘にすぐれたアイドル。防御を強引に貫く格闘が武器。

・レモン
 黄色いゴシックドレスに身を包んだ球体関節鉄騎種の少女。頭に大きな黄色い花飾りがのっている。
 指で操る戦闘人形を武器としており、大中小の『めしつかい』三体が攻撃防御応援をそれぞれ担っている。
 ステータスはバランス型だが戦い方はトリッキー。相手の動きを止める技が多い。

・マスカット
 パープルカラーの髪を後ろで結った女性。眼鏡で目元の表情を隠しているがわりと照れ屋。ひとと目を合わせられないらしい。
 妖精さんと心が通じ合っているらしく、妖精の力を使った様々な魔術を行使する。そのため魔術効果のバーリエーションが広く、炎や氷、光や闇など色々な属性を行使できる。

・コーヒーミルク
 腰まで届く黒髪にワイシャツ。そしてダメージジーンズ。
 凜としたクール系。
 腰には刀をさしており、溜め打ちによる一撃必殺は凄まじい威力を誇る。

・メロンソーダ
 性別不詳の子供。緑の子供服を纏っている。
 パラソルと旅行鞄をどこにでも持ち歩くナーサリーマジックの使い手。
 要は『ごっこあそび』を現実にする魔術。鞄から架空の虎を召喚したり傘を広げて空を飛んだりする。

・ブルーハワイ
 目元がやや隠れる空色髪の青年。
 軍服を改造したようなブルーの衣装を纏い、サーベルを武器とする。
 クールなキャラで常に周囲に氷のきらめきが舞っている。
 鋭い剣の命中制度で着実に相手を凍らせ、仕留めるまでが彼のスタイル。

・ピーチシュガー
 ピンク髪を結った少年。
 缶バッジやピンクのパーカーなどカワイイ系のファッションを纏う。
 デコった二丁拳銃が武器で、射撃の手数(EXA)と軽いみこなしが武器。
 特技はブレイクダンス。

・漢梅(おとこうめ)
 筋骨隆々の巨漢。召喚したカワイイ着ぐるみを装着することで戦う。
 召喚できる着ぐるみは三種類あり、それをスイッチすることで戦闘のバリエーションを広くしている。攻撃特化、防御特化、スピード特化の三種。

■■■カルネ■■■
 今回のカルネは情報屋として仕事を斡旋してきた立場なので、ライブバトルには参加しません。
 一応観客席にはいるのでリアクションくらいはするかもしれませんが、必要がない場合描写には出てこないでしょう。
 また、人数がどうしても足りないときのピンチヒッターとして出てくることがあります。

  • キャンディポップバトルライブ完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年06月22日 21時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

セララ(p3p000273)
魔法騎士
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
シエラ・バレスティ(p3p000604)
バレスティ流剣士
メリンダ・ビーチャム(p3p001496)
瞑目する修道女
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
鞍馬 征斗(p3p006903)
天京の志士
エストレーリャ=セルバ(p3p007114)
賦活
ミリヤム・ドリーミング(p3p007247)
アイドルでばかりはいられない

リプレイ

●キャンディポップバトルライブ
「みんなー! 今日も来てくれてありがとーーーーー!」
 並ぶ八人のシルエット。大人気鉄帝アイドル『キャンディポップ』のメンバーである。
 わき上がる観客席とサイリウムの波。センターに立ったストロベリーはよく響く声で叫んだ。
「今日は特別に、すっごいゲストに来て貰ったよ! 紹介するね! チーム、ローレット!」
 二人四組になってステージ下からせり上がってくる八つの影。
 センターへと飛び出した二人組が、被っていたローブを脱ぎ捨てた。
 マイクを持って背中合わせになる『魔法騎士』セララ(p3p000273)と『輝きのシリウス・グリーン』シエラ バレスティ(p3p000604)であった。
「「まだ誰も知らない純潔の羽
 このままじゃ変わらない
 だから今 駆けだす 私達の舞台(ステージ)へと――」」
 大きな爆発が起こり、セララは剣を、シエラは斧をそれぞれ抜いてキャンディポップたちへと突きつけた。
「皆に愛をお届け! シエラ&セララ参上!」
「神さえも知らない 新たな歴史をみんなで刻もう! ミュージックスタート!」
 流れ始めるバックミュージック。
 おりるスポットライトにあわせて白銀の薔薇吹雪を幻影で作り出した『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)が、すらりと銀の剣を抜き放った。
「白銀の騎士、リゲル=アークライト。ここに推参!」
 すぐさま膝をつき、後ろからおしとやかに歩いてくるミリヤム・ドリーミング(p3p007247)の手をうやうやしくとる。
 黒金のフリルドレスを纏ったミリヤムは、リゲルと合わせるようにしてタクトを振り上げた。
「黒金の姫、ミリヤム・ドリーミング登場っス! さあ、夢を見させてやるっスよ!」
 すると、同時に両サイドに控えていた二組のペアへ同時にライトが当てられた。
 祈るような姿勢でキャンディポップたちへと頭を垂れる『瞑目する修道女』メリンダ・ビーチャム(p3p001496)。
 目をしっかりと閉じ、黒いベールで目元を覆っている。それでも分かるような、ふんわりとした笑みを口元に浮かべた。
「神様もきっと、この戦いをご覧になっているわ。お互い健闘しましょう」
 そんなメリンダを彩るように、『天京の志士』鞍馬 征斗(p3p006903)がゆったりとした舞を披露しながら前へと出て行く。
「どうにも、衆目の前ってのは苦手だね……こればっかりは」
 小声で呟くと、征斗は見栄をきって身体を止めた。
「ほらほら恥ずかしがったら負けでありますよ。要はあいつら全員ぶっ飛ばせばいいのであります」
 同じく前へ出た『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)は、鋼の拳を身体の前で打ち合わせると力強くキャンディポップたちへと拳を突き出した。
「簡単だね?」
 それに続くように、『星守』エストレーリャ=セルバ(p3p007114)は彼らの前へと歩み出る。
 星狼のシリウスの加護をうけた証をあえて表面化させ、樹精の腕輪をなでることで飛び出した蔦を槍に変えて握り込む。
「さあ、始めましょう。僕たちのバトルライブを!」
 世界に名をとどろかすギルド・ローレットのイレギュラーズたち。
 キャリアの大小こそあれど皆(これが初仕事のミリヤムも含め)有名なイレギュラーズである。
 キャンディポップのセンター、ストロベリーは目に大きな『☆』を浮かべてぺろりと舌なめずりをした。
「いいライブに――しようね☆」
 速攻。
 ストロベリーはステージを蹴って飛び上がり、セララもまた同時にステージを蹴った。
 激しい跳躍によって空中でぶつかり合う二人。
 ほぼ同時に残る14人が飛び出した。
 彼らにゴングはいらない。
 きっとこの世界に生まれたその日から、鳴っていたはずだから。

●かわいさとつよさ
 ライブの目的は勝敗を決することではない。
 見る者に興奮や感動を与えることだ。
 そのために、ストロベリーとセララたちはあらかじめ約束をしていた。
 取り決めた組み合わせに分かれ、ステージのあちこちで同時にバトルを展開するという約束である。
「セララスペシャル!」
「ストロベリークラッシュ☆」
 セララの剣とストロベリーの拳が激突。それぞれの纏った赤いオーラが反発しあい、真っ赤な火花となって散った。
 その下ではメロンソーダが螺旋模様の日傘を開き、くるくる回しながら突風を引き起こす。
「さあ共に飛び立とう。
 それ以外 答えなんて ある訳ない」
 歌いながら風を切り裂き、突き進むシエラ。
「風と共に刻むよ 私達の新たなる軌跡
 伝え! 常識を置き去りにする パンドラの力。
 届け! 二対の翼に込められた 全身全霊の想い。
 響け! 可能性を作り出し 掴み取る イレギュラーズの魂」
 羽根飾りのついたジェットパックを点火。無理矢理メロンソーダへと突っ込むと、手にした斧を叩き付ける。
 旅行鞄を開いて架空の壁を作り出したメロンソーダに阻まれるが、シエラは構わず壁を殴り続けた。
 架空の壁が破壊され、グリーンのオーラが斧へまとわりつくように走る。
 メロンソーダは傘を開いて逃げようとするが――。
「逃がさないよ!」
 シエラは挑発をしかけながら飛びかかり、メロンソーダは傘を剣に見立ててシエラの斬撃を受け止めた。
 グリーンのオーラがぶつかり合い、またも大きな火花を散らした。
 反発し、それぞれ距離をとりあう四人。
 ストロベリーは汗を散らしてにっこり笑うと、目の中の『☆』を煌めかせた。
「聖剣騎士団――相手にとって不足なし☆」
「全力で生かせてもらうよ。そっちも……わかってるよね」
「もちろん! いくよシエラ!」
「合体技だね、セララ!」
 同時に跳躍し、武器を振りかざすシエラとセララ。
 オーラが螺旋状に混ざり合い、巨大な剣になってステージの天空を抜いた。
 対するメロンソーダは旅行鞄から取り出したシーツをストロベリーに纏わせて架空のマントにするとストロベリーの力を極限まで引き上げさせた。
 膨大なオーラが噴出し、セララたちの攻撃に真っ向から殴りかかる。
「ボク達が!世界を救う勇者だーーー!!!」
「私たちには心の帰る場所がある! それはローレットだあぁぁぁーー!!!!」
 ぶつかり合う力と力が打ち上げ花火のように広がり、観客席を驚きと興奮で照らし出していく。

 一方、リゲルとブルーハワイは真っ向から剣をぶつけ合っていた。
「なるほど、君が『あの』アークライト……噂通りまっすぐな剣だね」
「私を知って……?」
「さあ、どうだろうね?」
 鍔迫り合いに持ち込み、顔を近づけるリゲルとブルーハワイ。
 観客席の女性陣が身を乗り出してガッツポーズをした。
 一度お互いを弾きあい、リゲルは剣に炎を、ブルーハワイは剣に氷を纏わせて放ち合った。
 衝突――せず、ねじれるように交差する炎と氷。
 リゲルは鎧の下に着込んだアデプトスーツで凍結状態を防ぎ、ブルーハワイへと再度突撃する。
「俺に氷は通用しないぞ」
「僕にも炎は通用しない」
 ブルーハワイも纏う氷で炎を振り払うと、リゲルめがけてまっすぐな突きを繰り出した。
 剣の先端と先端がまっすぐにぶつかり、独特のギィンという音を響かせる。
 そこへ降り注ぐやまなりの魔法弾。
 素早く飛び退いたブルーハワイへとミリヤムがタクトを振り回して魔法弾を次々に発射していた。
「恰好とか技とかでクール気取りとか笑うっス。真のクールはリゲル先輩ですし!」
「ディス・パフォーマンスか。君もだいぶアウトローらしいな」
 背後で声。
 振り返る際に見える長い黒髪。
 充分に力を溜めたコーヒーミルクが抜刀するその一瞬が、ミリヤムの網膜に焼き付けられた。
 ドレスの下に仕込んだ折りたたみバックラーを開いて防御――するが、それすらぶち抜く斬撃によって盾が破壊され、ミリヤムは派手に吹き飛ばされた。
「みゃーーーーーー!」
「ミリヤムさん!」
「おっと、君の相手は僕だよ」
 駆けつけようとするリゲルを、ブルーハワイがクールな笑顔と剣で止めた。
 観客席でガッツポーズをとる女性ファン。
 一方、コーヒーミルクは刀を握ったまま凄まじいスピードでミリヤムへと襲いかかった。
「もろすぎるな、まるで斬ってくれと言ってるようなものだぞ」
 防御を試みるも切り裂かれていくミリヤム。
 ぼろぼろになったドレスをひいて、流れる血をそのままに、ミリヤムはうつ伏せに倒れた。
 興味を失う……ことなく、コーヒーミルクは再び刀を鞘に収め、抜刀術の構えをとった。
「しかし……そこが魅力なのだろう? ミリヤム・ドリーミング」
 じり、と土を掴むミリヤム。
 涙と泥にまみれた顔を上げ、ミリヤムは立ち上がった。
「パンドラが燃えてもいい……バズれ、この一瞬!」
 繰り出される刀を素手で掴み取り、吹き出る血も気にせず空いた拳に炎を纏い、コーヒーミルクの顔面へと叩き付けた。
「こんなんでも」
「それでこそ」
「アイドルなんスよ!」

「骸の盾よ起きろ……! 時間稼ぎくらい、出来ればいいけど……無理はしないで」
 征斗が大地を力強く叩くと、骨でできたインスタントアンデッドが三体ほど召喚された。
 対するレモンはおおきな執事風のめしつかい人形を操って急接近。
 インスタントアンデッドをたちまちの内に破壊していく。
「……っ!」
 征斗は氷の華を手の中に生み出すと接近するレモンめがけて投擲。
 ドーベルマン風のめしつかい人形と小鳥風の人形がそれらを破壊し防御してしまう。
「メリンダさん」
「うふふ……」
 時間を稼いでもらったメリンダは、長いスカートの下からモーニングスターを取り出した。
「さすがにやるわね。もっと楽しませて頂戴な?」
 カッと開いた目は赤い洞。露わになった顔や手首にはまざまざと刻まれた縫い跡がはしっていた。
 凶悪なギャップを纏って殴りかかるメリンダに、レモンは犬と小鳥の人形を操ってモーニングスターを差し止めた。
 執事人形が剣を繰り出し、メリンダの肉体を貫く……が。
「アハハ……!」
 歪むように笑ったメリンダは執事人形の手を掴んで剣を柄部分までめり込ませると、至近距離から激しい膝蹴りを叩き込んだ。
 腕力にものをいわせ、犬人形たちごとモーニングスターを振り回す。
「まだまだこの程度では止まらないわよ!」
 振り込まれたモーニングスターが執事人形を殴り飛ばし、へしおって破壊していく。
「やるじゃあないの。清楚さと残虐さのギャップといい、いいバトルアイドルになれるわ」
 レモンは鈴を転がしたような幼い声で言うと、全ての指から操り糸をパージ。
 と同時に、メリンダめがけて飛びかかった。
 肉体動作としては不自然すぎる関節の曲げ方から繰り出される蹴り。メリンダの頭部を豪快に打ち、ぶちぶちと顔の縫合が切れていく。
 メリンダは手で顔の崩れを押さえると、自らも関節を無視した遠心力パンチを繰り出した。
 手首の縫合が切れて崩れていくが、それはレモンも同じであったらしい。球体関節の接続部が崩れ、腕がころりと落ちていく。
「メリンダさん、今――っ」
 征斗がフォローに入ろうとすると、デコった二丁拳銃を構えたピーチシュガーが割り込みをかけた。
「二人とも気持ちよくなってるんだから邪魔しちゃだーめ。僕らはあっちで遊ぼうよ」
「そういうのは得意じゃないんだけどな……」
 征斗は手刀に気を集めると、舞うような美しい動きで飛来する銃弾を打ち落としていく。
 反撃にと投擲した氷の華が爆発し、ピーチシュガーはパーカーを靡かせて防御姿勢をとった。
「やるね。強い上にカワイイ」
「そうかな……分からないけど」

 エッダの拳と漢梅の拳が真正面から激突した。
 鋼鉄ネコチャンの着ぐるみを装着した漢梅が、のぞき穴からエッダをぎらりとにらみ付ける。
「アイドルといってもやはり闘士。戦いの欲望からは逃れられないでありますな。はーっはっはのはー」
 メロイックサインを出した後、そちらの拳も握り込んで叩き付けるエッダ。
 鋼の拳を交互に振り込むサップラッシュが漢梅を襲うが、漢梅はそれをあえて身体で受け止めた。
 ラッシュが途切れた直後、全く同じラッシュをエッダめがけて叩き込む。
 純粋な体力勝負を持ちかけている。
 戦いは時としてメッセージとなり、メッセージは時として会話となる。
 今エッダと漢梅は戦いを通じて語り合い、そして一つのゲームを作り出していた。
 漢梅の拳が、エッダの拳が、それぞれお互いの顔面だけを狙ってひたすらに打ち込まれ続ける。先に倒れた方が負けというきわめて純粋なゲームである。
「あっちはお楽しみみたい、ですね。とうします……私たちは」
「そんなこと」
 言わなくてもわかるよね。エストレーリャは蔦で作り出した槍を豪快に投擲。
 精霊の加護を受けた槍が青い流星のごとく光をひいてマスカットへと迫った。
 手を翳し、妖精を召喚するマスカット。
 花の妖精が飛来する槍に花をさかせ、制御を奪ってマスカットの眼前で停止……そして反転させた。
 発射される花さく槍を、エストレーリャは新たに生み出したツタの剣で切り払った。
 光になって散る槍。
 すかさず手の中に生み出したツタのボールを投擲し、内包させていた術を開放。
「さぁ、花開けロベリア!」
「歌えメロディア!」
 妖精が円陣を組んで歌いはじめ、広がる悪意を中和し始める。
 その間にマスカットは剣の妖精から妖精剣を借りて握り込み、エストレーリャへと迫る。
(攻められたら近接以上には逃げません!)
 エストレーリャは蔦の剣に精霊の籠を纏わせると、マスカットの妖精剣に対抗するように前へ出た。
 剣が二度三度とぶつかり合い、それぞれの力が火花になって散っていく。
(怖いですが、学びたいですし、それに今――)
 エストレーリャの目にきらりと星が宿った。
「ワクワクしてます!」
「分かります、私も……!」
 眼鏡の奥で高揚するマスカットの瞳。
 鍔迫り合いをおこし、真正面から見つめ合った二人の頬は興奮に燃えていた。
「僕もファンになりそうです!」
「けれど今は、ファンのみんなのために戦いましょう、ね!」

 戦いは過激に過激を重ね、観客たちは燃え上がるようにサイリウムを振り回し、立ち上がって叫んだ。
 今宵はバトルライブ。
 興奮のるつぼ。
 一夜だけの楽園。
 闘士たちは力の限りぶつかり合い、燃えさかり、その炎は人々の興奮となり――。
 バトルライブは成功のうちに幕を閉じた。
 勝敗など、もはや些細な話である。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 これにて閉幕。
 またのおこしをお待ちしております。

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