PandoraPartyProject

シナリオ詳細

海の奏者と安らかな夜

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●世界を目指すって感じです。
 海洋のとある平和な村。
 一年を通して旅行客すらほとんどこない、格別に魚が獲れるわけでもないこの村が、誇りにしている場所がある。
 海だ。
 真っ白な砂浜、ターコイズブルーのきらめく海面。村の一部であるこの海がほとんど汚れていないのは、利用するのが村人ばかりだからだろう。
 少し泳げばサンゴ礁や悠然と海中を往く魚も見られる。
 有名にならないのは、宣伝しなくとも村はどうにか経済的に破綻することなく維持されているためだ。
 村人たちの憩いの場。少ない子どもたちが夏になると走り回ったり、失恋した女性が叫んだり。むかしからずっと、村人たちを見守ってきたまさに母なる海。

「アアアアア!!!!」
「ウゥィアアアア!!!」
「アアアア!」

 ジャアアアン! とものすごい音がする。
 ピイイイ! と甲高い笛らしき音が混じる。
 平和で静かな海は一変して、謎の音楽集団の演奏会場になっていた。
 それも朝も夜もなくだ。
 眠ることさえままならないのだが、苦情を言いに行った村人が絡まれて追い返されたこともあり、手も足も出なくなっていた。
「いやもう限界でしょ……」
「眠い……うるさい……」
 げっそりした村人たちは、ついに救援を要請することにしたのだった。

●いかなる名曲も時と場合を選んで演奏した方が喜ばれるのではないか、という話。
「騒音の被害に遭っている村に行ってほしいのです」
 資料を広げた『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は、集まったイレギュラーズの顔を見まわす。
「皆さん、音楽はお好きですか?」
「まぁ、うん」
「たまに聞くかなぁ」
 うんうん、とユリーカはその反応に頷いた。
「ボクも好きなのです。でも時と場合によると思うのです。たとえば、真夜中に大きな音で演奏するのはだめなのです」
「そうだな?」
「ということで、メッてしてきてほしいのです!」

GMコメント

 はじめまして、あるいはお久しぶりです。あいきとうかと申します。
 作業用BGMはたいていジャズピアノです。

●目標
 海の奏者たちに真夜中の演奏をやめさせる。
(説得、撃破、その他なんでも構いません)

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ロケーション
 皆様が現場に到着するのは昼頃です。

 太陽の日差しが暑くなってきたころです。
 はだしで歩くと足元の白砂が熱いかもしれませんが、それによる戦闘のデメリットは発生しません。
 砂浜、波打ち際、海あたりでの戦闘になると予測されます。

●敵
『海の奏者』を自称する魔物の集団です。
 演奏したいという本能に従って動いています。この村を会場に選んだ理由は特になさそうです。
 話が通じないわけではありませんが、聞く耳を持つとも限りません。
 魔物たちはカタコト程度にしか話せません。
 演奏をとめようとすると攻撃してきます。とめない限り無限に演奏します。

『黒入道』×3
 夏日なのに真っ黒なローブに身を包んでいる。顔は見えない。太鼓のような楽器を打ち鳴らしている。
 特殊抵抗と機動力に優れる。中距離型。
 
・楽器を振り回す:物近単
・水槍:神中単【凍結】
・毒霧:神中範【毒、暗闇】

『ネグレス』×2
 体は魚、顔は美女。縦笛らしきものを吹いている。
 体力と回避に優れる。遠距離型。

・楽器を振り回す:物近単
・応援:神中単【万能、回復】
・小渦:神中範【足止、体勢不利】
・絶唱:神遠範【万能、麻痺、魅了、呪殺】

『ヴォジャ』×4
 二足歩行のカエル。六弦楽器をぎゃんぎゃん弾く。
 防御技術と反応に優れる。近距離型。

・楽器を振り回す:物近単
・舐める:物近単【不吉】
・ぬるぬるボディ:物近単【毒、痺れ】

●他
 海の奏者たちが村人の眠りを妨げなくなれば成功です。

 以上、皆様のご参加をお待ちしています!

  • 海の奏者と安らかな夜完了
  • GM名あいきとうか
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年06月24日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)
騎兵隊一番翼
クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
霜凍 沙雪(p3p007209)
迷子の雪娘

リプレイ

●騒がしき演奏
 音楽は浜辺に近づくと、耳をつんざくほどに音量を増した。
「説得するとして、聞こえるのか?」
 眉をひそめて『寂滅の剣』ヨハン=レーム(p3p001117)は砂浜の奏者たちを見る。
 その言葉に目蓋を伏せた『迷子の雪娘』霜凍 沙雪(p3p007209)は、実のところ奏者たちの背に広がる海に感動していた。
(おおきい……)
 暑い日差しを受け、初めて見る海はずっと遠くまできらきらしている。
 すっと『灼鉄の聖女』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)が大きく息を吸った。
「こっちこっち、気づいてくださいまし! 私たちちょっとお話をしたいのだけれど!」
 音楽に負けまいと声を張り、夢中で演奏する魔物たちの視界に入り、大きく手を振って気を引く。
 奏者たちはようやくイレギュラーズに気づいたようだった。音が少し小さくなる。
「るらら~。ねえねえ君たち~俺たちの話を聞いて~」
 騒々しい音楽にあわせ、『女王忠節』秋宮・史之(p3p002233)は曲にあわせて歌いながら近づいていく。
 魔物たちの目が一瞬、輝いたようだった。
「ウァァ!」
「アァァ!」
 ジャァァン、ピィィ、ドコドコ。熱狂するように音が大きくなる。
「喜んでいるな」
「うーん」
 淡泊なヨハンの分析に、史之は眉尻を下げて耳を塞ぐ。
「おーい君たち! ちょっといいか! 話があるんだが聞いてほしい!」
 ボーカルを提供しにきたわけではないのだと、『風来の名門貴族』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)は必死に訴える。
「ウァァ……?」
「ヴァィァア?」
 演奏はとまっていないが、どうにか声が届きそうな音量に戻った。
 敵意がなさそうな来訪者たちに、魔物たちは顔を見あわせる。
「貴方たちが、海の奏者さんですか? 私はクラリーチェと申します」
 柔和に微笑みながら『ほのあかり』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)が進み出た。
「ここに住む村の方から、演奏の音で眠れないという話を聞いています。演奏時間、もしくは場所をご考慮いただけませんか?」
「賑やかで楽しい音楽だが、近くの村に住む人には賑やかすぎて、夜も眠れないんだ」
 誠意をこめて説得しつつ、『優心の恩寵』ポテト チップ(p3p000294)は地図をとり出した。
 事前に精霊や、『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)のソラスという名の鴉、そして村人に聞き、仲間たちと協議を重ねた場所に、赤色の丸い印が描かれている。
「彼らも困っているし、お前たちも苦情がくるたびに練習の手をとめることになっては大変だろう? もっと自由に演奏できる場所を知っている」
「そっちなら苦情もこないし、誰もとめやしないよ。腰を据えて練習したいなら、邪魔はない方がいいでしょう?」
 これ以上ない提案だと、ルーキスは片目をつむって見せた。
「もうすぐ海洋でサマーフェスティバルが開かれるよ。その大舞台で演奏してみたいと思わないか?」
「村でも三週間後にお祭りが行われます。演奏者様を募集なさっていますよ」
「ヴァアア!」
 史之とクラリーチェの発言に海の奏者たちが高揚する。
 耳をろうする合奏が響く前に、史之が続けた。
「大丈夫、君たちならできるよ。だってこれだけ素晴らしい演奏ができるんだもの。頑張れば女王陛下の御前で演奏する好機に恵まれるかもしれないね。一世一代のチャンスだよ。賭けてみないか!」
「ウァァ!」
「……もしかして上手くいくのか?」
 海の奏者たちがいつ襲ってきてもいいよう、密かに警戒しているヨハンがわずかに眉を上げる。沙雪がゆるりと瞬いた。
「でもそのためにはもう少し、練習が必要だね」
 悲し気に肩を落とした史之に、魔物たちも少し静かになる。
「なに、特訓をすればいい。うってつけの場所もあるんだ。どうだい? 発表までそっちで鳴らすってのは」
「そうそう、それに普段から音楽を披露していると、ありがたみが薄れてしまうのではなくて? 普段は人に聞かれない場所で練習しつつ、華やかなステージで最高の音楽を奏でてみるのはどうかしら? きっと皆、感動しますわよ!」
 勇気づけるようにレイヴンが口の端を上げ、ヴァレーリヤが大きく頷いた。
 どうする、と相談するように魔物たちが視線をかわす。
「ヴィィア!」
「ヴィア……」
「アァァ……」
 徐々に魔物たちの空気が険悪なものになってくる。比例するように、イレギュラーズの間に覚悟とも諦念ともつかない気配が広がった。
 六弦楽器を持ったカエルが、一番近くにいたクラリーチェめがけて突進する。すかさずヨハンが庇った。
「まぁこうなるか!」
「意見が割れて、まぁいいや戦うか、みたいな結論になったのかな」
 やれやれとルーキスは肩をすくめる。
「できるだけ、傷つけないように……!」
 後退したクラリーチェが自身の魔力を増幅する。
 各々が戦闘態勢に移行した。

 後ろに下がったレイヴンの背に、漆黒の翼が広がる。
 天の御使いを思わせるそれを羽ばたかせ、彼は一気に上昇した。
「ふむ……、騎空士か。なるほど普段よりも体が軽い」
 自在に空を駆けるともされる、自由の遊撃手を示すクラスを習得したのは、最近のことだった。
 以前のクラスとどれほどの差があるのかと思っていたが、エスプリの効果も相まってか動きの機敏さを体感できる。
 悪くない、とレイヴンは口の端を上げ、片手を海の奏者に向けた。できるだけ大人数を巻きこめる瞬間を狙う。
「まずは落ち着いてもらわなくてはな」
 虚空に描くのは薄青の文字ひとつ。破壊を意味し、回避が不可能なほど広範囲に雹を降らせる魔術だ。
「ヴァアア!」
 温暖な海域に住まう魔物たちが、初めて体験する氷の雨に叫びを上げる。
 それでも音を奏で続けているのは、もはや執念か。
「ああもう、話を聞けー!」
 鼓膜の限界を迎えかけているルーキスが、レイヴンの攻撃に重ねるように宝石魔術を発動させる。
 海の奏者のちょうど中央あたりを起点に、氷の花が舞った。
 氷雨の中で花が散る、幻想的な光景が汗ばむ陽気の浜辺に展開される。
「アァァ!」
 ただ、その花は壮麗さとは裏腹に、複数の呪詛をはらんだ危険なものだ。レイヴン同様、殺さないよう手加減こそしているが、ただ見惚れていては命に関わる。
「話を聞いてください。貴方たちに害をなしたいわけではありません」
 雹と氷花がやむころに、クラリーチェがよく通る声で切実に訴えた。移動反対派らしいネグレスが笛を振る。
「オンガ、クゥ……! ヤメナィィ……!」
「やめなくていい。場所を変えろという話をしているんだ」
 夏日にもかかわらず真っ黒なローブで頭から爪先までを隠した黒入道が、太鼓のような楽器をドコドコ打ち鳴らす。
 発生した氷の槍が沙雪を狙ったが、すかさずヨハンが彼女の前に出て、月光のように美しい大剣で弾いた。
「怖がらなくていい。自分にできる範囲のことをしろ」
 ちらりと肩越しに振り返り、ヨハンは小声で、口早に沙雪に伝える。
「できる、こと……」
 今回、沙雪は依頼をこなすことになれるために、仲間たちの動きをしっかり観察し勉強することを目的にきた。
 焦りも無理も、禁物だ。
 ヨハンはもう前を向いている。少女は彼の背に首肯を返した。
「ウタァァ」
「ごめんね、ボーカル希望者じゃなくて!」
 六弦楽器を大上段に構え、ヴォジャの一体がカエルらしい跳躍力を以て史之に飛びかかる。
 仲間たちの士気を上げた史之は腕時計型の理力障壁発生装置のスイッチを入れる。赤い光がこぼれ、収束し、形成された盾形の障壁で攻撃を受けた。
「それに、女王陛下の御前で俺が歌う……歌う……!?」
 思わず想像しかけた。そんな場合じゃない。
「と、とにかく! 武器? 楽器? を収めてくれないかな!」
 再び襲いかかってこようとしたヴォジャが、史之を中心に発生したドーム状の斥力に呑まれる。
 もう一体のヴォジャも巻きこんで、赤いプラズマが荒れ狂った。
「主よ、天の王よ」
 動き回っているのはカエルたちだけで、顔だけ美女の魚や黒衣はその場からイレギュラーズに攻撃を加えている。
「この炎をもて彼らの罪を許し、その魂に安息を」
 日ごろの活発さとは打って変わり、静かに、澄んだ声音で聖句を唱えるヴァレーリヤのメイスから炎が吹き上がる。
「どうか我らを憐れみたまえ!」
 振り下ろされたメイスから濁流の如く炎が放たれた。
 悲鳴を上げるネグレスと黒入道に、ヴァレーリヤが砂を蹴って突撃する。
「今からでも遅くありませんわ、戦いをやめると言ってくだされば、それで終わりますの!」
「ヴェアッ」
 口の中で素早く聖句を唱え、ヴァレーリヤがネグレスの腹にメイスをあてた。直後、衝撃波が発生し、人頭魚が弾き飛ばされる。
「ヴァァァ!」 
 急接近したヴォジャがポテトに貼りつこうとする。
 細く息を吐き出し、ポテトはしっかりと間合いを見極め、盾でそれを防いだ。
「攻撃をやめてくれないか?」
「アアア!」
 回復役に専念するポテトの願いに、興奮気味にヴォジャが返す。やはり一度、気絶させるしかないのかと、ポテトは眉尻を少し下げる。
 二度目の攻撃を繰り出そうとしたヴォジャが、横手から突進してきたなにかに噛みつかれ、悲鳴を上げながら距離をとった。
 ポテトの視線の先で、ルーキスは魔術書を閉じる。
「うーん。一応、手加減はしてあげてね」
 そう命令して放ったつもりだったが、妖精による攻撃は思った以上に利いた気がする。急所にでも入ったのだろうか。
「ルーキス!」
「おっと、こっちにきちゃうか」
 ヴォジャがルーキスに襲いかかる。当の彼女は特にうろたえることもなく、振り下ろされた六弦楽器を紙一重でかわした。
「本の角を食らえー」
 魔術書は空を切る。
 後方に飛び退いたヴォジャがジャァァンと楽器を鳴らした。大音量だ。
「近距離で楽器の爆音は耳に響く」
「本当にすごい音だ」
「音楽に情熱を燃やす、というのは結構なことだがな!」
 回避されることも織りこみずみだったルーキスがさらに攻撃を加え、ポテトはヴォジャを一体、相手取っているヨハンを回復する。
 薄く広くを心がけつつ、レイヴンが氷の雨を降らせた。

 鈴を転がすような、嗤い声。
「ヴィィ!」
 ネグレスの一体が体を硬直させる。すかさずもう一体が回復を行おうとしたが、
「どぉぉりゃぁぁ!」
 力強く踏みこんだヴァレーリヤがメイスを振るって阻止した。
「そう何度も回復させませんわ!」
 回復させている間は他の面倒な術が発動されないとはいえ、厄介なのだ。特にヴォジャの傷を癒され続けると、戦闘が長引く。
「ヴァレーリヤ、後ろだ!」
「はい、……っ!」
 ポテトの声にヴァレーリヤが振り返る。黒入道の氷の槍が目の前まで迫っていた。
 どうにかメイスで防いだが、踏ん張りきれずに尻もちをつく。急いで顔を上げると、笛で殴打する構えのネグレスが見えた。
「決して殺めはしません。ですが、少し眠っていただきます」
 何度目かの、可愛らしくて無邪気で、どこか邪悪な声――クラリーチェの黒の囀りが、ネグレスを襲う。
「ヴァ……」
 ぐらりと人頭魚が倒れた。ヴァレーリヤは即座に立ち上がり、もう一体のネグレスを見据える。
「貴女にも、しばらく眠っていただきますわ!」
 放つのは、決して死に至らしめない衝撃波。次に目覚めたときには冷静に話を聞いてもらえる状態になっていることを願いながら、司祭は黒入道たちに向き直る。
「戦闘を放棄なさるなら、今が好機かと思いますわ」
「ウァア!」
「……分かりました。仕方ありませんわね」
 乱れ始めた呼吸を整え、ヴァレーリヤはメイスを握り直した。

 敵も消耗しているとはいえ、こちらにも疲れが見え始めている。
「あと少しでしょうか」
 ヴォジャが三体、黒入道が二体。いずれもネグレスの援護がなくなったため負傷を回復する術がないものの、せいぜい中盤戦だ。
 違うのかと、ポテトは横目でクラリーチェに問う。
「ある程度、倒れていただけば、残った方は戦意を喪失なさるのではないかと思います」
「そうであってほしいな」
「はい。戦うために訪れたわけではありませんから……」
 イレギュラーズの目的は説得だ。戦闘は可能ならば避けたかった。
「太鼓奏者の動きが最初に比べて鈍い。降参は十分にあり得るな」
「今すぐにでもお開きにしたいものだ」
 戦場を上空から見渡すレイヴンの言に、ヨハンが眉根を寄せて返す。
 毒を持つ体でのしかかってこようとするヴォジャの脇腹を、ヨハンの大剣が掠めた。
「休憩にしようぜ? 弁当でも食べながら、ゆっくり話さないか?」
 しつこくつきまとってくるヴォジャに、そう声をかけてみる。
「ベン、トォォ」
「俺たちが弁当というわけではないし、お前らは肉を食わない種族のはずだろ」
 聞きとりづらい声を放ちながらヴォジャが鞭のように舌を振り回す。
 一瞬だけヨハンの背がぞくりとしたが、すぐに拭い去られた。後ろにいる沙雪が癒したのだ。
「……」
 目蓋を半ば伏せ、沙雪はほんの少し顎を引いた。ヨハンも頷き返す。
「戦いをやめてくれるなら、それに越したことはない」
 片手に短剣にも指揮棒にも見える輝かしい武器を、逆の手に盾を持ち、ポテトは凛と声を上げた。
「もうひと頑張りと行くか」
 レイヴンが虚空に文字を刻む。ルーキスの花が、史之と戦闘を繰り広げるヴォジャの精気を吸い上げた。

 すべてのヴォジャが倒れ、黒入道も瀕死となったところで戦況は完全に傾いた。
「オアリィ」
「ウァァ」
 ヴァレーリヤにメイスを突きつけられた黒入道がついに撥から手を離し、両手を上げて降参する。
 史之が肉薄していたもう一体の黒入道も、同じく首を横に振ってもはや戦意がないことを示した。
「お話を聞いてくださいますか?」
「ヴァア」
 クラリーチェの問いに黒入道たちは揃って頷いた。
「戦闘終了だな」
「負傷者たちを手当てしなくては」
 ヨハンは武器を収め、ポテトは気絶したヴォジャの傍らに膝をつく。
 レイヴンは砂浜に下り、翼を消した。ヴァレーリヤと史之が同時に大きく息を吐き出す。
 ルーキスも本を仕舞い、大きな損失なく終わったことに沙雪は小さく安堵する。
 砂浜は久しぶりに静けさをとり戻していた。

●きっと素敵な演奏
「加減はしたが……。全員、生きているか?」
「ヴァァ……」
 レイヴンの問いに海の奏者たちが弱々しく応じる。気絶していた者も、ポテトの治癒を受けて目を覚ました。
 史之は眼鏡の奥の双眸を曇らせ、魔物の身を案じる。
「大丈夫? 演奏できそう?」
「ウィア」
 戦闘に使用した楽器も、魔物たちがそれぞれ叩くと元通り修復される。そういうものなのだろう。
「よかった。素晴らしいミュージシャンに消えられるのは、哀しいからね」
「ヴァ……」
 にこりと笑む史之に、カエルの奏者が体を左右に振る。
「さて、先ほどの話は覚えていますか?」
 黒入道に手を差し伸べて立ち上がらせ、ヴァレーリヤは一同を見回した。
 海の奏者たちはもう忘れたらしく、首をかしげる。
「こういったことにならない練習場所があります」
「それと、もうすぐサマーフェスティバルと村の祭りがあるぞ」
「アァァ!」
 改めてクラリーチェとレイヴンが端的に説明し、魔物たちは思い出した。
「移動してくれるならすぐに案内するよ」
「少し歩くが、そう遠いわけでもない」
 ルーキスは起き上がろうとしてもたついていたネグレスを手伝ってやり、ポテトは再び地図を広げる。
「ヴァァ」
「ウィィ」
 イレギュラーズが自分たちのことも考えて行動してくれている、ということは、戦闘を通していっそう海の奏者たちに伝わっていた。素直に受け入れた魔物たちがぞろぞろと動き出す。
 道中、沙雪は海の奏者たちを見て思う。
(えんそう、が、もくてき……)
 だから迷惑になろうとも演奏する。逆に、聞く者がいなくとも演奏するのだろう、と沙雪は考える。
 だがきっと、聞く者がいる演奏の方が楽しい、ということは知っているのだ。
 しばらく歩くと、密集して生える木々が見えてきた。近隣に村はなく、すぐ側の海から波の音が穏やかに響いてくる。
「うむ、いい場所だ。景色も申し分ないし、魔物も出そうにない」
「ここなら安心して演奏できそうですね」
 眩そうにレイヴンが目を細め、クラリーチェは笑みを深めた。
「クレームもこないでしょう。まあ、あとは頑張って。完成を楽しみにしているよ」
「私も祭りでお前たちの演奏を聞けるのを、楽しみにしている」
「ええ、素敵な音楽を聞かせてくださいませ!」
 物珍しそうにあたりを見回す海の奏者に、ルーキスは軽い調子で励まし、ポテトは小さく笑んだ。ヴァレーリヤは力強く応援する。
「ヴァ」
「大丈夫、自信を持って」
 通じる言語で話されたわけではないが、なんとなく緊張しているように見えた魔物を史之は勇気づけた。
「……夏祭りで盛り上がれ。そのときなら聞いてやる。お前らの曲、嫌いじゃないぜ」
 口数が少ない黒衣の魔物に、ヨハンは少しの苦さを胸に声をかける。黒入道は首を縦に振った。
(俺もまだまだ甘いものだ)
 魔物に対する情など捨てたはずで。ああまったく、とヨハンは口の端を下げる。
「おまつり……」
 今日、五感を通して学んだことを反芻しながら、沙雪は海の奏者と仲間たちを見た。
 それはきっと、賑やかでとても楽しいものなのだろう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。

その後、サマーフェスティバルや村のお祭りで楽しく演奏する海の奏者たちが目撃されたりもしたそうです。
海浜樹林では昼夜を問わず、今でも音楽が奏でられています。
ご参加ありがとうございました!

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