PandoraPartyProject

シナリオ詳細

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完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ハングリーハングリーマルチヘッズモンスター
「あ、あ、ああああああ、来るな! 来るな! くそっ、畜生!!」
 それは、混乱していた。
 突然広がった視界。急速に形成される自我。肌を打つ風。我慢ならないほどの飢餓。
 それが唐突に生まれ落ちたということなのだと理解できるほど、それの脳は精密に作られては居なかった。
「なんでっ、どうしてっ、来るな……ああああああああああああ!!!」
 叫び、逃げ惑う男達。その一角を掬い上げるように大きな顎で土ごと食らいつくと、躊躇も呵責もなく本能のままに貪っていく。
 わからない。何もわからない。理解できない。ここはどこだ。自分は誰だ。何が一体、どうなっている。
 だがこれはわかる。わかっている。美味い。美味い。口の中に入るざらざらとした冷たいものは何も感じないが、噛み砕けば小気味の良い音をたてる温かいこれは、本当に美味い。
 飢餓を感じ、咆哮をあげる。理不尽に怒り狂う。
 何故だ。何故だ。何故だ。何故だ。
 食ったのに、食ったのに、食ったのに、どうして腹が減っていくんだ!!
「畜生、畜生、先に行け! 俺がここでやつを食い止めゃああぎぎぎぎぎいいいいいい!!?」
 立ち止まった獲物から食らう。それを見て止まった獲物も食らう。我先に逃げていた獲物にも追いついて食らう。
 だが満たされない。満たされてくれない。飢えている。嗚呼、飢えている!!

●ブラインドキャタピラーズウィッシュリスト
「というわけでねえ、もぐもぐ、まあある種企画倒れっていうか、もぐもぐもぐ、仕様発注書にミスがあったっていう感じの、んっぐっぐ、ぷはー、おかわり!!」
 依頼人を名乗るその少女は、集まったイレギュラーズ達を前にして両手の串焼きと果実ジュースを勢いよく飲み食いしながら説明を行っていた。
 まったく箸を休める気配なく食べ続けながら話しているので、とても聞き取りづらい。というか人と話をしながら食うんじゃない。
「ようし、次この乳製品のページいってみようかな。おばちゃん、とりあえず上から下まで三つずつね!!」
 聞いているだけで胸焼けしそうな注文をする。ともあれ、皿が一度片付いたのは有り難い。追加注文が届くまで、少しはまともに話ができそうだ。
 で、どこのどなたさん?
「あれ、まだ名乗ってなかったっけ? ごめんね、ここのご飯美味しくてさあ。ずっと我慢してたから、限界だったんだよねえ」
 そう言って、にこやかに全員と握手を求めて回る少女。
 その明るさとは反対に、異様なほど冷たい手のひらが印象的だった。
「僕はレター・ノート。気軽にレターちゃんでもノートさんでも。おっと、手紙ちゃんはやめてよね。綴りが違うんだ」
 そう名乗る彼女の依頼は、纏めるとこうだ。
 レターはとある村に行きたいが、その村近隣の森で危険なモンスターが出現した。人を襲い、人を喰らい、このままでは村まで辿り着いて住民ごと壊滅させてしまうだろう。
 そこで、先に森でこのモンスターを討伐し、安全を確保して欲しいとのことだ。
「モンスターの名はヘクシーズ。頭がいっぱいある……ヒドラって言えばわかるかい? 時間がないので、僕も同行させてもらうよ。大丈夫、戦いを見ようなんて思っちゃいない。村で大人しくしてるからさ」
 そういうことならと、イレギュラーズ達は立ち上がる。早速出発だ。時間がないのなら尚更、善を急がねばならない。
「え、あ、もう行くの? せっかくおかわり来たのに? ちょ、ちょっと! おばちゃん、コレ全部包んで! 大至急! もぐもぐもぐ!! おばちゃん、このピザも最高!! あ、待ってよ!!」

GMコメント

皆様如何お過ごしでしょう、yakigoteです。
テレバード村という農村近くの森で大型のモンスターが出現しました。
これは森の中の生物を食べながら、少しずつ村の方へと向かっています。
依頼人が無事に村で過ごせるよう、このモンスターを討伐してください。

【エネミーデータ】
■ヘクシーズ
・大木ほどの大きさをした三ッ首のハイドラ。長い首をした爬虫類のような外見。
・食べれば食べるだけ増していく飢餓感に悩まされており、常に捕食できるものを探して移動しています。
・大きさに見合ったHPと物理攻撃力を持っています。
・以下の能力を持つ。

《≒飢餓感》
ターン経過で進行し、強大な飢えと共に首が生えてくる。
首の数に応じて以下の効果を得る。
1本目:物理攻撃力を上昇
2本目:物理攻撃力を上昇
3本目:物理攻撃力を上昇。EXAが2倍になる。

最大3本。計六ッ首になる。
また首の数に応じて《≒捕食》を優先的に行うようになる。

《≒捕食》
このスキルが命中した相手の一部、ないしは全部を食べる。
このスキルが命中すると、物理攻撃力が上昇する。
このスキルを使用すると《≒飢餓感》が進行する。

【キャラクターデータ】
■レター・ノート
・依頼人。黒髪の少女。
・とても大食らい。

【シチュエーションデータ】
■テレバードの森
・野生動物の比較的多い森。
・猟師が何人か行方不明になっている。

  • <bc'Swl>HEXEADS完了
  • GM名yakigote
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年06月29日 22時05分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
見た目は鯛焼き中身は魚類
ラダ・ジグリ(p3p000271)
静謐なる射手
郷田 貴道(p3p000401)
拳闘者
錫蘭 ルフナ(p3p004350)
猫派
すずな(p3p005307)
血風三つ穿ち
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
暗鬼夜行
藤堂 夕(p3p006645)
小さな太陽
ポムグラニット(p3p007218)
ゆるふわ薔薇乙女

リプレイ

●ケイオスヒーローズ
 生命とは本来、環境に適合するようデザインされているものだ。より快適に、より長期に生存活動を行えるよう設計されている。だから、空腹を脳に訴えることで栄養の枯渇を察知させ、満腹感を与えることで貯蓄量の限界を知らせるのだ。では、食うほどに空腹を覚える必要性は。終わらぬ飢餓感に苛まれる意味は。

 この時期になると、長距離の移動を必要とするギルドの業務には敵対生物とは別の苦難が待ち受けている。
 日差しが容赦なく降り注ぎ、体温を上昇させ、発汗量を増やしていく。金属鎧を着込んだ兵隊の遠征よりはマシだと言えるかもしれないが、衣服の下で汗に濡れた下着が肌に張り付く感触は、それが救いだとは思えないものだった。
 大小の差はあれど、辟易した様子を見せるイレギュラーズ達の隣を、平然とした顔の娘が歩いている。
 テイクアウトしたチーズピザを頬張りながら、目が合うとにこやかな表情で手まで振ってきた。
 その手が、いやに冷たかったのを『静謐なる射手』ラダ・ジグリ(p3p000271)は覚えている。氷のような、ではない。爬虫類のような、でもない。昆虫に触れたときのような、なんとも無機質な冷たさだった。
「食べただけ首が増えてはなかったが」
 企画倒れ。発注ミス。咀嚼しながらであったので、うまく聞き取れはしなかったが、そのようなことを言っていた。今すぐの敵対意志はなさそうだが、警戒をするに越したことはないだろう。
(大食らいのお嬢さん……いや、流石に考えすぎだろうな)
『拳闘者』郷田 貴道(p3p000401)の脳裏によぎったそれと、隣を歩く少女の持つ空気は全くの別物だ。今回の討伐対象も、多頭の巨大爬虫類だという。少なくとも、昆虫とは似ても似つかぬものだ。
 視線に気づいたのだろう。目線が合うと、ピザを咥えたまま笑顔で手を降ってきた。
 なぜだろう。貴道は急に何かを失ったような既視感に苛まれ、あることを確かめるように自身の拳を見つめていた。
「企画倒れに仕様発注書、ね」
『猫派』錫蘭 ルフナ(p3p004350)も、レターの言葉は気になっていた。如何にもなにか知っていそうで、あまり綿密に隠し通すつもりもないのかもしれないが、藪から蛇が出てきても困る。有用な情報を持っているのなら話を聞きたいところだが、積極的に関わりたいと思える相手でもなかった。
「……胡散臭いし、食べながら話す奴だし」
 今もピザ食ってるし。食い終わって二枚目だし。
「うーん。レターさんは農村にどのような御用が……?」
『血風三つ穿ち』すずな(p3p005307)は気になるものの、依頼人の事情をあまり根掘り葉掘り尋ねるわけにもいかず、先程の握手の感触を思い返していた。あの冷たさでは、カオスシードだとは思えないが。
「少々気になりますが、依頼が最優先です。首が増えるヒドラ……ヤマタノオロチを連想しますね、首は足りませんが。尾から何か出てきたり、しませんよね……?」
「安全になる前から村で待っているとはどうも怪しい依頼人でござるな……」
『暗鬼夜行』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)は訝しむ。目的地に危険な生物が出現した。これを退治してほしい。依頼形式としては極めてオーソドックスなものだ。自身の安全のために金銭を出し、強力な助っ人を請う。自然なことだ。旅をする誰も彼もが武力を持つわけではない。だが、そうであれば尚更。
「普通は安全になったら村に行くものでござろう?」
 ゼオニーター。
 レギオニーター。
 アリストクリエイター。
 何でも食べてしまう魔物が現れたとくれば、『小さな太陽』藤堂 夕(p3p006645) には過去に相対した怪物の名が思い浮かぶ。
「あの時、ゴールドバッハを食べていたやつは今、どこで何をして、何を食べてるんですかねー」
 あれから音沙汰はない。だが今になって、自分の中の何かが大きく警鐘を鳴らし始めていた。
「今回の件と関係してたりすると、やだなぁ」
「おおきなどうぶつさん。へくしーずちゃんていうのね」
 ヒドラ、ないしハイドラと呼ばれる多頭の爬虫類。『薔薇乙女』ポムグラニット(p3p007218) も見るのは初めてだ。
「たべてもたべても、おなかがいっぱいにならない? それは、こまったわね」
 ポムグラニットは小さく首を傾げると、明暗を思いついたというように手を打った。
「じゃあ、おなかが、なくなればいいんじゃない?」
 パンもケーキも食べて、尚足りないというのなら。
「じー」
 視線が擬音として現れるくらい真剣な眼差しで、レター・ノートは『見た目は鯛焼き中身は魚類』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)を見つめている。
「……美味しそう」
 小さく呟いたそれを、誰も聞き逃しはしなかった。
 だが、誰が責められよう。ベークを見てその感想を抱かないのは、甘いものが食べられないやつくらいなものだ。
 すわヒトを食らうのか。そう思えなくもない発言だったが、ことベークに関しては仕方がないことなのだった。

●ケイオスヒーローズアンドマルチヘッズモンスター①
 同胞でありながら、本当に哀れな生き物だと思う。同一のコンセプトを元に作られていたからこそ、一歩間違えれば自分がああだったのではないかと思うと、ぞっとする。何もかもを食い荒らし、その為に自己の満足を与えられない。生まれた時から、死ぬ以外の安息は存在しないのだ。本当に本当に、哀れな弟だ。

 森のなかに入れば、強烈な日差しも多少は和らいでくれる。
 村と森との分かれ道で、自分達は森へ、レターは村へとそれぞれ足が異なっていた。
 森の違和感は瞭然だ。ここまで生い茂る草木の中でいて、先程から野生の獣はおろか、小鳥の一羽すら見かけていない。食らっているのだ。何かが、森中を根こそぎに。
 顔になにか付着する。それが動物の血だと理解する前に、体は後ろへと大きく飛び跳ねていた。
 先まで自分がいた場所を、オオトカゲのアギトが通り過ぎる。
 顔のひとつで、大の男よりも大きい。
 それが紛れもなく、森を食い荒らす現況、ヘクシーズだった。

●ケイオスヒーローズアンドマルチヘッズモンスター②
 空腹が意識の大半を確保し、それだけが肉体を動かしている中で、僅かに残った理性が同じ思いを抱き続けている。なぜ、だ。なぜ、どうして、だ。満たされない。満たされない。空腹を満たす手段など食う以外に存在しないというのに。満たされない。とっくに自分以上の質量を腹に収めている筈なのに。おれは、おれはどういう意味を持ってここに居るというのだ。

 ベークは大口を開けて迫りくる頭部のひとつを真正面から受け止めるものの、質量と膂力の違いからか、その場での踏ん張りがきかず地を滑りながら後方へと押し込まれてしまう。
 上下の牙一本ずつに手をかけて、口の開閉と突進とを同時に抑え込んでいる。
 なんだろう、食卓でたい焼きがめっちゃ抵抗してくる感じ。いや、感じって言われても伝わらないか。
 ヘクシーズの意識は強くベークに向いていた。無理もない。お腹が空いている時に目の前にたい焼きと来ている。
理性のない怪物に、堪えろと言う方が無茶であった。
「食べられるのは慣れっこなんです! 首の6つ程度でこの身を喰らい尽くせると思わないでください!」
 なんというかとても悲しい過去が垣間見えた気がした。ともあれ、ベークは迫りくる首長竜のような頭部を躱し、受け止め、時にちょっと齧られながらその攻撃を一身に受けている。
 ちょっとあんこが溢れているように見えるが、ヘクシーズとたい焼きの攻防戦はまだまだ続きそうだった。

 正面切って戦ってくれる仲間に胸中での感謝をこぼしながら、ラダは藪の中からヘクシーズに狙いを定めていた。
 見るほどに、怪物は大きい。森の木々がこれを隠すための補助としてまるで働いていないのだ。
 それほどに大きいながら、捕食者であるというのも違和感がある。食われる側もただじっとしているわけではない。狩猟をする側は、獲物よりもずっと深く隠れ潜むものだ。この巨体では目立ちすぎて、自身の圏内まで近づくだけでも苦労をしそうだが。
 その時だ。
 ずるぅりと、ぬめりとした何かを纏いながら、一本の首が生えてきた。
 それは生まれ落ちてすぐに味わう強烈な空腹感に腹が立ったのか、けたたましい唸り声を上げ、自身をハンマーのように大きく振り回している。
 食うほどに、腹が減る。どうしてここまで破綻していよう。広がるばかりの傷が生まれた時から苛み続けている。
「だが元からではないはずだ。これでは生きていけまい」
 生まれたばかりのこめかみに向け、引き金を、ひとつ。

「とりあえず目先の蛇ちゃんを退治しとこうか! 来な、その首一本残らず引き千切ってやるぜ!」
 側頭部に銃弾を受け、よろめいた頭部の一つに貴道は追撃の拳を見舞っていた。鱗があるためか、感触は硬い。だがその分、殴りつけたという感触は強く帰ってくる。
 脳震盪。これだけ大きい生物に知能が乏しいところを見ると、脳の大きさはそれ程でもなく、頭骨はヒトよりも遥かに分厚いだろう。しかし連続で揺らされれば多少のふらつきは免れ得ず、貴道はその瞬間を見逃さない。
 首の付根。抱きしめるような姿勢でそこにしがみつくと、両腕を万力のように思い切り力をかけた。
「――――――――――――――――――――――――!!!!!」
 獣の咆哮。へし折るのではなく、引きちぎるためのベアーハグ。爪が立てられ、指は肉に沈み、次第に両腕が閉じられていく。
 肉の感触。肉の感触。貴道の全身が怪物の血で染まる頃には、その首は半ばを千切られて力なく倒れていった。

 だらりと垂れ下がった首のひとつが、重力に従いみちみちと肉の裂ける音を立てながら本体より引き裂かれていく。
 首の一本を失ったヘクシーズ。だが、ルフナは見た。
 ずぐずぐに肉が腐り、表面が沸騰しているように泡立った首のざんばらな断面。
 悍ましく、目を背けたくなるような乱雑な切り口から何かが生えていた。
 それは、ずるぅりとまた気持ちの悪い音を出しながら、一本の新しい首へとすげ変わる。ああそうだ。今この首は新しい5本目ではない。傷口から生えてきた、4本目の再来なのだ。
 首は刈り取ることができる。しかし空腹に合わせてまたすげ変わる。食欲は収まらない。空腹は増えた頭の奥で大命令をがなり立てている。
 食い散らかせ。食い散らかせ。
 怪我をした仲間を下がらせ、その治癒を施しながらルフナは理解する。
 これは歪だ。生命であるということの尊厳を生まれた時から廃され、食べ続けるだけの凶獣として誰かにデザインされたのだ。

「隙有り――素っ首、頂戴します!」
 いくつかの攻防のあと、すずなの剣ががら空きになった首のひとつを、その半ばから狙う。
 鞘走りによってカタパルトのように加速される刀身。熱したバターを切り取るように、薄い薄い刃は鱗にも肉にも骨にも何ひとつ妨げられることなくヘクシーズの首に横一文字の傷をつける。
 深く、しかし一切の歪みなく裂かれた傷口は、血の色を薄くしたような断面を見せた後、思い出したかのように数旬の間を開けて鮮血が飛び散った。
 頚椎を断たれ、だらりと垂れ下がった首。その痛みによる空腹か、それとも単に腹が空いていただけか、標的を変えた他4首の反撃をすずなは紙一重で躱していく。
 と、肩口に違和感。次いで襲う熱と脳へのアラート。牙のひとつが自分の身を掠めたのだと理解する。その一瞬を好機と受け取ったのか、必要以上に大口を開けるヘクシーズの鼻先を踏み台に、すずなは後方へと跳んでいた。
「いくら首が多かろうと、易々と捕まるつもりはありませんっ」

 迫りくる大アギトの一端に指先を添え、その僅かな取っ掛かりを支点に咲耶の体がくるりと回転した。額に着地し、そのまま首を一本の道のように駆けていく。
 気づいた別の首が自分の体の上を走り回す獲物に迫るが、自傷を恐れる本能が働いたのか、その動きは僅かだが鈍い。故に、その突進すらも咲耶の起点とされ、首へ首へと跳ねては攻撃を躱されてしまう。
 自分よりも遥かに小さな体しかない獲物がちょろちょろと動き回る様に業を煮やしたのか、敵の数がひとりではないことすら忘れて縦横無尽に首を振り回すヘクシーズ。
 既に6本が生え揃った飢獣はしかし、己の上という最大の危険域にいる筈の忍びひとつ捕らえられない。
 長くは続かないだろう。いずれは捕まり、その身を牙に貫かれるだろう。ひとりであるならば
 仲間の攻撃がまた、首のひとつをハネた。痛みに意識がそれる。視線が咲耶から外れる。その瞬間をくノ一は逃さない。
「美味しい『めいんでぃっしゅ』の合間に此方の『箸休め』は如何でござるかな?」
 痛みと苛立ちで、獣がまた見にくい猛りを上げた。

 夕には違和感があった。
 ずっと拭えない違和感があった。
 大きな体、硬い鱗。生え変わる首。巨大な化け物は、強大な化物は、しかし夕の目に違和感として映っていた。
 食う程に腹が減る。そんな生物が長く生きられるはずがない。今日に至るまで誰の目にも触れないはずがない。
 だから、後天的なものなのだと考えていた。呪いのように改造のように誰かにそうされたのではないだろうか。変異し、進化していったあの芋虫共は固有の能力を持っていた。その誰かが無理矢理にこの生物を別のものに変えてしまったのではないだろうかと。
 だが違和感があった。その結論には違和感があった。
 飛び散る肉。迸る血飛沫。こちらの傷もけして浅くはないが、それ以上に化物は窮地に立たされている。
 瑞々しい色。暴れ狂うだけ。狩猟者特有の狡猾さがない。いいや、もっと言えば稚拙なのだ。
「……違う。幼いんだ。生まれたばかりなんだ」
 ではこれは、アレと同じで。初めからそういう風に生まれ落ちて。

 ヘクシーズが瀕死の身であることは、ポムグラニットの目にも明らかだ。
 なにせ、新しい首が生えてこない。
 終わらない空腹に悩まれ、その度に強化されていくはずの怪物は、しかし今や2本の――爆裂音――今や1本の首を残すまでとなっていた。
 それでも尚、大蜥蜴は荒れ狂う。命の危機に瀕してさえ食事という行動を終わらせないのは、それ程に空腹に苛まれているのか、それとも逃げるという手段を知らないだけか。
 火花が散る。ポムグラニットの呼び出した熱が、息も絶え絶えの化物を襲う。
 ここで仕留めなければならない。例え空腹による本能に従っていただけだとしても、これはあらゆる生物にとって脅威にしかなりえない。
「よかったわね、へくしーずちゃん」
 まるでそれが慈悲だというように、ポムグラニットは怪物に向けて声をかける。
「これでもう、おなかがすかなくてすむわね」
 けして満たされることのないまま、狂気じみて支配する空腹だけを抱えながら。
 多頭の怪物は、静かな呻きと共に地へと崩れ落ちた。

●ケイオスヒーローズアンドブラインドキャタピラー
 一度でいいから腹が膨れてみたかった。

レター・ノートへの報告を目的に村へ立ち寄ると、少女は小さな食事処の中で大皿いっぱいの芋餅にかぶりついているところだった。
「もぐもぐおっかえりぃ! いやあこの村、芋餅が美味しいんだって聞いてさあ。一度食べてみたかったんだよねえ。肉も美味しいけど、そればっかりじゃあ飽きが来ちゃうわけじゃん? ささ、座って座って。おじさ~ん、芋餅追加ね! えーっと、ひとり3皿ずつ!!」
 そんなに食えるか。いやまさか、村に来た目的はそれなのか。
 げんなりした視線で見ているとそれに気づいたのか、レターは芋餅を小皿に取り分けて差し出してくる。違う、早く食べたいわけじゃない。
「戦うとお腹が減るでしょう? 僕なんて戦う最中でもお腹減るしさあ。燃費悪いんだよねえ、あの子も僕も。ああ、そうだ――」
 そこでレターは箸を置き、イレギュラーズに向き直ると、深く頭を下げた。
「ありがとね。あの子は僕よりもずっと歪だから、見ていられなかったんだ。ずっと苦しむよりも、あれで良かったんだと思う」
 その顔には、一瞬だけ少女らしくないものが見えた気がして。
「おっかわりきたよー!! さっ、さっ、祝杯といこうぜ!!」
 杯を渡されて、思わずため息が出た。
 まあいい、聞きたいことは山ほどある。

 了。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

飢えていた。

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