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シナリオ詳細

A Brotherhood of Man

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ジャンエンゾは幻想騎士であるモロー家の次男として生を受けた。
 その人生にケチが付き始めたのはいつ頃からだったろうか――

 彼は小汚い小屋の中で、せわしなく歩き回っていた。剣の柄をさすり、足を踏み鳴らし。時折ぶるぶると顔を振る。
「まぁだ、現れんのかね!」
 元の素材と造形だけならば立派な服は所々ほつれ、もじゃもじゃのヒゲと見事な禿頭が、なんとも言えないアンバランスな空気を醸し出している。
「へい、それがアニキ……その、あの」
「なぁんだね。はっきりと、はぁっきりと! 言いたまえよ! ねえ、キミ!?」
「へ、へいぃっ」
 答えた兵士は怯えている。

 ジャンエンゾは舌打ち一つ。革袋の中から小さな粒を取り出すと、もったいぶった仕草で口に入れる。そうしてから両腕を広げ、天を仰ぎ、奥歯でかみ砕いた。
 眉間の皺がすっと消える。ご禁制の薬物か、材料の実であろう。
「それで。どうしたんだ?」
 先ほどとは打って変わった落ち着いた声音で、彼はもう一度兵士に問いただした。
「それが。小屋の入り口に、こんなものが」
 おずおずと差し出されたのは、羊皮紙の切れ端だ。
 そこには取引の中止を一方的に告げる言葉が並んでいる。
「おい」
「はいぃっ!」
「重要な事は手早く伝えろと、いつも言っているだろう」
「申し訳ございません!」
「まあいい。賊共の言いたいことはこれだけか?」
 青ざめた兵士を一瞥し、ジャンエンゾは小屋の戸を蹴り開けた。
「おい。入れ」
 そう呼びかけると、外で待機していた男達がぞろぞろと小屋に入ってくる。
 兵士に傭兵に。山賊のような風体の男も混ざっているが、共通しているのは誰も彼も人相が悪いという所か。

「話は簡単だ」
 彼は大仰な仕草で部屋を見回す。
「いくらで欲しい?」
 男達は、やや困惑した風にきょろきょろとし始める。
「いやアニキ。そうは、言われましても」
 答えたのは大柄の男だった。
「元気が出るんだよ。元気が。活力がね、これはね」
 ジャンエンゾは革袋を指で何度も叩く。赤い実がぱらぱらと零れた。

「い、い、か、ね! これだよ? 私はね、いくらで欲しいか! と! 聞いたんだ」
 前触れもなく。突如激昂したジャンエンゾは大男に詰め寄り、襟首を掴む。大男は咄嗟に目をそらした。
「私は、私は! だね――すまない」
 激昂したかと思えば、唐突なトーンダウン。ジャンエンゾは後ずさりし、背中から倒れるように椅子に腰かけた。顔をぶるぶると振るい、零れ落ちた赤い実に手の平を当てる。
 そっと手をあげると、赤い実は机の上にぱらぱらと転がった。

 彼は机に頬を当て、選りすぐるように一粒をつまみ上げる。
 カリっと軽快な音に続き、深呼吸が聞こえた。
「ああ。ああーーー、もういい。あー、もう。今日は戸棚の酒でも飲みたまえ。全部、全額が、奢りだよ。中止だ。今日の仕事は中止だ」
 ジャンエンゾはそのまま椅子に座り、うなだれた。
 男達はもう一度顔を見合わせて、酒瓶を漁り始める。

「いいんだ。いいんだよ。いいんだよう。私はね。みぃんなの。ね……お兄さんだからね?」

 ――

 ――――初めは些細なきっかけだったのかもしれない。

 小さな頃は年子の兄よりも体格がよかった。頭の出来だって負けていなかった筈だ。
 兄は病弱で、いつも困ったような顔をしていたが、本当に困っていたのは両親や、使用人だったのだろう。

 そんな兄が十五歳になった頃、父は兄に家督を継がせると言ってきた。
 だがジャンエンゾも才能を買われ、父の友人だという騎士の家庭に預けられた。
 出遅れはしたが、無事にエスクワイアとなったのである。
 そして、そこまでは良かった。

 彼はその家の娘に惚れていた。晴れて騎士となってから熱烈に交際を申し込んだが、その時、彼女には婚約者が居たのだ。
 些細ないざこざの末に、ジャンエンゾはその婚約者に決闘を申し込み、こてんぱんに叩きのめされる。
 自暴自棄になった彼は夜の街に繰り出し、名も知らぬ女性を物陰に連れ込んだ。
 この娘があろうことか、とある貴族の愛人だったのである。

 紆余曲折あり、彼は騎士という地位を失った。

 いつしかジャンエンゾは裏社会の男達とつるむようになり、十数年の月日が流れた。
 そして数日前。とうとう件の貴族の家へと盗みに入り、今日に至るのである。


「最近、盗賊の動きが活発なんだよね」
 イレギュラーズ達を前に、『黒猫の』ショウ(p3n000005)は語りだす。
「何かあったの?」
「それがね」

 ラサ地方を荒らしていた『砂蠍』という大盗賊団が居た。
 既に壊滅したのだが、その頭目『キング・スコルピオ』が幻想に侵入したという噂があるのだ。
「それを退治しろっていう依頼かい?」
 それが本当ならかなり御大層な仕事に聞こえるが。
「ああ。ごめんよ。違うんだ」
 そちらの話は未だ噂の域を出ていないが、ともかく幻想の盗賊達はローレットのイレギュラーズが活動を始めたことに危機感を持っているのではないかと推測出来る。
 腐敗した貴族達の統治は怖くもなんともないが、イレギュラーズはそうではないという訳だ。
 そこにもしかしたら、『キング・スコルピオ』が関与しているのかもしれない。

 さておき。
「それじゃあ、これが今日の依頼だ」
 ショウが一枚の羊皮紙を差し出す。
「内容は盗賊組織『ジャンエンゾの兄弟団』の壊滅だよ」
「兄弟団ねえ」

 なんでも貴族の家へと盗みに入ったとかで、ローレットに討伐依頼が出されたようだ。
「ただね、ちょっと要領を得ないんだ」
 やはり気がかりな所があるらしい。
「というと?」

 一つ。依頼内容に盗品の奪還が含まれていない。
「訪ねては見たんだけどね」
 もう一つ。相手を殺害、または捕縛することを推奨すること。
「逃がしたくない気持ちは分かるんだけどね」
 ショウが首をかしげる。
 普通盗賊退治なんていうものは、とにかく殴って盗品が取り返せれば良いものだ。
 そこがおざなりで、あえて身柄に固執するのはなぜなのだろう。
 ただまあ、これは努力目標であるということである。
「最後にもう一つ」
 ジャンエンゾのアジトは、依頼人に完全に割れている。
 この点に関してローレットも調査を行ったが、確かであるという事だ。

「そういうのは深入りしないのも、一つの考え方だよ」
 ショウが常識的な見解を述べる。こんな国ではそれも処世術の一つなのだ。
「なにか分かるのであれば個人的には嬉しいけどね」
 情報屋としてはそうなのだろう。
「まあ、依頼人の希望を叶えるのが第一だから。あんまり気にしないでもいいけどね」

 それはそうである。
 とはいえ。気になると言えば気になる事ではあるのだが。さて――

GMコメント

 pipiです。
 なにやらきな臭い感じですが、やらなければならないことは戦って勝つだけです。

●目標
 ジャンエンゾの兄弟団の壊滅です。厳密な依頼内容としては生死を問いません。
 努力目標はジャンエンゾの兄弟団メンバー全員の殺害、または捕縛です。最悪達成出来なくても依頼は成功となります。

 情報については、集めても集めなくても構いません。
 参加頂けるキャラクターの人格に従って、個人としてより楽しそうだと思える選択をお選び頂ければ幸いです。

●ロケーション
 王都近くの森の中にある小屋です。
 行けば敵がわーーっと飛び出して、戦いを挑んできます。
 小屋の外で、ちょうど敵と対峙した所からスタートです。

●情報確度
 Bです。
 敵の居場所や内容は、ばっちり調べられており、作戦を成功に導くには十分な精度です。

 ただ依頼主の言動そのものに引っかかる所があるようです。

●敵
・盗賊ジャンエンゾ
 腐っても人の上に立つ人物。剣の腕は確かです。
 残念な事にキマっています。

・兄弟団
 十五名の暴漢です。一人一人の実力は低いです。
・長剣3名
 傭兵風の男達です。
 盾を持っており、皮鎧を着ています。
 至近攻撃しか出来ませんが、比較的タフです。
 程度は低いながら多少の連携を意識しており、槍使い達をサポートするように行動します。

・槍3名
 ちょっと。幻想の一般的な兵士に見えます……
 程度は低いながら多少の連携を意識しており、長剣使いをサポートするように行動します。

・斧3名
 山賊風の男たちです。
 真正面から力任せな至近攻撃を得手とします。
 あまり頭は良くないようです。

・弓3名
 盗賊風の男達です。
 遠距離攻撃を得意とします。

・短剣3名
 盗賊風の男達です。
 至近攻撃しかありませんが、各々の判断でバラバラに行動します。


 以上。皆様のご参加を心待ちにしております。pipiでした。

  • A Brotherhood of Man完了
  • GM名pipi
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年02月18日 20時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)
大悪食
日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)
穢翼の死神
伊吹 樹理(p3p000715)
飴色
ハクウ(p3p001783)
静寂の白
シュリエ(p3p004298)
リグレットドール
アニエル=トレボール=ザインノーン(p3p004377)
解き明かす者
ルナシャ・クレスケンス(p3p004677)
くろうさぎ。

リプレイ


「今回も盗賊退治なんだね」
 豊かな双丘に埋もれる十字に『穢れた翼』ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)は、そっと手の平を当てる。
 なにか裏がありそうな仕事内容ではあったが。
『気にしていても仕方ない。依頼は依頼だ』
 素気無く答えたのは、その十字に封じられた存在。
「ん、それは分かってるよ、神様」
 二人で一つのイレギュラーズが見つめる先には、盗賊達が住まうというアジトがあった。

 木窓の隙間から彼女等を覗く双眸が消え、木戸が蹴り開けられる。
 始まる。ティアはそっと覚悟を決めるための式――空想創造を自らに施した。
「がんばろー!」
 可愛らしく激励する『くろうさぎ。』ルナシャ・クレスケンス(p3p004677)に、イレギュラーズ達が頷く。
 小屋からぞろぞろと飛び出してくる無頼漢達に、ヤバみは感じないのだが。
「あー……」
 一人居た。無頼漢の後ろからのそのそと現れた赤ら顔のハゲもじゃ。ジャンエンゾという頭目である。
 手にした酒瓶を放り投げ、剣を抜くなりぶるぶると顔を振るおじさんは見るからにヤバみ溢れるが。
「……ま、いいけど」
 彼女が授かる心の音色には、未だ響かない。ならば行けるはずだ。

 イレギュラーズが、盗賊達が、距離を詰めながら次々に得物を構える。戦いの幕は切って落とされた。
「まずは速攻!」
 キックオフ。『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)のサッカーボール――スタンダードBWが蒼穹に輝いた。
「なんだぁ?」
 盗賊が顔をあげて口を開ける。無理もない。
 それこそ向こうにある小屋の戸口でも狙うような軌道に見えた。だがボールは鋭い弧を描き敵陣へ迫る。
「へ、……ッガ!」
 速度を落とさず弾丸のように。蹴球が急襲したのは左右に回り込もうとする敵短剣使いの一人だ。

 ――ゴール!

「悪いな、先制点はいただきっス!」
 もんどりうつ暴漢相手にまずは先制点。試合は順調な滑り出しだ。
 作戦は敵の役割毎に序列を決めた各個撃破である。
 対する敵と言えば。
「アニキ! こいつ等ヤバいっすよ!」
「わ、た、し! 達はね、一杯だからね!」
 盗賊達は喚き散らしながら、イレギュラーズ達へ数任せの包囲を試みようとしている。側面に回り込んだのはやはり短剣、弓使い達だ。
 それは危険な策ではあった。だが――
「そうは、させない」
 迫る短剣使いから、『静寂の白』ハクウ(p3p001783)が飛び退るようにその両腕――美しい翼を広げる。
 刹那。彼女の影を縫うように放たれた矢。人を射抜くマンハンターの強烈な一撃が賊の肩口に突き立った。
 まさかの一撃に暴漢は、悲鳴とも怒声ともつかぬ絶叫を放って蹲る。

 相手の生死が問われぬ依頼ではあるが、殺してしまっては仲間達による聞き取りに支障をきたす。
 そもそもこの依頼は背景が不明瞭であった。
 とはいえこんな国では、きな臭い話もありふれていて、あまり深く首を突っ込んでも面倒なことになりかねない。
 世の中がもっと単純なら良いと彼女は思うのだが――

 肩を抑える短剣使いが、地を這うような低姿勢でルナシャへと突っ込んでくる。
「う、うわぁ……!?」
 賊の充血した目、迫る短剣にルナシャは咄嗟に身体を捻る。
 短剣はほんの一瞬前に彼女が居た虚空を切り裂き、数本の髪が舞った。背筋に冷たいものが走る。
 あれを受けていたらと思えばぞっとする。
 華麗に戦う余裕なんてない。なんといってもこれが彼女の初陣。初めての実戦なのだ。
 緊張もする。膝が笑う。腕が、呼吸が震える。
 だが――彼女は手にした杖を思い切り振りかぶった。
「あぎゃっぶ!」
 頭頂を強打された賊は間抜けな悲鳴と共に、仰向けに倒れた。
 早鐘を打つ心臓から流れる潮騒が鼓膜を揺らす。握りしめる手が濡れているのを感じる。血ではなく、汗だ。強烈な手ごたえはまだ身体の芯に残っていた。
 だが、ここまで来たら乙女は度胸。気合い。勢いだ!
 ルナシャは嘆息一つ。ともかく、まずは頭数を減らさねばならないのだから。

「騒ぐんじゃねえ! アニキは数で勝てるつってんだろ!」
「数で勝てるならゴブリンは苦労しないからにゃー?」
 喚くジャンエンゾ達に向けて、『リグレットドール』シュリエ(p3p004298)が笑う。
 事件の全容が気になると言えば気になるが、仕事は仕事。堅実に果たさねばならない。彼女にはまず果たすべき使命があった。
「あんだ? あの小娘あ!」
 イレギュラーズ達へまっすぐに向かってきていた斧使い達が激発する。
「さっさと逃げても責めはしないにゃ♪」
「良くみりゃ美味そうな身体してんじゃねえかよ」
「獣種か? 悪くねえな」
「にゃんにゃんって、イわせてやんぞオラァ!」
 シュリエは誰にも悟らせることなく、ほんの僅かに。どこか遠くを見つめるような表情を覗かせ――
「じょ、冗談、冗談にゃ!?」
「んじゃねえぞラァ!」
 暴漢が正面から斧を振りかぶる。
 殺してしまえば賞味も何もありはしないだろうに。そんなことを計算出来る程の知能は持ち合わせていないのだろう。さらに言うならば、シュリエは獣種ではない。
「あそこから崩す」
 剣兵、槍兵達がシュリエに向け、一斉に殺到する。

 かわし、いなし、だが射られ、突き立てられ。
 小さな身体に叩きつけられる鋼の暴力は、けれど彼女の身体を赤く染めはしなかった。
「ナニモンだ、テメ」
「ふふーん……にゃ」
 強気に笑い飛ばす。これは強がりだ。
 人ならざる身体がそうさせているというだけの事。余裕などありはしない。
 だがそんなことを悟らせてやるほど彼女は甘くなかった。

 一人、激しい攻撃を立て続けに受けつつあるシュリエに向けて、『飴色』伊吹 樹理(p3p000715)が小瓶を投げる。
 放置出来る状況ではなかった。
「大丈夫、だよ。私が付いてるから」
 宙を回転する小瓶から溢れる薬液が、清らかな霧となる。
「ありがとにゃ」
 温かな力がシュリエを包み込んだ。人ならざる身体に刻まれた傷跡を、すべらかな、あるべき姿へと修復して往く。
「あんだぁ!?」
 血を流さなかった相手が傷を受けていたという状況は、暴漢達を一瞬たじろがせたが――


「さて、頃合いだね」
「僕もいっすよ」
 ホイールを高速回転させ、『特異運命座標』アニエル=トレボール=ザインノーン(p3p004377)は、頷いた『双色の血玉髄』ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)と共に戦場の間隙を駆ける。

 アンタ――
 鮮血のようにスカートが翻り、少女が笑う。
 ――僕とヤりませんか?
 牙のような歯を見せて、触腕が嗤う。追い詰める。
「……イイ。いいよう!?」
 ジャンエンゾは赤紫色の唾を吐き、両手で剣を構えた。

「任せたよ」
 ザインノーン社製テトラクロスのホイールが左右逆方向に動いた。表情一つ崩さずアニエルが急旋回する。
「あっ、な!?」
 短剣使いにとって、不思議な車椅子はジャンエンゾに向かった筈なのだ。突如現れたように見えただろう。
 その上、そのままの勢いで巨大なデバイス『Seinnohn TetraX』が突っ込んでくるのだ。
「ひ、ひいっ!?」
 石を砕き、土煙を上げ。巨大で硬質な質量が短剣使いの足を浚う。叩きつける。ひきつぶす。

 いくらかの時間が過ぎたが、戦況は順調に推移していた。
 短剣使いは早くも全滅し、イレギュラーズ達の火力は斧使いへと集中している。
 さすがに用兵を知る剣槍部隊は前線を斧使いに任せ、後衛への浸透を試みた。
「先程から振り回してばかりで、その御自慢の武器は飾りか?」
「てめえ! ヘンなモンに乗りゃがって!」
「っちめえ!」
 だが斧使いに対するアニエルによる挑発で、その策は即座に瓦解することとなる。

「食らえや!」
 槍兵の一撃が横合いからティアに迫る。
 振り返り。ふわりとスカートが翻る。だが槍は『なりそこない』のアンデッドを貫いた。
「ひいいっ!?」
 槍兵が素っ頓狂な叫びをあげる。
『危なっかしい娘だ』
 間一髪。槍を回避したティアに十字架が述べた。
「乗っ取ってもいいよ?」
『余計なことは考えなくていい』
「ん」
 とはいえ眼前で叫ぶ槍兵にばかり集中してはいられない。
 ティアは素早く斧使いへと魔弾を放ち、打ち倒す。
 最早敵の統率はとれていない。敵が狙う対象はもはやバラバラだ。
 ジャンエンゾは指揮する気などまるでなく、ヴェノムに食らいついている。
 一度作戦が瓦解してしまえば、木っ端な傭兵と兵卒などこんなものなのだろう。
 敵の分散した攻撃は多くのイレギュラーズ達を傷つける事となったが、作戦上はこれでよい。戦闘とはそういうものなのだから。

 樹理の魔弾が斧使いの一人を昏倒させた。
 ただの脳震盪である。死なせはしない。
 戦いとは命と命のやり取りではある、だが彼女は着実に、致命傷とならない場所を狙っていた。

 さらにいくらかの時が流れた。
 斧使いを打倒した次は、剣使いの傭兵へと攻撃が集中出来ている。
 そしてイレギュラーズ達の作戦は、ここへ至っても非常に有効に機能していた。
 はじめに敵攻撃をシュリエに集中させ、ヴェノムをジャンエンゾへと確実に到達させる。もしもの場合にはアニエルがサポート出来る体制が構築出来ていた。
 それから各個撃破を狙い、敵の作戦を瓦解させる。
 その結果として発生する敵攻撃の分散は癒し手の余裕を生み、彼女が攻撃に参加することでイレギュラーズ側の火力が向上する。
 撃破速度が上がるという、理想的な流れだ。

 激しい剣戟の音色が戦場前方に響く。
 ジャンエンゾが両手に構えた剣は重く、鋭い。
 手首がしびれるような感覚に、ヴェノムは高揚を感じる。
 ソードブレイカー一本では荷が重く思われるが――ジャンエンゾの鋭い突きにヴェノムの姿が消える。
「こっちっすよ」
 ぶるぶると顔を振る男の背後で、ヴェノムが嗤った。

 目を血走らせたジャンエンゾは、振り向きざまに大剣を横薙いだ。
 必殺の一閃。その太刀筋がヴェノムの首へ叩き込まれる刹那、触腕が剣に食らいつく。これがマーギュストゥスの戦い方だ。
 歯と金属がこすれ、ギリギリと軋んだ。
「どっすか?」
「悪かないねえ!」
 血走った目のジャンエンゾは噛まれた剣を握りしめたまま、ヴェノムを力任せに蹴りつける。
 強烈な衝撃が臓腑を揺らすが、彼女はまだ――『ただの一度も』己が身を斬らせていなかった。
 防御に徹するならば、どうにか出来ない相手ではない。
 蹴られた勢いをバネに、彼女は再び跳躍する。そんなヴェノムの狙いは足止めであった。
 それにこんな相手であれば、今の彼女がこの世界でどこまでヤれるか。試すにはちょうど手頃そうな相手ではないか。


 ――あっれ?

 ルナシャが杖を力いっぱい薙ぎ払う。
「てんめ」
 盾を強かに打ち付け。

 ――何、この。

「てへっ……ごめんー!」
 そんな空振りはご愛敬。突き込まれる槍をかわし、迫る剣に杖を叩きつける。
「へへーん」
「てめ、ビビってたガキか、よ!」
 傷は受けても、もはや恐怖など感じない。

 ――――やっば……たのし……っ…………!

 ルナシャは杖を目いっぱい振りかぶり――咄嗟に盾を掲げた剣士を盛大に蹴りつけた。
「ガボッ!」
「やーい引っかかった? くひひっ」
 剣を取り落とした男はそのまま腹を抑え、泡を吹いて倒れる。
 これが才能というものだろうか。

「チームワークがなってないっスよ」
 葵は跳ね返るボールを頭で受け、膝へ流し、もう一度蹴る。
 ボールの一撃に最後の剣使いが倒れた。
 こうして戦う力を残した敵の数は順調に減っている。連携が瓦解してしまえば個の撃破など最早造作もない。
 数が減った敵はイレギュラーズ達のマークによって立て直しが覚束ない。
 狙い通りだ。フリーを出さない。それはサッカーでも重要なことなのだから。

 それにしてもおかしな相手だ。
 盗賊組織なのに、盗品の奪還が依頼内容に含まれていない。
 殺すか、捕まえるか。最悪でも撃退するか。それが依頼主のオーダーだ。
 尤も、葵は相手を殺す気は毛頭なく、情報を集める事にも興味はなかった。

 おかしいと思う点。そして殺すつもりがないのは樹理も同じだ。
 山賊に、盗賊に、兵士に。騎士崩れ。その陣容はまるでバラバラで、寄せ集めのようである。
 誰かに仕事でも斡旋されているのだろうか。

 ともかくこうして戦闘は次のフェーズへと移行する。
「おぬし、よくあれについていこうと思ったにゃあ」
「る、るせえ!」
 槍兵をいなしながら、シュリエが問う。
「それとも監視とかでも命令されたとかにゃ?」
「ア、アニキはなあ!」

 ハクウが瞳を細めた。
 弓弦が風を切り、これまでヴェノムだけを見ていたジャンエンゾの太ももに突き立つ。
 ジャンエンゾはそれを力任せに引き抜き、おびただしい血煙に乗せて何事かを叫んでいる。
 戦術は制した。
 最早敵兵は怯えている。数が頼みの賊共もこうなってしまえばおしまいだ。
「調査を行いたい者達が居るのだったな」
 ならば逃がす訳にはいかないが、さて。

 ジャンエンゾが横眼で戦場を見渡す。
 イレギュラーズ半数の攻撃が集中する事態となっては、どうにもならないのだろう。
 いつの間にか後ろに回り込んだヴェノム。眼前には冷たい視線を外さないアニエル。
 万事休すか。明らかに逃げ道を探っている。
「アンタの言う『皆のお兄さん』って」
 横に駆けだすが。そこへ飛来したヴェノムが距離を詰める。
「自分が『兄』に生まれいれば、此処まで落ちぶれてなかったってコンプレックスすよね?」
 ジャンエンゾの唇が震えた。
「如何にも貴族の次男坊らしいっす」
「オアエアァァァアッ!!!!」
 言葉にならない絶叫を上げ、ジャンエンゾが剣を振りかぶる。
 衝撃。肩に食い込む刃。ほとばしる赤。
 うなだれたヴェノムがゆっくりとジャンエンゾを見上げる。
「アンタ――ちょっとだけ楽しかったっすよ」
 ジャンエンゾの右胸に、ヴェノムの短剣が根本まで埋まっている。
 ふりかかる喀血と男の影が、少女の白髪をまだらな血玉髄に染めた。


 みすぼらしいが温かな小屋の中で、男たちが呻いている。
「調査についてはする人にお任せするよ」
 そういったティアは、依頼さえこなせれば問題はない。だから同じ目的の葵と共に仲間達の手伝いに徹していた。

 見張りを買ってでたハクウが嘆息する。
(やはり潰しきるのは困難だった)
 とはいえ弓兵こそ逃がしたが、残りは全て生かしたまま捕縛出来た。
 数で劣っていた状況で、取りこぼしが屋外の遊兵三名であれば戦果は上々であろう。

「私はこっちー」
 盗品があるのなら、目星はつけておきたい。それに余罪もあるだろう。
 ルナシャは小屋をあちこち。例の赤い実。アルコール類だけだ。
 王都への近さと、寝具がないことを考えると。
「後は皆の判断に任せるー。おつかれー!」

 尋問は――なんかヤバい……?

 これ以上の深入りも、なんとなくヤバみを感じる。
 面倒くさくなった訳ではないのだ。たぶんっ。

「アニキさんは、貴族様と薬でも取引してたの?」
 そう言いながら、樹理は暴漢の傷口を縫合してゆく。強烈なアルコールは消毒に。赤い実は麻酔として丁度良い。
 西方では暗殺者を飼いならす為に使われる薬の材料だ。
 禁制品だが、彼女であれば医療に使用すべき適量を見極めることが出来る。
「温情を掛け合う事も出来るんだよ?」
「アネキ……」
 言いよどむ男の視線は、彼女の胸部へと熱烈に注がれていた。
 樹理は溜息一つ。
「はい、おしまい」
 手袋を外し、飴玉を握らせる。
「このままだと、トカゲの尻尾切りだね」
 男は動揺しているが、樹理には仕事が山積みだ。
 彼女が立ち上がると、男の視線はふとももへと移動する。
 しょうもない男達だ。きっと見捨てられたら楽になるのだろう。
 けれど助けない理由を――彼女はまだ見つけられていないのだ。

 肝心のジャンエンゾは既に治療を終え、未だ気を失っている。
 ひとまずイレギュラーズ達は捉えた男達から情報を聞き出そうとしていた。
「……キマッてる奴を相手にするなら、悪霊と喋った方がまだマシだしにゃ」
 とはシュリエの弁だが、確かにジャンエンゾでは話にならない可能性もある。
「マスフォール家って知ってるかにゃ?」
 槍兵の肩が跳ねた。震えている。
「ん~?」
「あばばば」

「私の出番のようだね」
 犯人の動機などは興味がないが。
 アニエルがデバイスを回転させ、一同を振り返る。
「さて、アンセルム君」
 後ろ手に縄をかけられた槍兵が目を見開く。見知らぬ襲撃者から突如本名を呼ばれたのだから無理もない。
「先ほどお仲間がそう呼んだのを聞いていただけだよ」
 アニエルはデバイスを半回転分だけ前へ進ませる。
「盗品の売却ルートは『別の盗賊団』だね」
 槍兵が震えだす。
「自分の不利になる証言は黙秘して構わないよ」
 ただし当然、発言の裏は取る。
 この男に嘘がつけるようには見えないが、ついたところで互いの為にもなるまい。

 後はあえてこの兵士に聞かせてやる必要もない。
 ヴェノムが幼体を小屋に忍ばせる。何かあれば伝えてくれるだろう。
 これでこの話は終わりだ。

 ――だから。
 ここからは興味がある者だけがアニエルと情報を共有すれば良い話である。
 怜悧な彼女は予めそれを承知し、聞きたい者にだけ伝えたのが次の情報だ。

 結局の所。アニエルの調査と尋問、ヴェノムからの情報を総合すれば実に簡単な話だった。
 キング・スコルピオという西方の大盗賊と繋がる盗賊団が、西方で産出される赤い実を欲している。
 おそらく暗殺者を飼いならす等に使用するのだろう。金にもなる。まさに魔法の薬だ。
 ジャンエンゾの兄弟団は、その盗賊団へ赤い実の売却を申し込んだ。
 だが盗賊団は件の貴族と繋がっていた。
 だからその貴族宅へと盗みにはいった兄弟団が切られる結果となってしまったのであった。

成否

成功

MVP

ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)
大悪食

状態異常

ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)[重傷]
大悪食

あとがき

 依頼お疲れ様でした。

 幻想が何だかきなくさい感じですね。
 MVPは多彩な方向で活躍をしていた方へ。傷はゆっくり癒して下さい。

 またのご参加を心待ちにしております。pipiでした。

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