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シナリオ詳細

忘れ去られた戦場で

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●紅茶の美味しい時間
 紳士たる者、音を立てず紅茶を愉しむのだ。
 そう語った幻想デパート『キノコノサトー』支配人の男は商会幹部達に「いやアンタそれステルス使ってるだけやん」と総ツッコミを入れられる事となる。
 清々しい昼下がり。
 晴天の王都の町並みを眺めて茶を啜る彼等は緊急会議を開いていた。
 その議題とは。
「……で、結局誰か思い出せたのかね?」
「なんにも思い出せませんなぁ」
「皆目見当がつきませんとも」
「それより最近地下フロアで新店が出た美味しいチーズケーキなどは如何でしょう」
「いただこう」

 そう、彼等が緊急会議を開いた理由。
 それは! 何だか忘れている事がある様な! 気がするのである……!!
「妙だなあ……なんか、こう、とても執着していた事がある様な気がしたのだが」
「はっはっは、私もですが。あの仇敵『タケノコノヤンマー』が失脚した今となっては、平和な物じゃあないですか」
 誰も、思い出せない。
 収益も安定し町も平和な姿が戻って来た事で緩み切った彼等の脳は、今更面倒な記憶など呼び覚ますつもりは無いらしい。
 よってこの場で、彼等が心のどこかで引っかかっている『なんか忘れてる事』はついに思い出される事は無かったのだった。

●西の茸、東の竹
 立て続けに鳴り響く爆音。
 地表の全てを薙ぎ払うべく行われる絨毯爆撃。ステルスの技能を有する敵兵を牽制する目的で振るわれるそれは、最早開戦の合図として認識された。
 味方への誤爆や費用を考慮して爆撃は日に一度のみ、ゆえにここからは長距離を挟んでの弾幕戦となる。
 当然、その中で一部の機動力に優れた者達は例外なくこの魔弾と砲撃が飛び交う戦場を駆け抜け、そして敵陣へと切り込むのである。
 砂漠のに点在する廃墟で既に一年近く繰り広げられているこの戦争は、何を目的として行われているのか。

「こちらアンブレラ・アルファ! 本部、応答せよ!」
『現在メス猫共に襲撃されてる最中だ! 救援なら期待するな! 撤退は許可できない!!』
 外套に身を包む小柄なブルーブラッドらしき少年が手元の無線機に怒鳴ると、同じく少年の怒鳴り声が返って来る。
 包帯に巻かれた仲間を抱え、キャンプ地と思しきテント群の陰に隠れている少年兵は細長い尻尾を地面に叩き付けて「聞け!」と叫ぶ。
「もう逃げ場がない、僕達はもうダメだ……! だから傍受される危険は承知で本部に報せたい! 頼む誰か話を聞いてくれ!」
 無線機から鳴り続ける怒声。剣戟。銃声。
 暫くの間、雑音と誰かの息遣いしか聴こえて来なくなった小さな箱体を、少年兵は短い耳をヒクつかせて応答を待った。
「そこにいるのは誰ニャ!」
『……ッ、こちら本部。アルファチームだな、記録装置を作動した! 速やかに報告せよ!』
 テントの奥から姿を現した長身のブルーブラッドの女戦士。
 丁度その時、無線機から先程とは違う少年の声が鳴ったのを皮切りにテント群の中を駆けながら少年兵は叫んだ。

「『タケノコノヤンマー』軍は次の対戦時に深緑から運んだと見られる生物兵器を使うつもりだ!
 繰り返す! 『タケノコノヤンマー』軍は生物兵器使用を企んでいる!
 生物兵器は通称OD2、正式名称は深緑の森林地帯で確認されている危険植物『オギャルダケ』!
 もしこの兵器を使用された場合、僕達のやってきたこの代理戦争は……憎きタケノコノヤンマーの勝利で終わってしまう!!」

●MISSION
 砂漠を走る大型ソリに揺られる中、イレギュラーズは冷えた水を飲みながら案内役の少年兵の話を聞いていた。
「ローレットの皆さんに依頼するのは先ほど話した『オギャルダケ』、これを戦場へ投入される前に撃破する任務だよ。
 もう聞いてるとは思うけど、僕達傭兵団『貴き月下の勇猫』は幻想のキノコノサトー商会に雇われて、タケノコノヤンマー商会が支援する傭兵団『猛き灼熱の艶猫』と一年も戦争している。
 代理戦争だよ。敵の彼女達とはこれでも不殺協定に基づいて戦ってきたが……まさかここに来て、殺さずして僕らを抹殺しに来るとは思わなかった」
 深刻そうに尻尾を肩と共に落とす少年兵は、まだ幼く見える容姿に濃い疲労の色を見せていた。
 彼が言うには、それもこれも両軍共にいつからか幻想の商会から支援が届かなくなったせいだとも語った。
 イレギュラーズはふむ、と訝しみながら顔を見合わせて。
「戦場に投入前という事はまだ輸送段階なのか?」
「うん、そうなんだ。不幸中の幸いな事に、さっき言った不殺協定のおかげで次の月は前回と異なる戦場で戦闘する事になってる。
 次は小規模のオアシス地帯が戦場になるんだけど……土壌が特にやばいんだ」
 はふぅ、と少年兵は細い肢体に水を含ませた布を当てて。
 イレギュラーズの誰かはそこでふと気づいただろう。その『オギャルダケ』とはどのような生物兵器なのか、と。
「『オギャルダケ』は一度増やす必要があるんだ。
 水気のある土壌に『オギャルダケ』を一本埋めて、それから自然とポンポン増えてちゃんとした寄生対象に向かって駆けて行くんだって」

「……寄生?」
「うん。僕より小さめな、このくらいの小人みたいなのがいっぱい走るんだってさ。
 それで人型の生物の下腹部に飛びついて、振り払えないと体に生えてる小さな棘の毒で麻痺させられてから、お腹に凄いスピードで繭を作るんだ。
 まるでお母さんになっちゃうみたいだって……え? え? 何で皆さん逃げようとしてるのー!?」

GMコメント

 この依頼を終えても戦争は終わらない……

 以下情報。

●依頼成功条件
 敵勢力を倒す(不殺)
 オギャルダケを殲滅する

●情報精度A
 本件で想定外の事態は起きません。

●ロケーション
 砂漠にポツンとある半径70m程度の湖を中心に緑のオアシスが半径300m広がっています。
 オアシス内には廃墟の建物が幾つか残っており、明確なサイズや内部構造は到着するまではわかりません。
 いずれも棄てられた家屋が殆どなので最大でも8m程度の一軒家サイズです。主に紛争地帯に点在する砂っぽい廃墟をイメージして下さい。

●敵勢力
 傭兵団『猛き灼熱の艶猫』の輸送班。
 屈強な猫の獣種女性で固められた傭兵団です。彼女達はいずれも超聴力に加えて跳躍技能がある他、
 卓越した格闘のセンスがあります。
 とはいえ今回の作戦ではよほど味方に嫌がられたのか僅か8人しかいないようです。輸送だけして帰りたいようだ。

 『オギャルダケ』
 単体では蹴りの一発でも倒せるほどに弱い。しかし攻撃力は下記でも示されている様に数の多さも相まってかなり厄介かもしれない。
 少なくともこれが大量に生産されるまでは敵傭兵団の彼女達は植えたオギャルダケを庇うでしょう。
 増えた彼等は人間の腰程度まで成長しながら人型のいずれかにダイブ(物近単の攻撃扱い)、
 かなりの命中率を誇り、クリーンヒットで確定寄生。ライトヒットなら振り払ったり等の行動を挟む余裕があります。
 麻痺や各種状態異常に関する判定は抵抗値等に準じて。
 これらは作戦開始時(皆様が到着後けっこうすぐ)に湖付近の土に埋められ、3ターン毎に10匹ずつ増殖します。

 この世のモノとは思えぬ鳴き声を挙げる土の赤子……
 寄生された者は恍惚の笑みを浮かべてその場に崩れ落ちる……その間に他の個体が近付こうとも、逃げられはしないのだ……

 以上。
 皆様のご参加をお待ちしております。
 ちくわブレードですよろしくお願いします。

  • 忘れ去られた戦場で完了
  • GM名ちくわブレード(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年06月02日 21時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
レッド(p3p000395)
赤々靴
シグ・ローデッド(p3p000483)
艦斬り
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
ライハ・ネーゼス(p3p004933)
トルバドール
藤堂 夕(p3p006645)
小さな太陽
ベンジャミン・ナカガワ(p3p007108)
 

リプレイ

●(・x・)<「……」
 『小さな太陽』藤堂 夕(p3p006645)は何とも言えない顔で手元の依頼書を眺めていた。
 今にして思えば依頼概要に記されている所々で修正の跡があったり、文字が小さく書かれているのを見ると、文字通り何とも言えない思いになる事必至であった。
 砂上を滑る大型ソリ。彼女と同乗のイレギュラーズの面々の反応もまたそれぞれである。
「恐ろしい。なんという恐ろしい兵器だ……」
 ダークブルーの髪が風にたなびき、遠い目で砂漠の風景を見る『トルバドール』ライハ・ネーゼス(p3p004933)の姿が一つ。
「……兵器自体ヤバいが、貴き月下の勇猫の少年兵が寄生された後、敵のメス猫に捕虜として捕えられたら
完全に薄い本案件だな」
 並んで遠い目で首を振る『追憶に向き合った者』ウェール=ナイトボート(p3p000561)の背中が一つ。
「恐ろしい生物兵器っすけど実際どんなか気になるっす、見てみるっす壊してやるっす」
 そんな彼等の前でシュッシュとシャドウボクシングの動作をする『特異運命座標』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)がステップを刻む。
 対する舷側沿いに座り込んでいた『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)からスゥゥ……と溜息が漏れた。
「……、はぁー……やっべー依頼受けちまった。あのキノコに似たようなもんオレ知ってるんスよ、下手すると地獄絵図待ったなしだからなアレ。
 でも、だからこそここでしっかり絶たないとダメなんス。いやマジで」
「はぁ……名前が分かっていたのだから事前に調べておくべきだったわ……えぇ、受けたからにはちゃんとやるわ、ちゃんとね……」
 溜息が『青き戦士』アルテミア・フィルティス(p3p001981)に感染る。
 曰く、幻想の山奥にも似た植物が存在するという。
 『バブルテングダケ』なるソレは寄生した後に増える実にシンプルに凶悪な毒キノコだったが、今回は些か異なる点がある。
「増えるのは土に埋めた後だけどね、繭になった後に出て来た『オギャルダケ』は脱皮した後の蛇みたいなものなんだ」
 昼を過ぎて暫く、僅かに気温が下がった事でフードを脱いだ少年兵がピコンと耳を立てる。
「ある程度腕に自信があれば弱い相手でもある奴だけど、それが更に格段に脆く、柔らかくなる。
 でもね。あれが怖いのは時間が経った後の個体なんだよ。
 繭から出たオギャルダケは大体三回同じことを繰り返す……繰り返した後に、その表皮はちょっとした鉄みたいな硬度になるんだ」
 少年兵は「実際に見たわけじゃないけどね」と手を振って、それからイレギュラーズに向き直る。
 どうやら目的地が近くなって来たらしい。彼は幼い顔立ちに少しだけ不安を覗かせた。
「脱皮したオギャルダケはなるべく直ぐやっつけてね。二つ以上の個体が増殖する段階になってしまったら手に負えなくなっちゃうからさ。
 この作戦が失敗すると、僕達の仲間がたくさん犠牲になる。だから本当は手伝いたいんだけどね……」
 だけど自分は力不足だから。そう言った少年兵はイレギュラーズを見下ろして。
「よろしくお願いします。ローレットの皆さん」

 ぺこりと頭を下げた猫耳の少年を前にして、葵やウェールが笑って応じた。
 しかしその一方で人知れず。
(……代理戦争っすけど、支援無い今やり続ける意味あるんっすか?)
(しかしタケノコノヤンマー失脚が勘違いでないのならこの戦場は一体……? まさか互いに忘れられて――いやその辺りは今はどうでもいいか)
 世の中には知らない方が良い事もあるのだ。

●家が火事なのに竹をくべてる場合じゃない
 廃墟群が立ち並ぶ中、数人のブルーブラッドの女戦士達が背丈ほどの黒い竹を馬車から取り出していた。
 投げ出されたままの干からびた手足。それは『オギャルダケ』が成体となってから水分不足で仮死状態となった代物だった。
「早く埋めちまうニャ。捕虜の坊やに吐かせた情報によれば、今回の作戦内容が漏れてるかもしれにゃいんだから」
「でも姐さん……これ重過ぎ!」
「う、うなぁ……埋めるのに一苦労しそうだニャ」
「弱音吐かにゃい! 少しだけアタシが掘っといたから埋めるのに時間はかからにゃいニャ!」
 やけに高音な女戦士達。
 暫し廃墟群を抜けようと歩き続けた彼女達は、数十m規模の湖を前にして足元にオギャルダケを突き立てた。
 土砂にしかと踏ませた事を確認した女戦士達のうち、手すきの者がスコップ片手に近付いて行った。
「うなぁぁ……」
 如何にもやる気のない、欠伸すら間延びする始末。だがそれを咎める声は無い。全員同じ思いだった。
 つまり全員油断し、弛緩しきっていた。

──── チュドォォッッン!!!!
「キノコノサトー軍、突撃っすーー!!」
─── ドゴォォゥン!!!
「キノコだかタケノコだか知りませんが、第三勢力『R4(アールフォー)党』たるこの俺が皆殺しにしてやりますぞー!!」
── ドォウンッ!!
「物騒だなアンタ!? けどキノコは滅するっスよ!」

 白煙が噴出した直後の怒涛の爆発。
 派手な音と共に爆ぜた土砂が撒き上がる最中、突き破り、姿を現した三騎の突撃兵が雄叫びを挙げる。
 爆音で驚き委縮してしまった女戦士達だったが、先頭を駆ける葵の後ろに控える影を見て更に震え上がらざるを得なかった。
「にゃ……ニャニャァ!!? 何あのブロッコリーども!?」
「ていうか敵襲! 敵襲だニャ!! うわにゃんか頭が、うをぉぉぉ読まれてるゥ!!」
「ちょっ、この子リーディングされてニャい?!!」
 HMKLB-PMに跨り駆け抜けるブロッコリー。
 殺意マシマシの謎勢力からの刺客のブロッコリー。
 キノコへの並々ならぬ意志を懐くサッカーボールフレンドと走るブロッコリー。
 声に出して繰り返したくなった衝動を女戦士達はぐっと堪え、代わりに喉から変な悲鳴が飛び出すのだった。
「……読まれる事を分かっていようが、今更プラン変更は出来まい? ましてやその混乱ぶりでは、な」
 駆けるHMKLB上のレッド。その背中でくすり、と。
 この隙だらけなネコ達の思考を覗き見た『『知識』の魔剣』シグ・ローデッド(p3p000483)は静かに笑う。ぶっちゃけ何も考えていなかった彼女達は混乱しきっていた。
 それでも圧倒的なインパクト突撃編隊に立ち向かうべく、彼女達は土に埋めたばかりのオギャルダケを守護しようと円陣を組んだ。
「っしゃ、狙い易くしてくれてご苦労さん……!」
 刹那、足先から跳ね上がったボールがキュルルと螺旋を描く。
 昇る一閃。勢い良く蹴り放たれた青色のエネルギー弾は僅かに反って女戦士達へ着弾、吹き荒ぶ冷気に煽られた彼女達は肌を凍てつかせその場に縫い止められてしまう。
「ひぃっえ!? さっぶいニャー!!」
「だったら追いかけっこでもして温めると良いっす、武器なんて棄ててかかってくるっす!」
「そ、その挑発には乗らにゃいから! そのセリフやべーの知ってるんだからね!」
「どかないなら仕方ないっすね」
 怯んだ女戦士達が尚も誘いに乗らないのを見て取ったレッドがHMKLBでドリフトさせると「ABBBBBB」とバグった声が鳴り響く。
 しかし、その姿に目を引かれた猫娘共はレッドと並走していたアルテミアの存在に気付いて悲鳴を挙げた。
「人間種の癖に、速っ……」
「後ろ、空けて貰うわよ」
 地を這う様に駆け、両手の指先が唾を弾いて二刀が射出される。
 葵のシュートによる怯みから立ち直れてなかった女戦士、特に先頭の金髪のリーダー格と思しき猫の獣種女は冷気に手元が震えていた。
 小手先を妖刀の柄が弾いたかと思えば、次の瞬間に襲う脇と膝への打撃。射出されたばかりの二刀を難なく掴み取ったアルテミアが奮う三度の剣閃は峰打ちながら強烈な威力を以て女戦士を地に落とした。
「ニャ……ぁッ!?」
「! 呆けるニャ馬鹿、オギャルダケを庇うニャ!!」
 間髪入れぬ追撃の気配を察知した黒髪の女戦士がシールドを構えて前へ飛び出す。
 だがそんな姿が次の瞬間、盾すら射抜く凶悪な弾丸を前に崩れ落ちてしまう。後方からの術式、紺の軌跡、詩人ネーゼスのソウルストライク。
 瞬く間に二人倒された女戦士達に少なくない衝撃が走り、予想だにしていなかった強敵を目の当たりにして毛を逆立たせ誰かが喘ぐように呟いた。
 もうここまで見せつけられては嫌でも気づくだろう。
「こいつら……幻想のローレットにゃ……」
「そこのあなた達ー!!」
「うみゃ!?」
 半ば絶望しかけた所へ入る一喝。
 そうこうしている間にも殺意全開で魔弾撃って来てるブッ殺リー(ブロッコリー)に加え、物凄い形相で迫る銀狼ウェールがもうとにかく焦らせる要素しかない。
 円陣だけは崩さない辺り、女戦士達も優秀なのだろうが。
「聞きなさい! オギャルダケの設置に成功した場合、きのたけ両陣営の争いどころじゃなくなりますよ!」
「にゃにゃ……どういう意味だニャ!」
「だってオギャルダケ、人型に向かって行くんですよね!? そんなのもう無差別も同じじゃないですか!
 獣種なら被害は受けにくいなんて狡猾! 卑怯! 人でなし! 傭兵としてこんなものと関わって恥ずかしくないのかー!」
「せっ、戦争にゃんだ! しょうがねえだろ!! ……え、ちょっと待って。人型だと狙われるならアタシらやばくね?」
「お前ら! こんな生物兵器を使ってまでおばショタしたいのか!」
「はっ、はあああああ!!?」
 夕に並んで腕組んだ屈強な狼さんがログイン。
 突然の追及に応じたのは、それまで静かにしていた猫娘C的な地味な娘だった。彼女はにゃーと眼鏡を握り潰して睨んで来る。
「純粋無垢な少年達を寄生プレイでお母さんにして欲望を発散するのはよせ!
 元々そういう性癖なのか、一年も戦う内に目覚めてしまったのかは知らんが……現実でそういうのはやめろ! 婚期を逸しても焦るな!
 ショタコンはしょうがないとしても倒錯した恋慕や欲望のままにショタに手を出しておばショタするのはやめるんだ!」
「よ、よくわからないけどそうだそうだー!!」
 ブロッコリーの着ぐるみを半ば脱いでウェールの加勢に入る夕が腕を振り上げる。
 一方で味方がネーゼスとベンジャミンに撃たれまくってるというのに、検察側の追及に弁護人は牙を剥き出しに反論を始めた。
「異議ありみゃ!! 今回の作戦はあくまで戦場における優位性を獲得する為に行われたこと! そんみゃ邪な想いで私達はこのイカレたタケノコに手を出してみゃい!
 だいたい、何みゃ! お、おばさん何て言われる年齢じゃみゃい!
 そしてハッキリ言うと恋慕や欲望を越えた感情のもと私達はショタっ子を虐げてるのみゃ!! 最高だろ猫耳生えたショタ傭兵団とか、ジークタケノコノヤンマー!! 戦争屋はこれだからやめられみゃい!!」
「隠してる性癖を認めたくない……と思ったら自白したが、お前だけじゃないよな。生物兵器を守っている八人でショタ独り占めにするんだろ!」

「C子……あんた……」
「『貴き月下の勇猫』の子達をそんニャ目で見てたの……」
「うっわ一緒にされた」
「つかC子って今年29じゃにゃかった?」

「うウォオオオオォォォーおおおお!!!! お前ら殺して私も死んでやるうぅぅ!!!」
「交渉失敗……ファンブル!?」
「アンタらマジで何やってんスか!?」
 遂にソードラインを踏み越えて検察側へ殴りに出た被告弁護人はフレンドリーファイアを背中に浴びながら突貫、葵からの顔面シュートを受けて錐揉みしながら吹き飛ぶ。
 戦争の無情さ、止まらない戦火を前に致し方なしと覚悟を決めた夕が放った召喚物がC子の意識を刈り取る最中。レッドが動きを見せる。
「出番っすよシグさん!」
 高速回転ドリフトによる遠心力を利用し、それまで背負っていた大振りの魔剣をレッドは投擲した。
「投擲物、剣……っ!?」
「傭兵の諸君。……自立戦闘する剣……と言う『兵器生物』を見た事はあるかね?」
 飛来するその魔剣、魔眼が刹那に閃く。
 咄嗟に身を低くした女戦士達の頭上を抜けたそれは軌道を変え、彼女達からの迎撃を掻い潜りながらターンと同時に雷球を降らせたのである。
 オギャルダケを庇って巻き込まれる女傭兵達。
 いずれも爆ぜた静電気を浴び、次いで叩き付けられた不可視の壁によって一気に三人後方へ吹き飛ばされた。
 『猛き灼熱の艶猫』がそれまで背に隠し守っていた黒々とした棒状の物が、遂に露わとなった瞬間だった。
「視えた……!」
「しまっ!? ……ここは、通さにゃい!!」
 気が付けばがら空きとなってしまった中、たった一人残された眼帯の女戦士が両手にククリナイフを構え躍り出る。
 アルテミアの剣閃と真っ向から衝突する。一太刀で軋む鋼の音に戦慄した女が、耳を伏せて目を見開いた。
 側頭部へ打たれる峰の一撃……だが、女戦士は耐え抜いた。
「……お前らも道連れにゃあ」
「!」
 アルテミアは女戦士の声ではなく、その時頭の中で響いたシグの言葉に驚いた。
 即座に飛び退こうとした彼女の眼前で黒い何かが噴き出した。

●なぜブロッコリーなんだ!!
 ネーゼスはブロッコリーの着ぐるみの中で目を細めた。
「なんとか、なんとか早期に撃破して増殖を阻止したかったが……あと一歩の所で増殖を許してしまったか!」
「しかしまだ間に合いますぞ! 彼奴等が人型に突撃してくる話を聞いて対策していて正解でしたな!」
「……確かに、有効だったようだ。増殖したオギャルダケは標的を完全にあちらへ集中させている、が……」
 飛来する魔剣。ベンジャミンの隣に浮遊して来たシグは斥力を以て魔力を射出する。
 続くネーゼスも苦い表情を浮かべ、魔力を励起させる。
「ナイトボートが巻き込まれぬように散らす事は出来ても、その先は彼次第だ」

 湖を目前にしてウェール達前衛……否、ウェールは今オギャルダケに囲まれていた。
「だあ゛ぁ゛ぁ゛あ゛」
「ぱぁ゛ぱぁ゛」
 迫り来る黒いとんがり頭。
 右も左も、冒涜的に啼く赤子の風体でウェールを取り囲み、次々に飛びつこうとする、
「黙れ! その! 珍妙な姿で! 俺をパパと呼ぶな!
 俺の……俺の子供は――――梨尾だけだああぁ!!」
 腹部に抱き着いて繭を張ろうとする恐ろしい光景を目にしつつも、その心は折れず。強かに、涙を伴った一撃で両断して斬り払い除けて行く。
 僅かでも油断すれば寄生され、きっと仲間や自身の息子に顔を合わせられないような事になる。そう確信していた彼は陽光散る妖刀を奮い続けた。
 しかし妙な事だと思うだろう。何故こうして彼だけが今標的となってしまっているのか。
 それは、主に。
「くッ……いい加減に離せ!」
「嫌みゃぁぁああ……! ここでお前も道連れみゃぁあああ……あっふぅん!」
 ついさっきブッ飛ばしたとばかり思っていた、怒れる地味猫C子がウェールの両足を信じられない力で掴んでいたのだ。
 勿論彼女もこうしている間に寄生されている。だがしかし恐ろしいかな、執念だけがウェールに呪縛を齎していた。
「ウェールさん……!」
「くくく、もうあの狼さんも堕ちるのは時間の問題だニャ……」
「そんなこと言って! 両軍共に商会の支援を得られなくなった事は聞き及んでいます! そこまで肩入れする事もないでしょう……!?」
 アルテミアと共に力尽きた女傭兵達を引き摺り、建物の陰へ移動させていた夕が猫達の前で立ち上がる。
 それに対し舌打ちをした女達。
「分かってにゃいね。私達は傭兵、一度依頼されたにゃらせめてやり遂げるのが美学でもあるの」
「失敗が傭兵団の面目に関わると言うなら、『ローレットの介入があった事』である程度の面目は立つ筈。
 そしてもうお判りでしょう、ローレットは『貴き月下の勇猫』から依頼されて来たんです。彼等は未だに不殺協定を守ってるんですよ!
 支援を寄越さなくなった依頼主より、身を案じてくれる敵役の方が信頼できますよ!」
「あ……あの子達はお子様だからそうやって……」
「いや」
 反論しようとした仲間の肩を掴む眼帯の女戦士。
 彼女はアルテミアと夕を交互に見比べて、それから肩を落として言った。
「これは和解の提案と見たにゃ。一時休戦、目下のミッションはあの滅茶苦茶なタケノコを破壊する事に協力……これでいいにゃ?」
「……! 勿論よ!」
「勘違いしちゃダメだよ、アタシ達はあくまでも傭兵……一度報酬を支払われたら最低限の落とし所が必要にゃ。
 これは一時的な休戦だにゃ」
 よろよろと立ち上がる女傭兵達。
 それを見たアルテミアが二刀を手首で回し、小首を傾げて言った。
「それじゃ、お手並み拝見ね」
 ──
 ───
 ─────

 日が暮れた頃。
 それぞれが協力し合った結果、ついに増殖元のオギャルダケ破壊に成功した一同はオアシスのあちこちで倒れていた。

「いやー、この着ぐるみ思ったより効果あったっすね」
「役に立つものですなぁ、しかし夕殿みたいに半分脱いでたり引き裂かれていたら分かりませんぞ」
「久々に追い回された……今回は一度も火傷を負ってないのが感動的っスね。
ホントさぁ、深緑はどうしてあんなん野放しにしてんだよ……」
 謎の返り血を浴びたベンジャミンの隣で、葵は疲れた様子で呟くのだった。


成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

依頼は成功。
惜しい事にほぼ全員寄生される事無く無事に依頼を終える事が出来ました。
夕様やウェール様の全力の説得・煽りを受けた猛き灼熱の艶猫はこれに懲りてオギャルダケの使用を控えるでしょう。
そう……相手が使わない限り。

お疲れ様でしたイレギュラーズの皆様。
またのご参加をお待ちしております。

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