シナリオ詳細
誰がための軍
オープニング
●抹殺依頼
おおきな地図がウッドテーブルに広がっていた。
鉄のマグカップが周りに五つ。吊るしたランタンの光が、地図をさす節くれ立った男の指を照らし出した。
「地図を見れば分かると思うが、ここマジナ森林の民は複数の少数民族によって構成されている。
深く広い森だ。行き来するのに一日かかる程のな。
その中で、一民族一集落の割合で点在している状態だ。
間は細い道だけで結ばれ、そのつながりの細さゆえに少数民族の独自性や精神衛生が保たれている。
が、それだけでは済まない」
地図の両端。
つまりは森を挟んだ山と平野。それぞれに軍の名前が記されていた。
「山側は我々ラシバ軍。平野側は森の領土を狙うノガノン軍。
この森の領土を争って戦争状態になっている。
厳密にはラシバの私兵とノガノンの雇った傭兵による戦いだな。
現在ラシバが領土を守って優勢にあるが、どうにもまずい問題がおきている。
その問題については後から説明するが……まず君たちに依頼する内容を先に行っておこう」
髭をたくわえ、ターバンを巻いた男が、鋭いまなざしで振り返った。
「ギルド・ローレット。君たちには我々ラシバ軍の私兵を抹殺して貰いたい」
●力の傾き
一集落一民族の独自性は各民族の精神衛生を保つために、重要ではあるが、それゆえ周囲との接続が弱く、強いコミュニティの侵略を許しがちである。
今回はそれが、軍隊の駐留という形で引き起こされた。
「例えば、20人ほどの丸腰民間人の集まりに、10人ほどの武装した兵隊が駐留するとするよね。
彼らが食料や寝床を住民に要求した場合、住民は逆らえない。仮に逆らったとしても後から投入された軍隊によって報復攻撃が行なわれるからだ。要は見せしめの虐殺だね。
兵隊たちもそれが分かっているから、村人たちへの要求はエスカレートする。食料や寝床のみならず、思いつく限りやりたい放題するわけさ。
勿論こんな連中ばかりじゃあないよ。そればかりだったら今頃国ごと滅んでるはずだからね。
けれど、今回はそういう『悪辣なケース』ってわけさ」
同じ場所、同じ地図。別々のマグカップ。
『黒猫の』ショウ(p3n000005)は地図の一転を指さして笑った。
「ラシバの領主は軍によるやんちゃが不利益になりすぎると判断した。
けれど領主が直属の私兵を引き下げたとあっては民衆に示しがつかない。
だから領主なりの責任のとりかたとして、こっそり傭兵をやとって『敵軍に抹殺された』ことにしたいわけさ」
やるべきことをシンプルに話そう。
まずイレギュラーズたちは敵であるノガノン軍の傭兵として集落へ襲撃を行なう。
この際ラシバの兵隊を全て抹殺し、村人を保護する。
「このとき間違っても、村人に手を下させるようなことはしちゃだめだ。
村人が兵隊を殺したとなれば、報復攻撃の引き金になる。
仮に報復を止められたとしても、村人は今後一生報復におびえて暮らすことになるだろう。領主の保護も二度と受け取れなくなる」
時間は夜。つまりは夜襲だ。
兵隊は敵軍の襲撃を常に警戒しているので完全な奇襲は難しいが、もしちゃんとした技能と手順、作戦を踏んでいれば可能かもしれない。
「確認されている建物は民家十五棟、馬小屋二棟、木製の監視台一棟、食料庫一棟。家畜小屋一棟だ」
兵隊の抹殺が済んだら、現場をそのままにして即時撤退。すぐにラシバ側の傭兵が兵隊にかわって駐留を行なう手はずになっている。
「私兵から傭兵に変えたのは、彼らが金にならないことをしないからさ。
村人に悪辣な要求をしないことを領主は契約しているし、違約すれば金が支払われない。傭兵にとって違約は死と同じだ。農民が畑を失ったり、遊牧民が家畜を喪うのと同じでね。だから安心ってわけさ。
勿論皆がラシバの手回しによって兵隊を抹殺したことは秘密にしなきゃならないし、これは立派な悪事にあたる。
けど……そうだね。悪人を掃除するための始末屋として、名が売れるかも」
ショウはそこまで語ってから、マグカップを置いた。
「決行は今夜だ。頑張ってね」
- 誰がための軍完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常(悪)
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年05月31日 22時00分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●傭兵仕事はキレイばかりじゃつとまらない
マガジンローダーを差し込んで、弾をマガジンに収めていく『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)。
予備弾倉をひとしきり揃えて腰のホルダーに納めたら、そのうち一つを銃のグリップ底から勢いよく装填した。
「ふふ、雇い主の不利益となればアッサリと切り捨てられるか。
ま、聞く限り今回のケースはそうなるだろうとしか言えないが、自分が実行役となると改めて怖いものだ」
悪名も立派な名声。掃除人(スイーパー)がいなければ町はずっと汚いままだ。そして必要な人材には必要な金が支払われる。
傭兵稼業というのはそういう単純なルールで回るものなのだそうだ。
「せいぜい私も切り捨てられない程度に名を売っておこうか」
「それにしても、素行の悪い兵隊さんも、まさか雇い主から抹殺されるとは思わないでしょうね」
美しい声で歌うように言いながら、『瞑目する修道女』メリンダ・ビーチャム(p3p001496)は顔の縫合部分を針と糸を使って丁寧に縫い直していた。
暫く縫い直しを終えたところで、身体の各所をぽんぽんと叩いて具合を確かめる。
「私たちの存在は彼らにとってさしずめ、『突然の死』かしらね」
「忘れてないだろうな?」
「忘れてないわ。私たちはあくまで敵軍のふりをして私兵たちを抹殺するんでしょう?」
言わずとも、敵軍以外がわざわざ襲ってくるとは思わないでしょうけど、とベールを被り直すメリンダ。
その横で、『性的倒錯者で快楽主義者』ニエル・ラピュリゼル(p3p002443)も自分の武器の手入れを終えて出撃準備を完了していた。
いつでも出られるという彼女たちの雰囲気を察して、義体形態で目を閉じていた『天棲鉱龍』ェクセレリァス・アルケラシス・ヴィルフェリゥム(p3p005156)がゆっくりと顔を上げ、目を開いた。
声帯を作り、調子を確かめるように喉を鳴らす。
「民あっての国。判ってないヤツ多いよね、困ったことに。人の為に組織が在り、組織の為に人が居る訳じゃないんだよ。図に乗って好き勝手する輩に制裁を与えようか」
ヒトの国家とか別に興味ないけど、愚か者は嫌いだから。
対神波動砲を担ぎ上げ、ェクセレリァスは村へと歩き出した。
マジナ森林の一部にある小さな村。
細い道でつながった集落としか言えない程度のその村は今、ラサの富豪ラシバとノガノンの勢力に分かれて取り合いが行なわれていた。
こうした土地の奪い合いで紛争が起きるのは、連合体という国家構造ならではと言えるかもしれない。商人と傭兵の国、である。
『怪猫』道頓堀・繰子(p3p006175)は森を進みながら、素早く忍び装束めいた格好にチェンジしていた。
「にゃははー、この手の仕事は久々やなー。テンションあがるでー」
やったるでーと言いながらにこにこ笑って肩を回す繰子。
器用なことに、スキップでもしそうな足取りの彼女から足音らしい足音は聞こえなかった。
一方で、恐い物なしといった風にざくざく足音を鳴らして進む『戦神』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)。
「確かにいいわねこういうオシゴト。私はさっさとドンパチしたいくらいだけど……」
「すぐにできるで。順番順番」
「まぁ仕方ないわね……」
僅かに香る血の臭いや殺しの気配に、彼女たちはどこか高揚した雰囲気を見せていた。
高揚しているのは勿論彼女たちばかりではない。
「へぇ、ローレット所属になって初めての依頼だがローレットってこんな事もするのか。いいねぇ、気に入った!」
剣の柄をがつんと叩き、『狂剣』キルギス・キルフォード(p3p007153)は獰猛な獣のように笑った。
シルクハットを脱ぎ、どこか慇懃に頭を下げてみせる『ただの手品師だよ?』ミーシャ・キュイ(p3p002182)。
「私ミーシャは班の主役であるキルキルくんのアシスタントを務めさせていただきますので、どうぞよろしく」
「おうよろしくな、先輩!」
「よいショーにいたしましょう」
ミーシャは怪しく、夜に紛れるネコのように笑った。
始末人のパレードがやってくる。
見物料はいらないが、明日の朝はやってこない。
人生最後のパレードだ。
●見張り台の最後
村を拠点化するにあたって新設した木製の監視台。縄ばしごで繋いだだけの簡素な台を、交代した獣種の兵士が登っていく。
ランタンを腰にかけ、夜目をきかせてあたりを見回した。
「あれは、誰だ? 集団?」
敵軍方面から接近する一個分隊規模の集団を発見した。
味方でないのは丸わかりである。なぜならそのうちの一人が、明確に見張り役へと発砲してきたから、だ。
「さて、愚かしき私兵諸君には、せいぜい私のコネ作りの種になってもらおうか」
スクランブルの鐘を打ち鳴らす見張り台の男へ向けて、ゼフィラはしっかりとミスティックガンを構えた。
サイトごしに相手の腕へ狙いをつけて発砲。
飛んだ弾が鐘を打ち鳴らす男の手首に辺り、鐘の音が止まった。
「ま、人を食い物にするという点ではお互い様だろう?」
手首を押さえ、ライフルを抜いて片手打ちをしかける見張りの男。
そうしている間にも、警鐘を聞いた兵士たちが建物から次々と飛び出してくるのが気配でわかる。
急ぐ必要がありそうだ。
ェクセレリァスはわざと的であるかのように叫んで、見張り台めがけて対神波動砲を打ち込んだ。
「敵を逃すな! 殲滅戦だ! 皆行くぞ!」
見張りの男は防御を行なったが、こらえきれずに監視台から転落。
強く腰を打った男に対して、繰子が馬乗りになって腕を押さえつけた。
かけているサイバーゴーグルごしに目細める。
「にゃははー、あんたたこ焼き好きぃ?」
「な、なにを」
「ほれ食うてみー」
あつあつのたこ焼きをどこからともなく取り出すと、男の口にねじ込んでやった。
悶絶する男の顎を押さえつけ、
「お仲間はどこや。って、言うまでもないか」
「そういうこと。戦闘の音も聞きつけただろうしね」
秋奈が刀を抜いて、待ってましたとばかりに突撃した。
繰子から逃れ、銃を抜く見張りの男。
「ラシバ! この集落は我らノガノンがいただくわ!」
銃撃をあえてまともにあびながら、秋奈は男の上半身と腕を斜めに切り裂いていった。
「戦神が一騎、茶屋ヶ坂アキナ! 有象無象が赦しても、私の緋剣は赦しはしないわ!」
ずるりと崩れ落ちる男の上半身。
その直後に、武装した兵士がまとめて迎撃を仕掛けてきた。
「始まった……というより、『始まってしまった』みたいね」
行くわよ、とニエルにハンドサインを出すメリンダ。
対してニエルも武器をとり、メリンダについて村の別方向から行動を開始した。
「よく『見える』わ……」
明かりが用意されているとはいえ夜の集落である。
暗視と透視の能力をアクティブにさせたメリンダは、警鐘が鳴らされたにもかかわらずのんきに民家の中で酒を飲んでいる兵士を発見した。
「部隊長さんかしら。ちょっとご挨拶しましょ。ニエルさんは表から、私はそうね……」
メリンダは一秒ほど考えてから、大きな窓に目をとめた。
もとは村人の家だったのだろうが、占領して散らかし放題にした部屋に半裸の兵士がくつろいでいる。
ビール瓶を傾けてラッパ飲みし、ベッドサイドのテーブルに置いた。
「全く騒がしいな。敵軍もよっぽど村が欲しいと見える」
煙草に火をつけようとして、ライターがないことに気づいた。
あたりをぱたぱたと手探りし、がらりと窓の開いた音に振り返る。
「おい、俺のライターはどこだ。でなきゃおまえの――」
振り返る男と、『目』を見開いたメリンダが目を合わせた。
らんらんと真っ赤に光る、血のような目。地獄を直接のぞき見たような双眸に、男は思わず飛び退き、叫びながらベッド脇にたてかけたアサルトライフルを手に取った。
乱射――より先に戸口から直接のりこんだニエルが二人の間に割り込んでいく。
銃撃を受けられ、開いた戸口から逃げようとする男の首に、鉄の鎖が巻き付いた。
「がっ!?」
「暴れ回れないのは、少し窮屈だけれど」
鎖をたぐって引き寄せて、トゲ突き鉄球を直接手に握ったメリンダが男の顔を覗き込んだ。
「少し、付き合って貰うわね?」
鉄球が、男の顔面にたたき落とされた。
一方こちらはキルギスとミーシャ。
「レディースエーンジェントルメン! この度は殺戮ショーへご来場いただきありがとうございます!」
屋根の上から両手を広げて見せるミーシャ。
手首をスナップさせてバラの造花を出現させると、『あとはどうぞよろしく』と言ってキルギスに戦闘を任せた。
「さぁて、たっぷり思う存分に斬り合おうか!」
飛び出してきた兵士たちがキルギスに気づき、アサルトライフルの射撃をしかけてくる。
キルギスは銃弾をあえて身体で受けながらまっすぐに突撃し、魔剣でもって相手の胸を切りつけ。その勢いのまま相手を蹴り飛ばす。
新たに駆けつける兵士が、その様子に目を見開く。
「その太刀筋……まさか『嘆きの剣』か?」
「おっと、ショーマンの素性を探るのはいけないなー」
背後に下りたミーシャが、奇妙な空気で兵士を包み込む。
心をむしばむ空気に伝達させるように兵士に何事か囁きかけると、兵士は短剣を抜いてミーシャへと斬りかかってきた。
軽やかに飛び退き、剣をかわすミーシャ。
「私はアシスタントだからねっ! メインのショーの邪魔はさせないよ~?」
●殺戮の夜
村の中を逃げるように走る兵士。
牽制するようにライフルを乱射しながら、道で転んだ子供を引っ張り上げた。
子供の頭髪を掴んで立たせ、身を屈めて盾にするように突き出す。
「おい、こいつがどうなっても」
「知らねえな」
キルギスの剣が子供を一息に斬り殺し、返す刀で兵士の胸に剣を突き刺した。
「死ぬ覚悟もなく戦いの場に出てくるなよ。ここは戦場だぜ? どんな死に方をしようが自己責任ってもんだ! HAHAHA!」
引き抜くために蹴り飛ばし、剣を両逆手に握って振り上げる。
倒れた兵士は小さく首をふって命乞いをしたが、通用などするはずがない。
「おやおや、楽しいショーになってきたね」
兵士を滅多刺しにするさまを横目に見ながら、ミーシャは短剣を振り回す敵兵を翻弄していた。
「右腕が消える手品! 左腕が消える手品! お次は君の命を、なーんてねアハハッ!」
パチンと指を鳴らすと兵士の右腕が付け根から消し飛んだ。
悲鳴をあげ、痛みでか我に返る兵士。
片腕でアサルトライフルを乱射するが、ミーシャはだからどうしたといったふうに笑って見せた。
「ここで問題。これは何かな?」
手を翳し、どくどくと脈打つように動く物体を手のひらにのせて見せた。
突然の様子に顔をしかめる兵士。
だがすぐに、それがなんだか分かった。
分かった時には、もう遅いが。
「正解は――君の心臓だよ、兵士くん」
兵士たちが殺されていくのを見た村人が、兵士の落とした剣や銃を拾い始めた。
表情には憎しみや怒りがあふれんばかりに浮かび、実際に涙という形であふれていた。
殺してやる。村人の一人がそう呟いた時。
「おとなしくしてて欲しい」
と、空から声がかかった。
ェクセレリァスが降下し、村人たちへと手を翳す。
「民間人は戦闘に参加しない限り襲わない契約なんだ」
「けど、こいつらに酷い仕打ちをうけたんだ。俺たちも戦う。協力させてくれよ」
「何やら恨みがあるようだけど、そいつを殺す気なら私達は君らも排除せざるを得なくなる」
小さく首を振るェクセレリァス。
「なぜだ。あんたらはノガノンの傭兵じゃあ……」
まさか、と何かに感づいた村人が慌てて銃を手放し、地面に捨てた。
両手を挙げ、数歩後退する。
「わかった、あんたの言うとおりにする」
ェクセレリァスは頷き、家の中に隠れているように言うと、再び戦闘へと戻っていった。
戦いは激化していた。
監視台の上からミスティックガンを打ちまくるゼフィラ。
マガジンを滑り落として素早く予備弾倉に交換すると、監視台から牽制の銃撃を放った。
足下が空薬莢だらけになっていく。
一方の敵兵は建物や木製のバリケードに身を隠しながら、こちらへの射撃を繰り返していた。
「敵もだいぶしつこいな。村人を盾にし始めたらどうする」
監視台の下で兵士の銃撃をかわしながら、至近距離まで迫って短剣とナイフでの斬り合いに持ち込む繰子。
幾度となく刃がぶつかり合い、火花が夜闇に散った。
「一人ほど兵士ごとヤッてまえばええやろ。んで動揺したところを……」
「それでいこう。もしくは敵の頭だけを打ち抜くかだ。失敗しても、その時はその時だな」
「でーあーふたーでー。しーんぐあーろーりのー」
鼻歌を歌いながら突撃する秋奈。繰子とぶつかり合っていた兵士に後ろから斬りかかると、背中から胸にかけて刀を貫かせた。
「これで私も始末屋として、有名になっちゃわないかしら!」
更に首にもう一本の刀をかけ、豪快に切り払う。
血液が噴水のようにあがり、監視台まで降りかかった。
メリンダと共に戦うニエル。
そんな中で、ェクセレリァスからのハイテレパス通信を受け取った。
メリンダたちの方向へ逃げる兵士の集団を発見したとのことだ。
その内容をメリンダに伝えると、メリンダは見開いたままの真っ赤な目をぎょろりと動かして周囲を観察した。
集落は明かりが多いが、森に入られれば厄介だ。
暗くて遮蔽物も多く、すぐに隠れられてしまう。兵士を一人でも逃がせば依頼は失敗だ。
勿論、次に着任する予定にあるラシバ側の傭兵がカタをつけてくれるだろうから大きな目で見て損害は少ないが、兵士抹殺を依頼されたローレットチームとしては条件の未達成にあたるのだ。
「ニエルさん、そっちは任せるわ。私は逃げた兵士を追うから」
メリンダの能力はこうしたときにきわめて有利だった。
暗闇にも目が慣れ、遮蔽物を無視し、そして見つけた対象に恐怖を与えることができる。夜狩り向き、とも言えるだろう。
ましてや襲撃に恐怖して逃げた兵士である。夜闇に浮かぶメリンダの目に恐怖しないはずがなかった。
「さあて、お掃除の時間よ」
樹木をえぐって削るような勢いでモーニングスターを振り回し、メリンダが歪んだ笑みを浮かべて走る。
逃げた兵士たちは自らの位置を完全に補足されたことを自覚し、反転して叫びながらアサルトライフルを乱射してきた。
もはや知ったことでは無い。
銃撃のダメージを無視し、兵士の一人へと鉄球を叩き込む。
抵抗むなしく顔面が崩壊した兵士は狂ったように腕を振り回し、メリンダは『そのまま』もう一人の兵士へと叩き付けた。
樹幹に激突して止まる兵士。
が、それが人間であったことを一見して理解する者はそういないだろう。
めちゃくちゃに破壊された二人の兵士から鉄球を取り外し、メリンダは振り返る。
「あら……? これは、よくないわね」
森の先。ずっと先。
臆病な兵士が一人、森の中へと逃げて走って行くのがちらりと見えた。
だが夜目で追えたのはそれが限界だった。透視して補足し追いかけても、もう追いつく距離ではないだろう。
ぷちぷちと切れ始めた顔の縫合部を手で押さえ、メリンダは小さくため息をついた。
「これは、ラシバの領主に謝らないといけないわね。『後片付けをよろしく』って」
翌朝。
村はラシバの雇った傭兵によって占拠され、比較的まともな拠点構築が成された。
村人たちは昨晩襲撃した者たちがラシバの手のものであったことをうすうす感づいてはいたが口に出すことはなく、そして襲撃を体験した兵士たちも後から着任した傭兵たちによってキッチリと刈り取られた。
そして、紛争は続く。
成否
失敗
MVP
状態異常
あとがき
――Mission failure...
GMコメント
■■■オーダー■■■
集落に夜襲をかけ、駐留しているラシバの私兵を抹殺すること。
このとき村人(及び村人の財産)には可能な限り被害を出さず、かつ村人の手も汚させないこと。
●注意事項
この依頼は『悪属性依頼』です。
成功した場合、『ラサ(傭兵)』における名声がマイナスされます。
又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。
■■■シチュエーションデータ■■■
集落は、森の中を楕円形に切り開いたもので、端から端まで長いところで300メートルほど。
確認されている建物は民家十五棟、馬小屋二棟、木製の監視台一棟、食料庫一棟。家畜小屋一棟(割と広い)です。
夜に襲撃を仕掛けますが、平野側(敵軍側)の監視台には監視がついており、そうでなくても武装したままの兵士が集落のなかをうろついていることがあります。
ですが多くは屋内にいるでしょう。
住民は20~30人。
兵隊は10人前後とみられています。
兵隊は(一応村人の反乱を警戒してはいるので)常に武装しており、仮に丸裸であっても手の届く場所に銃を置いています。
武装は主にアサルトライフルや短剣。物理攻撃よりの装備が多いようです。
ヒーラーも一応いますが、『ヒーラーから優先して倒す』といった状況的余裕はあまり生まれない筈です。
■■■アドリブ度(ノーマル)■■■
ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。
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