シナリオ詳細
迷惑探偵と蔓延る噂
オープニング
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聖教国ネメシス――その本拠は聖都フォン・ルーベルグ。
魔種を不倶戴天の敵と看做し、信心深き民が集う『正義』の都である。
その場所でショットグラスを片手に草臥れた帽子とコートを身に着けた男がその口元に意地の汚い笑みを浮かべている。
「何を笑ってるのです?」
「聖都じゃ可笑しい噂が出てるだろ。曰く、黄泉がえりだ」
その言葉に『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)の表情が硬くなる。
情報屋として様々な場所で活動するユリーカもよく知るこの男――サントノーレ・パンデピスは気障たらしくグラスを揺らしてにいと笑う。
「『黄泉還った存在を倒したら泥になる』?
ああ、それから、『墓を暴いても中身はそのまま、荒らされた形跡もない』?」
サントノーレは「どうかな、ユリーカちゃん」と小さく笑った。
「……そうなのです」
「まあ、そこまではリンツァトルテやらイルちゃんもよく知ってることさ。
あの騎士見習いのお嬢ちゃんだって自分の家でそう云う事件が起きたって泣きついたんだろ?」
サントノーレにユリーカはぎこちなく頷いた。
天義、その騎士団を志す騎士見習いイル・フロッタの『亡き母』が戻ってきたとイルからローレットに相談を持ち掛けられた話は記憶に新しい。ユリーカのその動きにサントノーレは「あ、だからってリンツァトルテに告げ愚痴とかはしないさ。特異運命座標のカワイ子ちゃんたちも怒るだろしね」とにやりと笑う。
「それで――だから、何なのです?」
「まあ、俺もこの国の一員で、仮にも騎士を志したわけさ。放っておけないだろ?」
ユリーカは、その表情は彼を好ましく思う淑女の前でしてほしいと溜息を混ぜた。
手厳しいと笑ったサントノーレがローレットに手伝って欲しいと頼んだのは幾つかの項目だ。
「まず、黄泉還った存在はどう動いている?」
「はい。報告書によれば生前と大きく変わりはないようなのですが……。
無機的に記憶をなぞるような――練達の方々の様に言えば『プログラミングされた存在』のようなのです」
「成程? じゃあ『急な事には対応できない』んだね」
「はいなのです。其々の個体によっては一定の戦闘能力を示す場合もあるようです」
「まあ、生きてた時に『戦えてた存在』だったなら、そうだろね」
「はい。倒せば『泥』になって――その黄泉還りの庇護者の方々には何だか妙な気持ちが湧いたとか」
ユリーカは今までのローレットでの依頼を全て確認したのだとサントノーレに強くいった。
此処に彼女が居るのはサントノーレに呼び出されたからに他ならない。
スルーしてもいいのだが、無視をすると面倒なのもサントノーレその人だ。
彼が迷惑探偵と呼ばれる所以――すぐに危うい所に首を突っ込むところ――を何だかんだでユリーカはよく知っている。
「聖都の端の方に少しばかり集落と呼べるような場所があるんだよね。
ユリーカちゃんは行った事ないかもしれないね? 俺はよォーーーく知ってるんだけどさ」
帽子の鍔を遊びながらサントノーレは笑う。
「まあ、『名もなき村』だよ。そこにさ、亡くなったって風の便りで聞いてた聖職者が最近になって聖堂付近で見られるとかいう噂が出てる」
「それは――」
「調査はまだ進んでないけどね、8割がた『この関連』だ。
騎士団も調査しようと村に行ったけど黄泉還りの者への対応なんて、誰だってこの国の住民ならわかるだろ? 村の方で反発が大きくて騎士団は入れないそうさ」
「……だから、サントノーレさんが行くのです?」
「ま、ワケアリだよ。俺も馴染みのある場所だし、リンツァトルテにも『俺が遊びに行ってくる』って言っておいたんだ。――で、来てくれるよね?」
「……それは、ちょっと即答できないのですが」
「村の様子は簡単にまとめたから目を通して、ユリーカちゃんの判断でいいよ。それじゃ、来てくれるなら明日、ここで」
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ユリーカは云う。
探偵サントノーレが言うにはその村には大層信仰の対象となった司教が居たそうだ。
それは心当たりもあるだろうが、特異運命座標達の才能にもあるような『人心掌握』や『信仰』の的となる存在なのだという。
彼を信奉する者の中には魅惑の淑女と、力をその手にした大男がいるそうで、2つの派閥が彼を『守っている』のだという。
それは村ぐるみでの黄泉還りの隠蔽だ。
その村に単身乗り込むのは危険だがどうしても見捨ててはいられないという。
此の儘では騎士団も大きすぎる『隠蔽』に対して対処を行うであろうし――そうなれば村人も断罪の対象だ。
「あ、これはヒミツって言われたんですが……サントノーレさんの故郷なのだそうです」
だから救いたいなんて言えばカッコ悪いだろうと彼は云っていた。
此の儘被害が出ることを知って見捨てるのも忍びない。
どうか、どなたか村へ同行してくれませんか。
ユリーカはそう言って待ち合わせ場所の酒場の地図を手渡した。
- 迷惑探偵と蔓延る噂完了
- GM名夏あかね
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年05月18日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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たん、たんとリズミカルにステップを踏む。
村の中央で踊る『銀月の舞姫』津久見・弥恵(p3p005208)は旅の踊り子として『名もなき村』へと足を踏み入れた。歓迎ムードのない村人たちであったが、噂も知らぬ彼女の様子と子供達の娯楽の一環にと彼女は村の中央で踊り子として舞を見せて欲しいと村長より頼まれた。
「素晴らしい」
弥恵の抜群のプロポーションを眺めて小さく息を吐いたのは物陰に隠れるサントノーレ。その傍らで「……どうして姿を隠すの? 『先生』」と首を傾げるのが探偵助手の役割を現在になって居る『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)だ。
「えっ? いやあ……美人の尻――じゃないわ、踊りを見るなんて役得だろ」
「そんなことしている場合じゃなくて調査をするんだお」
ぬ、とその傍らから顔を出した ニル=エルサリス(p3p002400)。サントノーレが振り返れば、渋い顔の『『知識』の魔剣』シグ・ローデッド(p3p000483)が立っている。
「……だめ?」
「構わないが、我々は調査を続ける」
サントノーレの付き添いとして村へと随行した『設定』のシグは彼の様子に肩を竦める。
「……村ぐるみ、か……数は力なり、とは言うが……この場合は厄介な障害、ではあるな」
小さくぼやいた言葉に『緋色を駆け抜ける』ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)は本当すね、と呟いた。
「『食べる』ほどでもない。英雄譚の聖人級の黄泉帰りならまだしも。
この程度で瓦解する「殊勝」な国じゃないでしょ。となれば「次」があると考える。狂気の進行・拡大を爆発的に加速させるような次が」
――その爆発の気配は聖都で片りんを見せていた。その『切欠』が子の村かとヴェノムはサントノーレに問いかける。
「ね、探偵先輩。何かあの後、進展有りました?」
「……まあ、村人の噂話が興味深いさ。君も聞いてみれくれよ、きっと『面白い』よ」
に、と笑うサントノーレ。どうやら村の『黄泉還り』とはまた別の聖都を取り巻く闇に近づく一歩がこの村には潜んでいる様だ。
「これまでの黄泉帰り事件とは、毛色が異なるっていうか……違和感を感じる」
誰かを護る。その様相が見られた黄泉還りの規模が大きく――そして『別の形態を感じさせる』それ。マルク・シリング(p3p001309)の言葉に『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)は頷き、死者のリストを上から下へと眺めていた。
「村の死者のリストが手に入ったのは僥倖だわ。偶然だけれど探偵の力かしら?」
「いや、それは違いそうだよ。教会に『村の出身』だと言えば花を手向けに来たのかと貰えたみたいだから」
あっけらかんと言ったマルクの言葉にぱちりと瞬いたレジーナはそれもそうね、と迷惑な探偵の背中を見詰めた。
「はは、評価がキビしいなあ」
「女の子ばかりみてるからでしょうね」
お兄ちゃんならしないと思う、とぴしゃりと良い退けた『青の十六夜』メルナ(p3p002292)。
「村ぐるみでの黄泉還りの隠蔽……不思議ね……。
いえ、黄泉還りしたのが皆に慕われてる人なら、起きたって不思議じゃないけどどれだけの人が庇っていようと。在ってはいけない存在を見過ごす訳にはいかない……よね」
楽し気な広場を眺めながらメルナは小さく呟く。躍る弥恵にヒュウとはしゃぐサントノーレは彼女の踊りに心を躍らせ続けるようだ。
その姿を眺めながらも、異様な空気を流す村を眺めてメルナは周囲を見回す。
誰からも慕われた聖人――それは神様の徒として優秀だったのだろうとヴェノムは云った。
「司教さんがどんな人だったのかはまだ分からないけど……、……お兄ちゃんならきっと、こうした筈だから」
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人の動きは穏やかに。それは『黄泉還りの隠蔽』という噂が無ければ、普通の村である様にしか見えない。ヴェノムは周囲を見回して、ふむとだけ小さく呟いた。
「在り来たりな場所に見えるっすね」
「そうだね……。でも、祈りを捧げようとして教会に向かっても今日のお祈りは無理だと断られたよ」
信頼できる宿を、と拠点を選んだマルクは巡礼の旅の途中として教会への潜入を試みたが村人たちは今日は無理なのだと困った様にマルクを宿へと送り届けた。
その際に顔を出したシスターの視線が妙に刺々しかったことが印象に残っているとマルクは云う。
「教会……その人が元居た場所、すからね。人が匿える場所、何らかの宗教儀式を執り行えそうな場所あたりが怪しいすけど」
地下とかがあれば、とヴェノムが机をとんとんと叩いた。
巡業の踊り子として動く弥恵は楽し気な舞だけではなく、神に捧げる聖歌や静かな和風の舞踏――ラサのものや、深緑のものも考え抜いて演目を決定していた。幾つかの日程に分けて演じると事前に告げた事で彼女の滞在は『不思議なもの』ではなくなっていたことだろう。
「舞踏と舞踏の途中に男衆の方や女性の皆さんとも何らかのコンタクトを取れればと動いてみました」
信仰蒐集を使用する弥恵が太陽であればその影で動くレジーナはファミリアーを使用した情報収集と黄泉還りの規模の把握に奔走していた。
「レジーナさんからは『全容が把握できない』と聞いています」
曖昧に笑う弥恵。表立って目立つ弥恵と久々の帰還であるサントノーレが村人からの好感を得ている間は情報の収集は容易だろう。
医術の心得を持つマルクが男衆や女衆の様子を観察した限り外見からは生気を感じるが妙な気配を感じさせたという。その心拍数の上昇や鬼気迫った表情は『常人』ではない。
「魔種――か?」
透視を使用しての斥候を行っていたシグはテレパス等で司教の話を聞けぬものかと村人に試したと仲間へと告げた。
「生憎だが、不安を増長させるだけであったかもしれない――それもそうか。
彼は云っていたが『村人たちは皆、何かにとりつかれている様子であり、自分だけが取り残されたかのようだ』と」
「……それは、『魔種の呼び声』の気配の様なものでしょうか?」
「さあな。ただ、今までの事から考えれば『護りたい対象』であると『禁忌と知れど、守護しなければならない』という思いが強くなり、村人全体を突き動かしているというのは容易に推測できる」
シグの言葉に弥恵は小さく息を飲む。目立つ彼女が何かの暴動の際には標的となりやすいのは確かな事だ。
(……リーディングで読み取れたものは狂気の片りんだらけだったが、これが『呼声』というものか)
記憶の改竄というものができたとしたならば、それはどれ程強力なのか。
例えば――こうして酒の席での情報収集を無かったことにできれば。美しい少女との会話が『夢』であったかのように思わせられるならそれは十分な情報収集となる。
「そうなのね」
ころころと鈴鳴る声を震わせてレジーナが笑う。おべっかは使うもの、相手から情報を引き出すうえで気分を良くさせるのは最も必要な手段だ。
「それにしても、皆さん、強いのね。何かを護ってるみたい」
「そりゃ、そうだろう。司教様が占い師の姐さんから聞いたらしいからな。こうすると最善だとか」
「占い師……?」
ぴた、とレジーナの手が止まる。その言葉はメルナの耳にも聞こえていた。
女衆が不思議がる『黄泉還り』。それは『単に死んだ筈なのに生きてる事を不思議がっているのか』というのが彼女の中での焦点だ。
直感とは情報の中から重要な要素を導く一つのカギになる。外周を見て回るサントノーレの隣で助手役の焔と死者であるかをその個体の温度を確認しながら確かめていたニルは教会、と不自然な程に戸締りがされた教会を見上げた。
「祈りを捧げるのは断られた、ってことはそこに居る可能性は十分だお」
「ええ、ファミリアーでの探査もしたけれど――難しい問題だわ」
レジーナが見上げる。どうやら教会には男衆が門番として対応し、女衆がその身の回りの世話を行っているようだった。
ふと、焔が顔を上げた。サントノーレ、レジーナ、焔、メルナの様子を伺い、ニルの服の裾をちょんと抓む小さな少女がいる。
「お?」
きょとんとしたニルに少女は「なにしてるの?」と問い掛けた。顔を見合わせたレジーナとメルナ。ニルは穏やかな笑みを浮かべ「村の良い所を探してるんだお」と微笑みかける。
「ふふ、どうしたの? お菓子をあげるよ。あ、それともパカダクラと遊んでみる?」
優し気な焔に少女がこくり、と頷いた。少女から得られたのは一つの情報だ。
――知らないおじちゃん、教会の中にいるよ。
――ママたちが、言ってた。そういう『還ってくる人』は占い師さんが知ってる。
「占い師……」
「また、ね」
焔が神妙に呟いたそれに緩やかにレジーナが頷く。気づけば日は陰り、夜が来ようとしている。少女は家に帰り、言うのだろう――『村のいいとこ探ししてる人たちがいたよ』と。
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炎がぱちり、と爆ぜた。状況は簡単だ。
安全性の高いとサントノーレが指定した宿屋に女衆が『訪問』してきたのだ。
マルクは彼女たちが言う『村を掻き回さないでほしい』という言葉を受け止め乍ら曖昧に笑い、対応を続ける。
ヴェノムの小動物により女衆の接近に気づいた時点でシグは弥恵と意思を疎通させ、直ぐに『夜の演目』へと移った。
表舞台で、踊る弥恵が視線を送る。
村の男衆を阻む様にして踊る弥恵は確かに、狂気の片鱗を感じながら静かに息を吐いた。
「状況は?」
「……あまり良くはないが。リーディングで読み取れる思考も狂気に濡れているな」
苦々しく呟くシグ。息を潜めた一向は教会の前へと立っていた。
「まあ、こうなるしかないっすね」
溜息を交えたヴェノムはサントノーレに無害な村人を一先ず『村の安全地帯』――弥恵が公演する場所へと集めて欲しいと告げていた。携帯させたファミリアーはサントノーレに『鳴き声』で状況を知ら締める。
「あれ、サントノーレ。助手は?」
「ああ、野暮用」
焔の姿が見えないと彼の友人たちが不思議そうに声をかける。村人の大半は『知らぬ』人々か――それとも、女衆たちが巻き込まぬために意図的にそうしたのか。老人や子供の姿が多く見られた。
(いや、違うか。メルナちゃんが直感的に気づいてたな。
『わざと、障害になりそうな人間ばっかりこっちに集めてる』――まあ、頭がキれるやつがカシラか何かか)
口の中で呟いたサントノーレの視線が教会の方へと向けられた。薄ら明かりは、静かに、消えた。
「あんまり趣味じゃないっすけど」
村人を無力化するように先ずはと進んだのはヴェノムとニル。
「一般人を殺すわけにはいかないお。『そういう約束』だったんだお」
「ああ、オーダーを完遂するには必要最低限で留める必要がある」
そうも言ってられんが、と唇の中で呟くシグ。情報を収集しながらも、裏口から潜入した特異運命座標を待ち受けたのは女衆のリーダーであった一人、そして数名の男たちだ。
「例えば、『頭のキれるトップが居た場合はそいつは戦わない事が多い』。
何故なら、戦況をうまく見極められるからだ。違うか?」
女衆のリーダーは唇を緩めて笑う。その蠱惑的な笑みは何処までも深い。
「占い師様が言ってらしたのよ。こうして居れば私の夫も還ってくるって。
素晴らしいでしょう。運命を違う事が無きように――ね?」
くすくすと笑った女衆。狂気を感じ取りヴェノムは「美味しそうになってるっすね」と小さくぼやく。
その言葉、食欲(さつい)はマルクも感じたのか困った様に頬を掻いた。
「お兄ちゃんなら、きっとこういうわ。――『黄泉還りはあってはならないのよ』と」
女衆の周囲の男たちが特異運命座標へと挑む。
その背後に司教の姿を見つけ、無力化せんと焔とニルが走り出した。
教会の入り口では焔が『罠』として仕掛けた炎が燃え、広場では弥恵が人員保護のために躍っている。
「司教様!」
女衆の数名が教会へとなだれ込む。その視線を避けるように司教に真直ぐに飛び込むヴェノムはその胸を確りと貫いた。
司教が泥へと還る。それは今までの事件と同様に――当たり前のように。
月光に隠される奇妙な気配。影に存在する『不吉』にシグは思考を巡らせる。
「……司教様」
泣き声が響く。女衆の、悲痛なる声。ある意味で聖女や聖人の様にその存在が神聖化されていた男。
「言ったよ」
焔は悔し気に唇を噛み締めた。村ぐるみの隠ぺい、素晴らしき『人望』。
「……たとえ聖人でも、神様でも、やっちゃいけないことはあるんだよ」
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「黄泉帰りなんてどれも質が悪いわ」
ぼやいたレジーナの隣で煙草を弄ぶサントノーレは「確かにね」と静かに呟く。
帰路を辿れば――聖都では『未曽有の大騒ぎ』の気配がする。僅かな胸騒ぎ、それは月光に照らされた物語とは違うまた別の側面。
「さっき、村人が言っていたことが気にかかるのだけれど……。ここで見過ごすことはお兄ちゃんはしない筈」
「メルナちゃん、お兄ちゃん以外に俺も頼りにしてみない?」
メルナが小さく瞬けば焔がくすくすと小さく笑う。助手ぅと甘えた声を出すサントノーレをあしらう焔の手にはちゃっかりと彼の名刺が握られていた。
「それで? 『調査』は続けるのかい?」
静かに聞くマルクにサントノーレは頷く。この一件で村人たちは皆噂話をしていた――『黄泉還り』の足取りを追うためにサントノーレの故郷まで足を運んだ一行には藁にも縋る思いで追いかけるべき情報が転がり込んでいる。
――『余所者の見かけない女が余所者の見かけない誰かとつるんで黄泉帰りの連中の足跡の近くにいたのは事実だ』
「余所者の女、ね」
黒いヴェール。占い師であろう女。聖都には神に縋る一方で神託として占いを頼る民もいる。
「占い師って気になるっすね」
「そうですね。その女が黄泉還りを辿れば行きつく『ポイント』でしたら追い掛けるのもまた必要かもしれません」
弥恵にヴェノムは小さく頷いた。シグは事後の報告はこちらに任せてほしいとサントノーレへと告げた。
「そもそも村人たちは黄泉帰りに気づかなかった、と。ローレットの言であれば騎士団も納得するだろう」
「OK。ローレットはそういう時頼りになるさ」
シグは大きく頷き、その言葉にニルも追従する。ふと、ニルが顔を上げる。酒場へと入る仲間達とは離れた場所――路地の裏に何者かが振らりと向かう姿を視界の端に捕らえて。
「どうかした?」
「いや、なんでもないお」
それは僅かな胸騒ぎ。黒いヴェール。占い師の女――もしかすると、彼女は近くに存在しているかもしれない。
ニルに首を傾いだ焔は「そっか?」と瞬く。待ち合わせ場所として使用した酒場には相変わらずの噂話が跋扈している。
「また、調べてみるからさ。……ああ、あと有難うね。これでも、故郷は好きだったんだ」
帽子の鍔に指先添えたサントノーレは酒場の喧騒に姿を消す。
聖都は今、月の影で蠢く何者かを内包し、煌々と差した『舞台公演』を続けていた。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
依頼お疲れさまでした。
当依頼は全体依頼『<クレール・ドゥ・リュヌ>』とは別の側面から調査を行うシナリオでした。
MVPは調査にてベストな行動でした。より効率的に調査を進めることができた一手はまず貴女の存在でしょう。
これにより、一つ進展があるようです。
そして――まだまだ彼とは付き合いが長そうです。
また、ご縁がありましたら。
GMコメント
夏あかねです。
●達成条件
・『名もなき村』の黄泉がえり司教の対処
・村人のできる限りの被害の軽減
●名もなき村
聖都の端に存在する片田舎の村のような雰囲気の地域です。
サントノーレはその地域の名を口にせず、名もなき村と称しました。
非戦闘スキルを使用しているかのような信奉者の多い宗教関係者の司教(その実情は解りません)の姿が村へと荷運びに行く者たちがたびたび目撃しているようです。
そう、『彼は死んだはずなのに』。
村の男衆と女衆のほかにサントノーレのようにすこしばかり変わり者も幾人かいます。彼らは司教の存在を不思議がっているようです。
●司教
名を呼ばれる事無く、そして信奉される事だけで村の中心となる老人。
その身を病で侵され亡くなりましたが、最近になって姿が見られるそうです。
戦闘能力はありませんが、村の男衆、女衆の庇護下にあります。
●村の女衆
人々を魅了するような美しくそして知恵のある女が中心となり纏め上げている村の派閥です。
口裏を合わせ司教はいないと一点張り。知恵で守らんとしているようで、司教の実情の情報は少ないです。
●村の男衆
力がありラド・バウに出場したこともあるという男が中心となって纏め上げている村の派閥です。
司教を護る為ならばその力を振るうという武力での守護を中心としています。
司教へ『対処する』段階では大きな障害となるでしょう。
●サントノーレ
迷惑極まりない探偵です。20代後半くらいの外見。
草臥れた帽子とコート。天義出身で元は騎士を志していましたが色々あってドロップアウトしたようです。様々な事に詳しいです。
騎士とは違った方法で『神への忠誠』を近い、疑いある者を罰し、罪なき者を救うのだと豪語しています。天義の調査に訪れるユリーカは彼と迷惑な依頼人だと認識しています。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
これは『大規模な黄泉がえり』事件です。
よろしくお願いしますね。
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