PandoraPartyProject

シナリオ詳細

祝(のろ)え、彼の再誕を

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 白亜の都フォン・ルーベングが一角。
 そこには聖教国ネメシスでは比較的有り触れた建造物――教会があった。
 薄く張り詰めた曇天の下、今日もまた、教会の鐘が鳴り響き、応じるようにどこからか現れた人々が教会の中に入っていく。
 今まで通りに、礼拝の時間を人々は祈りを捧げる。


 ゴーン……
 ゴーン…………
 ゴーン………………

 礼拝堂の中、酷く重たい鐘の音が頭上に響いていた。
 ステンドグラスの向こうには、今にも雷鳴が轟かんばかりの曇天があるのだろうか。
 奥には聖壇、左右には扉があり、左側の扉から、一人の女が姿を現わす。
「皆様、ごきげんよう、今日も祈祷日和でございますね」
 現れた女――シスターが、どこか無機質に言った。
 まるで下手くそな役者が台本をそのまま述べるような、抑揚を感じぬ声。
「それでは――今日も始めましょうか」
 シスターはそのままゆるりと背を向けて、そっと膝を屈し、天に向けて祈り始めた。
 一通りの黙とうを終えて、シスターが聖句を歌う。
 きっと、音程にあってさえいれば人々の心を揺さぶるだろう、神への感謝と賛美の歌は、しかしてどこまでも酷い抑揚のないソレ。
 それは、もはやそれだけで神を貶めるような冒涜さえ感じられる。
 集まった人々の多くは黙々とそれを聞いている。

 ああ、なぜだ。何故、だれも言わぬのだ。
 こんなことありえない。あっちゃいけない。
 それはきっと――彼女だってそう思うであろうはずなのに。
 どうして皆、コレを受け入れるのだ。

 そんな魂から絞り出そうとするかのような声を黙殺して、男は目をぎゅっと閉じて祈りを捧げる。この場に集まった百人のおおよそ誰とも交わらぬだろう祈りを――。
 明確に悪夢を自覚していながらも、どうしてかこの悪夢から逃げられない。
 男は今日もまた、一人で心の悲鳴を押し殺す。


「少し、昔話をしよう。といってもまぁ、精々が2、30年前のことだが」
 黄泉帰りに関して依頼を頼みたいと言ってきた依頼人の元を訪れた君達に対して、開口一番に依頼人が告げる。

 その昔のことだ。
 町の外れに、一人のシスターがいた。
 ………………………………
 …………………………
 ……………………
 ………………

「シスター、こいつの怪我を見てくれ!」
「まあ、その傷はどうなさったのです!」
 ぱっくりと開いた傷と、凝固して黒くなった血の跡を残す衣服を着た男性に銀色の髪の女性が駆け寄り、治療を施していく。
「とりあえず、薬草を出しますが、詳しいことはお医者様に掛かってくださいね?」
 痛み止めの薬草を手渡して、女性はそう男性に問いかけて、そっと帰していく。
「シスター、このじじの話を聞いてくだされ」
 老人に語りかけられれば、顔色一つ変えずに応対して、その言葉を聞き。
 不妊に悩む夫婦やら、恋人の愚痴やらを解消していく。
 どこにでもある、穏やかな日々。
 けれど、この程度では彼女はただのシスターで終わったのだろう。
 あの日あの時、あんなことが起きなければ、まず確実に、彼女は穏やかに過ごしていったはずだ。

 その日は、雨が降っていた。
 バケツをひっくり返したような――雨というよりも滝と言ってしまった方がしっくりきそうな水が天から降り注ぎ、礼拝堂は避難所となった。
「ええ、ええ、大丈夫ですよ。ご心配なく、きっと神は見ておいでです」
 心配そうに震える子供へ、シスターが笑いかける。
 その時、不意に礼拝堂の扉が激しく開かれた。
 振り返りながら、そう言葉を紡いだシスターは、言葉尻をすぼませていく。
「どなた、ですか?」
「――ちぃ。使われてんじゃねえか」
 十数人の男たちがそこには立っていた。周囲を見渡してリーダー格らしい男が舌打ちと共に告げる。
「ゴミが多すぎる……よし、根絶やしにするか!」
 ぎらついた目をした男は、剣を抜き放つと、後ろにいる部下たちへ指示を与えると共に礼拝堂へ入ってくる。
「皆さん、奥へお逃げください! 落ち着いて! 速く!」
 脇にある扉を開けて、シスターが叫べば、人々が悲鳴を上げながらそちらへ走っていく。
 シスターは逆に男たちの方へと走り出すと、リーダー格の前へと躍り出た。
「なんだぁ?」
「これ以上はいってはなりません! 神も見ておいでですよ!」
 毅然と男を見上げたシスターに、男が胡乱な目を向け、笑む。
「へへ、いい女じゃねえか……」
 シスターの胸をわしづかみしても、シスターの視線は変わらない。
「まぁ、嬢ちゃんが俺たちを楽しませてくれるってなら、考えてやらんでもない」
「私は神にお仕えする身。そのようなことは致しません!」
「へへ、そうかい」
 にやりと笑みを変えた男が、シスターを抱え上げ、のしのしと人々の後を追っていき――彼女の目の前で追いついた者を一人、一人と斬り伏せていった。

……………………
………………
…………
……

「聖騎士団が動き、教会に乗り込んだ時、シスターはまだ一応生きていたそうだ。聖騎士団の追手を逃れようと教会に入り込んだ盗賊どもは全員、不正義により処刑され――シスターはその後すぐに体調を崩して亡くなり、殉教として聖女に認定された」
 一通りそう昔話とやらを終えた依頼人はそこで一度、目を閉じた。
「その教会はその後、二度、神父とシスターが代わって使われたが、悲劇の地ということもあって足が途絶え、廃教会となった――はずなのに、今、礼拝堂の鐘が鳴っている。そこで調査員を一人、礼拝堂に送り込んだら……シスターがいたそうだ」
 ――黄泉帰り。フォン・ルーベングにてその噂はいくつか聞いている。
「礼拝堂にいる人間の多くは、シスターと一緒に礼拝をしていたそうだ。だが、一人だけ、不思議とおびえた様子の男がいてな。調査員は彼に話を聞いたそうだ」
 依頼人はそこまで言うと、大きく深呼吸した。
「――――いいか。シスターはそういう奴だ。そして――礼拝堂にいる人間たちは、一人を除いて全部、ゴーストの類というわけらしい。男は、礼拝堂に長く通っている……唯一の生存者だった」
 死者の復活はあり得ない。しかも、それが仮にも聖女に列されている人とくれば、強権的な軍事行動を起こせば、厄介なことになりかねない。
「そこで、君達イレギュラーズに代わってこの教会に現れたシスターだった何かを――それから、ゴーストたちを倒してきてほしい」
 そこまで言った依頼人が、何かを祈るように目を閉じる。
「あのゴースト共はきっと、あの時の被害者達だ。頼む。苦しまぬように」

GMコメント

シナリオ詳細


こんばんは、春野紅葉です。さて、そんなわけでガイコツな感じです。

●達成条件
・シスターおよびゴーストの討伐
・健常者の生存

●敵
・シスター
 黄泉帰りしたシスター。戦闘能力はありません。
 基本的にお祈りをしていますが、皆様の姿が彼女に視認された場合、
 ゴーストを教会の奥に逃がして皆様の前に躍り出てきます。
 生前の最後をリピートするように。

・ゴースト×40
 一匹一匹はそれほど強くありませんが、数が数なので相応に危険です。
 また、一見すると普通の人間と変わりません。
 黄泉帰り対象が消滅した場合、戦闘能力が向上します。
以下、使用スキル

断末魔の叫び:物自範 威力小 【呪縛】【石化】【混乱】
縋り寄る爪:物至単 威力小 【苦鳴】【懊悩】【痺れ】
呪われた双腕:物至単 威力小 【猛毒】【業炎】【氷結】


●庇護対象
 祈りを捧げている健常者の男性です。
 味方ですが、彼がどこにいるのかは入った直後の皆様には分かっていません。
 彼がどこの席にいるのか判別し、庇護する必要性があります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 祝(のろ)え、彼の再誕を完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年05月03日 11時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
モモカ・モカ(p3p000727)
ブーストナックル
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)
海淵の呼び声
華懿戸 竜祢(p3p006197)
応竜

リプレイ


 水飛沫が身体に叩きつけられる。
 風は一種の壁のように吹き付ける。
 雷雲は立ち込め、稲妻は光り、ゴロゴロと音を鳴らす。
 酷く重い天候は、この地で眠っていたであろう者達を叩き起こすだろう。
(日常ではなく事件の再演とは、仕掛け人の趣味の悪さが見える)
 『静謐なる射手』ラダ・ジグリ(p3p000271)は教会の間取り図を入手していた。
 手入れがされなくなって長い廃教会は、完全にそのままとは言えないかもしれないが、それでもないよりは遥かにマシだ。
 何よりも、これのおかげでこの教会が意外と大きいことが分かった。
「裏口は三つか」
 一つは、庭へと直接出るためのものであろうか。もう一つは真っすぐに大通りに出る――まるで最初から避難をするために用意されたかのようなお誂え向きの出口、最後は神父やシスターが仕事をする区画へ真っすぐに入るための物のようだ。
(痛ましい。できれば過去の事件が起こる前に食い止めたかった)
 『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)は依頼人から受けた事件の顛末を反芻して思う。
(しかし神の理に反して蘇っても不幸を呼ぶだけだろう。決着をつけよう)
 鞘に納まる剣に静かに振れる。騎士の目には真摯な輝きが灯る。
「何故シスターは黄泉還り、犠牲者もゴーストとして戻って来たのか分からないが、今は彼らを安らかな眠りに戻してやろう」
 間取り図と合っているかどうか、精霊たちに裏口の調査を頼んでいた『優心の恩寵』ポテト チップ(p3p000294)は場所の把握を終えるとそう呟く。
「ポテトも辛い仕事だが…最後まで共に頑張ろうな」
「あぁ、最後まで一緒に頑張ろう。今回も、これからも」
 最愛なる恋人からの言葉に頷いて、二人はラダが手に入れた間取り図をチェックしていく。
「死者の所に現れる『黄泉帰り』も、いるんだね……」
 マルク・シリング(p3p001309)はぽつりと漏らす。
 そのまま視線をあげて、教会の周りに漂う霊魂への意思疎通を試みた。
(多くの事件で悲しい結末を迎えている『黄泉帰り』だけど、帰ってきた場所はゴーストの下だなんて、二重に悲しいね……)
 幾つかは感じ取れた。しかし、2、30年前の霊魂を探すのは困難を極めた。
 それでも、少しずつ、霊魂の声を集めていく。
 その中でも、ふんわりと、僅かに残滓が一つ。他ならぬ彼女のソレ――に思える微弱な何かが、感じられた。

(それが叶えば良いと、全てが夢だったように元に戻れば良いと願っていた時はあったけど)
 裏口を封鎖しにラダ達が密かに動き出した頃、『カースドデストラクション』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)は断罪された家族との思い出を少しだけ思い出していた。
(……それらしい事が起こったのを実際に見ると、如何に歪な願いだったか突きつけられた気分ね)
 少しだけ着いた溜息は、吹きつける風に溶けて消えていく。
(くくっ、聖女が危険を顧みず身を呈すも、聖女以外が虐殺という始末か)
 同じく、入り口前にて待機する『応竜』華懿戸 竜祢(p3p006197)は堅く閉ざされた教会の奥から、鐘の音が聞こえてくるのをさて置き、思う。
(なに、特別胸が痛むほどの物ではない、のだが……あの瞬間の聖女には、きっとこの眼を焼き尽くす程の眩い輝きがあったはずだ。それをこの眼で視れなかったのは実に惜しい!)
(つらい事件があったんだな……またあの時のことhaを繰り返させるみたいで悲しいけど、やるしかないんだ)
 『のうきんむすめ』モモカ・モカ(p3p000727)はこれから自分達のやることを思って、ぎゅっとこぶしを握った。
 『海淵の呼び声』カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)は黙したままで教会を眺めていた。
 天候のおかげもあって多少の音は掻き消されるとはいえ、気取られてやる理由はない。
 静かに彼女はその時を待つのだ。

 8人そろったイレギュラーズは、いよいよ教会の中へと入るべく、扉を押し開く。古い割には、少し重いだけで異様に立て付けのいい扉を開けて、踏み込んだ。
(果たしてこの眼に聖女と亡霊共の輝きは映るだろうか)
 竜祢の双眸は『命の輝き』を視る。
 いつもと何ら変わらぬ瞳が、教会内にいる全てを射貫く。
 一つ、輝きが見えた。酷く薄く、小さな。今にも消えてなくなってしまいそうな微かな光。
 年の頃は大体、30代も後半といったところか。
「あそこにいる男性ではないか?」
 竜祢は事も無げにそう言って一人の男を指し示す。
「分かったわ」
 アンナはその言葉を聞くや、跳ぶように駆けた。
 あくまで自然な仕草を装って、そっと男性の横に座って。
「この状況でよく耐えられたわね。……この悪夢は明日になれば終わっている。だから、今日は早く帰って休んで」
 突如、隣に現れた見た目10歳ほどの少女に対して、歯車の錆びついた機械のようなぎこちない動きで男性が顔を向けた。憔悴しきった様子の男に、アンナは気持ちをぐっとこらえた。
「どなた、ですか?」
 その時だった。シスターが振り返り、イレギュラーズを視認する。
「初めまして。リゲル=アークライトと申します」
 騎士は静かに膝を突いて頭を下げる。
「人は見たいものしか見ない習性がある。だが、現実を見てください。違和感を感じませんか?」
「皆さん、奥へお逃げください! 落ち着いて! 速く!」
 違和感がある。人々のに気丈に前に出る――というのとは違う。そもそも、どことなく噛み合ってない。
「……貴方達は過去の亡霊なのです。苦しめたいわけではない……寧ろ皆の魂を、解放したいのです」
「私は神にお仕えする身。そのようなことは致しません!」
 リゲルの言葉は、通じているように見えて、全く通じていない。
 記録されたデータをリピートするような、歪な言動だった。
「……止むを得ないか」
 リゲルが小声でつぶやくと同時、リゲルとポテトは素早く動いた。
「どのような事があろうと、私は貴方達に立ちふさがります!」
 キッ――と、気丈にも、こちらに立ちふさがるシスターを、ポテトが押し倒して取り押さえる形を作ると、リゲルが包帯で両手足と猿轡代わりにぐるぐると巻き付けていく。
 こちらを睨む彼女の眼は、一切揺るがない。しかしそれは、人の持つ覚悟のようなソレとは別種の、無感情なナニカだった。
 その横を、イレギュラーズが走り抜けていく。


 それまで、じっと黙祷を続けていた人々――の姿をしたゴーストたちがどよめき、慌てふためいた様子で奥の扉へ向けて一目散に走っていく。
「荒っぽいやり方でごめんな、アタイにはこうすることしかできないんだ」
 走り込み、ゴーストたちの真っ只中へと飛び込んだモモカは改良型魔鉄甲『黒鉄』に力を籠める。
 ごつごつとした機械の脚を軸に、身体を回していく。教会の古びた床の一部を巻き上げながら、少女の周囲に、作り上げられた極小の暴風域が、ゴーストの数体を巻きこみ、打ち上げていく。
「すぐ楽にしてやるからな……」
 回転が穏やかになり、ザッと音を立てて床を踏む。きしりと、足場が鳴る。
「めめんともり めめんともり
 あいしらぬものよ あいしるものよ
 けものよ ひとよ そうでないものよ
 すべては ほろびゆくものよ
 ほろびるからこそ 美しい♪」
 その歌は、外で鳴り響く雷霆を意に介すことなく。
 教会内に染みるように響き渡る。
 ソレは、遥かな深淵に眠り待つ神を言祝ぐ歌。決して理解してはならない、祝いの歌。
 それにこの世ならざる者達は、たまらず歌い手へとにじり寄る。
「なげくものよ わらうものよ
 わすれるなかれ すべてをのろうものよ
 どうしてきみをわすれよう♪」
 天性の美しい歌声でゆるりと歌いながら、カタラァナはゴーストたちに歌を紡ぐ。
 にじり寄ってきていたゴーストの数人が、近くにいたゴーストへと爪を突き立てる。
 懊悩とした声――っぽい何かをそのゴーストが上げている。
 マルクは自らへ勝利のルーンを唱えて神々の加護を宿すと、カタラァナとモモカの方へと近づいていく。
「死神が神に何を祈ると言うのかしら。まさか偽の生が続くことを願って? とんだ聖女様もいたものね!」
 アンナは声を張り上げゴーストたちの注意を引かんと試みた。
 反応した複数体がアンナに向かって突っ込んでくる一方で、反応しなかった複数体がそのまま扉の奥へと消えていった。

(再演になろうと躊躇は不要――)
 ラダは既にSchadenfreudeを構えていた。身の丈サイズの大口径ライフルの引き金を引けば、放たれたるは尋常じゃない貫通力を以って二体のゴーストを巻き込んでその場で縫い止める。
 射線の外にいた複数体が、そのまま滑るように扉の奥へと消えていく。
 銀の剣を抜いたリゲルは、静かに剣を掲げると、曇天の廃教会を炎が照らしつける。
 轟轟たる炎の嵐が、この世ならざる者達へと、煉獄のごとく燃え盛る。
 残響する不愉快な叫び声と共に燃え移った業炎を連れて、亡霊たちがにじりより始めた。
 そんなリゲルが打ち込んだ亡霊の群れとは別の群れへ、竜祢が乗り込んでいく。
 命を顧みぬその行動を制止する味方に対して、竜祢は笑って。
「無茶なのは百も承知。だがな、皆の輝きを前に、私自身、この昂ぶりを抑えきれんのだ! あぁ、止めてくれるなよ、この刃をお前達には向けたくはない」
 高らかに言えば、純白の巨大剣を頭上に掲げて振り回す。
 遠心力も伴い、やがて激しくなった暴風域が、複数の亡霊を吸い取り、天へと打ち上げていく。

 礼拝堂の中、イレギュラーズとゴーストたちの戦いは数が数な事もあり、少しばかり長引いていた。
 おおよそ20体ほどであろうか。戦いが始まってからすでに少し経っている。
 凡そ10体ほどを扉の向こうに取り逃がしてしまったものの、既に10体は消滅させている。
「墓に帰れ、もう祈られる側だ」
 味方の立ち位置を見て、ラダは冷たく敵陣を視野に落とし込んだ。
 天井に向けて銃口を構え――その直後、無数の弾丸は可視化できる驟雨と化して、敵陣へと降り注ぐ。
 弱りはてた敵陣へと、竜祢が飛び込んでいく。
「無理だけはしないでくれって」
 そう言いつつ、ラダと竜祢が範囲内に入るよう調整して号令を発した。

 戦場のそこかしこで、耳をつんざくような、不愉快な声が響き渡る。
 マルクはその声を聞くたびにそれに対抗するように号令を発している。
 アンナはゴーストの一体に向けて淡く輝く水晶剣を閃かせる。流れるように、舞うように、優雅な足捌きでゴーストを翻弄し、そのまま流れるように胴部目掛けて突きを放つ。
 ゴーストはそのままアンナに対して縋り寄るように近づき、少女の身体を尋常じゃない強力で掴んでいく。
「きゃあ!」
 傷口から、亡霊の記憶のようなものがなだれ込み、少女は懊悩として後退する。
 そこに飛び込んだモモカの拳が、アンナに爪を突き立てたゴーストを消滅させた。
「落ち着いて、大丈夫だよ」
 マルクが近寄り、直ぐにアンナを落ち着かせた頃、カタラァナの呼び声が、再びゴーストを魅了する。
「終わらないダ・カーポ。
 フィーネを付けてあげようね」
 歌姫の声が、廃協会に反響する。


 更に少しの時間が経った。
 礼拝堂に残っていたゴーストを全て屠ったイレギュラーズが廊下を抜けると、その先にあった謎の大広間にて、ゴーストたちはなぜかそこら中に飛ぶだけで逃げる様子を見せなかった。
 それらのゴーストを討伐し終えたイレギュラーズは、シスターの下へと集まっていた。
(黄泉返りも輝きの無い聖女にもさして興味はなく、話すこともないが、万が一、その胸に一縷の光があれば……)
 なんて、淡い期待を胸に秘める竜祢は、再びシスターを見て、退屈そうに目を細めた。
 どうにも、その結果は芳しくはない。見る価値をなくしたと、踵を返して、男性の方を向く。
 そんな彼も、やはり、輝きはあまりにも薄く。
 青年は一人、深くため息を吐いた。
「悲しい結末だったけれど、貴女に救われていた人達なのはたしかだ。貴女が安らかに眠れないなら、きっと彼らが悲しむことになる。だから……」
「ぁあ、あぁぁ」
 嘆いている――ような。
 けれどその嘆きは、現世のこれではない。
「――」
 その様子に対話が通じないことを再確認したマルクは、リーディングを試みる。
 黄泉返りの思考に触れる。
 しかし、何も起きなかった。
 ラダはマルクの様子を見ながら、ちらりと庇護したの方を見る。
 彼は目をぎゅっと閉じて、耳を塞いでいた。どうやら見たくないようだ。
(それも自由だが、残ったのは1人。であればこの再演、彼へ向けたものではないかな)
 なにせ、続くも地獄、終わるも地獄。
 悪意の質としてはあまりある。
「もうお前が守るべき人達はここにはいない。先に行ってお前のことを待っている。だからお休み」
「ええ……神の身許へ、お届けいたします」
 ポテトの言葉に応じるように言ったリゲルは、静かに剣をシスターへと突き立てた。
 ――どろりと、黒い泥に変わって、シスターだったものは廃協会に染みを作って、やがて消えた。

(優しい優しいシスターさん……もしかしたらあの生存者も、『戻ってくること』を願ってしまったのかもしれないな……)
 泥のようになって消えたシスターが、それまでいた場所を見つめていたモモカは、グッと拳を力強く握る。
「うぅ……ア、アタイは泣いてないぞ……泣くもんか……ぐすっ」
 ここまでの戦いで、堪えていたものがあふれ出すように、モモカは嗚咽の声を漏らす。
「お前は何者で、何故礼拝堂で祈り続けていたんだ?」
 ポテトは未だにびくつく男性に問いかける。
「そうそう。
 僕は他の誰よりも、ひょっとしたらシスターさんよりも、貴方が気になってるんだよね。
 ねえ、どうしてずっと通い続けるの?
 誰もいないのに。
 何もないのに。
 慰霊のため? うぅん。そうだとしたら、そんなに怯える?」
 海の底から追い詰めるような、静かで恐怖さえ駆り立てる、それでいてどこか温かく歌うような声で、カタラァナは男へと問い詰める。
 男性はおびえた様子をそのままに、びくつくよう。
「何を隠しているの? 教えて? ねえ。ねえってば」
「あ、う、あぁ」
 ガタガタと震える男を覗き込むようにして問うた少女は、すこまで言って少しだけ離れる。
「ひょっとして、それは、贖罪なのかな?」
「ひぃ、ひ、あっ……ちが、いえ、違わない、あ、わた、私は――!」
 歌姫の底知れぬ存在感に怯えた男は、遂に語りだした。
「私は、私はあの人に助けてもらったんです。あの日、たくさんの人が死んで――! 幼かった私は、たまたま壺の中に隠れて助かったんです。けど、あの光景が忘れられなくて――それで、つい、もう一度、会いたいって。あの日みたいに――いいえ、あの日までの日常みたいに――なったらって」
 吐き出し始めた男は止まらない。
 それは、今の今まで抑え込んできた本音。
 誰しも、大切な人が生き返ってほしい、願わくばあの頃の日常をもう一度と、そう思うことはありうるのだ。
 けれど、そんなことはあってはならないことで。正義とは程遠いもので。信仰を裏切る行為だとわかっている。
「でも、どうしても、逃げられなかったんです。だって、あの人が、もう一度、私の目の前にいた。この喜びは正しいのだと、肯定された気がしたんです!」
 それは最早、悲鳴と言うに等しく、慟哭に近かった。
 雷鳴さえかき消すような、悲痛で、重苦しい声は、一日の終わりを告げるようだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でしたイレギュラーズ。

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