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シナリオ詳細

見習い騎士と愛しの面影
見習い騎士と愛しの面影

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「……やあ、特異運命座標(せんぱい)諸君」
 朱の瞳に僅かに乗せられたのは不安であっただろうか。て金の巻き毛を揺らした少女――騎士見習いのイル・フロッタは周囲をきょろりと見回して声を潜める。
「その、リンツァトルテ先輩の居ない処で話したいんだ。
 ……今、時間はあるだろうか。ああ、いや、その、呼び出して済まないとは思ってる」
 イルの傍らでは曖昧な笑みを浮かべる『パサジールルメスの少女』リヴィエール・ルメス (p3n000038)が立っていた。
「センパイ達にどうしても会いたいとイルさんが言うっすから。
 場所を変えましょうか。とりあえず、目立たなそうな酒場でいいっすか?」
 特異運命座標と、そして、イルを振り返ったリヴィエール。小さく頷いたイルの金の巻き毛がふわりと揺れた。
「その、話しというのは――」

 ――なあ、聞いたか? 『黄泉還り』の噂。××の牧師の子供が帰ってきたんだろ?
 冗談言うなよ、死んだ奴が戻ってくるわけ。第一、そんなの『禁忌』だろ――

 酒場の扉を開けたときに耳に飛び込んだ噂話。ぎょっとしたように目を剥いたイルが不安げにリヴィエールを振り返った。
「センパイ達は天義のウワサ、聞いたっすか?
 死者蘇生。死んだはずの人が還ってくる。『死んだ人間は二度とは生き返らない』――これは『当たり前のルール』っす。もしも、旅人の中に死者を蘇らせる能力を元の世界で持っていたとしてもこの世界では使えないっすからね」
 そうして世界がバランスを取っているのだとリヴィエールは告げた。
 酒場の端の席に腰かけて、グラスに注がれた水を眺めるイルは「そう、だよな」と小さく唇を震わせる。
「その、ローレットのリヴィエールは黄泉がえりはあり得ないともいう。
 この国では死者の蘇生は禁忌だ。その、国家のカラーは、分かっていると思う、から」
 たどたどしく言葉を重ねるイル。天義という国は宗教色が強く、そう言った事柄がタブーであるのは深く考えなくとも分かるというものだ。
 その一件にイルが関わるとなれば彼女の考え得る中で『リンツァトルテ先輩』は怒り、騎士としてその様な噂に翻弄されるとはと叱咤される事だろう。そう思ってか、リンツァトルテの居ない処でと告げたイルは俄然不安げだ。
「私は、死者蘇生を見たんだ」
 唇を震わせる。天義の騎士として大成することが母のためであると信じて已まぬ一人の乙女。
 聞けば、イル・フロッタは天義の貴族の出身であるそうだ。片や旅人としての血が通っていることから母は天義の聖職者との婚姻を蹴り旅人の父と結婚した。
 神の寵愛を受けし聖職者とではなく、余所者と婚姻を結んだ。それは国家柄非常に不名誉な出自を持った少女という事になってしまう。幼いころから父と共に非難され続けた少女にとっては『天義の騎士』となる事こそが母の名誉の回復であり、父の姓を名乗る自身を母の生家の娘であることを印象付けられると考えていた。
 そんな、彼女は、言う。
「……いや、死者が家にいると言った方が、いいのかな」
 イルは唇を震わせる。信じられないだろうかと特異運命座標を見回して。
 もし、死者が居るのであれば表沙汰にしてはならない。けれど、『家にいる』時点で深い間柄の相手であることはすぐにでも察せられた。
「もしも、騎士団にそのことを言えば『君達に依頼が入った』だろう」
「天義としても表立ってその噂を解決するわけにはいかないっすからね。一つの調査を強行すると他の『煩わしい一件』にも首を突っ込まなくてはならなくなる」
 宗教が絡むというのは、こうも面倒なものか。
「その、死者をどうするのが正しいのか――私には、分からない」
 未熟で、すまないと小さく言葉を震わせる。
 一先ずは家に来て欲しいとイルは特異運命座標を見回した。
「あ、聞いても良いっすか。帰ってきたのが誰かのかを」
 リヴィエールの言葉にイルは不安げに特異運命座標を見回し、そして、ゆっくりと唇を開いた。

「――おかあさま」

GMコメント

 夏あかねです。
 女の子の個人的な感傷。

●依頼達成条件
 ・イルの母への適切な対処
 ・イルの母の一件が周囲に露見しない事

●とある屋敷
 こじんまりとした小奇麗な屋敷。イルとその父が住まう場所です。
 数人の使用人は数日間の暇を与えられており、父が盲目的な愛を捧げていた『母』の帰還を喜んでいるのが現状です。その為の用心棒を傭兵で雇うなどの行動が見られるようです。
 屋敷自体の出入りはイルがいるので問題もなく、その構造も彼女が教えてくれます。但し、母への対応次第では特異運命座標に対して思う所ができそうです。(良好な関係である為には要・説得)

●イル・フロッタ
 天義貴族の母と旅人の父を持つ騎士見習い。
 良くも悪くも『普通の少女』です。それゆえに『正義の遂行』に忌避感を覚えています。それは自身が未熟故に『正義の遂行』が出来て居ないと考えています。
 当依頼では戦闘には役に立ちません。ある意味で彼女も障害のひとつです。

●イルの母
 天義のある貴族の出。父とは熱烈な恋をしたようです。彼女自身が数日前に帰還してから、死した筈でありながら愛した相手が戻ってきたと父が盲目的に愛を注いでいます。

●イルの父&用心棒
 イルの父(旅人・戦闘はそれなりにできるようです)とその雇われ用心棒(4名)です。
 言葉での説得が一番ですが、愛する相手の帰還のため、中々に骨が折れそうです。
 また、彼自身は宗教国家に住まいながらもそのカラーは薄いようです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 見習い騎士と愛しの面影完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年04月30日 21時40分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

グレイシア=オルトバーン(p3p000111)
叡智のエヴァーグレイ
ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)
大悪食
シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)
疾風蒼嵐
レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
死を呼ぶドクター
リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)
終焉語り
アマリリス(p3p004731)
倖せ者の花束
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
ヴィマラ(p3p005079)
ラスト・スカベンジャー

リプレイ


 その日は、良く晴れていたと思う。思う、と言うのは天気など気に留める暇が無かったからだ。喧騒の酒場の中、椅子にちょこりと腰掛けていたイル・フロッタは八人の特異運命座標の顔を見遣る。見知った者、噂に聞く者、それぞれを見回す桃色の瞳は今や何所か昏い色を湛えている。
「……ええと」
 先ずは『母の様子を見に行こう』と提案したイルがどうして特異運命座標と向き合っているのか。それは、彼女が持ち込んだ依頼――『死んだはずの母』という天義を騒がせる黄泉還り事件の解決の為に過ぎない。
「イル先輩?」
 ちら、と視線を向けた『緋色を駆け抜ける』ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)。その視線を受けてイルはこれから特異運命座標がどのような選択を行うのかを僅かに察していた。いや、最初から知っているのは確かだったのかもしれない――だから、リンツァトルテに知られぬように動いたのだから。
「イル、でいいか。還ってきた者は紛れもなく母であると、そう思うか?」
 それは、意地の悪い質問であったかもしれない。『叡智のエヴァーグレイ』グレイシア=オルトバーン(p3p000111)はそうでないことをイルが理解しなければ話が進まないと判断していた。
『死んだ者は蘇らない』というのは世界の常識だ。しかし、グレイシアは妙な所で納得していた。黄泉還りとは単純なホラーではない。
『生きていて欲しかった者』がそう思っていた者の所へと還ってきた。ならば、秘匿する者もいれば、こうして惑う者もいる。もしも、黒幕が存在していたならば人の感情をよくよく理解しているだろう。
「――そう、で、あって欲しい」
「そうだね。……イルちゃん、あんたのママってどんな人だった?
 あんたのママは『世界中を敵に回してでも、ワタシを守って』なーんて、言うタイプの人?」
 懐の片割れの手記を確かめるように撫でて『ラスト・スカベンジャー』ヴィマラ(p3p005079)は何処か曖昧な笑みを浮かべる。何時もの人好きする笑みに少しばかり乗せられた哀愁にイルはぐ、と息を飲んだ。
「イル様……」
 喉元まで出かかった言葉。『天義の守護騎士』アマリリス(p3p004731)は残酷な言葉が唇から滑り出るのをすんでの所で留めた。
 ――わかっているとは思いますが、もう、それは貴方のお母様では……。
 もしも、そう口にしたのだとしたら彼女はきっと困った様に頷くのだろう。それは残酷な刃となって、彼女の胸を深々と突き刺すのだとアマリリスは知っている。
 もしも、マリア――母が仮初の体であれど『生前の行動』をしていたならば喜んでしまう。理性的に殺すなど、躊躇ってしまう。
「ッ――もう一度、貴方のお母さまに触れられたのはきっと嬉しい事でしょうけど……死者は死者としてあるべき姿に返しましょう」
「ええ。それが良いでしょう。
 お気持ちはよくわかります。もし母にしか見えずそのように振る舞う人が現れたとしたら、当事者であったら私も――父も同じように冷静ではいられなかったと思います」
『終焉語り』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は故人を、その思いを、利用するやり口が気に入らないと毒吐いた。
 誰もがこの事件に嫌悪する。そう感じるのは死者により近い距離にいた者ほど苦を感じるのだと『疾風蒼嵐』シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)は冷静に理解していた。心に寄り添えば寄り添う程に、度し難いほどの感情がどっしりと圧し掛かってくる。誰も傷つかず、誰も不幸にならないなんて、『もう不幸の連鎖が始まってる』のに!
「黄泉帰り、イルにとって辛い結末になるかもしれん。
 ……人の心を弄びやがって。酷だろ、こんなの」
 吐き捨てた『死を呼ぶドクター』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)にイルは首を振る。いいんだ、と、わかっている。繰り返されたそれは『天義の騎士になりたいと願う少女』の背伸びであるのかもしれない。
「実情は話し乍ら自宅へ向かいましょう。嗚呼、その前にイル。言いたいことは?」
 これも一つの仕事。『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)は只、冷静に彼女へ言った。
「――どうして、お母様なんだ」
 そんなの、誰が答えられるか。


 今までのローレットでの調査の結果。墓や魂を調べたその事実を告げたグレイシア。
「魂すら別物となれば、それは記憶だけをコピーした別人……この場合は泥人形か……でしかないわけだが」
 そうであれば、母を騙る異形を怨み、正義の遂行に忌避感を感じることも少ないだろうとグレイシアは考えていたが沈痛の面差しの少女にはそれを割り切るにはまだ幼過ぎたのだろうかとも想像がついた。
「今回も何か救いがあるなら。あんま余計な事言うつもり無かったんすけど。
 何かを与えて。奪うようなやり方が嫌いだ。死んだ人間が何処に行くか。それは生きている人間が決める。先輩が母親と先輩が今まで築いて来た物を大切だと思うなら。僕等に協力してほしいス」
「協力、したいと、は、思うんだ」
 ヴェノムの袖をきゅ、と握ったイルにお墓参り先に行こうかとシャルレィスが促した。
 荒らされた形式もない綺麗な墓。イルの心を護りたいと願う母が眠っているであろうその場所を見下ろして、シャルレィスは花を供えてイルを見上げる。
「どこか変だって言う事は、近しいイルさん達の方がずっと感じているはず……ただきっと、目を逸らして信じていたいんだ。
 大切なものを想う事が、未熟だなんて私は思わない。でも、今だけはまっすぐ見つめて欲しい」
「ああ……」
「彼女は不自然な存在だよ。
 そんな彼女に囚われて身を滅ぼそうとしている二人の姿を見たら……”本物”のお母さんはどう思うかな? 想い出の中のお母さんに、胸を張っていられる?」

 ――イルは、自分に正直な女の子になって欲しいの。

 柔らかに笑った母の顔を思い浮かべて、イルがぎゅ、と唇を噛み締める。
「お父様を、どうにかして欲しい」
「ああ、そうだな」
 レイチェルは頷いた。此処にもしも母の霊が居たならば、と彼女がかけた声。
「……急に悪いなァ。イル達の為に力を貸してくれないか? 俺の声に応えてくれ。かーちゃんが此処に居るなら、黄泉人の中身は偽物だ」
 応えるものはいないがイルは「お母様は自由な人だから成仏してるんだと思う。あんな、『偽物』じゃないんだ」と曖昧な笑みでレイチェルを見遣る。
「イル、もしも家に帰って誰かが変な動きをしたら騎士として取り押さえてくれるか?」
「……うん?」
「……他の黄泉帰り事件での『声』が気になってな。目的は狂気の拡散か?」
 その言葉に、イルはまだ、理解できないという様に瞬いて小さく、小さくだけ、頷いた。

 イルの家に着いたとき、父は憤慨し娘に怒鳴りつけた。
 どうして、こんな時に他人を迎え入れたのか、と。その様子を留めて寛治は仕事の事で来ましたと告げた。
「今、天義の各地で類似の事件が起きている。
 死んだはずの者が生前そっくりの姿で縁者の元に現れ、生前と同じ様に振舞う」
「……」
 父が寛治を見遣る。
「この状況下で『貴方の妻だけは黄泉帰り』では無い、と言えるのでしょうか。
 これだけの類似事例がある以上、『違う』というなら、挙証責任は貴方にあるのではないですか?」
「し、しかし」
 突然の来訪。躊躇いと、娘の沈痛なる面差しに父は戸惑いを覚えている。 
「イルさんしか知らないような想い出とかは覚えてる? 自分が死んだ事は? …二人の家族にはどうあってほしいと思う?」
 シャルレィスの問い掛けに首を傾げた母の姿。それは、紛れもない生前のルーティンを繰り返しているかのようで。
(……『彼ら』は記憶の通りに意思を持てるのだろうか。もし――仮初の記憶でも家族への愛情を変わらず持てるのなら、或いは)
 いや、と首を振る。リースリットが感じる違和感はレイチェルも同じ。機械の様に同じことを繰り返す母親が其処に入る。
「生きている人間の反応がないす。死んでいるって分かってるんじゃないっすか?」
 ヴェノムが真直ぐに見遣った母親は『普段と変わらぬ笑み』で覗いている。イルは気持ちの悪い物を見たかのようにそっとリースリットの背に隠れた。
「見た目と記憶さえ伴っていれば、それが泥人形であっても愛を注げるものなのだろうか。吾輩としては、それは本来愛すべき者に対する侮辱に思えるのだが」
「分かっていても、心がどうにも理解できない。全てを振り払ってでも手に入れた人だったんだ……イル、ごめん」
 父が、娘を見た。グレイシアは僅かに警戒をするが――用心棒たちを連れた父は只、冷静に声を震わせただけだった。
「納得させてほしい」
「納得、ですか」
 寛治が問う。イルを押しとどめるはリースリットとアマリリス。どちらも不安げな彼女に寄り添うようにして立っている。
「模擬戦でいい。どうせ、ここで特異運命座標に勝てなければ彼女は死ぬんだ。荒療治だろう? しょうがない、そういう異世界から来たんだ」
「いいすよ。そう言うのだって『悪くない』。
 まあ、死んだ人間を大切に思う事は悪く無い。だけど其れで生きている人間が悲しむのは、多分、辛い事すよ」
 ヴェノムが頬を掻く。その様子にレイチェルは「最後は俺がやろうか」と静かに声を震わせた。
 そうして、剣を交えて。
 父は敗北したのだと座り込んだ。
 だから、お別れの用意をしようじゃないか。
「……まぁ、こう言う役回りは慣れてるさ。無理すんな」
 その前に、気持ちだけ、『納得』だけしよう。傷を負った父が呆然と頷いた。
「お別れ、だな」
 レイチェルが行ったそれに、泥となる前の母を見遣って、イルは悲し気に目を伏せった。
「――おかあさま」
 本物じゃなくても、逢いたかった。


(……泥の材料が、本人の死体じゃない限りは、ワタシには反応しないんだ)
 だから、これは母親じゃない。ヴィマルは翌々理解していた。これからどうするか、それを見て居たいと願ったのはイルだ。
「……よく思い出して、考えて、それで、ワタシ達がやることに納得できなかったら……恨んでもいいよ、ごめんね」
 もしも、社会に仇なすものがいたならば、その言葉を吐き捨ててでも断罪しないといけないのだろうか。この国はそうしてできている――理解しているのに、イル・フロッタはまだ見習いだった。
「もしも、私が皆を恨んだとしたら――?」
「……それは、少し悲しいんじゃないすかね」
 イル先輩とは何だかんだで付き合いがあるすから、と呟くヴェノムにイルは「そうか」と泣き出しそうな程に目を細めて首を振った。ただ、それだけだった。
 泥になる。
 べしゃり、と落ちていって、泥となって終わる。
「事が公になればコンフィズリー家以上の衝撃。黄泉帰りを使った暗殺など行われた日には、天義にDies iraeが訪れるでしょう」
 イルの父にそう、告げた寛治。大人のやり取りには口を出さないと決めていたイルの蒼白の顔を見遣った父は「ああ」と静かに呟いた。
「私とて『コンフィズリー家』の話はよく知っている。口にするのも憚られるが……妻は――何者かに利用されていたんだろう。この国家を脅かす、何者かに」
 その声音が我慢を強いられているものだとは理解できた。激情の末の事だ。用心棒たちは一戦交えた事もあり『袖の下』の効果で口止めは十分されていた。それ以上に彼らが「イルの母親によく似た女性は、亡き妻の親族らしい」と噂を止めているのも大きい。
「人の心というものは、やはり難しいものだな」
 呟くグレイシアにヴェノムが横眼をちらりと向けて「そうっすね」とだけ呟いた。
「難しいものっすよ。なるべく皆の心残りが無いように送れりゃ、それが一番すが」
 そんなの、難しいに決まっている。そう呟き目を逸らしたヴェノムの傍でイルは呆然と泥を眺めている。
「喜んだこと、悩んだこと、怒ったこと、全部間違ってないよ」
 立ち竦んだイルはヴィマルの声に肩を震わせた。この場に居たいと願ったのは彼女の意思でも酷な事だったのではないかとリースリットはそっと、その背に寄り添う。
「大好きな人といられるのは、どんな形でも、そういう物だから……もう、繰り返させないから」
「……もし」
 小さく、震える声が聞こえた。リースリットは「はい」と柔らかにそれを促す。
「今後、こうして事件が大きくなったなら……私は、皆に協力できるだろうか」
「ええ、強制的に殺すのではなく、天義の騎士総出で説得すればきっと市民の心も開いてくれるはず。
 ……こうした事件は死者の増加も狙いかもしれません。死者を増やし天義市民の心を掴むのが敵のひとつ目的ならば阻止せねばならない」
 アマリリスの激情を湛えた瞳がイルを見る。見習い騎士に、そう告げて暗がりを見遣る。
「怒ったわ、絶対に元凶を許さない。サントノーレ、仕事よ。
 探りたいことは、聖都の目を盗み甦った者を隠しているかもしれない全ての民衆」
「はいはい、人使いが荒い『聖女様』だな?」
「サントノーレ……!」
 はっと顔を上げたイルにサントノーレ・パンデピスは「俺も気味が悪いのは嫌いなんでね」と特異運命座標の顔を見遣る。
「けど、『この事件、俺だけじゃ無理だな』?」
「……それは、どういう事でしょうか。いえ、聞かなくても想像はついているのですが」
 リースリットがイルの肩に沿えた手を強くする。半分は旅人の血である少女、彼女はまだ母の近くには居なかった――しかし、その父親が他の案件より『冷静でいられた』のは他ならぬ彼が旅人であったからに他ならないとも考えている。
「これは……ネメシスでこの事件が起きているのは『禁忌』に当てつけた明確に意図的な物に見えるのです。
 ……関係者の精神異常と言動も気になる所。『欲望を解き放て』という誰かの声……まるで『原罪の呼び声』の様」
 そうだとすれば――魔種。
 ぞっと、肌を粟立てたイルがリースリットを見遣る。不安と、そして拒否反応にその細い方が震えている。
「かも、な」
 静かにそう云ったサントノーレにレイチェルは胸糞悪いと呟いた。

成否

大成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした、イレギュラーズ。
 まずはイルやその父に対する対応が確りとしていたところ、事後の対応や情報収集も整っていたと思います。
 また、父やイルにとっても皆さんが突き付けた事実に否定をする事はできません。故の納得です。本人たちの心証や不安はどうあれ、ローレットとしての最善でしたでしょう。
 なので、これを送ります。
 さあ、これからどうなるのでしょうね。
 また、お会いしましょう。

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