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シナリオ詳細

Hydrophobia
Hydrophobia

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●狂犬の群れ
 その恐ろしい怪物が村にやってきたのは、突然の事だった。いつも通りに畑仕事へ精を出していた村人達のところへ、杖を両手に抱えた羊飼いがバタバタと駆け込んでくる。
「狼が、狼が出た」
「なに?」
 倒れ込んだ羊飼いが、息も絶え絶えに呟く。村人は顔を見合わせると、めいめい鍬やら斧やら持って駆け出した。領主の羊なんかはどうでもいいが、せっかく育てている豚や牛がやられたら困る。彼らは畑の畦道を通り抜け、領主の治める牧草地へとやって来た。
 彼らの眼に飛び込んできたのは、涎をだらだらと垂らし、歯茎まで剥き出しにした獣の群れ。眼も血走らせ、無心で羊に喰らい付いている。
「アレが……狼か?」
 村人は首を傾げる。その姿は狼というよりも、只の犬と見える。
「狼って、大袈裟な事言うもんだな」
「けどありゃあおかしいぞ。狂ってる」
 村人が口々に呟いている間に、犬の群れはぐるりと振り向いた。ぎゃんぎゃんと吠えながら、群れは一斉に村人へ向かって襲い掛かろうとする。そのおぞましい姿に、思わず村人たちは揃って腰を抜かした。
「ひ、ひいぃ……」
 しかし、柵の傍まで近づいた瞬間、群れはまとめてその足を止めた。前脚を折り曲げた姿勢で、ひたすら威嚇を続ける。しかし、村人を襲う気配はいつまでも見せない。
 村人がふと足元を見つめる。柵の傍に流れる水が、村人と狂犬の群れを遮っていた。

●討伐のカギは『水』
「……と、そんなわけなのです」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は、依頼書をひらりと揺るがせながらイレギュラーズに一通りに説明してみせた。
「野良犬が混沌の影響でおかしくなってしまったようなのです。少しかわいそうですが、このまま村の人も襲われるようなことがあったら、村中が大変な事になってしまう可能性があるのです」
 今は犬が狂っているだけ。しかし、人が噛まれ、狂気が伝染されるようなことがあったらその村が存亡の危機に晒されてしまいかねない。君達の気を引き締めさせるには十分だった。
「調べたところ、放牧地をぐるりと囲うように通された灌漑水路をどうやら野良犬たちは飛び越えられずにいるようです。外への抜け道を見つけられないうちに、素早く討伐してほしい、そうです」
 入ったところから出ればいいだけの話なのだが、狂った犬にはもはやそれすらわからないらしい。好都合ではあるのだが。
「これが初めての任務、という方もいるかもしれないのです。犬の様子に気を付けながら、注意して戦ってくださいね!」

GMコメント

●目標
 狂犬の討伐。
 放牧地外への逃亡を許すと失敗に近づきます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ロケーション
 昼間。広い放牧地で戦闘を行います。
 周囲は一点を除いて柵と水路で囲まれています。その一点以外には、狂犬は近づけません。
 戦場に邪魔になるものは特にありません。ただし、北に向かってなだらかな丘となっています。

●敵
 全部で7体。全て大型犬サイズです。犬なので素早く、噛みつく力もかなりあります。
 特に嗅覚に優れ、視覚はやや弱いです。会話不能、感情も読み取るのは困難です。

狂犬×7
 混沌に囚われ狂気に侵された野良犬の群れ。そろそろ羊を食いつくし、次なる獲物を探そうとしている頃。
・攻撃方法
→噛みつく…命中した場合、抵抗に失敗するとしばらく何かが怖くなる。
→引っ掻く…単純攻撃。

●TIPS
 狂犬の特徴を利用しましょう。習性に着目。


お初にお目にかかります。影絵 企鵝と申します。
初めての任務という方は私です。ルールの確認をしながら、といった感じなのでどうかお手柔らかにお願いします。

  • Hydrophobia完了
  • GM名影絵 企鵝
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年04月15日 22時25分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ミミ・エンクィスト(p3p000656)
もふもふバイト長
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ヘリオトロープの黄昏
コゼット(p3p002755)
孤兎
華懿戸 竜祢(p3p006197)
応竜
パーシャ・トラフキン(p3p006384)
召剣士
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
寝湯マイスター
ゲオルク・ロクフイユ(p3p006710)
特異運命座標
リコリス・レクイエム(p3p007014)
バンシー

リプレイ

●構えを補え
 村の窮乏を救うため、数々の地から駆けつけてきたイレギュラーズ。まず彼らが考えたのは、狂犬達の封じ込め。あるだけのバケツを借り出して、彼らは放牧地の入り口に集結していた。
「水を恐れるワンちゃんですか。本来でしたら、飼いならして羊を操るところなのでしょうけど、家畜を襲ってしまうようではだめですね」
 仲間達が水路から水を汲み出している間、リコリス・レクイエム(p3p007014)はランタン片手にじっと周囲を見渡していた。風に乗って、犬の甲高い吠え声が聞こえてくる。
「普通に生きているだけなのに、何かの拍子で狂ってしまうのは悲しいことだね……」
 ミミ・エンクィスト(p3p000656)からバケツを受け取り、ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)は嘆息した。この世界は混沌にあふれている。何者かが狂気に堕ちるなど良くあること。放っておいてはどんどん狂気が広まってしまう。
「せめて、早めに終わらせてあげようか」
「家畜がみんな食べられちゃうと、大変だしね。やっつけちゃおう」
 コゼット(p3p002755)はバケツを抱え上げ、ざばんと水を入り口に撒き散らす。伸びた芝が水を吸い、新緑に輝いた。その上に、パーシャ・トラフキン(p3p006384)は水の張ったバケツを一つ一つ並べていく。ジルーシャ・グレイ(p3p002246)は手に持った小瓶を軽く振ると、その口を切ってパーシャに振りかけていく。
「よし。これで私達もこの水そっくりの匂いになるはずよ」
「ありがとうございます、ジルーシャさん」
 その背後、柵の向こう側ではゲオルク・ロクフイユ(p3p006710)がスコップで浅い堀を作っていた。ロバから下ろした樽を抱え、そこに水を流していく。
「よし、これで万に一つもこっから逃げるってことはないだろう。お前はここで待ってろ」
 ゲオルクはロバの背中をポンと叩く。柵の際に立ったロバは、耳を振って嘶いた。
「準備はできたようだな」
 突き立てた大剣の腹にその身を預け、華懿戸 竜祢(p3p006197)はちらりと仲間達を見遣った。最後のバケツを置いて、ミミはこくりと頷いた。
「ええ。準備は万端なのです。わんこ達はこっちに来てないですね?」
「安心しろ。それなりにちゃんと見張っていた」
 竜祢は柄に手を掛け、大剣を鋭く抜き放つ。口元に微かな笑みを浮かべ、竜のような瞳をちらりと輝かせる。
(そしてここからは、お前達を視させてもらうさ)
 理性を失った獣に興味は無い。村の安寧の為に尽力せんとするイレギュラーズ達の輝きこそ、彼女が欲してやまないものであった。

●狂犬達に挽歌を
(羊さんたちも、他の動物たちも。そして、村の人々にも。これ以上、犠牲が出ないように)
 バケツの列の前に立ちパーシャは胸の前で手を合わせる。祈りを込めた瞬間に、その手の内に光が宿る。
「お願い、力を貸して――ウルサ・マヨル!」
 彼女が天に光を掲げた瞬間、その光は形を手に入れる。鋭い双剣へと変化する。その身の回りにふわりと浮かべ、パーシャはジルーシャと目配せする。
「私の準備は万全です。ジルーシャさん」
「オーケー。こっちに来たら、全力で迎え撃ってあげましょ」
 ジルーシャが木目艶やかなバイオリンを構えると、どこからともなく現れた小さな精霊たちが彼の周りを取り囲む。ポーションの詰まったバスケットを腕に引っ掛けると、ミミはパーシャに振り返る。
「で、では。パーシャ、行ってくるのです」
 友人二人は頷き合う。ミミは気が抜けないよう唇を固く結ぶと、コゼットと目配せして歩き出した。彼らを見送ったウィリアムは、聖杯のレプリカを掲げて静かに目を閉じる。吹く風にその意思を委ね、揺れる草花に向かって静かに語り掛ける。
(この牧場に紛れ込んだ野良犬達の居場所、君達は知らない?)
 再び風がそよぐ。揺れた草花が、彼にそっと囁きかけた。伝ってくるおぼろげな想念。ウィリアムは頷くと、右手を静かに差し出した。何処からともなく、一羽の小鳥が飛んでくる。
「さあ、頼んだよ」
 指先に留めた彼は、その頭を撫で、空へと飛ばした。一直線に飛んだ鳥は、やがて空の一点でくるくると旋回を始める。その姿を見つめ、彼はふっと微笑んだ。
「早速、見つけたみたいだね」

「あ、あ! いた、いたのです!」
 息を潜め、ミミが彼方を指差し叫ぶ。骨や臓腑を食い散らかして、犬が七匹、羊の亡骸をむさぼり喰らっていた。ミミは咄嗟に籠を漁り、ポーションの瓶を取り出す。ちらりと見遣り、コゼットは短剣を構えた。
「準備、いい?」
「……何とか、なのです」
 ミミが頷くと、コゼットは素早く群れに向かって駆け出した。兎耳と白髪を風に流し、少女は声を張り上げる。
「孤兎、コゼット。ここに参上」
 数匹の犬が、その耳をひくりと動かした。その足を踏ん張り、ぐるりと群れが振り向く。口からだらだらと涎を垂れ流し、コゼットへ威嚇しながら近づいてきた。
「来る。頼んだよ、ミミ」
 次々に吠え合い、群れが四匹突っ込んで来る。黒毛の犬が真っ先に飛び掛かってきた。コゼットは身を伏せてやり過ごすと、軽やかに宙へと跳び上がる。くるりと捻りを入れながら、近づいてきた茶毛の犬を横っ腹から蹴りつけた。不意打ちを喰らった犬はぎゃんと鳴いて野原に転がる。
 犬がコゼットを取り囲むよりも先に、彼女は軽やかな足取りで後退していく。目を血走らせながら追いかけてくる群れ。丘の上に陣取ったリコリスは、そっとランタンを振る。青い炎が揺れた瞬間、巻き起こった黒い風が彼女の体を包み込む。
「死の風よ、病める命を刈り取れ」
 リコリスが唱えた途端、彼女を包み込む風は蛇のようにうねり、犬の群れに襲い掛かった。風は犬を呑み込み、死の毒で脅かしていく。
 騒ぎに気付いた残りの犬達は、尻尾をピンと立ててコゼット達を睨む。ミミは腰のベルトに提げた手投げ弾を手に取ると、三体に向かって投げつけた。弾けた光は犬の一体に突き刺さる。三体は咄嗟に振り返った。
「やんのかー、やんのかこらー……!」
 尻尾の毛を膨らませ、耳をぴくぴく動かしながら、ミミは必死に威嚇する。三人は互いに吠え合うと、肩を並べて一斉に突っ込んできた。
「来ましたね、わんこ達。お前達程度にビビったりなんかしないのですよ」
 何かとビビりなバイト長だが、彼女の持つ形質は白狼なのだ。格が違う。それを頼りに必死の威嚇を続けていたミミであったが、容赦なく犬は突っ込んで来る。彼女の身構えた腕に噛み付き、荒々しく揺さぶり始めた。
「あっやめて痛いのです。噛まないで欲しいのです!」
 ミミは慌てて犬の喉元を殴りつける。犬はミミを解き放ったが、なおも三体で彼女を取り囲んでいる。
「ウオォ、まじ勘弁してほしいのですが! ですが!」
 ハイポーションを傷口に振りかけると、囲いを抜けて再び三匹に対峙する。彼女の背後では、パーシャとジルーシャが援護をすべく軽く間合いを詰めていた。
(水を嫌がるのは、感覚が鋭くなりすぎているから。……なら、音や風にも反応する筈)
 ジルーシャがバイオリンを構えると、弓を引いて旋律を奏でる。春風のような響きが辺りを満たした瞬間、風の精シルフがふわりと飛び出す。
「ルーシー、お願い」
 シルフが素早く身を躍らせると、大気を切り裂き鎌鼬を引き起こす。駆け抜けた風の刃は、ぶち模様の犬を切り裂いた。風が甲高く吹き荒れ、一斉に群れは縮こまる。
「ミミ、一旦後ろに離れて」
 ジルーシャのバイオリンが転調する。ボサノヴァのリズムを奏でている間に、小川から水の精霊ウンディーネが飛び出してきた。
「ディーちゃん、その歌を聞かせておやり」
 三匹を見下ろすと、聖霊は高らかに歌い始める。呪いを秘めたその声を聴くと、犬は狂ったように吠え、互いに噛み合い始めた。
 パーシャはその手を再び天へ掲げる。ふわりと浮き上がった双剣が光を放ち、新たな一振りの長剣を形作り始める。彼女は朗々と声を張り上げた。
「遥か北に輝く奇跡の剣よ、今此処に!」
 光が弾け、中から七つ星の輝きを秘めた刃が姿を現す。
「召剣、セプテントリオン!」
 その腕を振り下ろした瞬間、刃は流星の如く飛び抜け、一体の頭に突き刺さる。脳漿を飛び散らせながら、犬はその場にひっくり返った。白目を剥き、四肢を震わせる亡骸。その無残な姿を見つめ、パーシャは思わず立ち竦む。狂っているとはいえ、それは紛れもなく罪なき命。彼女は小さく肩を震わせた。
 飛び回る刃が、ふと勢いを失い、彼女の周りでぼんやりと漂う。パーシャは何度も息を整えると、改めて眉を決した。
「怖がりのミミちゃんが、頑張ってるんだ……! 私も、頑張らなきゃっ!」
 ローレットに所属する一員として、最後までしっかりと戦い抜く。再びウルサ・マヨルをその身の周りに駆け巡らせ、残る二体を真っ直ぐ見据えた。
「ごめんね。……でも今、楽にしてあげるから」

 こうしてパーシャの心を支えたミミであったが、現在臆病風に吹かれていた。
(何だかさっきからおかしいのです……何だか全身がざわざわするのです)
 最初に噛まれてからというもの、犬の唸り声どころか、小川のせせらぎさえも彼女の胸を締め付ける。彼女は小瓶を取り出すと、頭から中身を振りかけた。
 癒しの力が染み渡り、彼女に染みつく恐怖心を拭い去る。ミミは眼を三角にすると、再び手投げ弾をその手に取る。
「よくもやってくれましたね! 覚悟するですよくそわんこ!」
 投げつけられた癇癪玉は、再び輝きを放って一体に突き刺さる。項垂れた隙を見逃さず、ジルーシャはバイオリンを悲愴に奏でる。彼の陰から這い出してきた影の犬が、牙を剥き出し遠吠えした。
「目には目を、歯には歯を。犬には犬を……おイタが過ぎる子には、きつーく噛み付いてやんなさい!」
 草原に黒い爪を突き立て、ブラックドッグは垂れた耳の犬に向かって突撃する。犬が反応する間もなく飛び掛かり、その喉笛に噛み付いた。暴れる犬を押さえつけて首の骨を砕く。犬は泡を吹き、そのままぐったりと動かなくなった。

 ミミ側の戦線が一段落する中、ウィリアムは聖杯を片手に握りしめ、空いた手を眼の前へ差し出す。その指先は、コゼットを取り囲む黒毛の犬へと向けられていた。聖杯がうっすら輝きを放った瞬間、一条の雷撃が駆け抜け、犬の体を撃ち抜いた。
 イレギュラーズの激しい攻勢。尻尾を巻いて後退りを始めた群れを、コゼットは短剣を振り回しつつ睨みつける。
「ほーらほら、こい。孤兎コゼットはここにいるぞ」
 目の前に立つは兎。牙ある獣に喰われる定めの兎。獣のプライドを刺激されたか、再び群れは牙を剥いて威嚇を始めた。コゼットは短剣を逆手に持ち替えると、突っ込んできた大型の犬を迎え撃つ。息を詰め、半身になって牙を躱した。
 すれ違った瞬間、コゼットは犬の脇腹に短剣を突き立てた。犬が甲高い悲鳴を上げて間もなく、コゼットは短剣の柄頭に向かって蹴りを叩き込む。刃は肉を抉り鮮血を溢れさせた。断末魔をきゃいんと響かせ、犬はその場に倒れ込む。
 コゼットはナイフを亡骸から引き抜く。どす黒い血がごぶりと溢れた。犬は歯を剥き出し、素早く駆け抜けコゼットの背後へと回り込もうとする。
 左手に盾を構えて駆け抜け、ゲオルクが一匹の犬を頭から抑え込んだ。
「そうはいかせねえよ」
 犬はゲオルクに吠え、いきなり飛び掛かってきた。ゲオルクは盾を突き出し受け止めると、そのまま袈裟斬り、切り上げを次々に見舞う。鋭い刃は前脚の筋を断ち、犬はその場に転げる。
「悪いが、お前らをそのままでほっといてやるわけにもいかないんでな」
 ゲオルクは刃を頭上高く振り上げると、後足だけでもがく犬の首筋を鋭く切りつけた。濁った鮮血が溢れ、草原を黒く染めていく。さらに突っ込んできた犬。大口を開き、彼の腕に飛び掛かった。咄嗟に彼は刃を噛ませ、背後を振り返る。
「今だ、頼む!」
 リコリスは再びランタンを振る。炎が再び揺らめいたかと思うと、彼女の纏う黒い風の中から、一振りの槍が飛び出してきた。切っ先は歪に光り、白毛の犬へ狙いを定める。
「槍よ……我が敵を刺し貫け」
 矢が弓から放たれるように、空を切って槍が飛ぶ。犬が躱す間もなく、槍は犬の腹を穿ち草原に縫い付けてしまった。
 次々と群れが討たれ、残るは一体。狂気に駆られていても、死への恐怖は忘れていない。尻尾を丸めた犬は、柵を目指して一目散に走り始める。
「やれやれ。所詮獣は獣か。骨らしい骨もない」
 大剣を担いだ竜祢は、そんな犬の前に素早く回り込んだ。吠えながらその牙を剥く犬。竜祢はただ口元に笑みを浮かべ、真正面から大剣を振り下ろした。彼女の金剛力は余すところなく伝わり、頭どころか、首根っこまでも真っ二つに叩き割る。穢れた血を驟雨のように浴びながら、竜祢は涼しい顔であたりを見渡す。狂奔の叫びはすっかり止んで、辺りには静寂だけが漂っていた。
「さて……こんなところで終わりか」



 狂気から解き放たれ、世界の涯へと旅立っていった野良犬の群れ。その亡骸を河べりに集めたゲオルクは、口元に布を巻き付け亡骸の傍に跪いた。革の手袋をはめた手を伸ばし、ぐらぐらになった亡骸の首を覗き込む。
「ふむ……何かに噛まれたような痕があるな……」
 ゲオルクはちらりとミミを見遣る。見つめられたミミは、尻尾も耳もピンと立てた。
「私じゃないのですよ! ゲオルクさんも見てたのです! こんなわんこ噛まないです!」
「別に誰もお前を疑っちゃないって。なんか分かる事はねえかと思っただけだ」
「むむ……」
 ミミは鼻を押さえつつ、亡骸の傷口をじっと見つめた。
「うーん。確かにこれは狼の噛み痕のような気がするのです……」
「というと、この犬も何かに噛まれて病気か狂気か伝染されちゃったって事になるかしら」
 ジルーシャはゲオルクの背後から亡骸を覗き込む。ラベンダーの香りを沁み込ませた布で、口元はしっかり守っていた。
「まあ、そう見ておけば間違いないだろう。そうなると、この死体を放置するのもマズいな」
「ここから、新しく伝染っちゃいそうだし、全部燃やした方がいいかな」
 コゼットは別の亡骸を覗き込む。背中に刻み付けられた傷跡が腐り、ぐずぐずになっていた。ゲオルクは溜め息をつくと、両腕に一匹ずつ犬の首根っこを掴んで立ち上がる。
「とりあえず村の外れまで運ぼう。悪いが手伝ってくれ」
 ジルーシャパーシャにコゼットが、犬を持ち上げ歩き出す。その背中を追いかけながら、ミミは新たなポーションの小瓶を取り出した。
「皆さん具合悪くなったら言ってくださいね! 片っ端から治すです!」

 川から外れ、森から外れ、村人も獣も寄り付かない荒地。積み上げた丸太の中に七体の亡骸が放り込まれ、赤々と燃える炎に包まれた。イレギュラーズの目の前でそれは延々と燃え続け、やがて陽が傾いた頃、亡骸はようやくその白い骨を晒したのだった。

●狂気の根源は何処
 燻る煙の中から、ジルーシャは小さな骨を一つ一つ拾い上げ、丁寧にバケツの中へと納めていく。そっと目を閉じ、物言わぬ亡骸に向かってそっと祈りを捧げる。
「痛かったわよね。苦しかったわよね。……もう大丈夫よ。ゆっくりおやすみなさいな」
 骨を収めたバケツを手に取ったウィリアムは、荒れ地の中に掘られた穴にそっと収めた。スコップを手に取ると、ゲオルクやコゼットと共に墓穴を埋めていく。パーシャは何もない辺りの景色を見渡し、小さく溜め息を吐いた。
「もっといい所に埋めてあげられたら良かったけど……」
「仕方ない。あんまり近くに埋めて、また何かあった時にその原因みたいに扱われても、それはそれでかわいそうだからね」
 埋めた地面をならすと、ゲオルクは小さな石をその上に乗せる。ウィリアムは胸の上に手を当て、そっと頭を垂れる。
「ごめんね。ゆっくりおやすみ」
 パーシャもジルーシャも、ウィリアムに倣って祈りを捧げ始める。リコリスはランタンの中に灯る輝きに目を向ける。今日も青い炎が揺らめいていた。
「これで、彼らも解放されたでしょうか……」
「ただの病んだ獣だろう。丁重に葬ろうが雑多に穴へ放り込もうが、さして変わらんと私は思うがな」
 腕組みしたまま彼らの様子を眺め、竜祢は肩を竦める。輝き無き獣の、さらにはその骨を丁重に扱う気にはなれなかった。
(しかし……)
 竜祢は口元にうっすらと笑みを浮かべる。ただの獣狩りとばかり思っていたが、彼女にしてもそれなりの収穫はあった。
(この一件を追えば、少しは面白い輝きを見られるだろうか)

 仲間達の姿を遠巻きに眺めて、彼女はくつくつと笑うのだった。



 Hydrophobia おわり

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

影絵です。皆さんご参加ありがとうございました。
ルールやら世界観やら、未だ中々慣れずというところですが、満足いただける出来になっていれば幸いです。

ではまた、ご縁がありましたら、よろしくお願いします。

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