シナリオ詳細
<常夜の呪い>空言の街
オープニング
●暗闇のベールの中で
この国において、生きるとはすなわち、神のために生きる事。
神を信じ、神のために働き――その行いが正しければ、神は必ず報いてくれる。人は幸せに生きていけるのだと、決められているのですから。
で、あるならば――満足に生きていけぬ私達とは、なんなのか。
親が、あるいは配偶者がなく。家が、あるいは食べるものがなく。瞳が、あるいは体の一部がなく。何かが欠けているが故に、人が決めた『正しい海』の中でおぼれる私達は――。
きっと生まれながらにして、悪しきものだと定められたのでしょう。
神によって。
神によって、私達は、悪として産み落とされた。
私たちの何が、いけなかったのか?
私達はただ、他の人と同じように、他の人が言う当たり前のように、生きたいだけ。
それを神は、おこがましいと、笑うのでしょうか。
……私達には、神様が必要でした。
私達を、救ってくれる神様。
私達に、ただ、生きていていいのだと言ってくれる神様。
私達は、ただそれだけを望んでいたのです。
●夢の街へ
「というわけで、お仕事の時間です!」
『小さな守銭奴』ファーリナ(p3n000013)は、集まったイレギュラーズ達へ向けて、そう言った。
なんでも、天義のとある街、その一角が、突如として『夜色の霧に覆われる』という事件が発生したのだという。天義の教会側でもその事実を把握し、霧の内部へと侵入、調査を行ったのだが、その中には、『あまりにも普通の、人々の生活が繰り広げられていた』のだという。
「何か問題が? とお思いでしょうが、この中で『普通の生活が行われている』というのがぶっちゃけあり得ないんです。なぜならこの区域は、つまはじき者たちを放り込んだ隔離区……スラム街なわけで」
なるほど、と思ったイレギュラーズ達もいたかもしれない。天義は究極、『正しくあらずんば人にあらず』というような事を言い出す側面がある。『神の想定する正しい生き方』ができぬものすべて『背教者』なわけだから、そう言った『正しくないと断定されたモノ』を放り込んで蓋をする場所が、発生してしまっている、というわけだ。
スラム街には貧困、病、様々な障がいにより、サポートなくば生きてはいけないものが多く集まっているのだろう。で、あるならば、其処で『天儀式正しい生活』が送られているのだとすれば、それはとんでもない異常事態であるという事なのだ。
「状況から、これはおそらく『常夜の呪い』と名付けられた現象のようですね。内部には、住民たちの見た『夢』を現実化したような空間が広がり、守護者とでもいうべき『スリーパー』が居る、と」
同様の事件の報告書を見たり、あるいは実際にその現象に遭遇した者も、イレギュラーズの中にいるかもしれない。例に則れば、『スリーパー』を倒すことができれば、この事件は解決するのだろう。しかし、もしこのまま事態を放置していれば、眠りについている本来の住人達は、根こそぎ餓死すると目されている。
「この街の『スリーパー』は、どうやら区画中央にある教会内部に存在するようですね。その外見は、絵にかいたような『女神』であった……と、先遣隊の人たちからの報告があります」
イレギュラーズ達の目標は、この『女神』である、という事だ。
「……しかし、夢の果てに描いたものが『当たり前の生活』っていうのは、なんとも……」
一瞬、苦虫を嚙み潰したような顔をしたファーリナは、しかし次の瞬間には、それを察せぬほどの笑顔を浮かべて、
「いや、こっちの話でして! 皆さんはお仕事に集中してください! んでは、しっかり働いて、がっぽり儲けてきてくださいね!」
イレギュラーズ達を送り出すのであった。
- <常夜の呪い>空言の街完了
- GM名洗井落雲
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年04月04日 23時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●それはあり得ない日常の
空はどこまでも晴れて、春の温かな風が肌をくすぐった。
通りに響くのは、商人たちの口上と、たくましく値段交渉などを始める主婦、そしてはしゃぐ子供たちの声だ。
民家の庭では、うららかな春の日差しを楽しむべく、テーブルと椅子を引っ張り出して、雑談や趣味に興じる者もいる。
あまりにも平穏で、あまりにも平和な。しかし、どこにでもあって当然の景色が、其処にはあった。
――だが、ここで、この場所で、そのような景色が繰り広げられている、それ自体が、異常であったのだ。
「……チッ」
大通りを行きながら、たまらず舌打ちをしたのは、『緋色の鉄槌』マグナ=レッドシザーズ(p3p000240)だ。穏やかな光景に似合わぬ、怒気にも、悔恨にも思える複雑な感情を瞳に宿し、しかしその眼は、目の前の光景から目を背けることは決してない。
マグナの眼前に、女性と子供、が立ちはだかった。いや、厳密には立ちはだかったわけではない。親子連れは、まるでマグナのことなど目に映らぬかのように、ただ歩いてきただけなのだ。
マグナが、親子連れを見やる。
視線は、交わらない。
親子連れは、まるでマグナに気づかぬまま歩き続け――そして、そのまま、マグナの身体をすり抜けていく。
「クソッ……!」
募るいら立ちを、マグナは吐き捨てた。その感情を湧き起こすのは、この事態を招いた二つの元凶。
天義という国の在り方――その、特大の負の側面と、実際にこの現象を巻き起こしたであろう『なにか』に対してだ。
「これが常夜の呪い、ですか」
嘆息したように、『布合わせ』那木口・葵(p3p000514)が言う。
「そして……これが……これが、幸せな夢……! 人を人たらしめるのは、人の役目なのに……何のための国家なんですか……っ。だから、この国って……」
吐き捨てるような言葉を、かろうじて飲み込んだ。無駄に敵を作らぬ分別を、葵はわきまえていたし、仮にそれが聞こえたとして、この場にいる人々は、それを咎めることも、報告することも、無いだろう。
この場にみえる多くの人たちは、葵の姿も声も認識できず、そして葵を認識できるものは、今は目的を同じとする仲間であるからだ。
この度イレギュラーズ達がこの場所へと派遣されたのは、『常夜の呪い』と呼ばれる現象に見舞われた地を、解放するためだ。
『常夜の呪い』、その黒い霧のヴェールに覆われた地にて、人は死に至る眠りへと陥る。現象の中では、呪いに巻き込まれた人の見る夢が現実化したかのような空間が発生。場合によっては、外敵に対しての防御行動をとるのだという。
つまり、今イレギュラーズ達の目の前に繰り広げられているこの当たり前の光景は、住民たちが見た夢、その姿であるのだ。
そして、この場所の本来の姿は、決してこのような平穏な姿が見られるような場所ではない。
絶望と諦観が支配する場所。天義の生み出した負の一端。当たり前に生きられぬが故に異端とされた人々を押し込めて蓋をした――。
「それ故に……望みは当たり前に生きる事。ここに住む人たちにとって、当たり前は当たり前じゃなかった……」
『正なる騎士を目指して』シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)は悔し気に、そう言った。
その脇を、楽しげにはしゃぐ子供たちの幻影が駆け抜ける。この姿もまた、空言なのだ。
もちろん、天義とて明確なる悪意の下、このような方針をとっているわけではないだろう。人間が集団で生きるにあたって、どうしても、秩序というものは必要なのだ。たとえそれが、完全にして完璧なものでなかったとしても。
秩序のいびつさと言う点で考えれば、力こそがすべてという方針の鉄帝、あるいは貴族と平民の間に決して超えられる壁の存在する幻想など、歪みはどこも、持ち合わせている。
だが、そうだとしても、それを仕方ないの言葉で済ますことはできないことも、また事実である。
「夢に見た普通の生活、デスかぁ」
『不運な幸運』村昌 美弥妃(p3p005148)ふむふむ、と唸りつつ、言った。
「自分が『異常』だと気がついているほど、『普通』を求めてしまう……そういう気持ちはわかりマスが」
例えば、もし全く異なる価値観を、住民たちが持てていたならば、この光景はまた違ったものになっていたかもしれない。
だが、住民たちは、この価値観の中で生きていくことしか許されなかったのだ。
「……本物ではなく夢に縋りつくというのであったら、ワタシは共感できませんねぇ……」
美弥妃はそう呟く。ここは、破滅の約束された、空言の街でしかないのだ。
「しかし……当たり前の生活を夢見ることが異常な状態であると、天義の騎士の方は気づかなかったのでしょうか」
『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)が静かに、言った。
「まったく――不幸なことで御座います」
それは、誰を指しての言葉なのだろうか。真意は奇術師の胸の内だ。
どこか胸を締め付けられるような思いを抱きながらも、イレギュラーズ達は『平和な街』を歩く。目的地は、この夢の番人、『スリーパー』の居る場所。そしてその場所は、この『街』の中心である、『大教会』と仮称される建物である。
イレギュラーズたちが到着した大教会は、その名の通りに、歪に巨大な建造物であった。決してきらびやかではないが、建物の持つ雰囲気には、どこか豪奢なものが混じる。
「へぇ。まさに『大教会』としか呼びようのない建物だな。先行偵察した天義の騎士サマの名付けたコードネームらしいが……ハハッ、パチモンの女神サマの潜伏先を教会と呼ばざるを得なかった騎士サマの心中、お察しするぜ」
『極夜』ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)は口角を釣り上げる。そしてその目は、大教会の建物が持つ歪さと矛盾にも向けられていた。
「神とは欲にまみれていてはならない……だが、『平凡』であってもならない。理想と願望が喧嘩してる感じか。難しいねぇ」
肩をすくめる。
神はスラムの住民たちを見捨てた。ならばスラムの住民たちに、虚飾にまみれた『普通の人たち』の言う神はいらない。
だが、スラムの住民たちには神が必要だった――そのような世界しか、知らなかったからだ。
彼らにとって、自分たちの価値を担保してくれるものは、神しかいなかった。
その矛盾した心象の極致が、この建物なのだろう。
「……わたしたちは、これから、なにを……するの?」
ふと、『カースウルフ』アクア・フィーリス(p3p006784)が、声をあげた。
「わたしたちがすることは……人の幸せを、踏み躙ってる、の? 怒られるの? 恨まれるの? 呪われるの?」
それに答えることは、誰にもできない。
考えてもきっと、答えは出ない。
スラムの住民たちは、答えない。
「でも……」
と、アクアは、言った。
「わたしは、これは間違ってない……って、思いたい。これは……やらなきゃいけない事、だって」
「ええ。ええ、そうですよ」
『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)が、頷いた。
少なくとも、イレギュラーズたちがこれから行う事、それは間違っていない。敵は幸せな幻想を餌に、命を要求しているのだ。しかも、無差別に。
いかに甘言を並べたてようと、それだけは確固たる事実。
「彼らに、本当に幸せな夢を見させてあげましょう……夢魔として、恨まれようとも」
利香は確かな決意を込めて、言葉を紡いだ。
仲間たちもまた、その問いに答えは出せぬとも、行うべきことの覚悟はあった。
イレギュラーズたちはすすみ、ゆっくりと、『大教会』の扉を開く。
そこに待ち受けていたのは、『女神』だった。
●空言の救い、真実の戦い
「ようこそいらっしゃいました。あなた達の要件は分っています」
イレギュラーズ達の登場に、女神は別段、驚きの様子は見せない。
ここはまさに、相手の領地だ。侵入者の存在などお見通し、という事なのだろう。
「そのうえで――」
女神は、微笑んだ。
柔らかな笑顔だった。
吐き気を催すほどに、優しき顔だった。
「引き返してはいただけませんか。あなた達に、夢を妨げる権利などないはずです」
「ねぇな。確かにねぇよ」
マグナが、吐き出すように言った。その瞳に、怒りの炎を燃やして、女神を睨みつける。
「だが……だがっ! このままあいつらが死ぬのを黙って見てるなんざ、
あいつらは良くても『オレが』嫌なんだよ! あいつらが、本当に幸せになれるかもしれない可能性、それを捨てちまうのがッ!」
「……自らの感情。そして不確定な賭けのために、他者の幸せを妨げるのですか」
侮蔑の色を隠さずに、女神が言う。
「ハッ。パチモンとはいえ女神を名乗ってるんだ。どんだけ貴いのかと思えば……」
ペッカートが笑う。女神はその眉を、ぴくり、と跳ね上げた。
「心外ですね。そして、野蛮な人たち。放っておいてはくれないのですね」
「被害者ぶらないでくださいよ。百歩譲って被害者たちに憎まれても、あんたに叩かれる理由なんてないです」
利香は静かに――しかし怒気を隠さずに、言った。
「他人を思いやるふりをして……他人を利用してるのはお前だ! お前の思い通りになんか、させるもんか……ッ!」
シャルティエが叫び、武器を構える。合わせるように、イレギュラーズたちもまた、己が武器を構えた。
「外の常識に毒され、それを押し付けるだけ。真の救いが、なぜ理解できないのですか」
「アハハ。好き勝手言えばいいじゃないデスかぁ」
相手のいう事など意に介す必要もない。そう言うかのように、美弥妃は笑顔を見せてみた。
「この世界が歪だとしても、今はその話はしてませんよ。世界の歪みを正す前に、まずはあなたをこの世界から取り除きます」
葵が言う。もはや問答は無用だ。
「……る、さい。わたしが、わかるのは……あなたが、歪んでいる。そのことだけ」
アクアが訥々と、語る。その身体には、なにかゆらりと、炎のようなものが見えるような気がした。
「……結構」
女神は、言った。
「では、望まれざる来訪者よ。我が子らの魂の平穏のため、ここで消え去りなさい」
途端、女神より爆発するように放たれる殺意と敵意! その穏やかな形相はそのまま、アンバランスな本性が、イレギュラーズたちへと叩きつけられる!
「望まれぬ来訪者、でございますか……」
幻は肩をすくめてから、続けた。
「結構でございますよ、無粋なお客様。人々の魂の尊厳のため、ここで消えていただきます」
その言葉が合図になり、両者ははじかれたように動き出した。
空言の街で行われる、真実の戦いが、始まった。
女神が、宙を滑るように後退する。そして腕を振るえば、ある種の神聖さすら感じさせる炎が、突如として宙に出現した。
「これは我が子らの絶望。すべてを焼き尽くす怨嗟の声」
言葉とともに放たれる火炎弾が、イレギュラーズたちへと降り注ぐ。
「――っ」
その悪意の火炎の接近に、アクアは静かに、息を呑んだ。同時に、『Doom』をかざした。
『Doom』――剣のような何かが火炎を受け止め、その柄頭に取り付けられた赤い核が、脈動する。
「止めるぞ!」
マグナが叫び、撃ち放つ遠隔術式。マグナの殺意の炎。女神へと突き刺さる赤い弾丸。しかし女神は、その身体に炎を纏いながらも、穏やかに、笑んだ。
「この世界こそが彼らの幸せであると、なぜ認めないのですか? 目覚めた先に待つのは、悲哀にまみれた末路の死。ならばここで、幸福のうちに死ぬことこそが、救いであるというのに」
「んなもんテメェが決めることじゃねえ! それはあいつら自身が決めることだろうが!」
「望みますよ、彼らは」
「騙ってるんじゃありません! 死んだ方が彼らのためか、私達が呪われるか……! それは彼らが起きてから、この目で! 耳で! 直接聞きます!」
女神を貫く精神力の弾丸。ゆらり、と女神は姿を揺らし、しかしその笑みはまだ消えない。
「どうしても、お認めにならないのですね。ああ、彼らに呪いあれ!」
一発。二発。撃ち放たれる火炎弾が、イレギュラーズへと襲い掛かった。体を包む業火、その燃え立つ音が、怨嗟の声に聞こえてくるのは、敵の思うつぼだろうか。
「理解しなさい。その苦痛こそが、人々の言葉。お前たちを呪い吐かれた血」
女神の言葉と共に、いくつめかの火炎弾がアクアへと着弾した時、アクアの身体は激しく、燃え盛った。さばききれず、致命の一撃を受けたのか――。
「……うるさい」
アクアが、言った。炎が、燃え盛った。
それは、漆黒の炎だった。憎悪の炎が、アクアの感情にリンクして、その身を、黒く、黒く、燃やし尽くす。
「うるさい、うるさい、うるさい! 夢から醒めたら苦しい現実? だから静かに死なせてあげよう? そんな中途半端な優しさが一番人を苦しめてるって、どうして分からないの!?」
アクアが、苦悶の声をあげる。
いや、違う。
それは、漆黒の炎のあげる音だ。
「わたしたちが人の幸せを踏み躙ってるかもしれないのは否定しないけど、オマエはそれ以上に! 人の人生を『踏み躙ってる』!」
静かに、『Doom』を構え――。
「今決めた。必ず、ぶっ殺す!」
爆発せんばかりに、漆黒の炎が、苦悶の炎が、まるですべてを呑みつくさんばかりに、燃え盛る。『Doom』が振るわれると同時に、放たれる魔弾。憎悪の一撃が、主の言葉通りに女神の命を奪わわんと、凶悪な一撃を撃ちこむ! その気迫に、女神がたまらず、怯んだ。
「ハッ。いいぜいいぜ、そう言うの。遠慮すんな。しょせん奴は、メガミサマなんて高尚なもんじゃねぇ。ただの三流の詐欺師だよ」
ペッカートは笑いながら、言った。
「奴のいう事は全部詭弁と論点そらしだ。そもそも本人に了解取っての事じゃねぇから契約としてアウト。っつうか、まず甘い汁吸わせて依存させて、そのあとに対価求めてるってぇ、なんだ? ダセェチンピラか? もっと口八丁で契約取れよ、無能。悪魔(どうぎょうしゃ)かと思ったが、それにしたってド三流だぜ、お前。そして」
ちらり、と女神を睨みつければ、『簡易封印』は完了する。女神の放つ炎の魔弾、それがあっさりと、かき消されてしまう。
「精神攻撃なんてセコイことする奴はな、自分が標的にされたときにみじめな姿をさらすもんさ。ド三流が賢しいフリすんなよ」
ぐり、と自身のこめかみに人差し指を突きつけた。理解したか? そう言わんばかりに。ペッカートは嘲る様に笑った。その時初めて、女神の表情が変わった。
慈愛などなく、慈悲などなく。
手札を使い切り、その醜き正体をさらす、みじめな詐欺師だ。
「おやおや、完全に形勢逆転デスね!」
『人造妖刀『神無』』を手に、美弥妃が駆けた! 魔力を込めた、妖刀の斬撃! 鋭い一閃が、女神の身体を切り裂いた!
「夢は所詮夢。あなたが何を喚こうと、これが本当の幸せではないといくらでもワタシは主張しましょう!」
「ひっ……!」
想定外の事態に、女神はたまらず、その身を引こうとする。
「逃がすわけ……」
「無いっ!」
だが、利香とシャルティエ、二人が女神を逃がすまいと、その進路を完全にふさいでいた。
「引っ込んでなさいこの神気取り! 人間の事は、人間が解決するわよ!」
「お前のいう事にも、一理あるよ。でも、お前がやってることは、絶対に、間違ってる!」
利香は『夢幻剣グラム』をきらめかせ、女神の心臓部を抉る。その性根を表らすかのようなどす黒い液体が、おぞましく噴出した。
「世界は変えられます。変えてやりますよ、私たちが!」
「僕はずっと、今日の事の、答えを探すと思う。探して探して……本当に、人を救えるようになるために」
シャルティエの、追撃の刃が、女神を切り裂く。
「……同胞よ。夢の世界の住人である僕らは叶えたいことは全て叶えられる。それが幸福だと思ったことがありますか? 僕には、ありません。だって僕らにとって、それは『当然のこと』なのですから。ですが、彼らはどうでしょう?」
静かに、幻が言う。
「苦しみを知ってるからこそ当たり前の幸せを知っている。苦しいこともなければ、幸せも、また、ない、この世界とどちらが幸福でしょうね?」
放つ刹那の疑似生命体が、女神へと襲い掛かった。まるで地の底より現れ、地の底へと引きずり込むように、疑似生命体は女神を押さえつける。
「放せ! 放せ!」
狂乱するように叫ぶ女神、その額を、真紅の銃弾が撃ち抜いた。
「永遠に寝てろ」
マグナがそう吐き捨てた時、世界が光に包まれて、そして――。
気づいた時には、イレギュラーズたちは瓦礫の廃墟にいた。
これこそが本来の、この街の姿なのだろう。
イレギュラーズたちはスリーパーを倒し、見事現実を取り戻したのだ。
澱んだ、重たい空気が、あたりに漂っていた。
重たい現実が、ここにあった。
女神のいう事は詭弁である。
だが、住民たちにとっての幸せとは何だったのか。その答えは、未だ見つからない。
その答えを出すのは、きっと、女神を倒す事なんかより、難しいだろう。
それでも。まずは、自分たちにできることをやろうと。
イレギュラーズたちは、そう思った。
現実を相手にした、イレギュラーズたちの本当の戦いは、ここから始まるのかもしれなかった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
イレギュラーズの皆さんの活躍によって、常夜の呪いは消え、住民たちはその命を救われ、街は現実を取り戻しました。
住民たちが、今後どうなるのか、それはまだわかりません。
ただ、彼らには、まだ、未来があります。
彼らはまだ、生きているのですから。生きている限り、未来は続くのですから。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
夢の中にとらわれた、住民たちを救い出しましょう。
●成功条件
スリーパー、『女神』の撃破
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●状況
とある天義の街、その『夜色の霧に覆われた区画』が舞台です。
内部の時刻は昼、天候は晴れ。ごくごく普通で当たり前の人々の営みが行われており、中には住民たちの姿も見えます。
この住民たちは、皆さんの存在を感知することもなく、また皆さんが干渉することもできません。幻影や、カゲロウのようなものだと思いください。幸せな夢の住人が、現実に関わる必要などないのです。
教会の内部には、大きな礼拝堂があり、其処にはこの街を守る『女神』が存在します。
『女神』の居る場所まで、妨害や、防衛部隊などは存在しません。『女神』との闘いに注力してください。
なお、ここは夢の世界ですので、縮尺は大幅に狂っていて、室内であっても、何不自由なく戦えるものとして考えてください。イレギュラーズ達がここで大暴れしても周囲に被害は出ません。
●エネミーデータ
スリーパー、『女神』 ×1
特徴
『絵にかいたような分かりやすい女神の外見』をしたスリーパーです。
慈悲と慈愛にあふれています。
中距離~超遠距離をカバーする単体神秘属性攻撃がメインの攻撃手段です。これには『業炎』のBSが付与されます。
少ないながらも回復能力もち。また、EXAもやや高めです。
また、以下の特殊スキルを持ちます。
スキル『精神攻撃』
効果:戦闘中に『幸せな夢のうちに眠っている彼らを起こし、苦しい現実を生きろというのか』とか、『このまま静かに死なせてやるのが彼らのためではないか』とか、『この夢を終わらせたお前たちを、彼らは呪うだろう』とか言います。
それ以外の効果は特にありません。
以上となります。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております。
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