PandoraPartyProject

シナリオ詳細

見えざる刃の彷徨

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●見たい知りたい。
 ウェストリス・カトゥスは好奇心でできている。
 東に不思議なことがあると聞けば走って行き、西に奇怪な事件があると知ればやはり走って行く。世界中を旅して回り、あれにもこれにも首を突っこみ、なぜか生き延びている男。
 それがウェストリス・カトゥスなのだ。

「キツネツキが町外れに出たって、聞いたか?」

 ゆえに幻想のとある町の小さな酒場で、喧噪に紛れる声でそんな問いかけが見知らぬ人物の口からこぼれたとき、ウェストリスは迷いなくフォークを置いて席を立った。
「詳しく」
「うおっ、なんだお前?」
「生首か?」
「首から下もあるからご安心を。それより詳しく! キツネツキってなにかな!?」
 聞き慣れない単語を放った男と、その連れらしき男が囲む小さなテーブルに顎と両手をのせて屈み、ウェストリスは目を輝かせ促す。
 男たちは不気味そうに顔を見あわせたが、やがて話し始めた。
「この地域を最近うろついてる、変な奴だよ」
「ふらふら歩いててな、川を渡ってきたのか、ずぶ濡れになってたこともあるらしい」
「それが最近、この町の外れでも目撃されたと?」
「ああ。これまでは近所の町で、出たらしい、って話が流れてくるだけだったんだが」
 彼らがキツネツキを恐れていることは、麦酒を飲んでいるにもかかわらず青ざめている顔から推測できる。
 しかし、「そうかいそれは怖いね、気をつけるよ」と切り上げないのがウェストリスだった。
「今どのあたりに?」
「さぁなぁ。見たやつの話だと、北に向かってるみたいだったが」
「見た目は? どうしてキツネツキなんだい?」
「お前、まさか会いに行くのか?」
 その問いにウェストリスはにんまりと笑っただけで、答えない。
 男たちは察したようで、嫌そうに眉間にしわを寄せた。
「やめとけって。他の町じゃ、もう何人も死んだり大怪我負ったりしてるんだぞ」
「どんな?」
「深い切り傷だと」
「キツネツキは刃物を使うのかい?」
「キツネを使ってんだよ」
「……ほう?」
 余計なことを言ったらしい。
 目を細めたウェストリスに男たちは即座にそうさとったが、発言の合間に飲んでいる麦酒に酔ってきたこともあって、会いに行ったとしてもどうせ遠くから眺めて帰ってくるだろう、という気になってしまった。
 酒の肴に怪談話をして、ウェストリスを驚かせたかった、という思いもある。
「キツネツキは黒服の男でな、近づくと切られるんだ」
「最初はなんでか分からなかったが、そのうちこんな証言をする奴が出てきた」

“あいつの上着からキツネが出てきて、切られた。”

「……なるほど。それでキツネツキ」
「そ。男はそう呼ばれるようになった」
「なんでこのあたりにいるのか。どこからきたのか。キツネはなんなのか。なーんにも分かってねぇよ」
「近づいたら切られる。それだけだ」
「ありがとう、助かったよ」
 ウェストリスは給仕を呼び、自身の会計に麦酒四杯分を足した金額を渡した。

 彼が颯爽と店を出た後、ウェストリスの奢りである新しい麦酒を前に、男たちは沈黙する。
 今さら心臓が冷え、冷静になっていた。
「……やばくないか?」
「……ああ、俺もそんな気がする」
「マスター! ローレットに連絡とってくれねぇか! さっき帰った男、死ぬかもしれねぇ!」
「はぁ!?」

●好奇心、男を殺す。
「こんばんは、皆さん。緊急事態なのです!」
 夜を迎えたローレットに、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が駆けこんできた。
「キツネツキという正体不明の歩く刃みたいな方が現れたのです。いえ、それについては以前から調査していて、実は正体も分かっているのですが、問題が起きてしまったのです!」
 キツネツキ討伐の依頼自体は一昨日、ローレットに舞いこんでいたのだ。
 しかしあまりにも詳細が不明であるため、ユリーカが調査を進めていた。二時間前に結論が出たため、夜が明けてからイレギュラーズを向かわせるつもりだったが。
「会いに行っちゃった方がいるのです……」
「その危ない奴に?」
「そうなのです。遠くから見るだけならなにも起こらないのですが、その方、危ないかもしれないのです」
「近づく危険があるってことか?」
「近づくどころか話しかけるかもしれないのです」
 なるほどそれは緊急事態だと、イレギュラーズは頬を引きつらせる。
「命知らずを救出、キツネツキを討伐、ってところか」
「その通りなのです。夜、平原での戦いになるのです。明かりをお忘れなく!」
「了解」
「キツネツキの詳細とキツネツキに会いに行ってしまった方の情報はこの紙に書いておいたのです。移動の途中にでも読んでほしいのです」
 準備を始めるために動き始めたイレギュラーズに、ユリーカは走り書きがされた紙を渡した。

GMコメント

 はじめまして、あるいはお久しぶりです。あいきとうかと申します。
 憑りつかれた男と、好奇心の塊。

●目標
 クダギツネの討伐。
 ウェストリス・カトゥスの救助。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ロケーション
 皆様が現場に到着するのは夜です。

 キツネツキの男は平原にいます。障害物はほとんどありません。
 
 ウェストリスは男の足元で血を流して倒れています。
 気絶していますがすぐに死ぬことはありません。8ターンは普通に生きています。

 満月に近い月夜です。
 光源がなくとも、よほど夜目が効かない方でなければある程度は見えるでしょう。
 しかし、光源があった方が戦いやすいのは確かです。

●敵
『クダギツネ』×20
 キツネツキの男から出たキツネらしきなにかの正体。
 体は向こうが透けて見えるほど透明で、細長く、イタチにも似ている。顔つきはキツネ。
 男に憑依して操り、近づいてくる人々を切り刻む遊びをしていた。

 負の感情をためこんだ怨霊の一種。名称は伝承に残る類似生物からとったため、仮称。
 戦闘が始まると男の体から一斉に出てくる。
 移動速度は速く、回避能力に優れるが、攻撃力と体力は低め。
 体力がなくなると消滅する。

 戦闘を満喫するため、キツネツキの男や不用意に近づいて勝手に負傷し気絶したウェストリスには見向きもしない。

・風刃:神近単…邪悪な感情がこめられた見えざる刃【連】【呪い】
・暗澹:神中単…闇の中で痛みを味わわせる【暗闇】【不吉】
・絶叫:神遠範…命あるものすべてに対する怨嗟【自身に再生50】【呪殺】
・道ずれ:神特特…消滅する寸前、周囲にいる者すべてを傷つける【至範他のクダギツネ以外】【呪殺】

●男たち
『キツネツキの男』
 ここから数キロ離れた町で平和に暮らしていた、人間種の男。
 本名はレコ・ディード。
 ある日、森の中でクダギツネの集団に襲われて憑りつかれ、自我を喪失。
 クダギツネが体からすべて抜け出すと倒れる。
 精神は相当弱っているが、息はまだあるため助かるかもしれない。
 自分がクダギツネに操られていた間の記憶はない。

『ウェストリス・カトゥス』
 赤茶色耳と尾を持つ、猫のブルーブラッドの男。
 自身の好奇心に従って旅をしている。
 何度か死にかけているが生きているので問題ない、というポジティブ思考。
 今回の件で懲りるということはない。
 戦闘終了まで気絶している。

●他
 春の夜、若草萌ゆる平原でおばけ退治です。

 皆様のご参加お待ちしています!

  • 見えざる刃の彷徨完了
  • GM名あいきとうか
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年03月15日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
シグ・ローデッド(p3p000483)
艦斬り
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
セシリア・アーデット(p3p002242)
治癒士
フィーゼ・クロイツ(p3p004320)
穿天の魔槍姫
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
タマモ(p3p007012)
荒ぶる燐火

リプレイ

●呪詛の夜
 満ち切らない白の月が、夜空でぼんやりと光っている。
 風が凪いだ平原にはかすかに血のにおいが漂っていた。黒衣の男がゆらりと、大げさに体を左右に揺らしながら振り返る。
 虚のようなその目が、二人の人物を捕らえた。男の中に入っていた恨みつらみの化身たちの間で歓喜が伝播する。
 獲物だ。敵だ。
「キイイ!」
 ガラスを引っ掻くような耳障りな音が男の体中から放たれ、同時に半透明の細長いなにかがその全身からあふれ出した。男は糸が切れた人形のように崩れる。
「……ふむ。いささか、数が多いな。が、問題ない」
 怨霊の群れに『『知識』の魔剣』シグ・ローデッド(p3p000483)が片手を伸ばした。ぱち、と彼の手のひらでなにかが弾ける音がする。
「纏めて焼き払うのみである」
 浮遊する怨霊、仮称クダギツネらに向けていた手のひらから、雷球のような物質を射出する。威嚇するように二人を見ていたクダギツネが散り散りに逃れようとするが、遅い。
 クダギツネらの真ん中、倒れる黒衣の男と負傷者にどうにか直撃しない位置に雷球が落下、炸裂。発生した強大な静電気がクダギツネらを痺れさせ、さらに副次効果で凍結させる。
「キイイイ!」
「ミルヴィ、あとは任せるぞ……!」
「任されたヨ!」
 身を翻し合流地点に向かうシグと入れ替わる形で、彼の隣に立っていた『寄り添う風』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)がクダギツネの群れに向かって走り出した。
「ちょっと危ないケド、やるしかない!」
 未が静電気の残滓が残っていたが、恐れずに突入する。
 イタチにも似た怨霊たちが、無機質な赤い目を一斉にミルヴィに向けた。
「おいで。アタシと一緒に行こう?」
 艶のある声を放った唇を三日月の形にゆがめ、ミルヴィは魔性の瞳でクダギツネらを見る。
「キイイ!」
「ほら、こっちだヨ!」
 耳元で放たれる鳴き声のうるささに顔をしかめながら、ミルヴィはシグが向かった方へと駆けた。
 彼女を襲いたいという衝動を抱いた多くのクダギツネと、獲物を求めるクダギツネらが濁流のようにミルヴィを追う。

 遮蔽物がない平原で、できるだけ身を低くしていた『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)がそっと移動を始める。
 ミルヴィがクダギツネを引き連れて去ったあとだ。少し先で戦闘が始まる音がする。幻はそちらをちらりと見て、夜闇を払う戦場の灯りに目を細めてから、迅速に行動を開始した。
「……生きていらっしゃいますね」
 小さく息をついてから、まずは黒衣の男を癒し、少し移動させる。男の下敷きになっていたもうひとりの人物にもメガ・ヒールを施した。
「これで大丈夫でしょう」
 立ち上がった幻は戦場に歩を進める。
「無粋なお客様には、ご退場願います」

 黒衣の男たちから離れた位置で、五名のイレギュラーズが待機していた。
「きた!」
 夜闇に身を潜めていた『治癒士』セシリア・アーデット(p3p002242)が小さく、しかし鋭い声で言う。クダギツネが出現、接近していることを察知したのだ。
 ほとんど同時にシグが合流した。
「初動は上々だろう」
「お二人はご無事なのでしょうか?」
「トドメになってないなら、幻がどうにかする」
 自身に祝福をかけた『自称・旅人』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)の問いに『『幻狼』灰色狼』ジェイク・太刀川(p3p001103)が応じる。
「おしゃべりはそこまでのようじゃ」
 美しい顔に憂いの色をのせた『荒ぶる燐火』タマモ(p3p007012)が無造作に手を振った。直後、赤い狐火が周囲を照らす。
 カンテラを持つセシリアが安堵と緊張を織り交ぜた声で彼女を呼んだ。
「ミルヴィさん!」
「ウワッ!」
 疾走してきたミルヴィの眼前に、一体のクダギツネが躍り出た。
「とまらなくていいわよ」
 言うが早いか、『黒曜魔弓の魔人』フィーゼ・クロイツ(p3p004320)がミルヴィの邪魔をするクダギツネに魔力で形成した黒い槍を放つ。
「キイイ!」
 身もだえるクダギツネを払いのけて、ミルヴィは前方に飛びこむように転がった。
 それより刹那早く、ジェイクの号令が月夜に響く。
「撃て!」
 真っ先にジェイクの回転式大型拳銃が火を噴いた。天に向かって放たれた弾丸は一発。だが、降り注ぐのは砲弾の嵐だ。
 圧倒的な火力がクダギツネの群れに炸裂する。
「……これは痛いぞ? 纏めて吹き飛びたまえ」
 黒い金属がシグの体を包み、人型から魔剣へと姿を変えた。刀身に炎に似た破壊のエネルギーが蓄積され、刃を振り下ろすことで解放を迎える。
「キイイイ!」
「殺戮をただ好むなど、獣畜生にも劣る……。同じキツネとして、妾がお灸を据えてやろう」
 柳眉を上げたタマモが手を打ち鳴らした。憎悪と苦しみの悲鳴を上げているクダギツネらを、殺傷能力を持った霧が包む。
「逃がさないわよ」
「キイイ!」
 幻が治療を行っている被害者たちの元へ帰ろうとしたクダギツネを、フィーゼが大弓型の魔具から射出した槍のような矢で刺し穿った。
「イテテ……」
「すぐに治療するね」
「お疲れさまでした」
 クダギツネを誘導する最中についたミルヴィの傷を、セシリアが癒す。さらにかけられた呪いの数々をヘイゼルが解いた。
「これからだけどネ」
 茶目っ気をこめて肩を竦め、ミルヴィは立ち上がる。轟音とともにクダギツネらを襲っていた攻撃が、ちょうど一時的にやんだ。
 セシリアとヘイゼルから離れ、ミルヴィはクダギツネらをひきつける。
「ホラホラこっちこっち! チップは弾んでネ?」
 怨霊たちに囲まれながら、ミルヴィは肌を傷つける不可視の刃を気にする風もなく、優雅に舞って古めかしいギターを掻き鳴らす。
「キイイイ!」
 彼女を呪い殺そうとしていたクダギツネらが、突如動きをとめた。ミルヴィの舞と魔眼にこめられた呪力が怨嗟でできたクダギツネさえも絡めとったのだ。
「動きをとめたから、今のうちに!」
「よいのかえ?」
「痛いと思うわよ」
 タマモがためらう。フィーゼはまだ動けるクダギツネの移動先を読んで槍を放った。
「気にしないでいーから!」
 ひゅんひゅんと素早く動くクダギツネは、イレギュラーズの攻撃をかわしてしまうことも多い。しかし、広範囲にわたる攻撃が重なれば、それも難しい。
 ただ、敵をひきつけその場にとどめる役目を持つミルヴィも、当然ながら巻き添えになるのだ。
「回復! 任せて!」
「ええ、僕も微力ながらお手伝い致します」
「幻……」
 決意を双眸にみなぎらせるセシリアの隣に、夢が急に形をとったようにふわりと、幻が姿を見せる。ジェイクが状況を確認した。
「あっちはどうだ?」
「ご無事ですよ。今はお休みになられています」
「そうか。……耐えろよ、ミルヴィ!」
「モチロン!」
「逃げるやつは私が落とすわ」
「力業じゃのォ!」
 赤かった狐火はいつの間にか黒く変質している。燃え盛るその明かりがタマモの声に同調するように小さく爆ぜた。フィーゼの魔具から槍矢が放たれる。

「シグさん、後ろ!」
「ああ」
 ミルヴィを襲う群れから外れたクダギツネがシグに接近する。見えざる刃を直感でかわしたシグの頬が浅く裂けた。二撃目があたったのだ。
 その様子を横目で見ながら、セシリアは戦場を見回す。シグはまだ大丈夫、他のイレギュラーズも持ちこたえている。
「ふむ」
 複数の策が同時にシグの脳裏に閃いた。単騎で攻めこんできたクダギツネの状態も加味して最良の判断を選択、すなわちここで倒す。
「キイイ!」
 連続で放たれる風刃を回避、次の一撃はシグの指先から流れ落ちた液体金属が弾いた。
「……斬りあいで、『剣』に勝てるとでも思ったかね?」
「キイ!」
 剣の形に再構築された金属が投射される。避けようとしたクダギツネは、行く手から槍が矢の速度で迫っていることに気づき、反射的に動きをとめた。
 その刹那の停止が命とりになる。
「キイイ!」
 再び液体に戻った金属が毒の如く半透明の体を蝕む。絶叫はしかし、イレギュラーズに不快感を与えただけだった。
「その攻撃は通用しません」
 心身を蝕む呪いを爆発させる引き金は、ただ夜気を裂くだけで効果を発揮しない。常に仲間たちの状況を超分析しているヘイゼルが、それを許さない。
「さて、頃あいだろうか」
 やみくもに放たれた攻撃は、不可視であってもシグに届くことはなかった。銀の刃が再びクダギツネを侵蝕する。
 シグが後退するとほぼ同時に、クダギツネの体の真ん中を黒い槍が貫いた。クダギツネは空気に溶けるように消えていく。

「手負いを確実に仕留めるのは常套手段」
 弱っている個体を見定め、槍やそれに近い形状の矢を射るフィーゼは、カンテラやランタン、狐火が照らす戦場を睥睨する。
「よく言うでしょ、手負いの獣ほど性質が悪い……ってね」
「ましてこやつら、生者を道連れにするつもり満々じゃからのォ」
 全く嘆かわしいとタマモが首を緩く左右に振った。
「クダギツネってキツネなのか?」
「厳密には異なるように見えます」
 ミルヴィを襲うクダギツネにジェイクが魔性の弾丸を叩きこみ、幻はどこからともなくとり出した疑似生命を敵の元に向かわせる。
「そのあたり、どうなの?」
 はぐれクダギツネの処理をするフィーゼが問いを重ねた。
「うーむ。まぁ、厳密にはキツネではないようじゃな。似ておるが、クダギツネでもないじゃろう」
 さらに加えるならタマモも正しくは炎の精霊種なのだが、細かいことは問題ではないのだ。
「キツネに似たモノが悪さをして、キツネの名を落とすなど、耐えられぬのじゃよ」
「なるほどね」
 槍矢を射てフィーゼは狩るべき命であるクダギツネを消滅させる。
「キツネでもなく、クダギツネそのものでもない、まがいものか」
「……タネと仕掛けが気になります」
「ああ。自然に発生して偶然あの男に憑りついた――って可能性も、ゼロじゃねぇだろうけど」
 ジェイクの直感がきな臭さをかぎとっていた。幻は浅く頷いて、ミルヴィにメガ・ヒールをかける。

 怨霊と攻撃が飛び交う戦場の、最も呪詛がはびこる位置でミルヴィは歌っていた。
 場違いなほど優しい音色を伴って、澄んだ歌声が春風のように優しく広がっていく。清流のような舞はクダギツネを魅了し、あるいは興奮させる。口の端には温かな笑みをたたえ、瞳は魔性の艶を帯びて怨霊たちを見据えていた。
「く……っ!」
 風刃が肌を裂き、鮮血が玉となって散る。視界が暗黒に包まれ、重なった呪いと痛みにミルヴィは奥歯を噛み、すぐに笑む。
「ミルヴィさん……!」
「その身を蝕む呪いは、残らず解けるものですよ」
 緊張した面持ちでセシリアがミルヴィを癒し、ヘイゼルが超分析によりミルヴィにかけられた呪詛を払う。
 それにあわせて、ミルヴィはギターを片手に持ったまま、儀礼曲刀を抜いた。
「逃がさないヨ!」
 熱狂的な剣舞がクダギツネの群れを襲う。
 かわし損ねた個体が妖剣をまともに食らって悲鳴を上げ、消滅した。寸前にミルヴィを道ずれにしようと突撃してきたが、彼女はそれを踊りながら回避する。
「まだまだ、アタシと踊ってもらうヨ?」
 その身に負荷がかかっているのはミルヴィだけではない。むしろ、仲間たちの支援により回復が可能なミルヴィにこそ勝ち目がある。
「……ま、痛いんだけどネ……」
 それでも負けるつもりなど少しもないと、誇り高き月夜の歌姫は高らかに勝利の歌を紡ぐ。

 敵の数もずいぶんと減ってきた。
 初めこそ群がる半透明の敵に隠れ、ミルヴィの姿が明瞭に見えないほどだったが、今では渦中で歌う彼女の姿が、ときおりクダギツネに遮られるもののはっきりと視認できる。
 それだけでセシリアの気は幾分か楽になった。
「ふぅ……。あと少し」
「はい」
 隣に立つヘイゼルがなにか考えている様子なのに気づき、セシリアは視線で尋ねる。
 大したことではありませんが、とクダギツネを観察するヘイゼルは前措いて続けた。
「あの数は元からそうだったのか、それとも憑いているうちに増えたものなのか、考えていたのです」
「多いよね。二十?」
 どう考えても人間ひとりにつめこみすぎだ。
「クダギツネを倒して終わり……、となるでせうか」
「裏に誰かがいるかもしれな、いっ」
 急接近してくるクダギツネに気づき、セシリアは反射的にそちらを向く。見えざる刃がとっさに防御姿勢をとったセシリアを切り裂いた。
「う……!」
「キイイ!」
「セシリアさん、こちらへ」
 敵をひきつけるため一歩前に出たヘイゼルと、下がろうとしたセシリアの眼前でクダギツネが燃えた。
「大事ないかのォ?」
「離れて!」
 風を切る音とともにフィーゼの黒曜魔槍が飛んでくる。セシリアとヘイゼル、タマモが退いた。身もだえていたクダギツネは体を貫かれ、怨嗟の声を吐き出しながら消滅する。
「ありがとう、助かったよ」
「妾らこそ、よぅ助けられておる。感謝するぞ」
 呵々、と笑ったタマモがミルヴィから離れようとしているクダギツネを仕留めに行く。
 フィーゼはセシリアとヘイゼルの無事を確認すると、大弓型の魔具から槍矢を放ち、手傷を負ったクダギツネたちの始末にかかった。
 自身の傷を浅いと判断し、セシリアは戦場を見渡す。
「勝って、お説教しなきゃね」
「ええ」
 黒衣の男とともに倒れている、好奇心に満ちた男のことを考えて苦笑した。

 ミルヴィがクダギツネの動きをとめる。
「ようやく終わりが見えてきたな」
 シグの手から放たれた雷球がミルヴィからやや離れた位置に着弾、彼女ごと強烈な静電気のまばゆい光で包む。すぐさまヘイゼルが超分析でミルヴィのみを回復した。
「興味深い敵だったぜ」
 油断のない口調で言いつつ、ジェイクはクダギツネを撃つ。
「ふむ。持ち帰って解析することは難しいだろうな」
「箱に入れて持ち帰られるほど、安全な生き物では御座いません」
 挙句に死体は消えるのだから、ローレットで正体を探ることは難しい。
「怨念の寄せ集め……。とはいえ、それが本当に正確か。霊体の類として断定していいものか。或いは……」
「連中が起きたら、聞きたいことが山積みだぜ」
「どうかお手柔らかに。特に憑りつかれていた方は精神の損耗が予想されます」
「ああ」
 神妙な様子でジェイクが頷く。幻はかすかに笑んで、華奢な白い指を虚空で躍らせた。放たれた無数の糸が、クダギツネの一体を拘束し切り裂く。
「残り三体」
「キイイイ!」
 一体のクダギツネが三人の方へと突進してくる。
 シグが動じることなく地面から拳型の土塊を突き上げるように生やした。宙返りをしてそれをかわしたクダギツネを、幻が無数の糸でがんじがらめにする。
 すかさずジェイクが精度と破壊力を誇る大口径の回転式大型拳銃、狼牙の口から光柱を発射。それが途切れると同時に、シグがさらに土塊でクダギツネを殴った。
 怨霊が道連れにするのは、消滅する際に近くにいる者だけだ。距離をとっていればその呪いは確実に届かない。

 最後の一体をミルヴィの儀礼曲刀が切り裂く。すかさず離れたとこで、フィーゼの槍がとどめをさした。
「キイイ!」
 生者すべてを呪う声が、ほつれるように消えていく。
「はぁ……っ」
「ミルヴィさん!」
 たまらず膝をついたミルヴィに、セシリアが駆け寄った。先ほど癒したばかりなので傷はない。ただ、蓄積した疲労がミルヴィの息を上げていた。
「立てる?」
「……ん、よし、大丈夫だヨ!」
 ためらいがちに差し出されたフィーゼの手を借り、ミルヴィは立ち上がる。
 イレギュラーズの視線は、被害者と好奇心で死にかけた男が倒れている位置に向けられていた。

●キツネとネコ
 目を覚ましたウェストリスは、黒衣の男の隣で正座していた。イレギュラーズがその周囲をとり囲んでいる。
「好奇心は猫を殺すって、知ってたか?」
 ジェイクの鋭利な双眸に見下ろされ、ウェストリスはぎこちなく頷いた。
「自分の身も守れないのに危ないところに行くな! もう! そんなんじゃ珍しいものも見れやしないんだから!」
「珍しいものを求めてたらこうなったっていうか……」
「もう少し考えて、準備してから行動してほしいな。本当に死ぬところだったんだよ?」
「安全な方法を握り置いた上で、好奇心を満たしてはいかがでせう」
「う……」
 腰に手をあてたミルヴィとセシリアに叱られ、ヘイゼルにたしなめるように提案され、ウェストリスは三角耳を下げた。
「カトゥス様」
 口の端を少し上げた幻が、彼の前に屈む。
「僕の奇術のタネを明かすことができたなら、死なない程度に好奇心のままに行動してもいいですよ」
「いいんですか!?」
「はい。命の恩人のお願い、ちゃんと聞けますよね?」
「そりゃもう。要監視になるかとドキドキしてました。ふっふん、手品のタネ、見破りますよ!」
 やる気満々のウェストリスに幻は淡い笑みを浮かべたまま、どこからともなく小鳩やペン、子猫、書簡などを出しては消す。
 余裕の表情を浮かべていたウェストリスが、見破れる気がしない手品に頬を引きつらせたのは、間もなくのことだった。
「目が覚めたかね?」
「……ここは……」
「町外れの平原よ。自分の名前、言える?」
「……レコ・ディード……」
 キツネツキの男、レコはシグとフィーゼを交互に見て、イレギュラーズを順に、ぼんやりと眺める。
「相当な量のクダギツネに憑りつかれていたの。普通なら間違いなく精神がやられてるわ。よく耐えたわね」
「……キツネ……」
「そうじゃ。すまんかった」
 フィーゼの説明に瞬いたレコに、タマモは深く頭を下げた。
「同じ狐のしでかしたことじゃ。妾が謝る。どうか狐を嫌わないでおくれ」
 クダギツネもどきの仕業とはいえ、人々にとってはやはりキツネの仕業なのだ。心をこめて謝罪するタマモに、レコはゆるゆると首を左右に振った。
「ぼく、覚えてないですけど……。どうか、顔を上げてください……」
「クダギツネとはどこで会った? まだしんどいかもしれねぇが、覚えてる範囲でいい。教えてくれ」
 ジェイクはクダギツネを操っていた存在を疑っている。鋭い嗅覚が感知したのは金の匂い、次の仕事の匂いだ。
 レコは断片的な記憶を探り、ぽつぽつと話し始めた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。

レコが話した断片的な情報から、やはり仮称クダギツネが憑依したのは偶然ではなく、何者かの仕業である可能性が高いことが判明しました。
ローレットは犯人の調査を開始します。

レコは近くの町の診療所で療養中です。
命に別状はありませんが、精神状態が回復するまでもうしばらくかかりそうです。

手品のタネを最後まで見破れなかったウェストリスは「自粛は……試みる……かな……?」となんとも曖昧なことを言ってふらりとどこかに行きました。
とはいえ、彼なりに「命の危険は回避する」方法を考えることにしたようです。

ご参加ありがとうございました!

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