シナリオ詳細
テンペリストの神託
オープニング
●神託の夢
その日、天義東部のオーハーサの街の聖堂で、司祭として従事するテンペリストは夢を見た。
荒涼たる岩山の登山道と思しき光景。そこを登り歩く自身と八人の勇者。
山道にはまるで入山者を拒否するかのような魔の物が存在し、自身の進むべき道を阻む。
戦闘能力など持たない自身は、同行する八人の勇者の力を頼り、時に傷を癒やし神の祝福を与え、待ち受ける魔の物を打ち倒していった。
そうして山の頂へと辿り着く。
そこに存在する小さな祠。魔の物を封印していたと思わしき祠だ。
封印の術式に綻びが生まれ、魔の物達が現れていたのだろう。そうだ、自身はこれに再び封印の術式をするために、神に使わされたのだ。自明のままに術式を施すと、おぉ何と言う事か。黄金色に輝く小さな小石が生まれるではないか。
これぞきっと神のもたらした輝石に違いない、と小石を持ち帰り聖都フォン・ルーベルグの大聖堂へと献上するのだった。
そこで、夢は途切れた。
目を醒ましたテンペリストは、今見た夢を忘れぬようにと日記に書き記す。きっとこれは何かの神託に違いないのだと、頭の中で夢を反芻し続けるのだった。
それから数日後、テンペリストの耳に一報が入る。
天義西部の大峰、オクロク山の山道に魔物の出現が確認されたのだ。
文献を調べればオクロク山の山頂には、聖ミルト・オズバーンという人物が付近に住まう魔の物を封じたというダスクという祠があることがわかった。
テンペリストはこれこそ夢に見た場所に違いない、あの夢はこの自体を知らせた神託に違いないと考えた。
で、あれば。自身が赴くほかにない、と考える。
そうなると、同行した八人の勇者の存在が気になった。
あの姿は、天義の神官騎士でもなければ、聖堂を守護する聖騎士でもない。
そう格式張った者もいれば、そうでない者もいる。自由なる者達。それは噂に聞く特異運命座標のようだと。
思いついたテンペリストはすぐにローレットへと赴いた。
オクロク山の魔物を討伐し、封印の術式を為す、その為の精鋭を求めて。
●
「以上が概要になるわ。
テンペリスト司祭を護衛し、天義西部のオクロク山を登頂。封印術式の完成までを見守る。それがオーダーとなるわ」
『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)がそう言って依頼書を手渡す。依頼書には調べ上げたオクロク山の登頂ルートに、魔物の分布が記されていた。
「魔物の中核は凡そ三つに分かれているわね。三合目登山口、五合目中腹、八合目山頂付近というところかしら。
ご丁寧に上に行けば行くほど敵も強くなるようだから、最初から飛ばし過ぎないように注意が必要ね」
確認されている魔物のデータもいくつかある。対策を立てて挑むべきだろう。
「注意しないといけないのはテンペリスト司祭は戦闘行動が取れない事、それと老齢だから急な登山も身体の負担を考えると難しいでしょうね。
登頂ルートは記した通りの固定になるでしょうから、余り考えなくていいわ」
魔物達の数もそれなりにいる。しっかりとテンペリスト司祭を護衛する必要があるだろう。
「というわけで、依頼の方は頼んだわよ。
ふふふ、神の使わした八人の勇者だなんて、ちょっとファンタジックな響きよね」
そう、くすくすと笑ったリリィは、登頂の準備へと向かうイレギュラーズを見送るのだった。
- テンペリストの神託完了
- GM名澤見夜行
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年03月15日 22時30分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●三合目
天義西部オクロク山の山道を、イレギュラーズとテンペリスト司祭が登っていく。
比較的若い(半数は年齢不明だが)ようにも思えるイレギュラーズであればそう苦労はしない山道だが、同行するテンペリスト司祭には体力的にもキツい道となるであろう。登り初めて数十分、少しばかり息を切らしたテンペリスト司祭のペースが落ちてくる。
「いや、すまないね。
まだまだ若いつもりでいたが、身体は無理を聞いてはくれないものだ」
夢の中ではスイスイと登ったものだが、などと苦笑するテンペリスト司祭。側に付き添う『天穹を翔ける銀狼』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)がニヒルに笑う。
「体力的な衰えはあるでしょう。
しかし授かった神託の通りに行動する、その行動力は素晴らしい。中々出来る事ではないでしょう」
魔物犇めく山へと登って事を為す。六十四を迎えた老司祭には中々に険しい神託であるが、体力的な事を覗けばテンペリスト司祭は意欲的であり、必ず成し遂げるという気合いを感じられた。
「ふふ、とはいえ怪我したり倒れられても困るからな。
テンペリスト司祭はご自身のペースで大丈夫だ。露払いは任せてくれ」
岩の足場の安定性を確認しながら『優心の恩寵』ポテト チップ(p3p000294)が気遣う。テンペリスト司祭も意地を張っても仕方なしと「そうさせて頂きましょう」と額の汗を拭いながら頷いた。
ちなみに司祭は『不屈の紫銀』ルーミニス・アルトリウス(p3p002760)が用意したHMKLBには乗らなかったようだ。一応荷物は預けてくれたようだが。
「式を介添えしておきますから、利用してくださいね」
神託を成す勇者役と聞いて喜んだ『瞬風駘蕩』風巻・威降(p3p004719)が呼び出した上位式をテンペリスト司祭の側に置き、登山の手伝いを行わせる。こうしたイレギュラーズの気遣いは散見されて、テンペリスト司祭の登山の助けとなっていた。
一時間ほど登ったところで、一行は三合目に差し掛かる。
「ん……あれは……!」
ギフトの犬を先行させ囮――もとい、偵察を行うルーミニスが気配を察して目を凝らした。
視線の先、平坦となった道の上に、黒い塊のようなものを見つける。塊には手足が生えていて、周囲にある岩を自身の身体に取り込むように喰らっていた。
「おー、小人! 小人!」
『原始力』リナリナ(p3p006258)が声を上げる。
追いついたテンペリスト司祭もその姿を確認して口を開いた。
「おぉ、アレこそ邪気に当てられ変貌を遂げた精霊達に相違ない。
ああなっては既に手遅れだろう。皆さん、どうか彼等に神の慈悲をお与え下さい」
素早く聖印を切ったテンペリスト司祭。聖言と共に神へと祈れば、祝福となってイレギュラーズを包み込んだ。身体が軽くなる。
「ありがとう。
それじゃ我(わたし)達は手筈通り行こうとしましょう?」
「らじゃー、です!」
『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)に促されて、作戦の要たる『圧倒的順応力』藤堂 夕(p3p006645)が得意げに敬礼した。
――数の多いこの堕ちた精霊達に対して、イレギュラーズは一網打尽を試みる。
「まずはこの辺りにテントを立てて……っと!」
夕がコロボックル達から離れた場所に簡易テントを設営しするのを確認すると、夕とルーミニスの呼び出した犬以外のメンバーが岩陰に隠れる。
準備が整ったのを確認すると、夕は一つ深呼吸。そして覚悟を決めて、コロボックル達の元へと近づく。すぐにコロボックル達がギラリと黒い肌に隠れた瞳を見開いて夕の元へと殺到する。
「わー! 来た!
……って遠距離攻撃もしてくるよね……!?」
テントへと逃げ出す夕の背に向かい神秘的な波動が放たれる。急所に当たらない事を祈りながら、山道を駆け、テントの中へと逃げ込んだ。
テントは裏にもう一つ出入口がある。夕はそっとそこから抜け出すと武器を構えコロボックル達の様子を確認する。
山に置かれた人工物(テント)。そこに入った人間へと邪悪な波動を打ち出していくコロボックル達。
――かかった。
夕のみならず、岩陰に隠れていたイレギュラーズがそう判断すると同時に飛び出して、テントに夢中になっているコロボックルを取り囲む。
「ホラ、慣れてるでしょ!」
コロボックルが散々にならないように呼び出した犬に指示をだし、逃げ道を塞ぐルーミニス。同時コロボックル達が並ぶのを見れば、全力全開出し惜しみなしの全てを貫く衝撃波を放つ。岩粒を吹き上げながらコロボックル達に容赦の無い傷を負わせていく。
ルーミニスの攻撃を合図に全員が得意技を放って一挙に仕留めに掛かった。
「ふん、彼奴(ルーミニス)にだけ良い格好はさせぬぞ。
――参るッ!」
仲間が仕損じた敵を目がけ高い反応を示した『五行絶影』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が疾駆する。
仲間の攻撃に合わせ飛ぶ斬撃を放ちながらも加速は止めず、敵の思考の隙間へと入り込む迅速さで一気に肉薄すれば、練り上げた金行のマナを超硬度の結界刃と成して、神速の刺突を繰り出す。その一撃が黒い肌を刺し貫いて、悪辣に堕ちた妖精に不苦の死を与えるのだった。
夕が身体を張ったこの作戦は、コロボックル達の不意と先手を取るのに十分な効果があったと言えるだろう。
耐久力もそう高くなかったコロボックル達は、見事に狙い通り一網打尽とされ、その動きを止めるのだった。
「お見事です。この妖精達も苦しみから解き放たれ世界へと還元されていくでしょう……願わくば死後の道行きに神の聖導があらんことを……」
消滅していく妖精達の冥福を祈りながら、テンペリスト司祭が聖印を空に刻みつけた。
「……傷の手当てを致しましょう。まだまだ先は長いですからね」
「ああ、私も手伝おう」
優しく微笑んだテンペリスト司祭に頷いて、ポテトも仲間達の手当へと力を行使する。
次なる敵は、暗き鎧に身を包む暗黒騎士達だ――
●五合目
剣戟が霊山に鳴り響く。
五合目へと辿り着いたイレギュラーズ一行は、待ち受ける敵との戦いに臨んでいた。
穢された聖騎士の魂が三つの実体を持ち、暗き黒曜の騎士としてその禍々しい大剣を振るう。
戦鬼の一撃は威力こそ低いものの、イレギュラーズの体勢を崩すには十分な力を持つ。押さえに回る汰磨羈とゲオルグが防御を崩されながらも、二体の注意を確実に引いていた。
「二人が抑えてくれている内に、確実に数を減らすとしましょうか。
――破軍疾走・蹂躙怒濤(フルーカス・エト・テンペスタス)。歩兵は騎兵によって蹂躙されるのだわ――!」
レジーナの持つ権能が戦車や軍馬を召喚する。呼び出されたそれらが圧倒的な突撃粉砕の力を持って孤立する暗黒騎士(ダークセイバー)を挽き潰していく。
速やかな各個撃破を狙うイレギュラーズの隊列・陣形は、防御に特化した暗黒騎士相手には確実性に富んだ戦い方といえるだろう。
高い防御技術を持つゲオルグ、次いでバランスの良い汰磨羈が抑えに回るのも順当であり、同時に高い攻撃力を持つレジーナとルーミニスが攻撃手に回っていることは役割分担として最適解だったと言えるだろう。
事実、暗黒騎士達はゲオルグと汰磨羈の二人に攻めあぐね、残る一体も叩き込まれる連続攻撃にもはや虫の息だ。
「オ――! トドメ! 突撃!」
やや勾配のきつくなってきた斜面を考慮し、ジェットパックで地形を無視した突撃を敢行するリナリナ。野生の勢いままに身体を捻って何も無い空間に攻撃を放てば、その力は原理不明なれど暗黒騎士へと襲いかかり、防御に遅れを取った暗黒騎士はついに力尽きた。
「次――! そっちいくわよ!」
「――心得ておるよッ!」
互いにライバルと認め合うルーミニスと汰磨羈の二人が、声を掛け合い連携する。
汰磨羈が暗黒騎士の大剣を弾き隙を生み出すと、ルーミニスが自身の身体の負担も無視した得意技ヴァナルガンド・インパクトを放つ。
防御を無視し、恍惚へと至らせる一撃が暗黒騎士に更なる隙を生み出させる。斜面に足を取られ無防備を晒したのだ。
「ああ。文字通りに”運が悪かった”な、御主」
自身の放った絶剣による効果を見て、汰磨羈が薄く笑った。背後から威降が飛び出す。
「チャンスは逃さないよ。
――風巻流小太刀、奥伝の一。颶風穿ッ!!」
体勢を立て直す間もなく、至近より無拍子しで放たれる神速の刺突。実体持つ暗黒騎士の鎧を穿ち、その魂魄に今一度死を与える。
苦悶、怨嗟、そして解放への安らぎと感謝の言葉が霧散して二体目の暗黒騎士も消滅していく。
「ふぅ、なんとかなりましたね!」
額の汗を拭いて、夕が快活に声をあげる。その様子を横目で見ていたゲオルグが暗黒騎士の大剣を躱しながら言葉を零した。
「一息ついたところ悪いが、そろそろ此方の相手もして貰いたいところだ」
笑みを浮かべてはいるものの、一人で抑え続けるというのも中々に骨の折れるものである。
「おっと、そうでした!
気を抜くのは残りを倒してからですね!」
言うが早いか、イレギュラーズは残る一体へと攻撃を集中していった。
「さすがに連戦となると、すぐに直せない深い傷もでてくるな。
できるだけ次に影響のないようにしたいところだが……」
暗黒騎士達を倒し終えたイレギュラーズは、三合目の時と同じように傷の手当てを行っていた。担当するのは仲間達を支えるポテトと、テンペリスト司祭だが、回復することのできるゲオルグも手伝った。
特にポテトの祝福による諸々の充填は、魔物討伐を兼ねたこの登山では必須とも言えるものであり、ポテトのお蔭で、常に全力で戦う事ができたと言えよう。
「おー、元気回復!」
お昼も兼ねて肉を食べてリナリナも満足満腹だ。
「ここから先が一番の難所とも言えるな。皆注意して行こう」
ポテトの言葉に一同が頷く。
先の急勾配な岩肌を仰ぎ見ていると、レジーナが口を開いた。
「勾配もキツい斜面になってくるのだわ。用意した登山道具も活用していきましょう」
「これは助かります。準備も計画も十分なものですね」
用意の良いイレギュラーズに、テンペリスト司祭が喜色の笑みを浮かべた。
●八合目
岩の上を確りとした足取りで一歩ずつ登っていく。
山頂付近へと近づくと、まともな道はなくなって、岩の塊が重なり合ったような――まさに山の岩肌を登っていく事になる。
老体にはキツい勾配だ。先ほどからテンペリスト司祭の荒い息づかいだけが聞こえている。
夕のように媒体飛行を用いての楽々登山や、それこそルーミニスが用意したHMKLBに乗るということも手段の内にはあったが、テンペリストの信仰心はそれを良しとはしないのだ。自らの力で全うすることこそが、神の神託に他ならないと、無理を通し歯を食いしばりながら険しい道を登っていた。
その苦労はもうすぐ報われるだろう。
仰いだ視界の先、稜線の頂上に小さな建造物――祠が見えた。あれこそ聖ミルト・オズバーンが付近の魔物を封じたというダスクに他ならない。
「さあ、もう少しです。頑張りましょう――」
ゲオルグがそうテンペリスト司祭に声を掛けるのと同時だった。
「!? ――気をつけてください!」「来たわよ!」
先行偵察を行う夕とルーミニスが声を上げた。声に反応して姿勢を低くしたイレギュラーズ達の上空を何か大きな影が駆けた。頭上を殺意が走った。
影はイレギュラーズの背後に着地、止まる事を知らずに稜線を駆け上り、イレギュラーズの上を取ると岩を蹴り飛ばし落石させる。
「落石! 注意――!」
「この――ッ!!」
威降が声を上げながらテンペリスト司祭を誘導し、汰磨羈が頭上より転がってくる人一人飲み込みそうな巨大な岩を弾き、斬り飛ばす。
「おー、動物顔のデカイおっさん!」
「岩を転がしてくるなんて単純ながらセコイ攻撃してきますね……!」
イレギュラーズが見やるその影は、山羊とも虎とも取れる頭を持ち、二対の大剣を構え怒りの形相を浮かべていた。
アモス。
聖ミルト・オズバーンが多大な代償と引き替えに封じたという忌まわしき異形の怪物。
『グモォォォ――!!!』
低い唸りから空へと響き渡る怨嗟の雄叫びを上げ、蓄えた力を両の足に注ぎ込んで怪物が走った。
「早いなッ……! 司祭は避難を――!」
「心得ているのだわ――ッ!」
高いアモスの反応について行ける者はいなかったが、接敵前から警戒を高めていたレジーナだけは司祭のカバーに回る事ができた。司祭を安全な場所へと避難させつつ、これまで使用を控えていた権能――黒薔薇の花弁が咲き乱れ、アモスを状態異常で縛り上げる。
だがアモスの勢いは止まる事を知らない。
暴嵐たる斬撃の雨がイレギュラーズを襲い、回避し損ねたリナリナがその嵐に飲まれ為す術無く岩肌に叩きつけられ転がった。
「回復は任せる――厄介なその足、潰させて貰うぞッ!」
汰磨羈が稜線を駆ける。アモスの左側面に回り込むように疾走しながら、隙を見てその懐を肉薄する。
片側側面より接敵したことが幸いしたか、アモスの振るう多重の斬撃に綻びを見つける。大装甲を盾に死を乗せた刃をかいくぐり、強引にゼロ距離へと踏み込んだ。
「荷重が掛かった瞬間なら、急激な回避はできまい?」
言葉通り、逃げようとしたアモスが両足に力を入れているところだった。厄狩闘流『破禳』がその力を示すようにアモスの弱点たる膝を穿ち破壊する。痛烈な叫びが上がった。
「まったく、無茶するんだから! 畳みかけるわよ!!」
そういうルーミニスもここまで何発も放った技によって身体はボロボロだ。だが、汰磨羈には負けられないと構わずに大技を放っていく。
「二対の大剣なんてやるじゃない! でも、負けてやるつもりはないわ!」
恍惚によって生まれた多大な隙を、ルーミニスは逃さない。パーティー最高の威力を持った憎悪の爪牙が圧倒的な蹂躙を見せ付ける。
「おっと、これ以上先へは行かせんよ」
反撃を行おうとするアモスをゲオルグがブロックする。高い防御技術を誇るゲオルグは、振り下ろされる大剣の暴威を往なし受け流す。
「大丈夫だ。支えてみせるよ」
ポテトの治癒の支えと合わされば、まさに鉄壁の聳え立つ大峰。暴力の権化たるアモスを前にしても一歩も引く事はない。
「壁は十分……なら最後の力全力でぶつけさせてもらうよ!」
岩肌覗く稜線を駆ける様はまさにスタイリッシュ。威降が疾駆しアモスを間合いに入れれば、振るわれる大剣飛び交わし、身体を捻りながら放たれる神速の突き。アモスの皮膚を刺し貫いて、大量の血を噴き上がらせる。
「これで、トドメですよ! おいでませ!!」
夕が空高く手を上げれば、輝きと共に陣が描かれる。空想を権限させるイマジナリーオーダーは、夕を取り巻く状況と心情に強く影響を受ける。
山と信仰、それに同行する勇者。状況と思いは、かつて山を作り上げたという巨人を顕現させるに至った。
「いっけぇ――!」
振り下ろされる巨人の拳がアモスを叩き潰す。イレギュラーズによって多くのダメージを負っていたアモスに、これを耐える力は無く、低い呻きと共に黒いオーラを霧散させながら消滅していった。
「おぉ……見事です……!」
隠れ見守っていたテンペリスト司祭が、感激の声を上げた。
●斯くて神託は成った
「神よ。災禍招き入れる暗き不浄たる怨念御魂を鎮め、清浄静謐たる神の聖域を刻み込み、この地に安寧たる楽園を築きたまえ」
テンペリスト司祭の封印術式が完了すると、祠――ダスクを覆っていた黒き不浄なオーラが霧散して、次第に祠の周囲に心安らかな暖かい光が漏れた。
光はやがて一点に集中し……おぉ何と言う事か祠に置かれていた小石が見事な黄金色の輝きを放ち出すではないか。
テンペリスト司祭はまさに神託通り、神の奇跡の成せる技だと顔を綻ばせたが、こういったことに疑い深いイレギュラーズの面々は警戒色を露わにしながらじっくりと光輝く小石を見た。
「妙な気配はなさそうね……でも持ち帰るまでしっかり監視するのだわ」
「ふむ……なるほど確かに怪しい気配はないか。内部に……これは聖刻が刻まれているのか? 神の奇跡というものは確かにあるようだな」
レジーナは使い魔に命じ、ゲオルグはアナザーアナライズで解析を試みる。
「むぅー怪しいわね……でも怪しくない……むぅー」
アモスの大剣をがんばって持ち上げていたルーミニスも小石の側へと駆けつけて訝しげに睨む。
「封印したわけではないのか? この黄金色の石は何か。気になるな、凄く」
釣られて汰磨羈まで、そう言葉を零した。
実に職業病と言う奴だろう。警戒を露わにするイレギュラーズにテンペリスト司祭が声を上げて笑った。
「まあ実際この後に何が起こるかはわかりません。
夢は此処で終わりましたが――」
「ああ、
輝石を大聖堂に献上するまでが神託、だな」
ポテトも薄く微笑んで、下山の準備を始めた。
こうして、司祭テンペリストの夢は事実の物となり、奇跡の賜たる黄金の石は大聖堂へと献上された。
噂はすぐに広がって、神託を担ったテンペリストの名声は高まった。そしてそれは、共に神託を成した八人の勇者も同じであり、その名はオーハーサの街を中心に、吟遊に語り継がれる事となるのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
澤見夜行です。
皆さんのおかげで無事にテンペリスト司祭が受けた神託は成就したと言えるでしょう。老齢の司祭にも良く気遣っていて良かったと思います。
光る小石は大聖堂で聖物として認定され保管されたようです。何事もなくてよかったですね。
MVPは弱点を突きアモスの機動力を奪った汰磨羈さんに贈ります。
身体の負担もなんのそのだったルーミニスさんには称号が贈られます。
依頼お疲れ様でした。次なる依頼も頑張って下さい!
GMコメント
こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
神託を履行せんと司祭が奮闘するようです。
司祭を護衛する八人の勇者となって、依頼を遂行しましょう。
●依頼達成条件
三合、五合、八合目の魔物の討伐。
司祭テンペリストが無傷であること。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は起きません。
●魔物達について
■三合目・登山口 ヴォイド・コロボックル 六体
山に住まう精霊コロボックルが魔物達の邪気に染まり魔物と化した。
戦闘能力はそう高くないが、高い神秘攻撃力による一撃は手痛いダメージとなるでしょう。
先手を打って倒す事が肝要です。
■五合目・中腹 ダークセイバー 三体
祠に封印されたヴォイドオーラが流出したことで亡くなった聖騎士達の魂が汚染された。
暗黒騎士と化した亡霊が山を彷徨っているようだ。
防御技術に富み、高い耐久力を保つ近接ファイター。
反面攻撃力はそう高くないので、距離を取りつつ、集中攻撃で各個撃破したいところでしょう。
戦鬼暴風陣によく似た技を使ってきます。
■八合目・山頂付近 アモス 一体
ヴォイドオーラを撒き散らす異形の怪物。体長三メートルはある巨躯に隆起した肉体。山羊とも虎ともとれる頭を持ち、二対の大剣を構える。
高い反応と機動力に特殊抵抗値、そして高めのCTとEXAで敵を一掃する強敵。
防御を考えない暴風の如き攻めが特徴だが、反面それが弱点となるはず。
押しつけてくる戦闘スタイルをどういなせるかが勝負の分かれ目でしょう。
●テンペリスト司祭について
六十四才。オーハーサの街の聖堂に住む司祭。
戦闘能力はないが、高い神秘力を宿し、傷を癒やし祝福をかける神の奇跡を行使する。
体力の衰えを感じているが、必ず神託を為してみせると意欲的。
戦闘時以外での治療は行ってくれます。要請すれば戦闘前に能力向上のバフをかけてくれるでしょう。
●戦闘地域
オクロク山登山道になります。時刻は早朝から夕刻。
大きな障害物等なく、戦闘に支障のない場所となりますが、高所へ行けば行くほど、足場は急な斜面と岩場になり、不安定となるでしょう。
そのほか、有用そうなスキルやアイテムには色々なボーナスがつきます。
皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
宜しくお願いいたします。
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