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シナリオ詳細

<ゲノム解析>ドスケベ未亡人とメタルゴリラ博士

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●二つの依頼が重なるとき
 ローレットは広く依頼の窓口を開いている。
 幻想国内に限定しても、村娘から大貴族、果ては亜人族やモンスターのたぐいですら依頼主になりえた。
 ゆえに二つの依頼内容が大きく被ることも少なくない。
「こちら、ドスケベ未亡人さん」
「よろしくおねがいします。主人がオオアリクイに殺されて一年半がたちました」
「それでこちらはメタルゴリラ博士」
「ワレ……ハカセ……カシコイ……」
 けどこのケースは見たことないなあ。
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)は、後にそんな風に語ったという。

●ヒトクイオオアリクイ変異種についての調査と駆除
「ドスケベ・ピンナァープ博士はヒトクイオオアリクイ研究の権威で知られる生物学者だ」
「ドスケベ未亡人と呼んでくださいね」
 依頼人であるドスケベ未亡人はカナド地方に発生するようになったヒトクイオオアリクイ変異種のサンプル獲得を求め、ローレットを頼った。
 これによって便利な薬が開発されたり、何かしら人の役に立ったりすることはそうそうない。
 研究者である彼女にとって、サンプル獲得はそれ単体で意味のあることだ。そして研究とは、役立つかどうかは重要では無い。いつか役に立つ。少なくとも知識を深めることで、いつか。
 その一方で。
「こちらはカナド地方で有害動物駆除の薬品を研究しているメタルゴリラ博士だ」
「ドウブツ……コロス」
 ライトグリーンの目を光らせ、金属めいた体表を叩くメタルゴリラ博士。
 こちらは実際的に役立つ研究をする人間だ。研究者というより、商品開発者と言った方が適切だろう。
 カナド地方に出現したヒトクイオオアリクイ変異種を駆除し、できればサンプルも回収したいということらしい。
「ドスケベ未亡人氏とメタルゴリラ博士は同じ学者だけど面識はないらしいね。けど依頼内容……というか、実際的にやることは同じだ。二つの依頼を合同で投げることになったみたいだ。
 作業内容はシンプル。ヒトクイオオアリクイ変異種を倒すこと。
 といっても……ここがちょっと難しそうなんだけどね」

 ヒトクイオオアリクイ変異種。
 もとの動物に詳しいドスケベ未亡人が黒いベールの下から青い目を光らせた。
「元々ヒトクイオオアリクイは普段フィートアンツなどの大型昆虫を主食としていますが、特定の季節になると冬眠に備えるため山羊や鹿、または人間などの哺乳動物を獲得して補食します。
 よほどのことが無ければ人里に下りることはなく、一般的なモンスターのカテゴリーで考えるなら害の少ない存在と言えます。
 けれど今回の変異種は降雪量の多いカナド地方で生息し、冬期にもかかわらず冬眠につかず捕食活動を続けています。
 人里に下り家畜が食べられたという報告もあり、人命に及ぶ危険も高いとみています。ヒトクイオオアリクイとここまで異なる生態を持つとなると……」
「サガレ。お前はセンモン外、ダ」
 押しのけるように前に出るメタルゴリラ博士。
 ドスケベ未亡人は僅かに顔をしかめた。
 あまりこの二人は仲が良くない、らしい。
 咳払いをすると、メタルゴリラ博士は資料を広げた。
「このケモノどもは、ヒトクイオオアリクイが突然変異したもの、ダ。
 本来居ないはずの、カナド地方に少数現われたラシイ。
 獣を追い詰めたり、囮を使ったり、統率のとれた、兵隊のように動く。高い戦闘能力を、モツ。
 獣狩りのつもりでは、かかるな。奴らは、カシコイ。
 徹底的に、コロセ」

 資料によるとヒトクイオオアリクイ変異種は槍のように硬くした舌を長く伸ばして攻撃する他、きわめて凶暴かつ狡猾。
 おのおのが連携をとり、統率のとれたチームワークで獲物を狩り殺すという。
「真のリーダーは、イナイ。誰が死んでも、統率を維持スル。
 全て殺すまで、安心はデキナイ」

 と、このように用意な依頼ではないようだ。
 だが達成できれば報酬も入る上、村の危険を防ぐこともできる。
 意味ある活動となるだろう。

GMコメント

【オーダー】
 ヒトクイオオアリクイ変異種との戦闘、駆除、サンプルの獲得。

 厳密には
 ドスケベ未亡人:サンプルの獲得
 メタルゴリラ博士:駆除
 という依頼が合成されたものです。
 メタルゴリラ博士はできれば死体をまとめて持ち帰りたいと考えているらしく、運送馬車の手配もしています。
 一方でドスケベ未亡人は血液や毛、フンや体格の様子などを観察し一部持ち帰ればよしという考えらしく、厳密には駆除を目的としていません。
 ややこしいなあと思ったら『戦って倒す』ことだけ考えて挑めばまず間違いないでしょう。

【ヒトクイオオアリクイ変異種】
 群れで行動し、舌を伸ばして目標を刺し殺す舌槍(ゼッソウ)という器官と、毛皮を魔力的なバリアにする性質を持っています。
 群れ行動も舌槍も毛皮バリアも本来ヒトクイオオアリクイにはないものです。

 立ち上がった際の大きさは人間と同程度。
 10体の個体数があり、統率をとって動く。
 攻撃には【出血】【痺れ】といった効果があり、個体ごとの戦闘スペックはやや平均的であるとのこと。

【フィールドデータ】
 降雪量の多いカナド地方の牧場で待ち伏せをして、現われた所を駆除します。
 待ち伏せ部分は(絵的にも地味になりがちなので)プレイングからカットしてOKです。待っていれば来るものなので、自動成功とします。

 その日の積雪は長靴を履いていればいい程度。
 今回、戦闘中ダイス判定への影響はないものとします。

 ヒトクイオオアリクイ変異種は森から現われ、近くの小屋で待機していたPCたちが合図と共に出撃するといった形式になるでしょう。

【アドリブ度】
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。

【おまけ解説】
・ドスケベ未亡人
 本名『ドスケベ ピンナァープ』。
 主人の研究を引き継ぐことでヒトクイオオアリクイ研究の権威でしられ学会でもドスケベ未亡人の名で有名。本人もその呼び方を好む。なんで好んじゃったの。
 過去ヒトクイオオアリクイ研究のサンプル獲得を依頼したことがあり、ローレットを信頼している。
『主人がオオアリクイに殺されて一年がたちまして』
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/988

・メタルゴリラ博士
 有害動物駆除の薬品開発研究員であると名乗るゴリラめいたオールドワン。
 自分のことをあまり語らないので、雰囲気が恐いということ以外よくわからない。

  • <ゲノム解析>ドスケベ未亡人とメタルゴリラ博士完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年03月07日 22時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラノール・メルカノワ(p3p000045)
夜のとなり
レッド(p3p000395)
赤々靴
亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
シグ・ローデッド(p3p000483)
艦斬り
海音寺 潮(p3p001498)
揺蕩う老魚
フィーゼ・クロイツ(p3p004320)
穿天の魔槍姫
アクセル・オーストレーム(p3p004765)
闇医者
岩倉・鈴音(p3p006119)
バアルぺオルの魔人

リプレイ

●カナドの雪をふみしめて
「ヒトクイオオアリクイか。懐かしいな。奴らは野生動物にしてはなかなか強かったが……それが進化したっていうのか?」
 煙草の先端に火をつけて、『義に篤く』亘理 義弘(p3p000398)は銀色のジッポライターを閉じた。
 かちんという音に次いで、煙が大きく空に上がる。煙の大きさは、あたりの白い寒さがゆえに吐息の白さが混じったものだ。
「長年一定の生態を保ってきた生物ですから、この数ヶ月で突然に進化をするとは考えられません。仮にそうであったとしても、なにか外部からの刺激によって変容したものかと……」
 黒いベールを被り喪服姿の美女、通称ドスケベ未亡人。
 その名に反しておそろしく真面目でひたむきな彼女のことを、彼らは少なからず知っていた。
「相変わらずお元気そうでなにより、じゃが……変容とは一体?」
 『揺蕩う老魚』海音寺 潮(p3p001498)が首を傾げて問いかけてみれば、ライトグリーンの目を発光させていかつい巨体が割り込んだ。
「ダマッテイロ。ケンキュウノ、ジャマダ」
 ドスケベ未亡人を押しのけようとする巨漢。彼もまた別口での依頼人。メタルゴリラ博士である。
「そんなに乱暴にしなくてもいいじゃないっすか」
 仲裁、というより物理的に間に入る形で『特異運命座標』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)が手を翳した。
「ナンナラ、オマエモ……帰っていいぞ」
「いや、いや。受けた依頼はちゃんとこなすっすよ。突然変異したヒトクイオオアリクイっていうのがどんなものか気にったし、それに……」
「フン」
 メタルゴリラ博士はすぐに興味をなくしてそっぽを向いてしまった。
 どうにも不穏な様子に、『闇医者』アクセル・オーストレーム(p3p004765)は黙ったまま顔をしかめた。
(一連の突然変異事件のひとつだと思って依頼に加わってみたが……一筋縄には行きそうに無いな。しかし)
 アクセルは持ち込んだ革の鞄に目を落とした。
 これまでの突然変異生物に関する事件とそれに関わる依頼群。それらをまとめることで発見した人為的な痕跡の数々。
(何かが、誰かが絡んでいる。俺たちはそれを見極めなければならない……な)

「なあ、二人の圧がこう、すごくないか」
 やや距離をとって歩いていた『濃紺に煌めく星』ラノール・メルカノワ(p3p000045)が、隣を歩く『放課後のヴェルフェゴール』岩倉・鈴音(p3p006119)に声をかけた。
「依頼人同士の仲もよくない。バランスをとるのが大変そうだぞ」
「そうかな? 好きな子に意地悪したくなる男子のようでわくわくするじゃないか」
「とてもそんな雰囲気じゃないぞ……」
 話題を求めて『『知識』の魔剣』シグ・ローデッド(p3p000483)の方を見ると、シグは実務的なことに話題をシフトさせた。
「さて、組織的な行動を取られると厄介なのでな。まとめて焼き払いたい所ではあるが……サンプルを潰さないようにしないとな」
「まあ、そうだね」
 歩きながら腕組みをする『黒曜魔弓の魔人』フィーゼ・クロイツ(p3p004320)。
 雪深い道をざくざくと踏みながら、フィーゼは遠くを見た。
「受けた依頼に対する努力義務は果たすとして、少しフォローができればいい、かな」
 吐いた息は白く、曇り空に登っていく。

●ヒトクイオオアリクイ変異種
「目標補足。交戦開始」
 雪上を迷い無く走り抜けるラノール。纏った毛皮のマントを邪魔そうに脱ぎ捨てると、分厚い雪に足をとられることなく跳躍した。
 それまでいた地面をヒトクイオオアリクイの舌が鞭のように払い、地面を破裂でもさせたかのようにはじけさせる。
 空中でバランス制御。マトックを降り込む遠心力で強制的にバランスを取ると、ヒトクイオオアリクイ変異種の頭頂部めがけて打ち下ろした。
 直撃――かに思われたマトックが雪と土にのみ突き刺さる。
 別のヒトクイオオアリクイ変異種が舌を巻き付けることで対象を引っ張り、強制的に回避させたのだ。
「連携をとっている、だと」
「――だけじゃない。下がれっ」
 雪をはねのけるほどの猛突進で割り込んだ義弘が、伸びてきた二本の舌を払った。
 雪の中に埋もれるように潜伏し、こっそりと近づいてアンブッシュを狙ったようだ。
 義弘の腕に払われた舌が器用に動き、そのまま義弘の両手首に巻き付いて拘束を開始する。
 が、ラノールは『下がれ』の意味を正確に理解していた。
 ラノールが大きく飛び退く、と同時に、義弘はその場で豪快に回転を始めた。
 リールがコードを巻き込むようにして強制的に引きずり出されたヒトクイオオアリクイ変異種。そこへレッドが剣を打ち込んだ。
 雪原に走る青白い閃光。巻き上げられたヒトクイオオアリクイ変異種の肉体をばっさりと切り裂いて、返す刀でもう一体のヒトクイオオアリクイ変異種を切り裂いていく。
「今っす、伏せて!」
 レッドの叫びに応じて身を伏せる義弘。それまで頭のあった場所を長い舌が槍のように突き抜けていく。
 もしあのままぼうっと立っていたら今頃頭を粉砕されていたかもわからない。
 が、こうした暗殺の一手は空振りしたときが最後だ。発射地点を正確に見極めたフィーゼが漆黒の大弓をひき、魔矢を発射。
 きわめて正確に狙いをつけた矢がヒトクイオオアリクイ変異種の喉をうち、咄嗟に張ったであろうオオアリクイバリアも一瞬遅れた様子で、手を上げた体勢をとったまま後ろ向きに倒れた。
「拘束からの正確な狙撃、か。野生動物のやることじゃあないね。そっち、頼むよ」
 鈴音はマジックロープを発射。
 背後から奇襲をかけてきたヒトクイオオアリクイ変異種と同時に放たれたそれが、お互いの腕を拘束。結びつけるように引き合う。
 が、それは鈴音が狙っていた状態であった。
「まとめて排除させてもらおう」
 シグが異想狂論「偽・烈陽剣」を発射。剣とした己に炎を象った破壊エネルギーをため込み、振り下ろしていく。
 雪を苛烈に溶かし、ヒトクイオオアリクイ変異種を吹き飛ばしていく。
 それでも耐えて立ち上がろうとしたヒトクイオオアリクイ変異種の脳天に、潮の手刀が鋭く叩き込まれた。
 ぱっくりと割れる頭蓋骨。
 潮は拳をひき背筋を伸ばした構えをとると、ゆっくりと息を吐いていく。
「待ち伏せ、奇襲、連携……とても以前に見たヒトクイオオアリクイとは思えんのう」
「確かに。突然変異にしては知能が発達しすぎていますね」
「……」
 興味深そうにメモをとるドスケベ未亡人。一方でアクセルは鈴音に歩み寄り、手首を見せるように言った。
「なんてことないよ。少し痺れるだけ」
「ああ、だが念のためだ」
 アクセル鞄を開くと、弾帯ベルトのように連なったボトルストッカーの中から三種のボトルを抜き一つの空ボトルへ調合。使い捨ての布にしみこませると包帯と併せて鈴音の手首に巻いていった。
「十秒か二十秒もすれば治るはずだ。さて……」
 ちらりと見れば、メタルゴリラ博士はヒトクイオオアリクイ変異種の死体を掴んでは持参した巨大な麻袋へ乱暴に放り込んでいく。
 川辺のゴミ拾いですらもう少し丁寧にやるだろうという勢いだ。
 けれどどうやら個体数をかぞえているようで、周囲を見回してからある方向を指さした。
「あっちの方に巣があるはずだ。殲滅シロ」
「…………」
 沈黙と視線で不満を示す義弘。
 だがメタルゴリラ博士はそれを無視して指をさし続けた。
「どうした。依頼遂行努力ヲ示セ」
「フン……」
 露骨に顔をしかめるアクセル。
 普段はやる気を見せて元気を振りまくレッドもどうやら不機嫌そうな様子だ。
「まあまあ。巣を破壊すれば依頼は終わったも同然だよ? 変異種のクセも分かってきたことだしほら、ファイトファイト」
 一転して鈴音が手を叩いて歩き出した。
 どうも嫌な雰囲気だ。ラノールはマトックを担ぎ、潮やフィーゼやシグたちと顔を見合わせ歩いて行った。

●巣窟
 本来、ヒトクイオオアリクイが雪原地帯に巣を構えるなどということはない。
 冬期は冬眠期間に入り、穴蔵に籠もって眠る習性をもつがゆえ、はじめから雪原で活動するという選択肢がないのだ。
 まして、ブロック状に固めた雪塊を積み上げてかまくらを何個も作るという状態など、想定すらしていなかった。
「一体これは……」
「かまくら、っていうか塹壕だね」
 円形範囲内に等間隔に作られたかまくらは全て内向き。外から攻め入る何者かに対して効果的な迎撃が可能な作りになっていた。
「すべて殲滅シロ。金は払ってイル」
 言われなくてもそうする。ラノールはメタルゴリラ博士とドスケベ未亡人を安全なところまで下がらせると、マフラーを口元まで覆った。
「害獣ども! 俺はここだ、狙ってこい!」
 あえて塹壕中央へ向けて突撃。
 声を張り上げながら注意を引きつけた。
 攻撃を予測して跳躍。先刻同様それまでいた地面が舌によって破壊されるが、直後に空中のラノールに三本の舌が一斉に絡みついた。
 腕と足を拘束。
 このままでは――というところで、サメ型のオーラが飛びラノールに絡みついた舌を食いちぎった。
「援護は任せるんじゃ。突っ込め!」
 潮が回復の魔術を手刀に込め、癒しのサメオーラを解き放つ。
 それに伴って、義弘が突撃。後ろから鈴音が声をかけてきた。
「さっきと同じようには行かない筈だよ。手の内は共有されていると思って!」
「構わん」
 義弘は全く同じようにラノールとは離れた位置に飛び込み、そして同じように舌がからみついたが、やはり力業でからみついたヒトクイオオアリクイ変異種を引っ張った。
 かまくらにしがみついて引き寄せられることを抵抗していたようだが、そこは義弘。引いてダメなら更に引く。腕の筋肉を膨らませ、強引に鎌倉ごとヒトクイオオアリクイ変異種を引きずり出した。
「ぐ……っ」
 ヒトクイオオアリクイ変異種の舌から伝達した痺れ毒と、やすりのようになった舌による出血が義弘の手首をさく。
 鈴音はその様子と、自分の手首に巻き付いた包帯を見比べた。
 ヒトクイオオアリクイ変異種は野生動物らしからぬ狡猾さと統率力を持ってはいるが、その実『効率的すぎる』癖があった。
 野生動物の知能を増幅したとて限界があるのだろう。
「手首だよ手首! なにかを手首や足首に巻き付けて!」
「なるほど、そういうことならこれを使え」
 アクセルは鞄から粘着包帯をロールごと二つ三つ取り出すと、ラノールや義弘へと投げた。
 一般普及はしていないが、人間の皮膚と同質の粘着物質でできた包帯は患部に素早く巻き付くうえ自己治癒効率を高めるという。そんな21世紀イギリスで開発された医療品を、幻想の錬金術や医療技術で再現したものである。
「直接的なダメージまでは防げないが、それはこっちでなんとかしよう」
 鞄から適切な薬品を素早く選び出し、インスタント注射器に流し込んでペン回しの要領で素早く混合。ラノールたちへとダーツの要領で投擲する。
 これは幻想の暗殺ギルドで実際に使われた毒殺用の注射器である。針が素早く刺さるうえすぐに抜けて氷のように溶けて消えることからよく使用されたが、使う薬品が異なれば勿論回復にも役立つだろう。
 その間、シグはヒトクイオオアリクイ変異種のそばまで近づき異想狂論「偽・烈陽剣」を発射。かまくらもろとも吹き飛ばしていく。
「烈陽剣だと灰塵と化してしまいそうだが、な」
 吹き飛ばされたヒトクイオオアリクイ変異種は、息絶えるものも多いが灰になるほどではないようだ。それだけ高い身体能力の強化がなされているということだろう。
「ラノールさんを援護するっす! 連携を維持して、一匹ずつ頭数を減らすっす! ターゲットを強制できるこっちの方が、圧倒的に有利っす!」
 レッドはレッドで石のように凝縮させた雪玉を全力で投擲。
 頭にぶつかりぐらついたところへ、樹木の枝に立って狙いをつけていたフィーゼが弓を打ち込んでいく。
 かまくらを作ったとはいえ巨大なものではない。上はどうしたって無防備だった。
 それに上と前の双方に注意を配ることは人間でも難しい。
「なにかと知恵をつけたみたいだけど、作戦負けだったみたいだね」
 魔矢にエネルギーを流し込み、放つ。
 最後の一匹を貫いた所で、フィーゼは再び深く大きな息をついた。

●変異
「筋肉。皮膚。そして脳。以前にサンプリングしたヒトクイオオアリクイと明らかに違う。突然変異などというレベルではないな」
 アクセルはドスケベ未亡人の持ち込んだ研究資料と変異種を見比べることで、その異常さに気づいていた。
 オサシミが空を飛びまんじゅうひよこが子供を産むこの世界において、特定一種の生物を深く研究するような人間はそうそういない。今回のようなケースはごくごく希だった。
「……どう思う」
「どうもなにも、人為的な改造が施されたので無い限りは……」
 ドスケベ未亡人はそう言いながら、白衣(喪服の上に白衣を着るというかなり前衛的な格好をしている)のポケットからサンプル採取用のナイフを取り出した。
 そこへ。
「ドケ……ジャマダ!」
 ドスケベ未亡人の肩を掴んで引き倒し、調べていたヒトクイオオアリクイ変異種の死体を麻袋へと回収していくメタルゴリラ博士。
「これは害獣ダ。害獣駆除の専門であるオレの仕事ダ。シロウトは、引っ込んでイロ」
「ちょっとちょっと」
 物騒な気配を察して割り込むフィーゼ。
「サンプル回収も依頼の内だったはずでしょ。それに駆除方法はともかく生態研究の権威の力を借りれば出来ることが増えると思うんだけど、どうかな」
「ゴリラぁ、つんけんしてるのもアレなんでしょ。恋愛感情の裏返しとかなんだよね?」
 反対側から割り込みをかけてみる鈴音。
 メタルゴリラ博士はそんな彼女たちすらも無視して死体を回収し続けた。
「研究のジャマだ。あとで毛皮を送ってやるから、カエレ」
 ドスケベ未亡人を突き飛ばそうとするメタルゴリラ博士。
 ラノールはその手を掴み、静かに言い放った。
「ドスケベ未亡人へ、それ以上の手出しは控えて頂こう」
「そう邪険にする事もあるまい。殲滅は成された故、お前さんの心配事は解決されたと考える。ならば、我ら先達としては、後進の成長を促すべきである。そうは思わんかね?」
 同じく声をかけるシグに、メタルゴリラ博士は手を引いた。
 そうして、義弘は死体のひとつを守るように立ちはだかった。
「とにかく、俺たちの引き受けた依頼は『駆除』と『サンプル回収』だ。あんたが死体を持ち帰るのはあんたの自由として、俺たちはドスケベ未亡人のサンプル回収を達成させる義務がある。そうじゃなきゃあ、義理が通らねえぜ」
「………………勝手にシロ」
「勝手ついでに質問させてもらうっす!」
 ここぞとばかりに入っていくレッド。
「どこでこのドスケベ未亡人さんでさえ知らないヒトクイオオアリクイの変異種の情報を仕入れ、そして今回なぜ断定する事ができたんっすか? 回収したこの個体はこの後どうするんっすか?」
 おそらくは核心をついたであろう質問に。
 場は冷たく凍った。
 雪原に雪が落ちる音が聞こえるのではと思うほどの静寂と沈黙が流れ。
 メタルゴリラ博士はえレッドから目を背けた。
「応える義務はナイ。依頼は達成サレタ。解散ダ。勝手にカエレ」
 メタルゴリラ博士はずんずんと去って行く。自分の馬車で帰るつもりなのだろう。
 その様子を見送って、潮はコホンと咳払いをした。
「フォローをする暇すら与えないとは。せっかちなゴリラどのじゃのう。
 身体も冷えてしまったことじゃし、暖かいものでも食べにいくとしようか」
 メタルゴリラ博士にするはずだったフォローのリソースをドスケベ未亡人と仲間たちに注ぎ、潮は顎を撫でた。
 イレギュラーズとドスケベ未亡人は頷き、必要なサンプルを保存した後、帰りの馬車へと向かったのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お帰りなさいませ。寒い雪山でのお仕事は大変だったことでしょう。暖かくしてお休みくださいませ。
 メタルゴリラ博士は……ご一緒ではないのですね。あまりよい方ではなかったようですが、そんな相手にもお仕事をこなすのは、大変立派なことでございます。きっと、この経験もどこかで生きることでしょう。

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