シナリオ詳細
お母さんの所へ返してこんにちは!
オープニング
●謎のナマモノ
月明りに照らされ、夜闇から顔を出した森林の奥。
そこにはひっそりと緑溢れる木々に囲まれている『枯れ木』が風を呼び込んでいた。
風化し、枯れ木の中央に開いた空洞に風が吸い込まれては囂々響き鳴らしている。その音は例えるなら竜の息吹の如く。
オオオオオオオォォォ
風は空洞を通り下って行く。
枯れ木を通じて下降していけば、そこは本来地中となる筈の空間。地下洞窟へと至る。
オオオオオオオォォォ
一体何故、森林の地下に崩落も振動も引き起こさずに生まれたのか。地下空洞は広域に渡って少量の水源と共に広がっていた。
人の手は当然入りようはずも無く。しかしそこには大量の正立方体が散見している。
古代の遺跡? 物好きな芸術家の隠れ家? 子供達の秘密基地?
どれも違う。この地下洞窟に棲み付いている生物は、未だ名も付けられていなかったからだ。
「クテュ!」
「ちゅーん!」
暗い地下洞窟内を元気に駆け回る小さな生き物。それはフワフワモコモコとした子犬のような姿だが、金属質な尾を体毛から時折垣間見せている。
名前は、無い。
「くてゅーん?」
「チュン!」
あちこちを跳ね回り、駆け回ったそれらはふと見上げる。
よく見ると、壁面から飛び出した枯れ木が割れていたのだ。ちょうど彼等が入り込めそうな、小さな亀裂の隙間だった。
モコモコとした体毛ながらも彼等は隙間に頭を突っ込み、意外にも滑らかに枯れ木の中へと入り込んでしまう。
傾斜はキツくも、それはずり落ちそうになりながら枯れ木を登って行った。
暫くして。
「クテュ? ちゅーんっ!」
彼等は、月明りに照らされた幻想西部にある森林園へと辿り着いた。
●謎のナマモノのおかあさん
数が足りない。
『それ』は地下洞窟の奥で横たわっていたが、ふと気づけば自身の仔が半数近く減っていたのだ。
起き上がった『それ』は。全身を金属質な体毛に覆われ、外骨格の様な体を携えた巨大な狼の……”ような”、生物だった。
周囲を跳ね回っている仔らは元気にしている。だが残り半数は?
「……ギュゥゥウルルル」
不安の声が漏れる。
一体、何処へ行ってしまったというのか。
ちゅー……ん…………ちゅーー……-……ん……………
「ギュルゥ!?」
なんか遠くから聴こえて来た声に気付いた『それ』は、音源を探して壁面沿いを歩き出す。
『それ』は直ぐに見つける。仔の体毛が数本絡み付いた枯れ木の亀裂を。
「………」
脳裏を駆け巡る誘拐事件。キャトルミューティレーション。はたまたモフモフした生物を鎖に繋いで悪人面をしながら奴隷商に売られると見せかけ優しく迎え入れるほのぼの展開が好きな変態の犯行か。
いずれにせよ仔の身が危険に晒されているに違いない。
『それ』は枯れ木を引き裂き、地上までの土砂を瞬く間に掻き分けて行った。
「―――ゲェェァアアアアッッ!!」
月の出ていない夜。『それ』の咆哮は森林を駆け抜ける。
我が仔等の姿が無い事に気付いた『それ』は怒りと焦燥を交えて、遂に外界を行く事を決意した瞬間であった。
●ママンがお怒りなのです。
あわわ、といった表情を浮かべる『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は卓に着いたイレギュラーズに首を振った。
一体なんぞや、と思う貴方はママンとはユリーカの母親かと問う。
「違うのです……実は幻想西部の森林園でローレットが捕獲した、ユリーカ命名『ちゅんたろす』というふわふわな生物の事なのです
以前の捕獲時にイレギュラーズの皆さんから町に渡り、そこから色々と専門家の人達が調べたのですけど」
もしやその生物の正体がわかったという話だろうか。
イレギュラーズは訝しみながらユリーカの話に頷いた。
「結局、そのちゅんたろすの正体はさっぱり分からないのと。母親と見られる個体が森林園で大暴れしているそうなのです!
親心を思えば、たぶんわるい事しちゃったのはボク達だと思うのです。
町長さんも『このままだと町の子供達が怖がって森林園に行けなくなってしまう』って言っていますし、ここは皆さんに穏便にスパッとボコって解決して貰いたいのですよ!」
そう言ってユリーカは紙芝居を取り出して説明を始める。
「ちゅんたろすママンは森林園の奥、森の丘を駆け回りながら目についた人を襲ってるです。
フィールド自体の広さは300m程度。丘の上部は見晴らしが良く、森林園入口側となる下部では背の低い木々による草葉が視界を狭めますね
うんと、今のところママンはとっても鋭い舌と金属質な体躯で襲いかかってるみたいですが……」
ユリーカはぺらりと、報告されている現場の状況を描いたシーンを見せる。
そこに描かれているのは地面から飛び出しているワンコの絵だ。
「森林園のあちこちに散らばっている小さな、拳程度の大きさの『正方形に削られた石』からママンが飛び出すのです……なんかこう、二足歩行で……」
なにを言っているのか分からなかった。
「それと……確か魔術みたいな物も使えるとか? 被害者の皆さんが嘘をついているとも思えないので、注意が必要ですね。
皆さんびっくりしたお顔をしてるですけど、よろしくお願いしますなのです! ……お願いしますです!」
- お母さんの所へ返してこんにちは!完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年04月17日 21時45分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●ちゅんたろすの子供たち
泣き出しそうな曇り空に潰されそうで、馬車をひく馬は頭をさげてことことと歩いている。
馬に停止の合図を出すと、『絵本の外の大冒険』アルメリア・イーグルトン(p3p006810)は御者席からぴょんと飛び降りた。
「ここが例の森林園ね」
幻想西部にあるという森林園は、貴族たちによって作られた『都合の良い森』である。
そもそも森や山は珍しくないが、人に管理された森というのは安全かつ綺麗に整っていることから行楽によく用いられる。
そこにあるときから現われた謎の生物『ちゅんたろす』。
ちゅんたろすが来客を襲うからとローレットに捕獲の依頼がきたのは数ヶ月前のことだったが……。
「これって。前に僕らが森林園にいたちゅんたろすたちを捕まえて連れて行っちゃったからだよね。
子供が突然居なくなっちゃったら、不安と怒りでいっぱいになっちゃうよねえ……悪いことしちゃったなあ」
どこか弱った様子で眉尻をさげる『行く雲に、流るる水に』鳶島 津々流(p3p000141)。
当時よりも深刻な人的被害が出ているだけに最悪殺処分も検討されていたらしいが、依頼を受けたローレットは相談の末『殺さずに逃がす』方向で決着を考えていた。
馬車の荷台には大きなゲージが積み込まれ、中には子ちゅんたろすが20匹ほど詰まっていた。
「チュン」
となくのは子ちゅんたろす――ではなく、ゲージの内側からこちらを見る『孫の手アンドロイド』エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)だった。
隙間から顔をぐいっと出し、笑顔を作って見る。
「え、なあにそれは」
「しゃいにんぐごっこですが」
「なあにそれは!?」
「殺さなくていいのはほっとするわね。いくら被害が出てるとはいっても、殺してしまうのはあまりに勝手なことだと思うし……」
エリザベスたちの会話を軽く流しつつ、アルメリアはちゅんたろすたちを見た。
ゲージの隙間に顔を挟んだまま真面目な顔をするエリザベス。
「興奮状態から落ち着かせた後、お子様を返すという事で手打ちにしたいところでございますね」
「ゲージから出ない? そろそろ」
ちゅんたろすの騒ぎからこっち、数ヶ月にわたって手入れが成されていなかったのだろう。
森林園の中は薄暗く、雑草があちこちに生えていた。
よく見ればその中に混じって正方形の石が落ちており、その全てを拾い集めるのは難しそうに思える。
『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)はそんな光景を前に、ちゅんたろすとその母親を想って胸に手を当てた。
「ちゅんたろすのおかあさんは、きっと、仔ちゅんたろすが、悪い人にさらわれてしまったと思ったのだと、思いますの。
そうではないと、わかってもらうには……わたしたちが、危険ではないと、わかってもらうしか、ありませんの」
「そうね。子ちゅんたろすはこんなに可愛くて人懐っこいんだから……きっと話し合えれば、わかり合うことも出来るはずですよね!」
『愛の吸血鬼』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)がゲージの中の子ちゅんたろすを振り返った。
安全のため。戦闘の被害に巻き込まないために馬車は森林園の外に置いてきた。
怒り狂った親ちゅんたろすの攻撃が敵味方の識別が可能なものであると言う保証はない。うっかり巻き込まれでもしたら全てがご破算だ。なので、話が通じるようになるまでは安全に保護しておかねばならない。
「でも問題は、話が出来るようになるまで……ですよね」
『話し合いのテーブルにつく』ことの困難さは人類史が証明している。同一言語をもつ人類ですら困難なことを、動物相手にこなすことの難しさ。それも怒り狂った動物をなだめるまでの難しさ。
今『祈祷鬼姫』六車・焔珠(p3p002320)たちに化せられているのは、そういうハードルであった。
「お母さんが心配して探しに来た……それは良い事だわ。
あの子たちはまだまだ小さい子供だもの。
大抵の親子は一緒にいるのが一番だって思う。
……けど、それを伝えるまではきっと大変よ。だって」
焔珠は子ちゅんたろすと、話に聞く親ちゅんたろすの違いを頭の中で思い描いた。
「あんなに恐ろしく成長するだなんて」
「論点が途中で変わりましたね?」
「待て。何か変だ」
『静謐なる射手』ラダ・ジグリ(p3p000271)は何かが焦げ付くような、不思議な臭いを察知して声を上げた。
風が急速に動く音。大きな物体が空間を押しのけて突如現われたような音がして、ラダは対戦者ライフルを構えたまま豪快に振り返った。
例の正方形の石の上に、全長8mの巨大な生物……ちゅんたろすが立ち上がっていた。
「本当に石から飛び出すとはな」
庇うように前に飛び出す『寄り添う風』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)。
「本当にごめんなさい……貴方の子供達は元気だから。
どうか落ち着いて…貴方の子供達はアタシ達が必ず無事に返すから。
……約束するよ」
誓うように呟いて、魔剣を抜く。
叶えるためのハードルは、戦うこと。
怒りを受け入れること。
強い怒りに我を忘れているちゅんたろすのフラストレーションを発散させつつ、話し合いの余裕をお互いに残すこと。
ただ戦って倒すよりもずっと高いハードルだが、彼らはそれに挑もうとしていた。
「―――ゲェェァアアアアッッ!!」
ちゅんたろすが、腕を振り上げるようにして襲いかかる。
●親心と憤怒
繰り出される爪の衝撃を、ミルヴィは魔剣の腹で受け流した。
てこの原理で相手の腕を横に払い、踊るように側面へ回り込む。
が、ちゅんたろすは自らの身体をこすりつけるようなタックルをすぐさま繰り出し、ミルヴィを派手に突き飛ばした。
まるで金だわしのような毛皮が摩擦を起こしたことで、咄嗟に翳した腕が酷くすりむけ、出血した。
「っ……!」
攻撃をふせぎ損ねたが、だからといって止まるミルヴィではない。
ステージに上がったダンサーは例え体力の限界に至ったとしても踊り続けるものとされ、ただ踊っているだけでも傷の治りが異常に早いとすら言われる。
ミルヴィは決して表情や動きを崩さなかったが、傷口を観察したアルメリアには彼女のダメージが深いことが分かっていた。
「一度引き離さないと。手伝って」
ユーリエに呼びかけながら駆け寄るアルメリア。
一方のユーリエは波打った刀に血色のオーラを纏わせながらちゅんたろすへ突撃。
胴体へ直撃させた――はずだったが、鋼のような毛皮に阻まれ、火花が散った。
「刃が通らない……っ」
が、そうと分かれば素直に斬り合いをする義理もない。
鉄板仕込みのブーツでちゅんたろすを蹴り飛ばすと、ユーリエは剣を水平に構えて防御を固めた。
「ちゅんたろすさんに血を流させたり怒りをわき上がらせたりするのは難しそうですね。傷つきにくいのはむしろ好都合ですが……」
蹴り飛ばされたちゅんたろすはまるで石に吸い込まれるように消えた。辺りに数秒ばかりの静けさが戻る。
ユーリエやミルヴィに背をつけるようにして集まり、アルメリアは腕輪を中心にライトグリーンのフォースフィールドを展開。後ろ手に唱えた治癒魔法をミルヴィの傷口へと当てていく。
「なんとかしのぐしか無いわ。しばらくは呼びかけ続けないと」
「まだ呼びかけられる段階でもなさそうだねえ」
津々流は手を開き、五指から伸びる魔力の糸を空中に展開していった。
「津々流様、9時方向です!」
鋭く叫ぶエリザベス。即座に反応し、津々流が魔力の糸を放つと、石から飛び出したちゅんたろすが糸にかかって派手に転倒した。
エリザベスは腕を開放式バレルに変えると、非殺傷電撃を発射した。
ばちんとけいれんするように跳ね、再び石へすいこまれるように消えるちゅんたろす。
「おっと、これは……どういうことかな?」
「熱、でございます」
小首を傾げる津々流に、エリザベスは腕にばちばちと紫電を流しながら振り返った。
「ちゅんたろす様は飛び出す寸前、石を強く発熱させていたことがわかりました」
「熱……なるほど、そうか」
ラダは小さく頷くと、目に見える範囲の石に向かって対戦車ライフルを次々と撃ち込んでいった。
ばきんと音を立てて破壊される石。
「最初に感じたの焦げ付いた臭いは、石が熱をもった臭いだったわけだ。
それに、子供のうちから本能的に作り方を知っているということは、それだけ消耗が激しいということ……」
ラダは懐に入れていた同様の石を確かめるように、胸に手を当てた。
「恐らくは何らかの魔術を用い自らを転送しているが、その際に強い熱をもつ。摩擦か電流のたぐいかは分からないが、少なくとも使い続ければ石が壊れてしまう程度のものだろう。
そしてそれが分かれば判断がつき……それ以前に石を壊してしまえば転送ができないというわけだ」
「わざわざ正方形にしていたのは魔術的な意味があったってこと、だね」
ちゅんたろすは舌を使って石を削り正方形を作る。
「もしかしてチョコを嫌がったのも形が維持できないから……?」
「い、いや、あれは犬にチョコレートが毒だとか、そういう理由じゃないかなあ。自分の毒になる成分を理解できるって意味じゃあ賢い証明にもなるんだけどねえ」
ぽりぽりと頬をかく津々流。
そうしている間に周囲の石をあらかた破壊し、焔珠やノリアたちは一箇所へ団子状に固まるように陣を組んだ。
「来るわよ!」
刀をふたふり抜き、大きく構える焔珠。
深く呼吸を整えると、刀身を炎が覆った。
「ギュルッ……!」
独特の鳴き声と共に、ちゅんたろすが森の奥から駆け込んでくる。
付近の石が破壊されたことで、遠くの石を経由して普通に移動してくるほかなくなったのだろう。
こうなれば、ある意味こっちのものである。
「私達は敵では無いのよ。仔ちゅんたろすを迎えに来たのならすぐに連れてくるわ!」
「ギュルル……!」
噛みつこうと飛びかかるちゅんたろす。
焔珠は刀の峰を打ち付けるように振り込み、ほぼ同時にノリアがちゅんたろすの口に自らの腕を突っ込んだ。
強く噛みつくちゅんたろす。一方で頭を抱き込むように掴むノリア。
「大丈夫ですの……お子さんは、何事もなく、お返ししますの……!」
ノリアは強引に振り回され、最後には投げるように放り出された。
「ちょっと、無茶しすぎよ……!」
放り出されたノリアを両腕でキャッチするアルメリア。
「そうでも無いわ。見て」
見れば、ちゅんたろすは息を荒くしてよろめいているのが分かった。
「相手も疲れてきてる。もう暫く耐えるわよ」
津々流が魔力の糸を放ち、ユーリエが剣の鞘で殴りつける。
二人の攻撃は直撃こそしたが、しかし、ちゅんたろすをすこしも動かすことはできなかった。
前足で跳ね、まるで二脚で立ち上がるかのように頭を上げるちゅんたろす。
毛皮は鋼のように硬質化し、二人の攻撃がまるで通らなくなったのだ。
「まずいわ、アレが来る……!」
アルメリアは数歩後じさりした。
情報屋ユリーカから、彼女たちはちゅんたろすの攻撃方法を三種教えられていた。
『動物的な攻撃』『魔術的な行動』、そして『人間的な攻撃』である。
「力を振り絞るつもりみたいだねえ」
魔術障壁を張り巡らせて身構える津々流。
「落ち着いてくださいっ! あなたのお子さんは無事です!」
そう言いながらも、ちゅんたろすの怒りが未だ収まっていないことを察して防御の構えをとるユーリエ。
そしてちゅんたろすはついに飛び出し、握った右拳を大地めがけて叩き付けた。
ドン、という衝撃が、足下から吹き上がる。
「危ないですの……っ!」
津々流を、ノリアが強く突き飛ばした。
衝撃を受け、吹き飛ばされていくノリア。
「聞いてくれ。捕獲や討伐に来たわけではない。落ち着いて欲しい」
ラダは非殺傷弾を込めたピストルをちゅんたろすめがけて連射。
エリザベスと焔珠が左右から挟むように掴みかかり、ちゅんたろすの両腕にしがみつく。
走る電撃と炎。
「悪いけど、無理矢理大人しくなってもらうわよ!」
「今です。わたくしごと……あっいややっぱりわたくしを避けて!」
「わかってるわよ!」
アルメリアは魔方陣を展開すると、魔力の柱をちゅんたろすめがけて叩き付けた。
直撃――からの。
「ごめんね……抑えるにはこれしか」
ミルヴィが魔剣を振りかざし、能力を解放。刀身から光が走り、ミルヴィを包み込んでいく。
そうして剣はちゅんたろすを切り裂いた。
否――ちゅんたろすの怒りだけを、切り裂いていった。
●こんにちは
動物疎通を用いて事情を説明する津々流。
「危害を加えるつもりはないんだよ。子供たちもこの通り、無事に連れてきたからねえ」
津々流がゲージを開いてやると、ちゅんたろすの子供たちが親ちゅんたろすへと駆け寄っていった。
薄目を開き、ゆっくりと起き上がる親ちゅんたろす。
津々流は親ちゅんたろすのことばが分かったが、それでも言わんとすることは分からなかった。
人間で例えるなら、ただじっと黙ってこちらを見ている状態である。
「どうするんだ。このまま地下に潜って子供を育てるのか?」
ラダが問いかけてみると、ちゅんたろすは子供たちをつれて森の奥へと消えていった。
人間全般を信じることはできないが、ラダたちには警戒を解いた……といったところだろうか。
ノリアは去りゆく背中に呼びかけた。
「たまには、お菓子をもらいに、遊びにきてもらえると、うれしいですの……」
返事はなかったが、それが肯定の意味を持っていることが、ノリアにはなんとなく分かった。
「きっと、私たちの呼びかけが通じてはいたのね」
怪我した仲間に包帯を巻いたり軟膏を塗ったりしながら、アルメリアは呟いた。
「そうでなければ、目を覚ましたらまた襲いかかってきたはずだもの」
「確かにね。……あの子たちは、家に帰ったのかしら」
焔珠は地下深くにあるという空洞を想った。
だがこうして人の手が入り、子供が浚われる不安を経験した今となっては、ちゅんたろすたちが今まで通りの環境で安心できるとは思えない。
町の人間たちも、彼女たちを決して安全な動物だとは思っていないだろう。
何らかの棲み分けが成されてお互いに手を出さない状態に落ち着く……というのが妥当な所だと、焔珠は思った。
一方で、ユーリエは正方形の石を調べていた。
ヨウ素液を垂らしたり電流を流したり小さい木槌で叩いたり食塩水に沈めたりといったあれこれである。
その結果として……。
「ただの石みたいですね。具体的には花崗岩。そのへんの地中とか……普通に埋まっている石だと思います。それをこうして正方形に整えたんですね。科学的な工夫はなさそうですから、魔術的な何かなのかな?」
「強いて言うなら形に意味があるんだろうね」
ミルヴィは腕組みをしたまま、そんな風に言った。
これまでちゅんたろすを専門家たちが調べたらしいが、それでも正体は不明。当然石の仕組みも不明である。
エリザベスは石をつまみ上げ、しげしげと見つめた。
「なんとも不思議なナマモノでございましたわね……」
森の奥へ消えていったちゅんたろす。
彼女たちに再び出会える日が、果たしてくるだろうか。
その時には改めて、友達になることができるだろうか。
いつそんな日が来てもいいように、甘いお菓子をとっておこう。そんな風に、思った。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
おかえりなさいませ。
ちくわブレードGMの代筆を担当した黒筆墨汁でございます。
皆様のちゅんたろすさんへの愛情と優しさ、そして謎への探究心。素敵でしたね。
またいつか、ちゅんたろすさんに出会える日がくるかもしれません。その時まで、お菓子をとっておくことにしましょうね。
GMコメント
ちくわブレードですよろしくお願いします。
いつぞやのナマモノ、解決編となるシナリオになります。
以下情報。
●依頼成功条件
殺さずにちゅんたろすを倒す(戦わずに捕獲等でも可)
●情報精度B
全くの謎に包まれた生物が相手となります。
●ちゅんたろすのおかあさん
ユリーカ命名、謎のふわふわモコモコなナマモノ(の母親)、
幼体は可愛いがどうやら成長すると凄い事になるらしい。
体高5m、体長8mの巨大な狼に似た何か。犬の様なフォルムではあるものの、硬い金属質な体毛と外骨格に覆われた姿は全体的に鋭く尖った印象を与えて来る。
接敵時(リプレイ開始時)は非常に怒り狂っている状況での戦闘となる為。舐めてかかると結構なダメージを受けるかもしれません。
既に町の人間が何人か襲われており、一刻も早く事態を納める必要があります。
……しかし謎な動きをする敵なので気をつけて下さい。
・『動物的な攻撃』(物至単・物近単)
・『魔術的な行動』(防技大アップ【副】【自付】)
・『人間的な攻撃※』(神超遠域【溜2】【ショック】【狂気】)
※……魔術的な行動を行った直後、必ず使用。
●仔ちゅんたろす
幻想西部の町、町長が現在保護している幼体達。やけに人懐っこく、お菓子の類に目が無い。
今回は作戦時に必要ならば連れて行ってもいいと許可を出されています。
以上。
皆様のご参加をお待ちしております。
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