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シナリオ詳細

暗殺者の夜

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●暗殺集団『ポーカーフェイス』
 闇を纏い、夜を駆ける者達がいた。
 全身を襤褸で包み、靡かせる十人の影。異様なのはその全員がそれぞれ独特の面をつけていることだ。
 襤褸仮面の集団は、身を捻りながら暗い夜空を駆け、音も無く豪華な街一番の屋敷へと近づいた。
 視線の先、警備の者が大きなあくびをたてる。
 それを見た襤褸仮面はしかし、まるでその様子を見なかったように、慎重さを持ったまま行動を開始した。
 襤褸仮面達の”仕事”は、まさに電光石火の早業の如く。
 音無き侵略者達は中空を駆け警備の者の背後へと降り立てば、素肌見せぬその手で口を塞ぎ、刹那の呼吸も許さぬ速度でその緊張に固くなった喉を切り裂いた。
 噴き出る返り血を浴びる事無く、倒れる死体をそのままに次なるターゲットへと駆け出した。
 屋敷の外を警備する八人の兵士は瞬き一つの間に全滅し、屋敷は守護というなの防御壁を失った。
 襤褸仮面達は一斉に窓へと取り付き、これまた音も無くガラスを破砕してみせる。それは手品か、はたまた魔法か。まるでガラスという特性を失った破片達が霧散していく。
 内部への侵入手段を手に入れた襤褸仮面達。もはや彼等を止める者など存在しない。
 目的は屋敷奥。
 屋敷の主人――ホーエンの街の都市長たる男が眠る部屋だ。
 安心しきった屋敷の者は部屋の扉に鍵など掛けてはいない。よしんば掛けていたとしても……襤褸仮面達には無意味だろう。
 ギィ……と、小さく扉を支える金具が音を立てた。開いた扉の向こうから、襤褸を揺らした仮面の者が、無音の足音を立てて部屋へと侵入した。
 寝息を立てる緩んだ顔の都市長。それを見下ろした襤褸仮面はゆっくりと都市長の口を手で覆い掴んだ。
 びくり、と都市長が不意の感触に驚き目を覚ます。眠気眼の視線がゆっくりと定まると同時、飛び込んできた『無表情』の仮面に目を見開いた。
「んんーっ!? んんんーっ!!(なんだ!? お前は!!)」
 口を押さえられまともに声にならない悲鳴を上げた都市長。それを確認して、襤褸仮面は初めて音を立てた。
「ホーエンの都市長、クジャタだな。
 ……返答は求めていない。お前がクジャタであることは九割九分間違いが無いことを確認している。間違っていたら……その時はその時だろう。
 ――さて、我らお前に恨みは何一つないが、これも仕事だ。
 恨みを買った自身を呪うがいい」
「んんーーーッ!!!」
 襤褸仮面の言葉を聞いて、都市長は自身の置かれた立場を認識すると同時、逃げだそうと四肢に力をいれようとした。
 だがそれより早く、襤褸仮面のナイフを握った右手が動いた。まるでゼリーを切るかのように柔らかに都市長の喉が切り裂かれ、黒目がぐるりと回って動きを止めた。
 一人の男の死を確認した襤褸仮面。その部屋に続々と同じ襤褸仮面の面々が集まった。
 首尾を確認した襤褸仮面達は、また来たときと同じように音も無く部屋の窓から飛び出して、闇夜を駆けるように飛び去った。
 一様に揃った襤褸を靡かせ、『無表情』の仮面を着けた異様の集団。
 彼等の名は――


「暗殺集団ポーカーフェイス?」
 イレギュラーズの繰り返しの言葉に『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)が頷いた。
「暗殺といえばローレット(イレギュラーズ)を懇意にしてくださってるリーゼロッテお嬢様やその麾下の『薔薇十字機関(第十三騎士団)』なんかが有名だけれど、当然各国には暗殺を請け負う集団やギルドがあるわ。
 今回の相手――暗殺集団ポーカーフェイスは、その中でも金を払えばどんな暗殺でも請け負うタイプの連中になるわ」
 『無表情』の仮面を揃えて着けて、襤褸を纏った暗殺専門の傭兵。そこに思想や信仰は無く、金と殺戮の欲求を満たすために仕事を請け負う危険な集団だ。
 だが、(金さえ積めば)仕事内容を選ばないというのは、ある意味で信頼できる存在でもある。余計な計略、謀略の入り込む余地のない一つの価値によって結ばれる契約だ。スマートさ故に、”仕事”を頼む臑に傷を持つ者も多いという話だ。
「今回の依頼は、そのポーカーフェイスに最近殺されたホーエンの都市長と共に、ホーエンの街とベラルナの街の合併を計画していたベラルナの街の都市長、ローアンさんからの依頼になるわ。
 『次は私の番だ』って言う事らしいけど、まあ自分達が無理矢理に合併計画を進めていたことの自覚はあるみたいね。結構多くの恨みを買っていた見たい」
 ホーエンの都市長も恐らくその自覚はあったが、身を守るには手薄の警備だったに違いない。
 ホーエンの都市長の二の舞はごめんだと、ベラルナの都市長ローアンは噂に聞くローレットへと依頼を掛けた。
「オーダーはローアン都市長の守護。当然無傷であることが推奨されるわ。
 戦いはローアン邸を舞台にした防衛戦になるわ。二階建てながら大きな屋敷の外と内部で迫り来るポーカーフェイスに対応することになるわね」
 暗殺者達は当然深夜から朝方の時間を狙ってくるだろう。戦力の増強が確認出来れば用心を重ねた暗殺を仕掛けてくるのも容易に想像出来る。
「依頼として成立すれば、どんな手段を持っても成功へと導こうとする。
 ふふ、立場は違えどローレットに近しいものを感じるわね。
 殺しに長けた連中が相手よ。用心して依頼に臨んで頂戴」
 依頼書を手渡したリリィは、そう言って席を立った。
 依頼書の中身を確認しながら、イレギュラーズは防衛手段を思考を重ねるのであった。

GMコメント

 こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
 その表情は一様に無。
 暗殺者達の夜が始まります。

●依頼達成条件
 都市長ローアンが無事であること。

■オプション
 暗殺者達の全滅
 
●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 情報は全て信用できますが、想定外の事態が起こる可能性もあります。

●暗殺者ポーカーフェイスについて
 襤褸を纏い、仮面を着けた暗殺者集団。
 数は十人。
 突出したステータスはないが、いずれも高水準にまとまったバランス型。
 十人全員がステルスと飛行を持ち、また個別に以下のスキルを常用する。
 超反射神経、過酷耐性、罠対処、気配消失、看破、罠対処、ハイセンス、ハイテレパス、リーディング、エネミーサーチ。

●ローアン邸について
 二階建ての建物で地下はない。
 部屋数は一階に六部屋、二階に五部屋。
 大ホールはもちろん、通路も広く自由な戦闘が可能。
 調度品などは大きな屋敷にありそうなものなら何でもあります。
 常勤している警備兵が十人おり、外と中で五人ずつに分かれています。戦闘能力は低い。

●戦闘地域
 都市長ローアンの邸宅になります。時刻は深夜~早朝。
 内、外ともに広々としており、室内と廊下での戦闘であっても十分レンジは取れるでしょう。
 障害物等なく、戦闘に支障のない場所となります

 そのほか、有用そうなスキルやアイテムには色々なボーナスがつきます。

 皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
 宜しくお願いいたします。

  • 暗殺者の夜完了
  • GM名澤見夜行
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年03月04日 21時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
七鳥・天十里(p3p001668)
ヨルムンガンド(p3p002370)
暴食の守護竜
コゼット(p3p002755)
ひだまりうさぎ
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
トゥヨウ(p3p006822)
鉄打つ涙
シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)
花に願いを

リプレイ

●待ち伏せる
 暗殺集団『ポーカーフェイス』。
 並々ならぬ力を持ち、金のみで動くこの集団が、ベラルナの街その都市長を狙うという。
 奇しくも依頼を選ばないことでは同類とも呼べるローレットのイレギュラーズが、これに対するカウンターアサシンとしてベラルナの街都市長ローアンを守る事となった。
「噂に聞く特異運命座標の皆さん。
 ――どんな手段でもいい、守ってくれ」
 ローアンの言葉に依頼に参加したイレギュラーズは頷く。
「ええ、任せて頂きませう。
 作戦は考えてあります。こちらの指示に従って頂きましょうか」
 『自称・旅人』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)の言葉にローアンが頷いて全面的な協力を約束した。
 イレギュラーズの選んだ主戦場はローアン邸、その入口にほど近い場所に位置する一階大広間。
 敵は暗殺集団らしく隠密性能に特化している。これを看破するに有効な方法は単純な目視に他ならない。
 下手に護衛対象を別の部屋に置けば、裏を掻かれ守り切れないこともあるだろう。で、あれば自身らの持つ力を最大限発揮して、直接守る方が十分な護衛ができると踏んだわけだ。
「……かなり、おおきな広間ですね。用意した材料でギリギリというところでしょうか」
「拙者もお手伝いするでござるよ。襲撃までに準備を整えてしまいましょう」
 罠の設置をメインで行う『鉄打つ涙』トゥヨウ(p3p006822)と、『黒耀の鴉』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)が連れだって広間に罠を設置する。
 設置する物は二種類。
 ホールに垂れる釣り針のカーテン。そして陣形上部に張らす針糸だ。
 二人を中心に、大がかりな罠が設置されていった。
 その間に、ローアンとローアンの私兵である警備兵達に、『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)が今回の護衛――警備計画を話す。ただし、その詳細は伝える事はない。なぜならば敵陣に思考を読む能力を持つ物がいることが判明しているからだ。
「市長は部屋の隅へ。
 そして戦闘が始まったら、警備兵の皆さんはホール隅の市長を守ってください」
 戦闘に参加して貰うが攻撃的なスタンスは取らなくて良いと言う。市長を守る事に注力してもらうように伝える。
「我々は市長を守りに来た。つまり、市長の傍は警備兵の皆さんにとっても、一番安全な場所なのです」
 その上で、警備の式を取る者を紹介する。『正なる騎士を目指して』シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)だ。
 年若いシャルティエを見て、些か動揺する市長達だが、ローレットが自信を持って送り出した人物であることに違いは無いのだ。
「皆さんの指揮を執るシャルティエです。
 実績も浅いこんな子供が……って思われるかもしれないけれど、技術はきちんと学んでいます。
 依頼を無事に終わらせるためにも力を貸し下さい!」
 真摯に協力を仰ぐシャルティエの言葉には強力なカリスマ性を感じさせる。
 警備計画を統括する寛治の口添えもあって、警備兵達も納得したようだった。
「ところで、いっぱいうらみを買ってる、みたいだけど、都市長さんって、いい人なの? 悪い人なの?」
 罠を張り終え、暗殺者達の襲来を待つだけとなったそんな折、『孤兎』コゼット(p3p002755)が悪意無く尋ねる。不躾な質問ではあるが、ローアンにその自覚があるのか、気になるところではあった。合併計画、それは必要なことだったのか。
 ローアンは少し気まずそうに顔を歪め、しかしハッキリと口を開いた。
「ホーエンの都市長とは旧知の仲でな。二人の生まれ育った街を一つにする。それは私達の夢だったのだ。
 ……それを叶える為に、言ってしまえば自分達の都合で計画を推し進めたのは否定しない。そうだな、悪い人と言われても反論はできぬだろうよ」
 その計画を推し進めるのに汚い手段も持ち得たときがあったのだろう。ローアンは一つ首を振ると、しかし見開いた真摯な目でハッキリと言った。
「だが、二つの街を巡る過去からの争い、因縁を断ち切るにはこの合併計画しかなかったのだ。
 二つの街が諍うことで利益を得ていた連中は、私達のことをそれは恨むだろうさ。
 だが、それに屈するわけにはいかん。友が倒れた今、私が夢を叶えるしかないのだ」
 二つの街にどのような歴史があるか。ローアンは深くは語りはしなかった。しかし、その歴史が幼き二人に決意させ都市長への道を進ませた。
 二つの街を一つにし、より良くする。夢を叶える為にローアンはどのような手段でも使うのだと、固く決心しているようだった。
「ふーん、なるほどね」
 ある面では悪い奴かもしれないが、その志は悪そのものではないと、コゼットは感じた。
「なんとなくわかったけど、それでも強引に色んなことやったりするから、罰が当たるんじゃない?
 これに懲りたら少し穏便に物事を進めるようにしてもいいかもね。
 この場はちゃんと守ってあげるからさ」
 話を聞いていた七鳥・天十里(p3p001668)がそう言葉にする。ローアンは「確かに急ぎすぎたかもな」と反省もしているようだった。
「まあ大船に乗ったつもりで任せてくれ……!
 なんていったって私達は”あの砂蠍”も退けた、イレギュラーズなんだからな……!」
 動物疎通を用いて屋敷の内外を動物達に警備・偵察させる『暴食の守護竜』ヨルムンガンド(p3p002370)が胸を叩く。
 高い名声は確かな噂となってローアンの耳に届いていた。あの戦いを制した者の一人か、と驚嘆と共に不安が取り払われていくように思えた。
 刻々と時間が過ぎていく。
 極度の緊張は体力を奪っていくが、それに負けてしまっては相手の思う壺だ。
 奇襲は仕掛ける側に分がある。相手もそれを熟知しているからこその焦らしだろう。
 封鎖された窓から空の月を仰ぐ事はできない。だが確かに、暗殺者達はこの夜に紛れてやってくるに違いないのだ。
「………………。
 ……――来た……!」
 長い沈黙の果てに、動物の微かな鳴き声を聞き取ったヨルムンガンドが声を上げた。
 同時、どこかの封鎖した窓が破砕される音が響く。トゥヨウの設置した罠の数々が鳴子となって耳を刺激する。幾許かの騒々しさが過ぎると突然、屋敷の明かりが断たれる。気流が渦巻いて燭台の火を消したのだ。
「近づいてる、くるよ」
 コゼットの長い耳が立つ。ギフト、超聴力、そしてエコーロケーションによって屋敷内へと侵入した違和感を察知する。
 スッ……と寛治が自身の姿をギフトによって背景と同化させる。天十里がハンドサインを示した。自身が設置した上位式がやられたのだ。
「だ、大丈夫なのか!?」
 声を上げるローアンに天十里がニコリと笑顔を向ける。どんなときでもしかめっ面でいるより笑顔のほうが良い事がおこるのだ。
 侵入経路はホール東側だ。全員の注意がそちらへ向いた。
 沈黙。
 気配が消失するように、静寂に満たされた。

●広間(ホール)に踊る襤褸と仮面
 このとき、ポーカーフェイス達はイレギュラーズの存在を感知していた。
 エネミーサーチを用いる一人が、屋敷内の敵性存在を十七人、そしてターゲット一人を感知、罠対処を持つ者が広間に仕込まれた罠を感知する。
 だが、この罠に関しては対処が難しい。一人で対処するには時間が掛かるだろう。暗殺者は即座に解除を諦め、全員に罠の概要を周知した。
 そしてまるでこの警備体制を予想の範囲内とでも言うように、全くの動揺を見せず超反射神経を持つ者が走り出す。先行し、闇に紛れてホールへとその身に包む襤褸を躍らせた。
 ホール内、中央に陣取るイレギュラーズ七人の円陣。そして隅にはターゲットたるローアンが目視できた。
 釣り糸が襤褸を引っかける。動きのキレを無くす中身をくねらせてホールの床に着地すると、一直線にターゲットへと直進する。その動きに呼応するように、次々と襤褸がホールに侵入してきた。
 姿を消していた寛治が、暗殺者達の侵入に遭わせて強烈な弾幕攻撃を放つ。アタッシュケースより放たれる夥しい数の弾丸が暗殺者達の襤褸を、身体を打ち据えていく。
「リーディングに注意してください!」
 寛治の奇襲迎撃、そしてトゥヨウの注意喚起が戦闘開始の合図となった。
 床に足を着ける中で一番の反応を見せるヨルムンガンドが、先行する暗殺者へと疾駆する。同時、保護結界を展開し屋敷の保護に努める。
「動きにくいだろう……? 襤褸を脱ぎ捨てたほうがいいんじゃないか?」
 秘められし竜の力を解放し、夜色の黒炎を放つヨルムンガンド。暗殺者達に一瞬の動揺が走る。ただの警備兵ではない、異能を操る手練れがいることに――!
 星屑のような火の粉に巻かれる暗殺者が、しかし止まる事を知らずにヨルムンガンドへと肉薄し、襤褸の下より覗いた腕が禍々しきナイフを暗澹たるホールに閃かせた。的確に急所を狙う一撃をヨルムンガンドが、その左手の鱗で受け流す。
 相手の力が流れるように渦巻いた。
 其の力をヨルムンガンドは逃さず利用する。強烈なカウンターとなった一撃は、暗殺者を捉えた。血を流しながら暗殺者が飛び退る。
 トゥヨウの罠は確実に機能し、暗殺者達の動きを阻害していた。すぐに壊されていくものでもあるが、適宜修理し、稼働率を高めていた。
 イレギュラーズは動き回る暗殺者達をよく観察し、狙いを定めていた。
 その狙いは敵の作戦の要であると予想される、ハイテレパス、そしてリーディング持ちに他ならない。
 特に敵陣形の後方、戦場の敵味方一望できる位置を維持しようとする暗殺者が視認による交感――ハイテレパスの使用者であることは予想しやすかった。
 必然、ハイテレパスの暗殺者へと手数は集中していく事になる。
 気づいた暗殺者達も、それに対応しようと動くが、コゼットによって冷静さを奪われた多くの暗殺者がその狙いをコゼットへと向けていた。
 防戦に周りだすハイテレパス持ち。それを狙う瞳があった。
「同様な能力があるのでしたら当然、待ち受ける方に利があるのですよ」
 ホールの天井に潜んでいたヘイゼルが、好機とみてその身を空へと躍らせる。
 一直線にハイテレパス持ちへと落下したヘイゼルが、その身を捻って勢いままにその無表情を湛えた仮面をはぎ取った。
「――!?」
 ステルスを用いるヘイゼルの存在を暗殺者達は看破できていなかった。それにつけ込むようにヘイゼルが言葉を紡ぐ。
「貴方方に出来ることは『我々』にも可能――そうは思わなかったのでせうか?」
 『我々』を強調して、更なる伏兵の存在を臭わせる。ポーカーフェイスを剥がされたハイテレパス持ちが「上!」と声を上げた。思考は伝播し、暗殺者達の注意が上に逸れる。
 警戒すべき場所、注意すべき場所が増えるというのは、それだけで集中力を散漫にし削り取っていく。伏兵を臭わされた以上、暗殺者達は上部を警戒し続ける以外に道はなかった。
 これは自分達で明かりを消したことも不利に働いているだろう。ステルス性を重視する余りに墓穴を掘った形だ。
「コゼット殿はまだいけそうでござるな――ならば!」
 コゼットが多くの敵を引きつけている間に、一人でも数を減らす。咲耶はハイテレパス持ちへと肉薄して、手にした武器を振るう。
 仮面を奪われた暗殺者は動揺を隠しきれないまま、咲耶の首元目がけてナイフを振るう。その一撃を紙一重で回避した咲耶は相手の振るった力を自身の力へと転換し、強烈なカウンターを叩きこんだ。悲鳴を上げないところは流石にプロか。暗殺者は苦悶の表情を浮かべたまま絶命した。
 仲間が殺られたことで、暗殺者達に動揺が走った気配を感じた。
 暗殺者達のポーカーフェイスが崩れ始めたのだ。

●仮面(ポーカーフェイス)が落ちる時
 連携の要たるハイテレパス持ちが倒れたことで、暗殺者達の動きに綻びが生まれだした。
「結構きついけど、まだやれる」
 多くの者は怒りのままにコゼットを狙い、その狙いを逸らされる。回避に重きを置くコゼットは、多くの攻撃を避け敵を翻弄していた。回避盾として十分以上の活躍をしたと言えるだろう。
 当然、回避しきれない事故のようなものもあったが、仲間達のフォローもあって膝を折るまでは行かなかった。
「怖がる必要はないよ! こっちが押している!!
 相手の動きを良く見て、防御を固めるんだ!」
 都市長を守る要とも言えるのはシャルティエだろう。前衛を抜けてきた暗殺者に対し警備兵を指揮して反撃する。
 この都市長を守る指揮が、かなり効果を上げていて、暗殺者達は迂闊にターゲットである都市長を狙う事が困難になっていた。
 当然、指揮するシャルティエもそれに伴って注目され、狙われる機会も多くなった。集中される攻撃に体力を奪われるも、しかし小さき少年は一歩も引かぬ戦いを見せた。
「大丈夫です。あなたは私達が守りますから」
 恐怖に怯える都市長へと声を掛け、恐慌に陥らないように気遣うトゥヨウ。
 仕掛けた罠はそのほとんどが破壊された。長く修理しながら使っていたが、これ以上は無理だと悟れば、潔く放棄する。
 トゥヨウの放つ自律自走式の爆弾が、暗殺者達を巻き込み爆発する。生命力を犠牲にしながら、攻撃を繰り返すトゥヨウの動きに暗殺者達はかなり苦しめられたことだろう。
「戦力的な勝敗は喫したでしょう。
 貴方達の敗北は決定的ですよ」
 暗闇に紛れるスーツにワイシャツの白が映える。寛治の放つ殺傷能力に優れた怒濤の連続攻撃が、執拗に暗殺者達を狙った。
 その多くを為す術無く喰らった暗殺者の仮面が落ちる。苦悶に歪むその表情は『ポーカーフェイス』からはほど遠いものだ。
「余裕がないのが見て取れますよ。逃亡も視野に入れる頃合いではありませんかね。
 ――それを許すつもりもありませんが」
 寛治の言うように、暗殺者達は目標を達成出来ない以上、撤退も視野に入れ始めていた。だが、ここで撤退すれば信用にキズが付き、暗殺者としての名声は地に落ちるだろう。それはこれまで暗殺者として生きてきた彼等のプライドが許さないところなのだ。
 引くに引けない、その状況に暗殺者達は板挟みとなり、闇雲な戦いに臨む事となっていた。
「逃げないなら覚悟を決める事だね――!」
 長い黒髪を靡かせて、天十里がホールを縦横無尽に駆ける。
 暗殺者の投げるナイフをジャンプで躱すと、さらに中空を蹴り上げて空を舞う。アクロバティックに天地を反転させれば、心の光を銃弾に宿して、黒く煤けたリボルバーの引き金を引いた。
 銃声と共に放たれた弾丸が、暗殺者の肩口から体内を穿ち、強烈な衝撃と共に、活動を停止させた。
 一人、また一人と倒れて行く暗殺者達。無理矢理に都市長を狙おうとするも、それを阻むのは夜竜たる威圧を掛けるヨルムンガンドを初めとした、イレギュラーズの前衛達だ。
 仲間は倒れ、狙いである都市長も堅牢の内にいる。
 目的達成が困難と見た残る暗殺者達三名が、遂に動きを止めた。
「……ここまでだな」
 暗殺者の一人が仮面の下からくぐもった声を響かせた。
「観念したのか……! なら大人しく投降するんだな……!」
「ふん、投降など。
 此度の依頼は失敗。我等の信用も地に落ちるだろう。
 だが、このままで終われるものか。必ずや再起してくれよう」
 暗殺者達が一歩後退する。逃げる心算だろうが、イレギュラーズとて、彼等を逃がす理由はなかった。
「臆病者が逃げるおつもりでせうか!」
 ヘイゼルの挑発に一人が足を止めて向かってくる。残る二人は屋敷の外へと向けて玄関から一目散に逃げだそうと走った。
 その動きと同時、最初に暗殺者達が侵入してきた東の通路から影が舞い踊り出た。
「伏兵――!」
 逃げる暗殺者を追うイレギュラーズ。しかし全てのイレギュラーズが追いかけたわけではなかった。
 都市長を守る為に最大限の警戒をし続けたイレギュラーズはこうした展開も予想していたのだ。
 気配遮断、そしてステルスを駆使して決定的なチャンスを待っていた最後の暗殺者は、決死の覚悟で都市長を狙う。
 その凶刃を最初に気づいたシャルティエが身を挺して防ぎ切る。都市長の前で膝をついたシャルティエ、その側面から一斉にコゼットとトゥヨウが襲いかかり、暗殺者の命を奪った。
 仮面の下から血を垂れ流した暗殺者が倒れる。
「最後の一人には逃げられたでござる。一人を逃がすために足止めに走るとは、敵ながら見事な覚悟でござった」
 とはいえ、一人生き残ったところで、この先の活動は絶望的だろう。暗殺集団『ポーカーフェイス』の鉄仮面は崩れ落ちたのだ。
 戦いが終わったローラン邸に、一人息を残す暗殺者がいた。
 傷付きか細い息を漏らす暗殺者。その命が長くないのは明白だった。
「依頼主は誰かな?
 どうせ死んじゃうんだし、教えてくれたら、楽に殺してあげるよ?」
 コゼットの言葉に「くく……」と暗殺者は笑った。
「言うわけがないだろう? 我等とてプロの暗殺者だ。たとえ命を失おうと、約束を違えるわけにはいかない」
 そういって、暗殺者は奥歯を噛んだ。一瞬の後、歯に仕込んだ毒によって男は息を引き取った。
 こうして、暗殺者達の夜は終わりを告げ、朝がやってきた。
 暗殺という”仕事”に殉じた男達の亡骸を見やりながら、こうはならないように――道を違えぬようにと、イレギュラーズは心に思うのだった。

成否

成功

MVP

コゼット(p3p002755)
ひだまりうさぎ

状態異常

なし

あとがき

 澤見夜行です。

 戦場の策定、トラップの設置、ステルス+飛行に対する対処などなど、実に良いものが揃っていた様に思います。
 結果として守備側に大きな被害もでず、見事な依頼完遂となりました。
 ローアンへの言葉も少し意味があったようです、合併計画は進めますが、今後はあまり強引な手段は取らないでしょう。

 MVPは回避盾として十分に暗殺者達の注意を引いたコゼットさんに送ります。敵の察知やクライアントの聞き出しなどもよかったです。とてもがんばりました。

 依頼お疲れ様でした! 素敵なプレイングをありがとうございました!

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