PandoraPartyProject

シナリオ詳細

悪に天誅を

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●売買商品
 知っているか? 子供と言うのは高く売れるんだ。
「特に――この国は『良い子』達が多くてな。それが買い手にとって好印象なんだ」
 天義と言う国は些か正義に凝り固まったお堅い面のある国だ。
 が、それは『そういう面』もあるというだけで本質的には善性である。故に大多数の国民は清く正しく生きており、治安も中々に良好な国である故――そういう所の子供程美味しい。
「血気盛んでハングリー精神のある鉄帝は、比較的元気で反抗的な子が多くてね。まぁそういう奴の方が好み、という依頼人もいるにはいるんだが……俺的にはそんな反抗的な奴より怯えてくれる純情な子の方がね、売りやすくていいんだよ」
「ひっ……ひっ……!」
「例えば君の様な、ね」
 冷たい牢の隅で――鎖の金属音がする。両の手首に取り付けられた金属の枷は容易に外れそうになく、少年の動きを大きく制限している。見れば片足にも重量のありそうな鉄球付きの鎖が繋がれていて。絶対に逃がさぬという意思をそこに感じる。
 奥歯が鳴る。自然と、意思によらず。ああ、どうしてこうなったのか。
 友達と遊んでいたのだいつものように。近くの森の中で。そうしていたら突然視界を塞がれて――
「おっ、船がもうすぐ着くな。なに……大人しくしていれば乱暴な事はせんよ。分かるだろう?」
 男は見る。少年からは見えぬが、隣の牢の中を。されば。
「煩かった君の友達はどうなったか」
 言う。そう、一緒に遊んでいた近所の女の子が隣にいるのだ。彼女もこいつらに捕まってしまった。彼女は元気な子であった。大人しかった自分とは違って……あぁだからか。最初、目の前の彼らにどこまでも反抗的で暴れていて――

 今はほんの微か。すすり泣く声しか聞こえない。

 聞こえた殴打音に震える事しか出来なかった。不甲斐なさよりも恐怖が己の脳を支配する。
「見せしめとは言えやりすぎたな。さて、まだ商品としての価値が残ってればいいが」
 駄目なら。
「後で殺すか」
 鳴る。奥歯が鳴る。止まらない。助けて。誰か、誰か助けて――

●悪は滅すべし
「こんな奴らに生きている価値はない」
 ギルオス・ホリス(p3n000016)はそう語る。天義の、ローレットに縁ある施設に集ってくれたイレギュラーズ達を前にして。
「悪人というのはやはりどこにでも湧き出るモノだけど……天義のこんな所にも、なんてね。人身売買組織の尻尾を掴んだ。拠点と思わしき施設を発見したから――そこを徹底的に破壊してもらいたい」
「人身売買組織の尻尾をって……一体どんな経緯で?」
「うん、元々は行方不明になった子供の捜索依頼がローレットに舞い込んできていてね」
 そして調べていればどうも只の行方不明ではなく――組織的な動きがある事が分かったのだ。
 とある小さな港。そこが丸々敵の施設なのだとか。ここからの行き先は分からない。船が出て海洋へと向かうのか。それとも幻想の貴族領か。或いはラサにでも向かうのか……
「騎士団に連絡して、事実確認をして部隊を動かして――では間に合わない可能性がある。ここは皆に行ってもらって、囚われた子供達の救出。並びに敵組織を壊滅させてほしい」
「子供達が……! それは一体、施設のどこに?」
「この港には複数の倉庫がある。その内の一角であるとは思うけれど……厳密にどこに集められているかは、すまない時間が足りなかった。現地で直に探ってみてくれ」
 オーダーは二つ。子供達の救出と施設の破壊活動。
 なおこの『施設』というのはもうすぐ来るであろう『船』そのものも含む。今から向かうと、恐らく船が来る少し前に到着できる筈だが即座に行動を起こしてしまうと船はそのまま逃げてしまう可能性もある。本格的な行動を起こすのは船が錨を下ろした後の方がいいだろう。
「敵組織の連中は皆殺しにしていいよ。まぁ人数が多いみたいだから逃げられる者もいるかもしれないけど、ある程度は後で来るであろう騎士団に任せて問題ないと思う」
 人を売るなどという事をする連中に容赦は無し。
「頼むよ皆――子供達を救ってやってくれ」
 そして悪に天誅を。

GMコメント

■依頼達成条件
 囚われた子供達の救出
 施設・船の破壊
 *破壊の定義に関してはある程度で可。火を放つ・爆破する等派手にやっても構いません
 *とにかく「通常の状態」でない様にすればOK
 *子供達救出・敵勢力掃討後に破壊活動でもOK

■戦場
 とある小さな港。事務所らしき建物が一つ。
 倉庫らしき施設が幾つか立ち並んでおり子供達はどこかにいると思われる。
 船は9ターン後到着予定。その後子供達の移送が始まると思われる。

 時刻は昼。港の周りは森に囲まれており、隠れる場所はある模様。

■敵勢力
■ボス
 OPで喋っていた男。後述する下っ端とは比べ物にならない実力を持つ。
 銃と剣を持っており、二刀流スキルを所持。若干攻撃性能に傾いている模様。
 ハイセンス・統制の非戦スキル持ち。シナリオ開始時点でどこにいるかは不明。

■下っ端集団×30
 数はかなり多いものの、一人一人の性能は大したことは無い。
 船が訪れるとここから更に幾らか増える模様。(数不明。性能は大体一緒)
 特に有用な非戦の類は持っていない。

 施設周囲の警戒は割としっかり行っている。
 二・三人で一グループが複数。ある程度の感覚で巡回を行っている模様。
 ファミリアーなども警戒中。動物が見えた時点で追い払う行動をするだろう。

■救出対象
 子供達×5人。
 牢の中に入れられているようだが、どこに牢があるのかは分からない。
 事前に知っておきたければ何らかの偵察行動が必要だろう。

 また、特別な枷を付けられており走る事は出来ない。
 担いで移動する場合一人に付き、担ぐ人物の機動力を半減するものとする。
 鍵はボスが持っている模様。外したい場合『ワイズキー』ならば即時解除可能。

  • 悪に天誅を完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年02月27日 21時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
マグナ=レッドシザーズ(p3p000240)
緋色の鉄槌
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)
想星紡ぎ
アミ―リア(p3p001474)
「冒険者」
ティミ・リリナール(p3p002042)
フェアリーミード
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
安室・麗奈(p3p006956)
鋼鉄戦姫

リプレイ


 どこにでも悪はいる。いつに至ろうと朽ちる事はない。
「人身売買。それも子供達を、だって?」
 反吐が出る――『天翔る彗星』ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)は侮蔑の眼差しと共に施設を眺めている。だがまだだ。胸糞の悪い事件ではあるが、感情のままに突入するわけにはいかない。今はまだ仲間の偵察の結果も待つとしよう、そう。
「やれ、幻想にしろ天義にしろ組織的に子供を攫う輩が横行しているとは世も末なのです」
「ホントね――元気にのびのび育ってる子供達を誘拐して売り飛ばそうなんてとんでもないわ!」
『自称・旅人』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)や『調香師』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)らと共に、だ。森に潜みながらジルーシャは周囲に存在する精霊に牢の場所を知らないだろうかと情報収集を行い、ヘイゼルは――天へと駆ける。
 知覚した敵の警備の密度。その間隙を空に広げた魔紋を踏んで往くのだ。木の上へ、そこから近くの屋根の上へ。警備の視線の届かぬ先へ。牢はどこかと、子供たちはどこにいるのかと様子を伺いながら。
 無論敵の『鼻』に察知されまいと海風の利用も忘れない。風下に位置し、それを凌ごう。
「全く。蠍や芋虫、魔種以外でも……潰さねば毒となるものは、どこの国にも多いようだ」
「うーん、きっとあの辺りの建物だぞ……! 間違いないぞ……!!」
 同時。『沈黙の御櫛』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)が強化されし無機物との疎通術にて探索を。透視も用いてより遠くの無機物に意思を通さんとする。ボスや巡回中の配下の情報を、ボスのハイセンスにも探られぬ位置にて。
 更に『鋼鉄戦姫』安室・麗奈(p3p006956)の人助けセンサーがそれとなく子供達の反応を捉えている。当然、皆が皆救いの手を待っているのだ……彼女の拳が固く握り締められる。今すぐにでも助けに行きたいが。
「ううう、まだ、まだ早いか……! もうちょっとだけ……!!」
「ああ冷静にならねぇとな。大暴れすんのは――ガキ共をしっかりと確保した後だ」
 そう。『緋色の鉄槌』マグナ=レッドシザーズ(p3p000240)の言う通り、子供たちの安全を確保した上で動かねばならない。移送用の船が到着するまでまだもう少しだけ時間があるのだ。その前に動きをスムーズにするべく偵察をしっかりと。
 エネミーサーチを用いて半径100m内の敵を探り、同時に超嗅覚にてその位置を特定せんとする。巡回している者らの位置を。近付いているのか、遠ざかっているのか。重点的に警護している場所はあるのか――あるのならば、きっとそこが牢の位置だと。
「ふんふん……もうすぐ船が着くね、そろそろ動き時、かな?」
 そして『「冒険者」』アミ―リア(p3p001474)は味方の偵察終了を待ちながら、子供達がいるであろう施設とその先。姿が見え始めていた船を見据えていた。動くとなれば一気にだ。そこからは速度が重要となる。

 どれだけ不安の中にいるのだろうか子供達は。平穏を乱され、不条理を叩きつけられて。

「……待っていてください」
 口端を噤み『儚き雫』ティミ・リリナール(p3p002042)は静かに呟く。
 思い起こすは過去の記憶。『あの日』の事。掴まれた手首の痛みと、二度と触れえぬ家族の温もり。彼女は『攫われる』という事がどういう事なのかよく分かっている。だから。
「必ず助けに行きます」
 自らの目の前で、二度目はないのだと。あの日の自分に――固く誓う。


 水飛沫の音がする。
「船が着いたか。よし、移送するぞ」
 それは船が錨を下ろした証。さぁ『商品』を運ぶ時間だ。
 こんな国はさっさと出てしまうに限る。この国の騎士団共は厄介な存在なのだ……事、奴らには賄賂など通じにくい。善良たらんとする意思が他の国より遥かに強い。だから、誰にも捕捉される前に――
「んっ?」
 瞬間、ボスの『耳』がおかしな音を捉えた。
 巡回している者らの足音とは別に、急速にこちらへと近付いてくる八つの足音――
「行くぞ悪者ッ――!!」
 同時。倉庫の扉の前で激しい音が鳴り響く。
 それは正義の殴打音。悪ぞここに滅すべし。喰らうがいい、魔法少女の鉄槌を!
「変・身! 魔法少女『ジャスティス・レイナ』……推ッ参! さぁ断罪の時間だ!!」
 変身した麗奈は下っ端の顔面を殴りつけて、勢いそのままに扉ごとぶち破る。
 激しい破砕音と共に踏み込むイレギュラーズ達。巡回の隙間を縫って一気に突入した彼らは捕らえられし子供達の姿をその目に。各々の重なる情報収集の結果、見事に一発で当たりを引けたようだ。
「騎士団……いや、違うなお前らはまさか!?」
「お察しの通り、とだけ。では御覚悟を」
 ボスの姿を確認したヘイゼルは真っ先にその眼前へと。
 雑魚を無視して駆け抜けて。左の足で回し蹴りを叩き込む。寸ででガードされるも――揺らぐ体、見える隙。故、なら、ば。己が右中指の付け根を噛む様に。引く動作で顕現させるは赤き糸。
 糸繰の様に指から歯で噛み伸ばしきる。振るい、纏わせ力を啜れば。
「ホンット……胸糞悪い奴は何処にでも。覚悟しろよ、報いは必ず受けるモノだ」
 神秘の本能を増幅させたウィリアムが敵の一人を指差して。星の巡りを狂わせる。
 所謂かな呪いの領域。敵を狂わせ、しかし自らをも蝕む星の力だが、そのぐらい何するものぞ。奴らに報いを受けさせ、子供達を助ける為ならば――何の苦でもない。
「入口……は、裏口も含めて二つかな? 片方は潰しておくね!」
 そしてアミーリアがアースハンマーにて近場の荷物を叩き崩す。入口の数を減らし、敵への対処をしやすくするための策だ。最低でも時間稼ぎにはなろうと思考して。
 されば、始まる戦闘と共に騒ぎも大きく。流石に敵襲の存在を知った周囲の者らが牢のある場へ直行するが。
「遅せぇんだよ……お前らみたいな三下なんざお呼びじゃねぇ。どいてな!!」
 入り口へと駆けつけた一人をマグナが迎撃する。
 それは撃ち貫く意思の具現。赤き魔力で成された『毒針』スティンガー。
 足を払い、転びかけた所の胸部へ打ち込む。さすれば着弾点が炸裂するかの如く威力を伴って――爆炎の如き鮮血が飛び散り、舞い踊るのだ。絶叫が響き渡り周囲の者にこれでもかと痛みを伝えている。
「ひ、ひぃぃ! なんだこいつらは!」
「馬鹿野郎怯むな! 数は勝ってるんだ囲んで潰せ!!」
 怯む配下衆。ボスの統制なる効果である程度動きは抑制されているようだが。
「――いやはや烏合の衆とはこういう事なのだろうな」
 そんなボスへとエクスマリアが攻撃を重ねる。無数の糸が、青き瞳があらゆる負を奴に振り撒くのだ。十分に情報を得る活動が出来ていたからだろう。ここまでボスへとスムーズに攻撃を重ねられているのは。
 無論、配下が段々と集まってくれば状況も変わる。その内遊撃として乱れを生じさせる動きへと移行しようか、などと彼女は考えながら――視線を牢へと向けて。
「怖かったですね。もう、痛くありませんか?」
「皆よく頑張ったわね――もう大丈夫よ。貴方達は、お家に帰れるからね」
 さすれば牢の中へと侵入を果たしたティミとジルーシャの姿を確認できた。牢の鍵も、拘束している枷もジルーシャのワイズキーに掛かれば、ただのアクセサリーの様なものだ。瞬時に解放され、子供達の手足が自由となる。
 そしてそんな彼に続いてティミが真っ先に向かったのは暴力を振るわれた子の元へと、だ。抱きしめると同時に施す回復術が傷を塞いでいく。それでも尚に震えるは心の傷。だから抱きしめる力を強めて。大丈夫だと言葉を重ねる。
「外は危ないですからね。もう少しだけ、ここに居てください。大丈夫ですよ。必ず迎えに来ます」
「うん、ティミの言う通りだ! これ以上絶対に皆を傷つけさせないぞ! あいつらは、私達が今からやっつけるッ! だから皆も安心して希望を持ってほしいのだ!」
 麗奈は大声で。太陽の如く輝かしく、宣言する。不安という闇を打ち払う為に。
「何たって私達は――正義の味方だぞ!」
 言うのだ。弱きを救い、強きを挫き、正義を愛する彼女は――決して悪を許さぬと!


「お菓子あげるから、ここで食べながら待っていて頂戴ね。終わったらすぐ迎えに来るわ」
 持ち込んでいたお菓子を子供達に渡して。振り返るジルーシャは敵を捉える。
 子供の価値は『金銭』ではないのだ。いやそもそも人に値段を付けようなんて発想自体がナンセンス。人とは隣人。共に生きる者。寄り添い、愛し、笑い合うべき存在。冷たき鎖に繋ぐ商売の道具ではない!
「後悔しなさい……子供を、隣人を蔑ろにする連中に掛ける情けはないわよ……!」
 奏でる音はストラディバリウス。至高の一品。流れる音色と共に縁を繋いだ精霊が顕現する。蒼き衣を纏うウンディーネが。赤き角を持つサラマンダーがジルーシャの両隣に。
 往く。飛ぶ様に敵に纏わりつき、近くの者にはサラが鮮やかなりし炎を。遠くの者にはディーの創り出す決して解けぬ氷の鎖を纏わせて。
「ハッ――さっきからどうした! やっぱり子供みたいな抵抗できない奴しか相手できないのかテメェらは!」
 そしてマグナの雷撃が敵の塊へと放たれる。常に牢の中の子供の位置は気にしながら、だ。
 突入がスムーズであった為、牢の子供の安全確保も順調だったがこれより先も子供が安全とは限らない。なにせやはり敵の数の方が多いからだ。見れば船からの増援も来ているのか、駆けつけて来る足音の数も増えている。
「……いざとなれば壁をぶち破るか。入口の方から殺到しているから、反対側は薄かろう」
 そんな中エクスマリアは冷静に。透視で壁の向こう側の様子を伺いながら己が動きも思案して。
 一人一人はやはり大した事は無いようだ。集団行動に乱れを生じさせるべく遊撃としての動きを本格化させるべきだろうか。数の多い中に効果を発揮するように動こうとすれば些かの危険も伴うが、流石に安全策ばかり取ってはいられまい。
「子供達を攫うなんてお前たちは私の世界の悪者と同じだぞ……! 魔法少女の拳を喰らうがいい!」
 世界を跨いでも悪人の思考は同じらしい、と麗奈は押し寄せる『悪者』の集団に己が拳の連打を放つ。まるで無数の弾幕の如く。無論、前に出ている故、敵からの攻撃も迫ってくるわけだが――この程度で怯む訳はなし。
 頬を裂く銃弾も。腹部を掠める斬撃も恐れない。なぜなら彼女は魔法少女だから!
「ふむ。善にしろ悪にしろ、遥か昔から本質は変わりませんからね。世を跨いだ程度では、同じような人間がどこもかしこも跋扈しているものです」
 良くも悪くも。時間を重ねても。西の果てから東の果てまで見ても、とヘイゼルは思考する。
「実際、私の出身の孤児院も人身売買組織と大差ない処でしたし」
 まぁそれはそれ、これはこれ。
 今自らが籍を置いているのはローレットであり、これは依頼なのだから遂行するまでである。重ねる糸の厚みが段々と増して、敵のボスの注意を引き続ける。
「ええいうざったらしい奴だ! ちょこまかちょこまかと……!!」
 怒りによりヘイゼルを狙い続ける。部下にも指示を飛ばし、早く押し包め、子供を取り戻せと檄を飛ばして。流石に数の差を抑えきれず周囲に段々と敵の布陣が形成される。狙うは再度子供達。人質にでもすればイレギュラーズ達の動きも鈍るだろうと――
「いいえ……ここは誰も通しません」
 しかし牢の近くにはティミが立ち塞がる。子供達にはもう二度と触れさせない。触れられる恐怖も、鞭で打たれる痛みももういらない。彼らはあの日の私と同じだ。このままでは幸せを奪われてお仕舞い。
 あの日助けられなかった自分を助ける為に――今日この時、後ろを向く訳にはいかない!
「――ああそうとも。助けるさ、当然だ」
 故に、ウィリアムは言葉を紡ぐ。
 増えてきた敵の数、だからこそ叩き込める一撃があるのだと。紡ぐ言の葉は、きっと彼の集大成。
「子供達には、年長として誇れる姿を見せないとな」
 世の中には、こんな汚い奴らばかりではないのだと。
 星々の彼方。星界への接続。天は今ぞ落ちて、しかして其は落星に非ず。
 一筋の希望を携えた、奇跡の流星。

 ――ウィリアムの言霊に、蒼星が応えた。

「お、ぉぉぉ!?」
 瞬間。天井を突き破って一筋の魔力が敵の塊へと襲い掛かる。それは広大な範囲を巻き込んで。
「っと、そこだ! 隙あり!!」
 驚愕するボスの横っ面にアミーリアが踏み込んだ。
 刃に纏う炎は付与された属性。強き勢いがアミーリアにも襲い掛かるが、彼女は問題としない。振るう一閃。薙ぐ斬撃。ボスの腹部から大量に出血が見えて――
「う、ぐぐぐがッ! ふざけるな――ッ!」
 ちくしょうなぜだ! なぜこんな事に! とばかりにアミーリアへと反撃の一撃を叩き込む。銃弾を彼女に。逃がしはしないとばかりに撃ち込む、が。
「往生際が悪いな――最後の一時ぐらい、潔く出来ないのか?」
 そこへ、負傷部位へと追い打ちをかける形でエスクマリアの一撃が突きあげられる。
 それは巨大な土塊の拳。魔力で形成されたそれは、銃弾にも劣らぬ勢いで地面より射出され――ボスの腹部を抉って突き上げた。血と共に奴は空を舞って。
「ひ、ひぃぃぃ! ボスが、ボスがやられた!!」
「あら? 今更になって逃げるつもりなの? でもダメ。逃がさないわよ」
「足並みが完全に乱れたな……と、船を動かすつもりか? させねぇよ!!」
 残存の敵が逃げようとするそこへ、ジルーシャが呪いを帯び師冷たき歌声を。更に船を動かそうとするのを察知したマグナが、その足を止めんとマストをへし折るべく行動を開始する。逃がす物か、船も、お前らも。
 散り散りにならんとする誘拐犯共。その一人を、ティミは追い詰めた――瞬間。
「……!? 貴方はッ!」
 忘れる筈もない。かつて、己を攫ったあの集団の、一人。まさか、まさかこんな所で……
 フラッシュバックするかの如く恐怖が蘇る。されど、されど。今は。今は一人ではない。弱かった、家族が死んでいくのを眺めるしかなかったあの日とは違う。血の如く輝く、鮮やかなネックレスを少しだけ力強く握って――顕現せし、蒼き鎌越しに。
 恐怖に怯える敵の顔を、一瞬だけ見たのだった。


「……ふむ。どうやら行き先は海洋を経由して幻想のご様子。取引でもあったのでしょうか」
 操舵輪を燃やしながら、ヘイゼルはほぼ掃討が完了した船内で船の行き先を調べていた。どうも顧客の具体的な名前が載ったリストはないようだが、まぁ仕方ない。
「後は船も施設も燃やしてしまいませう。酷い世の中ですが、ま、多少はマシになりましょう」
「ああ。後は外からもう一撃叩き込むよ。皆が下りてから、にはなるが」
 こんな船などブチ抜いてやると、ウィリアムは再びの奇跡星を呼び出さんとする。
 とはいえそれはもう少し後からだ。マストの破壊を成したマグナや機関部の破壊を勤しむアミーリアなどと一緒に下船してから一気にとなる。
「さぁ皆! 今からこの辺りはさっきとは別の意味で危なくなるからな! 私と一緒にちょっと離れておこうな! 皆、こっちだぞ――!」
「ふふふ、はい。それじゃああのお姉さんに付いていきましょうか皆、ね♪」
 そして救出された子供達は麗奈とジルーシャによって少しだけ離れた場所に誘導されている。破壊工作に巻き込まれる……と言う事は流石に無いが、安全の為にだ。何より必要がなくなれば囚われていた牢からは離した方が良かろう。

 悪はいつの時代でも、どこの世にも存在する。それはきっと、これからもだろう。
 だが悪を挫くという意思もまた――決して潰える事は無い。
 悪には罰が下された。この組織に繋がる悪にもいずれ報いが――下る事だろう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

アミ―リア(p3p001474)[重傷]
「冒険者」

あとがき

依頼成功となります、お疲れ様でした!!

天義は概ねにして善なる属性で、騎士団もまたその傾向ですが
だからといって彼らの手が全て全てに届くとは限らないもの……
騎士団のみならず、皆様のご活躍によりまた救われる命も今後もある事でしょう。

それではご参加どうも有難うございました!!

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