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シナリオ詳細

石畳の街にて
石畳の街にて

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●石畳の街
 幻想某所、その町の本当の名前を知る者はもういない。
 住人たちでさえ知らないのだ。
 通称は『石畳の街』。呼び名の通り複雑に入り組んだ街に石畳が張り巡らされ、石の建物と石垣が並んでいる。
 色とりどりの石材は、この町のすぐ近くで採られたものだった。

「うーむ」
「どうしましょう」
「いや、直すけどなぁ」
 長年にわたり石畳の街の景観を保ってきた石工の集まり、大石工会の五代目の棟梁は、崩れてしまった大石垣を前に太い腕を組み、唸る。
 隣で困ったように眉尻を下げている華奢な男は、大石工会の経理だ。
「石、足りねぇんだっけ」
「足りませんねぇ」
「採りに行かにゃならんよなぁ」
「ですねぇ」
 顔を見あわせ、二人は同時にため息を吐き出す。
 石畳の街の名物のひとつである、数十メートルに及ぶ大石垣。この町にありふれた石垣の中でも特に大きなそれの一部が、経年による劣化でついに崩れた。
 そこまではよかったのだ。これまで通り修復してしまえばいい。
 問題は、石を調達するための場所だった。
「盗賊なぁ」
 そう、ちょうど石が落ちているところに、盗賊が出る。
 この町に立ち寄る行商人や外に出る町人たちにしつこく絡んでいるという盗賊たちに、大切な石工を傷つけさせるわけにはいかない。
 こういうときのためにいるはずの自称『町を守る青年団』たちは、どうやら歯が立たなかったらしい。
「ローレットに依頼を出しましょうか」
「石工たちの護衛か? 資金は?」
「工面しましょう」
 しばらく悩んでいた棟梁は、やがて大きく息を吐いた。
「この程度のことで招くのも申し訳ねぇが……。それしかねぇか」
「石畳の街の象徴のひとつである大石垣をこのままにすることも、石工たちを襲わせるわけにも、いきませんからねぇ」
 肩を竦めた経理の男は、さっそく依頼を送るため踵を返す。
 崩れた大石垣にそっと触れて、棟梁は労わるように顔をゆがめた。
「すぐに直してやるからな」

●肩肘張る必要はないのです
「みなさーん、新しい依頼なのです!」
 依頼状をひらひら振って、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が姿を現す。
 暖をとって真冬の寒さをしばし忘れていた面々は、ほとんど同時に情報屋の少女を見た。
「石畳の街に行って、護衛をしてほしいのです」
 よくある依頼に、もうひとつ、とユリーカは続ける。
「皆さんがくると知って、青年団や小さな子たちがはしゃいでいるそうなのです。ぜひ手合わせをしたいと大興奮なのです」
「護衛と手合わせの相手に分かれろということか?」
「そうなのです」
 大きく頷いたユリーカは、もう一枚、紙を出してきてテーブルに置いた。
「護衛依頼の方は、町の近くに出没する盗賊団から石工の皆さんを守ってほしいというものなのです。調べたところ、盗賊団は強くないのです」
「それなら少人数でもどうにかなるな」
「なると思うのです。手合わせは……。相手は一般市民なのです」
 つまりそういうことだ。
「石工の皆さんは石畳の街のひとつである大石垣の修復を行っているのです。護衛や手合わせの他に、お手伝いすることは色々とあるのです。どれもきっと喜んでいただけるのです!」

GMコメント

 はじめまして、あるいはお久しぶりです。あいきとうかと申します。
 石畳の街の、大石垣。

●目標
 護衛したり手合わせをしたりする。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●行動
【A】大石垣の補修に使用する石を村の外から運び入れる。
 石は石工の皆さんが選んで運びます。
 イレギュラーズの皆さんのお仕事は出没した盗賊たちの退治、および石工の皆さんの護衛です。

【B】イレギュラーズがくることに大興奮した青年団と少年少女の相手をする。
 チャンバラくらいの感覚です。多少の怪我は負わせても構いません。
わざと負けてあげても構いません。

●ロケーション
 皆様が街に到着するのは昼頃です。

【A】石畳の街の西部に広がる平原。大小さまざまな石が落ちている。
 見通しはいい方だが、石の陰に隠れることは可能。 
 気をつけていれば石につまずいて転ぶことはまずない。

【B】石畳の街、大石垣の近く。
 工事や炊き出しを背に戦うことになる。近くには民家や商店も存在。
 皆さんに相手をしてもらえなかった場合、青年団と少年少女は悲しみのあまり石工たちの邪魔をする。

●敵
【A】盗賊たち
 剣使い(5人)弓使い(3人)の狼のブルーブラッドで構成される盗賊。
 石畳の街の近くに出没しては商人や旅人、町の人々を襲っている。
 ただし強くはない模様。
 半数以上を戦闘不能にすると尻尾を巻いて逃げる。
 全員、攻撃力や耐久は低いが逃げ足だけは早い。

【B】青年団と少年少女
 街の治安を自主的に守っている青年団(20人)と、大きくなったら青年団に入りたい少年少女(10人)。
 イレギュラーズの皆さんに対して強い憧れを持っている。青年団の面々は「乗り越えたい壁」とも思っている。
 木の棒やパチンコなどで攻撃してくる。 
 ステータスはありふれた一般市民程度のもの。

●他
 プレイングには【A】【B】どちらに参加するかを必ずご記載ください。
 人数が偏っても構いません。戦闘はどちらも簡単です。

【A】の方が早く任務が終わります(盗賊を倒して街に戻って【B】に合流できます)。
【B】に加わっていただいても構いませんし、他のことをしていただいても、なにもしなくても構いません。
【B】の方も他にやりたいことがありましたらそちらを優先していただいて構いません。
(例:炊き出しの手伝い、大石垣修復の手伝いなど)
 ただし誰も青年団と少年少女の相手をしないという状況になった場合、青年団と少年少女は石工たちに絡み始め、作業が滞ります。

 気軽な依頼ですのでお気軽にご参加ください。
 よろしくお願いします!

  • 石畳の街にて完了
  • GM名あいきとうか
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2019年02月21日 22時35分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
リゲル=アークライト(p3p000442)
死力の聖剣
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
愛の吸血鬼
河津 下呂左衛門(p3p001569)
武者ガエル
セレネ(p3p002267)
blue Moon
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
蒼き深淵
ユー・アレクシオ(p3p006118)
不倒の盾
フィーア・プレイアディ(p3p006980)
CS-AZ0410

リプレイ

●お祭り騒ぎ!
 青年団と少年少女、合計三十人が道を占領し、うずうずと体を揺らして目を輝かせている。
 視線を交わした『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)と『小さき盾』ユー・アレクシオ(p3p006118)は、改めて手合わせ希望者たちに向き直った。
「俺もまだまだ未熟ではありますが、天儀……、いや、ローレットの騎士として、剣の嗜みはあります」
 凛と背筋を伸ばし、よく通る声を放ったリゲルに、彼と同年齢くらいの青年団員数名が興奮気味に見入る。
「加減はなさらず、倒すつもりで、全力でお願いします」
 胸に手をあて、一礼したリゲルに歓声と拍手が飛んだ。
「気楽に楽しんでくれていいが、戦いの心構えや基本は覚えてくれると嬉しい。無理は禁物だ。怪我をしたら後ろで治してもらってくれ」
 それが収まる頃あいを見計らってユーは言い、背後に目を向ける。
 炊き出しを手伝うため、野菜がつめられた箱を運んでいた『優心の恩寵』ポテト チップ(p3p000294)が頷いた。
「リゲルとユーもな」
「頼んだ」
「俺たちが瀕死になる可能性もあるからな」
 リゲルは口の端を微かに上げ、ユーは肩をすくめる。
「それと、工事している人や炊き出ししている人もいる。周囲に迷惑かけないよう気をつけてくれ」
「はーい!」
 元気で素直な村人たちの返事に、ポテトは目元を少し和ませた。
「手合わせだが、一対一と一対多数、どちらがいい?」
「多数!」
「タイマンで!」
 片手を挙げたユーの問いに青年団と少年少女たちが口々に答える。
「どっちもか。どうする?」
 ユーに問われ、リゲルは少し考えてから横に三歩ほど移動する。
「では一対多数を希望の方は俺の方に」
「一対一を希望ならこっちだ」
 わらわらと村人たちが二手に分かれて行く。ユーとリゲルは互いの戦闘を妨害しないよう、幅のある道で適度に位置を調節した。
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
 普段の青と白の鎧姿ではなく、軽装に木刀を持ったリゲルが腰を折る。彼と声を揃えて、ユーも一礼した。
 それに応じる青年団と少年少女たちの声は、村中に響きそうなほど大きい。

「悪いねぇ、こんな雑用させて」
「気にすることはない。これも大切な仕事だ。……が、少し失礼する」
 食材の運搬を終えたポテトは、夫人に一言断ってからリゲルとユーの間くらいに立つ。
 目を閉じ、意識を集中。透明の膜が道や石垣、建物を覆う様子を一瞬だけ思い浮かべた。ふわりと薄茶色の髪が広がり、やがて落ち着く。
「……これでいいだろう」
 保護結界が張られたことを察して、リゲルとユーがポテトに目配せをする。ポテトはわずかに首を縦に振り、持ち場に戻った。
「献立は決まっているのか?」
「どうするかねぇ」
 炊き出しに集まった四人の婦人は、とりあえず食材を集めただけらしい。
「ポテトちゃん、なにか案はあるかい?」
「まだ寒いし、具沢山のシチューとパンはどうかな?」
「いいじゃない」
「食い出があれば男衆も喜ぶからねぇ」
「私も頑張る。なんでも言ってくれ」
 箱から出したじゃがいもを片手に、ポテトは金色の瞳にやる気をみなぎらせる。

 石畳の街から西へ少し。
 大きな荷車を引く六名の石工たちを、五名のイレギュラーズが護衛していた。
 石畳の街に到着し、軽い自己紹介を終えてすぐ、石の採取に向かう一行の安全を守るために出立した面々だ。
「これなんかいいんじゃねぇか?」
「だな、これを砕いて……」
「じゃあこのへんでしばらく集めてもいいか?」
 確認をとられたイレギュラーズは、それぞれ肯定を示す。
 周囲をしきりに警戒しつつ、作業道具を荷車から出した石工たちに『blue Moon』セレネ(p3p002267)は笑顔を向けた。
「大丈夫です。皆さんのことは必ず守ります!」
 自然と白銀の猫の耳がピッと立つ。フィーア・プレイアディ(p3p006980)が軽く顎を引いて同意した。
「気にせず、いい石をしっかり採ればいいよ」
「警戒は私たちイレギュラーズにお任せください!」
 悠然と腕を組み、『蒼ノ翼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)は石工たちを励ます。『愛の吸血鬼』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)は微笑みながらも、周囲の音の反響を確認し続ける。
 安心した石工たちは、声をかけあって作業を開始した。
 それにしても、冬の青空を仰ぎ見たのは、『武者ガエル』河津 下呂左衛門(p3p001569)だ。
「盗賊というやつは本当に、どこにでも出没するものでござるな」
 フィーアが目蓋を上下させて肯定した。
 複数の足音をユーリエが聞きとる。
「きました!」
「はいはい、作業中止ね」
「できるだけ一か所に固まって、身を低くしてください」
 作業に没頭していた石工たちの気を、ルーキスが手を叩いて現実に戻す。
 セレネは慌てて石を荷車に運ぶ石工たちを手伝いながら、注意を投げた。
「作戦通りでよかろうか?」
「はい。よろしくお願いします」
 雫丸を抜いた下呂左衛門の確認にユーリエが真剣な表情で応じる。
「敵影視認。戦闘態勢に移行します」
 淡々と宣言しフィーアは身体強化魔術を自らにかけた。
 近づいてくるのは狼のブルーブラッドの一団だ。扇状に広がっているのは獲物を逃がさないようにするためだろう。
 この近辺に出没する盗賊団と見て間違いない。
「んー。これは本気になるまでもなさそうだねぇ」
 足をとめた盗賊団の装備と武器、身のこなしからルーキスは格下と判断し、さり気なく魔術の用意をする。
 一歩前に出たのはセレネだった。
「大事なお仕事の邪魔はしないでください! でないと、痛い目にあいますよ!?」
「なんだ? こいつら」
「……おい、まさかローレットか?」
「いやでもこっちの方が数多いぞ」
 怯みかけた男たちだったが、数で勝ると判断した瞬間、武器を振りかざした。
「ひどい目にあいたくねぇなら、金目の物おいて行くんだな!」
「無謀でござるなぁ」
 やれやれと下呂左衛門が首を左右に振る。手加減は必要ないらしいとフィーアは判断した。
「これで綺麗に一網打尽とかなら、ただの笑いごとだけど」
 笑い交じりにルーキスが放った言葉の意味を、盗賊たちが理解するより早く。
「ぎゃああっ!?」
 色とりどりの石が転がる平原に、氷の花が舞い散る。サファイアを用いたルーキスの宝石魔術は、壮麗な見た目とは裏腹に盗賊たちの体に複数の異変を起こした。
 一気に混乱した一団に、ユーリエがためらいなく突撃する。
「反省してください!」
「ぎ……っ!」
 彼女を中心として暗い霧が発生。盗賊たちを包み、その神経を蝕む。

 敵を引き寄せてまとめて攻撃する、という手法は、普段から使用しているため慣れていた。
 ただ、致命的な怪我をさせない戦いは、あまり経験していない。
「ハァッ!」
 短い叫びとともにリゲルより少し年上の男が剣を振り下ろす。無駄の多い動きだ、かわすことは容易かった。
 半身をそらして回避し、同時に左後方から飛んできたパチンコの弾丸を、頭を振ってかわそうとして、やめる。そうすると今まさにリゲルの胴を木刀で横薙ぎに殴ろうとしている青年の額にあたるのだ。
 瞬時に最善の行動を選出。パチンコ弾は剣先で無害な方向に払った。そのまま手首をひねって、胴を殴ろうとしていた木刀を丁寧に受けとめ、流す。
「えっ」
「とまってしまうと」
 勝利の予感に頬を紅潮させていた青年が目を丸くする。リゲルは彼の足を無造作に払った。
「おあっ!?」
「それが隙になるので」
 前のめりに倒れかけた青年を左腕で受けとめ、その場で一回転する。四方から襲いかかろうとしていた木刀が、一斉に地に落ちた。
「一度後退してみる、というのも手かもしれません」
「はひ……」
 そっと下ろされた青年はあいた口が塞がらないまま、どうにか返事をする。

 ユーリエが盗賊団を感知するのに使った能力を、ユーもまた使用していた。
 足音や木刀が空を切る音の反響から相手の位置と行動を予測、的確に対処していく。
 一対一の手合わせを希望した青年団と少年少女たちは、ひとりずつ向かってくるとはいえ、その方向は一定ではないのだ。
「やぁぁ!」
「踏みこみが甘い!」
「おあっ!?」
 右手から襲ってきた木刀を受け、弾く。尻もちをついた青年には見向きもせず体を半回転させた。
 足を狙ってくると予測、刀身を押さえるために出した手が空を切る。
 わずかに見開かれたユーの目には、手合わせを始めて以来、最も地面に転がされた回数が多い子どもの姿が映っていた。
「えい!」
「相手の不意を突くために一度退くのはいい判断だ」
 突きを木刀で受け流す。肩で息をするその子どもは、それでも諦めた様子はない。
 眩く、危うい姿にユーは目蓋を少し伏せる。
「といっても、できれば技術より、心構えや逃げる勇気を覚えてもらいたいな」
 少年が持つ蛮勇は、実際に決して敵わない相手を前にしたとき、致命的な選択をする可能性があった。
「この世界はなにが起こるか分からない。自分より力のある者から最低限、生き延びる技術を身に着けて、日常に戻ってもらおう」
「ほあっ!?」
 奇襲をかけたにもかかわらず綺麗にかわされた挙句、気づけば投げられていた青年が間の抜けた声を上げる。

「わあ意外。まだやるのか」
 鈴の鳴るような声で笑い、ルーキスは細い指先を弓使いのひとりに向ける。
「骨まで噛み砕かれたい人は、だーれだ」
 漆黒の翼狼の爪牙が弓使いを引き裂く。
「ぎゃあっ!?」
 すでに戦意を喪失していた三人の剣士が、ついに得物を投げ捨てて両手を上げた。
 降参したひとりを狙っていた下呂左衛門は身を反転させ、跳躍。近くにいた剣士のひとりの頭部に峰打ちをきめて昏倒させる。
「他愛もないでござるなぁ」
 後のことを考え、下呂左衛門が口笛を鳴らした。岩陰に隠れていたパカダクラが小走りで近づく。
「はぁっ!」
 冗談から振り下ろされた剣をナイフで弾き返したセレネが、そのままカウンターを放つ。さらに体勢を崩してがら空きになった盗賊の懐に入りこみ、体をひねって鋭い蹴りを放った。
「がふっ」
 どさりと盗賊が崩れ落ちる。
 敵に囲まれているユーリエが儀礼剣を旋回させた。彼女を中心として発生した暴風域に巻きこまれた盗賊たちが悲鳴を上げる。
 技の終わりを狙ってユーリエを背後から襲おうとした盗賊を、フィーアがトンファーで殴り飛ばした。起き上がろうとした盗賊の腹を踏みつけて押さえ、頭を右に振って矢をかわす。
 その弓使いはルーキスの闇よりなお暗き翼狼の爪牙を食らった。
「まだ続けますか?」
 問うユーリエの剣の先は、盗賊団のリーダーと思われる男の喉に触れている。
「今ならば命はとらぬ。おとなしく捕まれ」
「ひっ」
 こっそり逃げようとしていた盗賊たちは、行く手をパカダクラに乗った下呂左衛門に塞がれ、青ざめた。
「……俺たちの負けだ」
 リーダー格の男が剣を落とすと同時に、盗賊たちが最後の力を振り絞るように逃げ出す。
 追うか、と下呂左衛門は仲間たちに無言で問う。ルーキスが肩をすくめた。
「はいお疲れ様。これに懲りたら足を洗いなさいな」
「さようならです! もうこないでくださいね!」
 セレネが盗賊たちの背に釘をさす。
「もうこの付近では悪さをしちゃだめですよ。もしまた悪さをしたら……」
 茶色だったユーリエの髪が、毛先がほのかに赤い銀色に染まる。腰からは一対の羽が生えた。
「し、しない! しません! すみませんでしたぁぁ!」
 吸血鬼に変貌したユーリエに、リーダー格の男は泣きそうな声で叫び、転がるように逃走した。
「一件落着でござるな」
 あの様子なら、よそでも悪さはしないだろう。下呂左衛門が剣を収める。
「アムドゥシアス。手伝ってあげて」
 召喚術を用い、ルーキスがよじれた白銀の角とたてがみ、藍晶石の瞳を持つ幻獣馬を呼んだ。石工たちが驚く。
「馬か!?」
「こりゃまた綺麗な……」
「さ、触っても噛まないか?」
「噛まないよ。この子にも荷運びを手伝わせよう」
 美しい幻獣馬に気をとられたまま、石工たちが頷いた。

 シチューがたっぷり入った大鍋を混ぜるポテトの鼻先に、香ばしい匂いが届く。近くの釜に入れていたパンが焼けたのだ。
「うん、こっちもおいしそうだねぇ」
「ポテトちゃん、いいお嫁さんになるわよ」
 婦人のひとりに肘で軽くつつかれ、ポテトは思わず背後に目を向けた。
 手合わせをしていたはずのリゲルは、子どもを両腕にひとりずつぶら下げている。幼い子たちのはしゃいだ声がポテトのところまで届いた。並んでいるのは、順番待ちの子たちだろう。
 察した婦人たちが、あらあら、と顔を見合わせて微笑んだ。
「……帰ってきたな」
 捕縛術の指導中だったユーが顔を上げる。間もなく、ガラガラと車輪が回る音が全員の耳に入った。
「お帰り。怪我人は?」
「自身の損傷は軽微。問題ありません」
 鍋を婦人に託して出迎えたポテトに、フィーアが応じる。他の面々も、石工を含めて無事のようだった。
 村人たちは荷車を引くアムドゥシアスを呆然と見つめている。
「いい匂い……。シチューですか?」
「ああ。皆、食事にしよう」
 おなかが空いていたユーリエにポテトが首肯し、声をかけた。
 すぐにベンチがいくつか設置され、婦人たちが手際よく配膳を始める。子どもたちと青年団がイレギュラーズの近くの席をとりあい、婦人たちに叱られていた。
「お疲れ様、リゲル」
「ポテトもお疲れ様。いただきます」
 隣に座ったポテトからシチューとパンを受けとり、リゲルは手をあわせる。
「大人気だな」
 先ほどの様子を思い出し、ポテトはくすくすと笑う。
「皆、素直でいい子たちだ」
 どこか誇らしそうに言い、リゲルは夢中で食べ始める。肉が多めに入っているのは、ポテトの優しさだった。

 食後は自由行動ということになった。
 リゲルは引き続き手合わせ、ポテトは回復役を担当する。ユーは護身術を教導することにした。
「稽古をつけてやるのは構わぬが、拙者の指導は少々、厳しいぞ?」
 にやりと笑った下呂左衛門に、青年たちが威勢のいい返事をする。
「……まぁしかし、怪我をせぬ程度にな」
 その中に子どもの姿も混じっているのを見て、こほんと咳払いをした。
「では始めるか」
 木刀をとった下呂左衛門の姿が、鎧武者のものに変わる。子どもだけでなく、青年団の面々まで興奮した。
「今のどうやったの!?」
「もう一回やって!」
「拙者に勝ったらな」
 賑わう一団を横目に、ユーリエは大石垣の修復の手伝いを申し出ていた。
「ほんとかい? 助かるよ」
「あの、私もお手伝いしていいですか?」
 早々に食事を終え、作業に戻っていた石工たちの手際を見て、セレネも手伝いたくなっていたのだ。
「もちろん! そっちのお嬢さんもどうだい?」
 声をかけられたフィーアは黙考する。
 そもそも最初に石工たちの護衛を選んだのは、一般市民に対し戦闘技術を教えるという立場は、自身に不適格だと判断したためだった。
 ならば、この後数時間の行動は決まっている。
「了承しました」
 三人で石工たちを手伝う。
 大きさや色あいを見て石をみっちりと詰めて行くだけなのだが、これがなかなかに重労働だった。
「こうやって……こうするのですね。勉強になります。えっと、この石はどちらに?」
「それはそっちだね。大丈夫かい、嬢ちゃん」
「はい、これくらい平気です」
 額から汗を流しつつ、セレネは爽やかに笑う。
「はぁいストラス。出番だよ。ほら、怪我した子はおとなしくしてるー」
 ふぉん、と現れた天球儀が唖然としている青年の傷を癒す。
「おねーちゃん、この子、噛まない?」
「噛まないよ」
 同じような質問を投げられたことを思い出し、ルーキスは喉の奥で笑った。アムドゥシアスは子どもたちの視線を悠然と受け流している。
「こいつが気になる? 乗せてあげようか」
「いいの!?」
「俺たちもいいですか!?」
「順番だよ」
 はしゃぐ少年少女と青年団たちに、元気だなぁ、とルーキスは目を細めた。

●石畳の街にて
 落日の光が石畳の街に降り注ぐ。
 色とりどりの石のきらめきと、ずっと終わらないとすら思える大石垣前の喧騒に、ユーリエは一瞬だけ意識を奪われる。
「おねーちゃん」
 ベンチのひとつで子どもたちと将来の夢について話していたユーリエの手を、少女のひとりが心配そうに握った。
「またきてくれる?」
 ユーリエの周りに集まっている子どもたちは、息をのんで回答を待つ。
 別れのときが近づいていると、分かっているのだ。
 少女の手を握り返し、ユーリエはゆっくりとあたりを見回す。

 子どもと青年たちを相手に追いかけっこをしていたリゲルの腰に、少女が飛びつく。甲高い歓声が夕空に届いた。
 少女を片腕で抱き上げたリゲルは、悔しいとも寂しいともつかない顔になっている青年たちに声をかけ、握手を交わす。
 鎧武者姿の下呂左衛門は手合わせの最中だった。根を上げない青年たちと少年少女に下呂左衛門が的確に助言を飛ばす。
 そのたびに上がる大きな返事は、いつまでも活気に満ちていた。
 進んで生傷を負いに行く村人たちの治癒にあたりつつ、ポテトは炊き出しを行っていた婦人たちと一緒に子どもたちの面倒を見ている。
 婦人のひとりが生まれたばかりの子どもをポテトに抱かせた。恐々とした手つきで子をあやすポテトに、次は自分をと子どもたちがねだる。
 同じくルーキスも治癒を請け負いつつ、村人たちを順繰りにアムドゥシアスに乗せてやっている。
 煙管を片手にのんびりとその様子を眺める彼女は、ここにいない誰かに思いをはせているようだった。
 修復が終わった大石垣に手をあてたセレネは、目を閉じて口許に微かな笑みを浮かべている。綺麗になったね、よかったね、と語りかけているようだ。
 石工のひとりがセレネに話しかけた。セレネは照れつつ言葉を返す。
 そのすぐ側で、このあたり前にある風景を守ってきた石工たちの話をフィーアが聞いている。寡黙な彼女の唇は引き結ばれたままだが、ときおり首を縦に振ったり、傾けたりしていた。
 護身術を教えていたユーは、いつの間にかベンチに座っている。その右足を枕にして、少年がひとり眠っていた。
 語られるのは食事時の話の続き、彼の故郷のことや、魔物を倒した際のことだ。
 物語風に噛み砕かれ、しかし真に迫る調子で紡がれる討伐劇を、子どもたちだけでなく青年たちも手に汗握って聞いている。

 不安がることなどなにもないと、ユーリエは笑って見せた。
「また会えるよ」
「うん!」
「そうだ、おまじないする?」
「する!」
「して!」
 暗くなっていた顔を明るくした少女たちが、少年を押しのけて身を乗り出す。仲良くね、とユーリエは子どもたちを落ち着かせた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。

大石垣の修復は無事に終わり、石畳の街は以前通りの美しさをとり戻しました。
盗賊団についてですが、この後に確認されることはありませんでした。
もうすっかり懲りて、悪さもしていないでしょう。
青年団はヘタレだった時代に比べて心身ともに強くなりました。
ただ、少年少女たちからは「青年団に入るよりローレットに入りたい」という希望が多く出ているようです。

またいつか、彼らの顔を見に行ってあげてください。
ご参加ありがとうございました!

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