シナリオ詳細
<Butterfly Cluster>盗賊少年決死の攻勢
オープニング
●『砂蠍』の残党達
先日、突如として幻想南部を侵略し始めた『新生・砂蠍』を名乗る大盗賊団。
さらに、北からの『鉄帝国』の侵攻が合わさり、予期せぬ挟撃を幻想は強いられた。
だが、ローレットの活躍によって戦争は集結。
『新生・砂蠍』の頭目『キング・スコルピオ』も無事討伐された。
それからしばらく。
遙か西方、『ラサ傭兵商会連合』が誇る有力な傭兵団『黒之衆(クロノス)』が、隠密活動によりラサ南部の『アルダハ遺跡』で砂蠍残党の姿を捉えたという情報があった。
幻想、ラサで居場所を失った残党は、無人の廃墟を根城とする他なかったと考えられる。
ただ、周辺は荒野だ。近場ではろくに食料すら集められぬ状況もあり、彼らは早速、近隣の村落への略奪を始めてしまう。
これを見たラサの傭兵達。
そもそも、砂蠍は元々彼らが相手にしていた連中ということもあり、傭兵団の長達は直ちに会合を開いて残党の討伐を決めた。
ところが、『アルダハ遺跡』へ進撃する手筈を整える中、傭兵達はその残党達の中に魔種の姿を確認したという。
蛇の道は蛇。魔種相手ならば、専門はローレットだ。
傭兵達は早速、ローレットへと協力を依頼する。
生半な戦士など認めぬ彼らだが、噂に聞くローレットの強さを体感すべく、共闘をという素朴な下心があったに違いない。
●砂蠍残党最後の戦い
ここまで、何とか逃げてきた砂蠍。
その中には、自らが指揮する部隊を放棄してまで本隊に合流した元指揮官『ライナー・ヘットナー』の姿があった。
「なんで、ぼくがこんな目に……!」
そこは、天井すらない柱と床だけが残された荒野の廃墟。
照り付ける太陽や雨風すら、防ぐことができない環境だ。
パサパサのパンを口にする青髪短髪のライナーは憤り、近場の柱を念力弾で破壊する。
「「ひっ……」」
それに、この場の盗賊達が怯えてしまう。
この少年は元々、並々ならぬ力を持っていた。
それだけに盗賊達から指揮官として持ち上げられた彼は、一時は部隊を幻想まで侵攻していたのだ。
ところが、『盗賊王』キング・スコルピオが戦いの中討伐され、ライナー自身も部隊を放棄して敗退してしまう。
なんとか本隊と合流したものの、与えられた部隊はたった10人程度。
残る数も考えれば仕方ないが、それ以上に他幹部らと反りが合わない影響もあるのだろう。
そして……。
「食料の確保はできたのかな?」
自分と同程度の年、長い黒髪を靡かせた少年がにやつく。
元は鉄騎種であるバルトルトは完全近接系の肉体派だが、遠近こなして立ち回れるはずのライナーですらまるで歯が立たぬ相手だ。
いつの間にか、本隊へと紛れ込んでいた魔種。
その1人が戦力として割り当てられたものの。ただの旅人であるライナーが魔種を制御できようはずもない。
「勝手にどこ行ってたんですか……!」
体裁としては幹部であるライナーの立場が上だが、力で勝るバルトルトはまるで言うことを聞く様子はない。
「さて……ねえ」
欠伸をしながら返事するそいつに、ライナーは一層苛立つ。
しかしながら、残るこの場の砂蠍メンバーの数を考えると、魔種の少年の力を借りざるを得ない。
確かに、ライナーも自身の強さに自信はあるが、ラサの傭兵達に数で攻め入られれば勝ち目などあろうはずもないのだ。
(使えるモノは何でも使うしかない)
ライナーは苦虫を噛み潰すような顔で、マズいパンを飲み込むのだった。
●砂蠍との最後の戦い
幻想ローレット。
現状、ラサの傭兵達から数々の依頼が届いてきている。
その依頼書に『砂蠍』の名前が載っていれば、イレギュラーズ達も黙ってはいない。
「砂蠍もそうなのですが……、魔種が協力しているという話もあります」
『穏やかな心』アクアベル・カルローネ (p3n000045)は簡単に状況説明し、自身の担当する相手部隊について話す。
『新生・砂蠍』の幹部の1人に、ライナーという少年がいた。
このライナーという少年は先の幻想の襲撃時、隊を率いて幻想南部の街を侵攻してきていた。
だが、<ジーニアス・ゲイム>での戦いにおいて、彼は自らが指揮していた部隊を全て放棄して敗走し、本隊の残党部隊と合流したらしい。
ただ、見た目や年齢もあって他幹部といい関係を築けなかったこの少年は、10人程度の部隊員と一人の魔種のみを与えられ、ほとんど野ざらしとなった遺跡を根城とし始めたようだ。
「場所は遺跡とはいえ、荒野も同然の場所ですね」
隠れるには柱くらいしかないという場所である。互いに小細工がしにくい場所であり、真っ向勝負となるだろう。
また、魔種の存在がネックとなる。
元々鉄騎種らしいベルトルトという名の少年は完全な肉体派で、力で相手を殴り倒してしまう。
その力は幹部のライナーを上回る。最大限に力を発揮する様子がないにもかかわらず、である。
ただ、怠惰の魔種らしく気分屋であり、ライナーに従う様子はない。協力する価値すらないと感じたら、この場を去ってしまう可能性は極めて高い。
「魔種は最悪逃がしてもいいかもしれません。ここは、確実に砂蠍残党を叩きましょう」
ライナーはもう後がない。死に物狂いで向かってくることだろう。
念力弾を駆使してくるこの敵を、今度こそ撃破したい。
ラサの傭兵達はこの戦いに参加はしないが、彼らに力を見せつけるチャンスだ。しっかりとこの戦いに勝利して、彼らの信頼を取り付けたい。
「それでは、よろしくお願いいたします」
最後に、アクアベルは丁寧に頭を下げ、イレギュラーズ達へとこの一件を託すのだった。
- <Butterfly Cluster>盗賊少年決死の攻勢完了
- GM名なちゅい
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2019年02月24日 22時35分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●砂蠍残党と魔種
ラサ南部、『アルダハ遺跡』。
見渡す限りの荒野、荒れ果てた建物の残骸が広がるこの地域を、ローレットから派遣されたイレギュラーズ達が行く。
「さて、狙撃なら任せろー、なんだけど……」
気合を入れていた銀狐の獣種『魅せたがり・蛸賊の天敵』猫崎・桜(p3p000109)だったが、尻つぼみに語気を弱めて。
「上手いこと、邪魔な人達を倒して数を減らせるといいんだけどな?」
今回の討伐対象は、砂蠍の残党。
取り巻きが面倒だが、優先討伐対象である元幹部を撃破する為には手早く倒したいところ。
「サソリとのインネンも、これでオシマイにしていきたいところだね!」
元拳闘士の『無影拳』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)はここで全てを終わらせる為、全力で自身の拳を振るう所存だ。
「ただまあ、新しいインネンは残っちゃいそうだけれど……」
イグナートが言うように、砂蠍残党は一部、魔種を引き連れているとのこと。
「油断ができんが、ライナーだけは逃さない」
――例え、この命が燃え尽きようとも。
筋肉質な肉体を持つ鉄帝の青年、レン・ドレッドノート(p3p004972)は並々ならぬ気概で、その元幹部の打倒に燃えている。
「元々、ラサから始まった事だけど……、それでも残党を前回取り逃がしたのは、私達ローレットだものね」
年齢不相応の幼さを残す少女、『カースドデストラクション』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)も誓う。
――砂蠍幹部ライナーはここで綺麗に終わらせましょう、と。
「やり残した仕事ってのは良くない。特に魔種はかなり悪い」
ジト目の青年、『駆け出し』コラバポス 夏子(p3p000808)も自身の心情を吐露する。
「まあ、ベルトルトとは戦いたいけれど、皆に十分余力が残っていないと難しいよね」
イグナートが言うように、イレギュラーズ達は今回、旅人の元幹部であるライナーの撃破に主眼を置いた作戦を立てていた。
「人にはやり直す機会があって良いし、そのチャンスも奪うより与えた方が良い」
つまり、我々がする事はそういう事なんだと、夏子は主観を語る。
「まだ若いのに悪事に手を染めるなんて、よっぽど大変だったんだろうね……」
しかしながら、白い髭を蓄えた老爺、『髭の人』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)はその考えに否定的だ。
「心を入れ替えて一からやり直して欲しい気もあるけど、きっとそれはできない」
だから、ゼロからやり直させるんだと、ムスティスラーフは告げる。
――その死を以ってして、と。
ほとんど残骸しか残らぬ遺跡ばかりが続く中、前方に人影らしきものを確認したメンバー達はすぐさま行動へと移る。
「小細工はなしよ」
正面から接近をはかるアンナは不惑の心を目覚めさせ、目の前の悪意に対しようと構える。
「ローレット……」
憎々しげに睨みつけてくるこの青髪短髪の少年こそ、幾度も幻想の街を攻めてきていた、ライナー・ヘットナーだ。
彼はすぐさま自らの周りに球体の念力弾を浮かせ、横回転させる。
「ライナーは久しいなァ」
銀髪色白の女性、『死を呼ぶドクター』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)は、このチームで最初にライナーと出会っていた。
その際、撤退を許してしまったのを、レイチェルは昨日のように思い出す。
「久方ぶり、だなライナー」
元居た世界では、神にも等しい力を持つ鳥の姿をしていたという『鳳凰』エリシア(p3p006057)。
彼女は<ジーニアス・ゲイム>の際に、ライナーと同じ戦場に立っていた。
「多少といえども貴様とできた因縁、ここで燃やし尽くしてくれようぞ!」
「……俺は執念深くてな? てめぇは俺の獲物だ。絶対に仕留める」
エリシア、レイチェルの2人は強くライナーを敵視し、その因縁をこの場で断ち切ろうと身構える。
そのライナーの周囲には、部下である砂蠍の部隊員10名が布陣を整えていた。
仲間達が気を引いている間に、柱を障害物として利用する桜は大きく距離を取って改良型重装火器を構え、相手が隙を見せるのを待つ。
「蠍盗賊の襲撃に、より多くの悲しみを見た」
レンは一連の事件に心の奥に濁った何かがかき混ぜられ、怒りを覚えていた。
「ライナー、お前は時に必要悪の盗賊を利用し、多くを傷つけ、その絆を踏みにじった」
この少年とレンが出会うのは初めて。
しかし、レンはライナー不在時に彼が引き連れた盗賊や部隊と戦い、撃破してきている。
「悪とはここまで汚いものか」
だからこそ、ライナーが自らの手を汚さず、高笑いしていたようにレンは感じていたのだろう。
あの戦いの中倒れた元盗賊団の頭、そして、砂蠍の部隊長。
そして、それを取り巻く全ての人々の想いを、彼は自身の拳に乗せて。
「遊ぼうぜ? どちらかが、潰れるまで」
「潰れるのは、あなた達です……!」
過酷な環境もあってか、ライナーは精神的に追い詰められている。
破れかぶれといった様相で彼は腕を突き出し、念力弾を操ってきたのだった。
●部隊員の一掃を
これまでとは違い、余裕など微塵も感じられぬライナー。
彼の飛ばす念力弾に合わせ、部下である部隊員達が一斉に攻め込んできた。
斧、ナイフを持って突撃、もしくは後方で弓を構える盗賊崩れ達に対し、夏子が叫びかける。
「コラバポス 夏子だ。このままじゃ、あんたらどん詰まりだぞ!」
すでに、心身共に追い詰められている盗賊達へ、夏子が飛んでくる念力弾を食い止めつつ名乗りを上げた。
奥の弓兵までつり出そうと動く彼だが、立ち位置の都合もあって斧、ナイフ持ちが先に迫りくる。
それらの攻撃を引き付けるべく、夏子は不動の構えを取って相手を迎撃へと当たっていた。
彼の後方に位置するエリシアは、鳳凰とも呼ばれた自らの力の一端を解放する。
そうしてエリシアは部隊員達を巻き込み、燃え上がる炎を浴びせかけていった。
また、夏子から注意を反らす敵には、イグナートが目をつける。
突撃してきた敵前衛陣の頭目掛け、速度を威力に転化したイグナートは掌底を叩き込んでいく。
その一撃で怯む相手を荒野の地面に沈めるべく、イグナートはなおも己の拳で殴りかかるのである。
その時、長い黒髪を揺らして飛び込んできた魔種の少年。
「なんか、面白そうなことになってるねえ」
元鉄騎種のベルトルトが現れると、アンナがすぐさま接近していく。
「悪いけれど、貴方には私に付き合ってもらうわ」
アンナは後衛陣を背にしてこの少年、ベルトルトをブロックする。
情報が少なく、危険な相手。
だが、幸いにも、近接特化という情報はある為、彼女は仲間から離れた上で全力で抑えに当たっていく。
ベルトルトは回転しながら拳と蹴りの連打を浴びせかけて来たのを、アンナがじっと堪えて。
「へえ……」
黒髪の少年は口元を吊り上げ、態勢を整え直していた。
「今も? 違うね! まだやり直せる! ……今なら!」
一方で、夏子は前に出つつ、相手弓使いまで引き寄せに当たっていた。
近づいてくれば、彼は手にする槍を全力で横薙ぎに振り払い、ライナーのいる方へと突き飛ばす。
「ここがキミの分水嶺だ」
そうして飛ばされた弓使いを優先して討伐すべく、十分に距離を取っていた桜は位置を調整して『改良型重装火器』の砲口を向ける。
「射撃は僕の十八番だよ! 弓兵なんかに負けていられないよね♪」
引き金を引いた彼女の狙撃は、見事に相手を撃ち抜いていた。
夏子も後衛陣を狙わせないよう、斧、ナイフ使いの状況まで幅広く見て、注意を引くことを忘れない。
それらの敵を巻き込み、レンは衝撃波を帯びた拳を殴りつけ、斧使いを卒倒させてしまう。
「…………」
あっさり倒される部下を目にし、ライナーもある程度前に出てイレギュラーズ達へと念力弾を投げつけてきた。
それはただ殴打してくるだけではなく、意のままに炸裂弾となってイレギュラーズ達を傷つけてくる。
メンバー達はライナーを巻き込むようにし、かつ夏子が気を引く配下を纏めて倒そうと範囲攻撃を仕掛けていく。
「俺は執念深いって言ったろ? 何が何でも当ててやる」
遺跡の柱を遮蔽物として利用していたレイチェルは、ライナーも同様に柱に身を隠していたことに気づく。
……柱が障害物であるならば。
一時的に吸血鬼としての変化能力を解放した彼女は、金銀の妖瞳を持つ銀狼へと姿を変えて。
「……さぁ、俺に平伏せ」
レイチェルは魔力を帯びた咆哮を放ち、直線状にいたナイフ持ちだけでなく、柱の奥にいたライナーをも撃ち貫いていった。
ムスティスラーフまた、できるだけ多くの敵を巻き込めるよう位置取る。
そして、彼は鍛え上げた火力をぶつけるべく、大きく息を吸い込む。
「ゲロビ!!」
ムスティスラーフの口から放たれた緑色の閃光は、手前の斧使いを貫き、念力弾を破壊して奥のライナーへと浴びせかかけていった。
呻くライナーは嗚咽を吐いて、一言。
「流石、ローレットですね……」
「そこ、狙い撃つよ!」
見れば、桜が3人目の弓使いを撃ち抜いていた。
そして、エリシアは夏子やアンナの体力を逐一確認しつつ、一条の雷を放ってさらに部隊員の数を減らす。
またも倒れる部下の姿に、ライナーは苛立ちを隠そうともせず、念力弾に力を込めていくのである。
●黒髪の魔種の少年
不気味な魔種の少年ベルトルト。
「…………」
そいつを自由にさせぬよう、アンナがポーカーフェイス、かつ黙したままで対する。
「んー……?」
その様子を訝しむ敵は跳び上がり、猛然と浴びせ蹴りを喰らわせてきた。
(「ここで耐えれば……」)
あくまで、今回メインとなる相手はライナー側。
アンナは目の前の敵を蚊帳の外に置き、やる気を出させぬ事こそが役割だ。
状況を危険視していたムスティスラーフはアンナの援護に入り、メガ・ヒールを使って回復に回り始める。
(ベルトルトには近づきすぎないように、だね)
一撃が怖い相手なだけに、彼も立ち位置には慎重になっていたようだ。
さて、ほとんどの部隊員を討伐したメンバーはライナーへと攻め入る。
「なぜこんなことに……」
ライナーはあれこれ考えようとするが、ここまで追い込まれて正常な判断などできるメンタルを持つ者などそうはいないだろう。
そんな彼へ、レイチェルが再度衝撃波を放つ。
体に痺れを覚える盗賊少年は顔を引きつらせながらも、念力弾を周回させてイレギュラーズ達を纏めて薙ぎ倒そうとする。
「俺は戦う事が好きだ。身体を動かすことが好きだ」
敵の攻撃を避けつつ、殴りかかろうとするレンが語り続ける。
――今、生きている証明を感じることが好きだ。
――ラドバウの歓声も好きだ。
「だがな、人の命をやり取りするのだけは大嫌いだ。断末魔も叫び声も悲痛な顔も嫌いだ」
拳を握りしめ、腹へと一撃を叩き込んだレンをライナーは睨みつけて。
「思いあがるのも、大概にしてもらいましょうか……!」
周囲を巻き込むように、炸裂弾を放出していく。
当たり所の悪かったレンは爆ぜ飛ぶが、パンドラの力に頼ってなんとか意識を保ち、両脚で着地する。
「ライナーを早めに倒さないとだよね。上手く狙撃出来るといいんだけど……!」
なかなか動きを止めぬ敵へ、桜は砲撃を行う。
命中せずとも、それが仲間の援護射撃として機能すれば、彼女にとって狙い通りではある。
それに気を取られた敵の顔面へ、イグナートが掌底を撃ち込んでいく。
「ぐあっ……!」
イグナートの一撃を両目に受け、視界を奪われたライナーがよろめいていた。
一方で、ベルトルトを相手取るアンナは防御集中してなお、苦しんでいた。
相手は、近接特化の魔種だ。仲間の回復補佐があってすら抑えは苦しい。
「なんか、つまんないなぁ」
機械の腕で殴りかかる少年はアンナの体を連続して殴りつけ、その度に大きな爆発を巻き起こす。
視界が真っ白になっていくのに気づいた彼女は運命の力に頼り、意識を繋ぎ止める。
「女性相手にする事が違うんじゃあないか?」
状況を危険視した夏子がそこに入り込み、魔種の少年へと槍を横薙ぎに食らわせて吹き飛ばす。
そして、夏子はさらに相手へとこう告げる。
「悪いけど、君は今回邪魔みたいよ。敵からも味方からも」
「お前は格下の者に使われる立場で良いのか?」
エリシアも、アンナを治癒魔術で手当てしながら合いの手を入れて。
「ライナーは我らがここで倒す。我らに負けるような者に貴様は手を貸すのか?」
そんなエリシアの野次にも、ベルトルトは大きな反応を見せず。
「そうだねぇ、何かつまんなくなってきたしねぇ」
戦意を失う相手へ、夏子がさらに問いかける。
「来なけりゃ追わないよ? どう? 帰らない?」
遠方から、桜も成り行きを見守って。
(……無理して、こっちがやられるわけにもいかないよね)
この場でガッツリ戦うのは、イレギュラーズとしても望むところではない。
「だそうだよ、ボク」
ベルトルトはこの場のメンバーから背を向け、歩き出す。
「なっ……!」
視界が塞がれた状態のライナーはすぐ魔種の少年が戦場を去って行ったことを察し、唖然としてしまうのだった。
●盗賊少年に引導を
後は、砂蠍元幹部ライナーのみ。
イレギュラーズ達もかなり消耗していたが、気力を振り絞って攻撃を重ねて少年を傷つけていく。
「く……」
ライナーは何を思ったか、念力弾の一つを自らへと撃ちこむ。
その弾には治癒の力を込めていたらしく、彼は自らの傷を大きく塞いでいたようだ。
ムスティスラーフがそれに目を見張る中、相手が動きを止めた隙を見た桜が相手の首から胸部を狙って狙撃していく。
魔種がいなくなったこともあり、桜も集中してライナーへと重い一撃を飛ばす。
自身の射程外からの攻撃を行う桜にライナーは気を払いはするが、他メンバー達の抑えもあって動くことができない。
とはいえ、皆の傷もかなり深まってきている。
「負けないで、一緒に頑張ろう!」
原罪の呼び声による危険はなくなったが、死力を尽くして念力弾を操るライナーと対する仲間達をムスティスラーフが気遣う。
そして、彼は治癒魔術を使って仲間の癒しに当たる。
先ほど、ライナーが使った治癒弾に興味を示していたムスティスラーフだったが、思ったように念力弾を使うことができない。
もう少し、目にするチャンスがあれば、使えるようになっただろうか。少し残念だと、ムスティスラーフは感じていた様子。
ライナーが逃げぬよう意識し、アンナは仲間の攻撃の合間に流れるような足捌きで敵を翻弄しつつ、儚煌の水晶剣を振るって斬りかかっていく。
さらに、夏子も気力を振り絞って相手へと接敵して。
「被害を広げる一方の奴が 優秀なモンかよぉ!」
相手がほとんど動かぬ以上、自らの膂力で夏子はロングスピアを突き出し、ライナーの肩口を貫いた。
「うああっ……!」
遠近に長けた立ち回りで戦うことができるライナーだが、至近距離からの攻撃に対処する術はない。
畳みかけるように、遠方の桜が敵の胸を狙撃する。
直後にイグナートが躍りこみ、傲慢なる左の拳で防御しようとした念力弾を砕く。
勢いを緩めぬまま、イグナートは相手の顔面を殴りつけた。
「我とて、いつまでも弱いままではないわ! 神の炎に焼かれるが良い!」
さらに、回復の手を止めたエリシアもまた、鳳凰の神としての権能の一つを使う。
大きく燃え上がる炎がライナーの体を包み込み、その身を焦がしていく。
そこで、傷だらけのレンがなおも攻め込む。
彼はこの少年がどうしてここまで曲がってしまったなど、今更興味もない……が。
「アンタが起こした多くの悲しみを今、アンタ自身に返す。歯ァ、食いしばれよ」
全力の力をレンは拳に込めて。
「お前に玩具にされた全ての人々の怒りと悲しみを、その身で感じて地獄で詫びろ」
Pandora Party Project。
その奇跡の力に、レンは縋ろうとした。
……………………。
だが、パンドラはまだその時ではないと判断したらしい。
レンの全力の拳は確かにライナーを捉え、相応のダメージを与えた。
それでも、ライナーは歯を食いしばり、貫通弾で彼の体を穿つ。
――届かなかった。
レンの口がそう動き、彼は倒れていく。
「が……あっ……!」
とはいえ、ライナーも瀕死の重傷。
距離を取って再度治癒弾を使おうとしたライナーだったが、レイチェルがその背を追う。
「俺からまた逃げられるとは思うよな?」
レイチェルが全身から放つ見えない悪意。
これまでのライナーの悪行、そして、倒れたレンの想い。全てが束となり、盗賊少年へと浴びせかけられる。
「う、うう、うあああああああああっ!!」
悪意に全身を侵されるライナーは意識を完全に飲まれてしまい、力尽きて乾ききった大地へと倒れていった。
混沌にやってきて我が物顔で生き、転げ落ちた少年。
彼に様々な想いを抱きながらも、イレギュラーズ達は依頼完了報告の為、幻想へと戻ることにしたのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
リプレイ公開です。遅くなりまして申し訳ありません。
MVPは部隊員、魔種やライナーと幅広く壁となり、仲間を助けたあなたへ。
砂蠍の残党討伐、お疲れ様でした。ゆっくりお休みくださいませ。
GMコメント
イレギュラーズの皆様、こんにちは。
GMのなちゅいと申します。
●目的
砂蠍残党、ライナーの討伐
魔種の討伐は含みません
●敵
◎砂蠍残党
〇ライナー・ヘットナー
部隊の指揮官です。
15歳相当の旅人で、青髪短髪の少年です。
バスケットボール程の大きさをした球体の念力弾を、
自在に操る能力を持っております。
・周回弾(神中特・自分を中心としてレンジ2)
・貫通弾(神遠貫)
・炸裂弾(物中範・出血)
・治癒弾(神中単・治癒)
〇部隊員……10体
複数の盗賊団残党を集めただけの部隊です。
斧使い3体、ナイフ使い3体、弓使い4体。
◎魔種
〇ベルトルト
元鉄騎種、こちらも15歳相当黒髪長髪の少年。
怠惰の魔種とあって、かなりの気分屋のようです。
スレンダーながらも、機械となった四肢で強力な一撃を叩き込んできます。
近接特化ですが、その分素早い動きと機動力を持ちます。
まだ、本気を出す様子はないようです。
・爆裂連撃(神至単・連)
・烈蹴撃(物近単・弱点)
・回転乱舞(物近範・乱れ)
●状況
敵が住み着いているのは、ラサ南部の『アルダハ遺跡』。
ライナー達の部隊は、廃墟となって床と柱だけとなった場所を根城としています。
荒野同然の場所ですので基本的には見通しがよく、存分に戦うことができる場所です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
それでは、よろしくお願いいたします。
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