シナリオ詳細
<泡渦の舞踏>レモラ 誘惑の海
オープニング
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体が横にブレた。両手で握った舵輪が軋んで小さく音をたてる。ほんのわずかに、微かに違和を感じる程度の横揺れ……。
揺れを感じたのは操舵士だけではなかった。甲板に出ていた者、船室でベッドに腰掛け武器の手入れをしていた者、すべてが僅かな揺れを体に感じていた。
「おい……速度が落ちていないか?」
確かに。帆は風をしっかりと捕えてしっかりと張っているというのに、沖へ、大渦へ近づくほど船の速度が落ちていく。
何が原因か、と騒ぎ出したその時、船が帆を膨らませたままの状態で止まった。
船体を叩く波の音だけが、やけに大きく耳に響く。
「なんだ? いったい、何が――うぉ!!?」
いきなり船が傾いた。
人も樽も何もかもが船首に向かって転げ落ちていく。
「た、助けてくれーっ!」
救助信号を出す前に、船は海の底まで引きずり落とされてしまった。
●
幻想楽団『シルク・ド・マントゥール』の大討伐より幾分か時間が過ぎ、その残党たる魔種『チェネレントラ』が海洋に大渦を発生させている。
渦周辺に見られる魔種の動きは更に活発化し、呼び声の影響を受けやすい純種が多い海洋では至急の対処が求められていた。
「――ということで、ローレットはもちろん海洋貴族の私兵も大挙して出港。大渦、いやその下の古都ウェルテクスを目指すのだが、じつは先行して港を出た軍船の何隻かが、反撃する暇もなく魔物に沈められててな」
『未解決事件を追う者』クルール・ルネ・シモン(p3n000025)は、練達が特別に作ったという『海洋戦闘用スーツ・ナウス』を脇に抱えた。
「船を沈めた魔物も割れている。レモラと呼ばれる魔種だ。後頭部に強力な吸盤を持つ人魚で、群れで行動している。頭の吸盤で船底に憑りついて、強引に沈めるんだ。オレとお前たちでこれからその魔物を退治しにいく。海種以外は全員、このナウスを着てくれ」
レモラたちの出現箇所までは、クルールが船の舵を取る。
船が襲われて傾いたら海に飛び込んで、そこから水中戦だ。
「群れは8体から12体で構成されている。ほぼメスだ。男は誘惑されないように注意……なんだ? 相手は魔物だぞ。メスでいいだろう?」
レモラは船乗りを誘惑して海に落とし、溺れ死にさせることもあるという。
「数は少ないが、オスもちゃんといる。船を襲うレモラたちの中に混じっているかどうかはわからないがな」
レモラのほうは、相手が男だろうが女だろうが性別関係なしに誘惑してくる。相手が誘惑に落ちると、首に腕を絡めて口をつけ、息をすることを忘れさせるのだ。絡まり合ったまま深海まで引きずりこまれてしまえば、まず助からない。
「誘惑に負けそうになったら好きな女性、または男性の顔を思い浮かべるといいぞ。ちなみにオレは、ホリーが家で待っていることを思い出すつもりだ。オレが帰らないとエサをやる奴がいないからな」
どうやらホリーとは、クルールが飼っているロバの名前らしい。好きな人がいなければ、生きて陸に戻る理由を思い浮かべるのがいいということだろう。
「じゃ、さっそく出かけるぞ」
- <泡渦の舞踏>レモラ 誘惑の海完了
- GM名そうすけ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年02月04日 21時45分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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『水底の冷笑』十夜 縁(p3p000099)は船縁にもたれ、空の色が映える海面を覗き込んだ。
(「まさか、こんな依頼が回ってくるとはなぁ」)
仮初の間のこととはいえ、心を通じ合わせたものをその手に掛けて殺すとき、レモラたちは一体何を思っているのか。魔物の気持ちなど推し量りようもないのだが、縁はどうしてもあの日の自分とレモラを重ねて考えてしまう。
(「とんだ皮肉もあったモンだ」)
波の音が胸の奥底を疼かせる。あの日、思いを寄せた人とともに海底に沈めたのは鱗一枚分の何か。引き換えに得たのはアビスより深い罪の意識――。
とん、と背中を軽く突かれて我に返る。
「そんな思いつめた顔しないでくだせー。私がいる限り、この船は沈まねーですよ。百パーセントの保証はつけられませんがね」
はい、と『マリンエクスプローラー』マリナ(p3p003552)は、練達特別『海洋戦闘用スーツ・ナウス』を手渡した。
「そろそろ遭難ポイントですよー。それで……またなんで、スーツが必要なんです?」
自身もスーツを着込んでおきながら、縁の飄々とした顔を見上げる。
「なんせこの時期の海は冷えるんでなぁ。そういうお前さんは?」
俺と同じ海種じゃないか、と跳ねた眉が問いかけてくる。
「私も同じく。冷えは女の敵でごぜーますから」
人魚の脚を見られるのが恥ずかしい、とは言わなかった。そういうと、どうして、と突っ込んで聞かれることが多いからだ。理由を聞かれても、返答に困る。恥ずかしいものは恥ずかしい。
「さて、他の方々にも声をかけて回りましょうかね」
互いに含みを持たせた笑みをかわして別れた。
マリナは舵手の脇を通って船尾へ向かった。大きな波のうねりが、波頭に白い泡をのせて船の後を追っているのが見える。
『不運な幸運』村昌 美弥妃(p3p005148)は、『女王忠節』秋宮・史之(p3p002233)が懸命にカードで砕いて作るパン屑を海鳥に投げ与えていた。
「そのパン、カッチカッチの岩みてぇですね」
「ゼシュテルパンだからね」
固いのは当然だろ、と史之は笑いながら顔をあげた。
「これでも海水につけてふやかしたんだよ。岩というより鉄だね」
「ふふ……さすが、ゼシュテルで焼かれただけありますねぇ。海鳥さんたちが消化不良を起こさなければいいデスけどぉ。あ、そうだ。レモラたちに食べさせてみると面白いかも?」
潮風にあほ毛を揺らしながら、美弥妃はパン屑を放り投げた。
水面を照り返した日差しが、空を飛ぶ海鳥の白い体と美弥妃の顔を輝かせて見せる。昨日一辺倒の海洋戦闘用スーツを着込んでいなければ、船旅を楽しんでいるようにしかみえない。
「レモラねえ……」
対照的に史之の顔は渋かった。
「人の気持ちを弄ぶなんてひどい奴らだ。女王陛下のおわすこの海洋での乱暴狼藉は天が許しても俺が許さない。陛下のためにも駆逐してやる!」
ぐっと顎を引き、固いゼシュテルパンを握りしめる。
「それは頼もしいかぎりでごぜーます。もうすぐ接触すると思われますので、お二人とも準備をしておいてくだせーよ」
そう告げてマリナが空を仰ぐと、ちょうど偵察を終えた『彷徨う駿馬』奥州 一悟(p3p000194)が帆桁に降り立つところだった。
「来るぜ」
「もう? せっかく海を満喫しているのに」
『湖賊』湖宝 卵丸(p3p006737)は大げさにため息をつくと、マストへ向かった。降りる前にぐるりと首を回す。どちらを向いても広がる大海原。見える範囲内のどこにも島一つない風景。
「これが海、やっぱり湖と違って広いなぁ。それに何よりこの潮の香り……」
湿った風が凍えるほどの寒さを運んでくるが、ナウスを着ているので気にならない。頰を突き刺す寒風に負けず、卵丸は肺一杯に潮の香を吸い込む。
「やっぱりいいな。ところで、レモラが『もう来る』っていうのは誰情報?」
「シャチの群れ。ものすげぇスピードで船のある方へ泳いでいたから……何かから逃げているような感じでさ。変だと思って声をかけてみたら、ビンゴ!」
「ふーん」
いよいよ、これから海の男として海の魔物と戦うことになる。軽い高揚感を味わいながら、卵丸はマストを降りていく。
「ところで一悟。シャチとさ、どんな感じでお喋り――!?」
ゴン、という鈍い音とともに衝撃が走り、船体が大きく揺れた。ふいに風が凪ぐ。それなのに、船側に打ちつける波の音がやけに大きく耳に聞こえた。
「あの二人……やべ! 卵丸、早く降りろ。オレは先端の棒のとこ行ってくる!」
「一悟、その棒はボウスプリットっていうんだよ!」
船がゆっくり先から傾きはじめた。船首が波につっこみ、泡たつ海水が甲板を洗い、次の波で船がよろめく。
だが、どんなに船が暴れようとも、ボウスプリットの根元に立つ『『幻狼』灰色狼』ジェイク・太刀川(p3p001103)と『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)の二人は揺るがなかった。
「ふたりとも、あぶねーって。タイタニックごっこしている場合じゃないぜ」
「問題ない。俺と幻はここでヤツラを迎え撃つ。ここはいいからお前は爆弾をばら撒きに行け」
「あ、そう。お邪魔しました~」
一悟が飛び去ると、ジェイクは幻の腰に回した腕をといた。
肩脱ぎしていた海洋戦闘用スーツに腕を通し、前を閉じる。
「なあ、幻」
「なんでしょう?」
「『タイタニック』ってなんだ?」
幻はふっと吹きだした。
考えてみればジェイクがあの映画を知っているはずがない。船首に誘われてついていくと、ごく自然に後ろから腰を抱かれた。それから今まで、ふたりで潮風を受けながら、どこまでいっても途切れることのない水平線を眺めていたのは、べつに意図したことではなかったのだ。
「帰ったらご説明いたしますよ。それより、戦いに集中しましょう」
いつの間にか、船の揺れが止まっていた。
ジェイクの獣の嗅覚が反応する。
「ああ、前から二体、登ってきてやがるな。よし、おっぱじめようぜ!」
●
水柱が崩れて甲板の中央までしぶきが飛んでくる。一悟が空から船の周りに爆弾を落として回っているのだ。ジェイクもボウスプリットの前に水柱の門を立てているので、船の上は水浸しだ。だが、船は沈んでいない。
「これが私のギフトの力でごぜーます」
マリナは縁の横で誇らしげに胸を反らせた。
「船の形を保っている限りは沈まねーですよ。あ、だからクルールさんは舵取りに専念してくだせー。魔物は私たちで倒しますから」
「来たぞ。どれ、丁重に出迎えてやるかね」
沈まない船に業を煮やし、レモラたちは腕の吸盤を使って甲板まで這いあがった。虹色の尾ひれをしなやかに振り上げて船縁に腰掛ける。オスとメスのペアだ。整いすぎるぐらいに整った顔に、泡が弾けたような笑みを浮かべている。
マリナはさっと首を回した。船尾にもオスとメスの二体が、船首にもやはりオスとメスの二体が上がってきているようだ。
「一悟さん、そちらは?」
「おっぱいが四つ――ぐぇっ?!」
浮ついた声のあとの喘ぎは、恐らく横の卵丸が脇腹にひじを打ち込んだのだろう。後ろで一悟が背を折る気配がした。
「メス二体ですね。全部で何体来ていました?」
「じゅ……十二体」
「では、のこり四体は船底?」、と卵丸。
「さあな。それよりおっさんは、ヤツラがあそこからここまでどうやって来るのか、そっちのほうに興味あるねぇ」
レモラたちは船縁からしきりにイレギュラーズたちを誘惑しようとした。しかし遠すぎて、甲板中央で背中合わせに円陣を組む縁たちの心を揺らすことができない。
「……こねぇか。そらそうだよな。床が濡れているとはいえ、変身して二本足になれないんじゃ、圧倒的に不利。じゃ、こっちから攻めるとしようかね」
縁はゆるりと振った腕を振った。波打つ空気が青く煌めきながら、左舷に腰掛けるレモラたちに襲い掛かった。
魔物はいきなり笑顔を崩すと、口から泡玉を吹きだした。押し寄せて来た波にぶつけて衝撃を緩和する。
「それじゃあ、これはどうでしょー」
マリナは腰からフリントロック式魔導銃を抜きとると、オスのレモラに突きつけた。
「精霊さん、出番です。さぁ、海の男の敵を滅ぼしてくだせー」
エインシェント・ハイ・ハウスの口から放たれた精霊弾が、泡玉を割りながら飛んでいく。
精霊弾はオスのレモラの肩に当たった。ぱっと血がしぶかせ、前に倒れる。
その時、また船底から衝撃が突き上げた。同時にゴウゴウという滝のような音が轟いてきた。
「レモラのやつ、船の底に穴を開けやがった?」
「一悟、卵丸。下の魔物を頼む。ここはおっさんたちだけで何とかするよ」
でも、とぐずる一悟の腕を卵丸が取って走り出す。
二人が階段口に姿を消すと、横波をうけて船が大きく傾いた。
右舷にいたレモラたちは背から海へ落ち、左舷のレモラたちが甲板を滑って向かってくる。美しくも恐ろしい、死の誘惑を秘めた笑みを浮かべて。
「こんなおっさんにも寄ってきてくれるとは光栄だが、海の綺麗所はオリヴィアや我らが女王陛下のおかげで見慣れてるからなぁ」
「貴方みたいな優男に興味ねーです。私が憧れるのはもっと筋骨隆々で髭の似合うタフな海の男です。水底にはどうぞ、お一人で還ってくだせー」
縁とマリナは一瞬視線を合わせ、同時に攻撃を放った。縁は外してしまったが、マリナはオスのレモラの眉間を撃ちぬいた。
悲鳴を上げてメスのレモラが逃げ出す。しかし、甲板の上なので水の中ほど素早くない。
縁は逃げるレモラに船縁で追いつくと、長い髪をむんずとつかんで引き寄せた。強力な吸盤のついた腕を体に回される前にさっと体を担ぎあげ、船縁に背骨を叩きつけて折る。口から血の泡を吐くレモラを、そのまま海へ落とした。 海に半身を乗り出し、冷たく言い放つ。
「一つ忠告だ。……博愛主義も結構だがね。程ほどにしねぇと、こんな悪いおっさんに引っ掛かる羽目になるぜ」
「そのおっさんに引っ掛かりてーってヤツラが来ようです」
マリナの声に振り返ると、右舷に二体のレモラが姿を見せたところだった。
船体に穴をあけられたせいか、船の波揺れが激しくなってきた。とくに進行方向の船首は横にくわえて上下にも激しく揺さぶられる。幾度となく攻撃したが、上手く狙いが定まらない。海に落ちないようバランスを取りながら、二人で連携してようやくオスの方のレモラを仕留めたところだった。
「魔種とは、本当に、はた迷惑な方々で御座いますね。魔種の呼び声に惹かれて、魔物が活発化するだなんて」
幻は召喚した捕鯨砲をメスのレモラへ向けた。ジェイクが盾となって飛んできた泡玉を防いでくれている間に狙いをしっかりと定める。
「今回現れた魔種の中には屍骸を扱う方々が多いと聞きます。レモラを倒した後、再利用を避けるために、念のため回収しておきましょう」
引き金を引き、銛を発射した。ロープを結んだ銛はみごとレモラに命中し、爆発。抜けないように銛爪が開くと、レモラは悲鳴をあげながら虹色の尾で甲板叩いてのたうちまわった。
幻がロープを引き寄せると、レモラはジェイクに血まみれの手を伸ばした。大きな青い目の縁に光る粒を乗せて、狂おしく切ないまなざしで命乞いをする。
「誘惑をしてくる魔種か。だからどうした? 俺の心は常に幻と共にある。お前が入り込む余地などどこにもない。だが――」
無駄に得物を苦しめるのは誇り高き狩人の流儀に反すると、銃を構えた。
「せめてもの手向けだ。受けとれ、狼の口づけを」
銃声と同時に、レモラの体が跳ねた。
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スーツ越しに押しつけられた乳房の柔らかさが伝わってくる。ひりつくようなある種の欲望を感じて、史之は目蓋をきつく伏せた。
「こ、こんなの……俺の女王陛下への熱い気持ちに比べたら屁でもないね」
脳裏に浮かべるは女王イザベラ・パニ・アイスの気高くも美しい姿。
一切の劣情を受けつけぬほどの神々しき微笑みに救われて呪縛を断ち切ると、史之は左腕を腹と腹の間にねじ込んだ。腕時計のスイッチを入れて、ラウンドシールド状の障壁を展開し、レモラの体を弾き飛ばす。
タイミングを見計らったようにまだ幼さを残したオスのレモラが史之の横をすり抜けて、後衛の美弥妃に接近した。ふっくらとした唇に巻き毛の、天使系イケメンだ。体の筋肉もほどほどで、腰のきわどいあたりから変わる魚の脚も長く美しい。
「うーん。可愛いものを可愛いと愛でる心はありマスけれどぉ、イケメンや美少女を愛でるのはちょっと趣味が違うんデスよねぇ」
さあ、一緒に海へ。誘うように伸ばされたレモラの両腕を、美弥妃はあっさり払いのけた。
「ごめんなさい。……別に特定の好きな人がいるわけでもないデスけど、あなたのお誘いはちょっと。まだ死ぬわけにはいかないのです、マミィとパピィを悲しませたくないから」
オスのレモラは口を尖らせると、泡玉を吹いた。
史之が赤い盾を構えて間に割り込む。
「おっと、危ない。一度断られたぐらいでカッとなってレディに暴力を振るうなんて、同じ男として許せないね」
力強く踏み出し、盾で魔物をつき飛ばした。
激昂したオスとメスが並んで泡玉を撃ってきた。盾で塞ぎ切れなかった泡が腕や手に当たってはじけ、スーツごと肉をえぐり取られた。
「僕はまだ大丈夫です。美弥妃さん、攻撃してください!」
「そう? 無理しないでね」
史之が一体を引きつけている間に、美弥妃が立て続けに魔弾を放ってレモラを倒した。
「はあ……ボディアタックしてきたり誘惑してきたり、レモラはフリーダムだな。俺ももう少し女王陛下へフレンドリーに接したいよ」
「すれば?」
えっと、目を丸くした史之をみて、美弥妃はコロコロと笑う。
「冗談ですょ。でも、いつかは……ね?」
史之の心臓の鼓動に合わせて、ドンと重い衝撃が下から上へ船を貫いた。
「私たちも船底へ急ぎましょう」
破壊された船底から海水が流れ込み続けているうちに、さすがに水深度が上がってきている。船体に打ちつけた波の飛沫が、甲板まで上がってくるほどになっていた。
一悟は海水の中でもがくうちに上下がわからなくなった。
(「あ、泡の上っていくほうが水面……卵丸は……どこだ?」)
泡の方向に懸命に目をこらすが、その間も身体が渦に揉まれて舞う。手足がばらばらに動いて、上手く泳げない。
「がっ!!」
いきなり足を強く掴まれて、恐らく船底にあいた穴の方へ、もっと言えば海へ引き込まれた。肺の中から空気が泡となって抜けていく。ヘルメットもつけずに、目をハートにしてメスのレモラたちのところへ飛び込んでいったのだから自業自得なのだが。
(「一悟!」)
ナウスを完全装備した卵丸が助けに来た。レモラに負けず劣らずの泳ぎっぷりを発揮して、一悟の足に絡みつく腕を切りつける。
束縛が解かれた瞬間、ふたりは水を蹴って水面へ向かった。
海水から上がるなり、卵丸はヘルメットを脱いで一悟を怒鳴りつけた。
「なに、やってんだよバカ!」
「なにって……かわいい女の子たちが、ニッコリ笑ってこう……ぽろんと……だな、って男なら行くしかねーだろ」
「何が『行くしかねぇだろ』だ。まったく」
そこへレモラたちが海面を割って現れた。
四体が横一列にならんで腰に手を当て、形の良い胸を見せつけながら体を回す。うなじから美しい尻まで、きれいに浮き上がった椎骨がランタンの灯りを受けて艶めいていた。そのまま、ゆらり、ゆらりと腰を振らて、頬が熱くなる。
「らっ、卵丸、そんなことされても、別に恥ずかしくなんか、無いんだからなっ」
「へっ。赤くなってやんの」
「うるさい! 海の男は、誘惑には屈しない……何故ならここに海があるから何だぞっ! この旗印を恐れないならかかってこい!」
卵丸が切った啖呵に、レモラたちは解りやすく反応した。振り返るなり泡玉を吹き飛ばしてきたのだ。怖い顔で。
「ひぇぇ、おっかねぇ」
一悟がSADボマーをばら撒いて牽制する。
二体のレモラが水から上がり、二体が逆に海中へ逃げ込んだ。
卵丸はすぐさま海に飛び込んだ。水中で格闘し、一体を仕留めたとたん、もう一体に後ろから首を絞められる。
もがいていると、喉を締めあげる腕の力が緩んだ。そのまま魔物は体から離れ、海底へ沈んでいく。
振り返ると、スーツを着用したジェイクと幻が親指を立てていた。
水から上がって逃げようとした二体は、ちょうど駆けつけて来た史之にブロックされ、と美弥妃に討たれていた。
「これで全部か。それじゃあ、クルールに報告して、さっさと陸に戻ろう」
「あ、縁さん待ってくだせい。レモラに遭難させられた船から少しでも遺品を回収して……待ってる家族さんに渡してあげませんか?」
マリナの提案にみんなが賛同するなか、一人、縁は浮かぬ顔をした。
「どうかしました?」
「いや、別に……わかった。おっさんはクルールとマリナと一緒に留守番をするよ」
「え? 私、留守番?」
「おいおい。マリナがいなくなったら船が沈むだろ。スーツを着ているとはいえ、この寒いのに迎えの船が来るまでの一時間、海水浴なんて……」
「あ、それで浮かない顔。縁さん、海種だろ。どんなけ寒がりなんだよ?」
ほっといてくれ。
縁は大げさに肩をすぼめると、階段を上った。
背の後ろで、わっと弾けた笑い声を聞きながら。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
みなさんのおかげで、レモラは倒されました。
全てではありませんが、海底に沈んだ船のいくつかから遺品を引き上げることに成功しました。それらの品々は、帰港後、貴族軍を通じて遺族に返還されています。
――ありがとう、イレギュラーズ。
GMコメント
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●時刻と場所
海。昼。晴れています。
●レモラ×12体
上半身が人、下半身が魚の人魚の魔物です。
人間大。15~18歳ぐらいまでの体型をしています。
後頭部に大きな吸盤がついています。
両腕の内側にもタコのような吸盤がついています。
ひっつかれると剥がすのが困難です。
オス、メスともに美形揃い。プロポーションも抜群です。
【ボディアタック(色仕掛け)】……近単/物。きゃ、エッチ。
【誘惑】……中単/神/麻痺。恋に落ちると、体に痺れが走ります。
【バブル弾】……遠単/物。口から超高速で吐きだした泡玉をぶつけます。
●船
出現箇所まではクルールが操船する船で向かいます。
依頼中に船を沈められてしまった場合も大丈夫。一時間後に、向かえの船が来ます。
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