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シナリオ詳細

全力で犯人をでっちあげる推理依頼

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●名前からして悪いやつ殺人事件
 がしゃんと、何かが割れるような音に次いで、耳を劈くような悲鳴があがった。
「誰か、誰か――――!!」
 助けを求める声。その場にいた者達が立ち上がり、声の方へと一斉に駆けていく。
 あれは、と。嫌な予感が胸に渦巻くのを感じながらも、足を止めることはない。
 この方向は、こっちの方にある部屋は。
 知っている。こちらに向かえば何があるのかを知っている。
 上等な絨毯が靴底に返してくる感触が今は寧ろもどかしい。早く、早く、もう、その角を曲がれば、嗚呼、そこには。
「助けて、そんな、旦那さまが! 旦那様が!」
 この家の主の寝室。その部屋の前で、当家のメイドが腰を抜かして尻餅をついていた。
 怯え、震えている。しかし、視線は一点に注がれたままだ。
 嫌な予感が、ここで半ば以上の確信に変わっている。
 開け放たれた部屋。中を覗き込む。メイドの視線の先。
 そこには、めった刺しにされ、毒を飲まされ、首を閉められ、室内だけど全身水浸しで窒息死させられた当主。
 ゾーゼイスルゾー・フォン=トニーの姿があった。

●名乗れ名探偵
「誰かがやったに決まっている!」
「そんな、僕たちを疑うっていうのかい兄さん!」
 気持ちも落ち着かぬまま再度居間に集まった面々。そこでは、トニー家の長男・次男が言い争いを繰り広げていた。
「だが、あの殺し方の執拗さを考えろ! それに、部屋はメイドのフリンティーヌが開けるまで鍵がかかっていたと言うじゃないか! 外部犯なんてありえないのはお前もわかるだろ!?」
「それはわかるさ、でも……そうだ、フリンティーヌの仕業じゃないのか!? 鍵がかかっていたなんて真っ赤な嘘でさ!」
「お前、フリンティーヌがやったわけないだろ!?」
「はっ、兄さんはフリンティーヌと出来ていたからそんなことを言うんだろう! 知ってるかい、フリンティーヌは親父の愛人でもあったんだぜ!」
「貴様――!!」
「まあまあ、お二人とも、落ち着いて」
 ヒートアップしすぎた兄弟に、執事長のサギスチャンが割って入った。
「ともかくも、犯人の特定は急務です。念の為お聞きしますが、憲兵はお呼びになられますか?」
「いいや、呼ばないさサギスチャン。先日、シフクコヤスゾー叔父のところにも監査が入ったと聞く。探られて痛い腹はないが、それでもおかしな目を向けられたくはない」
「オーリヨースルゾー兄さんの言うとおりさ。それに、ここには偶然、ローレットの皆さんが居合わせてくれている」
 そう言うと、次男のムダヅカイスルゾーはイレギュラーズの面々へと視線を向けた。
「依頼を出したい。父ゾーゼイスルゾーを殺した犯人を突き止めてくれ。いやあ、たまたまローレットの皆さんが立ち寄ってくれていたなんて本当に運がいい。頼んだよ」

GMコメント

皆様如何お過ごしでしょう、yakigoteです。

トニー家当主、ゾーゼイスルゾー氏が無残な形で発見されました。
発見時には部屋の鍵がかかっており、誰がやったのかわかりません。
この犯人を見事推理し、この事件を解決してくだsssss―――

ところで。
犯人はあなたです。
実行犯はあなたひとりかもしれませんし、あなた方の中の複数、ないしは全員かもしれません。
あなた方は貴族ゾーゼイスルゾー・フォン=トニーを暗殺するという依頼を遂行したのですが、姿をくらます前に運悪く屋敷のメイドに見つかってしまいました。
こうなれば、誰かに罪をかぶってもらうしかありません。
ほら、そこに発言権の弱そうな第一発見者のメイドが。
彼女はどうやってゾーゼイスルゾー氏を殺害したのでしょう。
調査する部屋。発見した証拠。推理した殺害手段。考えられる動機。
すべてでっちあげ、このピンチを切り抜けてください。

《容疑者一覧》
■ゾーゼイスルゾー・フォン=トニー
・被害者。
・めった刺しにされ、毒を飲まされ、首を閉められ、室内だけど全身水浸しで窒息死させられた当主。
・やったのはイレギュラーズで、この殺害方法は依頼人から指定されたままを実行した。
・裏で凄く悪いことしてたらしい。

■オーリョースルゾー・フォン=トニー
・長男。
・次期当主として尊大な態度の青年。
・税金を横領してる。
・第一発見者のフリンティーヌとは隠れた恋仲にあった。

■ムダヅカイスルゾー・フォン=トニー
・次男。
・如何にも遊び人の次男坊。
・税金を無駄遣いしている。

■サギスチャン
・執事長。
・使用人の中で一番発言権が強い。
・裏の顔は世間を騒がせている詐欺師。

■フリンティーヌ
・メイド。
・第一発見者。
・今回、犯人にされる人。彼女にうまく罪をなすりつけよう。
・ゾーゼイスルゾー、オリョースルゾー、サギスチャン、あと使用人の何人かとは隠れた恋仲にあった。

《シチュエーションデータ》
・とある幻想領主の屋敷。
・隠し部屋とか隠し通路とか拷問部屋とか地下牢獄とか探せばいくらでもでてくる。

《注意》
・プレイングには、どのような調査をし、何を発見し、どんな推理を行ったのかを記載してください。参加者全員で違う推理でも問題ありません。

・この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

  • 全力で犯人をでっちあげる推理依頼完了
  • GM名yakigote
  • 種別通常(悪)
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2019年01月28日 21時50分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
梯・芒(p3p004532)
実験的殺人者
ライハ・ネーゼス(p3p004933)
トルバドール
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)
極夜
サイモン レクター(p3p006329)
パイセン
カゲノ・ウスイ・モブ(p3p006936)
ただのモブ

リプレイ

●八人の名探偵
 ゾーゼイスルゾーの領地経営は、如何にも貴族らしいものだ。面倒な決めごとは執事に任せ、自分は贅沢をする。金がなくなれば税を増やせばいい。非常にステレオタイプなイメージに合う貴族であり、順当に領民からは恨まれていた。

 トニー家当主、ゾーゼイスルゾーが死んだ。
 そのニュースが屋敷中に広がるまで、そう時間はかからなかった。
 広間で、重い空気が流れている。
 探られて痛い腹はないと遺族は言うが、ゾーゼイスルゾー氏の良くない噂は街中でも持ちきりの話題である。
 誰もが怪しい。だが、その真相に辿り着く役割は、我らがイレギュラーズに委ねられたのだった。
「ほ、本当に、わたしではありませんの……!」
『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)が必死で犯行を否定している。
「だって、ゾーゼイスルゾーさんを殺すには、刺す武器や、毒の知識や、首を絞める力や、水を操る能力がなくてはなりませんの……でも、わたしには、そのいずれも、ありませんの!」
 そうだ。彼女は戦闘を生業にしていて怪しい薬とか持っていてあとディープシーだが、彼女に反抗は不可能なんだぞ。
「はてさて、以前も別件で探偵を引き受けたことのある俺だけど……まさか、ここで『探偵』をやることになるなんてな」
 頭をポリポリと掻きながら、『D1』赤羽・大地(p3p004151)は面倒事だという態度を隠さずに言う。
 如何に何でも屋たるイレギュラーズとは言え、殺人事件に巻き込まれ、それを解決してくれだなんて。
 小説のような話だと肩を竦めた。
「まァ、なったことは仕方がなイ。無事ニ、『解決』にこぎつけるように努力はしてみるサ」
「捜査線上に上がらないようにする、ってのはもうずいぶん手慣れたものだけど。特定の誰かに擦り付けるってのは初めてかな?」
 必要なのは状況を支配することだ。『Code187』梯・芒(p3p004532)の思考は、既に殺人の余韻から次のベクトルへとシフトしていた。
 幸いにも、コントロールできる立場を確保するのは難しくないようであるからして。
「まあ、要は標的以外を順番に捜査線上から消していけば良いんだ。いつも通りに行くんだよ」
「なんという事だ、まさか偶々居合わせた屋敷で偶然にも事件が起こるとは……! すぐにでも解決してみせよう。なぜなら、そう。犯人はこの中に必ずいるのだからな!」
 如何にも痛ましい事件だと言わんばかりに、『トルバドール』ライハ・ネーゼス(p3p004933)は背を向けて肩を震わせている。
 手は口に。表情を隠し、うっかり前から見られてもどんな顔をしているかわかるまい。
「だ、だめだまだ笑うな、堪えるんだ……!」
「一旦全員、その場を動ないように。決して一人で行動しないでください」
 誰もが怪しい。そのような場において、単独行動などさせるわけにはいかない。
 それに、犯人の狙いがひとりとは限らないのだ。
(やれやれ、フリンティーヌも間が悪い。仕方ありません、今から彼女はビジネスパートナーです)
『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)はけして表情に出さぬまま、胸中で溜息を吐いた。
「犯人は、この中にいるはずです」
「ふーん。じゃあ俺は密室の謎でも解明しようか」
 極自然に探偵役を引き受けた、ように『極夜』ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)は見せかける。
 内部犯の可能性が極めて高い現状、身内の者に調査を任せるよりも、イレギュラーズだけで行った方がいい。
 そして、そのシチュエーションは『探偵』達にとっては非常に都合の良いものだった。
(まぁ、隠し通路は犯行実行のため調査済みだが)
 そう、証拠は隠滅されるのではない。今から捏造されるのだ。
「おいおいおい、仕事が済んだと思ったら妙な展開になってきやがったな……」
 誰にも聞こえない程の小声で呟く『吸血鬼を狩る吸血鬼』サイモン レクター(p3p0063
29)。
 自分で引き受けた依頼だ。たとえ殺しであろうと、仕事の内容には納得している。
 だが、実行犯として捕まるのはアフターケアに含まれていないのだ。
 後ろ暗い仕事な分、自分達でなんとかしないといけないが。
「どうにかして犯人をでっち上げしねぇと面倒なことになりそうだな」
「ふぇぇ……何でこんな推理小説みたいな状況になってるんですか。ううう……どうせ私みたいなモブは槍玉に挙げられて犯人にされてしまうんですぅ。わかってます、次に疑われて酷い目に遭うのは私だって……」
『ただのモブ』カゲノ・ウスイ・モブ(p3p006936)は妙に具体的な最悪を想定して嘆いている。後ろ手に何かを隠しながら。
「そ、そんなの嫌ですぅ! わ、私じゃないって証明しなきゃ!」
 後ろ手に、血のついたナイフを隠しながら。
 それぞれが調査を開始する。
 関係者は皆、広間にて待機だ。恐ろしい殺人犯が屋敷にいる以上、皆で固まっているのが何よりも安全であるからだ。
 うん、ある意味安全だよ。殺人犯と行動を別にするわけだし。

●名ばかりの容疑者
 その日、ローレットではイレギュラーズの募集があった。暗殺依頼ということもあり、好んで受ける人物は限られていたが、内容を聞いて見れば、皆快く引き受けてくれたものだ。悪徳貴族。この誅罰を行うというのだから。

 怪しい屋敷。
 そこは、調べれば調べるほどそうとしか言いようのないものだった。
 窓の外では暗雲が立ち込め、稲光が姿を見せる。
 使用人の居ない廊下はやけに静かで、思いの外広く、不気味なあぎとのように続いている。
 ざあざあという音が聞こえ始めて、どうやら雨になったようだと理解する。
 なんというか、ミステリらしくなってきた。かもしれない。

●ネーミングプレート
 ゾーゼイスルゾー宅への訪問は滞り無く引き受けられた。先の戦争では双方についたローレットだが、魔種の事件では貴族や民衆の覚えも目出度い。政治的な思惑もあったのだろうが、イレギュラーズは嫌な顔をされること無く迎え入れられたのだ。

 トニー家を訪問していたイレギュラーズ。
 しかし、それぞれが氏と個人的な交流があったわけでもなく、訪問の理由は当のゾーゼイスルゾーからは誰にも伝えられていない。
 そのワケを尋ねられれば、芒は平然とこう答えた。
「芒さん達は殺されたゾーゼイスルゾー氏の依頼を受けて、捜査を開始した矢先なんだよ何の捜査かって……? まあ、依頼主も死んでるし良いか――横領だよ」
 ここで、容疑者が動揺したことを芒は見逃さない。
 上手く隠しているつもりかもしれないが、平静を保たなければならないのは表情だけではないのだ。
「オーリョースルゾー氏、ムダヅカイスルゾー氏、サギスチャン氏の三名を捜査していたんだけど、怪我の功名だね。芒さん達が知らべ回ってたんでアリバイがあるんだよ」
 実際に、そちらの真偽はどうでもいい。ようは、この三人を結託させて犯人を一人に絞ってしまえばいいのだ。
「……ところで、なんでゾーゼイスルゾー氏も含めてみんな、フリンティーヌさんに高級品を贈与しているのかな? かな?」

 一体誰が。
 その疑心が飛び交う空間に耐えられなくなったのか、ノリアが叫びぶように捲し立てた。
「わ、わたしでは、ありませんの……! たしかにわたしは海種ですけれど、海種だからって、水を操れるわけではありませんの……だったら陸のかたがたは、皆、風を操れますの!? そもそもわたしには、ゾーゼイスルゾーさんを殺す、動機がありませんの……!」
 饒舌な者は疑われる。自分の潔白を証明すればするほど、怪しく思えてきてしまうものだ。
 もしや彼女がという視線に耐えきれなくなった(というそぶり)とばかりに、ノリアは広間の外へと走り出てしまう。
 これを放置する手はない。彼女が犯人であろうとなかろうと、皆が追いかける以外の選択肢はなかった。
 廊下を飛び出し、視線を巡らせる。どこに。しかしその疑問は、ノリア自身の声で解消されることになる。
「あっ……こんなところに、通路がありますの!」
 なにか見つけたようだ。皆、声のする方向に向けて走り出した。

「ふー。やっと脱出できたぜ」
 その通路から出てきたのは、ペッカートだった。
 どこを調べていたのか、あちこちススで汚れている。
「この屋敷、なんか違和感があったんだよなぁ。こう見た目より部屋数が少ない? 間取りがおかしいっていうの?」
 彼の案内で、一度寝室に移動する一同。
「それでさ、ここにあるランプさぁ、ダイヤル式になってんの。金庫みたいじゃね? これを『0645』って回してこのベッドを押すと……」
 ずずりと音を立て、横にスライドするベッド。
「なんと秘密の通路の入り口! なんで、番号を知っているかだと? 俺ってネクロマンサーなの。死体の扱いは任せてくれよ」
 なるほど、ネクロマンサー。ネクロマンサーなら仕方ない。死体をごにょごにょ出来るやつだネクロマンサー。じゃあ犯人聞いてくれよとは素人には思いつかないぞネクロマンサー。
「で、通路にハンカチが落ちてたんだけど、一体誰の?」
 取り出されたそれは、どう見ても女物で。

 寝室に皆が集まっている間に、カゲノはこっそりと姿を消した。目的はフリンティーヌに充てられた部屋である。
 鍵を開けて侵入すると、今まで隠し持っていた凶器をベッドの下に忍ばせる。
 見つかりやすいよう、或いは慌てて隠したことを匂わせられるよう。ナイフを見つかりやすいように配置し、絨毯に血糊を垂らすことも忘れない。
 部屋の鍵をしっかり締め直すと、カゲノは何食わぬ顔でゾーゼイスルゾーの寝室へと戻っていく。
 途中、彼女をイレギュラーズと見た何人かの使用人に声をかけられた。皆、事件がどうなったか気になっているのだ。
 捜査状況を伝えることは出来ないと言いながら、「ここだけの話、フリンティーヌが怪しい」と耳打ちして回る。
 人の口に戸は建てられない。こうしておけば、自然と噂は広まり、屋敷内の事実として定着するだろう。
 有る事無い事、勝手に憶測してくれれば幸いだ。
 さあ、これで犯人は決まった。自分は居合わせただけの不幸な人だ。
「……だって、私何も悪い事してませんから」

 ファンタジーでミステリをしてはいけない大きな理由として、実際に魔術呪術の類が存在してしまうというものがある。
 その世界の常識に擬えて推理しなければならない以上、世界観の違う読み手に対して必要な材料が揃わないのだ。
 よって、現代日本では荒唐無稽とされてしまう大地のこの言葉も、こちらに合わせれば成立してしまう。
「ローレットに所属する者の中には、死者との交信が可能な者も居ます……今から俺が、それをしてみせます」
 両腕を大きく広げ、仰々しい仕草を取る大地。これも、実際にそうであるのかは本人にしかわからない。
 閉じていた目を薄く空けて、すっと手を挙げる。人差し指で相手を示すのは礼儀に反するが、探偵の手法としては如何にもそれらしい。
「犯人ハ……そこのメイド、貴方ダ」
 騒然とする広間。否定するメイド。
 驚愕に見を振るわせるメイドの袖口から何かが落ちて、床と乾いた音を立てた。
 あがる悲鳴。それは、失くなったはずの寝室の鍵だった。

「そもそも考えてほしい。めった刺し・毒・水攻め首絞め窒息死……これらを行うに必要なのはなんだ? 勿論凶器はそうだが最大の問題は――時間だ」
 ライハは芝居がかった仕草で推理を述べる。
「そう。これらは『一人』でやるなら異様に時間がかかる。それこそ『身の回りの世話をしている者』の目を盗んで行う時間が、だ。だがその世話をしている者が犯人なら? そう。時間の問題はクリア出来る」
 幸いなことに、いや、『彼女』に取っては不幸なことに、ゾーゼイスルゾー氏の身の回りの世話を直接行っていたのは一人だ。
 そこを掘り下げれば下世話な事情も出てくるかも知れないが、事件そのものとは関係のないことだ。変に探りすぎて疑いの晴れる証拠とか見つかっても、その、困る。
 ここまでくれば、皆の視線は一点に集中している。
 青ざめる『彼女』。だが残念なことに、立場が悪い。容疑者の誰からも、彼女は既に切り捨てていいものと認識されつつある。
「犯人はフリンティーヌだ」

「犯人はフリンティーヌだ、俺はフリンティーヌの部屋を調査して殺害に使用された毒物と同じものを発見した」
 サイモンは机に、証拠と呼ばれるそれらを並べていく。だがそれは、一般的には薬に分類されるはずの物だった。
「正確に言うと毒物というよりは強壮剤だな。おそらく、夜の営みをはかどらせるとでも言って被害者に多量に飲ませたのだろう」
 薬も、過剰に摂取すれば毒になる。強壮剤の類であれば、心臓への負担も大きい。
 ゾーゼイスルゾーはそこそこの高齢だ。服用量を誤れば、それで動けなくなるだろう。
「あとはめった刺しにしてから首をしめ、さらにバスタブにでも沈めて窒息死させた……こんなところか?」
 紙巻きを口に咥えて、火を点ける。長めに吸い込んでから煙を吐き出すと、苦笑いをしながら肩を竦めてみせた。
 素人はやり過ぎていけねえな、と。
「容疑者の部屋から借金の証文が見つかった。多額の借金を返済するために被害者の遺産をいただこうとしたのだろう」

「異議あり。その方法ならば彼女以外でも犯行が可能です。断定はできない」
 寛治は述べられていく推理に反論するが、次々に出てくる証拠に、皆の信用を得られないでいた。
 だが、弁護されているフリンティーヌだけは別である。
 彼女からすれば寛治は唯一の味方だ。自分だけで戦うか、彼に縋るのか。それ以外の道がないことは、彼女も理解していた。
「少し別室で話しましょう」と、メイドと二人で話す環境を仕立てる寛治。
 不安げな視線を送る彼女に、寛治が告げたそれは残酷なものだった。
「可能な限りの弁護しましたが、この流れを覆すことは難しい」
 目を見張るフリンティーヌ。
「幸い、私は保釈を掛け合うこともできるし、貴女が身を隠せる場所もご用意できます」
 だから罪を認めてしまうのも手だと、寛治は言う。
 何故ここまでしてくれるのか、そう問われれば、彼は真っ直ぐな眼差しを向けてこう言った。
「――惚れてしまった女を助けるのに、理由が必要ですか?」
 悪いやっちゃなー。

●名は体を
 で、ああなった。

 証拠は十分過ぎる程に出揃った。
 いつの間にか、証言も山程取れていた。
 その全てがフリンティーヌを犯人だと語っており、この事実はもう覆しようがない。
 逃れられないと悟り、泣き崩れるフリンティーヌ。
 物悲しげなBGMが流れ、誰かが彼女を連行していく。
 貴族を惨殺した恐ろしい女、フリンティーヌ。
 揃いきった証拠に、彼女の罪が軽くなることはないが、それでもその口から動機が語られることはけしてなかったという。
 そりゃ、してないもんな。

 了。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

たまたま居合わせた探偵ほど信用できないものはない。

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