シナリオ詳細
試製マッドネスギャリング砲奪還作戦
オープニング
●奪われた兵器
幻想南東部の森の中を、大きな積み荷を積み込んだ荷馬車が往く。
荷馬車二台分の積み荷だ。十名ほどの冒険者が護衛について、ともに歩いていた。
しかし、この冒険者達、実に警戒心が薄い。
そもそもこの荷物の運搬に当たっては秘密事項が多かった。
冒険者達は積み荷の中身を知らされていないし、知る事も厳禁とされていた。課せられた依頼は幻想の銃器工房から練達のリドルク博士の研究所へと送り届ける。ただそれだけだった。
運搬するだけにしては法外な額の依頼料。美味しい仕事だと冒険者達は二つ返事で依頼を受けた。
だからだろうか。
楽な仕事だと考えているのか、はたまた元々そういう”質の悪い”冒険者だったからか。彼等は緊張感なく暢気に荷馬車を護衛する。
幻想と練達を結ぶクラウゼン高原。
その土地に差し掛かったとき、暢気に歩く彼等を容赦ない悪意が襲った。
空気を切り裂く音と共に、冒険者の一人が頭を穿たれ即死する。
「な、なんだ……!?」
「ゴブリン! ゴブリンよ!」
異変に気づくが、もう遅い。
次々と全周囲からの発砲。そして草木に隠れながら迅速に近づいた尖兵が尋常ならざる機動をもって襲いかかる。
悲鳴も、後悔も、言葉にする間もなく冒険者達は絶命する。
後に残された御者は一人逃げ出した。
死体が残された荷馬車へと、ゴブリン達十数体が集まった。
彼等は人並み外れた戦闘経験を積んだ、言わばエリートゴブリンソルジャーだ。人の扱う武器道具にも精通し、こうして縄張りに踏み入った人間達を襲い物を奪う。
今日もまた戦利品を確認しようと積み荷を調べ――珍しく目を見開いた。
「コレハ……銃カ?」
「銃……ソウ銃ダ。巨大ナ……大砲ダ」
ゴブリン達は初めて目にする科学の結晶体を興味深げに眺め、持ち帰る事にした。
それから後、クラウゼン高原は通る物全てが焼却される死の高原と噂されるようになった――
●
ローレットへと顔を出したイレギュラーズに、『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)が依頼書を手に声を掛けた。
「練達の科学者から依頼が入ったのだけれど、手は空いているかしら?」
話を聞くくらいは良いだろうと、説明を求めると、リリィは微笑みながら一つ頷き依頼内容について話し始めた。
「一週間ほど前に幻想の銃器工房から運び出されたある銃器が、クラウゼン高原を縄張りにするゴブリン達に奪われたらしいわ。
この銃器を開発したのは練達のリドルク博士。銃の基本設計を終えて各パーツを幻想の職人に作って貰っていたみたいね。
完成し、自分の研究所に運ぼうとしたところを奪われたみたいよ」
奪ったゴブリンはクラウゼン高原を縄張りとするエリートゴブリンソルジャー達。普通のゴブリンより知能が高く、人の戦闘行動を理解し、実践する危険な存在だ。
「奪われた銃の名は『試製マッドネスギャリング砲』。銃というより砲台に取り付ける巨大な砲筒ね。
特異運命座標ちゃん達が使う”魔砲”を再現するだけでなく、その力を圧縮、加速したエネルギーで弾丸を発射する仕組みだそうよ」
魔砲の再現というだけでも結構な威力が想像つきそうだが、話を聞くに更に高威力、広範囲の砲撃を可能にしそうだ。
「ゴブリン達の中には科学や魔法に精通するものもいたようね。このマッドネスギャリング砲を組み立てて使用可能にしたようなの。
今やクラウゼン高原は彼の砲撃で道行く物すべてが薙ぎ払われているわ」
もはや物を奪う山賊行為だけでは飽き足らず虐殺へと傾きだしているということか。
幻想から練達へと至る要所の一つなだけに放って置く事はできないだろう。
「オーダーは試製マッドネスギャリング砲の回収。ゴブリン達の相手は含まれていないけれど……当然、ただで返してくれるとは思わないことね。
クラウゼン高原、その高台に設置されたマッドネスギャリング砲へと接近、周囲のゴブリンを殲滅することになるでしょう」
戦いは避けられないということだろう。戦闘能力に長けた相手だ、十分に作戦を練る必要があるだろう。
依頼書へとわかっている情報を書き込むと、リリィは依頼書を手渡した。
「戦闘中砲撃に晒されることになるでしょうから、陣形には注意することね。
ご武運を。期待しているわ」
- 試製マッドネスギャリング砲奪還作戦完了
- GM名澤見夜行
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年01月26日 00時40分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●睨み合い
新兵器というのはそれだけで心が躍るものではあるが、そこに『試製』だとか『トライアル』だとかが付いていれば、それはまさしくロマンを感じるものである。
そんなロマンを彼の者(ゴブリン)達が感じたかどうかはさておいて、奪取された試作兵器というのは、その響きだけで危険度が高まるというものだ。
幻想南東部、クラウゼン高原。
平原、森林、そして岩場の高台と三つのフィールドの顔を持つこの高原に、奪われた試作兵器『試製マッドネスギャリング砲』が鎮座していた。
高所である岩場の高台に設置されたこの砲は、平原、森林に睨みを効かせている。その殺気だった視線にに気づかず、何の気もなしに身を晒せばどうだろう。轟音と共に発射されるエネルギーに飲み込まれ、瞬間この世を去る事になりかねないだろう。
原因は全て、この試作兵器を奪ったゴブリン達にある。
クラウゼン高原を縄張りとするエリートゴブリンソルジャー。並のゴブリン以上に知恵を蓄えたこのエリート達は、奪い取った試作兵器を我が物顔で使用する。
積み荷を運ぶ多くの荷馬車が犠牲となり、多くの物品がこのゴブリン達に奪われる次第となった。
どのような経緯であれ、奪われた試作兵器を奪い返すのもまた必定である。
此度の奪還作戦に参加する事になったイレギュラーズ八名が、試製砲の射程外からゴブリン達の様子を探る。
ゴブリン達もまた、その人間達に気づき警戒と共に睨みを効かせた。
此処にイレギュラーズとゴブリン達の睨み合いの場が作り上げられた。
「とんでもない物作ったな……!
それを奪って我が物顔で使用するゴブリンにも困った物だ。
まずは壊さずに奪還、そしてゴブリン達の全滅まで持って行きたい所。頑張ろうじゃないか」
試製砲の資料を悉に記憶し、戦闘に備える『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)。作戦の為皆が集まっている時は今だけと、『赤の熱狂』を熾し味方を鼓舞する。
「奴らには知恵がある、経験という名の知識もある。
とてもゴブリンとは思えないほどだ。
舐めるとこちらが手痛い目に合うだろう」
鋭く試製砲を睨めつけながら『軋む守り人』楔 アカツキ(p3p001209)が言葉を紡ぐ。ゴブリン相手という考えを捨て、一分の隙もなく戦いに臨む心算だ。
「魔砲の再現。それは大きな力だ。
誰かを傷つけるかもしれないその力は、けれど使い方次第で誰かの笑顔を守る力になる。
――同じ力でも僕は笑顔を守ってみせるよ」
魔砲の再現を目指した試製砲。それはまさに『髭の人』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)の想いを叶えるための力ではなかったのだろうか。
悪意あるものに利用され暴力となって振るわれることを、ムスティスラーフは否定し正そうと考える。魔砲使いとしての想いは強い。
「ある意味性能試験成功?
とはいえ、こんなにも好き勝手に使われたら迷惑だね。
それにしてもエリートゴブリンソルジャーって……特別製にもほどがあるネーミング!」
試製砲を守るゴブリン達を眺めながら苦笑する『夢見る狐子』ヒィロ=エヒト(p3p002503)。作戦の事前準備として、桜咲 珠緒(p3p004426)のギフトを持って、背中に血の呪印を描いて貰う。
呪印を描く珠緒は、牙剥くゴブリン達を眺めながら言葉を零す。
「根本として、ゴブリンが舐められる対象ってどこからきてるのでしょうね。
武器戦闘と集団戦闘ができる種族が弱いわけないのです」
そんな集団が地の利を得て強化される森林での戦いは自殺行為であると、作戦を練る最中提案する。遮蔽物がなく試製砲に狙われるリスクを負ってでも、強引に平野を突破し試製砲へと取り付く。此度の作戦はそのようにして早期的に砲台を機能させなくする方針だ。
「試作兵器ね……興味深いけど敵に回ると実に厄介だね。
それに……新しいおもちゃを手に入れたからって殺戮を楽しむ様な輩はどんなヤツでも害虫だし、徹底駆除しないとね」
口調は柔らかく、しかし辛辣な言葉を乗せて。『天薙ぐ虹芒』ェクセレリァス・アルケラシス・ヴィルフェリゥム(p3p005156)は擬態している人の姿を脱ぎ捨てて、本来の姿でこの作戦に臨む。
異形の龍を思わせるその姿に、然しものゴブリン達も警戒を隠す事はできない。
「敵の陣形――なるほど確かに戦い慣れているように思えますね。
人の戦闘行動を理解し、実戦するゴブリンに、科学的砲筒ですか。最悪なコンビに相対するわけですが……どうにか砲筒の奪取をしたい所ですね」
各種装備を確認し、戦いへの準備を終えた『高機動偵察兵』シエル(p3p006444)が、的確に敵戦力を評する。
ェクセレリァスとシエルの二人は今回の戦いにおけるキーマンだ。二人の作戦行動が仲間達の生存率を引き上げるといってもよいだろう。集中し、開戦の時を待つ。
「練達の技術力は大したものだけど、それほどの物なら防犯対策にも力を入れて欲しかったな……。
さて、直撃を貰ったら一発で吹き飛びそうな戦場だけど頑張ろうか」
ファミリアーを召喚し、ェクセレリァスとシエルの二人に預けるのは『特異運命座標』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)だ。
別行動となる二人との連絡手段は必要だろう。二人との連携を担うのは連絡の橋渡しとなるウィリアムの役目だ。
そうしてイレギュラーズの準備が整う頃、ゴブリン達も警戒を強め、斥候を出しながらこちらの出方を窺っていた。
「組織だった動きだな。エリートソルジャーというのは本当のことらしい」
「これは予想以上に骨が折れそうだね。
それじゃ気合い入れていこうか!」
ランドウェラがゴブリン達の動きを評すれば、そこから想像される未来の激戦を前にムスティスラーフが身体中に力を漲らせた。
「それじゃ……いくね」
「出来るだけの援護はさせてもらいます。ご武運を」
「二人とも気をつけてね!」
ェクセレリァスとシエルが自身が持つ飛行能力を持って上昇する。それを見送ったヒィロは「よし!」と武器を構え、遥か前方に広がる平原に目を送った。
扇状に広がるイレギュラーズの面々。
この動きにゴブリン達も忙しなく動き牽制する。
互いに睨み合いが続く中、アカツキが敵の陣形の綻びを見いだした。
「好機だな。一気に攻める――!」
合図と共に、イレギュラーズが一斉に走り出す。その様は合戦に臨んだ騎馬兵の如く。
イレギュラーズの動きにゴブリン達も動き出す。
手に入れた試製砲を守る為、その尋常ならざる反応と機動力をもってイレギュラーズの行く手を阻まんとする。
いまクラウゼン高原はその平野部で、試製マッドネスギャリング砲奪還に向けた作戦が開始されるのだった!
●平原突破
何も無い平野を六人が一心不乱に疾走する。
戦場に置いて足を止める事、それは即ち死を意味するに他ならない。
これはこの戦場に置いてはまさに言葉通りで、少しでも足を止めれば高台より恐るべき威力を持った砲爆撃が行われるからだ。
轟音と共に土砂が噴出し、砂煙が視界を覆う。
マッドネスギャリング砲の恐るべき破壊砲弾がその身を掠め、地面に大穴を作り上げていた。
「止まるな――! 動きながら手数を増やせ!」
先行するランドウェラが声を上げながら、白銀の爪を振るう。
「ニンゲン! 銃 ヲ 奪イ返シ ニ 来タカ!」
俊敏に動くゴブリンが怨嗟の声を上げながら。手にした武器を振るう。一撃は浅く軽い。しかしながらその俊敏さを活かした怒濤の連続攻撃は、致命傷を避ける為に防戦へと回れば、手が出せなくなるほどに鋭い。
「おっと、お前達の相手はしてられないのでね。散れ――ッ!」
ゴブリンの執拗な攻撃を受け止めながら、体捌きのみでゴブリンを捨て置いて、後衛に位置するゴブリン目がけて猛る一条の稲妻を手繰り放つ。
閃光とともに雷鳴が迸り、ゴブリン達の身体を射貫けば、その隙を縫って平野を駆ける。
イレギュラーズの作戦は正面突破に他ならない。ガードに回るゴブリン達を出し抜いて、マッドネスギャリング砲を制圧する。地の利は互いに五分であり、これは地力の戦いとなる。
その点で言えば、此度の戦いイレギュラーズ陣営の反応は戦いに臨む気合いが反映されてか軒並み高く早い。
ずば抜けた反応、機動力を持つゴブリン相手だとしても決して引けをとることなく、不利と思われた部分を塗り替えた形だ。
「対応できないうちに進ませてもらうよ!」
高い機動力を持つムスティスラーフは平野を一足飛びに駆け抜けて、高台へと一挙に迫っていた。高い機動力を持ち、初手から狙いに行くという覚悟の差が、この早駆けを許した。
「砲筒にも当たりそうだけれど……このチャンス無駄にしないよ!」
手にする宝石のカットラインから強烈な光が放たれる。ムスティスラーフのジュエルブラストが試製砲を操作するゴブリン三人の内二体を吹き飛ばした。一体は砲台にしがみつき吹き飛ばされる事を拒絶した形だ。
当然ながらこの範囲攻撃は試製砲にもダメージを与える事になる。破壊こそされなかったが、少しばかり傷がついてしまった。
とはいえ、このムスティスラーフの一撃が全員にヒットしていれば、それだけで一気に形勢は逆転していた。実に惜しいが、自らの特徴を活かした絶妙なアタックだったと言うのは言うまでもない。
イレギュラーズの作戦の肝は空からやってくる。
ェクセレリァスとシエルの二人が、試製砲の直上を奪う。
「ギィ! 空カラダト!?」
「銃 ハ 上 ニ 向カナイゾ!!」
制空権を取られたゴブリン達が俄に浮き足だつ。人の戦術を学ぶ彼等だが、空襲という物の経験はなかったようだ。
どのように対処対応すればいいのか、判断に苦慮し、目の前のタスクが処理出来なくなっていく。
「――動きましたね。その位置もらいました」
試製砲周辺のゴブリンの動きを良く見ているシエルが、急降下し敵を射程に収めると遠距離術式を放つ。一撃で大きなダメージとなるわけではないが、この攻撃の後高い反応速度を持ってすぐさま敵射程外へと急上昇する。
このヒットアンドアウェイは実に有効で、空への対処が疎かなゴブリン達は為す術がない。
そうして空に視線を奪われれば、地上を走る他のイレギュラーズが迫ってくる。擬似的な挟撃と言って良いだろう。
「こっちの敵視を取ろうとするつもりだろうけど、そうはいかないよ」
固有魔術により光学迷彩が解除される。突如現れる異形の龍ェクセレリァスの姿にゴブリンが驚愕の表情を浮かべる。
ェクセレリァスの体表面が煌めく。虹色に煌めく十三条の雷光が周囲に拡散すると、突如意思を持つかのように軌道を変え、ジグザグに折れ曲がりながらゴブリンを追尾する。
逃げ惑うゴブリンに接触する時には十三条の虹閃は一本に収束し炸裂した。
異形の神を思わせるェクセレリァスの姿形はそれだけでゴブリン達にプレッシャーを与えるものとなっていた。
「うーん、派手にやってるね。
こっちも負けてられないよ! 桜咲さん行くよ!」
「ええ、吐血してる暇もありませんね。お付き合い致します」
平野で遊撃部隊のゴブリンの敵視を一身に受けるのはヒィロだ。
後衛の敵をメインに闘魂宿した眼力で煽っていく。
「かかってきなよ! ボクが相手だ!」
仲間が試製砲を奪取するまでの盛大な時間稼ぎ。己の役割を認識し、一分の隙もなくそれを全うしようと全身全霊を持ってゴブリン達の注意を引いていく。
当然それはリスクを伴う行為だ。
多くのゴブリン達の目が向き、取り囲まれる。それにともない受けるダメージも上昇していく。高い防御技術を誇るヒィロと言えど、怒濤の乱撃を前に、徐々に体力が奪われていくのは明白だ。
だが、この状況を想定した準備を忘れてはいない。
ヒィロの背中に描かれた血の呪印は後方に付き従う珠緒へと繋がっている。
「後方というの司令塔の位置でもありますので。
ナビゲージョンさせて頂きますね」
敵の動きを俯瞰して見れる位置にいる珠緒は、ヒィロからの意思を受信して、目に見える情報と照らし合わせながら、最善手と思われる指示を飛ばす。
多くのゴブリンに取り囲まれながら、ヒィロが倒れる事無く戦い続けられるのはまさに珠緒のサポートあればこそだろう。
「ヒィロさん一度下がってください。砲筒に狙われています」
治癒の魔術で傷を癒やしながら、試製砲の動きもチェックする。同時、轟音と共に目の前の戦場が爆発する。
「いたたっ……なんて威力!」
「すぐに傷を癒やします。次もまだ来ると思いますので」
二人は高台へと向かいながら時間稼ぎを続けていく。
「こちらの動きを止めるか。
ならば、まずは援護する者を仕留める――!」
たとえブロックで動きを止められたとしても焦る事はない。アカツキは冷静沈着に、射程内の敵中衛に向けて、光柱を放つ。
そうして敵射手を仕留めれば、敵のブロックが剥がれたタイミングを見計らってすぐさま前進。徐々に高台へと迫りその戦線を押し上げていった。
「――ッ!」
当然アカツキにも試製砲の砲弾は飛んでくる。
仲間であるゴブリンを巻き込むことも厭わず飛んでくる砲撃に悪態の一つでも付きたいところだが、敵が仲間を巻き込むのであれば好都合だと考えを変える。
敵ゴブリンの死体を盾に被害を減らしながら、試製砲の砲撃を躱しゴブリン達の防衛網の突破を図る。
「そっちからも見えてると思うけれど、うん順調だね。
あとは砲筒を押さえられれば良いんだけど――」
シエル、そしてェクセレリァスとの連絡を取りながら、平野を駆けるウィリアム。
仲間達には遅れた形だが、それが功を奏したのか狙われる事無く立ち回る事が出来ていた。
「っと、その位置はもらうよ!」
迸る雷光が収束し、放たれると同時に雷鳴響かせ轟いた。進路場の敵を薙ぎ払い沈黙させる。
そうしてさらに前進を繰り返しながら仲間達と連携し確実に一体ずつ敵を減らしていく。
「ヒィロと珠緒が敵を押さえてくれるお蔭で高台までの道が出来たね。
今のうちに砲筒を押さえさせてもらうよ」
高台へと辿り着けば、そこではシエル、ェクセレリァスの飛行組、そして先行していたランドウェラとムスティスラーフが、砲筒を守るゴブリン相手に立ち回っているところだった。
「お待たせ。一気に押さえようか」
「丁度良いところに。今一歩押しが足らないところだったよ」
ウィリアムの言葉にランドウェラが苦笑する。
「ふふ、それじゃ一気に決めるとしようか!」
ムスティスラーフの合図で五人が一斉に試製砲守るゴブリンへと襲いかかった。
●試製マッドネスギャリング砲をぶっ放せ!
「はぁ……はぁ……桜咲さんのおかげでギリギリ持ちこたえてるけど、結構キツいかも」
「ふぅ……さすがに三人で七匹の相手は難しかったですね」
「だが、大分時間は稼げたはずだ」
敵視をとり続けたヒィロ、そしてブロックによってその動きを制限され続けたアカツキの二人はすでにパンドラの輝きに縋り満身創痍だ。
珠緒の回復によって今はまだ戦闘行動が可能だが、後はないようなものだった。
「状況的にそろそろ――」
言いかけたアカツキが目を細める。
それは高台にいたメンバーが勝利の合図を送ってきたからだ。
「形勢は逆転したようだな」
「やった! それじゃ一気に攻勢といこうかな!」
「吐き出す血もないほど疲労困憊ではありますが、あと少しですね」
沸き立つイレギュラーズを前に優勢を取っていたと思っていたゴブリン達は慌て出す。
必殺の兵器が奪われてしまった。勝ち筋の見えなくなった戦いに、どうするべきが判断に苦慮する。
一方高台では、勝利を掴んだ五人が試製マッドネスギャリング砲を操作していた。
「なるほど、これでターゲットして、弾薬を込めるだね」
「電子制御になっているのですか。これは……なんともすごい技術力ですね」
操作するウィリアムに、興味深げに見るシエル。
「本当に”おもちゃ”って感じだね。撃っても大丈夫なのかな?」
ェクセレリァスの疑問に「ゴブリン達が撃てたのだから大丈夫……かな?」とやや心配げに答えるウィリアム。
「砲筒が無事なのを確認する意味でも、一発撃ってみても良いんじゃないかな」
「それじゃ下の三人に警告しないとな。
おーい! 一発撃つから気をつけろぉ!」
戦闘中の彼等(ヒィロ達)に聞こえたかどうかはさておき。
「ターゲットロック。トリガーオン!」
引き金を引くと同時絶大な魔力が吸引されるのが分かる。
そうして、刹那の間のあと、轟音とと共に閃光が射出された!
「わー! 撃ってきたよ!!」
「さっきのは警告か――! 避けろ!」
ゴブリン達に囲まれていたヒィロ達が悲鳴を上げながら逃げ出して、同時ゴブリン達を巻き込むように大爆発が起こった。
その威力を目の前にした生き残ったゴブリン達が、一斉に武器を放り出して逃げ出していく。
深追いは禁物だ。砲撃から逃げたアカツキ達は勿論、高台にいる五人もゴブリン達を追おうとは思わなかった。
何はともあれ依頼は完遂。無事『試製マッドネスギャリング砲』は奪還することができたのだった。
――後日、あまりにも殺傷能力の高いこの兵器は試作一号の廃棄と共に計画のストップが決定されたのは言うまでもない。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
澤見夜行です。
空中からの攻撃のアイデアは素晴らしかったです! ゴブリン達もまさか空から攻撃がなされるとは思いもしなかったでしょう。
皆さんのおかげで無事壊れる事無くマッドネスギャリング砲は回収できたのでした。お見事です。
MVPは迷いましたが盾役を最後までサポートして戦線を維持し続けた珠緒さんへ贈ります。ギフトとスキルを用いた受送信の確立と運用はとてもよかったと思います。吐血もしなかったしね。
依頼お疲れ様でした! 素敵なプレイングをありがとうございました!
GMコメント
こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
精鋭ゴブリンに試作品が奪われました。
襲いかかる砲撃を避けながらこれを奪還しましょう。
●依頼達成条件
試製マッドネスギャリング砲を壊さずに奪還
■オプション
ゴブリン達の全滅
●情報確度
情報確度はAです。
想定外の事態は起きません。
●エリートゴブリンソルジャーについて
数は合計十三体。十体が遊撃で、三体がマッドネスギャリング砲に取り付いています。
戦闘行動に長け、知能も並外れて高く、その特質として反応、機動力、回避、EXAがずば抜けて高いです。
近接戦闘および中距離での戦いを得意とし、回復なども行い群れで狩りを行います。
非常にバランスが良くゴブリンと思って侮っている限り、勝利は望めないでしょう。
マッドネスギャリング砲を守る為に行動します。ブロック・マーク・名乗り口上なども使用してくるでしょう。
防御技術の低さ、体力の少なさなどが弱点と思われます。
●試製マッドネスギャリング砲について
リドルク博士の開発した、”魔砲”を再現する科学的砲筒。
再現どころか威力を増加させた上に実弾を発射する仕組みから、神秘的エネルギーと物理的エネルギーの両方を兼ね備え着弾地点から同心円状の地域に大爆発を起こす。(特レ域・出血・足止・崩し)
ゴブリン達はクラウゼン高原の高台にこれを設置し、近づくものへと狙いをつけて放ってきます。
レンジは超距離~中距離。近距離以下では発射する事はできません。
毎ターン終了時に一発弾丸が飛んできます。
●戦闘地域
幻想南東部、クラウゼン高原になります。
周囲は平野部と森林部、そして高台と分かれており、平野、森林どちらからでも高台には近づけます。
ただし、平野はマッドネスギャリング砲に狙われやすく、森林はマッドネスギャリング砲の命中精度が下がる代わりに、ゴブリン達の戦闘能力が向上します。高台は岩場となっていますが、ここまで近づけば砲撃の脅威はないでしょう。この三つのフィールドをどのように攻略するかが鍵となるでしょう。
時刻は十時。陽は高く昇りつつあります。
平野は障害物はなく視界も良好でしょう。
森林は木々が多く視界は不明瞭です。
高台は狭いですが、戦闘に問題はないでしょう。
そのほか、有用そうなスキルやアイテムには色々なボーナスがつきます。
皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
宜しくお願いいたします。
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