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シナリオ詳細

騒乱と隠蔽
騒乱と隠蔽

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●騒乱の罪
「この者、騒乱を企てた罪により絞首刑に処す――」
 吊るせ! という声が響いたと同時、一つの命がこの世から消えた。
 ある街の広場。曇り空の下、そこには即席の処刑場が出来ていて、
「……ついに明日、私の番か」
 その近く、陰気な気配の漂う牢の中には一人の男がいた。
 彼は先に述べた『騒乱』を起こしたリーダーである。貴族の締め付けが厳しく、こんな支配には立ち向かうべきだと罪なき市民を扇動し惑わした大罪がある。幸いにして決起直前に治安部隊が彼らの拠点を特定。鎮圧に成功した為大事には至らなかったが。
「……やはり無理だったのか?」
 呟く。もう牢に残っているのは『騒乱』の中核を担う筈だったメンバー数人しかいない。そしてこのメンバーも明日、一斉に処刑される予定だ。それで全てがお仕舞い。
「すまない。ノエル――母さんの仇は取れなかったよ」
 せめてお前は無事に逃げ通してくれ……
 呟く。全てに絶望したかの様に彼は。騒乱を起こそうとしたファスという男は。
 項垂れて、目を閉じた――
「なんだお前は――ぐぁッ!?」
 その瞬間。耳に届いたのは、誰かと誰かが争う音。
 近い。その音は瞬く間にこちらの牢の方へと近付いてきている。まさか、いや、まさか。
「――父上!」
 言葉と同時。警備の兵が壁へと吹き飛ばされ――代わりに、滑り込む様な姿勢で牢の前に現れた者がいる。その、人物とは。
「ご無事でしたか、良かった! 助けに参りました! 脱出しましょう!」
 棍棒を携えた自身の自慢の娘。ノエルであった。

●逃がさない
「ローレットの諸君! 君達に依頼したい――逃亡した犯罪者を捕まえてくれ!!」
 外は雨が降ってきていた。大雨だ。
 そんな中を駆け込むように一人の男がローレットへと入ってくる。至急で依頼したい事がある、との事で事情を尋ねてみると……どうやら自身の管轄していた牢から幾人かの人物達が逃亡してしまったようで。
「奴らはニコル卿の領地で騒乱を起こそうとした犯罪者共だ! 予定通りだったら明日、その中核メンバーを処刑する予定だったのだが……警備の連中がドジを踏んでな。逃げられたのだ!」
 すぐに追いかけ、捕まえる必要がある! そう述べているのは、処刑を取り仕切っているハウズという男。焦っているのか口調は早口だ。その上、汗も大分書いている。
 額の汗が目立つ程に。最初は雨に濡れたのかと思ったがどうやらそうではない様子で。
「……内容は分かったが、疑問はあるな。なぜそれを憲兵でやらないんだ? 大勢いるだろうに」
「そ、それは……」
 不審に思った一人が追求すれば、ハウズは口淀む。額の汗を胸ポケットより出したハンカチで拭いつつも、言いにくそうに。視線は下へ。そうして二呼吸程間をおいてから――ようやく。
「こ、このような事を……ニコル卿に報告する訳には……いかんのだ……」
 ……成程、これは秘密裏の依頼なのか。脱走という事実そのものを大っぴらにしたくないらしい。
 憲兵は動かせないか、あるいは動いているのは少数なのだろう。しかしそれだけでは捕縛に足るか不安が大きい。内部が動かせない、故にローレットという外部にあえて依頼が来た訳だ。
「と、とにかく! 明日までに必ず奴らを、最低でもリーダーのファスという男だけは捕縛してくれ! 勿論、自殺される事も駄目だ! 牢を破った女に関してはどうでもいいが……生意気だ。出来れば生きたまま捕獲してほしい!」
 民衆の前で同様に吊るし上げてくれる――
 ハンカチを握り潰すかの如く力を入れ、彼は怨嗟の炎を目に宿していた。
 外は、大雨が降っていた。

●希望
「……駄目だ。やはり逃げ切れないだろうな」
 雨が降ってきた。大雨だ。脱走者達は街を脱出し、大きな道を避け森の中を駆け抜けていたが――こうも激しい雨が降る中でこれ以上動いては、体力の低下が著しい。
 辛うじて雨が凌げそうな洞窟を見つけ、そこで雨宿りが出来たは良いが……足が止まってしまった以上、憲兵の追撃が追いつくのも時間の問題だろう。もうここに何時間留まっている事か。向こう側の『事情』を知らぬ彼らの思考は、そう纏まっていて。
「まだです。父上、諦めないでください! 私に案があります!」
「ノエル。しかし……」
 この状況から一体どうするというのか。そう思うは当然の疑問だ。だから。
 彼女は、胸を張って、

「――ギルド・ローレットに依頼するんです!」

 言い切った。
「お金ならなんとかなります! 雨が止み次第、私が一っ走り行って来ますので!」
 笑顔だった。降りしきる雨とは正反対の、希望に溢れた笑顔で父にそう言った。
 元よりそうするつもりだったのだ。ノエル一人では追手全てを打ち倒す事など流石に無理で。だからギルド・ローレットの方面へ全員で駆け抜け、彼らの助力を得て逃亡を図る。そう、するつもりだったのだ。
 足さえ止まらなかったのなら。

 雨が、大雨が降ってきた。それが全ての、運命を――

GMコメント

 この依頼は非常に後味の悪い結末が訪れる可能性があります。

■依頼達成条件
 最低でもファスを生きたまま捕獲。
 死亡・自殺した場合その時点で依頼失敗となります。


■戦場
 幻想のとある森林部。大雨が降る中での捜索が必要となります。
 時間がかかり過ぎると【HP】・【AP】が低下していきます。
 これらの要素に関しては、なんらかの非戦スキル・ギフトで軽減・有利が可能かもしれません。

■敵情報
■ファス
 捕縛されていた騒乱のリーダー。娘のノエルの事を非常に大切に想っている。
 何らかの事情により『騒乱』を企てたようだが、直前に捕縛された。
 戦闘能力はノエルと比べると低いものの護身術程度の格闘技術を持っている。

■ノエル
 ファスの娘。父をとても慕っている。
 棍棒を主武装に独自の武術を極めており戦闘力は最も高い。警備の兵数名を奇襲込みとはいえ単独で打ち倒し、父達を救出した。なお先の鎮圧の際には偶々外出しており難を逃れたようだ。

■脱走者達×五名
『騒乱』を起こそうとした中核メンバー。
 それぞれノエルが用意したナイフで一応の武装をしている。
 戦闘能力はまちまちだが、二名ほど腕に自信がある者が紛れているようだ。


■その他
 この依頼は悪属性依頼です。
 通常成功時に増加する名声が成功時にマイナスされ、失敗時に減少する名声が0になります。
 又、この依頼を受けた場合は特に趣旨や成功に反する行動を取るのはお控え下さい。


 この依頼は非常に後味の悪い結末が訪れる可能性があります。
 よろしくお願いします。

  • 騒乱と隠蔽完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年02月20日 21時35分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

空摘・骸(p3p000065)
ガラクタあつめ
サングィス・スペルヴィア(p3p001291)
宿主
ジョー・バーンズ(p3p001499)
ヘレンローザ(p3p002372)
野良犬
ミリアム(p3p004121)
迷子の迷子の錬金術師
白銀 雪(p3p004124)
銀血
ルチアーノ・グレコ(p3p004260)
Calm Bringer
シラス(p3p004421)
ラド・バウD級闘士

リプレイ

●雨は降り続く
「激しいな……だが探し続けるしかないな」
 森の中。先導する形なのは『野良犬』ヘレンローザ(p3p002372)である。ギフトである最適化された心を常に使用し続けて森の中を突き進んでいる。頬を掠める木の枝も恐れず。
 そしてアクロバットな軽業技能を持つ彼は他のメンバーより地形の悪さを軽減できていた。それもあってか先導役として適切であり。
「はは。流石に寒い寒い。早く片付けて熱いミルクでも飲みたいよ」
「あぁシラス君。事前に話していた物品だが、どこまで揃えられた?」
 次いでその後に続いているのはジョー・バーンズ(p3p001499)と『pick-pocket』シラス(p3p004421)である。彼らが話している内容は互いに準備しようと話を進めていた物の事であり。
「拘束具、地図の類はなんとか。ま、ロープとか簡単な鎖だけれどもね」
「そうか……やはり罠と薬品は難しいな。私も雨具は全て揃えたが」
 彼らが用意しようと思った物の内、雨具そしてファスらを拘束するための物品はなんとか揃えられたようだ。全員雨合羽を着込んでおりある程度体力の消費を軽減している。
 そして現地の地図だが――これはシラスの顔の広さにより入手が出来た。決して上等な地図とは言えないが、現地の人間に顔の通じる技能が入手を成功させたのだ。本来ならば入手は困難だったに違いない。
「そう。私の頼んでいたの薬系統は無理だった、か。なら仕方ないわね」
 しかし『宿主』サングィス・スペルヴィア(p3p001291)の頼んでいた薬品は残念ながら。医療用の麻酔薬などを依頼していたのだが……専門性の高い物は揃えられなかったようだ。
「……まぁ救急箱が用意出来たのなら上等。それで良しとしておこう」
 さりとて簡易的な物が入った救急箱に関してはなんとか。『銀血』白銀 雪(p3p004124)が濡れぬように懐に仕舞い込んでいる。
 用意出来た物。出来なかった物。その基準は時と場合によって異なる為一概には言えない。例えば時間的にも余裕のある、難易度のそう高くない依頼ならば全て揃えられた可能性もある。が、出発時点で彼らが装備として所有していない・出来ない物の用意は如何なる物であろうと不確実となるのだ。
「急ガねートナ。雨ガ上ガッタら何処行クカ分かンネェ」
 無論、逃すつもりはないがと『ガラクタあつめ』空摘・骸(p3p000065)は言葉を紡ぐ。彼もまた迷彩柄の雨具に身を包んで、ついでに泥や土埃を付けて偽装を施す。何の偽装か? ファスらと接触した際の―― 一種の仕込みである。
「……やれやれ不条理ってのはどこにでも存在するみたいだね」
 しかしそもそもの発端として『迷子の迷子の錬金術師』ミリアム(p3p004121)はこの依頼の是非そのものに疑問を覚えないでもない。依頼主に正しい条理は存在していたか? 依頼を受けた以上反故にするような事はしないが。
 彼女は雨具に加え、自ら用意していた傘と手袋にて防寒を試みている。少しでも。少しでも体力の低下を軽減するべく。
「さて『希望』の在り方を見届けてみようか」
 そして『メルティビター』ルチアーノ・グレコ(p3p004260)は銃口で下がった雨具のフードを押し上げ視界を確保。
 往く。どこぞへと潜む――『希望』を持ちし者達の所へと。

●感情
 少しばかりの時が流れて。最初に彼らの存在を察したのはシラスだった。
「……近くに反応があるね。間違いない『不安』の感情だ」
 特定感情のみを探査できる感情探知の技能。半径100m圏内にいるようだ。見えなくても聞こえなくても100m内に『いる』という事が分かる技能。実に有用だった。100m内に居るとさえ分かれば。
「……分かった。後は、こちらの目で探してみる」
 微かに飛行しながら探索していた雪が集中する。
 されば見えるは先の先。人域を超える視力――超視力の効果だ。木の葉密集点。その隙間の更に先まで見通して彼らを探し続ける。どこだ、どこにいる? 近くにいるはずだ、と。そうすれば。
「獣道が見える。奴らが消耗を避ける為、雨宿りでもしているのなら……」
 この先に洞窟でもあるかもしれない――とヘレンローザは言う。
 獣道。現地の動物らが日常的に使用している幾つかのルート。それを判断できたのは彼の動物知識がある故だ。些か見辛くとも、知識があれば『そう』だと分かる。この先もしや、と思い速度を緩めれば。
「ハッ、居やガッたナ。連中、揃イ踏ミだゼ」
 骸の目にも映った。洞窟の中に潜んでいる――騒乱者達の姿が。
 だがまだだ。見つけたと言ってもすぐには踏み込まない。その前に。
「それじゃあ予定通りに行動するとしようか。少し離れるぞ」
 ヘレンローザは別行動を取る。些か離れた場所、一本道になりそうな地点まで戻ればそこに設置するのだ。
 罠を。彼ら騒乱者達を嵌める為の、だ。
 罠は虎挾、括り罠、鉄杭などがあれば良かったのだが。それら専門性の高い物を確実に、かつ十分な量を用意しようと思えば時間がかかり過ぎる。今回は用意出来なかった、が。用意出来なくともやりようはあるものだ。
「目印がてら折っておくか……蔦は――それだけでは細いな。やむを得ない、ロープを使うとするか」
 罠の設置に関する巧みな技能があるのだから。
 目印をまずは作っていく。仲間と打ち合わせた罠の位置だ。折った木の枝を作る位置の上に立体交差する形で組み合わせ、その下に括り罠だ。括り罠とは相手の足を拘束する罠の総称。踏んだ瞬間にその足を絡め取る様にしよう。
 拘束用のロープを使って簡易的な括り罠を作成。少しだけ穴を掘っておき通った瞬間ロープが締め上げる様に仕込めば上等か。周囲の木の葉を集めて撒けば偽装として。
「大丈夫かしら? 幾らなんでも体力の低下は防ぎ辛いでしょう」
 飲んでおきなさい、と作業中のヘレンローザに薬たるSPDを差し出すのはサングィスだ。これで幾らか体力を回復出来るだろうと差し出し。
「ああ、ありがとう。だがもう少しだ踏ん張るさ」
 飲み干せば、先程目印の為に折った木の枝を用意。先端の尖った物を集め虎挾と鉄杭の代わりとする。
 これらもまた穴を掘って設置。今度は些か縦長に、片足が入る程度の穴を掘って。枝の先端が斜め下を向く様に固定する。返しだ。入った足を抜こうとすればより抉れる。虎挾とは些か趣が異なるが、これにて鉄杭との合わせの再現としよう。
 道具ではなく己の技量に頼り限りなく近い要素を形成していく。やりようはある。自然に溢れたこの地ならば、物が用意できずともある程度のカバーを成して。
「向こうは準備が出来そうだね……なら、そろそろこっちも動こうか」
 待機していたミリアムが言葉を紡ぐ。こちらも雨が襲い掛かっているがその点は用意出来た範囲である救急箱の中身からミリアムが己の医療、薬学、化学の知識を結集し体力の低下を防ぐべく尽力している。
 シラスもだ。彼にはミリアムと違い医療関係の知識はないものの。
「瞑想をすれば幾らかは軽減出来るね。後はどこまで出来るか、か」
 瞑想による精神の統一と、簡易な治癒術式によって味方の治療の援護としていた。
 さぁ、それでは往こう――希望を摘み取りに。

●やってきたのは
「いや。雨宿り出来る場所が見つかって助かったよ……と、ん? 先客がいたかな?」
 洞窟にまず足を踏み入れるはジョーだ。彼は己が技術としての演技力を振るいこの場に『偶々』訪れただけの来訪者を気取る。追手が来たかと殺気立つ面々を前に。
「落ち着きたまえ……何か誤解が先んじている気がするな」
「……私達はローレット所属の者だよ。ここには、ちょっと採取の依頼でね……」
 と、ジョーは雪と共に袋に入った――道中に摘んだ薬草らしき何かを相手に見せる。
 全ては見せない。それらしき物を見せただけだ。さも本当に別件の依頼があっただけと振舞って。
「ローレットの方々なのですか!?」
 さすれば真っ先に反応したのはノエルだ。思わぬ『希望』に彼女は目を輝かせて。
「お、お会いできるとは光栄です! 実は依頼があるのですが……!」
「う、うん? ちょっと待ってくれるかな……僕たちは、その、今別件があって……」
 そう受け答えたのはルチアーノだ。普段とは違う、寡黙かつ内気な少年を装ってノエルと接する。少しでも油断させる為に。さすれば同様に油断させるべく周りの服装に合わせた装いをしている骸も口を開いて。
「あア、二重デ受ケる訳にハ、いカネーんダ。ギルドを通シテくレ」
「駄目ですか!? どうしても、至急なのですが……!」
「……ふむ、事情があるようだね」
 さればジョーが悩む、フリをする。顎に手を当て、少しばかり考え込む様子を相手へと見せれば。
「至急ならば悠長にはしていられないな――やむを得ない。薬草は成功報告としてこの量で十分。切り上げてギルドへ向かおう、いいかな皆?」
「全く、貴方はお人好しよね……ジョー。まぁ、いいけど」
 予定通りだから、とはサングィスも口には出さないが。心中で皆が思う。予定通りに行っている。
 元より希望の見えぬ中に現れた希望だ。誰しもが考えるより先に手を伸ばす。疑いもせずに。唯一、ファスだけが少しばかり怪しむ様な目を向けているが。
「……」
 ジョーの演技と演説なる口調が勝ったか。ファスは何か言葉を発する事は無く、娘の笑顔を尊重した。彼らと共に行こうと決断してしまったのだ。
「雨がまだ激しいね。雨具はある? 私の傘を貸そうか」
 そしてミリアムがメンバーの一人に己が持っていた傘を差しだし、歩き出す。
 歩き出す。歩き出す。歩き出す――罠の目印がある所まで。
「……んっ?」
 そうして、傘を渡された者が不審に思った時にはもう遅かった。
 踏み出した一歩が地に埋まる。返しの用意された、抜き難き穴の中へと――
 悲鳴が響き渡った。

「なッ!?」

 ノエルが思わず振り向いた、その瞬間。己が足に突如としてロープが絡まる。バランスを崩し横転すれば。その無防備な背に対して衝撃が加えられた。雪だ。ノエルを狙って攻撃を仕掛けたのである。
「か、はッ……何を!!」
「何を、か。ふむその問いに対する答えはシンプルだよ」
 そしてジョーが。もはや演技は必要なしとばかりに距離を取り。
「――私達は、私達の依頼を実行しているに過ぎないわ」
 サングィスが答えを投げかける。私達の真の依頼は『こう』なのだと。
 遠距離用の術式を起動しながら戦意を露わに。開戦とする。
「何を……そんな、まさか……」
「ノエル立て! 彼らは敵だ!」
 自らが頼りにした希望がいきなり絶望となる。ショックに数瞬停止するが――父であるファスの一言でなんとか意識を目の前に取り戻す。棍棒を手に足に絡まったロープを粉砕。その一手の間に、雪は死骸の盾を召喚していて。
「……邪魔はさせない」
 相手は私だとばかりに、ノエルを釘付けにするつもりだった。
「残念だよ君は一歩遅かったんだ。僕個人としては出来れば君にクライアントになってほしかった」
 言うはルチアーノだ。彼は、でも、と言葉を続け。
「ローレットは受けた任務は忠実にこなす。もし機を掴めたら道具を金で買うつもりで依頼をするといい。力を貸そう」
「……そうお思いなら今こそお見逃し下さい」
「言ったばかりだよ。受けた任務は忠実にこなすと」
 それはそれ、これはこれ。次があるのならば――心中でその言葉を噛み砕いて。ルチアーノは引き金を絞り上げた。銃撃音が鳴り響く。
 八体六。そしてマトモな戦力として数えられるはノエルと数名程度。本来なら真っ向対決で負けよう筈はないが、雨に伴う体力低下はやはり気になる所だ。罠を用意している間に軽減の手段は取られていたものの、洞窟にて完全に凌いでいた向こうとは明らかに差があり――この違いは大きかったのだ。
 瞬間的にこそ特にノエルの方は押される。
「ハッ、ソれデモヨ」
 骸が往く。洞窟を出て以降、逃走者の背後側に回っていた彼は奇襲攻撃を手近な者へと仕掛けるのだ。
 その背を蹴り上げ、横転させる。その一撃に反応し反撃を仕掛ける者がいれば――そちらには拳を用いて迎撃だ。突かれるナイフ。それが腹を抉るが、それでも尚に握りしめた拳を相手の顔に叩き込んで。
「依頼者が違えば僕らの役回りも違っただろうけど……依頼があったのなら。そして、どうであれば受諾したのならローレットの威信を損なわないよう行動するだけさ」
 私達はね、と言うはミリアム。彼女は接近戦を避け些か離れた地点から敵へと攻撃を放っていく。集中された攻撃は命中率を上げしかし死なぬようにと加減をする一撃。
 魔を放ちながら思うは異なる未来。もし依頼者が違えばどうであったろうかと。自らの心境も少しばかり違うものであったろうか――そう思い。
 それでも『それ』はなかったのだと頭を振るう。
「ヘレンローザ。止めはお願いね」
 そしてミリアムが攻撃した対象をサングィスも同様に狙い定める。移動中に選定した恐らく戦闘力の低いであろう人物。ナイフに肩を抉られながらも――彼女は接近して。
 接触。相手の腕に手の平を重ねれば癒しの力を逆流させる力を叩き込む。逆転再生。乱された再生能力が暴走し、主を食わんばかりにその身を傷つければ。
「捕縛する――眠っておけ」
 罠の設置以降潜んでいたヘレンローザの踵落としが対象の脳天に振るわれた。
 揺らし、意識を奪い。その身を地へと沈ませて。
「おのれ仲間まで潜ませていたとは……ッ!」
 さすれば怒りに震えるファスがヘレンローザの姿を捉える。よくも仲間を、我々を。と、ばかりに握りしめた拳は彼の頬を見事に捉えて。
 直撃する。罠の設置に時間を掛けていた彼の体力は仲間内でも相応に削られており――たった一撃でも重さが芯に沁みる。例え虎挾の類を用意出来ての作業だったとしてもやはり同様の時間が掛かっただろう。故にその身が倒れかけるが。
「そっちがこっちをどう思うが……」
 それでも、彼は。
「全力で挑むだけだ。依頼の達成に、な」
 幽鬼の如く立ち上がる。まだ終わらないとシラスの治癒呪文の効果を受けながら闘志巡らせ。
 揺らがない。どう思われようが。依頼自体がどうであろうが。
「――完遂に尽力を」
 私は揺らがない。不動の心にて雪はノエルへ。
 踏み込む。死骸の盾を突き破ってくるノエルに対し――目が交差した瞬間魔眼を使用。催眠効果のある魔眼だ。効果の程は不明だが動きを鈍らせる事が出来れば上等、と使用したが。
「無駄です……効きませんッ!」
 戦闘という極限状態下では非戦闘技術である魔眼は効かぬようだった。出来たその一瞬の隙をノエルは見逃さず。棍棒がついに雪の首筋へと到達する。激しい衝撃が首筋から脳へと到達する――が。
 倒れない。まだ引き付ける。まだ――
「よくやるね、でもチェック・メイトだ!」
 そしてついにルチアーノの一撃がノエルの芯へと到達する。二人まで無力化した段階で骸も。ヘレンローザも攻撃を重ね、一気に制圧せんとして。
「ノエルッ!」
 さすればファスが加勢しようとする。娘を倒させる訳にはいかない。
 戦力としての意味だけではなく、最愛の娘を――
「おっと。そうはいかないな」
 だがそれをシラスが阻んだ。ブロックし、接近を阻めばノエルへと手が届く者はいない。ノエルは多数に囲まれ奮戦するも――ついに複数方面からの攻撃にその身を横転させた。その一瞬で。
「この子の命が惜しくば、大人しく投降しろ!」
「状況ハ見ロヨ? 大事ナ娘はコッチ側ダぜ?」
 ルチアーノが頭を銃口で押さえつけ、骸が轡を噛ませて自殺を防止。もがくノエルを捕らえる。
 くぐもる声が悲痛な色を伴って。暴れるも棍棒には手が届かない。
 そう届かないのだ。棍棒にも――希望にも。
「おっと……絶望して勝手に死んだりしないでね。依頼人を怒らせたらツケは娘が払うんだよ。とびきり酷い殺され方してさ」
 それに女の子だものね。と言葉を告げながら視線をノエルへと向けつつ、同時、シラスは思う。
 ノエルを心配するファスの姿を見て脳裏に何かがちらついているのだ。親が子を。子が親を想う、それは親子愛。ああそうだ、とても綺麗な。その愛を。
「ハハ。うざったらしいなぁ」
 酷く目障りに感じていた。喉の奥で言いようのしれない何かが暴れている。そして、死ぬな捕らえられろ。行き先は決まっているのだから――そんな意図を察した騒乱者の一人が。
「おのれ貴族の犬めッ!」
 そんな言葉を感情的に発して。
「誤解しないでほしいね、これはただの依頼だ。そして正しいものが救われる訳ではないだけの話」
「ああ。君達は急いたのだ……まぁ保護の依頼があった事は伝えておこう」
 世には不条理が存在するのだとミリアムが言葉を告げる。そして、貴族の犬になったつもりなど毛頭ない。場合によってはそちら側だった可能性もあった。だからこそジョーは救援依頼を望んでいた者がいた事自体はギルドへと話を繋ぐ。それがどうなるかは分からないが。
「それでも抵抗は止めないの? ……なら、そうね」
 残念だけれども。
「少し、暴力的に行きましょうか」
 サングィスは見た。終わりを予感しながらも、ノエルを人質に取られながらも。集団の長として戦いの手を止められぬ――ファスの姿を。
 雨が降る。取り押さえられるノエルの目から大粒の涙が溢れる。
 雨粒に混じって地に落ちて。傷つく皆の姿だけが目に映り、皆が泥に倒れていく。
 さぁさぁ。映る。映るぞ未来が。ああ一度は逃れたあの地が映る。さぁさぁ皆よ戻るが宜しい――

 絞首台が待っている。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

ヘレンローザ(p3p002372) [重傷]
野良犬
白銀 雪(p3p004124) [重傷]
銀血

あとがき

大変お待たせしました。これにて依頼終了となります。
ご参加どうも有難うございました。

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