シナリオ詳細
見習い騎士と偽りの聖女
オープニング
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「やあ、特異運命座標(せんぱい)諸君」
可憐なる朱の瞳に期待と、そして正義を乗せて金の巻き毛を揺らした少女――騎士見習いのイル・フロッタは堂々たる様子で特異運命座標を出迎えた。
先輩兼教育を担うリンツァトルテ・コンフィズリーが特異運命座標に依頼した『司教の調査と拿捕』を無事に終え、自身も騎士として十分に実力がついたのではないかと彼女は胸を張って特異運命座標に告げた。
……その後、リンツァトルテに「そのような事で喜ぶようでは騎士としてはまだまだだ」と説教を浴びた事はここに追記しておくが。
「……んんっ、実は――その……皆に共に熟してほしい事がある」
聖騎士団として公に動けない依頼は、『聖騎士団』の在り方より事実が捻じ曲がる可能性があるという面が大きい。
敬虔なる神の使徒である司教が私利私欲のために盗みを働いていただとか。
聖女として崇められる淑女がその身を男に売り、神の御名を汚していただとか。
そう言った事を『聖騎士団』が調査したところで『無為なる断罪』が行われる可能性や、『その事件の全容が見えない』可能性さえある。
「私と、諸兄らで『供物となる聖女』の一件を調査したいと思う」
――供物となる聖女。
ある村には聖女と呼びながら神の供物として『17になる娘』を山麓の小屋に住まわせるのだそうだ。時代錯誤な人身御供だとイルは自身の感性でそう告げていた。
村は鉄帝に隣接することもあり厳しい気候に晒されることがある。冬の寒さは神の怒りであると娘を毎年毎年小屋へと送り込んでいる。
それは文化であるからと「国より認められて居た」のだが――最近になって、様子が変わった。
15になったとある娘が『聖女様の小屋』に男が出入りしているというのだ。
その神聖なる場所は村長か女達でなくては入ることが赦されぬ場所であるはずなのだ。寧ろ、『聖女は神の所有物』であるという一般的な認識から言えば、娘が訝しむのも致し方がない。
「そして、その娘は『聖女様はまるでそこには居ないようだった』とも証言していた」
無論、これを聖騎士団に通報したあと、15の娘は姿を消し――村長が何事もなかったように聖騎士団に「間違いであった」と告げに来たのだが。
「私は、聖女はひょっとして生きて居ないのではないかと思うんだ」
「生きて居ない?」
「いや、寧ろ――『そこにはいない』のではないか、と」
イルは村が鉄帝に隣接していることから、村の女たちを鉄帝に流し、何らかの取引をしているのではないかと告げた。確証があるわけではないが予感は確かに存在している。
「……リンツァトルテは?」
そう、誰かが聞いた言葉にイルはきゅ、と唇を引き結ぶ。リンツァトルテ・コンフィズリー。天義出身の物ならば誰もが知り、そして彼の『家名』の事となれば、聞いた事がある者も多い。
天義の名門貴族であったコンフィズリー家の前当主クラフティ卿が『正義』の在り方に異を唱えた事で『断罪された』一件によりコンフィズリー家は没落し、年若くして当主となったリンツァトルテが騎士団の一団員の立場に甘んじることなった。彼自身が勤勉で敬虔なる神の使徒である事からまだ一件は甘く見られているのだろうが……。
「リンツァトルテ先輩は――正義に対しては厳しいだろう」
彼の在り方は聖騎士団らしく、そして、余りに『イルの感性』とは掛け離れている所がある。
憧れの騎士様であり、そして、正義の使徒。視野狭窄と言ってしまえばそれだけだが、天義らしい天義の聖騎士だ。
「この件は私と、諸兄らでこなす方がいい」
先輩は聖騎士団だ、とイルは付け足す。彼が居れば『村長は笑顔で迎え』『何事もなかったかのように』この一件は終わってしまう事だろう。
- 見習い騎士と偽りの聖女完了
- GM名夏あかね
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年01月09日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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冷たい風が頬を撫でた。鉄帝との国境沿い。その風は鉄帝から流れ込むものであろうか。
金の髪を揺らし、正義をその瞳に湛えていたイル・フロッタに「イル先輩」と声をかけた『爆弾』ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)は常と変わらぬ『純情さ』で問い掛けた。
「この村の人たちに、お前達が餓えて死ぬは正義だ。神も喜ぶ――って言えます?」
ヴェノムの言葉にイルがあんぐり、と口を開ける。ぱちくりと瞬く彼女は「なんで」と低く、そして、震えた声音でヴェノムに問い返した。
「別に。そうならないと良いなって」
ごうん、と水車が音を立てている。氷かけた川の水に何も実った形跡のない荒れ果てた作物畑。凍える様な寒さの中、「やれやれ、相変わらずだね、この国は」とぼそりと呟いた『退魔婆』フジ(p3p006874)は敬虔なる神の徒の貌をして、悪を嫌うように息を吐きだした。
「なーにが正義か分かったもんじゃない、確かなのは信仰だけ……。
まっ、動くと決めたんだ、しっかりお国と世界の為に働くよ。イルちゃんもみんなもよろしくね」
「あ、ああ……」
フジの一言にイルはどこかぎこちなく笑みを浮かべた。ヴェノムの言葉は抜けぬ棘のように存在している、只、それだけだ。
「国だ正義だ等と、小さなモノに拘る故に、面倒が起きるのだろうに、な」
『神話殺しの御伽噺』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は暖かな衣服に身を包み静かに息を吐く。ヴェノムの言葉の意味が解らぬほどにエクスマリアは『子供ではなく』『世界を知らぬ訳』でもなかった。
「嗚呼、面倒ね。そう、最悪国交問題にまで発展するじゃない。
……けれど何故『村で一番目立つ聖女』を?」
「それが『都合が良かった』のかもしれないわね? ミステリーだわ」
正義、国、風習、様々なものを併せても、この村の気候が与えた面倒は計り知れないもので。だからこそ、『そうした』のだと『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は頭ではよくわかる。只、理解できないひとつがそこにはあるだけで。
「果てさて犯人は誰なのかしら?生憎信じてる神様は死神しか信じてないから、信仰には疎いのが辛いわ……」と『戦神』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)がぼやく。
敬虔なる神の徒が多く、信仰に篤い国民性である天義の民ならば信ずる神を掲げる事あ出来るのだろうかと秋奈は詰まらなさそうに呟いた。
「やあ。久しぶりだね、イル。元気に頑張っているようで何よりだよ」
「あ、ああ、君も……」
穏やかに笑った『特異運命座標』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)にほっとした様にイルが笑みを浮かべる。まだまだ幼さを感じさせるイルはいい意味でも悪い意味でも『少女』なのだという事がウィリアムには十分にわかる。
「国境付近は人の心が揺れやすい場所だ。誘惑も多い。此度はどんな姿の正義を見るかは分からないけど、今回も無事に終われるよう頑張ろうか」
「……ああ」
どんな姿の正義――その言葉に、不安が首を擡げる。
「微妙に身につまされますね」
待遇がどうであろうとも、桜咲 珠緒(p3p004426)は生きているだけで上等だった。一年間、動くことも出来ず、只、日々の生活の為に『贄』となる聖女の姿。
「……法と秩序に、正義。日々の生活。全て並べるのは、難儀なことなのです」
果たして、どれを取ればよいのか――珠緒の曖昧な表情を見遣りながら『猫島流忍術皆伝者(自称)』猫島・リオ(p3p002200)はイルの背後で息を潜めていた。
(サボリ? いえいえ留守番係と言ったところでしょうか。え? 変わらない?)
暴走癖があるとされるイル。その実、その感性が普通の少女だという事だろうかとイーリンは悩まし気にヴェノムの言葉を繰り返した。
「お前達が餓えて死ぬは正義だ。神も喜ぶ――か」
●
イーリンは云う。
暴きましょう――『神がそれを望まれる』。その言葉を聞きながらイルは神様、と静かに呟いた。
彼女の信仰という形は脆く、基盤がしっかりとしていないことを珠緒はよくよく理解していた。先程の問答と同じ様に『神が誰かを犠牲にする』としたならば彼女の正義はどの様に揺らぐのか。
「イルさん」
「ああ、いや。……よろしく頼む」
珠緒の言葉にイルが視線を揺らす。こてりと首を傾げていたリオは万が一に備えてとイルの動きを警戒していた。
村の中を操作するうえで、周辺の目は厳しく特異運命座標へと向けられる。余所者に対する警戒心は特に女衆が強いのだろうかとエクスマリアは瞬いた。
「あの……?」
村の中でそろりと顔を出した村長に秋奈は「簡単な依頼を貰ってね。残党問題とかいろいろあるでしょうから、簡単な国境警備よ」と淡々とした調子で告げた。
「最近の事を聞いておきたいのだけど……?」
じろり。じろりと。好奇の目に晒される事となった秋奈はそれでも尚、堂々とした素振りで笑みを浮かべる。
其々が別々の場所に移動を始める。まずは、と信心深き村人たちにカリスマを発揮したヴェノムが「何か変化があればお願いします」と穏やかな調子で口にした。
エクスマリアは女性陣――そして、彼女と視線が合うように幼い子供も含めて――を相手に取る。どのような変化でも構わないと告げれば、最近の村の様子を女性たちは口々に告げた。
最近は村長たちが食事を用意してくれていて貧困に喘ぐことも少なくなってきた。
聖女様の世話係は皆、一様に『村長が選んだ女』達で、気付いた頃には嫁いでいってしまう。
そういえば――そういえば。
「……おねえちゃん、お嫁さんになったってパパがいうの。
でもね、でも……どこにかは教えてくれないの。ママはずっとむかしに死んじゃったから……」
幼い子供の言にはっとしたように彼女の傍に寄り添っていた少女が同い年の、丁度15になったばかりの少女が姿を消したと冒険者に『ひみつごと』のようにそう言った。
「姿を消した……?」
「ええ、今年の聖女様――おねえさんが居なくなったから調べるっていって」
友達を心配する幼い子供は手伝わせて、と顔を上げた。
「何が手がかりとなるか解りません。此処は我々にお任せください」
そういうヴェノムの背後からイルは「なら、私と共に居よう」と珠緒にいいだろうかと首をかしげて見せた。
すずきさんとこじまさんを伴う珠緒はイルが少女と共に会話している様子を見遣りながらある意味で情報交換としては有益かとエクスマリアに視線をくべた。
「……イルさん、これより危険が伴うかもしれません。
桜咲らの動きを警戒すれば、情報集約点に目が行くのは必定。前衛の防御が要るのです」
その為に、貴女が必要だと。その必要性と危険性を伝える珠緒にイルは緊張したような面立ちで頷いた。幼い少女を伴にするのは危険になると言う事だと理解しながらイルは「彼女も、探したいと」と目をうろうろとさせた。
「あと、恥ずかしながら。桜咲はよく血を吐いて倒れます。信頼できる保護者が要るのです」
「信頼――」
嬉しい、と少女の顔をしてイルの頬が赤く染まる。ウィリアムは幼い少女が小屋の位置を教えてくれると聞きヴェノムと共に其方へと向かった。
「今は思いつかなくても、後で何か閃くかもしれないしね」
「匂いもないっすし……無人っすね」
世話役も、聖女も。もぬけの殻となったその場所は――幼い少女が顔を上げて不安げに言う。
「みんな、入れなくなったの」
「……?」
首をこてり、と傾げたエクスマリアは「聖女の小屋に最近は入れなくなった?」と不思議そうに呟いた。
「畑も痩せて……これで食事はどうしてるんだい?」
不安げにそう言ったフジに村人たちは飢えを怖がるようにへへい、と頷いた。
「いえ、村長がね、鉄帝に良いパイプを――なんで、周辺警備と言っても『そう言った荷台』は素通ししていただけませんか」
「荷台……」
フジの表情が曇る。彼女の背後では息を潜めているリオの姿もあった。尾行と言えど危険にばかり飛び込むイルの世話は並大抵のことではなく、体力もそろそろ限界値なのだろう。ぜいぜいと肩で息する彼女に視線をくべてからフジは「こんな畑じゃ世話も大変だろうに……」と困った様に肩を竦めた。
「荷台、というのは食材を運んでくるものかい?」
「そうですね、キャラバン隊と言った方がいいんでしょうか……」
よく見るでしょう、と。文化レベルならその程度が一番多いのだろうと認識していたフジは「そうだね」と静かに呟く。
聖女の部屋より顔を出したウィリアムが首を振り、手招くその様子に気付いてフジはゆっくりと立ち上がった。
「そういえば――そうだね、若い女の数が少ないけど」
「え? ああ……」
視線が揺れる。ああ、とフジはその時点で悟った。男衆はよくよく理解している。
辺境の、痩せ細った村。裕福と言えず、打ち捨てられたように厳しい気候に晒されるその場所――其処にあるのは只の、不幸ではないか。
「申し訳ないのだけれど、休憩がてら村長さんの家に上がらせていただいても? ふふ、個人的な趣味なのだけれど、歴史を知るのが趣味でね。古い家も好きなの」
歴史を愛し、そして風習にも興味があると告げたイーリンは村長の淹れた茶を見下ろしながらいつもと変わらぬ笑みを浮かべて話に応じている。
知識の砦に、彼女の最後の砦に刻み付けるように興味深く聞く村の風習は何ら変わりもなく、普通の村らしい。少しばかりの信仰と、少しばかりの曖昧さを湛えて村長はイーリンに語る。
「それにしても、この村にご興味を持っていただけるとは……」
秋奈は「仕事だもの」と柔らかに笑みを浮かべて――仲間たちの存在に気付き静かに息を吐きだした。
「ところで、仲間が話したいことがあるそうなのだけど」
秋奈がゆっくりと息を付く。食料を運ぶという荷台が聖女の小屋へと止まったという情報をファミリアーより会得し、秋奈とイーリンは椅子より立ち上がる。
「来て、呉れるかしら」
「……知ってしまったのですか」
冒険者さんと、囁く様に言う。進む荷台から香った女たちの匂い。ヴェノムが鼻を曲げるように苦い顔を浮かべていたそれ。
「さあ……? お話は、其処からでしょう」
辺境を切り捨てる中央の聖職者と聖女を切り捨てる辺境の村。弱者を切り捨てるという意味では何も変わらないのだとヴェノムはしゃがみ込んだままそう呟いた。
家の傍ら、耳を澄ませて傍らのファミリアーに視線をくべたヴェノムは静かに息を付いた。
――でーあーふたーでーしーんぐあーろーりのー――
謳う秋奈は歴代聖女が纏ったという白いローブを思い返して息を付く。
何だ、目の前をゴトゴトと行く荷台からはみ出るその白は。ヴェノムの鼻先が掴んだ匂いは確かにそれで。
「殺し合いじゃないものね。それじゃ――」
此処で阻止させてもらおうと走り出した秋奈。その背を追い掛けるように続いたウィリアムは憂いを浮かべて珠緒と共に歩むイルを見遣った。
きっと、村も苦肉の策だった。ならば――ならば、彼女はどうするのか。
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ゴトン、と音を立てて荷台から転がり落ちたのは生気も感じられず泥に濡れた女の体。
聖女様、と小さく。囁くように――共に付いてきていた子供が呟いた。
「……見てはだめ」
イーリンがそっと、彼女の目元を隠す。エクスマリアは「悪い夢だ」と幼い子供に囁くように、そう、告げた。
倒された鉄帝の男たち。それはある商家より仕事を受けての事だったのだろう。冒険者たちが雇われた男たちを捕縛した現場を男衆や村長に見せれば、彼は「黙っていて欲しい」と懇願した。
「それは――」
イルは、声を震わせる。その様子に、ウィリアムがふるりと首を振り、秋奈は目を伏せる。
「ごめんなさいね。雇い主がそうは許さないの」
「雇い主?」
「――聖騎士団」
不正義。その言葉を口にして村長は唇を震わせる。
「村を守る為、だったんです……。
飢えを凌ぐ為。彼らは、若い『聖女(おんな)』を買ってくれたんだ……」
だから、この村を守るために――聖女というブランドを買ってくれた彼らからの恩恵をどうしても手放せなかった。時期に聖女になっていく少女たちにも教えられない。歴代聖女たちは皆、子を孕み、産み落とした者以外はこの村から『嫁いでいった』事にして。
「救うためだったんだ……」
正義は、どうしても寛容ではない。だから、ヴェノムの言葉は胸を抉る。
「『お前達が餓えて死ぬは正義だ。神も喜ぶ』って、私は」
震える声で、イルはヴェノムの袖を掴んだ。横たわった聖女の骸。
その躰こそが神の所有物であるとされた一人のおんな。村を生かす為、『聖女』の箔がついた乙女を売った村長。
――飢えを凌ぐ為。彼らは、若い『聖女(おんな)』を買ってくれたんだ。
その言葉を繰り返したウィリアムははあ、と深く息を付く。
「コレがこの国の歪みさね。寛容無き正しさは民を苦しめ、神を貶める」
慈愛に満ち溢れた聖女であれば、飢えに苦しむ村々の悲しみを受け入れたのだろうか。
正義掲げる騎士団はこの有様を正義とは看做さず寛容なき正しさを振り翳す。村長にしたってそうだ――彼は彼なりの、『この村を守る』という正義の許で聖女を売り出したのだろう。
「あたしゃね、神様は大好きだし神の代理人としての正しい事は大好きさ。
けどね、神様を利用する寛容じゃない正しさと人間は大嫌いだよ」
神の名を騙る。神の名を語る。
どちらも同じルビなのに、どうしてそうも違うのか。フジが吐き捨てるようにそう言った言葉にイルが目を見開き、唇を戦慄かせる。
その様子は中々に見ることのない物で。ヴェノムは「これにて終了っす」と息絶えた女の肢体を見下ろした。
「体を回収して、村長を騎士団に連行する」
「うん、『依頼』はこれで達成――だけれど」
ウィリアムが目を伏せる。だけれど、その正義の形は。
「詰まらないわ」
ぼそり、と秋奈は呟いた。心躍る戦いでなくて、これは――これは、なんだろうか。
其処に合ったのは死神の手から逃れるために『生きようとした』村人の姿か。
「ねぇマリア、私はこの村、好きよ。普通の村だからーーだから、少し胸が痛いわ」
項垂れた村長の前に立ち尽くしたイルをちらりと見やってからイーリンは声を震わせた。枯れた葉の色に、エクスマリアの瞳と似た鮮やかな空が重なっている。
「その痛みは、忘れずにおくべきだ。
マリアには、痛みの意味までは察し得ないが……イーリンが痛みを覚えたということを、マリアは忘れない。
いつか、ゆっくり聞かせて欲しい」
正義とは形を変える。どうしてだろうか、今はその正義が鋭いナイフのように、胸を抉った。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ!
イル・フロッタをうまく操縦しながらも、皆さんでいろいろと工夫していただけたかと思います。
天義の正義は色々と形を変えて。それは、どうにも度し難い物もあるのでしょう。
まだまだ、皆様と関わる機会が多くなるであろうイル・フロッタ。どうぞ、よろしくお願いいたします。
GMコメント
夏あかねです。
正義のために。
●依頼達成条件
1.村長が『悪』である場合は聖騎士団への連行
神の所有物である聖女の取り扱いに寄っての『背信』があった場合は聖騎士団詰め所へと連行してください。(そうでない限りは連行の必要はありません)
2.聖女の保護(聖女の生死は問いません。その躰の保護を願います)
今年の聖女である娘の行方の捜索を行ってください。村での聞き込み・非戦闘スキルの使用などが鍵になります。また、聖女のその御身自身が神の所有物であるため、その御身の保護が求められます。
●シュルエット村
鉄帝と隣接するこじんまりとした村です。その風習により17になった娘を聖女として1年間山麓の『聖女の小屋』へと送り出します。聖女の小屋には村長か女しか入ることが出来ず、聖女の世話を行います。お勤めを終えた聖女はその後、神の寵愛を受けたとして好待遇を約束されているのだそうです。
15になったばかりの娘・オレリアは『聖女の小屋に男が出入りしている』『聖女の気配がない』と聖騎士団に報告した後に姿を消しています。今年の聖女はオレリアの姉である クロティルドという娘でした。
村は厳しい気候に晒されていますが、皆敬虔なる神の使徒であり、聖女の祈りが通じればその寒さも和らぐと信じています。その風習があるが故に余所者に対しては少しばかり警戒します。村長や村の男衆は何かを隠している気配もあります。寒さのせいで作物が実らず飢えで死ぬ子供なども存在していたようですが、ここ数年は村は『何かの支援』を受けているようで――……。
●イル・フロッタ
天義貴族の母と旅人の父を持つ騎士見習い。その出生により母が非難され、自身が騎士として大成することこそが母の名誉を回復させる手だと信じています。
『正義の遂行』に忌避感を覚えています。それは自身が未熟故に『正義の遂行』が出来て居ないと考えています。指示があれば従います。基本的には軽やかに動くアタッカーと考えてください。
放置しておけば正義に関して強い意志がありますので何かしらかアクションを行うかもしれません(リンツァトルテは『手がかかる』と再三言っていました)
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
イル・フロッタは天義の騎士として皆さんに大きく関わってくる少女です。
どうか、力を貸してあげてください。よろしくお願いいたします。
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