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シナリオ詳細

花も花なれ、水も水なれ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●世界は色で満ちている
 近頃幻想の貴族たちの間で名前が広まりつつあるラルフ・エンパースは、気鋭の風景画家である。
 写実主義と真っ向から対立するかのように幻想的で、淡いタッチの水彩画を得意とする彼の作風が評価されるようになったのは、なにも技巧的な理由からではない。
 ひとつは、かつては冒険者であったという異色の経歴。
 もうひとつは、自然が持つ神秘性を表現する、その色使いに注目が集まったのだ。
 そしてラルフが用いる画材にはあるこだわりがある。
 描き出す風景の、その土地土地に自生する草花や木、あるいは果実から色素を抽出してオリジナルの絵具を製造しているのだという。
 そこが物珍しさを好む一部の貴族の琴線に触れたらしい。香り立つような色の妙が、夢とも現ともつかない絵の中にある種の「生々しさ」とでも呼ぶべきリアリティを与え、作品の魅力を大きく引き上げている――とは、芸術分野に携わる評論家の弁である。

 こうして冒険者時代とは比べ物にならない名声を得られるようになった彼にも、まだ達成していない悲願がある。
 まだ中小ギルドに属していた頃のこと。
 昆虫型モンスターの討伐依頼を受けてとある原生林の奥深くへと向かったのだが、パーティーが散り散りになるほどの返り討ちに遭い撤退を余儀なくされてしまった。
 依頼の失敗は確定し、仲間ともはぐれ、数多くの敵から追い回されて死の恐怖に晒され続けているという絶望的な状況。
 無我夢中で草木を掻き分け、辿り着いた先は――泉が湧く秘境の地だった。
 先程まで命の危険が迫っていたというのに、ラルフは思わず息を呑んでしまった。
 草葉の緑を照らし出す木漏れ日。樹木に生った赤々とした果実。そしてなにより、この世のものとは思えないほど神秘的な、澄み切った蒼の色を湛えた泉の水。
 そのすべてが、逼迫した状況さえも忘れてしまうほどに、ひたすらに美しかった。
 不思議にも、あれほど耳を苛み続けた羽音に悩まされることもない。
 聞こえてくるのは、ただ牧歌的に鳥がさえずる声だけ。
 まさに楽園だった。危機からなんとか生き延びたという劇的なシチュエーションも相まって、殊更鮮烈に彼の眼には映っていたことだろう。
 結局その場所で追手をやり過ごした後に仲間とも合流し、なんとか無事に帰還することができたというのが、この時の顛末だ。
 ……あの印象的な秘境の映像をいつか絵にしてみせようと、画家に転身した後のラルフは常々考え続けていた。
 あの日目にした情景は、今も風化することなく瞼の裏に焼きついている。わざわざ再訪して見返さずとも、すぐにでもキャンパス上に表現できるだろう。
 すなわち問題は絵具だけである。
 無論、泉周辺に育つ植物から作った物が不可欠。
 でなければ、どうして当時の迫力と感動をありのまま再現できようか。
 幸いにも、野生しているかどうか不明だった青色の花が密林内にしっかりと存在することを、先日とある情報筋から知ることができた。
 その花さえあれば、美しく揺蕩う水の色合いを作り出す上での障害はなくなる。
 条件は整っている。生涯で最高の傑作を生みだせるに違いない!
 だが曲がりなりにも一端の戦士であった当時ですら命からがらだったというのに、現在の衰えた身でまたあの場所を探検できようはずがない。
 ならば頼るべきは――

●色が世界を作り出す
 赤、青、黄。
 言わずと知れた色の三原色。ではあるが。
「実は自然界に存在する青色って、意外と稀少だったりするみたいですよ」
 使い込んだノート片手に、今回舞い込んできた依頼にまつわるプチ情報を語る『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)の髪色は――
 いっそ清々しいくらい立派なスカイブルーだった。
「……はっ。説得力がなかったかもしれないのです……とにかくです!」
 こほんと咳払いをして気を取り直すユリーカ。
「ラルフさんという画家の方からのご依頼なのです。指定した密林から、三種類の植物をいくつか採ってきてほしいとのことです」
 その三種とは以下の通り。
 まずは野草。
 次に赤い色をした花。
 そして最後に、密林最深部にあるとされる青く咲き誇る花。
「この青い花は『アジュレシア』というそうなのです。噂によると森の虫さんたちがメロメロになってしまうような匂いで、キレイな青色をしているのだとか」
 ボクも一度見てみたいのです、とうっとりしたような表情を浮かべるユリーカ。
「ですが、油断は禁物! お花の周りには蜜を集める蜂さんがつきものなのです!」
 それもただの蜂ではなく、れっきとしたモンスターであるとのこと。
 武器となる針には毒が含まれると想定される。警戒するに越したことはないだろう。
「蜂さんたちは倒しても倒しても雨後のタケノコみたいにわらわら湧いてくるみたいなのです。つまり、用が済んだらそそくさ、なのです!」
 昆虫界の強固なネットワークの恐ろしさを伝えて、ユリーカはぐっと両の拳を握った。

GMコメント

 はじめまして。深鷹(みたか)と申します。
 当シナリオが自分が出す最初の依頼になります。皆様のイレギュラーズライフに彩を添えられるよう頑張っていきますので、何卒お見知りおきを。
 ……とまあ挨拶はこのくらいにして、詳細!

●目的
 アイテム三種(野草、赤い花、青い花『アジュレシア』)の必要数確保

●地形について
 『密林奥地』
 以下の三つのエリアに分かれます。

 ・エリアA
 活動範囲は50m×50m。こちらがPCの初期配置となります。
 このエリアでは『野草』と『赤い花』を採取可能です。そこら中に生えているので、手番を採取のためにいくつか費やせば簡単に見つかることでしょう。
 それぞれ五つずつ集めればOKです。
 ここから更に獣道を通っておよそ80m先に進むと、エリアBに到達します。

 ・エリアB
 活動範囲はエリアAと同程度。茂みが深く、回避に若干のマイナス補正。
 このエリアでのみ青い花である『アジュレシア』を採取可能です。
 ただし背丈の高い雑草に紛れているためか発見率は他二種と比べて格段に低く、なにかしらの手段がなければかなりのダイス運と試行回数を要します。
 アジュレシアの必要数は三つとなります。

 ・秘境
 件の画家が描こうとしている場所です。
 泉の水はカルシウムの含有量やら紫外線の加減やらで鮮やかな青色をしています。そのブルーと差し込んでくる白い光、そして草木の緑のコントラストが美しい隠れた名所です。
 AからBに至るまでの経路から脇道に逸れる(2ターンを消費)と辿り着けます。
 このポイントのみ敵が侵入してきません。
 休息地点にするもよし、ファンタジックな景色に思いを馳せるもよし。

 位置関係を物凄ーくざっくり表すと下記のような感じです。


               【秘境】
                 ↑
  【エリアB】   ←  約80mの順路 →   【エリアA】


 各エリア及びルートをはみ出すと「視界も足場も悪い雑木林の中にいる」という扱いになり、回避・反応・機動力に大幅なマイナス補正がかかります。

●エネミーについて
 『ソルジャービー』 ×16

 秘境を除くエリア全域に生息。
 大きさにして30cmほど。リアルな気味悪さのあるサイズ感です。
 常時飛行。針を使った単調な攻撃のみを仕掛けてくると思われます。
 好戦的とはいえ一体一体はさほど戦闘力が高いわけではありませんが、針には当然毒が含まれていますので、ご注意を。
 なお便宜上『16』と表記していますが実際はオープニング中にあるように半無限湧きです。一定のターン数が経過するごとに森のどこからか飛んできて補充されます。

 『突き刺し』 (A/物/至/単)

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。



 以上になります。
 それではご参加お待ちしております。

  • 花も花なれ、水も水なれ 完了
  • GM名深鷹
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年01月07日 21時45分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)
メイドロボ騎士
イシュトカ=オリフィチエ(p3p001275)
世界の広さを識る者
エスラ・イリエ(p3p002722)
牙付きの魔女
ラクリマ・イース(p3p004247)
白き歌
桜咲 珠緒(p3p004426)
要救護者
エメ(p3p006486)
カモミールの猫
藤堂 夕(p3p006645)
小さな太陽
アルメリア・イーグルトン(p3p006810)
絵本の外の大冒険

リプレイ

●理想郷の絵
 聞きしに勝る美しさだった。
 泉の水のブルーはどこまでも深く、草花の色はどこまでも精彩に富んでいる。
 ――これまでも旅先で、鈍色のレンズ越しに数多くの景色を目にしてきたけれど。
 ここまで彩色豊かな光景はそうそうお目にかかれるものではない。
 濃緑に囲まれた密林の中では少々アンバランスな、シックなメイド服に身を包んだオールドワンがそんなふうに唸るかたわら。
「なるほど確かに壮観だ。だが依頼者が抱いている心象風景の素晴らしさは、きっとこの比ではないのだろう」
 礼装から素肌、そしてその翼まで漆黒に染まった痩身の紳士は、どこまでも興味が尽きなさそうな好奇に満ちた瞳で、同じ大自然のパノラマを見つめていた。
「一刻も早く花を持ち帰り、彼の見た景色を拝みたいものだ」

●森の兵隊
「こうしてこうして、こうやって……と」
 木の芽を模した簡素な図形を、『特異運命座標』アルメリア・イーグルトン(p3p006810)は雑草がまだらに伸びる地面に描いていた。
 そして目を閉じ、静かに祈りを捧げる。
「上手くいきますように。ファルカウの目が届きますように」
 無論、正式な魔術の類などではないから、はっきりとした効果があるわけもない。そんなことはアルメリア自身も承知の上。
 それでも、やっておきたかった。かつて教わったこのおまじないをするだけで、離れ離れになってしまった家と繋がっているような、そんな気持ちにさせてくれるから。
「……なんてね。さて、と」
 現実に向き合わなきゃ、と少女は視線を前に向けた。
 視線の先には、最前線で直立する機械仕掛けのメイドレディ。
「我が名はメートヒェン! さぁさぁ、どこからでもかかってきたまえ!」
 朗々と名乗りを上げる『メイドロボ騎士』メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)の声が、森中の木々を揺らすかのように響き渡る。
 それは紛れもない戦闘の幕開けの合図。
 目的の植物があるとされる地帯に足を踏み入れた時点で、風雲急を告げる間もなく、昆虫型の異形は侵入者の排除に向けて動き始めていた。
 騒々しい羽音が鳴る中、そのうちの一匹、また一匹と注目がメートヒェンへと向く。
「おお、虫相手にも効くものなのだね。ありがたい話だよ」
 狙い通り、と内心喜びを得る。
 彼女の武器は頑健な肉体に支えられた格闘術。遠くの敵を相手取る手段を持たない以上、向かってきてくれるほうが都合がいい。
 なにより自分が敵の攻勢を一手に引き受けられれば、仲間が万全に動ける。
 ちょうど、同じく前線に立つ『カモミールの猫』エメ(p3p006486)のように。
「あなたたちの住処を壊すつもりはないのだけど……ごめんね。こっちもやられてしまうわけにはいかないの」
 槍を構えたエメは、加速をつけて蜂の一体へと突進。
 その瞳は黄金色に輝き、毛並みは黒へと移り変わっている。普段はぽやぽやとした少女の中に眠る、獣としての野生が目覚めている証だ。
「いくよっ!」
 スピードを落とすことなく勢いそのままに穂先を突きつける。
 頭部の感覚器官を貫かれ、飛び方がふらふらとおぼつかなくなる奇蜂。
「トドメは私が務めさせてもらうよ、エメ殿」
 そこをメートヒェンが強烈な拳打で迎え撃ち、仕留めた。
 やはり事前情報どおり、一体ごとの戦闘力は脅威ではないらしい。
 さて、メイドによる誘導があったおかげか、開始早々に敵の位置関係に目立って大きな差異が生まれた。挑発に乗った蜂とそうでない蜂とで、群れが大きく二つに別れている。
 後者はイレギュラーズたちの数十メートル先である程度固まって飛行している。
 ……この機会を狙わない手はない、とばかりに。
「僭越ながら、思いっきりいかせていただきます!」
 多数の敵を巻き込むには絶好のチャンス。
 複雑怪奇に変形を繰り返す杖を掲げた『JK』藤堂 夕(p3p006645)が破壊の術式を元気よく紡ぐと、広範囲に渡って氷の粒が降り注いだ。
 質量と位置エネルギーが最大限活用された、絶対零度の弾丸の雨。
 それも単発ではなく、マシンガンのごとき物量である。魔力による異常気象は薄い外殻しか持たないソルジャービーを次々に押し潰していく。
 手応えは十分だ。
「いやー、それにしても凄いものです! これだけ派手にやっても全然森の草木に傷がつかないんですからね! ビバ、環境保全!」
 夕はちらりと、後方の桜咲 珠緒(p3p004426)に目を向け、ウィンクを送った。
 仲間に毒への抵抗を授けるだけでなく、戦闘によって森の自然環境が荒れないようにと、樹木や花々を保護する結界を張っているのは、誰あろう儚げに佇む彼女である。
 命を謳歌する尊さを誰よりも知る珠緒らしい、慈愛に満ちた行動だった。
 珠緒はまた、鋭い一撃の代償として生命力を削られているエメを気にかける。
「血を啜る槍……大変ですよね。桜咲が少しでも助けになれるといいのですが」
「そうかな? きみの展開してるそれのほうが、ずっと大変に見えるけど」
 エメは治癒の魔術を唱える珠緒の周囲に張り巡らされた、血で構成された異質な防御壁を眺めながら言った。
 とてもとても、素朴そうに。

 ひとまずの第一陣を退けた後で、ようやく本題に入ることができた。
 そう、今回は討伐ではなく採取がメイン。ある意味ではここからが本番と言える。
「依頼にあった野草はすぐに確保できそうですね。雑草は一帯に生えていますが、色素が満足に抽出できるほど色濃いものとなると限られます」
 知識を活かして推察を述べるのは、『白き歌』ラクリマ・イース(p3p004247)。
 深緑出身のハーモニアらしく、自然への造詣は非常に深いものがあるようだ。
「俺個人の見立てにはなりますが、クロロフィルの含有量からいって、日照時間の長い場所にある草が最適なんじゃないかと」
「それじゃ、どこがよく太陽の光が当たる場所か植物たちに聞いてみよっか。森のみんなからの情報に頼る部分は大きいけれど、できることはやっておかないとね」
 方針を把握した『牙付きの魔女』エスラ・イリエ(p3p002722)は早速探索をスタートする。
 瞬間的な記憶力に優れた目を辺り全体に走らせることはもちろん、魔女の技能で植物からの声に耳を傾けることも忘れずに。
「……ふんふん、なるほどね。ありがとう。ねぇ、あの辺を探せばいいみたいよ」
 聞き込み調査を終えたエスラが指差したのは、エリアのほぼ中心部。イレギュラーズたちが足を運んでみると、確かにこのポイントに生えている草葉は一段と色が濃い。
 間違いのないことを確認したラクリマは、慎重に根っこから掘り返し。
「うん。これなら要件を満たせるはずです」
 と、依頼に沿うものであると納得した。
 この野草であれば、画材に変えても不足はないだろう。
「はい先生! では赤い花はどこに咲いているのでしょうか!」
 挙手をして尋ねる夕。
 使い魔の小鳥を肩や指先に止めて、手分けしての捜索準備万端といった様子だ。
 とはいえその答えは単純にして明快である。
「まあ……見たら分かるんじゃないでしょうか。一発で」
 それはちょうど、ラクリマがまとっている全身純白の衣服が、緑色が大半を占める密林においてこの上なく目立っているのと同じ理論だった。

●絵画の地
 無事に野草と赤い花の採取を達成したイレギュラーズは、順路を妨害する魔物を片付けた後、当初の予定通り秘境での休息を行っていた。
 体力の消耗はそれほど大きくはなかったが、万事に備えるに越したことはない。
 アルメリアはその溢れんばかりの魔力を存分に発揮し、パーティーの回復に精を出した。当の本人は「戦えない分このくらいはしないとね」と気怠げに話すのみだったが、献身的な支えもまた『戦いへの参加』であることは、誰もが知るところである。
「ほら、アンタもこっち来て。治してあげるから」
 そう岩の上に腰かけて瞑想するラクリマにも声をかけたが。
「俺は平気です。それよりメートヒェンさんや、エメさんにその優しさを向けてあげてください。二人は先頭で戦っていたから、俺なんかより負担が大きかったはずです」
「あら、遠慮しないでいいのに。でも、そうね、そっちが先かも」
 ただ、その必要はどうやらないらしい。
 エメはけろりとした顔をして、芝の上にぺたんと座り込んでいた。眼前に広がる幻想的な風景に圧倒されているようだ。
「絵が完成するのが楽しみね」
 と、語った先に珠緒がいたので、彼女が治療に当たったのだろう。
 珠緒もまた穏やかな表情で揺れる水面を見つめ、少し前までの喧騒が嘘のような、この大自然が生んだ奇跡を静かに堪能していた。
 もう一人、メートヒェンはというと、そちらはそちらで秘境の美しさに感銘を受けつつ、『世界の広さを識る者』イシュトカ=オリフィチエ(p3p001275)と談笑を交わしている。
 職務柄美術品を扱うことも多い彼は、依頼者の画家についても既知である。
 それゆえに『気鋭の画家が描きたがる景色』についても人一倍興味を抱いていた。
「心象風景、か。見たままの景色とはまた違うのだね」
 趣味で風景画を描くメートヒェンもその話に関心を寄せる。
 大いに頷くイシュトカ。
「うむ。画家である、彼の目にしか映らない景色だ。この地が筆舌に尽くしがたい絶景を誇ることを認めよう。だがそれだけに、私がエンパースの目を持っていないことが惜しいよ」
 イシュトカは泉から視線を外すことなく、ふさりと蓄えた顎髭を撫でながら。
「私の目が暗闇に光を見出せるように、彼はこの泉に芸術性を見出した。凡人である私には絵を通してしかその『美』の真髄を垣間見ることができない」
 そのことが惜しいのだ、とイシュトカは言う。
 しかしその台詞は悔しさを滲ませるにしては清々しい響きを含んでおり、まだ見ぬ感動の存在に心を弾ませているようでもあった。
「だからこそ依頼に対して身が入るというものだ。今回の件で名前のひとつでも覚えてもらえるのなら、私としても望外の幸運だからね」
 それが一人の芸術愛好家としての、偽らざる本心だった。

「んー……やっぱ虫って苦手」
 困り顔のエスラは直視をさけるように、かぶっていたフードを更に目深にかぶる。
「何というか造形がこう……それにうじゃうじゃ出てくるとこも嫌い」
 残る青色の花――『アジュレシア』を求めて秘境のポイントから戻った時には、予期できてはいたが既に蜂の兵隊は整列を完了してしまっていた。だから今再びエスラが見させられる羽目になっているのは、中途半端に大きな昆虫の群れが縦横無尽に飛び交うという、彼女にとっては地獄のような光景だった。
「私には聞こえてるよ! そこから来てるんだね!」
 と、恐れることなく先陣を切って敵中へと飛び込んでいったエメには感心する。
 反射神経がいいとはいうけど、神経が太くなってるわけじゃあるまいに。 
「……だからって目を逸らすわけにもいかないのよね」
 足元の高々と育った雑草から聞き出してみた限り、この場所のどこかにお目当ての花が隠れているのは確実。
 早期決着、早期発見、早期解決。それが最善な道筋だろう。
 意を決して杖を握り締めると、少女――いや、『淑女』にして『魔女』は、内側より湧き出て全身を駆け巡るマナを、より一層迸らせる。
 既に味方の名乗り口上によって敵群の分断はなされており、加えて珠緒の保護結界がエリア全域をすっぽりと覆っている。余計な遠慮は何もいらない。
 精神統一。それから。
「まとめて薙ぎ払うわよ!」
 モンスターのみが浮遊する空間に向けて、練りに練った魔力を一斉に放出した。
 負の感情を煮詰めて焚いたかのような仄暗い霧に包まれたが最期。
 標的となったソルジャービーは相次いで墜落していった。
 とりわけ強力な魔力を有するエスラである。その威力は絶大と言うほかない。
「……うーん、ごめん。やっぱりキツイかも」
 これだけの成果を得てもなお、赤眼の魔女は苦い顔をしている。
 なぜなら倒した蜂たちが仰向けになって足をピクピクと痙攣させる様が視界に入ってしまったからで、エスラは「地面なんて気にするんじゃなかった」と独りごちた。
「さっきの場所より、ここのほうが敵のバラつきが少ないみたいだね」
「ええ。おかげで狙いがつけやすいというものです」
「その割には、ラクリマ殿お得意の真っ白い氷が発生していないようだけどね」
「当然です。規模が大きいと花を巻き込みかねませんから」
 血液で生成した鞭を繰るハーモニアの返答に、メートヒェンは「へぇ」と微笑する。
「私のつけた目星と近いみたいだね。花の蜜を集めているかも知れないから、蜂が密集している場所には注意を払ってるんだけどさ」
「その可能性は高いですね!」
 敵の一体を魔弾で叩き落としたばかりの夕が口を挟む。
「私の調べによりますと、『アジュレシア』の匂いの虜になっちゃうのはこの魔物も例外じゃないみたいです。ちなみに嫌がる匂いは熊の毛の匂いだそうですよ!」
 蜂蜜の争奪戦になるからですかね、と夕は笑う。
 三者の意見がおおよその部分で一致したのを聞いたイシュトカは、今しがたターゲットを撃ち抜いたばかりの拳銃口から立ち昇る硝煙を吹き消し。
「ならばそこに的を絞って捜索したほうが良さそうだ。幸い、敵の数は現状半分程度に減らせている。余裕のあるうちにこの羽で見てこようじゃないか。背の高い雑草で隠れているなら、上から見下ろせばいいだけのことだろう?」
 そう提案した。
 手の空いた時間を利用して、早い段階から草木との会話を行っていたアルメリアも賛同する。
「私たちのいた入口側には見当たらなかったもの。ってことは、やっぱり蜂が集まって飛んでるあたりが怪しいんじゃないかしら」
「ふむ。では、そこに向かえばいいのだね?」
「注意してください。青は赤に比べると、遥かに紛れ込みやすい色です」
「問題ない。私にとってそれは白と黒、つまり君と私の衣装をクローゼットの中で見分けるのとそう大差のない難易度だよ」
 ラクリマはその冗談めいた物言いに苦笑したが、しかし、置いた信頼に揺るぎはない。
 浮上する。
 なるべく広くを見渡せ、かつ敵襲にも対応可能な適切な高度を維持。
 現時点で複数の蜂が固まっているのは一ヶ所のみだ。視認できる臨界点に迫りそうな距離ではあるけれど、そこに目途をつけて凝視し、そして――
「ああ、砂金を掬った時の気分とは、きっとこのようなものなのだろうな」
 遠くなった地上を見下ろすイシュトカは、安堵にも似た表情を浮かべる。
 その瞳に映り込んでいるのは、ふとした瞬間に見落としそうなほど小さな、けれど確かに存在する鮮やかなブルーの煌きだった。

 ひとつ目が見つかってしまいさえすれば、話は一気に簡単になる。
 発見に至るまでの過程から得られた傾向が役立つのは当然として、なによりも摘んだこの花自体が、次の花を探す最大の手がかりとして機能するためだ。
「わあ、これが『あじゅれしあ』なのですね。本当に綺麗なお花です」
 噂に違わない華々しさに感銘を受けながらも、珠緒は「では早速」と、二人の少女――を模した精密な機工ドールを呼び出す。
 珠緒はちょこんと屈んで二体と目線を合わせ、こう命じる。
「すずきさん、こじまさん。この花と同じものを探して、採ってきてください。ああ、駄目ですよこじまさん。花の色がすずきさんカラーだからってスネないでくださいね」
 ……てな感じで、割とすぐに別の箇所から探し当てることができた。
 最後のひとつはというと、三羽の使い魔の力を借りた夕が見つけていた。自生する場所の傾向が分かりさえすればモノを言うのは動員力である。
 天然の青色を一通り満喫した後、持参したボトルに入れる夕。
「あれ? それ、泉で汲んでた水?」
「そのとおりです! 植物の鮮度を保つには水が大事といいますしね。依頼者の方に倣うわけじゃありませんけど、その土地の絵に使う花を保存するなら、その土地に流れる水のほうがよいかと思いまして!」
「飲むんじゃなかったんだ……ま、いいけどね」
 エスラは筒の中へと収められていく『アジュレシア』をやや名残惜しそうに見送る。
 ともあれ依頼人の元に瑞々しいまま届けられるのであれば、それに越したことはない。
 依頼した画家自身が生涯最高傑作になるはずだと確信を持てるほどの絵画。完成がいつになるかは分からないが、少なくともイシュトカは気を長くして待つ腹積もりでいる。
 彼が長年抱き続けてきた理想は、数日で形にできるようなものではなかろう。
「泉から得た感動に負けないほどの美麗な花だ。存分に活用してもらいたいものだな。いやはや、またひとつこの世界で生きていく楽しみが増えたよ」
 ……そして願わくば、いつか彼とも商談を行えることを。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

今回の依頼は成功になります。
お疲れさまでした。

戦闘以外の部分がメインということもあり、非戦スキルの描写に重きを置いたリプレイとなっております。
今後も非戦を活用できるシナリオを出していけたらいいな~、なんて思っております。

ご参加ありがとうございました。

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