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シナリオ詳細

ノンフィクション、人魚のこぼした真珠

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


『おお、愛しのマーメイドよ!
 どうして泣いていらっしゃるのです?
 いつものように、美しい歌声を聞かせてくれませんか?』

『ああ、ドノファン!
あなたの体は、深海には耐えられません。
そして、わたしの体は、
地上の眩しい光には耐えられないのです』

『さようなら、ドノファン!
 あなたと出会えて、とても幸せでした……
 この真珠を、私と思って、
 お持ちになってくださいな』

ドノファン・ノーブル著『私が港町で人魚と出会い別れの涙の代わりに真珠をもらうまで』

●伝説の指輪を手に入れろ!
 ドノファン・ノーブルは、幻想の冒険小説作家だ。
 ノンフィクションを謳った冒険小説の全てがでっち上げだということが発覚し、いろいろな意味で話題の人間である。炎上しているともいえる。
 ドノファンの活躍がフィクションであることに関して、ひと悶着あったりもしたが(シナリオ『ノンフィクション、偽りの勇者』)、イレギュラーズの励ましの甲斐あって、めげずに懲りずに活動を続けることにしたようだ。
「まあ、自分のまいた種とはいえ、ご批判を受けるのは当然とはいえ辛くもあるのですが、これはもう! 有名になったととらえて行こうかと」
 というわけで、今日の依頼人は、自意識過剰のナルシスト、といったような格好の男、ドノファンだ。
「胡散臭いことこの上ないですが、ローレットの正式な依頼なのです」
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は頷いた。
「それで、ええっと、今回の企画なんですがね! いや、嘘をほんとにしようというか……。私のやったことになっていた冒険を、実際にやってみようという企画なんですよ。
私もずいぶんな人に迷惑をかけて、色々断れないもので、はい。グリフォンだとか、いろいろまあ……その……危ないことを書いちゃってるわけなんですが、でもほら、今日は比較的マシな……いやいや、現実的なものを持ってきましたよ!」
 そう言ってドノファンが取り出したのは、『私が港町で人魚と出会い分かれの涙の代わりに真珠をもらうまで』である。タイトルが長い。
「今回の相手は……伝説の人魚! 満月の夜に、とある港町で歌を歌うとやってくるんだそうです! いや―素晴らしい、素晴らしいですよね……。
狙ったように、今日はお天気の良いこと!
 ほんとか、って言うのはあのまあウンこれから確かめるわけなんですが、……お手伝いしていただければと。いや、もういっそイレギュラーズの皆さんの活躍を描こうと思ってますが……何かあったら私では対処できませんし……いや、今回は危険はね、たぶん、ないはずなのですが……」
「一応、真珠をくれる人魚伝説があるにはあるですよ?」
 ユリーカは補足した。
「でも、本当かどうかは……疑わしいと思うですね! ユリーカの勘です!」

GMコメント

●目標
 人魚伝説を探り、『幻の真珠』を手に入れろ!

●場所
 海洋の港町『ポートレック』。

●人魚の伝説
 海洋王国、人魚自体は珍しくもないのだろうが……。
 ポートレックには、海の底の町で暮らし、滅多に人と会わない人魚の一族がいるという伝説がある。
 満月の夜、歌ったり、楽器を奏でたりしていると、人魚が桟橋に現れて、人魚の町に連れて行ってくれる。
 帰りには、お礼に真珠をくれるのだという。

 地元の人曰く『眉唾もの』。
 一時期はやった伝説らしい。
 ドノファンはこのうわさ話を聞いて、想像で著書をでっち上げました。
 伝説に過ぎないので、プレイヤーの皆さんで尾ひれをつけても構いません。

●地元の人たちの話
・たしかにポートレックには人魚の町の伝説はあるが、実際のところは眉唾物。
 ここで暮らす海種を見間違えたのではないだろうか?
・夜に海に出るのは、潮の流れが早くて危険
・昔は真珠がとれたらしいが、今はここではめったにとれないし質も悪い
・人魚まんだよ! 長生きできるよ! 土産物売ってるけど買わない?
・どうやら、この伝説の発祥は酒場『ムーンドレイク』らしい。

●ポートレックの海
 小さな港湾。わずかだが遊べるビーチもある。
 水遊びするにはちょっと寒いが……。
 あたりには漁師がいて、魚をとっている。
「人魚は見たことがないな……」

●酒場『ムーンドレイク』
 海の男たちでにぎわう酒場。店構えは新しい。
 夕方遅くに開店し、朝まで営業している。
 実は数年前に移転しており、伝説はそちらのものだ。
 名物はイカスミパスタ。
 店主は気さくで、何か注文すれば渋らずにいろいろ答えてくれる。
 中央に舞台があり、自由に上がることができる。
 設備は良いものではないが、一応宿としても使える。

ムーンドレイクの店主「さあ……人魚伝説ね。俺の親父が良く言ってたよ。でもなあ、真珠なんてもらえたら、こんなに苦労してないな。俺の代になってやっと借金を返し終わって、引っ越したんだぜ」
馴染みの客「客寄せのためのものじゃないか?」

●旧・ムーンドレイクと裏手の道
 かつての旧・ムーンドレイクのあった場所。今は空き家となっている。
 この裏手に、満月の日にのみ潮の満ち引きで道ができる。非常に細い道だが、しっかりしている。

『ガガガラス』
 たどっていくと、海鳥の巣がある。ガガガラスという、この地域の固有種だ。
 ぎょろりとした、見ようによっては多少愛嬌のある顔立ちをしている。
 声は見た目に反して意外ときれい。
 海鳥たちはこちらを警戒しており、攻撃などすると攻撃してくるが、意外と人懐こい。楽器や歌声が大好き。魚も好き。ドノファンは嫌い。派手な格好のせいか、つつかれがち。
 あたりには食べ残しの真珠貝の殻が散らばっていて、小さなクズ真珠が見つかるのみである。だが、限られた時期のひと時だけ見られるこの光景は美しい……。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はEです。
 無いよりはマシな情報です。グッドラック。
 人魚伝説があやふやという意味です。ひっかけやどんでん返しがあったりはしません。

  • ノンフィクション、人魚のこぼした真珠完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2019年01月02日 22時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
ルア=フォス=ニア(p3p004868)
Hi-ord Wavered
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
鼎 彩乃(p3p006129)
凍てついた碧色
リヴィエラ・アーシェ・キングストン(p3p006628)
水晶角の龍
アイリス・アベリア・ソードゥサロモン(p3p006749)
<不正義>を知る者
ヨルン ベルクマン(p3p006753)
特異運命座標

リプレイ

●噓から出た実
「ドノファンさんは前向きだなあ」
『女王忠節』秋宮・史之(p3p002233)は依頼の内容を聞き、頷いた。
(本を一冊書き上げるって大変な労力がいるから、そのくらいのメンタルのほうがいいのかもしれないね)
「うん、俺としても女王陛下の統治する海洋がイメージアップするのはうれしいから、協力するよ」
「おお、イザベラ女王となにかご縁が?」
「ちょっとね」
 史之ははっきりは言わないが、その幸せそうな表情にはどこか暖かいものを感じる。
「ドノファンさんが書いた本、初めて読んだけれど、とっても素敵なお話ね!」
『水晶角の龍』リヴィエラ・アーシェ・キングストン(p3p006628)はふわりと微笑む。
 ドノファンは露骨にうれしそうだ。
「本当にあったことじゃなくても、もしこんな風に人魚に会えたらって考えちゃう。私だったら、一緒に歌ってみたいなぁ……なんて、ふふ♪」
「それは使えるかもしれません」
 すかさずそう言ったのは、『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)だ。
「パフォーマンスというのは分かりやすく、効果的です」
「私は……歌は好きだけど……大人数の前で歌ったりは、できないかな……」
『黒鴉の花姫』アイリス・アベリア・ソードゥサロモン(p3p006749)は目を伏せる。
「大丈夫です。適材適所……人には聞かせないための歌も、きっと役に立つ場所があるはずです」
「うんうん、表舞台はまかせて♪」
 アイリスは安心したようにこくりと頷く。
「人魚伝説、ねぇ……おっさんからすりゃぁ、オリヴィアや他の海種連中を見慣れてるから珍しくも――っと、これを言っちまうのは野暮ってモンか」
『水底の冷笑』十夜 縁(p3p000099)自身もまた、ウィーディー・シードラゴンの海種である。そんなことも露知らず、ドノファンは唸る。
「やはりありがちすぎましたかね」
「だがまぁ、『幻の真珠』とやらにはちっと興味がある。なんせ“幻”ってつくくらいだ、きっとそいつは手に入れられるような代物じゃなく……もしかすると、触ることもできねぇのかもしれねぇな。……是非とも、“見て”みたいねぇ」
 縁はへらりと笑った。
「……真珠伝説、ロマンチックだよね」
「やあやあ、君は! いつぞやの騎士殿!」
「ドノファンさんが元気にしているみたいで良かった。もちろん今回も協力させてください」
『特異運命座標』ヨルン ベルクマン(p3p006753)はにこやかに挨拶をする。
「それに、嘘を本当にするなんて面白そうだしね」
「人魚伝説の真相を探る……ですか……確かに面白そうですけども……」
『凍てついた碧色』鼎 彩乃(p3p006129)は、あくまでも冷静だ。真相と言うのは、もしかすると話ほど鮮やかなものではないのかもしれない。
「でも、真相の調査だけはしなきゃ……折角素敵なシナリオ、読ませて貰った事だし……ね?」
「嘘を真に、か。ふむ、ちと面白そうかもな?」
『Hi-ord Wavered』ルア=フォス=ニア(p3p004868)はいたずらっぽい笑みを浮かべる。
「どう組み立てるか、腕の見せどころじゃな」
「十夜様のおっしゃることはまさにその通り。人魚伝説……ありがちというのは受け容れられているということでもあります。勝機は十分にあるかと」
「とすれば、まずは情報収集か」
 ニアが言う。
「ええ。この話が真実かどうかは重要ではない。更に言えば、真実があるかどうかも重要ではない。真実だとして誰が得をするのか。この組立が肝要です」

●ステルスマーケティング
 ここはドノファンの本の舞台、ポートレック。
「すみません、この本に載っている人魚の伝説を知ってますか」
 史之はドノファンの本を片手に、道行く人を呼び止める。
「ああ、あの……」
 住民の反応からして、この話題をあまり良いとは思っていないようだ。
「すてきなお話ですよね! 俺、感激しちゃってこの街まで来たんです!」
「ここに書かれてる人魚伝説なんてない。嘘っぱちだったわけだからな」
 住民は吐き捨てるように言った。
「まあ、話題になったといえなくもないけどな」
「でも、もしかしたら伝説のもとはあるかもしれないじゃないですか」
「なんだって?」
「この街の人魚伝説でなければならなかった理由がきっとあるはずです」
 熱心に告げる史之は、人魚伝説には何か根拠があると信じているようだった。
 礼儀正しく礼を言って去っていく史之は、決して不愉快ではなかった。むしろ、好感を持つほどだ。
「そんなこと考えたことなかったな……」
「まあ、観光で潤うのはいいことなのか?」
「読んだことなかったけど、読んでみるか」

「なあ、知ってるか?」
 寛治は何気なくかわされる会話に耳をそばだてる。
「本に書かれた話を文面通りに読むのは、理解が足りないってさ」
「あれは何かの比喩だって話だ。それを見抜けないと、間抜け扱いされるって噂だ」
 これは、寛治が流した噂である。「ドノファンの話はデタラメ」というマイナスイメージから来る風評を、裏返してこちらの味方につけるための一手だった。
(ふむ、これくらいで良いでしょう)

「ずいぶん上手くいきましたね」
 史之がひょっこりと顔を出す。
「漁師の人たちにもお話していたんですけれど、その噂でもちきりでした」
「私、プロデューサーですから」
 かなりの説得力があった。卓越したプロデュース能力が、それを可能にするのだろう。
「そうそう、ひとつ、噂話に付け加えてほしいことがあるのですが」
「歌姫、ですか?」
「キングストン様と鼎様が、今夜歌われるそうですので、この機会を逃す手はありません」
「わかりました」

●人魚の町
 リヴィエラと彩乃は、観光客向けの露店を回っていた。
「こんにちは。私、ドノファン・ノーブルさんの本を読んで、この町の人魚伝説について調べにきたの。よかったら、少しお話を聞かせてくれないかしら?」
「ああ、いいよ」
「変わったお土産があるのね」
 リヴィエラは人魚まんに目を止める。
「舞台になった所だし、何かしら情報があるかもと思いましたが、さすがに人魚関連のものも多いですね」
(どんな形をしているのかしら……)
 リヴィエラがまじまじとお土産を見つめていると、店の人が一つ試食にくれた。二人は礼を言って半分に分ける。
「ふふ、ありがとう。人魚の歌声について何か知らない?」
「歌声、ですか……」
 人魚の歌声については様々な説があるようだ。
「ああ、歌と言えば、この辺にはガガガラスっていうのがいてな……見た目は変だが、声はガラスみたいにきれいなんだ」
「なるほど……」
 これは、何か関係がありそうだ。二人は顔を見合わせた。

●人魚伝説を追え
「断片的な情報が集まる程度でも構わん。重要なのは、それらの中から使えそうなピースを拾い上げ、利用する事じゃ」
 ニアは、他の仲間たちと地元の者達から効率よく情報を集めていた。
「なら僕は、視覚聴覚嗅覚、それから知識も全て使ってフィールドワークだ」
 ヨルンは、動物方面からのアプローチだ。
「目星をつけるのは人魚と見間違えられそうな動物、そして真珠貝を餌とする動物かな」
「うむ、海の方は任せた」
 ニアはしばらく聞き込みを続けるうちに、一つの地名をつきとめた。
(ふむ、噂話の出どころは、ムーンドレイクという酒場か)

「よう、釣れるか?」
「いや、今日はさっぱりだな」
 気難しそうな漁師ではあったが、縁は隣に座り込み、またたくまに世間話をする仲となっていた。世間話とはいっても、自分についてはのらりくらりと交わして明かしていないのがまたすごいところだ。
(この手の噂話は、大体長くそこに住んでるやつのが詳しいだろうと思ったが、あたりだったな)
 ムーンドレイクという酒場は、どうやら以前移転しているようだ。
「なるほど。であれば儂は古い方のムーンドレイクとやらに行ってみるかな」
「ああ、分かった」
 というわけで、縁はニアと別れてムーンドレイクにやってきた。
「きかせてもらいたい話が……おっと、その前に注文だったな。魚介類以外でオススメを一つ」
「はいよ」
「よう、飲める口か?」
 常連の多い店の中で、やはり瞬く間に溶け込んでいく。
「引っ越した……って事は、お前さんの親父さんの代ではどこに店を構えてたんだい?」

 旧ムーンドレイクにやってきたニアは銀の目を細め、建物を壁越しに覗き見る。
「む。裏手に、潮の満ち引きで出てきそうな道があるのぅ?」
 そして、辺りには奇妙な鳥が飛び交っている……。
 これは使えそうだ、と確信を深める。

●黒鴉の姫
 ヨルンとアイリスは、ニアから聞いて旧ムーンドレイクに近い浜辺へとやってきていた。
「あれがガガガラスか」
「賢い鳥なんだよ」
 ヨルンが微笑み、注釈をくわえる。
「真珠貝を好んで食べるんだ。音楽は好きだと聞いたことがあるけど、恩返しみたいな習性があるとは……」
「ガガガラスさん、ガガガラスさん、お話、聞かせて?」
 黒鴉の姫が語り掛けると、ガガガラスが浜辺から集まってくる。ともすればぎょっとするような外見のカラスたちだが、アイリスは驚かなかった。
「ここに人はどれくらい来るのかとか、どんな人が来たのかとか……」
 カラスは小さく鳴いた。綺麗な声だ。
「……そっか、あまり人はこないんだね」
 ここは海。母なる海。
 あちこちに小さな魂が漂っている。
「できればで、いいんだけど……」
 自慢の綺麗な宝物を、見せてもらえたらと頼んでみる。
 カラスたちは少し考え込むと、飛び去って行く。
「どう?」
「また、夜においでって……」
(歌で来るのはガガガラスか。人魚はこれの変化か?)
 ニアは飛び去るカラスを見つめる。
「しかし、それだけだと何か足りん。海種の見間違え云々も混ぜると――」
 おそらくは、以前の酒場の店主が、桟橋で歌か演奏の練習をしていると、海種が登場したのだろう。
 その海種が歌うと、綺麗な声に惹かれてガガガラスが来た。
 しばらくすると、海種が巣を教えてくれた。
 そこで、幻の真珠を見たのだろう。
(もしも、本当にあった話だとするのならば……その海種と別れ、どうしても忘れられない店主が、ガガカラスと海種の二つを混ぜて人魚伝説を作った、といったところかの)
「百聞は一見に如かず、といったところか。幸い、今日は満月じゃ」

●小さなコンサート
「なあ、歌姫が来るって聞いたんだが?」
「おっ、なにかあるのか?」
 どうやら、仲間たちはうまくやったようだ。
 史之と縁は顔を見合わせて、それぞれりんごジュースと酒で乾杯する。
(集まった情報から、人魚伝説の真相は大体見えてきた)
 縁はただぐいとグラスを煽る。
(……が、あえて口に出さねぇでおくか)
 時期分かることだろう。
「素敵な詩ね」
「えっと……自分の歌で良ければ。合わせるなら言ってくだされば大丈夫ですよ」
 リヴィエラと彩乃は準備をしていたが、しばらくすると呼び声がかかる。
「お集まりいただきまして、ありがとうございます」
 彩乃とリヴィエラがやってくると、客たちは沸いた。
「これは、この地に伝わる人魚伝説をもとにした歌」
「この酒場にも、縁がある伝説ですね。未熟ですが歌い手なりに……やってみますね」
 二人は静かに歌いだす。

 擦れ違う運命、カレンダーに残した二人の光景
 一度だって合うわけない風波の導き
 君の名前ばっかり呼んで、一人浮き沈みしてた
 もどかしさは……幻の月雫に消えて

 静寂とバラード。
 小柄な彩乃からは想像もつかないような凛とした、甘く切ない声が響き渡る。そしてその声に乗せて、まるで美しい宝石のように、リヴィエラは己を魅せた。
 気が付けば、客たちは静まり返っていた。
 声も出ないほどに美しい演奏だったからだ。
 二人の声は交わり、そして離れていく。人魚伝説の最期のように、どうしようもない離別を思わせて……。
 一曲が終わる。数秒の沈黙ののち、爆発的な歓声があたりを包み込んでいた。
 とどまることのないアンコールに答え、それでもいつまでたっても終わりそうもなかったので、適当なところで引き上げなくてはならなかった。
 不思議で奇妙な鳥が、着いて来いというように低く飛んでいく。

●もう一つのコンサート
 同時刻。
 今は活気を失ったムーンドレイクにて、アイリスも歌を口ずさんでいた。

(伝説の通りなら、きっと人魚さんが――あら、あれは……?)
 飛んできた海鳥に導かれるように、イレギュラーズたちは旧・ムーンドレイクの裏手の道を辿って海鳥たちの巣へと向かう。

「人懐っこいけど賢いなぁ、ここなら外敵はより付けない」
 そして、夜空に浮かぶ大粒の真珠に、ヨルンはぽかんと口を開けていた。新しい「真実」を飲み込むのに時間が掛かる。
(でも、それはとってもいい)
「潮が引いた後の予想はしていたけど実物を見て見ないと美しさは分からないものだね」
 ヨルンは美しい月を見上げて言った。
「あれを超える真珠なんてないだろうし、何よりロマンチックだ」

 鳥たちの歌声。
 月明かりに照らされてきらきら光る真珠の欠片。
(あぁ、これが人魚伝説なのね)
 リヴィエラは、思わず空へ舞い上がって歌を歌う。
 鼎が歌を合わせる。カラスたちが歌いだす。美しい声で。美しい声で……。

 そこには、美しい光景――見上げると、綺麗な満月。
「なるほど。確かに"幻の真珠"じゃな」
 ニアは頷いた。
「月が真珠か。浪漫じゃのぅ」
「どの道言葉で言えるようなモンじゃねぇだろ、この景色の美しさはよ」
 縁は黙って『幻の真珠』を眺める。ドノファンがつつかれている。
「手のかかる依頼人だ」
「ほら、魚食べるよね?」
 つつかれるドノファンを、縁とヨルンが助けてやった。
(二人の歌姫の歌声と景色の美しさを記憶に刻み付けたいけど)
 ヨルンは苦笑する。
「ええと、つまり、これで大儲けできますね!」
 イレギュラーズの表情を見て、ドノファンは押し黙った。
「ええと、そのことなんだけど……場所をぼかして書いてもらうことはできないかな」
 ヨルンは静かに、けれどきっぱりと申し出た。
「多くの人が訪れればこの光景は壊れてしまうかもしれないし」
「そうしてくれたら……嬉しいな」
 アイリスに賛成するように、カラスたちはじっとドノファンを見ている。
「満月は見れますよ。旧、ムーンドレイクの方からでも、です」
 寛治は抜け目なく、ムーンドレイクの店主と交渉していた。
「というわけで、『真珠は満月の光景の比喩だった』というのはいかがでしょうか。こじつけと思う気持ちもあるかもしれませんが、どう解釈するのが皆の幸せになるか。おわかり頂けるかと思います。大事な事は真実ではなく、物語なのです」
「けど」
 アイリスが頷き、カラスから何かを受け取って歩み寄ってきた。
 そこには、小さな一粒のくず真珠がある。
「……おとぎ話みたいな幻の真珠はないかもしれないけど、こんなものは、あるんだよって……伝えたくて」
「「真相が明らかになり、書物の内容に嘘はなかった」では、舞台になったこの街に利益がない。
となれば、この物語を町おこしに利用するのは如何でしょうか。旧・ムーンドレイクは満月の夜に生まれる『真珠』への道の入り口にあるとの事。
なら、月に一度、ここを宿屋として開業するのはいかかですか?」

●今日は満月
「たいへんです! みなさん! 売り上げが……本の売り上げが一気に2倍に! ……しかも炎上って感じじゃないんです。私、こんなに感謝されたことがあったでしょうか」
「よかったですね、ドノファンさん」
 ヨルンは微笑んだ。
 今日は満月。
 旧ムーンドレイクが、月に一度開業する日だ。
「しかし、”あの場所”のことを書いたら、もっと客も多かったのではないか?」
 答えを分かっている顔で、ニアが意地悪そうに問いかける。
「いえ、まあ……以前の私なら、そうした気がするんですが」
「おっさんは積極的に噂を広めるようなことはしねぇのさ。――もったいねぇからよ」
「長く続けられるビジネスというのは大事です。それに、地元の人に『感謝される』というのは、このやり方だからこそだと思います。それで、次のアプローチについてなのですが」
「ま、まだあるんですか、案が……!?」
 さすがはプロデューサー、と舌を巻く。
 というわけで、この場所に”続き”があることを知っているのは、イレギュラーズと限られた人物のみとなった。
「おい、おやっさん、それはなんだ」
「人魚の涙さ」
 店主はくず真珠を示してうそぶいてみせた。
「まったく、あんたらの手腕には恐れ入ったね。こっちの店を買い戻してお釣りがくるほどだ」
「歌姫さんたち、一曲頼むよ」
「リヴィー、でいいわ」
「ええと、それでは」
 彩乃がゆっくりと息を吸う。

 美しい旋律に乗せて、仲間たちは、裏手からかすかに聞こえてくる小さな声に気が付いた。
 今頃はきっと、カラスたちも、もう一人の歌姫と一緒に歌っているのではないだろうか。
「――そして、ポートレックの人達は、人魚がくれた“真珠”をいつまでも大切にしました。めでたし、めでたし」
 一曲を終えたリヴィエラが月を見上げる。

成否

成功

MVP

新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ

状態異常

なし

あとがき

こうして、旧ムーンドレイクでは、月に一度の催しが開催されることとなりました。
お疲れ様でした!
嘘から出た真のお話でした。
ポートレックは新しい人魚の物語を紡ぎ、
酒場では美しくも悲しい恋歌が流行ることになりました。
奇妙なカラスたちはそのままの静かな暮らしを謳歌しながら、
ドノファンはまた自分をちょっぴり誇りに思えるようになりましたとさ。
機会がありましたら、また冒険いたしましょう。

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