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シナリオ詳細

<ジーニアス・ゲイム>死の鬼ごっこ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●恐るべき強敵、登場したけど死す
 『負け犬の』ベルモンデ・カーチェスは少ない手勢を連れて幻想南部グレイトピケルの町に忍び込んでいた。
 深夜、”先日の戦い”の傷痕が未だ残るこの町には、彼が唯一忠誠を誓った人間が眠っている。
 ポティ・クールマム。ベルモンデを短い間ながら面倒を見てくれた『新生・砂蠍』の幹部だった男。
(ポティさん……俺ァ、あんたのおかげで色々な技も覚えたぜ。仕事も、裏の顔の作り方も、
 俺はあんたがいなかったらその辺の幹部に鉄砲玉にされてきっと死んでいた男だ……あんたには一生かけても返せねえ恩がある。
 ──だってのに、あんまりじゃねえか。魔種と挑んで返り討ちって、ありえねーよそんなの……そんなの、俺だって勝てるわけねえじゃねえか)
 死体袋から露わとなったポティをベルモンデは見下ろす。
 しかし感傷に浸っていたその時、彼を押し退けてポティの体を探る者が現れる。
 死者への敬意も無ければ幹部への忠誠も無い。凡そゴロツキが野盗さながらに死体を弄るのと何も違わない。
「ケッ──これが例の『遺されたプラン』ってやつか。ただの板切れが、この国盗りで忙しい時に人の手を煩わせやがって。
 これからが大事なんだぜ、これからがよぉ? 例え敗走する事になっても生きてりゃ、せめてメフ・メフィート攻略で特攻くれえはこなせただろうになァ!」
 暫しの間の後。柄の悪い細身の男はポティの胸元から金属の板を取り出した。
 多少ボロボロになってはいるが、その板に淡く発光して紋様が浮かび上がっている事から魔法のアイテムである事が分かる。深々とした溜息が吐きかけられる。
(……なんて野郎だ、まるで盗賊だぜ)
 ベルモンデはぐぬぬと歯噛みする。
「取り敢えず目当てのモンも手に入れた。移動するぞ……ああ、ベぇぇルモンデェエ? お前はここでそいつと残ってもいいぜぇ? 精々土にでも埋めてやんな!」
 下卑た笑い声に続いて夜闇の中に響く、配下達の薄ら笑う声。
 新たにベルモンデの上に就いた男は恐ろしく強いと聞いたが、どうにも男とその配下達はベルモンデ一派に対してやたらと足裏の土を擦り付ける真似をして来ていた。
 ポティに変わる武闘派だというのだから、噂は真実なのだろう。背中に携えている魔剣は今も不気味に紋様が黒く蠢いている。
「……あぁ、ボスは先に次の目的地に向かってくれ。俺達はポティの旦那をちょっくら埋めていくぜ」
「はぁあ?? テメェ、そんな事許すとでも……!?」
 柄の悪い男がベルモンデに掴み掛ろうとした瞬間、場に殺意が満ちたのをベルモンデ含め勘の良い者達が察知した。
 それは偶然か。闇を照らすかの如く瞬いた閃光に続いて魔力の砲弾が次々に射ち込まれる最中、ベルモンデと数人の配下達は爆風に煽られただけで無傷でやり過ごす事が出来た。
「ぐ、がぁああッ!? こいつら、何者……」
「知る必要は無い」
 薔薇の意匠を施された仮面の騎士達。その輪郭や装備は夜に紛れる為か、金属鎧特有の擦れ音を殺す細工がされ、青く塗り潰されている。
 瞬く間にベルモンデ一派以外の武闘派達は取り囲まれ、暗器を交えての波状攻撃に晒される。これで生き残れる筈も無かった。
(まずいまずいまずい……!! 待ち伏せされてた! っそれとも、ポティの旦那の『プレート』を見て動きを読んでた? 
 ──どうでもいい! 今はこの場を切り抜ける事だけを考えろ!!)
 目にも止まらぬ動きを見せる騎士達が迫るのを耳に捉え、彼は汗を拭う事も出来ずにその場を離脱しようとする。
「喰らえこの透かし野郎ども!!」
「!!」
 刹那に走る莫大な閃光と炸裂音。まともに受け身を取れなかった者達は一時的に視覚と聴覚が死んだ。
 それでも最後に目に焼き付いていたベルモンデを貫くべく、一気に距離を詰めて剣を突き刺すも空を切ってしまう。
「……逃したか」
 視覚が戻った時には既に遅く。その場には幾つかの脱ぎ捨てられた服が残されているだけで、何処にも砂蠍の姿は無かった。

●エサは用意した。
 仮面を着けた貴族の男曰く。グレイトピケルの町から逃げ果せたベルモンデはとある『鍵』を持っているのだという。
「我々が掴んだ情報によれば、恐らくは爆弾の様な物だ。厳重に封印しておきながら、幹部が死んだ後に引き継がれ持ち出すような代物……
 どう考えても厄ネタの臭いがする。これを君達イレギュラーズに捕らえて貰い、『鍵』を使う事を阻止して欲しい。
 本来ならば事の危険性からして我々が捕えたい所だが、今は北部での戦線に力を入れたい。すまないが君達が頼りなのが現状だ」
 頭を振る男は椅子に背を預けながら唸った。続いて吐き出すように「逃がしたのは此方の非だ……」と呟いた。
「皆様に追って頂くベルモンデ一派は元ポティの配下だった者達です。戦闘力はその辺りの盗賊と変わらないと記録されていますが、
 恐らく現在の強力な軍と化した砂蠍の全体の質を考えるに、今では幹部に近い実力があってもおかしくありません。
 動向として、現在は貴族軍から追手を向かわせて追跡していますが……どうしても後一歩の所で逃げられてしまうようです」
 卓上へ紅茶を出す『完璧なオペレーター』ミリタリア・シュトラーセ(p3n000037)の表情は真剣だ。
 元々、変装の達人だったと思われるベルモンデ一派は得手とする能力を最大限活かせる市街地を進路に選んで移動していた。
 恐らく何の策も無く捕まえる事は不可能に近い。
「……そこで、奇策をぶつけます」
「奇策?」
 急に場の雰囲気が変わったのを見て、思わずイレギュラーズの誰かが首を傾げた。
 ミリタリアは隣に座る貴族の男と共に一枚の企画書を卓へ差し出した。

「ベルモンデが最も恨みを持つ人物、『ロジャーズ・フェルゼンハント』男爵をメインとした爆走お祭り企画ですッッ!!!」

GMコメント

 情報屋ミリタリアです、よろしくお願いします。

 以下は詳細情報となります。

●ミッション達成条件
 ベルモンデ一派の撃破
 【鍵】の奪取

●明確な失敗条件
 フェルゼンハント卿が殺害される

●爆走! 何でもありの鬼ごっこ!
 本作戦は砂蠍を捕える為、皆様の提案に対してフェルゼンハント卿には好意的に協力して頂く事になっております。
 幻想王都郊外にある路地の多い町がロケーション。
 大々的に高額賞金の獲得権と共に逃げ回る者を捕まえるという内容でフェスティバル開催を宣伝し、参加者にベルモンデ一派を誘き寄せます。
 勿論これに参加するのは予めに用意したエキストラだけであり、残す参加枠は8組だけ。
 ベルモンデ一派の能力を考察するに、間違いなく彼等はこれに釣られてあらゆる手段を用い、いつの間にか参加枠を埋めてこれに参じるでしょう。

 ルールは簡単。町の中を軍馬に跨るフェルゼンハント卿が駆け回り、それを追いかけ回し捕まえる。
 どんな手段を使っても構わないとされていますが、実際に過激な行為に出るのは間違いなくベルモンデ一派だけです。
 この作戦の重要性、危険度から卿には全力で逃げて貰うので皆様もこれを半ば本気で追い回す必要があります。
 ……目的を忘れて本気で捕まえないで下さいね? 『何か他に策がある場合は問題無い』ですが……

●フェルゼンハント卿
 52歳。一人娘がここ半年でムキムキになって来ていて頭を抱えているそうですね。
 馬術は中々のテクニックを有しており、何故か機動力がイレギュラーズの二倍くらい出る。回避力に至っては凄いとしか言い様が無いです。
 全身に札束とか金貨とか宝石とかぱんつをあしらった豪華絢爛な鎧を身に纏っています。

●ベルモンデ一派
 戦闘力は砂蠍精鋭と遜色ない程度に高い筈ですが、この祭りに乗る彼等の連携力は皆無となるでしょう。
 変装に長けた一面も持っており、特にリーダーのベルモンデは【シナリオ中に接触した相手の容姿に変装する】事が可能なようです。
 また、過去になにがしかの因縁があるらしくベルモンデはフェルゼンハント卿を執拗に狙います。

 【ベルモンデ】
 ・閃光術式(神近域・【暗闇】・【聴覚3ターン封印】)
 ・変装精度EX

 【ベルモンデ配下】×7
 ・変装精度A(誰かに変身する事が可能です)

●追いかける際の判定
 何かしらに騎乗していても戦闘力は変わらない物とします。
 プレイングや乗っている物によって速度は変わります。自前で乗り物が用意出来ない場合、会場に用意された乗用馬に乗る事になります。

 以上。
 皆様のご健闘を祈ります。

  • <ジーニアス・ゲイム>死の鬼ごっこ 完了
  • GM名ちくわブレード
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年12月19日 22時20分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)
特異運命座標
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
追憶に向き合った者
ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸
雨宮 利香(p3p001254)
雨宿りの
ルーミニス・アルトリウス(p3p002760)
烈破の紫閃
シエル(p3p006444)
天空の狙撃役
エクリプス(p3p006649)
花喰い
ベン=ジャミン(p3p006779)
空の翁

リプレイ


 快晴の下にレース開幕のファンファーレが鳴り響く。
 王都郊外に位置するゾラの町は今日に限り、町全体でフェスティバルの開催を背の高い建物から見守っている。
 ゆえに町を静寂が包み込んでいる。
 普段と変わらぬ姿なのが不気味さを演出しているのかもしれない。
「全幻想市民のこの私のファンが待ちに待った、真のフェルゼンハント卿決定戦。第79回フェスティバル……40人の参加者による頂上決戦が、遂に開幕を迎える!
 この幻想で最も意味ありげなようで特に意味も裏も無い貴族は誰がなるのか、やはり私か!?
 それとも有象無象の君たちか!? 今! ここに開幕を宣言する!!」
 町の中央広場に視点が切り替わる。
 広場に集結した総勢40人のレース参加者達の声が開幕宣言をしたフェルゼンハント卿に飛んで行く。

<「早く始めろ変態貴族ー!!」
<「賞金よこせ親馬鹿がー!!」
<「お前のせいで失業して盗賊になってたんだぞこの野郎ぶっころしてやるぁぁあ!!」
<「落ち着けボス……!」

 フェスティバルの賞金に釣られて集まった荒くれ男の集団から喧噪とヤジが次々に飛び交う……かのように見えるだろう。
 8人を除いた32人はイレギュラーズとエキストラの住人だけの筈だが、ぱんつふんだんに使い編んだマントの下で煌びやかに輝く札束シールドと宝石を散りばめたプラチナアーマーが彼等を熱狂させている様だった。
 なんなら不穏な叫び声も聴こえ、『花喰い』エクリプス(p3p006649)が肩を竦めるほどだ。
「貴族さんは恨み辛みがあって大変だー。理由は分からないけど、でも、ま、お祭りに騒ぎはつきものだけど、さすがに暴力沙汰は物騒だし無粋だなー?
 ってゆーか、パンツつけてるおっさんの姿って通報案件じゃね? いいの? あれいいの?」 
 豪華絢爛な姿をこれ見よがしに披露している卿に冷ややかな視線。
「こんな時に鬼ごっことはなかなか洒落たことをする貴族様だな」
「本当にね。しかも依頼の報酬より賞金のが高そう……アレくれないかしら、なんて」
 エクリプスの声に促されてまじまじと観察する『不屈の紫銀』ルーミニス・アルトリウス(p3p002760)も訝し気に。
 これは作戦だ、と目を逸らす『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)は苦笑に近い微笑を浮かべて言う。
 そうこうしている間にも豪華景品、賞金についての説明と共にまた周囲の男達が湧き立っていた。
 エキストラ。演技。本当に? 周りの明らかに壇上のフェルゼンハント卿を見る目に危険な熱が籠っている事で、不穏な緊張感がイレギュラーズを包み込んでいる。
 妙に盛り上がる広場を見回した『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)は半ば諦めた様に、
「死ぬ気で追いかけりゃいいんですね! わかりましたよ!」
 しかし仲間達のそんな様子とは別に、頷く『特異運命座標』シエル(p3p006444)にしてみれば依頼の要とも言える人物だ。
「自ら囮としてレースに協力してくれるフェルゼンハント卿の為にもベルモンデ一派を撃破しないといけませんね」
「蠍を誘い出す為とはいえ、危険に晒す作戦っす。彼の協力を無駄にしない為にも頑張るっす」
 無表情ではあるものの、馬に跨って首を回しやる気充分。
 と、そこで『ぱんつコレクター』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)が周りの動きに気付いた。
 他の仲間達も同様である。
「あっ、動き出しましたね。スタート地点へ移動するみたいです」
「やっと始まるわけね! 話が長いから売店で軽食でも買って来ようかと思ったわ!」
 いつの間にかフェルゼンハント卿の開幕スピーチを終えて参加者達が一団となって移動を始め、利香とルーミニスが並び走る。
 その際、利香の乗るパカダクラに量産型ハイパーメカニカル子ロリババアが電子画面上に『ポリタンクモンスターがバターナッツとクラッシュして揚げ物にされたような顔』を浮かべて恐怖させていた。
 勿論乗っている飼い主達はそれを知らない。

 スタートラインへ参加者達が向かう最中、そこでは温かい空間が広がっていた。
「よーしよしよし、これが終わったら久しぶりに全身ブラッシングしような」
『わおーん!』
「はは、その調子だ。頑張ればお前の好きなパンをいっぱい食べさせてやるぞ」
『わおーん!』
 レース前のスキンシップ。言葉は通じずとも互いの想いは伝わると、信頼あってのやりとりだ。
 『養父は帰宅を決意する』ウェール=ナイトボート(p3p000561)が跨る、タンポポ色の毛並みをした狼のような生き物の名はポポといった。
「ふむ……仲が良いじゃないか」
 隣に並んだランドウェラの声にウェールが頷く。
「ああ、そういうランドウェラさんはどうだい? 確か今朝、ムギという個性的なロバを連れていたと思うが」
「え? ムギは見学させに来させただけだよ」
 ランドウェラが指を鳴らして振り返る。
「さあ、その目に焼き付けてくれ。我らの勇姿、我らの勝利を!!」
『ハヒィィィッ!!』
 何か手元を顔に当てて決め顔と共に繰り出すイイ声。それを見たムギは猛烈に喜んでいるようだった。
「よろしくなー、小鳥ちゃん。無理はすんなよー?」
 そんな彼等の横を飛び抜ける一羽の小鳥。
 エクリプスが放った小鳥が町の上空へと昇る間に、スタート地点に着いた参加者達へ先頭のフェルゼンハントが小さな拳銃を頭上へ構えた。
「さぁ! いよいよレース開幕だ、準備はいいかね諸君! 出来ていなくても出発するけどね!!
 ハハハハハ!! この信号弾を撃ったら鬼ごっこは始まるので気を引き締めたまえよ、今から三つ数えるぞー?
 イーチ。おぉっと手が滑ったアクシデントだ!!──────☆☆☆」
 信号弾を落としながらぱんつ一色に彩られた馬の尻へ振り下ろされた鞭と同時に駆け出すフェルゼンハント卿。
「さぁ、楽しむとしようか!」
 それをポカンと見送る参加者達を置き去りに、赤き旋律が尾を引きランドウェラ達も追走する。
 そして、イレギュラーズが追って来るのを確認した卿はメガホンで後方へアナウンス。
「なお、参加申し込み時にも書いていたが私が走ったらレーススタートなのは変わらないのでそのつもりでね」

<「あの煽りっぷりは間違いなく俺をカジノで嵌めたフェルゼンハント卿……ゆるさぬぇえぇぇえええ!!!」
<「ボス! 落ち着いて!! ボーーース!!!」

 参加者(名演技のエキストラ)の殺意とやる気(殺る気)が完全にオーバーヒートとなった瞬間、一斉に32人の男達が駆け出し、走らせ、怒号を上げて迫り行く。
 一人だけ妙に激怒している様子を見せる男と、その仲間らしき男達を小鳥は俯瞰して見下ろしていた。
「……なんか、あっさり見つかったかもなー?」
 エクリプスは直ぐに仲間へと報せるのだった。


 猛然と撒き上がる粉塵を突き破り、馬達が路地を駆け巡る。
 その先頭を独走するフェルゼンハント卿がメガホンを取り出した。
「さぁ! ここから見える中で中々の美丈夫を紹介しよう!
 参加ナンバー25番、ウェール君!! 悪のレーサーだった彼は息子に負けて谷底に転落した過去を持つ男!
 謎の生き物ポポを相棒として復活し、ダークヒーローならぬダークレーサーとして蘇り! 今回はこの私と乗馬の腕を競うついでに旅の資金を稼ぐつもりのようだ!
 残念ながらその望みは叶わんよキミィ~~~何故なら私は名も無き幻想貴族の中で最速だからね多分ね!!」
「……」
(ウェールさんの顔が……!)
 全力で追いかける利香が一瞬横合いのウェールを見た時、何というか見るからに不機嫌そうな顔になっていた。
 ちなみに打ち合わせとは全く関係ない。ただただ、卿のアドリブがウザいのだ。腹立たしいのだ。
 触れないに越したことは無い。利香は見なかった事にして周囲を警戒する。
 既にベルモンデ一派らしき姿をエクリプスが発見したと聞かされ、一定の距離を保つように馬を走らせる彼女達は事前に決めていた作戦を決行する事にしていたのだ。

 ────チュドーン!!

「!?」
「敵を一騎落としました」
 驚くフェルゼンハントの真後ろ。空中を航空力学的に駆ける少女、シエルが無表情のままにサムズアップする。
「う……馬はどうしたんだね!?」
「見ての通り自分で走った方が早いので」
 走ってねぇ!! そう叫んだフェルゼンハントは手綱を握り直してからキリッと振り返った。
 小さく手招きし、シエルが近付く。
(……このコース先には君達の提案通りの罠がある、本当に構わないのだね?)
(既に後方から武器を抜いている敵影があります。現在もエクリプスさんがマーカーを付けている以上、あれが敵で間違いないでしょう)
(素晴らしい。エクリプス君に称賛を送ろう)
 鋭角に路地のカーブを曲がって、彼等は再び距離を離した。
「さぁ……出番だ、ローレットの諸君!」

 ──
 ────
 ────────

「クソォ……!? ど、どきやがれ!」
 入り組み、細長い路地を駆け行く『負け犬』ベルモンデ・カーチェスは予想だにしていなかった妨害を受ける事となる。
 他の参加者達の脚が遅いとはいえフェルゼンハントは相当の逃げ足の速さを誇る。そこで彼は上手く町の作りを見極め、ショートカットして追い着こうと画策していたのだ。
 だが、運が無かった。
「あの宝石とかパンツはアタシのよ! アンタのパンツも剥ぐわよ!」
「ムスメっ子が何言ってやがんでい!」
 背丈を越える巨大な得物を薙ぎ払うルーミニスとHMKLB-PMはさながら暴風戦車が如く。
 どうにかフェルゼンハントに対する怒りで自身を鼓舞するが、ベルモンデが打ち合った瞬間手持ちの斧が粉砕されて血相を変えた。
 見覚えが、あったのだ。
「ひぃ!? 『白銀の大狼』……イレギュラーズじゃねえか!」
「はぁ?」
 何の事か一瞬分からなかったルーミニスだったが、直ぐにそれが自身の事だと至る。だから逆にどうしたのだと眉を潜めた。
 速度を落とし急旋回。ルーミニスからベルモンデが逃げようとする。
 しかし。
「へぶぅるぁあッ!??」
 ピンッ、という弦を弾いた様な音が鳴った瞬間にベルモンデが馬上からぶおんと宙返りして落馬した。
 ショートカットのルートから外れようと脇道へ入ろうとした時の事だった。
 ちょうど彼の首の位置にピアノ線が引かれていたのである。
 即座に追いついたルーミニスが大戦斧を片手で振り上げ、ベルモンデに斬りかかる。
「く……喰らえ閃光玉ぁー!」
「ッ! 見えないなら全部吹っ飛ばしてやるだけよ!!」
 視界を塗り潰す閃光。耳を麻痺させる爆音。
 しかしルーミニスはHMKLB-PMの上から跳躍して前方へ飛び込み、肩に担いだ大戦斧を奮い縦横無尽に暴れまくる!
「嘘だろッ……ぐ、ぐ、ぎゃああああ!!」
 二度三度打ち合う事は出来ても、全力のルーミニスの一撃を長くは持ち堪えられる筈は無く。
 『新生・砂蠍』が一人、ベルモンデ・カーチェスは直後に脳天に振り落とされた鉄塊に打たれその意識を手放すのだった。

 ──────
 ────
 ──

「ばかもんが! 賞金はワシの物じゃ!」
「あれは私の宝石ですよ!」
「あのレアなぱんつ! 誰の物でも無いボクの物っす!」
 ベルモンデ一派に(何故かアグレッシブに)襲い掛かる『空の翁』ベン=ジャミン(p3p006779)を始めとしたイレギュラーズ達が叫ぶ。
 エキストラと違い、あくまで演技なのだが。彼等をそうと知らぬベルモンデ一派の下っ端達は阿鼻叫喚であった。
「くそぉ!? なんでただのレースなのにこっちにガトリング撃ってんだあの爺さん!」
「向こうの銀髪……イイ」
「ボスはどうしたんだよ! ただでさえ追い付けねえのに、これじゃただのレースでおっ死んじまう!」
 障害物で隠れてから変装する事でイレギュラーズの目を眩まそうとした仲間はいない。
 まるで罠にでもかかった様に落馬して力尽きていたのだ。
 完全にマークされ、或いは利香によるチャームを受けた者は不利な状況から逃れる事が出来ないでいた。
 まさかそんな事をしている裏でベルモンデが捕まっているとは知る由も無いが、完全に彼等下っ端達は今この時、まさに犬死にする羽目になっていた。
「チクショウ! 来なければ良かった……!!」
「でも賞金は欲しいですよね?」
「欲しい!」
「それでは素敵な夢へご案内しまーすっ!」
 え? といつの間にか隣で並走していた利香へ振り向いたのも束の間。
 妖しく瞬いた金色の瞳に吸い込まれる様な、惹きつける様な輝きに魅入られた下っ端の男は瞼を閉じて幸せな夢に溺れ、落馬する。
「チャームと魔眼の併用、効果ありますね」
 上手く行った事に「いひひ♪」と悪戯気に笑う利香が手綱でパカダクラを煽って駆け抜けるのだった。
 
「所でエクリプス、ルーミニスはどこだい!」
 横合いから突っ込んで来たフェルゼンハントを狙う賊、それを見逃さず遠距離術式で迎撃するシエル。
 その隣を抜けて行くランドウェラが擦れ違い様に雷撃を馬上から撃ち込んで落馬させた。
「ぶつかっちゃったらごめんなー? 飛んで来たら避けてなー? ……んー? ルーミニスならさっきベルモンデを追って行ったよ」
「ちょ、やめっ」
 前から毒瓶をポイポイ投げるエクリプス。
 それを避けようと蛇行する砂蠍下っ端、次第に馬がここまで全力疾走させられていた疲労が溜まって来たか。回避が遅れた下っ端へ体当たりする様に距離を詰めたウェールが火炎の一撃を見舞う。
「面倒なのを仕留めてくれていると助かるのだが、どうだろうな。何故合流する事ができないんだ」
「忙しいか、或いは罠を避けるルートを通ってるんじゃないっすか?
 よく考えてみたら、ボク達もこうして走り続けてるんで、多分まったく違う場所に出ちゃって道に迷ってたりしてると思うっす」
「一応、オレっちのファミリアーで探してみるよ」
 ランドウェラの雷撃に撃たれた下っ端を馬上から跳び込んだレッドの黄金の刃が一閃する。
 グラつく馬上から自身の軍馬へと飛び移り、下っ端が落馬するのを見送ったレッドがフェルゼンハントを追う。
 フェルゼンハントを追う下っ端も残り僅か。たった二騎で他のレース参加者(イレギュラーズ)を退けられるかと言うと、それは無理という話だった。
「く、クソ……!」
「あー!? 待て待て! 置いて行くなぁああ!?」
『グゥィッヒヒヒヒ!!』
「な、なんだコイツそこどけぇー!?」
 逃走しようとコースから脱するべくターンする下っ端二人、そこへ現れたのはランドウェラを追って来た野ロリババアのムギだった。
 老婆の声で鳴くその姿にドン引きして足を止めてしまう男達は背後に銃口を突き付けられているとは知りもしない。
 馬上で片足立ちに構えたベンが大型火器の引き金を引く瞬間、低い声が男達の背中を撫でた。

「賊を名乗る野郎が、ケジメの一つもつけないで何処へ行こうと言うんじゃ?」
 瞬間。爆ぜるかの如く噴いた火線が男達を襲い、いずれもその結末はベンから逃れる事は出来なかった。


●鬼ごっこは終わり
 レッドは差し出した掌にハイタッチを受け、どこか納得いかない顔をした。
「そう不貞腐れないでくれたまえ。この身に纏っているのは全て我が愛する娘のぱんつなのでな、勝手に人へ譲ったと知れればセレナーデに嫌われてしまう」
「それ、もう手遅れっす」
 レアなぱんつが貰えないかと交渉してみたが失敗。レッドはジトっとした目でフェルゼンハントを見上げていた。
「それはそうと、作戦は無事に成功。皆よくやってくれたね、私から最大の称賛を捧げたい」
 広場へと戻った一同を見回して腕を広げたフェルゼンハントはそう言った。
 当初こそ、危険と言えば危険な要素を含むシナリオとなっていたがイレギュラーズのそれぞれの連携が繋がり、協力した者達全員が実を結んだのだ。
「どうして目を逸らすんですー? ほらほら、無視されると寂しいじゃないですか」
「目を合わせるなよ! 絶対にこの女と目を合わせるなよ! 目が覚めた事を激しく後悔させる様な幸せな夢を見せて来るぞ!」
「でも……なんか甘い香りが……」
「馬鹿野郎てめぇはうなじ派だろ!! しっかりしろ!」
「ばあ♪」
「はんッ」
 捕縛した砂蠍、ベルモンデ一派は軒並み捕えられてじっくりと一人ずつ利香に眠らされていた。
 今回の作戦で見事に敵を分散、連携力を失わせる事に成功していたからこそ彼等は容易く捕まっただけなのだ。油断は出来ないのである。
「ま、逃げてもアタシが直ぐにとっ捕まえてやるけどね!」
 縛られ転がされているベルモンデの傍で肩を鳴らすルーミニスが腕を叩いた。

 一仕事を終えたウェールとランドウェラは互いに自身の連れて来たパートナーを褒めていた。
「よくやったぞムギ、帰ったら祝勝会だな!」
「ポポもお疲れ様。お前の好きなパンだぞ、まだ中はふんわりしてて美味しいからな……よしよし」
 老婆の声と犬っぽい鳴き声が響き、周囲に続々と集まって来たエキストラである参加者達がイレギュラーズに拍手した。
 そして最後に、散々開催前とレース中に煽られた者達がフェルゼンハントにそれはそれは見事な平手打ちを振る舞う。
「ミッションコンプリート、ですね」
 スタート地点で待たせていた馬に人参を差し出しながら、シエルが小首を傾げるのだった。

成否

成功

MVP

ルーミニス・アルトリウス(p3p002760)
烈破の紫閃

状態異常

なし

あとがき

お待たせ致しました。
依頼は成功、皆様の活躍により砂蠍の一端の企みは潰えました。

北部・南部戦線お疲れ様でした。今一度訪れた休息の中でまた次の機会に備えましょう。
今回のMVPはベルモンデの行動をまんま当てて仕留めた貴女に。
またのご参加をお待ちしております。

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