PandoraPartyProject

シナリオ詳細

対価とは常に支払われるべき

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●沈黙は金?
 ショウ・ブラックキャットは、目の前の男がどうしようもなく貴族であることについて特に何の感情も持たないまま、淡々と過ぎ行く午後をローレットの玄関先から眺めていた。
「――というわけで、私は今週も来週も非常に忙しく、今日だってこの後すぐマッカーの仕立て屋に向かわないといけない。次のパーティで着る礼服の受け取りでね。だというのにメイドも下僕もこんな日に限って皆用事で屋敷を空けているし、メアリがついに産休に入って――いや、母子ともに大事ないことを祈っているがね。とにかく僕がここに立ち寄るには難しい調整が必要だったんだよ、分かるかい?」
「はあ、お忙しいようで」
 ショウは長いこと生返事しか返していないが問題なくやり取り(やり取りなのか?)は続けられている。貴族の男は煌びやかな私生活について聞く者があればそれだけで満足なようだ。彼は毒・呪い耐性の高そうな銀糸の刺繍びっしりの襟元を意味もなく正しながら、今度は自身を慕う女性の数がいかに多いかを語り始めた。
 ふと視界の隅を幸せそうな顔をした黒猫が歩いていく。どこぞの庭先で良い缶詰でも貰ったのだろうか。俺もそろそろ昼食にありつきたいのだが。
 チラリと通りに目をやると同じように待たされ続けている男の馬車が目に入る。
 繋がれた馬たちは石畳の草を器用に食んでおり、御者はいつの間に調達したのか主人からは見えない位置でサンドイッチの包みを開いていた。
 なるほど、この手の人間と正直に付き合っていてもしょうがないのだ。
 ショウはおもむろに口を開く。
「あの、依頼なら手短に――」
「それで頼みたい用件なのだが――む?」
 貴族の男は僅かに眉を動かす。
「せっかちな男は得をしないぞ、情報屋くん。それについては今から話そうとしていた所だ」

●ローレット、酒場にて
「危険の少ない仕事なら丁度いいのがあるよ」
 ショウは食事の手を止めて懐のメモを取り出しながら、都合良く尋ねて来たイレギュラーズに答える。
「集金なんてどうだい?」
「それは、つまり借金取り?」
 ショウは返された質問を緩やかに首を振って否定する。
「似てるけど少し違うかな。未回収になってる商品の代金を集めて回る仕事だよ。どうだい?」
 問を重ねつつも、ショウはそのまま返事を待たずに食器を脇に避け、テーブルに2枚の紙を広げて置いた。
 後は話を聞きながら判断してほしいということだろう。
 置かれた紙には人名や商品名、金額等が書かれており、どうやら何かの帳簿の写しらしい。
「向かう先は2か所……街の古物商と田舎のパン屋だね。集金すると言っても金額は安くないし、当然ただお願いするだけじゃあ済まないよ。もしそうしたとして、要求額の半分出てくればいい方じゃないかな。それで良いなら依頼主もわざわざローレットに持って来ないで屋敷のメイドにでも頼んでいるさ」
 そのメイドが引き受けるかは別としてね、とショウは例の依頼主を思い出しながら付け加える。
「つまりこの件は訳ありだ。そういう相手からきっちり全額引き出すのが今回の仕事だよ。その為にも、相手に合わせた振る舞いをしっかり考えてほしい。それぞれの状況を話すから紙を見ながら聞いてくれるかな」
 ショウはテーブルの紙のうち片方を指で示しながら言葉を続ける。
「まず古物商の方は、割と新しめの店だけどまあまあ儲かっているらしい。羨ましいね。店主の男は依頼人から古代の遺物を購入している。ただね、しばらく経ってから店主が急に偽物を無理やり買わされたと主張し始めて、代金の支払いを拒否しているそうだよ。それが本当か嘘かは分からないけど、とりあえず情報として『店主は時々嘘をつく』という評判があることは間違いない。その分人の嘘に敏感なのかもしれないね……まあ推測だよ」
 ショウは意味ありげに薄く微笑みを浮かべ、続いて2枚目の内容に移る。
「パン屋については3人家族で、あまり裕福とは言えない。若い娘が病気の母親を支えながら何とかやっているのが現状だ。買った商品は母親の薬で、これは以前から定期的に購入しているものだそうだ。最近になって支払いが滞るようになったらしい。あと息子が出稼ぎの農夫だけどこの時期は仕事が減るから収入が少なくなるのだろうね」
 付近の村を探せば冬場の農作業も多少はあるが、大部分が人を雇う程ではないか、身内で済ませたりするお陰で雇われの仕事が無いのだという。
「以上、あとは一週間後に集金に向かうだけだよ。やり方は交渉なり力技なり色々あるけど、こういう時は相手と打ち解けると情報が拾いやすくなるから……一応情報屋としてお勧めしておくよ。ちなみに依頼主は自分の評判が落ちなければ何でもいいそうだ。いつも通り、法に触れるのは自己責任で。ま、何事もお互い気分良く終わるのが一番さ……」
 一通り話し終えたショウは改めて手元のメモを確認し、数秒後、呻きを漏らした。
「ああ……そういえば、窓拭きが」
「窓?」
「いや、依頼に入っているから一応は伝えるけど、話半分で聞いてほしい――」
 ショウは説明しながら、余計な注文をしてきた依頼主の言葉を思い返していた。
「私の屋敷の自慢の窓をピッカピカにしてくれると有難いね、実に有難い。もちろん報酬は出すぞ。何、心配するな。大人の背丈以上のガラス窓が何百枚とあるからね、好きなだけ磨いてくれて構わないよ!」

GMコメント

GMのゆうれいです。
この新しい世界の片隅で細々と物語を紡いでいければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
世の中世知辛いですが幻想の街はもっと世知辛いだろうと思います。
ホッとできればいいのですがなかなか貴族様にはかないませんね。

●成功条件
 未収の代金を全額を回収する

●失敗条件
 シナリオ中で誰かが死亡する
 
●『優雅な貴族』ヌーヴェル卿
 ブリリアントな依頼人。
 貴族としてはまだ話が通じるタイプで恋心は多いが独身。
 ガールフレンドの一人セシルの愛犬に相応しい首輪を作らせるため、
 資金の回収ついでに手に余る問題を解消したいとか何とか。

●集金活動
 2か所の指定先で集金活動を行います。
 それぞれ成功すると全額回収、失敗すると半額もしくは収穫なしとなります。 
○行先
 各人が行先を選択する必要があります。
 同じ人が古物商とパン屋の両方に向かうことは出来ません。
○集金
 一週間後の日中に集金を行います。
 集金時は3つの方向性から1つを選択し、
 選択内容と具体的な手段をプレイングに明記してください。
 相手からの印象が良いほどスムーズに行動できますが、
 逆に印象が悪いと【C】戦闘以外の行動が制限されます。
【A】交渉
 対話・懐柔等により金品を差し出させる。
【B】調査
 捜索・探索等により金品を発見し押収する。
【C】戦闘
 恐喝・暴力等により金品を強奪する。
 
●古物商『ルイン・ダーク』
 開業数年程度の年代物の雑貨を取り扱う店。
 都会の貴族御用達を目指しており店の商品はなかなか高額。
 商品の売買では利益のため時に虚実を混ぜるとの噂がある。
 店主ゼフェルがヌーヴェル卿から購入したのは
 「古代の物質で作られた古代の歯車」。
 真贋不明だが店の商品と比較してもかなりの高額。
 刀使いの雇われ用心棒がひとり、店の奥で待機している。
○『流れの狩人』ハシクラ
 スカイウェザーの刀使い。目つきが格好いい。
 しっかり心付けをもらっているため戦闘時は張り切る。
 刀の近接攻撃と体裁きによる回避が得意。
 
●パン屋『ブランマルシェ』
 村に根付いたパン窯の家。毎朝いい香りがする。
 普通に生活する分には問題ないが母親が倒れてからは生活が苦しい。
 姉のサラが父の跡を継いでパン屋を仕切っている。
 ヌーヴェル卿からは定期的に「母親の薬」を購入しており、
 ここ数回分の支払いを待ってもらっている状態。薬の価格は相場程度。
 弟のマルクはサラを手伝うもののパン焼きには向いていないらしく
 空いた時間に良い仕事がないかよく探している。

●窓拭き
 いつでも誰でも大歓迎さ!
 冬の屋外作業はとても寒くとても疲れますが、
 その分報酬が相応の額に設定されています。
 
●その他
・集金中、同じ場所で4人以上が【C】を選択ないし実行すると
 必ず恐喝のみで解決し実際の戦闘は回避できます。
・回収金額不足の場合、不足分を補うため強制窓拭きです。
 それはそれで依頼主は喜びます。
・集金まで一週間準備期間があります。
 「集金活動を行う」以外の準備行動を行えますが、
 あまり無茶な行動は計画倒れとなります。
・過激な描写はマイルドになる恐れがあります。

戦闘は条件つきでの発生となるため、
基本的にそれ以外の描写が多くなるかと思います。
それでは皆様のプレイングをお待ちしております。

  • 対価とは常に支払われるべき完了
  • GM名yakigote
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年03月17日 22時45分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クローディオ(p3p000997)
イシュトカ=オリフィチエ(p3p001275)
世界の広さを識る者
ミア・レイフィールド(p3p001321)
しまっちゃう猫ちゃん
ジョー・バーンズ(p3p001499)
クロジンデ・エーベルヴァイン(p3p001736)
受付嬢
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
祈りの先
不破・ふわり(p3p002664)
揺籃の雛
コリーヌ=P=カーペンター(p3p003445)

リプレイ

●一依頼二分割という中々の暴挙
 借りたものを返さねばならない。
 道理にかなった話だ。
 そりゃあ、返せないというからには何某かの理由もあるのだろう。
 それは貧困であったり、病であったり、それに伴う不運であったりするのかもしれない。
 返せないものは返せない。存在しないものを渡せるはずがなく、誰だって約束よりは生命を優先する。
 貸した側はたまったものではないが。
「やぁ、僕らはローレットの……いわゆるイレギュラーズさ」
 件のパン屋。その扉をくぐるなり、クローディオ(p3p000997)。
「ヌーヴェル卿の依頼で薬の代金回収に来たよ」
 その言葉に、売り子をしていた女性がぴくりと身を震わせる。
 戦闘も生業にするような者が取り立てに現れたのだ、無理もない。
 ことを荒立てるつもりはない。それならば、まずは信頼関係を築かねばならないだろう。
 そう思えば、なかなかに厄介な仕事だった。
「はじめまして。ミア、なの……♪ 可愛い可愛い、白猫の借金取り。なの……♪」
 多少おどけて『しまっちゃう猫ちゃん』ミア・レイフィールド(p3p001321)が続けてみるものの、これで警戒が解けるのかは怪しいところだ。
(今までは……ちゃんと払ってた。たぶん、無い袖は振れぬ……って奴、なの)
 無いものを絞り出すことは、出来なくもないが最後の手段だ。
(なら、稼ぐ方法を……提示してあげればいい、の)
 ここにきて、『祈る暴走特急』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)が詳細の説明を始めた。
 支払いに困っているのは知っているということ。暴力的に解決するつもりはなく、以後にも繋がる形で協力したいということ。
 見知らぬ相手が4人も押しかけて金の話をするのだから、警戒するのは当然だ。
 だが、高圧的な態度をとらなかったことが功を奏したのか、少しだけ、売り子の顔から緊張がほぐれて見えた。
 その上で、『玻璃の小鳥』不破・ふわり(p3p002664)は見せた従者も警戒を解く一助となったのだろう。
「この子たちも一緒に頑張ってくれますから安心してください」
 そう言って呼び出したのは、自立した動物のぬいぐるみだ。
 それが彼女に倣ってお辞儀をするものだから、どう見たって力任せな取り立て屋には見えやしない。
 売り子の女性が、少しだけ笑みを見せる。どうやら、話は聞いてくれそうだ。

『特異運命座標』イシュトカ=オリフィチエ(p3p001275)は、件の相手の同業者、つまりは他の古物商へと聞き込みを行っていた。
 急な客でもない相手にまともに取り合ってくれることもなかったが、ひとの口に戸が立てられる筈もなく。
 いくつかの店を巡った頃には、客と店員のこぼした噂話くらいは集まっていた。
 虚実入り交じるであろうそれらを浮かべながら、さて精査は可能だろうかと、少しだけ目を閉じた。
「商人に最も大事なのは信頼だと言うのに。道理をわきまえぬ男がいるものだね」
 どちらがどう、などというのはジョー・バーンズ(p3p001499)にも区別がついているわけではない。
 しかし、契約の履行は正しく成されるべきであり、それを反故にするというのは如何なる事情であっても個人の裁定でどうにかなっていいものではない。
 法的根拠を覆すには、法的な手続きが必要なのだ。
 それを踏まないというのであれば、つまりはそうなのだろう。
「危険の少ない仕事って、借金の取り立てかぁ……」
『Esper Gift』クロジンデ・エーベルヴァイン(p3p001736)には思うところがあるようだ。
「うーん、ちょっと強くなろうと決意したとこだったけど、こういう力押しが通じないお仕事も大事だよねー」
 力押し、でないこともないのかもしれないが、そういう手段に初めから訴えるつもりもない。
「じゃー、貸した金返せーって歌いに行くかー」
「代金の回収だー。滞納は良くないよ? いやホント」
 コリーヌ=P=カーペンター(p3p003445)の言うように、取り決められた時間を守るというのは信頼を得る上で絶対事項のひとつだ。
 数値だけを見て、機械相手に商売をするわけでもあるまいし、そこには何某かの感情が入り乱れるものだ。
 其処をないがしろにし、目先だけの利益を優先すると、自分が困ったときには誰も助けてくれなくなるだろう。
 さて、ではしばし、二幕に渡って物語を追っていくとしよう。
 
●パン屋サイド
 クローディオがヌーヴェル卿宅の窓を拭いている。
 強い風に濡れた指先が痛み、思わず手をひっこめて擦り合わせた。
 うまくいかないものだと思う。
 薬と件の母親の病状を見れば、そちら方面へのアプローチも可能ではないかと考えていたのだが。
 症状から想定される病の特定。どの薬効が有効であるのか。そもそも、今使用している薬は本当に有効なものなのか。
 肝心な要素に置いて全て、専門知識が必要だった。
 薬とは病素を追い立てる毒に他ならない。
 既に伏した相手にそれを見誤れば、生命を摘み取ってしまう恐れすらあった。
 こうして自分が窓を拭いているのも、危険性を考慮した結果だ。
 継続的な金銭の解決にはならないかもしれないが、要の店を取り上げられるよりはいいだろう。
 視線移せば、離れたところでマルクが懸命に窓を拭いている。
 少しだけやる気が出た。
 かじかむそれに堪えつつ、雑巾を一絞り。
 まだまだ、硝子の群れは残っている。

 マルクに対し、窓拭きの仕事を進めたのはミアだ。
「ヌーヴェル卿様も鬼じゃない……の。きつい仕事、だけど……暇してるなら、割のいい話と思う、にゃ。それにお金がないなら……働いて返すのは道理、なの……!」
 さて、マルクに仕事を斡旋した手前、当面の資金ではある程度問題ないのではないかとミアは考える。やや自意識の高いきらいのあるヌーヴェル卿だが、集金に当たり、物理的な手段を強行しないあたり、貴族としては身分差に対しかなり肝要ではないかと伺えるからだ。
 しかし、依頼達成には全額が必要だ。まさか、悠長に溜まるまで待つというわけにも行くまい。
 人手の足りなかったところを協力し、少しだけ多めに焼いたパンを外で売ろうとしているのだが、一般的な食料店というのは需要が決まっているため、ある程度何処にでもある。
 まさか病床の母親を無理に働かせるわけにもいかず、まずは現時点での金払いと、兎にも角にもその母親の回復が第一だろう。
 難しいものだと、少しだけため息をついた。

 ヴァレーリヤがマルクの職を探している。
 今は時間が惜しく、ひとまずはヌーヴェル卿宅の窓拭きに従事してもらっているが、その賃金には冬の間ということによる手当も含まれていると聞いている。
 やはり継続的な収入源は必要だろう。暖かくなったらまた金に困るというのでは、今だけを解決しても後味が悪い。
「窓拭きの賃金と比較して、割りの良い仕事が良いですわよねー」
 貴族の下働きよりも金銭的に有利な、というは難しいとは思う。
 しかし、季節柄に影響されず安定して継続できる仕事、という面では見つけられるかもしれないのだ。
 酒場や徒歩で通える範囲の商店、教会といったようなある程度の人手が必要とされる場所で、求人の話がないか聞きまわっていく。
 家からの距離、勤務時間、賃金。足を運び、労働条件をまとめ、また次の場所へ。
 雇ってもらえるかはマルクの努力次第だ。
 だが、ヴァレーリヤはその頑張りを疑ってはいなかった。

 ふわりは呼び出したぬいぐるみ達を使って、家庭までを含めたパン屋全体のサポートに回っていた。
『メイド長』白猫のミュンちゃんと名付けたぬいぐるみを全体の監督役として、状況や手伝う内容により呼び出せるもう一体を切り替えていく。
 母親の看病が必要とあれば『メイド』たれ耳兎のプルムを呼び出して看護を行う。
 掃除洗濯などの家事に関しては『清掃方』あらいぐまのリンに任せておけばいいだろう。。
 食事時には『料理長』灰熊のロッシュで消化しやすく、栄養価の高いものを振舞ってもらう。
 都度の入れ替えは面倒だが、家の仕事を一手に引き受けることで、パン屋側の仕事に集中してもらい、母親への不安や心配も緩和させられるだろう。
 ぬいぐるみがスープ皿や着替えを運んできたときには母親も目を丸くしていたようだったが、次第に慣れてきたのか、ぬいぐるみに向けた笑顔も見える。
 可愛いハウスキーパー達は、どうやら受け入れてもらえたようだった。

●古物商サイド
 ジョー、クロジンデ、コリーヌの三名が店内へと入っていく。
 装いは、令嬢とそのお付き、といったところ。
 上等な客だと見せかけることで、店主への接触を容易とするためだった。
 予め来店を伝えておいたため、適当な丁稚にジョーがその旨を伝えると、少し待てば店の主人、ゼフェルが現れた。
「私ではクロジンデ様のご期待に応えられず……評判の良いゼフェル殿のお店ならばと」
 権力者の名前を出して傘を着せる案もあったが、やめておいた。こちらも適度な嘘を交えて潜り込んでいる以上、関係のない相手、それも地位の高い人物を話題に上らせるのは得策ではないだろう。条約があろうと、感情は別物だ。
「クロジンデお嬢様ー。コレとか良さそうですよー?」
 店主の相手はジョーに任せ、コリーヌは適当な品物を手に取り、クロジンデに見せている。
 元が専門家であったとしても、混沌肯定により性能の統一化を測られている状態ではその真贋にそこまで自信を持てるわけではない。
 だからこそ、コリーヌの口調も態度も正しいと言える。
 下手に教養深い従者であるように振る舞えば、まかり間違って偽物を見破れなかった際にボロが出ることになるだろう。
「古いものほど好きなのですわ。此処に出している物以上に、古い物はないのかしら?」
 ある程度店内を見て回ったところで、クロジンデがそう切り出した。
 それならばと、ゼフェルが店の奥から例の歯車を持ち出してくる。
 これの価値などわかりはしなかったが、依頼説明時に聞かされたものと同じと見て間違いない。
 店主の言う金額は、事前に知らなければ同様で目を見開いてしまうほどのものであったが、顔に貼り付けた笑みを崩さぬことにはなんとか成功したようだ。
 これが欲しいと伝え、高額の取引にゼフェルが目を光らせたところで、ジョーが切り出した。
「しかし妬みで口さがない事を言うものがいますな」
 ゼファルという人物が、利益のためには虚実を混ぜる人物だと、その噂をさして言う。
「ゼフェル殿が真贋見極められぬ目の持ち主であるなど! それだけならばまだしも商人であれば贋物を掴ませられたとしても真贋見抜けぬ目を恥じるべき! 契約を反故にしたいという等! そんな事をする訳がない!」
 唐突に声を張り上げたのは、店内の誰しもに聞かせるためだ。
 支払いに関する点をあげてしまったことで、こちらがヌーヴェル卿の関係者であることは感づかれてしまうだろうが、もう遅い。
 懐まで潜り込ませてはいけなかったのだ。
 経験の深い商人であれば、それこそこちらの真贋を容易く見抜いてきたのだろう。
 だが、目先の欲にくらみ、嘘をついてまで一時の利益を出そうとする相手だ。
 突然の攻撃に対処が遅れている。ジョーは反論の言葉も思いつかせぬまま、捲し立てた。
「無論そんな噂信じておりませぬが! そうですよね!?」
 では、仕上げといこう。

「ヌーヴェル卿からの依頼でね」
 喧騒がふっと静かになるその瞬間。天使が通るとも言われるその現象。
 まさか意図的にそれを生み出せはしないだろうが、イシュトカはそのタイミングで自分の言葉をするりと滑り込ませた。
 けして大きい声ではなかったが、イシュトカの方に注意を向けるには十分な程の。
「なかなかの値打ち物を揃えているようじゃないか。それに商才も豊かと見える」
 まだ混乱から立ち直っていないのだろう。
 ゼフェルはイシュトカに視線を向けてはいるが、大凡商人らしい言葉は出てこない。
 無論、回復を待ってやる義理があるわけもなく。
「ああ、そう警戒しないでくれたまえ。どうせ全て調べ上げてあるのだし……身の振り方次第で、これは君にも悪くない話だ」
 その隙間に自分の言葉を浸透させていく。
 今しがた、喧騒の空白に潜り込んでみせたように。
「いいかい、よく考えて決めたまえ。詐欺師の誹りを受けるか、商人としての名誉を得るかを、ね」

●集合
 結果として。
 代金の回収には問題なく成功したようだ。
 後日、互いの面々は各々の成果を報告しあい、その全額をギルドへと届けてみせた。
 人間の思惑も、事情も様々だ。
 善悪という要素には立場が加わるものなのだと、知ってはいたが、実感する。
 しかしまあ、今は小難しい話はおいておいて。
 せっかくだ。土産のパンでも頬張るとしよう。

 了。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お金は大事。

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