シナリオ詳細
<ジーニアス・ゲイム>チェック・メイト
オープニング
●幻想王宮内
「やぁローレットの諸君! 先の砂蠍の暴挙では実に活躍してくれたそうじゃないか!」
何事か。王宮に呼び出された貴方達は真っ先にフォルデルマン三世の前へと通された。
その隣にはいつも通り『花の騎士』シャルロッテ・ド・レーヌ(p3n000072)が控えている。お忙しい中またまたお呼び立てして申し訳ない……という苦笑顔を貴方達に見せながらも、フォルデルマンのテンションは高い。
「幻想蜂起からかねてより君達の英雄譚は留まる所を知らないな! 私もこの幻想と統治する者として鼻が高い限りだよ――と、言いたい所なのだが」
途端、フォルデルマン三世は眉間に皺を寄せ深刻そうな表情を。
「よくよく考えてみるとだね。私はシャルロッテなどから又聞きをしているだけなのだよ君達の活躍に対して。いや、彼女が嘘をつくと思ってなどいない。思ってなどはいないが――英雄譚は君達自身の口から聞いた方がよりリアルに、鮮明に感じられるのではないかと思ってね!」
ああ、なんかこれはまた碌でも無い事を……つまり話し相手になって欲しいという事か。
シャルロッテ、彼らにお茶を! とフォルデルマンは指を鳴らす。すれ違いざま、彼女は貴方達へ。
「――陛下も悪気はないのですよ。陛下は、囚われた方々がいるのをご存知です」
しかしその上で。
「陛下は言われました『出来なかった事は出来なかった事として。出来た事は出来た事として別に褒め称えるべきではないかな』と」
――まさか。あのフォルデルマンが、そんな。失礼ながら凄く珍しくマトモな事を。
「ともあれ今宵は折角訪れられたのです。ごゆっくりなさってください。北も南も予断を許さぬ状況ではありますが……王都にまでは流石に、危険は迫っていないのですから」
そう言い、彼女は一旦退室を果たす。王の間へと続く廊下を歩きながら巡らせるは思考。
北部は鉄帝に動きがあると報告が入ってきている。ザーバがついに動いたという事か。
しかし『こういう事態』に至ればこそようやく結束を見せる貴族軍がいる。早々簡単には抜かれないだろう。ザーバならばギルド条約を利用して、鉄帝側にもローレットを参戦させるかもしれないが……
「そう考えると、ここに幾何かだけでも彼らを留まらせておく事は悪い事ではありませんか」
シャルロッテは別室にて茶の準備をしながら思考を巡らせる。
話が終わるまでの今夜だけでも彼らは幻想側のローレットとする事が出来る。鉄帝側に人材を流させないだけ悪い事ではない。フォルデルマンにそんな思惑は無かっただろうが、ま、結果として幻想の利になる事を彼はしている訳だ。
むしろ王都にいる身として懸念すべきは――南部だろう。
幻想の南部の一部分はキング・スコルピオの手に落ちた。ローレットの活躍で被害は比較的抑えられたが……国盗りを目指すという彼らがこのままで終わる筈がない。そして同様に、北部前線が動くこのタイミングを逃す筈も。
「目指すは、王都ですか」
間違いない。彼らに勝利条件が存在するならば、王都の制圧だ。
貴族軍の主力は北部。南部に残った戦力だけで勢いに乗る砂蠍を抑えられるか、絶対の自信は流石に存在しない。ローレットの力が必要になる。再びに、彼らを撃退する為に。この王都にまで彼らが『来る前』に。まだ猶予がある前に。もう一度――
「あぁ? 何を惚けた事を言ってるんだお前。もしや花の騎士殿は、頭までお花畑なのかな?」
瞬間。自らにぶつけられたは敵意と殺意と――剣撃。
背後より迫る一撃をシャルロッテは目前の壁へと前進することで躱す。足を掛け、跳ねるように天井へ。更にそこから身をターンさせると共に身を反転。背後へいた敵へと抜刀する。
――激突。背後からの奇襲を完璧にいなし、粗暴な言を吐いた者へと彼女は相対す。されば。
「……ここがどこだか知った上での狼藉ですか?」
「王宮だろう? あぁ知っているとも。そして俺はいわゆる『賊』だ。眩しき天を汚しに来た」
「正気ですか」
王宮内でわざわざ自らを賊と名乗るなど極刑に処されても文句は言えまい。
だが眼前の男は本気らしい――不遜な態度を隠しもしない。長いロングソードを肩に担いで。
「それは『俺以外』の奴らに言え。俺はもう、そちら側に立ってなどいないのだからな」
俺以外。
まさか、とシャルロッテの思考は高速と化す。まさか、まさかまさかッ!
●蠍の毒
「――流石にそろそろ気付かれる頃合いだな」
彼らはいた。『ここ』にいた。
闇夜の中を潜り抜け。闇夜の中を走り抜けて。『ここ』にいた。
「何人残った?」
「攪乱要員を除いて二十人ですね。これ以上は接近に気付かれますし、付いてこれませんでした」
「よし、いいだろう。では諸君――」
王宮内。暗い、人気のない一角にて『彼ら』は集い。
「これよりフォルデルマン三世を暗殺する。各々、我らがキングを確たる王にすべく身命を賭せ」
今、高らかに『砂蠍』は宣言した。フォルデルマンを、殺すと。
彼らは抜けてきたのだ王都の警備網を。少数精鋭にだけ絞った一部のメンバーにて。決死の覚悟を持った者二十人。その一塊を率いる男、ピバリースはそのまま言葉を紡いで。
「先の前哨戦では全体的に想定よりも押し返されるという事態に陥ってしまった……かくいう私もだが……だからこそ二度目の失敗は許されない。キングのお顔に二度の泥を塗る訳にはいかん! 必ずや事を成すぞッ」
「しかし、愚王を殺すに意味があるのですか? 黄金辺りに取って変わられるだけでは?」
「いや……それは無いな」
部下の発言にピバリースは答える。例えば、神輿が王になる事を認める人間は多くても。『黄金』や『令嬢』が王になる事を認めない人間はまた、多いのだ。元より彼らにその地位を狙おうとする意志があるか自体定かではないが。
「あまり意識していない者も多いがな……この国は想像以上に血統と伝統の国。フォルデルマンは能力はともあれ唯一無二の『血』という力を持っている。そしてその『血』を我等砂蠍の『毒』が食い殺せば――」
それは計り知れない意味を持つ。元より、盗賊が王を殺したなどと。
「最高の国盗りの証ではないか」
よしんば防備が固く殺せないにしても傷を付けるだけでも良い。それだけでも盗賊の牙が王に届いたという形で奴らの沽券を汚す事が出来るのだ。これ程痛快な話も無く幻想の士気は下がり、こちらの士気が上がるかもしれない。
故にそのままの意味で身命を賭さねばならない。
親衛隊も流石に必死になろう。それを越えねばならぬのだ。文字通り命を賭けて。全てを懸けて。
退路など果たせなければ無用と。ここに集っている者達は狂信していた。
「……ところで『奴』はどこへ消えた?」
「ラハマートラならば先程『花の騎士』と戦闘に。ただ、振り切られたそうですが」
「そうか……騎士は流石に王の身を優先したのだな。ま、いい。精々場をかき乱して貰うとしよう」
あれは傭兵だ。厳密には『利害の一致した敵の敵』だ。潜入までは協力してやったが、あとは知った事ではない。いやもっと言うならば限定的にせよ協力出来たこと自体が驚きだ。何せ『奴』は……
「よし、では始めるぞ。ローレットの存在は予定外だったが、やることは変わらん……
全ては我らがキングの為に……!」
闇夜に紛れ、蠍の毒は王を狙う。
確実に。確実にと。その首筋を狙い続ける――
●備えよ!
「陛下ッ御無事ですか!!」
シャルロッテは扉を荒々しく開ける。王宮内だが礼儀に拘っている場合ではない。
背後には五名程親衛隊も連れていた。何事かと目を丸くするフォルデルマンへと。
「申し訳ありません、王宮内に賊の侵入を許しました――砂蠍です!」
「……砂蠍!? 彼らは今、南部だろう!?」
「決死隊の様です。他と違い軍勢規模ではなく少数で潜入を果たしたようで……警備の不徳です。私への責任の追及は後程。今はとにかく迎撃に当たります、それと――ローレットの皆さん」
と、シャルロッテは貴方達へと向き直る。
言いたいことは分かっている――フォルデルマンの護衛依頼だろう。
突然の事態ではあるが受けるに問題はない。全力を尽くそう。
「ありがとうございます。現在の判明している状況をお伝えしますが、王宮内には砂蠍が侵入しています。彼らの目的は……もちろん陛下でしょう。この事態に対し、我々は退避ではなく迎撃を行います」
「それは――敵がどこに潜んでいるか不明だからですか?」
「それもありますが」
何より、まるで王が賊に怯えて逃げる様に見える光景は好ましくない。迎撃の観点からもフォルデルマンは玉座にいてくれた方がありがたいのだ。ある程度広い空間のあるこの場所ならば、幅広く敵の襲撃に対応が出来る。
「私は陛下を全力でお守りします。そのため、離れる事は叶いません」
「俺達も同じ場で護衛って事で? それとも――」
「遊撃戦力として外へ向かい攻撃するか……その点の判断はお任せします。必要でしたら親衛隊もお連れ下さい。皆さんの支援を担当させます」
五名の親衛隊隊員。他の親衛隊は王宮の別箇所にも現れた砂蠍を対応中との事だ。陽動の可能性は大きいが、火でも放たれては堪らない……結果としてあちこちに戦力を分散せざるを得ない状況だ。
少ない戦力だがやるしかない。ローレットとシャルロッテら親衛隊が合わされば砂蠍といえど――
「どのように戦うかはお任せします。ただ一点、砂蠍以外で気を付けて頂きたいのは……」
あの男。シャルロッテに襲い掛かってきた、砂蠍とは雰囲気の違う存在。
まさかとは思った。しかし、おそらくは『そう』なのだろう。あの男は、奴は砂蠍ではない。
奴は!
「敵には――魔種がいますッ! 彼を陛下には近づけさせないでください……!」
- <ジーニアス・ゲイム>チェック・メイト名声:幻想50以上完了
- GM名茶零四
- 種別EX
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2018年12月15日 22時50分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(10人)
リプレイ
●国王陛下の前で
「――陛下。今宵はお呼びいただき、誠にありがとうございました」
王の間。フォルデルマンへと傅くは『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)だ。
戦いに赴くより寸前。彼に言わねばならぬことがあるとして。
「遅れましたがハッピーハロウィン。明かりをつけたまま退屈をお凌ぎ下さい――
来年は共に楽しみましょう。約束ですよ!」
「ああ勿論だともリゲル! 来年どころか再来年も楽しもうではないか! なんなら母君も連れて来ると良い――私が招待状を出そうか!!」
南瓜のランタンを彼へと手渡す。この明かりをこそを、心の安寧として頂ければと。
王の間は敵の襲撃に備え、些か慌ただしく動いていた。扉を開け外を警戒し。布陣を素早く、親衛隊隊員と共に。満面の笑顔で場を眺めている国王陛下を護るべく。
「一国の王を狙うとは大胆な……それをなし得る事が出来たならば、蠍の名は天にも届くでしょうね」
勿論、出来ればの話ではあるがと『ほのあかり』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)は思考を。実際、ここまでよく来れたモノだ。北部前線と南部の砂蠍に警戒は集中していたとはいえ、王都の警備も決して怠っていた訳ではないだろうに。
「心せねばなりませんね。王との歓談で終わる筈が、とんだ事態になりました」
「HAHAHA! ま、丁度いいじゃないか。ミーはつまらないお仕事で退屈していたところだ!」
クラリーチェの言に続いたのは『ボクサー崩れ』郷田 貴道(p3p000401)だった。すがすがしいまでに不敬であるが、彼が崇めしは幻想国王ではなく他の只一人であるので仕方あるまい。それに、それはそれとして依頼に手を抜く気はない。
扉意外に穴となりそうな場所は無いか? 己が警備の技術をもって彼は周囲を探っていた。王の間という王宮でも最深部の一角だ。そうそう暗殺の隙になりそうな場所は無いと思うが……念のためにと。握り締める拳が今ぞ今ぞと敵を待つ。
「――しっかしこの前の奴がまた現れるとはなぁ。しかも王都に直接」
「ええ……まさか前に逃げられた盗賊が王様を狙うだなんて……流石に申し訳ないわ……」
言うは『風読禽』カイト・シャルラハ(p3p000684)に『ふわふわな嫉妬心』エンヴィ=グレノール(p3p000051)の二人だ。襲ってきている砂蠍側の頭目、ピバリース。奴は前回の前哨戦にて大船を巡りカイトとエンヴィと戦った男であった。またどこかに現れるだろうとは思っていたが……まさかこんな形で偶然にカチ合うとは。
「今回はあちらも逃げるつもりはないようだし、私も全力で止めないと……ただ、魔種まで連れて来るとはね」
「ああ、でも――国王陛下の為に働けるなんてメイドとしてこれ以上の誉れはないね」
「そうね、たしかに……なんとも稀有な機会に恵まれたものね」
エンヴィの言に『メイドロボ騎士』メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)と『混紡』シーヴァ・ケララ(p3p001557)がよもや、と言葉を綴る。国王陛下の護衛――そうそうある事はあるまい。基本となれば花の騎士だけで事足りるのだから。
なんとしてでも守り切らねばならない。敵が来る前に、と物質透過を警戒し壁際へ出来得る限りの障害物を並べながら。
「成程! 彼らはあそこから敵が侵入することを想定しているのか! 流石は私の友人達だ……シャルロッテどうだろう、この玉座も動かして壁に出来ないだろうか! なんなら私が前に出て皆の鼓舞を――」
「陛下。陛下。それが動くかはともかく大丈夫です。じっとしていて下さい」
彼らが万全を整えてくれていますので、とフォルデルマンへ花の騎士は言葉を。
やれやれだ。生き物は実際の優劣よりも伝統と血を重んじるらしいが。
「……ああいうのを見る度、私にはよく分からない感性だ」
『生誕の刻天使』リジア(p3p002864)は王を宥める騎士の様を見ながら独り言ちる。随分とはしゃいでいるが、状況が分かっているのだろうか? いやきっと分かっていないのだろう。やはり状況の推察力に彼は劣っている。
「だが……かの玉座、かの王冠に在る意志はただ『新しい』物では得られない崇高なものだ」
それでも生き物はかの存在を重んじる。
理解しがたい、故にこそそこに生き物の『謎』の一端があるのだと判断して。
彼女は護る。彼を、命を。
「ま、格好悪いトコを見せる訳にかいかないでしょ――王様も頑張ろうっていう気配があるのにさ」
「そうだね! うん……絶対、負ける訳にはいかないんだ……!」
同時。『一刀繚乱』九重 竜胆(p3p002735)は敵の接近を探知し、仲間へとその存在を通達。『魔法騎士』セララ(p3p000273)は戦闘の体勢を整えていた。王の護衛。そうそう無いであろうこの機会と、間もなく見えようとしている敵の気配を前に。
「さぁ――正義の魔法騎士セララが相手だ! かかってこいッ!」
彼女は声を張り上げる。
正義の声を張り上げる。
●殺意の渦
殺せ。
短く、しかし確かにある殺意がそこにあった。
殺せ。我らが王の為に。
「キングに身命を賭せ」
キングの何に惚れたのか。命を捨てて『盗り』に来た彼らは正に疾風の如く。
道中の照明を破壊しながら。闇夜の範囲を広げながら――王の間に迫って、さすれば。
「ハッ、来やがったな……馬鹿共がぞろぞろとよ」
カイトが大きく翼を広げる。緋色の翼が、彼らの目に映り。
「俺の翼に傷を付けられるやつがいるなら――やってみやがれ!」
「イレギュラーズ……いい度胸だ! 邪魔立てするなら殺すのみ!」
魔法に銃撃雨あられ。剣を持ちし者もいくつかカイト目掛けて突っ込んでいく。広げた翼、羽ばたかせ――空を舞う。飛行による悪影響を受けない範囲で、彼は身をくねらせ銃弾の合間を縫って躱すのだ。放たれる剣撃には魔刀を構えて。
「あめぇな! 読めるぜ……その風はよッ!」
防御を中心に備えていた彼は、剣撃を腹に掠める程度に終わらせて――カウンターの構えで一撃を放つ。火焔を纏いし旋風が暗闇を割いて、直撃。その身を炎に包まんと燃え盛って。
「構うな。数の優勢を活かせ。脆弱な王さえさせれば良い!」
しかし勿論の事カイト一人だけではこの数を止めようは無い。翼に目を取られぬ者が脇を抜けようとして。
「OH――ノンノン。魔種でも盗っ人でもノープロブレムだ」
貴道に止められる。放たれた右ストレートが、盗賊の顎を穿ち。
「一人残らず頭蓋を差し出しな。粉々に砕いてやるぜHAHAHA!」
返しの斬撃。身を低くし、上を潜らせれば起きざまに腹部へとブローを叩き込む。
――だが固い。防具として何か仕込んでいるのか? 流石にノーガードではなかったようだ。されど問題ない。一撃で倒せなかろうと二撃、三撃と放てばいいのだ。一旦離れようとする盗賊を前に距離を詰め。反撃の剣を、右の腕で捌けば。
「フンッ!」
左の拳でアッパーカットを打ち上げる。
武器を持った相手だろうと関係ない。これが実践ボクシング。これが郷田貴道流だと――天へ拳を。
何人をも近付けさせるものか。王の間は戦闘に十分な広さがあるが、扉の付近で戦えば勿論話は別だ。そこを通れる人数には限りがある。如何に人数が上でブロックしきれない数がいようとも『物理的に通れるスペース』が無ければ盗賊達も突破しかねるのだ。
反面、後衛陣の射線問題もあると言えばあるが。今回に置いて最も重要なのはフォルデルマンを護る事。彼に敵を近付けさせない事こそを至上として考えるならばこの布陣は最適だったと言えるだろう。そして。
「――壁を抜ける者がいます! 対処を!!」
リゲルが叫ぶ。温度視覚だ。例えば照明が全て壊されようと、温度までは誤魔化せない。暗闇の中であろうとも体温を捉えて。故にこそ壁を抜けようとしている者の存在に気付く。
事前に準備した壁抜け対策もあったが、流石に全面をカバー出来るような障害物は無かった。ある程度の位置を塞ぐのが精々。それでもまるっきり効果が無かった訳でもない。出現位置をある程度絞る事により――親衛隊の者らの対処が、些か素早く行えた。
激突する。リゲルの声に反応して、侵入してきた二人の盗賊に対して二人の親衛隊が向かった。ひとまずは大丈夫だろう。運の要素を抜かせば一対一で負ける道理は無い。
「今の所は抑えられてるね、このま――まとは行かないかッ!」
メートヒェン。彼女もまた、扉の前で奮戦する一人。盗賊の数を減らすべく戦っていた彼女だったが――そこへ、鋭い突きの形の剣撃が飛んできた。
ピバリースだ。盗賊仲間の間を縫って、溜からの一撃を放ったか。直撃寸前、メイド流戦闘術を反射的に用いて刀を蹴り上げ狙いを若干逸らしたが――肩を穿つ。血が噴き出すが、なにこの程度ならまだまだ。
「へっ、ついに出てきたかこの間ぶりだな! 今度は逃さねーぜ! お前は獲物なんだからな! 大人しく狩られてろ!」
「……この前の鳥かッ! 小賢しいのだあの時もこの時もッ!」
そしてピバリースが出てきたことを確認したカイトがピバリースへと挑発を。
防御への集中は変わりなく。そのまま彼と激突する。野次を飛ばし、その程度かオラァと言いながら。
「頭目か。強引に突破でもしようと狙ってきたか?」
だが、配下の方を減らしてしまえばそう上手くも行くまいとリジアは聖なる光を敵へ。
彼女はとにかく通さぬことを優先している。どこにでもカバーに入れるように、常に注意を払って。
「恐らくそうだね。でも、たかだか一撃程度で押されはしないよ……!」
そして竜胆は味方よりも一歩踏み込んで己が得物、業物を旋回させる。
両の手に握りしめている二振りの刃。多くの敵を巻き込まんと薙ぐは死の風。作るは小さな暴風域。味方を巻き込まないようにする為には一歩も二歩も前に出なければならぬ故、場合によっては己に集中攻撃が来る可能性も秘めているが。
「ま、だまだァッ!」
頬を掠めようと、暴風域を縫って敵の攻撃が届こうと臆しはせぬ。暗所対策にと身に着けたサイバーゴーグルが暗闇の中にいる敵も逃さず捉えて。振るう刃の速度を落としはしない。むしろ加速させる。
「まだ混戦としていない、今の内に――かしらね」
さすれば竜胆同様に、味方を巻き込まぬ様に攻撃を放つのはエンヴィだ。
ロベリアの花。感情を殺傷の霧に変え、敵を纏めて包む神秘の技術。
もし扉を突破されて王の間で混戦の最中――となれば使いにくい面もある技だが、今ならばまだ戦線は安定している。なるべく大きく敵を巻き込まんとして、その刃を放って。
ピバリースは歯噛みする。なんともはや、上手く行っていない。
勿論こうなる事は考えていた。扉の前で防衛ラインを築かれる事――しかしそうなる事は承知の上だった故にこそ、周囲の照明を破壊しながらここまで来たのだ。いざとなれば周囲を暗くし、己や暗視技術を持つメンバーで敵の急所狙いの一撃を放っていく。
そうして隙を作り内部へ雪崩れ込み。後は乱れた戦況の中で王を討つ。それがプランだった。されど、その暗闇は――
「ええい、こうまで光を用意していると……!」
貴道の発光能力やセララの灯り。リゲルのギフトにより暗闇そのものの効果が減少していた。
これが向こうも暗視能力を持っている、というだけならば己の得意分野が阻害される訳ではない故、問題はさほどなかったが……光を多く用意し、照らして暗闇そのものを少なくするとピバリースの得意戦闘能力が発揮できない。
配下の盗賊達も素人や雑魚を連れてきたわけではない故、まだ戦況が確定したわけではないが。このままではまずい。この位置で戦い続けるのはまずいのだ。このままだと――
「ほう。なんだ、こんな所で遊んでいたのかお前ら」
声がした。男の声だ。それは王の間の方からではなく。
「やはり――向こうから来ていたのは魔種か!!」
再度リゲルの言が飛ぶ。温度視覚に加え、透視で近くの壁を透視していた所、近付く複数の温度があったので不審には思っていたのだが、想像通り魔種のようだった。
「俺も混ぜろよ。邪魔だどけ」
「き、貴さ――まッ!?」
魔種が盗賊の頭を掴む。そのまままるでボールであるかのように振りかぶって――
投擲した。扉の、布陣しているであろうイレギュラーズ達の中心部付近に。盗賊も何人か巻き込まれているが、知ったこっちゃないとばかりに魔種は剣を担いで。
「魔種が……来ましたか。これは警戒を強めねば――ッ?」
その時だ。見た。花の騎士、シャルロッテは。
魔種の周囲に人影があるのを。あれは、何人か見た事がある。
そうだ。リゲルが捉えたのは『複数』の温度である。あれは、アレは――
「まさか――王宮の使用人達に、呼び声を……!」
「ああ、少しばかりな。王の間がどちらか分からなかったので、つい」
盗賊達に魔力放出を放っていたクラリーチェが言葉を。
見る限り数は大人数、という訳ではなさそうだが、呼び声に惹かれた者達が狂っている。魔種が周囲をうろついた結果として彼らに影響を及ぼす結果となってしまったのか。尤も、これへの対処はかなり厳しい事である故やむなしの部分はある。
この事態を防ごうと思えば機動力に優れる人物が、戦闘が始まる前に魔種への接触を果たし、こちらへ誘き寄せる等の対応でもしなければ防げないだろう。
「なんだ? シャルロッテ、彼らはなぜここへ来ている? 起きて出てきては危険ではないか!」
「陛下、お座りを。『危険』なので」
大剣を構えしシーヴァが言葉を紡ぐ。
理解の及んでいないフォルデルマン――しかし今事態を詳しく説明している暇など無い。何が起こったかはその目で見てもらうしかないだろう。どうであろうと。血が流れようと。
さて。しかしこれにてイレギュラーズ、砂蠍、魔種の全ての役者は揃った訳だ。早速にも砂蠍と魔種の間で軽い争いが生じているが、ピバリースはあまりマトモに魔種に構いたくなどない。このまま適当に道だけ空けて、奴を突っ込ませて――
「『こいつ! 俺達にも攻撃して来やがった、敵だッ殺せ! 早くしろ!!』」
などと思考していれば
「『魔種が王様を殺しても意味が無えんだよ! 奴の好きにさせるな!!』」
「な、なに……!? なんだこの声は――」
ピバリースの『声』が魔種討伐の檄を飛ばしていた。
だが彼はそんな言葉など一言も発していない。むしろ無視したい側なのだ。ならば、この言葉は一体と。
「『俺達が王を殺すためにはまずコイツからだ! 殺せッ!!』」
「――き、貴様!!」
ピバリースが見た先。そこにはセララが周囲に響く様にと声を張り上げる様があったのだ。クローンボイスによる声真似か。カイトの挑発はこの為にあったのか。挑発によって紡ぎ出された言葉を彼女の耳は捉えていた。
その声真似は成立する。流石に砂蠍側はすぐに違和感に気付いたが、彼らと信頼関係の無い……と言うか正直どうでもいい魔種にとってはその真偽などもっとどうでもいい。セララの扇動の効果も相まって、故に彼は。
剣を構えて。
「面倒だな――お前ら全員、纏めてどけ」
空間を、薙ぎ払った。
王の間の扉の周囲を根こそぎ纏めて。
●激戦
恐らくその光景をしっかりとした意味で見ていたのはフォルデルマンとシャルロッテだけだろう。
轟音が鳴った、と同時。扉の前に集中していたほぼ全員がその場から弾き飛ばされた。
範囲型のノックバック――そんなモノを持っていたのか!
「HAHAHA、成程激しいな!! だがソーリー! アポ無しは通せない決まりなんだ!」
飛ばされた勢いを即座に。体勢整え突っ込むは――貴道だ。即座にマーク。続けざまに打撃を連続的に放ち、牽制とする。王の間への侵入はともかく、これ以上は進ませない。
不吉の様なモノを付与される――と、花の騎士は言っていたが、そのような感覚は無い。不吉耐性が機能しているのだろうか。いずれにせよ万全に戦えるのなら問題なしだ。
「ほう。アポが必要とは知らなかったな。気を付けるよ次はな」
「OH。お帰り頂けるのかい?」
「いや、次は気を付けるというだけの話だ」
感じる殺意。突き放たれる剣撃。感じる――死。
だがこれも、プロのボクサーのストレートと思えば。
「慣れたモノだよHA・HA・HAッ――!!」
目は閉じない。幾度となく訪れた高速の世界に、視界を落とす。
頬を抉る。そのまま進む。握る拳をありったけに奴の顔面へと伸ばし穿つ。
――だが防がれた。直前で割り込れた剣を持っていない逆の手の平が、こちらの拳を防いでいる。同時に入るは腹への蹴り。離れろと言わんばかりの衝撃だが、貴道は闘争の笑みを崩さない。
そしてその魔種の背を、盗賊が狙った。
よくもやってくれたなと感情的な一撃。突き刺さんとするナイフを、魔種は振り向く事すらせず裏拳で対処。盗賊の頭部を撃ち抜いて、そのまま壁へと弾き飛ばす。
「邪魔をするなよ。天を汚せばすぐ帰るさ」
「何をふざけた事を……どいつもこいつもキングの覇道に目障りな……!」
「好き勝手な事ばかり言っているのは、どちらも同じでしょう!」
魔種へと言葉を投げるピバリース。視線を傾けた、その魔種の隙を竜胆の飛ぶ斬撃が襲い掛かった。
距離は詰めない。あくまで遠距離から抜き討つ放つ業物の一撃。
戦場は扉前から王の間へと。そして砂蠍との戦いから三つ巴に移りつつあった。誰を止めるべきか。誰に集中すべきか。どう凌ぐべきか――一瞬の判断が、全てに影響しつつあった。
「癒し手は自分が倒れない事も大事。自分の回復も怠らないようにして下さいね」
その中でイレギュラーズ達の奮戦をささえるべく、クラリーチェは回復役を担える親衛隊と共に皆の回復を絶やさぬ様に務めていた。少しでも。少しでも長く、皆が動けるようにと。
「ぐぁ、がが――ぎっ!」
「ごめんね。でも呼び声に反応させる訳にはいかないから」
同時。盗賊の一体を倒したメートヒェンは倒れた盗賊の首を折る。
容赦なく踏みつけて。踵で捩じって即死を促し。確実なトドメとする。ここまでやっていれば復活することもないだろう。これ以上、敵の数を増やす訳にはいかないのだから。
「貴道殿、そっちは――」
「まーだ持たせるさHAHAHA!!」
そして貴道の方へと視線を。魔種の抑えは大分厳しいだろう。いざとなればいつでも交代出来るように気を払っておかねばならない。そう思考しながら。
「全く……相手の数が多い以上、早く数を減らさないといけないのに……」
エンヴィは言う。魔種の方を見据えながら。己がギフトを用いながら。
相手の長所を見極めんとする。盗賊にせよ魔種にせよこの国のトップを狙うとは随分思い切りのいい連中だが――はてさて。そんな者達に何か長所はあるのかと、探って。
「……んっ?」
されば気付いた。魔種には、能力があると。
しかもそれは『己に近い性質』を持っていると。それは。
「貴方……分かるのね。私達の『名声値』が」
「あぁそうだとも。俺はな『持っている』奴らが妬ましいのだよ」
魔種が言葉を紡ぐ。それはエンヴィへ。
魔種ラハマートラの性質は『嫉妬』の原罪だ。女畜土金。ある地域において『女、畜牛、土地、金』は人にとっての『妬み・嫉妬』に通じるが故に、みだらと誇示しないように気を付けよ、という格言がある。
彼は妬ましかった。持ちし者が。名声の高い者が。だから落ちろ汚れろと願って。
「故にこの国の天へと挨拶に来たのさ」
お前も落ちろフォルデルマン。この国で最も女畜土金を持ちし者よ。
「そうはさせるか……! 陛下には近寄らせない!」
「護るって、決めたからね!!」
王へ近付かんとする魔種への更なる妨害として、リゲルが放つは近場の盗賊を弾き飛ばす手段だ。真一文字の剣撃が盗賊の身へと凄まじい衝撃を伝え、そのまま後方へ。魔種の身へと激突し。
次いでセララだ。彼女はノックバック系を持たないものの、強引に盗賊を押し込んでルート上の邪魔なものとする。このまま盗賊が攻撃されれば敵が減り、範囲で薙ぎ払われようとすれば気を付ける必要はあるが――
「お、っとぉ!?」
しかしその時。魔種が連れてきた呼び声へ反応した使用人がセララの側へと襲い掛かった。元は戦闘能力の無い者……大した脅威ではないが、一手一手が重要となる局面では少しの邪魔でも煩わしいモノがあった。流石に、無視をしていられるものでもなく。
「チッ、奴はどうでもいい無視しろ! 先に癒し手の方から狙え!!」
「む、やはりそういう手段を取ってきたか……だがそう簡単にはいかない」
一方で砂蠍の側は魔種を無視したかった。奴との戦闘が始まってしまった以上、各々で身を護るべく反撃ぐらいには最低でも転じなければならないが、その必要性がないものはとにかく王を。そしてその王を護るべくの宣戦を崩す為クラリーチェ達を狙えとピバリースは言を。
故にカバーとして入るのはリジアだ。癒し手側に向かおうとした敵に対し青き衝撃を放ちながら。
「王、という価値を理解する為――お前達を破壊する。その存在を遺す為に」
「国が砂蠍に負けようが、鉄帝に敗れようが。如何なろうと構わないのだけれど……」
リジアに続いてはシーヴァも。相対せしはピバリース。これ以上は近付けさせぬと大剣を振るって。
「王様が今後どう変わるのか、此れはちょっと見てみたいのよね」
未来を潰すにはまだ早いと、言葉を繋ぐ。
「逃げんなコラ! 火が付けば目立って隠れにくいだろ? 焼き鳥になっちまえ!」
そしてカイトもその場に続く。焼き鳥になるのはお前だとピバリースは反論しながら、カイトとの交戦も続けるのだ。しかし挑発しながらもカイトは油断しない。交戦をしておきながら突破を図る可能性も0ではないからだ。
「面倒な魔種も来てるんだからよ……お前みたいな奴に構ってる余裕もないんだつーの!」
あくまでも防御・回避を主として。斬り合う剣撃。飛ぶ血飛沫。
親衛隊の前衛も総出で相手を防いでいる。ギリギリの、ギリギリの状態だ。その様子を見ながら、シャルロッテは奥歯を噛み締める。
本当は己も前に出たい。彼らと共に並んで戦えればどれだけ彼らを楽に出来るか。しかし己がここから離れる訳にはいかないのだ。近くに敵がくれば反撃ぐらいは勿論するが、それでも優先すべきは王に攻撃が届かぬ様に防ぐこと。
時折放たれる銃撃・魔法に飛びナイフ。それらを全て切り落として完璧に防いでいるが、それは勿論自分がここにいるが故。離れてしまえばフォルデルマン一人ではどうしようもない。
「……ます」
だから願う。無為にかもしれぬが、それでもと。
「頼みますローレットの皆さん」
どうか、王を。
皆さんの力で――お守りください。
●ああ――特異運命座標の友人達
ピバリースは覚悟した。戦況を動かす他ないと。
砂蠍の視点からすると『己ら』が王を討つことに意味がある。同一戦場にいる魔種が討っても、それはさほど意味がないのだ。奴は別に砂蠍ではないのだから。セララの言は混乱を巻き起こす為の扇動的意味が強い言葉であったが――あれらの言は、あながち間違いではなかったのだ。故に。
「ん? な、なんだシャルロッテ! 部屋が暗く――」
フォルデルマンの声が響く。そう、王の間の照明破壊を優先としたのだ。
先に述べた様にイレギュラーズの中には幾名か光源の手段を持っている。が、戦場が著しく限定された扉の前と違い、王の間が暗くなったのならば意味が別となる。隠れられる闇が多く出来るからだ。
後衛の者らに攻撃の手を割いてでも灯りを攻撃するように指示を出す。これで花の騎士が一手でも攻撃を捌きそこなえば儲けもの――
「んっ、あ、あれは!?」
だがそこでピバリースは驚愕した。
王が光源を持っている。南瓜のランタンを膝に、私はここにいるぞと言わんばかりに。
狙いはしやすい。暗闇の中でこちらだけが相手を見える。だがあの光源は破壊できない。シャルロッテならば少しの光でもあれば完全に防ぐだろう――ここは視点を変えて、あれを目印に前衛陣を接近させるべきか。接近の発見を遅らせる効果はあろう――
そう思った、瞬間。
「誓ったんだ――」
部屋の全てが明るく染まる。いや、正確には『床』が光っている。これは。
「陛下を、お護りするとッ!」
リゲルだ。彼は触れた者を光らせる事出来るギフトを所持していた。足を起点に、王の間総てを光らせているのだ。
――しかし王の間を光らせる行為は尋常ではなく大きい疲労となる。
武器を光らせていた時とは違う、広範囲に渡る発光は彼の体力をみるみる内に削るのだ。意図せずして噴き出す汗が、彼の体力の減少を指し示していた。長く行う事は出来ないだろう。それでも彼は、殺さないために。
己がここに居る意味を通す為に。
「く、くそ――どけ! 邪魔だ!!」
「嫌だね! 何度も言ったろ!!」
ピバリースがカイトを薙ぐ。一角でも穴が開けば、そこから雪崩れ込めるというのに。
回避に優れるカイトを遂に捉え、その胸から血飛沫を舞わせる、が。カイトの目は死なない。ここ、王の間に確かに存在する、その緋色の羽が。
「獲物は、お前なんだよぉ――ッ!!」
「ぬ、ぐぉぉおぉ!!」
目の前に見えた時。己が肩を刀が抉った。
まだだ。まだ死ねるかこんな所で! キングの覇道を完成させるまでは! キングを王にするまでは!
「死にたくねぇか? 俺も一緒だぜ」
だからよとカイトは言葉を紡いで。視線を横に。
誰も彼も死にたくなどない。何の理由もなく命を捨てる等冗談ではない。だから、カイトは呼んだ。
「うん! 助けに来たよ――ボク達に任せて!!」
「暗闇が得意って話だから想定はしてたけれど、芸が無いわね」
救援を。真っ先に反応したのは、セララと竜胆だ。
セララ。金髪の少女。こ、こいつが! このクソガキが! 小賢しい声真似などしたから!
「あんな事をしなければ……奴との開戦ももう少しずらせたものを!」
セララと竜胆の剣撃がピバリースを襲う。出血多量。それでも憤怒の火は消せぬ。
大上段から溜めた一撃――それを、セララへと放つ。殺す。このガキだけは殺すと息巻いて。
「倒れるもんか」
右に構えるは聖剣ラグナロク。左に握りしめるは聖剣ライトブリンガー。
「絶対、絶対に誰も殺させない! だって皆!」
殺意に臆さず前を往く。退かない恐れない。後ずさりでは誰も守れない。
彼女が戦うのは大切な仲間を護る為だから。その為ならばどんな強敵にだって立ち向かう。
なぜなら仲間も。騎士団の皆も。相棒も。そして王様も!
「みんな――大切な友達だから!」
流麗なる剣舞はワルツの如く。抱く正義を心に構えて。
訪れた砂蠍の頭目ピバリースの身体を十字に切り裂く。同時、防ぎ切れなかった奴の攻撃で痛みが走る。されど無視。身体が痛みを自覚する前に、相手を切り上げ宙に浮かして。
「や、やめ――ッ!」
返事を聞く前に跳躍。踵落としで――叩き落とした。
「ピバリースが死んだぞ……!」
「構うな! 全員元より覚悟の上だ! 王を殺せッ――!!」
残存の砂蠍が一気に動く。ピバリースが死んだ事により、指示を出す者はいなくなった。
故に後は為せるか成せないかだけで動こうとしている輩共だ――この構成さえ捌ければ、相手はもう無力化したも同然だろう。最後の踏ん張りが必要になろうとしていて。
「ぬ、ぅ……! クッ! 流石にミーも厳しくなってきたな……!」
「貴道殿、ならば代わ――」
だが魔種の問題はまだ解決していなかった。奴が連れてきた呼び声の狂気に染まった者達がいる事によって、あらゆる行動に邪魔が発生している。無論、排除も続けているもののその排除にかかる一手が、なんともはや惜しかった。
「ああ。妬ましいぞ……お前はどれだけ『持って』いる?」
そして貴道は不吉耐性を有していたが故に影響はなかったが――メートヒェンの方には、不吉なる属性が降りかかってきていた。そして、受けてなんとなく分かり始めた。
これは恐らく名声値が高ければ高いほど重い効果を付与しているのだろう。無限に効果が上昇する訳ではないだろうが、ラハマートラの嫉妬が強くなればなるほど己に降りかかる負も強くなる訳だ。
「でもこの武は……今こそ発揮する時だからね」
だがその程度で負ける訳にはいかないとメートヒェンは前進し。
「貴人を守る為に鍛え上げてきた技の使い所。その体に受けると良いよ」
メイドとして、国王陛下の為に叩ける事こそ至上の誉れと。彼女は心に刻んで。
不運を下げるような才知であったのが功を奏したか。耐性が無い割には比較的被害を抑えながら魔種へと相対出来ていた。剣撃を防ぎ、その膂力に合わせる形で打撃を紡ぐ。
だがどうにも足りない。魔種の攻撃は重く、メートヒェンと貴道の交代でも保てなくなりつつある。
死霊弓でエンヴィが魔種へと攻撃を放てば支援とはなるも、魔種の再生能力によってある程度ダメージが結果として殺されつつある。暗闇が広がった部屋であってもサイバーゴーグルによって備えはしているが。
親衛隊もついに倒れる者が出始める。盗賊も大分数を減らしつつあるが、まだだ。まだだと燃える闘志に底は無い。元より彼らは命を捨てているが故に。
ついに癒し手にもその攻撃の手が届く。盗賊の一人が、剣を携え。
「運命特異座標殿――ご武運を!」
されどクラリーチェを親衛隊の一人が庇った。
それは事前に願っていた事。もう少しで落ちそうな時、庇ってほしいと。
親衛隊は了承した。国王陛下を護る為ならばと、そして国王陛下のご友人を護る為ならばと。
「……最後まで」
その姿を見て彼女は呟く。無茶なお願いをしたと、想いながらも。
「最後まで、諦められませんね……!」
果たしてくれたのならば――最後の最後まで死力を己も尽くさねばならぬと。
「全く。これもまた、生き物の謎の一つか」
そしていよいよクラリーチェが危機かとリジアが駆けつける。いつでもカバーに入れる様な位置について。先の親衛隊の行動はともあれ、発言に関しては完全に効率云々の度外を超えていた。相手を心配するというか、奮起させるためと言うか。
満を持して放つは癒しの力を伴う――ブレイクフィアー。
ここが正念場だと、胸に刻んで。
「ふむ……若造。いつまで光を続ける? 自滅する気か?」
「――いいや自滅の趣味は無い。でも、幻想に害為す敵を討ち破るのには必要な事だ」
「英雄だな。羨ましいよ」
嘲笑う様に魔種は言葉を。疲労からか、放たれる重い剣の威力を捌き切れない。
傷が増え、血を撒き散らし、それでも彼の意思は決して折れない。
かつて夢見た騎士の姿は。きっとこの程度で折れなどしないから。
「なぜ耐える。お前らも全員妬ましいが、王程ではない。
倒れていれば俺は放っておいてもいいのだが?」
ねじ伏せる。斬り付ける。それでも誰も退きはしない。むしろまだだと命を燃やして立ち塞がる。
なんなんのだお前らは。お前らは――
「フフ、最後まで諦めないでしょう? 奇特かしら?」
エンヴィが言う。彼女もまた、魔種へと攻撃を放ちながら。
「奇特であると感じるのならば――それは貴方がこの心意気を持っていないから」
ギフトを使うまでもない。誰しもがわかる。この魂こそが、彼らの長所。
「貴方に持っていない者を私達は持っている」
ああ……
「妬ましいでしょう?」
「――」
歪めた顔の意味は何か。嫌悪を通り越した何かであったのか。
「……欲しいとは思わんな」
「そう。気概っていう概念が分からないのね」
さすれば竜胆が範囲攻撃には巻き込まれぬ様に距離を取りながら飛翔斬を放つ。
ある程度距離を取っておけば不吉はやはりかからないようだ。尤も、近距離でも対応できるように不吉耐性を彼女も有しているが故、接近されてもあの能力の阻害は出来そうだがと思いながら。
そして――その戦いの様子を見たフォルデルマンがついに我慢できぬよう言葉を放って。
「わ、私の友人達は大丈夫なのか!? 皆――あれほどの――」
「ご安心を。どうぞ陛下はご観劇ください」
あれほどの戦いをして平気なのかと、問おうとした王へとシーヴァが言を返す。
イレギュラーズならば死地は幾度も潜るモノ。そして、花の騎士のお傍が一番。
「安全なのですから」
それに、と感じていた。ピバリースを倒せた事により盗賊達の方は動きが単調になっている。あれだけならば恐らくなんとかなる。自身も今、一人切り伏せた。クラリーチェの傍にいながら、飛翔斬を飛ばして。
中々魔種へ攻撃しうるタイミングに恵まれなかったが、加勢に行けそうだ。ただ……
「奴を一度引き離す――放つぞ」
同時。リジアが青の衝撃を魔種へと放つ。ノックバックの性質を持つそれを、王の間から遠ざかる様に扉側へと向かって撃つのだ。さすれば魔種は扉側へと衝撃で下がって――
「……無理だな」
が、王の間へと戻らない。むしろ離れる様に奴は駆けていく。
何故、と竜胆が思った先。気付いた。盗賊達はまだ数だけは少しいるものの、もはや勢いはない。イレギュラーズ達も疲弊している――が。まだいるのだ『花の騎士』は。
流石に一対一、その上イレギュラーズとの戦いで疲弊した身となれば勝てないと踏んだか。魔種は。元より奴に関しては是が非でも王の命を狙っている、という訳ではなさそうだった。故にか。退いたのは。来た場所から出ていくつもりなのだろう。親衛隊の追撃が間に合えばいいが……
「勝った……勝ったのかシャルロッテ!? 特異運命座標は、私の友人達は!」
己が眼前で行われた死闘。幾名も傷つき、幾名も倒れ――それでもここに。
放蕩王・フォルデルマン三世は無傷でここに在る。
「王様――」
セララが往く。精一杯に痛みを噛み締め、決して表情に出さぬようにしながら。
「どうぞこれを。今回の戦いを記した、物語です!」
「おお……おぉ! 『魔法騎士』の所以はこんな所にも現れるのだな! ありがとう――」
己がギフトで造った漫画をフォルデルマンに手渡して。されば、彼は言葉を紡ぐ。
「ありがとうローレットの諸君! 砂蠍の暴挙をよく退けてくれた!
幻想を統治する国王として――感謝する! ありがとう特異運命座標の友人達!」
チェック・メイトは防がれた。
特異運命座標の活躍が――また一つ、ここに。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
プレイング、お疲れさまでした。
依頼成功となります――おめでとうございます!
砂蠍側への対応はほぼ完璧だったと思います。
魔種に関してはあと一歩攻撃に割ける様な形か、リプレイにて示しておりますが最初の対応が可能だったならば撃破まで行けたかも思われます。ただ情報が少ない中で工夫も見られた素晴らしいプレイングでした。
MVPは悩んだのですが、貴方へ。正に死力でした。
国王陛下はご無事でした。流石に目の前で死闘があったら他人事でないといいな……!(
依頼、お疲れさまでした!
GMコメント
■依頼達成条件
1:フォルデルマン三世を負傷させない。
(ある程度の攻撃はシャルロッテが完全に防御します)
2:敵勢力の全撃破・撃退
両方の達成。
■戦場
幻想王宮における王の間。並びにその周辺。
王の間、目前の廊下にしても戦闘に支障のない広さがある。
照明はあるが砂蠍は壊しつつ進んでいる。しばらくすれば接敵するものと思われる。
使用人の類が部屋にいたりするが、彼らのほとんどは眠っていて外に出てくる事はない。
生死の類も今回気にしなくていい。というかする余裕がおそらく無い。
■敵戦力
■『潜ム者』ピバリース
王宮に潜入した砂蠍の頭目。刀を所持しており、接近戦に優れる。
盗賊の割には非常に慎重な性格をしており、物事をよく考え、計画通りの実行を好む。
……が、今回は前回の失敗も相まって退路を考えていない命を賭した計画を立てている。
【暗い場所】での戦闘が得意で、暗殺者の様な気質を持っており【溜】からの強力な一撃を放つ模様。
■砂蠍盗賊団員×二十名
ピバリースと共に王宮に侵入した盗賊団員。
いずれもが決死の覚悟を持った精鋭。ただし各個人の強さを優先して編成したため前衛と後衛のバランスがいいかは不明。多数の非戦スキルも各個人で所持しているようである。
戦力的には強敵とまでは言えないが決して弱くはない。
■『女畜土金』ラハマートラ
前回の戦闘を経て傭兵戦力が減ったためピバリースが新しく雇った傭兵……
と言うのは正確ではない。その正体は『魔種』
砂蠍側と共闘する様な姿勢を見せているが、彼らの間に信頼関係など無い。ほどなく三つ巴が想定される。
強い『原罪の呼び声』を持つ。原罪としての方向性は不明。
シャルロッテとの交戦以降は適当に王宮内を進んでいる模様。
順当に行くと砂蠍が辿り着いて暫くしてから王の間に着くと思われる。
数撃交戦したシャルロッテからの言によると
・攻撃は非常に重い。その上で範囲攻撃も所持している模様。
・近接型。武器はやけに長いロングソード。首筋に機械が見られたため鉄騎種。
・負傷が回復していた。再生能力持ち。
・近付くだけで【不吉】の類の効果が付与される感覚がした。特殊能力かと思われる。
■味方戦力
■『放蕩王』フォルデルマン三世
当代の幻想国王。放蕩王とも呼ばれる。
玉座に座し、盗賊如きに退く姿勢は全く見せない――
というよりもそこにいてくれたほうが守りやすいだけである。
■『花の騎士』シャルロッテ・ド・レーヌ
フォルデルマン三世親衛隊隊長。幻想の中では珍しい良識人にして苦労人。
フォルデルマンの放蕩さに頭を悩ませる事はしばしばあるが、彼への忠誠心は高い。
親衛隊隊長として非常に優れた戦闘能力を持つが、本シナリオではフォルデルマンの傍から離れる事はない。また、いくら強くとも一人では多数攻撃の手が迫った場合捌ききれない可能性がある。
鍵は皆さん。イレギュラーズです。
■親衛隊隊員×五名
シャルロッテ配下の親衛隊隊員。彼女同様王への忠誠は高い。
前衛三名。後衛一名。回復系後衛一名の編成。
各個人能力・練度はそれなりに高い。少なくとも一対一ならば盗賊団員より強い。
シャルロッテからの命によりローレットには勿論協力的。
よほどおかしい頼みでない限りはローレットの頼み通りに行動してくれる模様。
■その他
依頼開始より少しの間だけ敵攻勢のタイムラグがあります。
その間に外へ出て攻撃を先んじるかは自由です。
シャルロッテは何があろうと王の傍を離れません。絶対です。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします
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