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シナリオ詳細

<ジーニアス・ゲイム>悪として

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●悪よ
「そうか、ローレットが敵か」
 幻想(レガド・イルシオン)の片田舎で、その話を聞いたゲイヤ家当主は嗤った。


 ゲイヤ家は地方の弱小貴族であった。
 昔はそれなりの領地を持ち体裁を保っていたが、先王フォルデルマン二世が崩御した後に他の貴族との食い合いに負けてこのようなみじめな地位に転がり落ちてしまった。しかし、そんな状況をゲイヤ家の貴族たちは受け入れることが出来なかった。選民意識の塊のような彼らは、その自尊心を満足させるために自らの領民を虐げるようになっていた。
 ──その結果、ゲイヤ家領民の一部が反乱を企んだとしても仕方ないことだろう。
 けれども、事前にそれを知った当主は恐れるどころか今日のように嗤った。
『もし、女子供がいれば人質として屋敷へ連行しろ。
 ──あとはそうだな。男も女も、片目、片手が無くとも、働くことはできるだろう』
 これが、<幻想蜂起>の頃にここで起こった出来事である。
 酷い拷問を受けるはずだった村人たちは、間に入ったローレットによって領主とぶつかる前に救いあげられた。
 旅人からの「暴動の兆しあり」との通報を受けて派遣されたイレギュラーズたちは状況を知り、「反乱を企てる村民から領主を守る」という建前のもと、ゲイヤが雇った傭兵たちの前から村民を連れ出したのだ。
 そして、反乱を企てた村民たちは取り調べを理由にゲイヤ家とは縁の無い村へと一時的に拘束され……その後、村に戻ることは無かった。


「感謝、英雄、救世主。いくら賛辞の声をあげた所で所詮奴らも金に動くならず者よ。わかるな?」
 無言で俯く使用人たちの内心をゲイヤはよく知っている。
 ──領民というものは、この地の支配者に表向きどんなに忠誠を誓おうと、内心はいつも消せない叛意を燻らせている。
「いいか、ならず者『ローレット』がゼシュテル鉄帝国の手先として我らが幻想へ攻め入ってくる。ならず者を打ち倒して我が家名を上げるのだ」
 厳しい顔をした四十前の女が兵士たちに告げる。
 ゼルジア・ゲイヤ。
 彼女が現在のゲイヤ家の当主である。
「姉上、戦いは誰に……?」
 三十半ばだろうか、やたらときらびやかな服装に身を包んだ恰幅の良い男がゼルジアに尋ねる。彼はゼルジアの弟であるジィジーノ。
「我が家の兵士たちといつもの傭兵どもに依頼した。だが、家名をあげるにはゲイヤの騎士が率先していかねばならんだろう?
 ──なあ、エリオ」
 カタカタと震えるのはトリコット村出身の少年たち。この屋敷に下男として働いていた彼らは身体に合わない大きく派手な鎧を着せられて震えている。
「ローレット、ローレット──! 領民ども(おまえたち)があのならず者どもを持て囃し好意を抱いているのは知っている。だが、民には民の責務があるのだ」



●戦線の端
 ──北部戦線の更に端。
 有力な貴族たちに紛れて、ゲイヤの私軍は策略を張り巡らせた。
 鉄帝側の陣を出たイレギュラーズたちが通るであろう街道へ立派な鎧を纏った兵士たちが槍を持って立ち塞がった。
「……」
 表情が丸見えのケトルヘルムの下には怯えたまだ幼さの残る少年たちの顔が並んでいた。
 彼らは恐怖で紫に変色した唇をきっと結び、震えた槍の穂先を上げて歩いている。
 その数十メートル後を馬で歩く、ゲイヤ家の私兵たち。
 最後尾では二名の兵士に守られた豪奢な馬車を囲むように、鎧すら纏わない召使が馬上で怯えていた。
「ローレット、幻想と戦うならず者たちの所業を見るがいい──そして、生き残ったら家族にとくと聞かせてやれ」
 馬車の中で、上等な鎧に身を包んだゼルジアがほくそ笑んだ。
「お前たちのちっぽけな世界を守るのは、ゲイヤ家しかないのだとな」

GMコメント

●鉄帝側の依頼:幻想の兵士たちを蹴散らして道を拓く
・イレギュラーズたちは鉄帝側の依頼を受けて戦場に居る
・悪依頼ではない
・幻想側とは言え、一般人は殺さない配慮がある方が好ましい(多少の負傷は仕方ない)



●ステージ:まばらな林に囲まれた街道

・配置
イレギュラーズ - 林 - 丘 - ゲイヤ軍

葉を落とした木々がまばらに生える林沿いの細い街道
イレギュラーズたちは幻想の兵が街道を来ることを、鉄帝側から情報で知っている
木一本につき、1PC(大柄ではなければ)隠れることができる
ただし、一旦見つかったら再度隠れることは難しい
下草は膝までで、よほど小柄(身長100cm位の幼児程度の体格)でなければ隠れられない
スタートからしばらくすると小さな丘の向こうからゲイヤ家の兵士たちがやってくるのが見える



●敵(ゲイヤ軍)
・配置
                        召使
a.エリオたち - b.私兵 - c.召使・兵士・(ゼルジアの馬車)・兵士・召使
                        召使

a~b間はおおよそ20m
b~c(ゼルジア馬車まで)間はおおよそ30m


・エリオを含めた素人の少年兵たち(一般人)×8
鎧を着てはいるが一目で素人だとわかる一般人
力もないが領地で仲間を人質に取られている為、彼らも引くことは出来無い

・馬に乗ったゲイヤ私兵×15(剣×10、槍×5)(!!2018/11/29:修正!!)
騎乗している時は機動力がある

・ゼルジアを守る馬に乗った召使(一般人)×4
戦闘能力は無いが、エリオたちと同様引くことは出来無い
ただ盾として立ち尽くすのみ

・馬車に乗ったゼルジア
馬二頭、御者一名、周囲を守る騎乗した兵士が二名
戦闘が始まると、後方で止まって観戦する
自ら率先して戦うことはないが襲われれば剣で反撃する
戦況が不利と悟ればあっさり撤退する
(目安:ゲイヤ私兵3/4が戦闘不能、本人がある程度傷を負う等)
ゼルジアを殺すことは難しい

ゼルジアとしてはイレギュラーズたちを倒せれば上等、
それができなくとも、「正義面したローレットたちがエリオたち一般人を殺す様を見ることができれば、少なくとも己の鬱憤は晴れ、イレギュラーズたちを敵視する大義名分が出来る」と考えています。

●戦果につきまして
 このシナリオは成功失敗の他に『戦果』を数字判定します。
 これは幻想側と鉄帝側の有利にイレギュラーズがどれだけ貢献したかを示す数値であり、各GMが判定を行います。
 全ての対応シナリオで積み上げられた数字によって北部戦線の最終戦闘結果に影響が出る場合があります。

●GMより
当シナリオではイレギュラーズたちは鉄帝の依頼で幻想に攻めこむ立場でありますが、
対するのは一般人を盾にした悪の幻想領主です。
もちろん、鉄帝からの依頼では戦場の一般人の安全などは言及していません。
けれども、ローレットとして力無い一般人を無駄に傷つけることは避けた方がいいでしょう。
一般人を殺さずに私兵たちを倒し蹴散らすことが最上です。
ゲイヤ家私兵には傭兵も含まれていますが判別はできませんし、する必要はありません。


ゲイヤ家に関しては「<幻想蜂起>押しひしがれた反逆」に登場していますが、
読まなくても問題はありません。
エリオは前述のシナリオでイレギュラーズたちに力を貸しましたが、その事はバレてはいません。

宜しくお願い致します!

  • <ジーニアス・ゲイム>悪として完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年12月16日 22時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

レッド(p3p000395)
赤々靴
シグ・ローデッド(p3p000483)
艦斬り
グレイ=アッシュ(p3p000901)
灰燼
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
リリアーヌ・リヴェラ(p3p006284)
勝利の足音
レイス・ヒューリーハート(p3p006294)
復讐鬼

リプレイ

●潜伏
 街道沿いのまばらな林の中で、依頼を受けたイレギュラーズたちは二つのグループに分かれて潜んでいた。
「これくらいでいいですよね」
 何かを確かめるように街道を歩いていた『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)は林の中に戻ると一本の木の陰に身を隠した。
 やがて、丘の向こうから兵団の兜が見える。
 小さく息を飲む利香に、近くに隠れていた『灰燼』グレイ=アッシュ(p3p000901)が怪訝な顔をした。
「少年兵、私の好みのタイプじゃないですか……あれは殺すわけにはいきませんよね……」
 サキュバス思考駄々洩れの感想を漏らす利香。
 彼女が言っているのは兵士たちの前を、捨て石よろしく歩かされている少年たちのことだ。どう見ても戦いに向いていない彼らだが、その瞳には退けない思いが見て取れた。
 その有様を見て、グレイもまた内心皮肉気に嘯く。
(お国の戦争っていうのは大変だ。立場諸々あるんだろう? いやぁ、僕らは気楽でいいね。敵も味方もないんだから、成すべきこと、望むことを為すだけさ)
 『復讐鬼』レイス・ヒューリーハートは黙ってただ気配を押し殺した。
 すでに姿を隠している『天理の魔剣』シグ・ローデッド(p3p000483)と気配消失を行っている『特異運命座標』リリアーヌ・リヴェラ(p3p006284)からの反応はなかった。


「カクれきれてないよ?」
 『無影拳』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)の指摘を受けて、『特異運命座標』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)は伏せていた茂みからもぞもぞと身を起こした。
 『夢見る狐子』ヒィロ=エヒト(p3p002503)も思案顔で一本の木に手を当てて、上を見上げた。
「ボクも隠れるの得意じゃないから心配だけど動かなければなんとかなる、かな」
 仲間たちと別れ、戦線に近い側に隠れたイグナート、レッド、ヒィロ。
 レッドは戸惑いを浮かべた。
「幻想兵を蹴散らすオーダーっすよね……」
 ローレットの所在地である幻想の兵と戦うことはウォーカーであるレッドの中で少し複雑なものがあるのだろう。
 イグナートは敵兵をじっと見ながら口を開いた。
「オレにとっては、コキョウを守るためってこともある」
 ゼシュテル鉄帝国出身の彼にとって、やってくるのは故郷を害する火種の一つだ。それ以外の迷いはない。
「そうっすね。イグナートさんの故郷を守る戦いか……。うん。それに……」
 近付いてきたゲイヤ家の兵団を見て苦笑するレッド。
「……あっ」
 ヒィロは、少年たちが震えていることに気付いて息を飲んだ。
 事前の情報通りである。
 ゲイヤ家の兵団は多くの非戦闘員を含んだ歪なものだった。
「無理矢理兵士にして連れてくるなんて絶対許せないよ! 人の命を何だと思ってるんだよ!! 絶対絶対許せないよ!!!」
 なんとか声を抑えながらも、ヒィロが怒りを吐き出した。彼女のやや色白な肌が怒りのためにほんのりと赤く染まった。
「ほんと……傍から見て明らかに戦を望んでない子が混じってて、ちょっとやり辛いっすけど、仕事っすからね!」
 レッドはイグナートを見上げた。彼は力強く頷く。
「キアイを入れて行くよ!」



●奇襲
 馬車に揺られていたゼルジアは窓から外覗き込んだ。
「……なんだ、この香りは」
 退屈を持て余して外の景色と怯える召使たちを眺めていた彼女だったが、突然漂って来た甘い香りに気付いた。それが、利香のギフト『夢魔の記憶』によるものだとは知るべくもない。
「花でもあるのか?」
 彼女が問うと警護の兵士が周囲を見回した。
「何も……いや、あれは?」
 そう答えた兵士は、草むらの違和感に気付いた。
「敵か」
「いいえ。放置された剣のようです」
「行軍の足は止めるな。警戒しながら回収しろ」
(知らぬうちに召使共が隠し持つと厄介だからな)
 命を受けた兵士が草むらに転がる剣に手を伸ばした。
 それは、ちょうど私兵団が通り過ぎた瞬間でもあった。
 ──行動開始だ。
 シグが彼の低い視界から辛うじて見える仲間たちに呼び掛けた。
「な……っ!?」
 気配遮断で潜伏していたグレイが動く。破壊のルーン『H・ハガル』によって私兵団へ雹が降り注ぐ。
「て、敵襲!!」
 慌てふためく警護の兵たち。唖然とする非戦闘員たち。
 隙を見逃さず、気配消失を解いたリリアーヌが常人を凌駕するスピードでジェットパックで飛び上がり、馬車へと襲い掛かった。
「空か!」
 ソニックエッジによる音速の暗殺術がゼルジアを襲う。
 慌てて馬車の中に隠れたゼルジアの髪の一房が千切れ空を舞い、扉が叩き割られた。
「ゼルジア様!」
 主を案じる兵士の背後で、手を伸ばした剣がいつの間にか人と成っていた。
 これがシグのギフト、金属質の剣に変じる『フェイズ・ソード』だ。
「少し大人しくしてもらおう」
 シグの放ったマジックロープが兵士を絡めとる。
 その横を、草むらを鳴らして飛び出したレイス。彼は馬車目がけて駆けた。
 即座に繰り出される槍兵の一撃を避けて多段牽制を叩き込む。
 そして、馬車の真横の木の影から飛び出した利香へもう一人の警護兵が慌てて斬りつけて来た。
(本命にチャームといきたいところですけど)
 兵士の一撃を軽いステップで避けた利香は滅衝波を放つ。
「……簡単には行かせてくれないんですよね」
 痺れ、その場に膝を着く兵士の後ろで、怯えを浮かべた召使たちが利香と馬車の間に集まった。
「その身を呈してでもならず者たちを押さえ込め!」
 ゼルジアが叫び、召使たちの瞳は暗く翳った。
 それを見て、利香が叫び返した
「ええ、確かに私達は金で動く傭兵ですよ? 汚いんです……あんたの思い通りにならない程度にはね!」
 利香の慈悲のある攻撃と、レイスの蹴撃が彼らを沈めていく。



 馬車が襲撃されたのと同時に私兵たちを挟み込むように、リリアーヌ、イグナート、レッドも仕掛けた。
 後方で起きた混乱に対処しようとした私兵たちは動揺を露わにした。
「偉そうにしてないで降りるっす!」
 レッドが馬を狙って馬上の私兵を叩き落とし、イグナートもそれに続く。
 体勢を整えた槍兵がイグナートを突こうとした一撃は、前に飛び出した大盾でそれを受ける。
「ゼシュテルの壁──鉄帝の襲撃だ! くそ、お前ら、何を見ていたんだ!」
 私兵たちの怒号に先頭を歩いていた少年兵たちが狼狽するが、彼らは戦闘訓練など受けていない怯えた民間人である。隠れるイレギュラーズたちを察知することなどできるはずがなかった。
 背後で起きた私兵たちとイレギュラーズたちの戦闘を動揺しながら、おろおろと見守る事しかできない。
 舌打ちした私兵がゼルジアを守るべく馬車へと撤退する素振りを見せた。即座に敵陣の中で大盾を構えたヒィロが叫んだ。
「よそ見しない、ボクが相手だよ!」
 護ろうという決意を持って己を鼓舞し敵を引き付ける彼女の《闘志!》は周囲の私兵たちを捕らえた。
 ──森へ。
 声に出さないイグナートの合図にヒィロとレッドが頷く。じりじりと林へと私兵たちを誘い込み、個別の撃破を目論みだ。
 残った私兵たちには、アクセルビートでスピードを増したレッドが追い打ちをかける。
 槍兵の穂先がレッドの頬を掠った。
「まぐれっすか」
「何を!」
 しかし、レッドは一人に括らず素早く動きながら、次の剣を持った兵士に多段牽制を仕掛ける。
「……いやだ、いやだ、いやだ!」
 レッドの人助けセンサーがエリオの漏らした悲痛な叫びを感知した。
 私兵たちに脅されながら、がむしゃらに槍を振り回す少年兵たちは、むしろ、自分たちを傷つけそうに危なっかしい。
 一瞬、哀しい目をしたレッドだが私兵たちに追われながらも、少年兵に近づいた。
「こっちっすよ!」
 そして、仲間たちが森へと私兵たちを引き込むのとは逆に走る。
 気付いたヒィロの胸にも様々な感情が過る。
「ハイゴを!」
 イグナートの声に従い、ヒィロは即座に振り返り忍び寄った私兵の攻撃をまた防ぐ。
 あの怯えた少年たちの姿はヒィロの胸を痛める。
「戦争やるならやりたい人達だけでやってほしいよ!」
 無論、彼女にも解っている。戦場が非情の場であるということは。
(敵への情けなんて余計な贅沢だってわかってるけど……、でも、ね、だからね……)
 身体を硬直させた少年兵の前に、大柄な戦士が現れた。
「すまない」
 そう言ってイグナートは、目の前の少年兵を殴り倒した。



●独裁者の結末
「さあ、私の魔眼を覗き込んでください♪ 容赦はしないですよ」
 周囲の兵士たちは利香のチャームによって彼女へ向かって攻撃を集中させている。それらを素早く動く利香だったが、やはりその身体にも傷が刻まれて行く。そんな中で、彼女はちらりと背後を振り返った。
 私兵たちはイグナートたちによって林の中へと引き込まれているのが見えた。
 森側にさがりながら滅衝波を放つ利香。
 直後にシグが馬車へと距離を詰め──、その足を止めた。
「退きたまえ。お前さんたちを相手にしている時間はないのでな」
 シグは目の前で震える召使へと厳しく迫った。必要以上の厳しさは、相手の後ろにいる領主へのパフォーマンスでもあるが、彼らを追い払うためのものでもある。
「ちょっとだけ……『お昼寝』してくれませんか?」
 魔眼を使った利香が召使たちに囁くが、彼らは震えながらも頑として聞き入れなかった。
(この場面でも、逆らう事すらできないのだな)
 目の前の召使たちもさることながら、シグは背後で戦っているであろう少年兵たちのことが気にかかった。


 壊れた馬車の扉の前で、ゼルジアの掲げた盾にリリアーヌの拳がめり込む。
 ゼルジアの叫びに、敬語の兵たちがなんとか戦線に復帰しようともがく。
「お前ら、さっさと私の盾となれ!」
 傲慢な領主の怒号に、リリアーヌの横顔が険しくなる。
「別に貴方がどんな作戦を取ろうが私はただ仕事をこなすだけですが……敢えて独り言を言うなら──『この痛みで少しでも贖え』ですね」
 加速する拳を盾でカバーし剣で斬りつけながら、ゼルジアは更に吼えた。
「ローレットであるだけでなく、聖職者を騙り我らが神を愚弄する気か」
「っ!」
 激しい勢いで、ゼルジアの盾がリリアーヌの拳を弾き返した。
「待たせたかい?」
 グレイの威嚇術がゼルジアを後退させた。
 舌打ちすると、ゼルジアは身体を丸めていた御者へ叫んだ。
「馬車を動かせ!!」
 しがみついていた馬車が突然乱暴に動き出した。
 弾かれたようにレイスが馬車に取り付く。
「貴様は今までの行為を謝罪する意思は在るか……ないなら俺の視線がお前のトラウマとなろう」
 ──汝、復讐代行者なり。愚かな罪人に断罪を与えよ。
 レイスのギフト『復讐代行権限』が発動した、はずだった。
「……」
 小さく舌打ちするレイス。その瞳は凍える程冷たい軽蔑に満ちていた。
 彼のギフトは罪悪感を抱いていればいるほど効果を発揮する反面、感じていなければ効果は薄い。
「何をした?」
 ゼルジアは妖艶な笑みを浮かべて剣を突き出した。僅かに掠ったそれを振り払ってレイスは馬車の腹を蹴り地面へと着地する。
「二度もゲイヤ家を愚弄したこと、忘れないぞ」
 ローレット、そうゼルジアを獣のように唸った。


 動き出した馬車から飛び降りたリリアーヌだったが、即座にゼルジアを追うべく走り出した。
 だが、その背後を護衛の兵士が斬りかかった。
 気付いた時は遅かった。
 不意を突いた一撃は彼女の身体を深く刺した。
「うっ、く」
 唇を噛みしめ、リリアーヌは闘志を込めて拳を握り込んだ。
(ここで奴を倒す事が出来れば今後流れる領民の涙が減らせるはず……)
 振り向きざまのリリアーヌの一撃が兵士を殴り飛ばしたが、馬車はすでに動き出していた。
 深く息を吸い、身を起こすリリアーヌ。彼女は遠くなる馬車をしばし見つめてから急ぎ踵を返した。
「戦いはもう無駄ですし、必要ありませんよ」
 ゼルジアの馬車が去ったことを確認して、リリアーヌが残された召使たちに告げた。
「……もう大丈夫だ。ここには怖い領主はいない……自分に正直になれ」
 続けてレイスがそう言うと、召使たちは互いの顔を見合った。
「ありがとう」
 そして、彼らは倒れた仲間を抱えて逃げ出した。
 その先がルジアの馬車が去った方角とは違うことに皆気付いていた。
「本当は彼らと一緒に帰って欲しかったけど、そんな余裕ないですよね」
 利香が困ったように微笑む。



●終幕
 ゼルジアの撤退に気付いたグレイは即座に林の中で戦う仲間の下へ駆けつけていた。彼の放った衝撃の青が森へと撃ち込まれ、潜んでいた私兵をなぎ倒す。
 白い肌にかかった灰色の髪を払うと、小さく息を漏らした。大技も使用したため、彼の力は尽き果てた。肩に受けた傷の痛みを耐えて戦場の様子を確認する。
「あっちも終わったっすね」
 合流したレッドへ、グレイは黙って頷く。顔を向けた方向には去って行く召使たちの姿がまだ見え、場には倒れた少年兵たちが残されていた。
 イレギュラーズたちによって叩きのめされた少年たちを、私兵も、ましてゼルジアが回収するはずもなかった。
 馬車の車輪の音はもうすでに聞こえない。
「オレタチがうけたイライはテキの撤退であって、キミタチのサツガイではない」
 ゼルジアたちが消えた方をじっと見ていたイグナートが呟くと、少年兵たちはのろのろと顔を上げた。
 砂埃にまみれて動けない彼らを、イレギュラーズたちは振り返った。
 ──逆に言えば、少年兵たちは酷く汚れてはいたが、死者はいなかった。勿論、不殺を心がけたとは言えひ弱な彼らが無傷なわけではなかったが深い傷を負った者はだれもいなかった。
 ──しばらく前。
『──そのまま倒れて死んだふりをした方が良いっす』
 蹴りを受けて呻くエリオに対してレッドは小声でそう囁いた。
 突然の敵からの言葉にエリオはビクリと身体を震わせたが、そのままそこへと崩れ落ちた。
 ──どうか、村の皆を助けてください!
 そう叫んだ自分の言葉を以前信じてくれたのは、彼らと同じ「ローレット」。
 だから、この悪辣な領主がどう叫ぼうと恩義ある彼らを敵と見做すことが出来なかったのだ。
 エリオを始めとした少年兵たちの耳にシグの声が届いた。
『……声を出さないように、聞きたまえ』
 乱戦の最中である。驚き固まった少年も居たが、元々戦えぬ少年たちのこと。イレギュラーズたちの対応に精一杯の私兵も、後方のゼルジアもそれに気付くことはなかった。
『逃げられない理由もあろうが……命を落とすのは、お前さんたちの望む物でもないだろう。なれば、遅らせたまえ。……慣れないその巨大鎧。『転倒して』『到着が遅れても』不思議ではあるまい?』
「……で、でも!」
 その声は少年兵たちの言葉には答えず、そのままふつりと切れた。
 その直後に、イグナートたちが次々に彼らを『倒して』いったのだ。
「戦った体裁は保たれたはずっす! ……大丈夫っすか?」
 気遣うレッドにエリオは痛む腹を堪えて笑って見せた。
「イレギュラーズに全力出させたんだもん、きっと面目も立つよね」
 ヒィロがまた別の少年の顔についた泥を拭った。
 シグたちが戻って来るのが見えた。


「気をつけて」
 利香の言葉に少年たちは小さく頭を下げた。
 故郷から逃げ出した人々が保護されている村がいくつかあり、別の領主が治めるその村へ彼らだけで隠れながら向かうつもりだという。
「村へ行けば匿って貰えるはずです。逃げなくてもいいのかもしれないんですが……でも……まだ、どうすればいいかはわからないけど」
 俯くエリオ。
 すると、グレイが小さく笑った。彼は感情探知で少年たちのうちに潜む感情を読み取ったのだ。
「そうか……これはキミたちへ僕からの『ギフト』だ」
 グレイの持つギフト「イドの釣瓶」。魔眼は相手の無意識を汲み上げ表層へと押し出す。
 ……例えば、彼らの持つ不満や、反抗心などを。
「これはキミたちの門出の道だ。さぁ、領地で成すべきを事為すといい。僕はキミたちの味方だよ、たとえ何を望もうともね」
 そう言って送りされた少年たちの顔付きは明らかに変わっていた。
(ふふ……彼らの旅路はどんなものになるだろう。楽しみだ、笑顔で見送ってあげなくちゃね)
 そんなグレイへリリアーヌが厳しく尋ねた。
「彼らに、何をしたのですか」
「彼らが歩む道のりを短くしてあげただけだよ」
 レイスは黙って少年たちの背を見送った。
 暴虐から怯え続ける道に、少年たちは別れを告げたのだ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

無事、イレギュラーズたちは、『ローレットとして』依頼をこなし、
それぞれの気持ちに沿って少年と一般人たちを守りました。

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