PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ゴブリンの放火魔

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 遠くで鐘が鳴り響く中、漆黒を背に大粒の雪が舞い落ちていく。
 小さな家がごうごうと音を立て、燃える、燃える、燃える。
 窓からは早くも炎が噴き出していた。
 強風に運ばれた火の粉が柵を越え、馬小屋へ飛んでいく。
 梁の落ちる音、壁のくずれる響き。
 だけど悲鳴は上がらない。
 馬も、人もただ焼かれるだけ。
 可愛かったあの子のように。
 
 あの子が持ってたアレはここになかった。
 盗人の家はここではなかった。
 子供がいる家はあと五つ。
 次はどこに火をつけよう?


 肩を落としたコケモモゴブリンの小さな影が連なって、赤い点を雪に落としながら北へ帰ってゆく。
 それを消火に駆けつけた町の男たちが遠くから見ていた。


 町長だという小男はテーブルの上にため息を落とした。
「早い話がもうこれ以上、火事が起こらないようにして欲しいのです」
 二度の火事はいずれも延焼し、無関係な家と人を焼いていた。
 火事の現場ではどちらもコケモモゴブリンたちの姿が目撃されている。
 冬の火事と魔物のダブルパンチだ。
 怯えた人たちが巻き添えを恐れ、家を捨てて町を出始めていた。
「放火が止まるのであればここだけの話、コケモモゴブリンたちを殺そうが三家を潰そうが好きにして頂いて構いません」
 それというのも、と町長は出た腹を揺すりながらテーブルの上に小さな体を乗り出した。
「『キャンベル家』、『マクガード家』、そして『ダットン家』。いずれも強盗です。いや、確たる証拠はありませんが……」
 先に焼かれた家もそうだったに違いない。それというのもここ数日、街を貫く街道は平穏そのもので、旅人が襲われる事件が一件も起こらなかったからだ。仲間減ったことで襲撃を見合わせているのではないか、と町長はいう。
「この三家の子供が揃いもそろってとんでもない乱暴者で、日ごろから朝一の店頭から商品を盗んだり壊したりしています。おそらく、三家の子供たちは森でコケモモゴブリンたちの巣を見つけたのでしょう。寝かされていた赤子の手から『黄金のスプーン』を奪い取り、殺した挙句に火を放ったのではないか、と私は考えています」
 ええ、あの薄気味悪い連中の子供ですからその位の悪事は平気で働きますよ。苦々しい顔で床に唾を吐き捨てる。
「このままでは町から人がいなくなってしまう。街道を通る旅人もいなくなるでしょう。そうなったら……どうか、我が町をお救いください」
 町長だという小男は、テーブルに両手をつくと広い額を押しつけた。

GMコメント

少々毛色の変わった依頼です。
依頼主のオーダーは「放火による火災」を止めるというもの。
達成方法はイレギュラーズに全権委任されています。
よろしければご参加くださいませ。

●成功条件
最終日の夜、街の広場にコケモモゴブリンたちの死体を吊るすか、それとも……。
放火による火事が起こらないことを、「目に見える形で示して」町民を安心させれば依頼成功です。

●依頼期間
3日以内

●コケモモゴブリン
成人男性の股下程度の背丈しかありません。
2、3家族がまとまって森の奥で暮らし、コケモモの実を主食にしています。
彼らのつくるコケモモのジャムは絶品で、実のならない季節はジャムを食べて過ごします。
巣の入口はとても巧妙に木や草で隠されています。
性質はとても大人しく、滅多なことでは獣や人を襲いません。
人里に姿を現すのはとても珍しいことです。
巣は町から半日ほど北へ行った森にあると考えられています。

コケモモゴブリンたちを目撃した男たちの話では、彼らは引き上げる前に「何か」を探していた様子だったそうです。

●『キャンベル家』、『マクガード家』、『ダットン家』
何を生業にしているのか町の人は知りません。
また普段から街の人と一切交流せず、ひっそりと暮らしています。
3家族とも男の子(8歳~12歳)がおり、いずれもいたずら好きの鼻つまみ者です。
先に焼き殺された2家族も、街の人たちとの交流がほとんどありませんでした。

街道沿いに『キャンベル家』『無関係の家』『マクガード家』『無関係の家』『ダットン家』が並び立っています。

●ポーの町
町の真ん中を王都へ向かう街道が貫いています。
人口は210人。
コケモモゴブリンたちの放火が始まる前は、230人いました。
放火の巻き添えで3家族14人が命を落としています。

ちなみに。
町に10歳以下の男の子がいる家は他にも、町長ウィンベル家、アンダーソン家の2つあります。

  • ゴブリンの放火魔完了
  • GM名そうすけ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年02月18日 20時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談10日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

猫崎・桜(p3p000109)
魅せたがり・蛸賊の天敵
ヘルモルト・ミーヌス(p3p000167)
強襲型メイド
ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)
大悪食
リリル・ラーライル(p3p000452)
暴走お嬢様
琴葉・結(p3p001166)
魔剣使い
シクリッド・プレコ(p3p001510)
海往く幻捜種
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
ソソ=チェンドル=エステレール(p3p004568)
氷雪の狂詩曲

リプレイ

●City without color
 寒々しい。
 『特異運命座標』猫崎・桜(p3p000109)は、仲間とともに町の目抜き通りを広場へ向かって歩きながらそう思った。
 ちょうど朝市が立ち始める時間である。教会の固い鐘音が響く中、売りものを乗せた馬車がぞくぞくと町の小さな広場に集まってきていた。だが、朝の光の下に騒めきはなく、どうにも活気が感じられない。
 道端に止められていた馬車の粗末な荷台をなにげなく覗き込むと、カブなどの冬野菜のほかにしめた野兎や鳩などが積まれていた。それと、荷台の隅に毛布がかけられた小山がひとつ。何かがきらりと光った。あの毛布の下はなんだろう。
 ちょっとした好奇心から、桜は馬車の主に声を掛けた。
「おはようございます、あの――」
 いきなり馬に鞭が入れられた。
 走り去っていく荷馬車をあっけにとられながら見送る。
「一体どうしたんでしょう? 猫崎様が指をさした先をみて急に顔色を変えたように見えましたが……」
 ヘルモルト・ミーヌス(p3p000167)は馬車の行く先をじっと見つめたまま、固まっている桜を気遣った。
「大丈夫ですか。もしかして車輪に足を踏まれてしまったとか?」
「ううん、急だったから驚いているだけ。ありがとう」
 まだ戸惑っている仲間に代わって、『双色の血玉髄』ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)が怒る。
「感じ悪いヤツっすよね~。それにしても……ここの朝市、ちょっと感じが変っすね」
 ヴェノムは後半、声をひそめた。正直な感想だったが、町の人が聞けばいい気はしないだろうから。
 『暴走お嬢様』リリル・ラーライル(p3p000452)がフォローする。
「ここの人たちは毎晩、放火殺人の恐怖に怯えているんですもの。ろくに眠れていないに違いありません。ピリピリしているのもそのせいでしょう」
 現に無関係な人が命を落としている。町の人々に元気がないのは当然だ。
「だから俺たちイレギュラーズが、一刻も早くこの事件を解決しなきゃいけないのですわ!」
 麻布にゆるく包まれた魔剣ズィーガーは身を震わせて、『魔剣少女』琴葉・結(p3p001166)の注意を引いた。
「なに? どうかした、ズィーガー?」
<「結は『三家に対する町長の言動がどうも引っ掛かる』って言っていたな。……これは魔剣の感だが、町長どころか町全体が胡散くせぇぞ」>
 この怯え切った雰囲気は昨日、今日に出来上がったものではない、と魔剣はいう。
 結はそろりと辺りを見回した。
「これは色々と調べてみる必要がありそうね」
 『氷雪の狂詩曲』ソソ=チェンドル=エステレール(p3p004568)が、結に同意して頷く。
「困ってる人を助けたい、という気持ちはあるけれども、今回は……原因をよく見極めないと、だね」
「ま、僕は報酬が貰えれば、如何でもイイっす」
 やや冷めた口調でヴェノムがいう。
 犯人が誰であろうと放火を止めて、もらうべきものがもらえればいい。
「その点なら大丈夫ですわ。俺たちは自由に調査して得た結果をもとに判決を出し、問題を解決することが保証されています。完全に」
 リリルはギルドの担当者に報酬が先払いされていることを確認していた。
 ふうん、とちょっぴり悪そうに笑うヴェノムの隣で、『幻追う田舎者』シクリッド・プレコ(p3p001510)は大げさにため息をつく。
「はぁ……いきなり自体が深刻かつ複雑化してきたッスよ。本格的な初仕事がこれとは、悩ましいつーうか、難しいもんがあるッスね」
 まだ初日、しかも陽が昇ったばかりだ。それなのに雲行きが怪しい。
 でも、とシクリッドは顔をあげた。
「仮に誠実でいられなくとも、事態だけは収束させてみせるッス」
「そうです。なにがなんでも依頼は完遂しなければならないのです。それはそうと、みなさん。まずは宿に急ぎませんか?」
 『万古千秋のフェイタル・エラー』クーア・ミューゼル(p3p003529)は、足元に降ろしていた荷を担ぎ上げた。
 早く荷を置いてコケモモゴブリンたちの巣があるという森へ向かいたい。なにせここから半日かかるのだ。グスグズしていると、移動だけで終わってしまう。
「与えられた期間は三日、一刻もぐすぐずしていられないのです!」
 イレギュラーズは宿へ向かった。

●first day
 ヴェノムは、すん、と鼻を鳴らした。東の方角から微かに木や草の焦げた匂いがする。
「こっちっす。ちょっと急ぐっすよ」
 宿で聞き込み班と別れ、ヘルモルトとクーアの三人でコケモモゴブリンたちが住むという森にやって来ていた。まずは焼かれたという元の巣を探し、そこを足掛かりにしてコケモモゴブリンたちを見つけださなければならない。
「日が暮れるまでに帰らないと、ですね」
 クーアは枝の間に太陽を探した。ついさっきまで頭の真上にあったのに、もうあんな低いところにある。
 空振りに終わるかもしれない、と枝を押し払いながらヘルモルトが不安を口にする。
「お会いできるといいのですが……」
 そろそろ町へ引き返さなくては、という時間になって三人はようやく崖下で不自然な焼け跡を見つけた。
 ぽっかりと空いた穴の下に、焼けた草や枝が炭になって落ちている。出入口を隠していたものが焼けたあとだろうか。
「壁が奥の方ほどひどく焦げているみたいっすよ。火元はこの奥で間違いないっすね。……町長の情報は正しかったっす」
「でも、いったい町長さんはこのことを誰に聞いたのでしょうか?」
 ヘルモルトは巣穴の入口から離れ、近くに立っている木を調べた。どこにも焼けた後がない。焦げ跡はほぼ穴の回りだけに限られていた。当時、煙は上がっただろう。だが、穴の大きさに合わせて細く上がる煙を、遠く離れた町にいて確認できたとは思えない。
「とりあえず、中へ入ってみるのです」
「ん? この臭いは――」
 ヴェノムはクーアの襟首を掴むと、思いっきり後ろへ引き倒した。
 ぷすり、と土が穿れた音の先を見ると、クーアの頭があったところに矢が打ち込まれていた。
 腰のワームが伸び、鋭い歯の間から威嚇するように鋭く息を吐きだす。
 二人同時に振り返えると、両手を上げたヘルモルトがコケモモゴブリンたちに囲まれていた。

 町に残って調査を担当する面々は、三家を訪問する前にまず住民たちに話を聞いて回っていた。
「なんなんッスかね? みんないうことが同じって、おかしくないッスか?」
 そうですわね、とリリルがシクリッドに同意する。
「下手な芝居を見せられている気分ですわ」
 街道沿いの三家をどう思っているか。買い物をするふりをしながら、売り子や買い物客に声を掛けて回ったが、みな口をそろえて「よく知らない」「不気味な連中だ」という。三家の子供たちについては、「手癖が悪い」とこちらも似たような返事ばかりだった。
「その子供たちと直接話ができたらよかったんだけどね。今朝はいたずらしに来ないのかな? あ、これ。温かいうちにどうぞ」
 ソソは聞き込みの途中で買ったクレープをみんなに配った。少しでも口が軽くなれば、と買ったものだが、クレープを焼く男は辛気臭くうなだれて目も合わせてくれなかった。
「次は町を襲うゴブリンについても聞いてみようか?」
 桜が提案すると、そうね、と気の抜けた声が幾つか帰って来た。
「住民たちに何を聞こうと、重要な情報は得られない気がする」、と結がいう。魔剣も同意見らしい。
「あ、これ美味しい。なんだろう、この……中に塗られている甘酸っぱいジャムは? おじさん、これが何か言ってた?」
 尻尾を揺らしながら、桜はクレープを買ったソソに聞いてみた。
「ううん……シンプルなバタークレープだと思っていたら、台の下から小さな壺を出してきて、こっちが何か聞こうとする前に塗りだしたの。クレープはこれ一種類だって。けっこう高かったよ。美味しかったからいいけど」
「ソソさん、ごちそうさまッス!」
 シクリッドは親指についたジャムを舐めとった。
「さて。いたずらっ子も現れないし、もう三家に聞き込みに行くッスか」
 一行は広場を出て街道沿いに建つ、五軒続き家に向かった。赤、青、黄と壁の色が塗り分けられた三階建ての家々は、どれもみな窓を閉めてひっそりとしている。
 手分けせず、全員で西端から順に訪ねていくことにした。
 一軒目、『キャンベル家』のドアを叩けど叩けど、何の反応も返ってこない。
「んん、何か隠してる感じがする? 横の窓からこそっと覗いちゃっても大丈夫かな? かな?」
「桜さん、実力行使はまだ早いッスよ。もうちょっと呼びかけてみましょう」
 桜に代わってシクリッドが、先ほどよりも力を込めてドアを叩いた。
 すると、ノックの音がうるさかったのか、隣の家の二階の窓が開いた。
 隣の家の女は窓から首を出して左右を確認した後、左隣の『マクガード家』を指さした。
「あの、すみません……」
 リリルが声をかけると、女は口の形だけで「いる」と告げて顔を引っ込めた。窓が締められ、勢いよくカーテンが引かれる。
「いまのはなんですの?」
「『いる』って言ってたッスね」
「……とりあえず隣を尋ねてみましょう」
 結の一言でイレギュラーズは青のドアを飛ばし、黄色く塗られたドアの前に立った。代表して今度もシクリッドがドアをノックする。他のものはドアの左右に分かれて待機、シクリッドがいきなり襲われた場合に備えた。
 ノック2回。耳を澄ませて待つ。
「誰も出てこないッスね」
 ――その時、カチャリと鍵が外される音がして、ドアが内側にゆっくりと開いた。
 差し込んだ光の中に手だけがぬっと現れる。
 影の中から何者かが手招きをしていた。
「ど、どうするッス?」
 最悪、押し込みも考えていたのだ。罠の可能性が当然あったが、イレギュラーズたちは家の中に入ることにした。
「せっかくのお招きだしね。ここは当然、行くべきだね」
 ソソは石段を上がった。シクリッドと一緒にドアから中へ入る。続いて桜とリリルが中に入った。最後に魔剣を包む布をほどきながら、結が入る。
 結の背の後ろでドアが閉まると、イレギュラーズは暗闇に包まれた。

●second day
「しかし、なめられたもんっすね。さて、本当にどうしてくれようか」
 火の粉を落とす松明の下で、ヴェノムが憤る。この町に来てから腹を立ててばかりだ。
<『イヒヒヒ、まったく厄介なことになっちまったな。ま、しっかりやれよ、結』>
 結はズィーガーを抱え直した。
「いまがんばるのは私じゃなくて、桜さんなんだけどね」
「ん……まかせてって胸を張りたいところだけど、どこを見ればいいのか。あんまり時間をかけると怪しまれるだろうし、難しいね」
 まさか透視をここで試みることになろうとは。
 桜がついたため息が白い綿雲になって夜空へ上がっていく。
 二日目は夜回りの編成を少し変えていた。
 ターゲットに不信感を抱かせないよう、街道沿いの家をソソとシクリッドの二人で、アンダーソン家をリリルとヘルモルト、クーアの三人が見回っていた。
「果たして盗賊の告白は嘘か誠か。頼むっすよ、桜先輩」
 辺りを用心深く窺いながら、町長の家をぐるりと一周したところでドアが開き、分厚いコートを羽織った小男が出て来た。一瞬、子供かと見間違うほど背が低い。
「やあやあ、ご苦労さま。調査は進んでいますかな?」
「ええ、三日目の夜までにはきちんとした形で結果を出せるでしょう」
 結とヴェノムが町長としゃべりこんでいる間に、桜は一週目で目星をつけた窓の下へ行き、再び透視を行った。

 ソソとシクリッドは黄色いドアの前で立ち止まった。
 鍵がかけられていることを確認し、マクガード家から離れる。中には誰もいない。両端の『キャンベル家』も『ダットン家』も同じく、すでに住人が引き払った後だった。それでも見回りをするのは、三家の間に暮らす住民の家に放火されないようするためである。
「ねえ、昨日の昼にみんなで食べたクレープ。あれってやっぱり……」
「間違いないと思うッス。ゴブリンたちと出会ったら、真っ先に『おいしかった』って言いたいッスね」
 マクガード家のドアが閉められた後、イレギュラーズたちは闇の中で武器を持った男や女たちに囲まれた。有無を言わさず地下室へ連行され、聞かされたのは三家の正体とこの町の現状。三家はラサを荒しまわっていた『砂蠍』の残党だったのだ。
 彼らの正体を知ったイレギュラーズたちは色めき立った。
「待てまて。まず座って、話を聞け。コケモモゴブリンたちを怒らせたのは、十中八九、町長か先に焼き殺された連中の誰かだ。オレたちは関係ない」
 男はマクガードと名乗った。他の者たちは影に顔を隠して名乗り出ようとしなかったが、まず他の二家で間違いなかろう。
「朝市を回っていたな? 今朝はあんたたちを警戒して売りだしていなかったようだが、いつもは町長らが強奪した盗品を住人に売らせている。うちのガキどもはその中でも上物だけを狙って盗んでいた。『砂蠍』の者がつまらねえことするんじゃねぇと叱ったが……ん、オレたちか? 昼はほかの仲間たちと連絡をとるのに忙しくてな、ほとんどここにいない」
 『砂蠍』解散後、街道沿いのこの町を拠点にしようと移り住んだのだが、すでに別の盗賊団が根城を築いていたのだと続けた。その盗賊団の頭が町長で、住民たちは暴力で脅されているという。
 なぜ、自らイレギュラーズたちに正体をあかしたのか?
 マクガードはニヤリと笑った。
「ヤツにもこっちの正体がばれたようだし、近々ここから出ていく予定だった。いま、騒がれると俺たちも困ったことになるし、他の場所で潜伏している連中にも迷惑をかける。いまの情報と引き換えだ。オレたちのことは追わないでくれ」
 その時点では話を裏付ける確かな証拠が何もなかったが、イレギュラーズたちは条件を受け入れた。町に来てから感じる強い違和感、住民たちの態度がいちいち腑に落ちたからである。
「クレープのおじさん、もしかして気づいて欲しくてわざとジャムを塗って出してくれたのかも」
 ソソはクレープ屋を探したが、今朝は市に店が出ていなかった。
「そうッスね。無事だといいんですが……」
 シクリッドは固く閉ざされた青い枠の窓を見上げた。いくらドアを叩いても、昨日の女性は出て来なかった。

「黄金のスプーンは見つかったでしょうか?」
 アンダーソン家を遠くから見守りながら、ヘルモルトが呟いた。
 クーアが手に息を吹きかけて暖める。
「証拠の品が見つからなければゴブリンたちを殺すしか手がなくなります。彼らと出会う前に知っていたら……残念です」
「まだ遅くないですわ。俺たちでちんけな悪党を懲らしめて、黄金のスプーンをゴブリンたちに返してあげましょう。そして、あの美味しいジャムをもう一度食べさせてもらうのです」
 リリルが唾を飲み込む音を聞き、寒さで強張っていたふたりの表情が和む。
「ふふ、私たちもクレープを食べたかったのです」
 昼の調査でアンダーソン家が「白」であることが判明していた。三人は土壇場で証拠品の移動が行われないよう、そのままアンダーソン家近くにずっと隠れ潜んでいた。
 黄金のスプーンをどこかへ移すとなれば、ラサを荒しまわっていた元『砂蠍』の盗賊で用心深い三家ではなくアンダーソン家を狙うはずだから。それに、年頃の子供がいるアンダーソン家は立派な放火の対象だった。
「コケモモゴブリンさんたちに事情を話せればよかったですね」
 黄金のスプーンを取り戻せれば、辛い思いが残る森をすてて別のところで暮らす。コケモモゴブリンの長は巣を訪れた三人のイレギュラーズたちにそう約束し、参考にと一族に残された他の黄金のスプーンを見せてくれた。
「それは難しいですわ。まだ、マクガードが嘘をついている可能性もありますもの。その場合は――!」
 リリルはヘルモルトの袖を引いた。
 アンダーソン家の横に生える木々の間を指さす。
 クーアもまた、木々の間に光る赤い目を見つけていた。
「とりあえず、今夜は森に帰ってもらいましょう」

●last day
「さて、これで決着をつけちゃおう♪ すっきりするか、すっきりしないかは色々あるけども」
 突入に備え、桜は得物を構えた。
 ドアを叩く。
「町長さん、おはようっす。報告に来たっすよ」
 ヴェノムは出て来た町長を腰のワームで威嚇して、強引にドアの前から退かせると家の中に押し入った。
「な、なんだね? キミたち、いきなり失礼じゃないか」
 ヘルモルトはすれ違いざまに小男へ冷たい声を投げかけた。
「次に罪を擦り付けられるのはあなた方の内の誰なんでしょうね?」
 肌を触れあわせるおぞましさを押し殺し、町長に組みついて自由を奪う。
 先に押し入った三人と、シクリッドとリリルで驚いている使用人たち――やけに人相の悪い男たちを押さえている間に、デザインを知るクーアが二階へ桜が透視で見つけ出していた黄金の鍵を取りに行った。
「あったよ!」
 クーアの報告を聞いた瞬間、結はズィーガーを振るって町長――盗賊の頭の首を斬り落とした。
「これで一件落着だね。……ん?」
 ソソは階段下の物置の戸が薄く開いていることに気づいた。かけられていた鍵を壊して中を覗き込むと、男の子とその母親らしき女性が抱き合って座っていた。前の町長の妻とその息子だった。
 イレギュラーズたちは町を牛耳っていた盗賊たちを一網打尽にして、恐怖に震えていた住民たちを解放した。
 そして――。

 黄金のスプーンと盗人の首を受け取ったコケモモゴブリンたちは、イレギュラーズとの約束を守って森から去って行った。

成否

大成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

大成功です。
みなさんの推理と活躍で隠れていた悪が裁かれ、放火は起こらなくなりました。
自由を取り戻した町は徐々に活気を取り戻しつつあります。
ちなみに犯人は町長の子供ではなく、小男の町長自身でした。
クレープ屋と窓の女性は、町長宅の地下で無事が確認されています。

報酬を受け取り、次の依頼に備えて英気を養ってください。
では、また。

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