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シナリオ詳細

歪みの神父ジルラド

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ジルラド神父
「不公平です! 彼らは異端審問にかけられるべきだ!」
 鏡面の如く磨かれた白石のテーブルを叩き、大柄な神父が立ち上がった。
「彼らは、『この私』の忠告に背いたのですよ! 神父である『この私』こそが神の代弁者です。彼らは神への冒涜者に他なりません! あなたも神父ならそう思うはずだ! スナーフ神父!」
「落ち着くのだ、神父ジルラド」
 スナーフ神父と呼ばれた男は、三角形の覆面を頭にすっぽりとかぶり白い法衣を纏っていた。この装束が異端審問官のそれであることは、転義に暮らすものなら一目で理解できるだろう。
 一方でジルラド神父は緑髪に霊樹の衣。天義の教会神父というには異質な風貌をしていた。
「神父であるなら平静を保て神父ジルラド。貴君は神ではない。いち神父である」
「いいや! 神父は、私は絶対です。なぜ彼らを火あぶりにしない。……さては、この私を糾弾するというのですか? あなたは、この国は、私を悪魔に仕立て上げようというのだ!」
「そんなつもりはない。繰り返す。落ち着くのだ、神父ジルラド」
「あれだけ何人もの邪教徒をつるし上げておいて、今回に限って私の言うことが聞けないというのですか? 歪んでいる! あなたも神への冒涜者だ! もうここへは来ない!」
 ジルラド神父は蹴るように椅子から立ち上がると、部屋をずかずかと出て行った。
 閉じる扉。ジルラドの気配が遠ざかったことを確認して、部屋の端に控えていた異端審問官たちがそっとスナーフ神父へと近づいた。
「神父スナーフ。彼は必ず仕掛けてくる筈です。ジルラドの村を焼きますか?」
「やめよ。咎を追うべきは咎人のみである。民を巻き込むべきではない」
「しかし神父!」
 声を荒げる審問官。周囲に控えている別の審問官たちも目を血走らせ、ジルラドの出て行った方角をただただにらんでいた。
「奴は自らの提唱する理想論に従わぬ者を邪教徒と呼び陰湿な処刑を行なっています。まして神父たるものが神を名乗るなど――!」
 審問官は今すぐにでも彼の寝床へ押し入り土地ごと焼き払ってしまおうという目をしていた。
 邪教を払うという使命を帯びた彼らは強靱な信仰心と断固とした実行力を常に要求されるがゆえ、過激な思想に偏りがちであった。
 聖マルタ教会において異端審問の中心的人物であるスナーフ神父はといえば……。
「しばし待たれよ。そのための実行部隊は既に手配している」
「……ローレットですか。魔種を倒した聖なる者たちといえど」
「案ずるな。もし失敗するなら、貴君らが出向くまで」
 スナーフ神父はそこまで言い切ると、奥の部屋へと引いた。

 奥の部屋。
 鏡面のごとき白いテーブルとはうってかわってシックなウッドテーブルと柔らかい絨毯のある部屋には、八人のイレギュラーズが控えていた。
 スナーフ神父は空いた席のひとつに座り、覆面を取り外した。一度見れば忘れぬような、傷だらけの顔であった。
「待たせてしまってすまない。話は聞いていただろうか。今回も、君たちの力を借りなければならないようだ」

●暗殺と防衛
 スナーフ神父は先程の広間とはうってかわって柔らかい口調で話し始めた。
「状況から察しているとは思うが、今回君たちに依頼したいのはジルラド神父の暗殺と、彼の放つ刺客よりの防衛だ。
 彼は自らの意に沿わなかった人間を次々と吊るし上げ、権力の及ばない相手には刺客を送り抹殺しているという証拠があがっている。
 遠からず私の所にも暗殺者が送られてくるだろう。
 それより遅くもなく早くもないタイミングでこちらから暗殺者を放ち、ジルラド神父のみを暗殺する。
 ――実のところ『いつ』送られてくるかは調べがついているが、それを審問官たちに対処させるわけにはいかないだろう。
 彼らは暗殺者を拷問し、その家族や友人をとらえ、暮らしていた土地周辺の人物をつるし上げてしまう。徹底して悪を排除するためだが……今回に関してはやりすぎだ。
 『最小限の外科的切除』が必要だ。
 君たちのスマートなやり方にはこれまで何度も助けられてきた。
 今回も、期待させてくれ」

 暗殺実行日には、今回選ばれたイレギュラーズたちが『暗殺チーム』と『防衛チーム』に分かれてそれぞれの作戦に当たることになる。
「まず防衛だが……暗殺実行日にはあえて部下の審問官たちを遠い土地の調査にあたらせ出払った状態を作る。
 一見、私が無防備に見えるはずだ。
 目立った動きを見せず、私の屋敷に隠れるように待機していて欲しい。
 過激なジルラドのことだ……私一人を暗殺するために5人以上の人員を一気に送り込むだろう。
 彼の乱暴な教会統治に洗脳されてしまっている者たちだろうから、きっと説得も効果はない。寝室へ突入してきたところを迎撃し、戦闘し、そして倒さねばならない」
 そしてもう一方。肝心の暗殺チームだが……。
「ジルラドが最も安心するタイミングは、こちらに暗殺者を送り込んだ時だ。成否の知らせを今か今かと待っていることだろう。
 彼の屋敷に侵入し、護衛の騎士2名を倒し、ジルラドを抹殺してほしい」
 両手を組み、深く息をつくスナーフ。
「暗殺者たちも騎士たちも、ジルラドの横暴な政治によって洗脳された者たちだ。統治するものが変われば過去を悔い罪を自ら償うようになるだろう。できればで構わない。彼らの命はとらないでやってもらいたい。それが『最小限の外科的切除』となるだろう」

GMコメント

 このシナリオは『防衛サイド』と『暗殺サイド』にきっぱり分かれます。シナリオ中の合流はできませんので、相談時はやめにメンバー分けを行なってください。
 丁度良い人員割合は5:3または6:2です。

【防衛サイド】
 スナーフ神父の屋敷にて待機し、夜襲を仕掛けてきた暗殺グループを迎撃します。
 屋敷は大通りに面しており、身分の割にあまり大きな家ではありません。
 一旦寝室で待ち構え、暗殺グループが突入してきたら窓から一度放り出して庭や大通りで戦うのが、スペース的に見ても妥当でしょう。
 屋根などで気配を消して暗殺グループの接近に備えるというのも良い手です。
 一応夜間ではありますが、照明器具なしで十分な戦闘が行なえるものとします。

 暗殺グループの装備はナイフをはじめとする近接武器。
 スキルには毒系、出血系、必殺などがついています。
 人数は5~6人。よってこちらのチームはこれに対抗して5~6人を要します。

【暗殺サイド】
 ジルラド神父を暗殺します。
 彼は自らの意に沿わない者を悪魔に魅入られたなどと罪状をつけ次々と処刑していました。そのため人望が薄く、恐怖によって言うことを聞いている民が殆どです。
 中には彼の教義によって洗脳されてしまった者もおり、そういった者たちがジルラドの側近となっています。

 ジルラド邸宅は広く庭にプールがついているほど豪華です。
 一応教会と呼ばれていますが、実質彼専用の豪邸です。
 豪邸正面には夜間も強くライトをたいており、彼にたてつく者が現われれば周囲を巡回している衛兵がとらえ処刑する手順になっています。
(衛兵は村を一定間隔で巡回しておりますが、暗がりに身を隠しつつ進めばこれを突破することが可能です)

 豪邸への具体的な侵入方法があり、それが有効かつ隠密性の高いものであった場合初撃に奇襲ボーナス(CT値アップ)を得ます。
 騎士二人がジルラドのそばに控えています。これをスルーすることはほぼ不可能ですので、実力をもって倒しましょう。
 一撃で倒すには難しい強さの相手なので、奇襲ボーナスを利用しつつ有利をとりましょう。
 騎士が控えている奥にジルラド神父がおり、騎士に排除を命令する筈です。
 ですが肝心の騎士が倒されれば、ジルラドは無防備となります。
 このあとにするべきことは、ひとつだけです。

 騎士のクラスはクロスイージス。防御の高い肉体派。2名です。

【アドリブ度】
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。

  • 歪みの神父ジルラド完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年12月12日 21時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

Lumilia=Sherwood(p3p000381)
優響の音色
リノ・ガルシア(p3p000675)
宵歩
アリスター=F=ナーサシス(p3p002118)
モノクローム・ウィスパー
クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)
幻灯グレイ
黒・白(p3p005407)
ガーベラ・キルロード(p3p006172)
noblesse oblige
御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの
ケイド・ルーガル(p3p006483)

リプレイ

●信仰は本来意識せぬもの
 たとえば科学信仰。科学の神という存在を無意識にもち、世界のありようを受け入れるさまをさす。
 天義における信仰も、おそらくは混沌に存在する神的概念を心にもつことに始まるはずだ。そういう意味では、科学信仰とさして変わらない。
「だが時として、自らを信仰の対象であると錯覚する者が現われる。それは、人であれば仕方の無いことだ」
「お許しになるのですか?」
 質素なリビングルーム。ガウンを纏うスナーフ神父のそばで、『白き渡鳥』Lumilia=Sherwood(p3p000381)は小さく首を傾げた。
「何者も許すさ。彼の場合は、今死なねば多くを巻き込んでしまうだけのこと。異端審問とは、本来そういうものだと私は考える」
「…………」
 Lumiliaは沈黙し、寝室へお入りくださいなと促した。
(以前お見かけしたときより、良い意味で天儀らしくないように思っていましたが……)
 外から見る天義らしさには原理主義過激派左翼のカラーが色濃いので少々参考にしづらいが、それを差し引いてもスナーフの発想は天義一般のそれとズレているように見えた。
「なんだかな……こんなだからカミサマなんて信じられねえってんだ」
 ケイド・ルーガル(p3p006483)がちいさくぼやく。きっとジルラドのことを言っているのだろう。
「自分にも、カミサマの声なんてもんが聞こえたら話は違ってくるもんだけどよ。どうせ、ジルラドとか言う神父サマも聞こえちゃいないんだろ?」
 混沌肯定という世界のルールがある以上、この世界に神はある。それは地球に重力があるのと同じくらいにごく普通のことである。
 神にいたずらな期待をする者や、神を名乗る者があることで、混乱を生むのだ。今回のように。
「神を名乗るのは、多くの場合気が狂ったからではない。誠実すぎるがゆえに、名乗らざるをえないのだ。そして神父は多くが誠実だ。神父ジルラドも、おそらくは……」
 きっと天義国家すべての教会を焼き神父の全てを抹殺しても、誠実に生きようとする限り神を求め名乗る者が現われる。
 天義とはつまり、誠実でありすぎた国家なのかもしれない。

 時を同じくしてジルラドの管理地域。闇に紛れるようにして、『宵歩』リノ・ガルシア(p3p000675)たちはジルラドの邸宅を目指していた。
 町は貧困に荒み、路上にはごみがあふれ、あちこちに下水めいた臭いがたちこめている。
 この町が町として機能できていないことは明らかだった。
(あっは、おっかしーい。天義も一枚岩じゃないなんて当たり前だけど、基本的にやってることは一緒なのにね)
(そうやって『神』を免罪符に我欲で【同胞】を増やす訳だ。ふーん。盗賊以下の屑がねぇ、へえ。奴等はどこかで自分が死ぬ怯えや覚悟があるけどお前等は何の疑問や疑いもなく罪を正当化して悪行を重ねる……)
 一方で黒・白(p3p005407)は冷たい殺意をジルラドへ向けて燃やしていた。
 皆言い方は違えど、思っていることは同じようだ。
 『モノクローム・ウィスパー』アリスター=F=ナーサシス(p3p002118)も、サイバーゴーグルをかけ夜に紛れるように町を進む。
(わたしにも心はあるし美学もある。己の為に法を使うような醜さを無制限に自分に許しつづけるなんて、ちょっとなあ。わたしとしては己に顔向け出来るか否かだが、彼らは神がそうであるべきなんだろう)
 息を潜め、見回りの兵士をやりすごす。
 兵士たちの勤務態度はとても誠実とは言いがたいもので、大雑把に町を見回ってはどこか自堕落に振る舞っている。
 町はもはやジルラドの思想に呑まれ、多くの人々は考えることをやめ、未来を捨てて生きている。
 当然だ。ジルラドが自らの考えに沿わないものを次々とつるし上げているその構造は、全ての民がジルラドにならなければ成立しない。いずれは彼一人だけの町となり、あらゆるものが死に絶えるだろう。
 暴走した正義の慣れはて。そんな風にも、見て取れた。

「オーホッホッホ!自分の私利私欲の為、神父様が神父様を暗殺する……一部の幻想貴族並にここの聖職者も残念な人がいらっしゃるようですわ。暗殺という手段を何だと思っているのかしら……度し難いですわね」
 『農家系女騎士令嬢様』ガーベラ・キルロード(p3p006172)はすっと目を冷たくすると、スナーフ神父へと向き直った。
「安心なさって! 私達がスナーフ神父を暗殺者から守りますもの! オーホッホッホ! 私はガーベラ・キルロード! キルロード家の名に懸けてスナーフ神父を守りますわ!」
「……テンション、高いッスね……」
 『傷だらけのコンダクター』クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)はそんなガーベラの様子をぼんやーりと見ていた。なんだかなじみ深いテンションだ。
「腐敗政治ならぬ腐敗信仰とでも言った所ッスかね。今更1つ2つの癌を取り除いた所で……どうしようも無いような気もしますが……」
 今回の暗殺者迎撃作戦は、ケイドたちを屋根に待機させ後続を。スナーフのベッドにクローネたちが代わりに入って先頭を狙うという形に分かれていた。
 当のスナーフをクローゼットに押し込み、ごそごそと布団に入ってみ行くクローネ。
「何だかドキドキしますわねクローネ先輩!」
 一緒に布団に入った『きらめけ!ぼくらの』御天道・タント(p3p006204)が修学旅行のノリでキラキラしていた。
 額をぺちってやってキラキラを消すクローネ。
 明かりを消されて布団に潜り込むタント。
 一度だけ目を閉じて、これからやってくる暗殺者のことを思った。
(別の地では仲間達が逆に暗殺に携わっていると思うと、何だかよく分からなくなりますわね……)

●夜はどこから来たる
 五人組の集団が足音を消しながらスナーフの屋敷へと走る。
 目元から下をバンダナで覆った人相不明の暗殺者たちは、それぞれバンダナにジルラドの紋章が刻まれている。
 彼らはまず窓へと近づき、慎重に鍵を外した。
 内部が静かであることを確認し、窓をあけて最初の三人が入っていく。残る二人は念のための見張りだ。
 あとはスナーフ神父に襲いかかり、殺しきれなくとも二人がかりで押さえつけてトドメをさすのみだ。
 そう考えてベッドをめくったその途端――。
「「オーッホッホッホッ!!」」
 ベッドの上でポーズをとったタントとガーベラ(同色発光)。
 そしてその間にぎゅうぎゅうに挟まれたクローネ。
「残念でした! スナーフ神父様でなく私たち――」
『きらめけ!』
『ぼくらの!』
『タント様!』
「とガーベラ・キルロード!」
「「ですわー!」」
 暗殺対象のベッドをめくったらこんな人たちが発光しながら待っていたら、どんな人だって驚く。
「はっ、クローネ先輩もご一緒に」
「遠慮するッス……!」
 クローネはベッドの前であっけにとられている暗殺者を蹴りつけると、窓のそばにいた他の暗殺者たちにフロストチェインを投げつけた。
 そう広くない室内でのこと。クローネの戦闘力が生きるのは彼らを野外に放り出してからだ。
 突進をかけて暗殺者の一人を窓の外へと突き出しにかかる。
 迎撃を察した窓の外の暗殺者たちは見張りを中断し、室内へはいりこもうと身を乗り出す……が、屋根の上から急降下をかけてきたLumiliaによって蹴り落とされ、庭へと転がるはめになる。
 それを助けるべきか部屋内に侵入すべきかもう一人が迷っている隙に、屋根でじっとしていたケイドによる銃撃。
「アンタらはカミサマが笑うとこ、見たことあるか?」
 窓縁を掴んでいた手を打たれ、暗殺者たちはそれぞれ庭に転がった。
 屋根に陣取ったまま射撃を続けるケイドに援護を任せ、Lumiliaはフルートにてをかけた。
 神の剣の英雄のバラッドが高らかに奏でられる。

 一方暗殺チーム。
 闇に紛れてジルラドの邸宅までたどり着いたリノは、ありあわせの道具で裏口の解錠をこころみていた。
 黒・白からハイテレパスによる通知がよせられる。
 見回りの兵士が近づいているかどうかは黒・白の透視能力とハイテレパス信号によって把握することができた。
 危なくなれば身を潜め、危険がなくなり次第行動するようにすればいい。
 アリスターも動きを止めている間でしか気配を殺せないが、黒・白と併用することで効果的に身を隠しつつ移動することができていた。
 かくして勝手口の鍵が開いた、が――。
「そこに誰かいるのか」
 ジルラドはその振る舞いから暗殺の対象になりやすい。
 これまでも『粗末な暗殺』は繰り返し行なわれていたようで、寝室のそばに控えていた騎士が鍵を開けた音に気づいてこちらへと近づいていた。
 三人の間でコンタクトが交わされる。
 そして。
「ハァイ」
 明かりをつけた廊下の壁に背をつけて、リノが怪しく手を振った。
 そこで何を? 殺意の籠もった問いかけが発せられようとしたその瞬間、物陰に身を潜めていたアリスターが剣を繰り出した。
 咄嗟の防御も遅れ、大きく切り裂かれる騎士。
 鎧の間から血を流しながらも、騎士はよたよたと奥の部屋へと走った。
 大きな屋敷とはいえさほど広い場所ではない。対応レンジの長い攻撃は使いづらいだろう。黒・白は窓の外から狙いをつけマジックロープを連射。
 駆けつけてきた騎士を牽制する。
 その間にリノは逃げる騎士に飛びかかり、両足で頭を挟むようにしてねじり倒した。
「敵と見えたものの是非を見極め、慈悲を与えたことは? 善とは何であるか誰かの膝の上で素朴に教わったりしたことは? 行動が正しいか己に問い続けているかい?」
 アリスターが問いかけながら剣を振りかざす。

●呼吸をするには不確かな理由
 ナイフを握った少女であった。彼女の目には涙があったように思う。
 まっすぐに、つや消しした刃が腹部めがけて差し込まれる。
 どんとぶつかる衝撃に、Lumiliaは冷たい感覚を得た。
 彼女はなにを考えて自分を刺そうとしたのか。
 Lumiliaは一瞬だけ考えて、すぐに目を閉じた。
 拒絶するように突き放した右手は血に濡れていたが、それだけだった。
 刺しえぐったはずの肉体が血すらのこさず修復され、刃幅のぶんだけ引き裂かれた服の布地があるばかり。
 『あ』とだけ呟いた少女を置き去りにして、Lumiliaは飛び退くように飛行した。
 短節の呪歌をとなえる。無数の光が少女を縫うように刺していく。
「自分に微笑みかけてくれたのはカミサマじゃなかったよ」
 ケイドはアップルキャンディを奥歯で噛み砕きながらライフルの引き金を引いた。
 コンマ一秒きりの時間差でサイトのなかにあった目標が物理法則に伴って踊る。
 目の光りが消えくるくると回る人形にみえた。
 命のない人形に見えた。
 二度目の引き金をひく自分。
 ぜんまいを巻いているような錯覚と、人形を踊らせている感覚。
 うろのような目がサイトごしにこちらを見たその瞬間。
 既に粉々に砕けたキャンディを噛みしめてすりつぶし、ケイドは三度目のひきがねを引いた。
 木の枝にからまるように止まる少女の肉体。それを横目に、怒りと狂気が混ざった叫びを上げる男。
 なんと発現したのか確認するまでもなく、クローネは赤い氷でつむいだ鎖を振って回した。
 ナイフを逆手に握った男が飛びかかり、クローネはそれをピボットターンで回避した。
 絡め取るように振り込んだ鎖が男の肩から胴体にかけて巻き付き、凍てつく氷が肌や衣服に張り付いた。
 張り付ききらなかったものがあたりまえの法則に従って切り裂かれ、赤い鎖が赤黒く染まっていく。
 白い花のさく庭を赤くかえていく。
 クローネは右手を開いた。
 薬指にはまった指輪が呪いをもって輝き、クローネの目と同じ色に染まっていく。
「義の有り様なんて考える必要も無いッスよ」
 自分の足にすがりつく男の手。
 クローネは開いた手で男の頭を掴んだ。
「……多分、答えなんて出ませんから」
 男の頭がはじけて飛んでいく。

 窓ガラスを割って庭へ転がり出る少女の姿。
 取り落としそうになったナイフを再び握りしめた途端に、窓の上縁を握って飛び出したガーベラの硬い靴底が少女の鼻先を蹴りつけた。
「このような小娘にしてやられるなど暗殺者の名折れでは? 一度暗殺のなんたるかを勉強してき直してきた方がよろしいのでは? 愚民の皆様?」
 背筋を伸ばし手の甲を口元へ添えるガーベラ。
「ガーベラ様!」
 窓から身を乗り出したタント。
 それよりも早く、ガーベラに三人の暗殺者たちが飛びかかった。
 まるで抱きつくようにぶつかる三人のナイフがガーベラの脇腹や胸を深く貫いたのに、ガーベラは深く深く息を吸い、世にも気だるげにはき出した。
「狂信者なんて、こんなものですのね」
 タントの浴びせたヒールの魔術がガーベラを包み、切り裂いていた筈の傷口が強制的にふさがっていく。
「大事ありませんの!?」
「かすり傷ですわ」
 ガーベラは相変わらず気だるそうに、やや乱れた髪のカールを指でときなおしていた。
 もし自分が刺した側ならわかるはずだ。手応えが異様に硬い。もしくはすかすかしていたと。
 あばら骨で、もしくは内蔵と重要な血管をさけた肉だけで受けたことまで察することができるかは、場数によるのだろうが。
 ガーベラは首だけでタントへ振り返ると、優しくウィンクをした。
「目をつぶって、三つ数えていらして」
 言われるままに目を閉じたタントが再び目を開けると、暗殺者たちは首をおかしな方向にねじって倒れていた。
 すぐさま黒い布を頭にかぶせるように落としていくガーベラ。
「大丈夫。殺してはおりませんわ」

●性善説における悪人
 寝間着のまま荒れ地を走るジルラド。
 慌てて足を止めると、騎士の死体が転がった。
 叫び声をあげて後じさり、落ちた木の枝に躓いて転倒する。
 逆光にゆれる黒・白。
「なんで『神』を自称したの? それがお前の宗教? 素晴らしい考え方だ。そしてこれがボク達の宗教だ」
 血に濡れた手が迫る。
 這うように転じ、助けを呼んで走るジルラド。
 黒・白の放ったオーラの縄がジルラドの手首に巻き付き、きつくしめて引きちぎっていく。壊れた水風船のように血をふく手首が信じられないというように、ジルラドは言語化不能な叫びをあげた。
 しめった落ち葉を踏んで追う黒・白の足音から逃れるように走る。
 路上へと転がり出る。
 警備兵がこちらを見たが、駆け寄ってはこなかった。
 汚いものを見る目で何かを言っている。
 腐った動物の死体が数センチ先に落ちている。
 それを踏みつける黒い靴底。
 視線を上げればそれがアリスターだとわかるだろう。
 頭髪を掴んで持ち上げるアリスターは、歯をがちがちといわせるジルラドに顔を近づけていた。
 何かを小声でつぶやいているように聞こえたからだ。
 大きく首を傾げる。
 何かを言って、アリスターはジルラドを殴り飛ばした。
 血を吹いて仰向けに倒れるジルラド。
 顔を覗き込むように、リノが腰を下ろした。
「      」
 なにを言ったのか、鼓膜のやぶれたジルラドには聞こえなかった。
 ごうごうと血の流れる音だけが聞こえていて、自分の言葉すら聞こえていない。
 リノは首を振って、ナイフを首筋へと押し当てた。

 路上を血だらけにして倒れた神父ジルラドの死体。
 警備兵たちはその様子を、ただ黙って見ていた。
 振り返り、肩をすくめてみせるリノ。
「どうする?」
 警備兵は苦い顔をして首を振り、『さっさとどっかへ行け』というジェスチャーをした。
 この事件に関わるだけで面倒だと、顔にかいてあった。
 神父が暗殺されたとなれば、国は新たな神父をその地区の管理に割り当てるだろう。犯人捜しは目撃者たちに任されるだろうが、見なかったことにされれば永久に迷宮入りとなる。
 正義ある兵士たちは嘘をつかないとされるからだ。天義とはそういう意味で、悪意にたいして脆弱だ。
 リノたちは『お言葉に甘えて』とその場を素早く撤収した。

 最後に。
「ねえ、神父は最後になんて言っていたの?」
「さあ。かろうじて――『私は悪くない』って」
「そう」
 とだけ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete
 ――good end

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