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シナリオ詳細

<天鉄国境事件>月光の矜持

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●国境線
 それは――『とある』山中の事であった。
「――失礼。『手が滑り』ました」
「あぁ……気にするな。こちらも『手が滑った』だけだ。失礼した」
 交戦する者がいた。片や白銀の鎧に身を包む騎士。片や軍服に身を包む偉丈夫。
 その周囲は剣撃と打撃の跡に見舞われておりとてもではないが『手が滑った』だけの様子には見えない。樹はへし折れ、あるいは薙ぎ倒され。しかし両者に大した負傷は無く、互いに『手が滑っただけ』と言っているのだ。『そういう事』なのだろう。
 少なくとも今、この瞬間までは。
「では天義の――いやゲツガ・ロウライト殿。繰り返しになるがもう一度だけ言わせてもらおう」
 そして軍服を着込む者……鉄帝軍人レオンハルト・フォン・ヴァイセンブルクは向かい合う天義の騎士ゲツガ・ロウライトへと言葉を紡ぐ。軽く吹く山風に、その美しき金の髪をなびかせながら。
「ここは『鉄帝』の国境内だ。こちらの国境へと逃げ込んだ犯罪者共に関しては、鉄帝に任せて頂こう……この場は退いてもらえないかね? 引き渡しを望むというのならば、然るべき外交ルートにて陳情してもらおう」
「否。ここは『天義』の国境内。鉄帝のご厚意は有難く思いますが……国内の事は天義で片をつけましょう。元より、奴らめに関しては天義で無法を振るっていた者達なのですから」
 互いに言う。ここは互いに『自国内』であると。故にこそ自国の者で片を付けると。
 そう、前述した『とある』山中とは――鉄帝と天義の国境線に存在する山中の事なのだ。今彼らはそのかなり微妙な所にて言い争いをしている。どちらがどちらの領域であるのか、その微妙な訳は。
「ほう? この山は、山頂を起点にして互いの国境線となっている……それは貴殿も承知している事の筈だ。そしてここは鉄帝側だとも。幾度かに渡る山崩れでハッキリとした山頂ラインが崩れていることは認めるがね。しかしそれを差し引いても、だ」
「法の定義云々をこの場にて議論するつもりはありませんな。微妙であるというならば、この地へと逃げ込んだ犯罪者共は我等で処理を。些かの時、目を閉じてさえ頂ければそちらへの負担なく円満の解決と相成りましょう――如何か?」
 そう。この山は山崩れの激しい地であり、定義された国境線のラインが今現在『あやふや』な状態であるのだ。山頂ラインはどこなのか? 崩れてズレた場合、崩れたラインを新領域とするのか? その辺りの話は今の所行われていない上に、さほど重要な地ではなかったため放置されていた。しかし。
「断る。望むのならば、あぁ引き渡しには応じるとも。だがね、明らかにここは鉄帝領だ。天義の勝手を……認める訳にはいかんのだよ。退きたまえ」
 放置されていたが故にこそ――今正に、国境線の問題が起こっていた。
 レオンハルトは言う。鉄帝領だと。
 ゲツガは言う。天義の犯罪者は、こちらで裁くと。
 互いに互いの道理を通そうと問答を重ねるがどちらかが折れぬ限り結論が出る様子は無さそうだ。ならば武をもって道理を押し通すか? いや、いや。彼らは互いにそれなりに立場のある者達だ。『手が滑った』以上の範囲で激突すればそれこそ面倒な事態を引き起こしかねない。先の小手調べで一蹴出来るような実力の開きは互いにないと悟ってもいる。
 ならばどうするか――

●天義の依頼
「奴らは、国内で麻薬の売買を行っていた犯罪者集団でしてな。あと一歩まで追い詰めたのですが……国境線のあちら側に逃げ込む事態。正確には、そこに拠点があったというべきでしょうか」
 天義領へ所用で訪れていたギルオス・ホリス(p3n000016)へとゲツガは言葉を紡ぐ。
 事情を聴いてみればそういう事らしい。あと一歩の所で鉄帝の向こう側へ行かれてしまったと。多少ならばと追撃を掛けようとしたゲツガであったが――偶然近くに来ていたレオンハルトと遭遇してしまったのだとか。
 国境線の問題。成程、中々シビアな所であるが……しかし。
「流れは分かりました。ですが……一点宜しいですか? なぜ、鉄帝に任せないのです?」
 ギルオスは言う。国境線を跨いでしまったのならば、その疑いが非常に強いのならば――後は鉄帝に任せてしまえばよいではないかと。
 向こうとて麻薬密売者をみすみす放ってはおくまい。すぐにでも部隊を編成し討伐に乗り出すはずだ。そう、それで事は全て解決する。万々歳だ――なのに、なぜ拘る? 己の、引いては天義が討つ事に。
 さすればゲツガは一息置いて。
「……やはりローレットはローレットか」
 漏らす様に、言の葉を紡いだ。
「……なんですって?」
「確かに鉄帝に任せれば楽でしょうな。領域の問題でも面倒が起こらない。しかし、それでは駄目なのです。それでは――薬物被害を受けた一家の者らの、無念を晴らせず。正義を成せない」
 ゲツガは続ける。その願いは己が受けたのだと。
「狂う家族をベッドに縛り付け、依存を押さえつける様を見た事は?」
 しかし努力も空しく症状でやせ細っていく様を見た事は?
「死の直前まで薬を欲する言を叫び続ける様を見た事は?」
 ないだろう。
 だから理解が及ばないのだ。なぜ己が、正義を成そうとしているのかを。
 所詮はその辺りが――不正義をも容認するローレットの限界か、と。
「鉄帝ではない。天義が、私が。不正義の断罪をしなければならないのです。で、なければ……ロウライトの名を頼ってきた無辜の民らの無念を晴らせないッ!! これは損得の問題ではない! ただひたすらに私の……天義の騎士としてのッ!」
 瞬間、ゲツガは拳を振り上げて。

「――『矜持』の問題なのだッ!!」

 机に叩きつけた。
 割れる。あまりの怒に。感情に。その精神が込められた一撃は机を叩き割る。激しい破砕音が周囲に響き―― 一瞬の静寂が生まれた。呼吸の音のやけに大きく聞こえる程に。されどギルオスは表情一つ、視線一つゲツガから動かさず。やがて。
「矜持一つで『線』を超えますか」
「左様」
「強硬が過ぎれば。下手を超えれば貴方が不正義と断ぜられるかもしれませんが」
「そうなれば、その時は断罪の刃が私の首を刎ねるのみ」
 意志は固い。視線は鋭く、何人であろうとその意思を折る事は叶うまい。
 ゲツガ・ロウライトとはそういう男だ。天義の騎士、月光の騎士。その名が、正にここにいた。
「……しかしこの身は神に仕える身。神の名を汚す行いはあってはならない。要らぬ衝突を避ける事が出来るのならば、避ける手立ては取らねばならない」
 故に、のローレットだ。
 線の向こう側には行く。行く、が。レオンハルト率いる鉄帝の横やりを避けつつ、犯罪者集団を討つ……些か一人では無謀だ。特に鉄帝との接触。それらは排さねばならないが……これに己以外の天義騎士を巻き込むわけにはいかない。いざという時は。
「自らのみの責とする為に……ですか。そこまで分かっておきながら、頑固者だ」
 思わず頭を抱えそうになる。リスクを分かっておきながらそこまで信念を優先するとは。
「――だが嫌いではない。分かりました早急にメンバーを編成しましょう」
 政治的中立を謳うローレットならばマシだ。鉄帝とぶつかりあったとしても。
 少なくとも現役の軍人と現役の騎士がぶつかり合うという事態よりも遥かに。ゲツガから聞いたレオンハルトの対応からしても、向こうも極力事態を面倒にはしたくない筈。とにもかくにも『ゲツガとレオンハルト』『天義と鉄帝』の明確なる殺傷沙汰を避ける事さえ出来れば事態はうやむやにされて終わるだろう。そう踏める。
 故にレオンハルトの『殺害』も同時に避けねばならない。向こうも歴戦の強者。無論、簡単に殺害可能……などとは言えないが、万一出来たとしてもやってはならない事だ。事態の収拾は絶望的となる。
 レオンハルトは足止めする。犯罪者集団は逃さず討伐する。この二点を出撃メンバーに周知させておかないと……などとギルオスが考えていれば。
「それと。メンバーの選定は任せますが……一点、願いが」
「はい、なんでしょう」
「我が孫娘――サクラ・ロウライトを入れてもらいたい」
 ゲツガが口にしたのは一人の少女。サクラ・ロウライト。
 彼が言った様に関係としては孫娘と祖父である。たしかに、彼が言うような少女はローレットに在籍していたとギルオスは記憶している。が、たしか彼女は……
「――確かに『サクラ』という者は在籍しております……が、彼女は『ロウライト』の姓は名乗っていませんね。同一人物であるのか、ご期待には添えかねる可能性が存在します」
「調べはついていますが」
「さて。本人がそう名乗らない限り、私としては同一人物と断定は致しかねます」
 そう。名乗っていないのだ、ロウライトと。
 まず間違いなく実際に関係のある本人であろう。が、事情がある事を鑑みてこの場での断定は避けた。後は本人が如何様に対応するか、だろう。依頼主の希望がある。優先的な案内だけは出しておくが……さて。フードでも深く被っておく事を勧めておくべきだろうか。
「……まぁ良しとしましょう。忌まわしき薬物さえ断罪出来ればそれでよし」
「ありがとうございます。ところで先程から、薬物と言われていますがそれは……」
 あぁ、とゲツガは言う。眉間に皺を寄せ、心底嫌悪の表情を作りながら――
「名はパウダースノー。鉄帝の更に北の方で取れる花の成分を用いた――薬物です」

GMコメント

■依頼達成条件
1:犯罪者集団の断罪(捕縛は可能な限りでOK)
2:ゲツガとレオンハルトが戦闘を行わない。

 両方の達成。

■戦場
 鉄帝と天義の国境線にある山中……にある犯罪者集団施設。

 小規模な施設です。東と西にそれぞれ出入口があり、小規模な部屋が多くあります。
 西は鉄帝側に近く東は天義側に近い形です。依頼開始はほぼ同時です。

 時刻は夜。満月が出ています。
 室内に入れば明かりがついています。意図的に破壊されない限りは視界に問題ないでしょう。
 逃げ道としての隠し通路の類があるかは不明です。

■犯罪者集団×25人
 天義において「パウダー・スノー」なる薬物を取り扱っていた集団。
 突出して強力な者はいませんが、追い詰められれば必死の抵抗をしてくるでしょう。
 現在は残存の麻薬や資料を取り集め脱出の準備を進めています。逃げる前に討伐を!


■『月光の騎士』ゲツガ・ロウライト
 天義の騎士。ロウライト家の初代であり、今なお騎士として活動する人物。
 神の正義を第一とする正しく「天義騎士」たる人物です。不正義がそこにあれば親族・友人・知人の区別なく断罪の刃を振るう、他者に厳しく自らにも厳しい気質を持ちます。

 『月下の審判』という「満月の夜」に「限定的な問い」に「強制的に答えさせる」というギフトを持ちます。今回の依頼の中でこのギフトが使われるかは不明です。

 本件に関しては「強行であろうとも不正義の断罪」を目指しています。
 いざとなれば鉄帝との衝突もやむなしと考えています。

■レオンハルト・フォン・ヴァイセンブルク
 鉄帝の軍人。骨格が機械で形成されている鉄騎種。
 鉄帝人らしい気質を奥底に持ちますが、基本的には冷静な人物です。
 通常時は軍式格闘術による戦闘を行いますが、本気の際は剣を用いての戦闘に移行します。

 具体的なステータスは不明ですが接近戦型で、満遍なく隙の無い能力だと思われます。
一人で押し留める事は非常に難しいでしょう。

 本件に関しては「迅速な解決」を目指しています。
 同時に鉄帝の領域である事が濃厚な地での天義の勝手を許すつもりはありません。

■鉄帝の者?×八名
 どうやらレオンハルトの周囲には八名で編成されたの謎の部隊?がいるようです。
 彼らはレオンハルトを援護し、またゲツガの足止めを狙っている模様です。
 一体何ーレットなんだ……

 PL視点ではご存じだと思われますが『もう一つの依頼のメンバー』です。
 PC視点では当初知りませんが依頼の途中で遭遇する事もあるでしょう。協力して敵にあたって全く構いませんが『向こうの依頼のメンバーとプレイングを連動させる事は出来ません』
 リプレイでは『この依頼に参加しているメンバー』だけで判定・描写がされます。
 あくまでもフレーバーとしてお考え下さい。

■その他
 <天鉄国境事件>は排他処理がかかっております。
 両方に参加する事は出来ませんのでご注意ください。

 <天鉄国境事件>はそれぞれで結果(犯罪者集団の討伐)は連動しますが、判定はそれぞれで行われます。プレイングに関しましては依頼を飛び越えて連動させる事は出来ませんのでご注意ください。

  • <天鉄国境事件>月光の矜持完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年12月12日 21時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

如月 ユウ(p3p000205)
浄謐たるセルリアン・ブルー
テテス・V・ユグドルティン(p3p000275)
樹妖精の錬金術士
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
ワルド=ワルド(p3p006338)
最後の戦友
空木・遥(p3p006507)
接待作戦の立案者

リプレイ


「犯罪者の捕縛は私達ローレットに出来るだけお任せして下さい。お祖父様」
 胃が痛い。『薄紅一片』サクラ(p3p005004)はキリキリと痛む胃と冷や汗を気合で抑えてゲツガへと言葉を紡いでいた。ああ、鋭き横目の視線がこちらを捉えている。助けて。殺される。国境線にされる。
「鉄帝との諍いを最小に抑える為。極力私達で事を成せば善き結末が得られるかと」
「……為されるべきは善き末ではなく、正義の遂行である。分かっているか?」
「はい。私も見習いとはいえ天義の騎士。そして――ロウライトの一族です。お祖父様を頼ってきた人達の信頼を裏切る事はしません。身命を賭してでも、私は私が成すべき事を成すつもりです」
「その言、決して忘れるな。言霊は天へと届くぞ」
 ひ~んっ! 助けて――ッ! ゲツガの視線が逸れると同時、思わず耐えていた暗き表情が飛び出してくるサクラ。プレッシャーで胃が捩じれそうだ。というかローレットにいる事がバレていたとは……いつの間に調べられて……
「サクラさん家も大変だね……被害者の無念を晴らす為、というのは分かるけれど……」
「手順をすっとばしてまで、ね。ほっておいても鉄帝が討伐するのでしょうに」
 マルク・シリング(p3p001309)の同情する様な声に続いて『浄謐たるセルリアン・ブルー』如月 ユウ(p3p000205)の言が口端から漏れる。そう本来ならば天義が出なくてもいい筈の案件なのだ。
 それでもと『向こう』にまで行くのは……やはり。いつもならば手順を踏めばいいと言うが。
「あくまでも譲れぬ矜持が為……そういう事でございましょう」
 ゲツガの背を眺めながら『守護天鬼』鬼桜 雪之丞(p3p002312)は言う。例え独善なれど。
「譲れぬ道はあるもの。ならばお供いたしましょう」
「……私は道を曲げられませぬ。時としては人に疎まれるもの――覚悟はおありか?」
「人に疎まれるなど、とうの昔に」
 過ぎたる道だ。築いた血屍の記憶を過去に。
 覚悟を決めて突入する。ここからは時間の勝負でもある。奴らは脱出の準備を進めているのだ。隠し通路が定かであるか分からないが……とにかく、見失ってしまう前に片を付ける必要がある。
「矜持ねぇ……ああ、全く。生き様を偽っちゃいけねぇな――それは誰でもだ」
 通路を走りながら『接待作戦の立案者』空木・遥(p3p006507)は言葉を紡ぐ。
 麻薬、パウダー・スノーと言ったか。名前だけは風情があるが。
「起こしている出来事はとても『風情』で片付けられる様な物じゃないですね」
 人の心を乱すとは……ワルド=ワルド(p3p006338)は思考する。突入と同時に展開したエネミーサーチにて周囲の敵のおおまかな方向を探りながら。
「全く犯罪者の皆さんも頭の痛くなるような場所に拠点を作りましたね……分かってやったのか。それとも偶然か。さて、どうであれ――これはうんと後悔させなければ」
「少なくとも国家間の問題になるのは避けないとだな。この一件だけで戦争、とはなるまいが……」
 と、ワルドの言に続いて『樹妖精の錬金術士』テテス・V・ユグドルティン(p3p000275)の言葉も放たれれば――丁度、いた。ワルドの探知の範囲に。特にすぐ近くの扉が開かれて。
「やぁれやれ……何でこうも毎度毎度面倒事に巻き込まれるかね、ほんと」
 だからと『望の剣士』天之空・ミーナ(p3p005003)は跳躍する。
 扉から出て来る男。犯罪者の一人であろう者に赤き刃を向けて。
「ま、仕事はしますよ。はい――仕事はね」
 腰に付けた南瓜のランタンが揺れて。そっ首切り落とす。
 逃がさない。誰も誰も逃がさない。それが天義の意思。より正確にはゲツガの想い。
 死すまで折れぬ月光の意思がここにあるのだ。


 さて――しかし今回の戦場怪しい奴らを片っ端から斬り捨てれば良い訳ではない。いやまぁ大筋としては間違っていないが。いるのだここには鉄帝国の者らが。
 彼らに関しては斬り捨て良しとする訳にはいかない。討伐の為に動いているとなれば賊共とは戦いに対する気配が違う。犯罪者集団との見分けはそう難しくは無いだろうが……
「ともあれ、今は目前の事に集中しておくべきかしら」
 施設内を往くユウは周囲に精霊が存在していないか、彼らの話を聞けないかも探していた。
 内部の構造。敵の位置――詳細が不明なのだ。少しでも良き道を見つける為手探りの幅を広げながら。
「いますね。恐らく近く。こちらに気付いている者が――」
 瞬間。ワルドの探知に掛かった影がいた。
 エネミーサーチ。敵対心を持つ者の存在を探知する能力、であるが故にこちらに気付いていなかったり逃走感情を優先している者は探知し辛い面もあるが今の所はある程度上手く行っていた。
 今も、さて。通路の奥。丁度曲がり角の地点にて、そこから銃を構えている者が見える。放たれる銃弾。されど臆す暇なしと、ワルドは己がライフルを即座に取り出す。
 頬を掠める敵の銃弾。走る痛みは研ぎ澄まされし集中の渦に掻き消える。
 スコープを覗いて見える敵の姿を――痛みが無へと転じると同時、撃ち抜いた。
 直後。通路の奥へとミーナが前進する。されば見えるは複数の人影。ナイフを構えた男達。
 待ち構えているつもりか? 小賢しいものだ。チンケな犯罪組織程度が――
「私を止めれると思うなっ! マトモにやりてーならチップは複数用意しなッ!」
 命のチップが一つで足りるか。
 薙ぐ。己が得物を廻して振るって、赤き刃が空に剣閃を描く。
「……ふむ。これは、中々……」
 思ったよりも大したものだと、戦闘の流れを視線に捉えたゲツガは思考を重ねる。
 イレギュラーズは神の使途。そう思い、されど場合によっては不正義をも成すローレットを決して良い目では見ていなかったが……成程。神の使途たる実力はあるようだ。別にこの流れだけで全ての評価を変える訳ではないが、見て得たモノはあったと思考を。
 ただそれはそれとして何故ローレットに所属して何故家に帰ってこずに何故家名を名乗っていないのか……彼はサクラへと再び視線を寄こす。一瞬、サクラの全身が緊張で固まりかけるが――その瞬間。

「ほう。これはこれは天義の皆様かな?」

 聞こえた声はすぐ近く。壁を透き通るかの様な声が流れて。
 正面の扉が開、否。扉がこちらへと『飛んで』きた。ある程度の原型を留めながらも、破砕箇所から見える向こう側にいるのは――男。
 掌底の構え。彼が扉をぶち破ったのか。なびく金色の髪は、情報にあった彼の証。
 レオンハルト・フォン・ヴァイセンブルク――その人であった。
「やはりな。正義を成す為ならば領域侵犯も辞さぬとは――んっ? 天義かと思ったが、些か毛並みが違うのがいるな……? らしからぬ気配だ。もしや」
 扉は床にバウンドし完全に破損。視線を向ける彼の目に些かの疑問符が浮かんでいる。故に。
「僕たちはお察しの通りローレットです。まずは一旦、お話を聞いてくださいませんか」
 マルクだ。正体を隠す意味など無し。初手から己らの立場を明かしてきた。
 『大事にせず、迅速に解決。天義の勝手はさせない』その目的には協力出来るとして彼の説得に当たらねばならぬ。この戦いは不要だ。各々動機は異なれど敵は一緒なのだから。そして指でサインを出す。ここは説得班に任せて、先を目指してと。
 マルクと共に残るは雪之丞と遥だ。いざ交渉が決裂し、戦闘となった際に相対せねばならぬ故。他のメンバーで犯罪者共の殲滅を目指す。
「うん。ここは任せた。交渉がどうなるにせよ、後で合流しよう」
 言うはテテスだ。彼女は己が悪名を懸念し、犯罪者の殲滅側へと回った。そこまで高い悪名でもないが、相手は鉄帝の軍人。念には念を入れておかなければならない。
 往く。逃亡しようと走っている者達を追って。そしてここには三名だけ残り。
「ふむ……交渉かね。面白い聞こう。だが互いに時間は無い事は分かっているかね?」
「ご配慮に感謝を。そして理解しています故に単刀直入で。
 ――ゲツガさんは説得します。物証は実を求める鉄帝に、首謀者は情を求める天義に……という形で、一つ。協力体制を取れないでしょうか?」
 レオンハルトとゲツガの戦闘は避けられなければならない。それは双方共に、だ。
 故に双方の依頼によって訪れたローレットだけでの解決を図る。さすれば『鉄帝が依頼した娘を含むローレットが問題を解決した=鉄帝が解決した』と言えるのではないか? これは天義側も同様の主張が可能なため、双方の面子が保たれる。
 最終的には『物証は実を求める鉄帝に、首謀者は情を求める天義に』それにより双方の願いを満たす事が出来ると――説得の力が込められる。無益を避ける為に。マルクは彼へと言葉を紡ぎ続けるのだ。
 その、結果は。
「成程……確かに双方で唱える事が出来ない事は無い案だ。だが、無理だな」
「それは」
 何故? と問いかけるよりも早くレオンハルトの返答が。
「私が、ではなく『天義が』だな。物証は実を求める鉄帝に、首謀者は情を求める天義に――すまない。それは『私がゲツガ殿に最初に提示した条件』で、彼が断わった案件だ」
 厳密には首謀者の引き渡し、ではなく犯罪者の後日引き渡しであるが。これに関してレオンハルトは先に提示した。しかし断ったのはゲツガだ。鉄帝はOKで天義がNGという関係であり、この内容の場合NGを出している天義の方をこそ説得しなければならなかった。
 尤もこの場でゲツガを留まらせ承諾させる意思を示させるのは難解極まる難易度と言える。が、これは仕方ない。これは互いに説得が失敗した後に発生している依頼であり、再度説き伏せるのは至難であるのだから。
「まぁ、そちらが望んでいる方向性は理解出来るがね。恐らく私とそう変わるまい……で、あるが故にこそ。『踏ん張りたまえ』よ」
 言の意味は何か。込めんとする意味はあえて語らず、彼は拳を構えて。
 地を跳ねる。天義側であるのならば鉄帝の軍人として排除すべき対象であると。剛腕を振るって。
「やはり後は力で――という事でございますか」
 衝撃音。雪之丞だ。
 彼女の構えし太刀がレオンハルトの拳を防ぐ。刃を上に。あくまで受ける形で――衝撃に耐えて。続く二撃、三撃をも凌がんとする。相手は軍式格闘術の使い手。故に狙うは人体の急所であり、だからこそある程度相手の狙いも分かるというモノだ。
 鼻・首・鳩尾。正中線を正確無比に穿たんとするそれらを。
「躱すか。修羅場潜りはお手の物かね?」
「さて。ただ、拙にも拙の意地があります。何卒お付き合いを」
 水の魔力が刃を満たす。いや、包み込むというべきか。
 漣の鍔にて雪之丞は挑まんとす。『踏ん張れ』それはつまり向こうはこちらの意図を理解して、時間稼ぎの戦いには付き合ってくれるという事だ。こちらが倒れない、それまでは。
 不甲斐が無ければねじ伏せて。甲斐があれば鉄帝の気質として闘争を。成程。これは、ああ。
「『修羅道』……かくあるべし」
「周りが周りでね、あまり堕ちないようにはしているのだが」
「望ましい事です。堕ちればただ、狂うのみ」
 あるいは狂わば、唯、堕つばかり。
「こうなっちゃったか……仕方ない。後は全力で足止めするとしようか」
「そうさな。ああ、こちとら通すべき矜持って奴があるんでな――悪いね」
 そして交渉決裂としてマルクは雪之丞らへの支援を主とする。回復に、状況の分析を。
 遥もまた前衛として。レオンハルトのブロックを主眼とする。特に狙うべくは足だ。往かんとする足を狙い、動きそのものの阻害を狙う。攻撃後の体重が乗った後ろ脚を払わんとすれば、時稼ぎの事は為せよう。そしてそれ以外の時は回避を主として――
「ぉ、っと!?」
 瞬間。遥はレオンハルトに服を掴まれた。
 袖の先。ほんの少しに指を掛けられ――壁へと投げられる。衝撃が背より全身へ響き渡り。
「悪くない動きだ。だが並んでの通路ならばある程度動きは予測できる」
「ッ……上等ッ!」
 まだこれからだと遥は即座に。己が仕込みブーツを意識して、立ち上がる。 
 無益であるかもしれないが、鉄帝の領域ならば見逃せぬ矜持が彼にもある。
 互いのぶつかり合い――まだ些かは続きそうだと。誰もが思う。


「ッ、お祖父様!」
 サクラが向いた先、そこには誰ぞと向かい合うゲツガの姿があった。あれは、盗賊団とは違う。どこかで見た事がある気がする。まさか『向こう側』のローレットか――
「……あちらもこちらも、考える事は似通っていたという事か」
 一瞬考えた後、事態を理解したゲツガは瞼を閉じる。そして。
「サクラ」
 いる。己が孫娘へと、ただ短く。
「――成せ」
 言葉を紡いで。

「はいッ!」

 託された、その意味だけを心に刻む。
 出来得ることならば戦わない様に向こう側に願いたかったが、あちらもあちらで足止めの役割を担っているのならば止めても無駄だろう。それよりも今は断罪を依頼された者として。ロウライトの一人として奴らを追う。
「敵が散り散りになりそうな気配があるわね。予定通り、別れましょうか」
「了解です。こちらはテテスさんとサクラさんと……後は『向こう』とも協力出来ればいいんですが」
「行きすぎずに後でまた合流な。数減らしたら擦り合わせないといけねーし」
 ユウとワルドそれからミーナの言だ。ここからは更に二つに班を分けて探索を行おうと。
 合計三つに成れば殲滅力は下がってしまうが足止めと、逃がさない様にする為の探索向上の為にはやむを得ない対応だろう。一人でも逃がしてしまえば全てが無為となるのだから。
 往く。ユウはミーナと共に精霊達のかすかな声を聴いて。
「麻薬か……薬って本当に嫌だわ。自分でやった奴は自業自得でしょうけれど」
 中には騙されたり無理やり使われた者もいるだろう。そうなってしまえば……例え、無事に帰ってきても治療に苦しむ姿は、見ている方も辛いモノだ。
 これ以上被害が出ない様にしなければならない。潰さねばならない。その為ならば、不得手な距離にも向かっていこう。前進し敵を逃がさぬことを絶対として。
 いた。資料を脇に抱えて無様に走る敵の姿が。
「おっと、逃げんじゃねーよ……散々命を弄んだんだ命を賭けて戦ってみろよ!」
 移動に更なる移動を重ねて。逃さぬべくミーナはその姿を捉える。
 振るう刃に容赦はない。資料諸共斬り捨ててやる。サンプルの回収などは余裕があればすれば良く他の者に任せてよい。己はただ只管なる殲滅を。誰一人として許さぬ苛烈さを。
 奥にまた複数人の影が見える。放ってくるのは魔法に銃弾に。ああなんという小賢しさか。あまり先行しすぎるのはよくないが、かといってここで退く訳にもいかないか。床を蹴って、頬に攻撃を掠めて。それでも尚に負けぬ闘志で肉薄せんと。
 されば届く一手前にユウの魔力が敵へと。氷の結晶が形成され、敵の群れへと襲い掛かる。
 ダイヤモンドダスト。光の乱反射が、美しも強烈に。彼らの身を削り続ける。
 隠し通路があるのならばそちらにむ向かわねばならぬと――思考しながら。

「む、と? どこかで見た事があるような気がしたがそちらもローレットなのか」
 一方でテテス側は追い立てながら『向こう』と遭遇していた。ならば彼らも目的は同じはずと推測し。
「どうだろうここは共闘と行かないか? 首謀者がいればこちらが貰いたいが……」
 彼らはレオンハルトや鉄帝ではない。共闘するのは全く問題ない筈だ。
 互いに互いの利となる。最低でも争う意味はないと向こうも同調して。
「いや助かりますね。互いの足止めも永遠に続けられる訳ではないですし……諍いとかホント面倒なので協力しながら迅速に」
 ワルドは笑みを携えながら言う。矜持の云々……分からなくはない。誰にも譲れぬ何か。己が己に課した線引き――確固とした『自身』を持つその姿に彼は素直に尊敬を抱く。だからこそ天義の依頼を受けたのだから。
 だがそれはそれとして諍い云々国際問題は冗談ではない。大事になる前にと、彼らは走る。
 特にワルドは機動力に優れていた。単独で先行し過ぎれば仲間とはぐれて危険だが、抵抗する敵、逃げる敵がいれば逃亡者を優先に。何もかもを貫通する魔弾をもって――敵を縫い穿つ。
「ひ、ひぃ! やめろ! 俺らに手を出せばボスが……!」
「……言いたいことはそれだけ?」
 出入り口に向かおうとし、追いつかれた恐らく最後の一人にサクラは呟く。
 お前らの所為でどれだけの人間が迷惑を被ったと思っているのだ。故郷の、天義の民を惑わし苦しめ。しかも私はお祖父様に見つかった。いやもっと前から見つかっていたのかもしれないが。
 どうであれこの依頼は仕損じる訳にはいかない。今まで……
 名乗ってこそいなかったが私は。

「――サクラ・ロウライトなのだから」

 剣が振り抜かれる。放たれる一閃は眼にも止まらぬ、断罪の抜刀。
 家紋の紋章が光を反射し――輝いた気がした。

 やがて一連の流れは幕を迎える。
 天義は多数を断罪し、鉄帝は多数を捕縛し。しかし結局『公的』な立場の者らの接触は一切この場には無かった。ゲツガはレオンハルトと斬り合う事無く。各々の目的を概ねやり遂げたのだ。
 夜が空ける。されば月は彼方へと帰還する。
 月の在りし、正しき地へと。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

空木・遥(p3p006507)[重傷]
接待作戦の立案者

あとがき

申し訳ありませんお待たせしました。
依頼成功となります。おめでとうございます!!

犯罪組織は断罪されました。犠牲者も幾何か浮かばれる事でしょう。
ちなみにこの組織討伐後どのように帰還したのかはあえて書いておりません。
もしかしたら祖父から別件で詰問があったかもしれませんしそうでもないかもしれません。この辺りは自由性を持たせるために……!

では、ご参加どうもありがとうございました!!

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