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シナリオ詳細

救世主は笑う

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●救世主は笑う
「本当に治るのですよね?」
「当たり前だ、俺は医者だぞ」
 その言葉がどれほど心強かった事か。

 私は生まれつき病弱でした。この病は一生治らないと思って生きてきました。
 外にも出られず、一日中家の中に籠り切り。父と母には迷惑を掛け続けてしまいました。
 苦しいと思う中、優しくしてくれる父と母、そして友人達に何度感謝した事か。優しい言葉を掛けられる度に勇気付けられました。

 だけど、その心配も必要なくなるかもしれません。
 この町に名医が来た。そんな風の噂を聞いたのは数日前。
 どんな病も治すと言われるお医者様が、ふらりとこの街にいると聞いた時、私は心躍りました。
 あぁ、もしかすると外に出られるかもしれない。もう心配掛けられずに済むかもしれない。
 一握りの希望を信じ、私はお医者様にお手紙を送りました。

 彼は助手を連れて、すぐに来てくれました。親切に私の話を聞いてくれると、鞄から数種類の薬草を取り出します。
「今から作るから、少し待ってな」
 穏やかな口調で安心させてくれると、手慣れた手付きで薬草を調合し、薬を作ってくれました。
「これを、水と混ぜて飲むんだ。暫くしたら効くだろう」
 私は頷き、その薬を飲み干しました。思っていたより飲みやすいものでした。
「ありがとうございます、お医者様。何とお礼を言っていいものか」
「子供のくせにかしこまった言い方だ。よほど教育が良いと見たよ」
 大きな手で私の頭を撫でると、優しくにっこりと笑ってくれました。
「これで眠れば楽になるだろう。安心しな、後はお前の親と話すからさ」
 その言葉を最後に、私は安心して眠りにつく事にしました。

●ユリーカの情報
 その日、ユリーカの表情はいつも以上に曇っていた。
「皆さん、事件なのです……」
 彼女の隣には依頼人である老人が座っていた。
 事情をお願いします、とユリーカが言えば、老人は一礼をしてから説明を始める。
「……息子の家族が盗賊に襲われてしまったのです。家を荒らされ、金目の物は全て奪われてしまいました。息子夫婦は、孫は……」
 話す途中、俯いて言葉を失ってしまう老人。変わって状況説明を行うユリーカ。
「その、つまりは、おじいさんの息子さんが住んでいた町に、盗賊が現れたという事なのです。その盗賊の悪行を止めて欲しいのです」
 手元にある資料をぺらりとめくる。
「調べた所、その町では同じ事件が度々起きているのです。主に病人のいる家を狙い、襲うというケースですね」
「あの医者です。息子が言っていた医者が……!」
「医者?」
 聞いたイレギュラーズ一同は首を傾げる。
「息子は、『名医が町に来てくれたから孫の病気は良くなるだろう』と、手紙を送ってくれました。それが最後の手紙だったのです……。きっとそうだ、あやつに騙されたのです!」
 興奮する老人を、まぁまぁ、と宥めるユリーカ。
「……名医。ともかく、その人が盗賊なのでしょう。と言うのも、お医者さんとその助手達が家を出ていった後、荒らされていたという目撃情報があったのですよ。被害者の死因は……刺殺と毒殺でした」
 後半になるに連れて彼女の声は小さくなっていく。
 卑劣な行動に怒りを覚えるイレギュラーズ。
 彼らが最初に行う事、それは。
「まずはそのお医者さんに接触してみて下さい。盗賊について聞き出してみるのです」
 そうそう、とポケットに手を入れるユリーカ。
「病人のいる家にしか現れないそうなので……誰かが病人を装うといいんじゃないでしょうか?今回はおじいさんが別荘を貸してくれるので、そちらを使って下さい。お医者さんなら手紙を送れば来てくれるそうですよ」
 宛先はこちらです、とメモを差し出す。
「彼らが盗賊だと確認出来れば戦闘になるでしょう。対処はお任せするのです」
 捕縛するか、あるいは倒すか。そこはイレギュラーズの判断に委ねられる。
「それではどうか、宜しくお願いするのです」
 おじいさんの為にも、町の為にも。ユリーカは今日もイレギュラーズ達を見送った。

GMコメント

 お世話になります、野々羊です。

●目標
 偽医者と接触後、盗賊を討伐する事。
 盗賊を一人でも逃がすと失敗です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ロケーション
 時間帯は昼。
 おじいさんの別荘(事件の起きた町の中にある空き家)での戦闘となります。
 尚、ユリーカが渡したメモに書かれた『医者への宛先』は、宿屋となっています。
 宿屋に行っても誰もいません。

●今回のプレイングについて
 病人を装う方は、医者へ送る手紙の内容を書いて下さい。

●敵
 全部で4人。

盗賊団ボス
 民家を襲う、金目の物が好きな盗賊。若い男。
 特物:ナイフ、回復魔法
 攻撃:近距離、至近距離、回復

盗賊団手下×3
 民家を襲う、金目の物が好きな盗賊。
 特物:ナイフ
 攻撃:近距離、至近距離、稀に【毒】攻撃

●その他
 プレイングまたはステータスシートに、アドリブの有無について書いて下さると嬉しいです。
 それでは宜しくお願い致します。

  • 救世主は笑う完了
  • GM名野々羊
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年12月02日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

清水 洸汰(p3p000845)
理想のにーちゃん
イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫
ダルタニア(p3p001301)
魔導神官戦士
キュウビ・M・トモエ(p3p001434)
超病弱少女
アベリア・クォーツ・バルツァーレク(p3p004937)
願いの先
W・H・パラサイト(p3p006130)
久眠郷
ケイド・ルーガル(p3p006483)
シュテルン(p3p006791)
ブルースターは枯れ果てて

リプレイ


 屋敷と呼ぶには小さいが、庭のある立派な家に少女は住んでいた。
「お医者様、よく来て下さいました」
 大きなベッドに横たわるのは白い肌の少女、『超病弱少女』キュウビ・M・トモエ(p3p001434)。
 彼女が迎えたのは四人の男。その内の一人、大きな鞄を持った若い男は優しく微笑む。
「お前だな、この手紙の送り主は。どうやら厄介な病気だそうで」
 口は悪いが穏やかな声。彼が医者を名乗る人物だ。
「何度も医者に診て貰ったようだが……俺も最善は尽くしてみるよ」
「はい、お願い致します」
 医者達を歓迎すると、トモエの傍にいた少年、『雲水不住』清水 洸汰(p3p000845)が元気な声で話し掛ける。
「良かったな、キュウビー! 元気になったら、オレといっぱい野球しようぜー!」
「少年、病人の隣で大声は良くないぞ」
「はーい。せんせー達も、遠路はるばる、ありがとーな!」
 医者の助手らしき人物に注意されても、笑顔で返す洸汰。やれやれと困った様子を見せる助手。
「それじゃあ、診察でも始めようか」
 鞄を置いた医者が椅子に腰掛ける。助手達は医者の後ろで静かに立っている。
 更にその後方、部屋の出入口でダルメシアン――犬に変身した『魔導神官戦士』ダルタニア(p3p001301)がちらりと覗いている事は誰も知らない。

 一方、家の外で診察の様子を見守る影が五つ。
 医者達が全員入った事を確認した『久眠郷』W・H・パラサイト(p3p006130)が待機組へ合図を送ると、そっと家の玄関口へ移動する。
 室内から見えない場所へ移動する『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)、ケイド・ルーガル(p3p006483)、『星の歌姫』シュテルン(p3p006791)も、そっと身を潜めつつトモエ達の無事を祈る。
 不協和音のする方へすぐにでも飛んで行きたい気持ちを抑える『旋律を知る者』リア・クォーツ(p3p004937)は、あくまでも冷静に、冷静に、と自分に言い聞かせていた。

「死生循環病ねぇ……確かに聞いた事のない病名だな」
 病気について聞きながら医者が鞄から取り出したのは、数々の薬草の入った袋と、それらを調合する器。
 トモエの目にそれが入ると、来た、と言わんばかりに目の色を光らせ(しかしそれが知られないよう)静かに口を開く。
「お医者様、些細な質問なのですが。これまでどんな場所で、どんな病の人を治してきたのですか?」
「旅する医者だからな、ふらりと色々な場所を歩いているよ。病はまぁ、怪我も病気も診て来たな」
 薬草を選別し器に入れながら医者は答える。すんなりと話すその姿勢に、嘘は含まれていないように見える。
「今作っているお薬の薬草はどんな効能で、どこにあるものなんですか?」
「俺が扱う薬は、様々な製法から編み出したオリジナルだ。何、適当に入れてる訳じゃあないから安心しな。万能薬みたいなものだ」
「へー万能薬! すっげー薬なのなー! オレにも見せてみせてー!」
 洸汰が医者に近付こうとするが、流石に駄目だと助手に止められた。
「企業秘密だ」
「秘密なのー? ちぇー、何で?」
「我々が編み出した製法を盗まれちゃ困るからな」
「だって万能薬なんだろー?覚えたらみんなハッピーじゃん!」
 という洸汰の発言に、何かを返そうとした助手を医者が止める。
「まぁまぁ、医者にも見られちゃ困るものもあるものだ。悪いな少年」
 医者が笑って謝ると、洸汰は頬を膨らませる。静かに横たわるトモエは、医者が助手へ向けた視線が冷たかった事を見逃さなかった。

 器に入った薬草を水に入れ混ぜ合わせると、淡い緑色の薬が完成した。
「とりあえずこれを飲むといい。少しは楽になるはずだ」
「ありがとうございます」
 器を受け取るトモエ。飲むその前に、と再び質問を投げ掛ける。
「これは一度だけでいいのですか? それとも何度も飲むべきものですか?」
「一度だけでいいはずだ。効かなければ再度作るまでさ」
「なんか苦そー、本当に大丈夫なのか?」
「生憎俺のは苦くない様に作ってある。飲みにくい薬は嫌だろう?」
「苦くないって事は良薬じゃないの?」
 そんな言葉があったよなぁ、と洸汰の何気ない質問に、医者は苦笑いを見せる。
「……本当に良薬が作れたら、そいつは神に等しいって事さ」
 今までの医者らしかぬ発言。それはトモエの魔眼が効いた証であった。
「これは万能薬でも良薬でもない、という事でよろしいのですか?」
 穏やかだった彼女の口調も、静かに怒りを秘めた(その中でも微かに希望を抱いていたかもしれない)ものへと変化していく。
 医者は首を傾げ、溜め息をつく。
「俺だって、馬鹿じゃあないんだ」
 助手に向けて何かの合図を送る。
「医者の言葉は信じるものだ。患者は黙って薬を飲むか、眠るか、どちらか選ぶべきなんだ」
 様子が変わった彼らにトモエと洸汰は表情を一変させ身構える。
 まるでボディガードのように助手達が医者を囲む。その手には銀色に光るナイフ。
「薬が嫌なら手術という手もあるんだ。解体すれば誰だって原因は分かる」
「うわ、それが医者のやり方かよ!」
 洸汰がトモエを庇う様に立ち塞がる。トモエも傍に隠していた杖を手に取ると、薬の入った器を思い切り窓へ投げ付けた。
 大きな音が鳴り響く。割れた窓から洸汰の手乗りぴざねこが飛び出し甲高い声で鳴く。
 それが身を潜めている仲間への合図と共に、彼らが本当の医者でない事の合図でもあった。


「ここまでです。医者を騙る悪辣な偽物め。今回をもって、この悪行は終わりです。覚悟はしてくださいね」
 元の姿へと戻ったダルタニアと、ワールドが部屋の入り口を塞ぎ、窓からはイリス、リア、ケイド、シュテルンが突入してきた。
 武装しているイレギュラーズを見るなり、医者もナイフを取り出す。しかし焦った様子はなく、寧ろ余裕のある表情に見える。
「なるほど、これほど狙われていたとは。この町も潮時だとは思ってはいたが」
「医者というのは……そう易易と騙っていいものではないのよ」
「騙ってなどいないよ、俺は本当に医者だ。医者だから、人の生も死も選べるのさ」
 トモエに返す医者の言葉は残酷なものだった。
「人を殺して、物を奪って、それが医者なの?」
 私は信じないよ、とイリスが嘆く。しかし医者は嘲笑う。
「手違いで失敗しようが金は貰うべきだろう?」
「……普通の盗賊より、救いようのないクソ野郎ね」
 旋律も耳障りだわ、とリアは目を閉じる。本当は耳も閉じて憤怒に身を任せたいものだが、冷静さまでは失いたくない。
「騙す、医者、悪! ダメ! メッタメタ、する!」
 非道な者は決して許さない、その思いがシュテルンを突き動かす。その隣で飴玉を噛むケイドががちゃりとFF・フリークスを構える。
「お喋りはそこまでにしよう。限りなく黒に近いお医者様、お薬の時間だ」
「あぁ、俺もお前等を逃がすつもりはないからな」
 医者を名乗る男は、仲間の三人に特攻するよう命令を下した。

 助手の一人が洸汰に襲い掛かる。短い刃は少年の腕を掠める程度ではあったが、それでも十分だとにやり笑う。
「薬も毒も扱えるのが医術というものよ」
 じわりと滲む毒。それに屈さぬよう笑顔を返す洸汰。
「まだ医術と言い張るの? 貴方達の行いは盗賊そのものだよ」
 イリスが名乗り上げ注意を引くと、背後からシュテルンの甘く切ない歌声が響き渡る。
「救う、嘘……悪、許さない、だから!」
 己の信じる正義に誓って。彼女の小さくも強い声が仲間を鼓舞させる。
 ワールドは月の女神の加護を受けた神弓を用いて助手を狙う。戦いつつも己の武器に酔いしれながら。
「(これはきっと素晴らしい一品だ! そうだろう! ああ、運良く手に入れたこの力で! 私はこの状況を打開するのだ! ふふん、流石私、やれば出来る奴なのだよ!)」
「次はオレだからなー!」
 洸汰も元気に飛び掛かる。相手の力を利用し、先程のお返しだと言わんばかりのカウンターを叩き込んでいく。
 病人役(事実、病人ではあるが)だったトモエも一変、それらしかぬ表情で勇敢に戦う。杖から漆黒の閃光を放ち、相手を近付けさせまいと足元を狙う。
「逃げる様子はなし、か。んじゃ遠慮なく」
 武器を構えるケイド。仲間の間を掻い潜って狙うは二人の助手。彼の腕に失敗は許されない。その一撃一撃は的を確実に仕留めていく。
 シュテルンの歌声に合わせて奏でられる旋律は英雄幻奏第七楽章。静謐のカンタービレを演奏するリアの音に助手の動きが鈍る。

「おいおい、何をやっている。手こずる相手じゃあないだろう?」
 医者が手を掲げれば、助手達の傷がみるみるうちに消えていく。そのお陰で戦闘は難航した。医者を狙おうとも助手達が壁になり、なかなか近付く事は出来ない。
 確実にダメージは与えている。しかしその戦闘は長引き、互いに疲労も見える。
「天狼の御加護があらんことを」
 ダルタニアのヒールオーダーも医者に劣らぬ回復力を見せ付ける。
「どうにか突破口を見付けたいものですね」
「毒、嫌……アカ、ニガテ……。早く、一人、でも、倒す……すれば……!」
「あぁ、タフな連中だな全く」
「そろそろ片膝をついてくれてもいいのだがね」
 シュテルンの隣で狙撃を続けるケイドとワールド。片膝は敵味方どちらもつく様子はない。
「ならば無理矢理でもつかせるのみよ」
 前衛に立ち、パンドラを使用したリアはヴァイオリンを奏でる。英雄幻奏第九楽章。旋律と共に彼女の周囲を囲むのは悲しき炎。
「あのおじいさんの! そして、お前達が殺した人達の嘆き! 炎の中で聴いて逝け!」
 燃える炎は演奏者の心を投影するかの如くだった。
「(あのクソ野郎共に殺された人達の無念、必ず晴らすわ!)」
 その灼熱に燃える闘志が伝わったのだろうか。炎で熱を持ったナイフを手放してしまった助手が一人。
「今ね!」
 隙を逃さず曲刀で攻撃を狙ったのはイリス。相手の腹部を狙い、柄で思い切り突く。慈悲を帯びつつも衝撃のある一撃は、相手の命を奪わずにがくりと気絶させる。
「おい、どんな甘やかしだ」
 その行為はリーダーである医者を苛つかせた。
「仲間の命が助かったのに不満でも?」
「あぁ、殺すか殺されるかにして欲しいね!」
 医者はイリスに攻撃を向けるよう助手達に仕向ける。
「なんと困った事だ、もはや医者の面影がない。掛ける言葉すらないね」
 医者になり損ねたという過去を持つワールドだが、これ程までに酷い医者がいたとは、と驚きを隠せなかったようだ。
「仲間も見捨てるなんて……そんなのオレ、許さねーからな!」
 パンドラを使用した洸汰がイリスの前に立ちはだかり、不動の構えを見せる。
「えぇ、病弱を代表して私が許さない。成敗するわ」
 トモエの杖から放たれる漆黒の閃光も容赦なく助手を貫く。
 体勢を崩した瞬間を蝙蝠のスナイパーは逃さない。一発の弾丸を、相手の急所へ確実に当てる。
「ま、死なない程度にはやるけどな」
 倒れる助手を見下ろすケイド。彼は飴玉ほど甘くはない。
「あと、二人。シュテ、がんばる……っ!」
「もう少しですね、わたくし達も全力でサポート致します」
 シュテルンとダルタニアが仲間達の傷を癒せば、形勢は逆転。完全に囲めた今なら、医者を狙う事すら容易だ。
「観念しなさい。……いや、そんな事する訳ないか」
 イリスの言う通り、ここで降参する姿勢を見せる彼らではない。最悪の状況になっても、ナイフで斬り付けてくる。
「一気に畳掛けてやるかんな!」
 元気印の洸汰。医者の世話には一生ならねーからな!と助手に向けて突撃していく。
 少年の掛け声と共に、イレギュラーズ達は駆ける。
 洸汰のカウンターが決まれば、リアの優しい旋律が意識を遠のかせ、ワールドの弓矢が腕と足を貫く。
「これで最後、一人になった感想は?」
 ワールドの問い掛けにはただ一言。
「いや、何もないね」
 医者がナイフを逆手に持ち、狙ったのは自らの患者。トモエの胸部に突き刺さる銀色。
 白い衣装にじわりと染みる赤。横に腕を振り切れば飛び散る血。シュテルンが思わず目を覆う。

「生憎、私の病気は貴方には治せない」

 華奢な体が倒れるかと思えば、ぴたりと踏み止まる。
 最終手段として残しておいたパンドラがトモエを救う。
 医者の腹部に杖の先を当てれば、最後の漆黒の閃光が彼を貫く。
 黒い光と共に舞った血は何色だったか。己の色を見ないまま、医者を名乗る男は意識を失っていった。


 捕縛に成功したのは一人を除いた三人だけだった。
 一人は自ら望んだものだったのか、あるいは――。
「……シュテ、皆、助ける……する、出来て、た?」
 被害者の墓の前でそう呟くシュテルンの肩に、リアの手がそっと乗る。
「分からない。亡くなった人は戻らないけど、今を生きる人を救う事は出来たわ」
 少なくともあたし達にはそれしか出来ないの。と、悔しそうな表情も浮かべながら。
「私はアフターケアも忘れないのだよ! 町に行って人々の様子でも見て来ようかね」
 持てる知識と技術を駆使して町の人々を元気付けようと、墓に一礼をし終えたワールドは背を向け町へ向かった。
「私も医者ではないが、医者の地位が低くなるのは許せないのでね」
 彼を見送った後、リアはヴァイオリンを手にする。
 奏でるのは鎮魂曲。せめてもの慰めに、と彼女が用意した曲だ。
 その隣でシュテルンが目を閉じる。安心して天に行けますように。そう神に祈った。
 今の彼女には、人の心を煌めく花として見る事は出来ないだろう。だけどこれで、人々の心にも綺麗な花が咲き誇るかもしれない。次にこの町を訪れたら、それを見に行こう。
 ――病人に希望を、心に花を。
 イレギュラーズ達は誓う。もっと力を付けて、大勢の人達を救えるようにと。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。
参加者様から受け取りました、クソ医者への熱いプレイング、読んでいて楽しかったです。
リプレイも楽しく書かせて頂きましたが、参加者様にも楽しんで頂けると嬉しいです。

これで偽医者の被害はなくなるでしょう。町はきっと華やかになるはずです。

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