PandoraPartyProject

シナリオ詳細

毒を制して

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「おいおい聞いてくれよボブこの間ワイフとハイキングに出掛けたときの話なんだけれどさぁ。え? ボブじゃない? まあいいじゃないか話の腰を折るなよ。まあとにかく僕は嫁と出掛けたんだよ、まあ嫁と言ってもまだ結婚してなくて、ふふ……いや、いつ伝えようかこの胸のドキドキ止まらないよ状態なんだけど。やっぱり指輪だよね、花束も添えた方がいいかな、あとはムードも大切だよねーーえ、話を戻せ?
 よしよし、じゃあ戻すよ、戻すとも、全く私の悩みをなんだと思っているのか。
 とにかく山に出掛けたんだ、そんなに大きくない山さ。冬のカラッとした空気に太陽の光が降るいい日だった。足取りかるーく登っていく二人は手を繋ぎ、寒くないかい? いいえちっとも、あなたがいるもの。はははこやつめ! 等と話ながら進んでいくうちふと、気づいたんだ。
 なんだか変な臭いがするぞ、と。
 なんだろうなぁいやだなぁ、そう思いつつさらに進む二人だけど、進めば進むほどその臭いは強くなる。これはなにかあるぞと気づいた彼女が、引き返そうよと頼りなさげに袖を引く。けれど男は男の子だもん、かっこつけないとね、とズンズン歩いて行って、そして後悔したんだ。なぜかって?
 出会ってはいけないモノと出会ったからさ!
 そいつらは、山の奥。開けた中腹の広場にいた。大型で、白黒の斑なカラーリング。四つの足を地面につけ、伸ばした首で地を食み、そうして我らに気づいてあげた、その顔は!
 なんと!
 まあ牛だったんだけいったぁい! なんで蹴るのなんでまだおわってないったぁい! 脛はダメだろぅそこはやっちゃダメだろう!?
 ただの牛じゃなかった、変な臭いはそいつらからだったんだ、そいつらっていうかその周辺がね、なんでかと近づいたら気づいたんだ、あっこれ毒だわめっちゃ毒、体力ゴリゴリ削れる効果音するもんってーーふう、痛いなぁもう。
 で、こりゃいかんと退散して、原因をショウに調べてもらってわかったんだけど、どうやらどこぞの貴族がその山を不法投棄のゴミ捨て場にしてたらしいのね、ずいぶん長いこと、先祖代々くらい。積み重なった浄化しきれないものが吹き出て、生息していた野生の牛を汚染した結果だろうから、まあちょっと行ってその牛を処理してきてくれない? 罪は無いけど存在が悪になる、悲しいけどそういう事もある、それが混沌だからね。
 その原因もそのうち処理するから、さ」


 ドッ、と疲れた様子の『黒猫の』ショウ(p3n000005)は、語るだけ語り終えた貴族の青年が出ていった出口を恨めしげに見つめて溜め息を一つ。
「仕事だ」
 いつものように切り出した。
 あらましは先程の話にあった後半部分、そこに集約されているが、と前置きを入れて、
「野生の牛は、本来数が多かったと予想される。が、多分汚れる環境に適応出来ず多数が死に、適応出来てしまった複数の個体が強化されてそこに住んでいるのだろう」
 資料をめくる。それによれば、元々そこにいたのは、比較的大人しく臆病な野性動物たちらしい。
「体は侵され、体内は毒素の貯水槽みたいなものになっているだろう。居るだけで毒を撒き散らすのは、あまりに危険で、そしてそこから出すわけにもいかない。なにせ自分達の毒で餌さとなる草を散らしてしまうからね、移動する可能性は十分だ」
 処理するしかない、治す手が無いのが現実だ。
 とはいえ普通の生物では長い滞在と戦闘行為は危険すぎる。そこで、イレギュラーズの出番というわけだ。
「処理した後の浄化は、こちらで手配する。さっきの青年が援助してくれるから、時間はかかるだろうけど悪くなることはないはずだ」
 なので、必要なのは討伐のみとなる。
「以前にも毒に侵された生物はいた。今回の牛は、五体程の仲間で集まっているらしい。注意してほしいのは、これらは好戦的ではなく、臆病ということだ」
 攻撃を加えれば……いや、近づくだけで逃げる可能性が高い。逃げられないようにする工夫が必要だ。
「そして、追い詰められた野生は牙を剥く。彼らも生きるための必死なわけだからね」
 体力が減れば減るほどそれは苛烈になるはずだ。だから、
「十分注意して。側にいれば君達でも毒の効果は現れる」
 迅速に、適切に。
 立ち回らなければならない。
 今回の依頼はつまり、そういうことだ。
「それじゃみんな。頼むよ」

GMコメント

 毒を制して(懇願)
 ユズキです、どうもどうも。
 こちら特殊な純戦です。
 OPに合わせて以下補足も参照ください。

●現場
 山の中腹、開けた場所。
 辺りは毒々しく変色し、草木が枯れ果てている。

●依頼達成条件
 牛五頭の処理(止めまで刺す)

●敵情報
 牛です。
 攻撃方法は体当たりやのし掛かりなど、近距離に対した物しかありません。

 基本臆病なので逃げようとしますが、逃げられないなら戦います。
 生きたいのです。

 一頭でレンジ2まで毒状態を付与し、その範囲内に滞在すると猛毒、致死毒へと悪化します。

 1ターンで毒(毎ターンHPマイナス100)。
 3ターンで猛毒(毎ターン最大値の5%マイナス)。
 5ターンで致死毒(毎ターン最大値の10%マイナス)。

 体力が減り、死にそうになると攻撃の威力が少し上がります。
 死ぬ直前の一撃はクリティカルが起きやすいと思われます、気を付けてください。

●その他
 必要なのは牛の処理のみです。
 後処理は考えなくて大丈夫です。

 それでは、よろしくお願いします。

  • 毒を制して完了
  • GM名ユズキ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年11月29日 22時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

マグナ=レッドシザーズ(p3p000240)
緋色の鉄槌
シグ・ローデッド(p3p000483)
艦斬り
恋歌 鼎(p3p000741)
尋常一様
レナ・フォルトゥス(p3p001242)
森羅万象爆裂魔人
エスラ・イリエ(p3p002722)
牙付きの魔女
風巻・威降(p3p004719)
気は心、優しさは風
飛騨・沙愛那(p3p005488)
小さき首狩り白兎
イーフォ・ローデヴェイク(p3p006165)
水葬の誘い手

リプレイ


 山は、薄暗い雰囲気だった。
 曇天の空からの光は地上に及ばず、空気はなんとなく重かった。
「見つけたよ」
 その山の、少し登った山道の途中。声を作る『牙付きの魔女』エスラ・イリエ(p3p002722)は、言葉の割りに目を閉じていた。
 それは、視界を別に委ねていたからだ。
 空を飛ぶ二羽の烏。その黒いシルエットの片方に、エスラの視力は移っている。
 映した眼下、自分を含めた八人を見て、それから歩く先を越えて目標を探し、そして見つけたのは、
「広いね」
 中腹にある、広場の光景だ。元々は登山者が休憩したりするために整備されたであろう、周りを樹に囲まれていたはずの場所だ。それが、エスラともう一羽の持ち主である『尋常一様』恋歌 鼎(p3p000741)の目に見える。
「罠はしかけられそうなのか?」
 聞いた『緋色の鉄槌』マグナ=レッドシザーズ(p3p000240)の声に、二人は目を開けて顔を見合せる。仕掛けられるのなら、マグナは自身の両手をロブスターの外甲殻に変化させて落とし穴でも掘るだろう。
「穴掘りくらいなら、俺でも手伝えると思うけど……」
 複雑じゃなければ。そう付け加えて申し出る『瞬風駘蕩』風巻・威降(p3p004719)に答えたのは、しかし『小さき首狩り白兎』飛騨・沙愛那(p3p005488)だった。
「穴は無理だと思うのです」
 しかも、否定の言葉だ。下から目標地点までを、スキルで強化した視界に可能な限りを見て、そして理解しての言葉だ。
 穴が掘れない理由、それは。
「木の根が邪魔、ということだネ?」
 屈んで地面を見た『水葬の誘い手』イーフォ・ローデヴェイク(p3p006165)の推測に、エスラと鼎も頷いた。
「牛の付近の植物は枯れ果てているけど、そこから離れたら鬱蒼としている。つまり、対象に気づかれない為にはその中で仕掛けるしかないのだけど」
「かといって近づきすぎれば気取られ、罠どころじゃないかな。加えてもう一つ、崖と言うほどではないけど、山の斜面が急勾配の面があるね」
 それが、観察者からの地形情報。それらを加味した上で、仕掛けられる罠というと限られてくる。
「じゃあ、見つからない様に行こうヨ。想定内ではないけれど、現状、意外という程じゃあないしネ」
 持ち込んだ罠道具を見せて、イーフォは笑っていった。


 異常を察知した動物はまず、顔を上げて首を伸ばし、気配に向けて視線を投げる。
 数にして五頭。群れというには少ない数の牛の集まり、それらの視線だ。
 見るのは山を覆う木々の向こう、こもった影の庭の奥。そうしてただ見る瞳が二度、三度と瞬きをした頃。
「!」
 光の細い帯が、木々の合間を縫って、一頭の体に巻き付いた。
 それは合図になる。
 徒競走の空砲が鳴る様に、一斉に走り出す合図だ。
「さて、カウボーイと行こうか」
 一頭に帯を打ち出した『天理の魔剣』シグ・ローデッド(p3p000483)が前に出ると同時、他の七人も各々動いていく。
 逃げ出す牛を逃さない為の動きだ。バラバラに散っていくその目の前に飛び出し、行く先を遮って行く。
「……人間のエゴ、ね」
 その接近を、遠い距離で『森羅万象爆裂魔人』レナ・フォルトゥス(p3p001242)が見る。指に煌めく指輪を前に、赤い髪を揺らめく炎の様に揺らしながら、
「牛たちにはなんの罪もないはずなのですけど」
 思う。人為的な、しかし作為的でない人間の行動が産み出した、あの化け物との相対は……。
「レナさん、よろしくね!」
「……ええ」
 考えるのは後だ。呼び掛ける沙愛那の声に意識を集中させ、そして見る。
 背を向けて逃げる牛を、タッグ相手の沙愛那が距離を詰める動き。それは無計画ではなく、追う牛の尻に対して微かに右へ逸れる軌道だ。
 そうすることで、生まれる事がある。
「……!」
 進路の誘導だ。沙愛那から離れようと左に向かう進路は、登山道を越えた柵の向こう、山の急斜面がある方向。四足を使う動物なら駆け降りる事も出来る斜面だ。が、それは叶わない。
 なぜなら、イーフォ達が木を支点にロープを張っていたからだ。しかもそれは目の高さより下、首に掛かる位置にある。
 それを、牛は嫌がった。足を止め、一瞬の停滞の隙に、沙愛那の体が追い付く。
「可哀想な牛さん」
 彼らの生に非はない。しかし存在が悪となる。
「悲しい事です」
 思うけれど、悲嘆に暮れるわけにもいかないので、沙愛那は地を蹴り飛ぶ。斜面と牛の間に降り立ち、包丁の形をした刀を突き立て体の支えとする。
「毒は効かない……なるべく苦しめたくもない、だから」
 膝を曲げた状態の片足を上げ、思いきり前に突き飛ばす様に鼻っ面へ蹴りをぶちこむ。
「私に……私達にその首、狩らせて?」
 そうして怯んだ牛の体を、レナの魔術が横合いから焼く。
 超距離からの直線的な破壊の魔術だ。
「さっさと片を付けるわよ」
 反撃の頭突きが沙愛那の腹に打ち込まれるのを見つつ、レナは第二射の為に指輪へ力を込めた。

 罠とロープがあると言えど、牛の逃げ足は速い。
「逃がさねぇよ!」 
 その内の一つをマグナは追う。森の木々をジグザグに走って逃げる姿は、度々視界から消えてしまうが、
「どこに居ようが、倒す……!」
 関係ない。手のひらに集めた魔力は赤色に、撃ち出される姿は火炎の如く、木の影から出てきた牛へ直撃する。
「ちっ……」
 だが威力が低い。技そのものもそうだが、なにより彼の心境的も影響がある。
「戦りがいの無い相手だぜ」
 牛にあるのは生への本能だ。逃走こそすれ、そこに闘争の意思は無い。仮に倒したとしても、それで食す等のメリットがあるわけでもないのだ。
「まあお前らからしたら、こっちが悪者なんだろうが」
 放っておくわけにも行かない。
 着かず離れず、適切な距離を意識し、マグナは逃げる牛を追い続ける。
 いずれ仲間が来るだろうと、そう思いながら。

「さてト」
 追い駆ける動きの多い中、イーフォのそれはゆっくりとした物だった。
 眼前にはアンデットの盾を挟み、罠にかけた牛が一頭いる。
「おれに毒は効かないヨ。だから安心して……来なヨ」
 トラバサミが足に嵌まった牛は、逃げるよりも反撃を選んだ。固定されたハサミを無理矢理引き剥がして、傷めた脚を庇いながらイーフォに向き直る。
「……美味しくいただくまで出来れば嬉しかったんだケド、流石にダメそうだネ」
 牛から流れ出る血は赤黒く、地面に根を張り伸びる草を腐り落としていく。
 毒が効かないとはいえ、体調は崩しそうだとは思う光景だ。いや好き好んで体内に取り入れようとも思わないが、ともかく。
「っ!」
 頭を前に突撃をしてくる牛を、アンデットの体で受ける。衝撃にそれはバラバラに吹き飛ぶが、どうせ使い捨ての盾だ。それは構わないが、
「止まらないカ!」
 減衰はしても力は消えない。突き込まれる頭突きを腹に受け、そのまま顔を上げる動きで空へと投げ出される。イーフォはそれを、クルリと回る体を一回転で制動をかけて、真下に牛を捉えた。
「行くヨ……!」
 腕に黒の魔力を溜め、振り抜く動きで牛へと落とす。光を飲み込む黒の閃光だ。
 直撃した。
「ぐぇ」
 牛が怯む間にドシャリと地面に落ちて、姿勢低めに体勢を整えると、イーフォは再度の接近を試みるのだった。

 威降の前は、破壊の後が付いて回る。それを行うのは、彼の手に握られた一振りの刀。刃渡りにして長くない、本来は主武装の予備として使われる脇差だ。
「……ごめんよ」
 刃に絡み付く風がある。それを、軽い動きで振って放出し、前方、逃げる牛の進路上の木を砕いて逃げ道を制限した。
「生きる為に懸命で、ただ死にたくなかっただけなのに……君達は、悪くないのに」
 青い瞳が憂いに翳る。
「原因は不法投棄……どこの世界でも人は変わらない、なんて人間中心すぎるかもしれないけど」
 威降の攻撃間隔を埋める様に、鼎がオーラを太い紐状に変えて放つ。狙いは脚を纏めて絡み付かせて動きを制限する事だ。それを、牛はギリギリを跳ねて回避する。
「せめて苦しまないように、なんて、君達には関係ないよね」
「でも、もう君達は此処に居てはいけない……いけなくしてしまった、だから」
 そうして攻撃を繰り返して辿り着く先は、急勾配の登り斜面。鼎のファミリアーで見つけた逃げにくい場所へ追い込んだ形だ。そうなると、逃げられない牛は必然、立ち向かうしかなくなる。
「だから、斬る」
 対面する形の牛を見て、威降は腰の刀を抜く。銀の刀身に青白い妖気の刀だ。鞘に添える様に腰に溜め、膝を少し落としてから彼は行く。
「!」
 それに対して牛の迎撃はシンプルに、前肢を上げて立ち上がる動きからの踏み付けだ。威降の到達前に、その体を潰す動き。
「ふふ、すまないね」
 それを、鼎が横薙ぎに放った紐が一瞬停滞させる。そうすることで、一手先を取る威降の刀が届く。丸見えになった胴を、両断する勢いの斬り抜きが走った。
「ーー!」
 だが硬い。毒の血飛沫を吐き出しながらも牛は健在で、一拍を置いて威降の体へと全体重の乗ったのし掛かりを行った。

 初撃を成功させたシグは、直ぐ様に牛へと接近をかけていた。その動きに合わせて牛は胴体からの体当たりで彼を打つ。
「汚染で産まれてしまった、悲しい生物ね……」
 それを、エスラは遠距離から見ていた。その身には神秘の強化を付与しており、後は機を見て魔術を撃ち出すだけだ。だからその間隔に、少し考えてしまう。
「気の毒ね」
 同情がある。憐れみもだ。けれど、それを殺してもやらなければいけないとも思う。
「人間に対してもだけど、行く先々の大地を死なせてしまうものね……」
 そこまで行くと災厄だ。誰かが止めなければならない。そしてそれが出来るのは、今、ここにいるイレギュラーズだけだ。だから、
「せめて、長引かせないわ。ただの自己満足だとしても、苦しみを長引かせはしない。だから」
 前面に広げた円形魔術陣を両手で押し当てる。魔力を流し込み、神秘を発動させ、頭突きでシグが牛から離れた瞬間を狙って、
「っ、てぇ!」
 ぶちこんだ。


 散開した牛の動きに合わせて離れたイレギュラーズ達は、視野の届く範囲には留まっている。が、距離としては援護するには不向きでもあった。
 削り合うそれぞれの戦闘では、毒に対する対処は完璧で、しかし苛烈になる牛の反撃に対しては少し、押される所もある。
 続く攻防の先、一番に決着へ近づいたのは、シグとエスラの所だ。
「ちぃ……!」
 牛の後ろ脚が、剣状態に変じたシグを蹴り上げる。衝撃に飛ぶ刀身は一度地面をバウンドしてから人の形へと戻り、片手を着いて体を支えた。
「好きにさせないわよ!」
 追撃に来る牛の突撃は、エスラの魔術射撃が食い止め、その隙に立ち上がったシグは地面を蹴って行く。
 上へ、軽く宙へ。
 牛を見下ろす位置、跳躍の頂点で剣へと今一度変わり、そして力を溜める。
 それは、燃え盛る炎の様な立ち上ぼりを見せる、純粋な破壊力の塊。フランベルジュと銘付けられた技だ。
 空まで届きそうな力の登りは、そのまま振り下ろしの動きで牛へと落ちる。
「ーー」
 一直線、超距離までを斬り裂く一撃の後は静かで、直撃した牛はゆっくりと前に傾き、
「!」
 最後の力を振り絞って、着地する軌道のシグへ体当たりをかました。
「しまっ」
 今際の際、その一撃はシグの体をたわませて吹き飛ばす。結果として、相討ちになった形の決着だった。
「シグさん、大丈夫……?」
「私のことは、いい……他の援護を、頼んだ」
 エスラの問いかけには答えず、それだけ伝えると彼は静かに目を閉じる。
「……ええ」
 頷き、彼女は辺りを見回す。向かうなら一人で戦っている仲間の元だ。
 辺りを見て、そうして救援先を決める。それは、
「やぁ、助かるヨ」
 近距離で牛と戦い続けたイーフォだ。削り合いの様相を呈する相対は、立ち回りを意識する分イーフォに分があるが、次第に重くなる一撃一撃が余裕を削り落としていく。
「おっと危ないナ!」
 呼び出したアンデットが弾け跳び、衝撃のフィードバックが及ぶ。途切れないように盾として召喚出来ていれば、もう少し体力の温存も出来たかも知れない。
「攻撃、お願い出来るカナ?」
「任せて」
 短いやり取りで、エスラは再度の自己強化を経て魔術の準備を始める。攻撃の気配に牛の暴れ方も強まるが、それにイーフォが手を打ちに行く。
 両手、広げた手に漆黒を集め、激突する。
 頭突きしてくる頭を、殴る動きでそれを弾き、しかしよろめきつつも踏みこらえた牛の体当たりを逆の手で一瞬受け止め、吹き飛ぶ。
「あとは、よろしく、ネ」
 意識を無くす、その瞬間に彼は見た。
「これで止めよ」
 エスラの放った高火力の一撃が、牛の体を消し飛ばす、その瞬間を。

 決着のついていくその最中、レナと沙愛那のコンビも終わらせにかかっていく。
 とはいえ、近接でやりあうには沙愛那の体力は少し、心許ない部分がある。レナと組んでなければ、早期に倒れていた可能性もあった。
 というか、
「にがさないよ?」
 牛の突撃を、片腕を盾に受け止める沙愛那の体は、限界直前に見える。
「無理しないで……といっても、聞かなそうね」
 それを後ろで見ているレナからしたら、不安にも感じる姿だ。
 援護の超長距離射撃で牛の体力は削れているが、それに比例して攻撃の強さも上がっているのだから、時間もかけていられない。の、だが。
「言って聞かないなら、しょうがないわね」
 振り上げて巨大刀を構える沙愛那に、牛の突撃が突き刺さる。ぐらり、揺れて後ろに倒れ込みそうな体を、無理矢理に踏み堪えてから彼女は柄を両手に握る。
「それで、最期だよね」
 体力の限界なんて越えてしまった。今立つのは、パンドラを使った無理矢理の結果だ。
「だったらこれで……その首を狩って、それで」
 しかし立っている。振り上げた得物を、無防備な首に目掛けて振り下ろし、引く動きで斬った。
「ーーおしまい」


 あらゆる意味で最も安定しているのは、マグナだった。
 なにせ、毒の範囲に入らない、敵の間合いに入らない、無理のない攻撃だけをする。決定打はないが消耗なく牛の一頭を追い回せる。ただ一つ誤算だったのは、逃げる牛を追うだけで、山の奥深くへ行き掛けている事だ。
 なにせ牛は逃げるばかりで、進路の決定権は牛の思うままだ。
「……他のチーム来てくれねぇかな!」
 せめて戦う意思のある敵だったら。そう思わずにはいられないマグナだった。
 そこから少し離れて広場側、サポートする鼎と攻める威降のコンビもまた、安定を得た二人だ。
「必死なだけあって、なかなか痛そうだね?」
「まあ、それなりかな」
 血塗れの威降を、鼎が召喚する癒しの光が照らす。
 見た目の凄惨さはあるが、その血は全て牛の返り血だ。ダメージで言えば、頭突きなどで痛む内蔵の方が大きいだろう。
 それも、鼎の力で活動に支障がない程度に抑えられている。
「弱ってきている分、危険もある。早めに終わらせた方が無難だろうね?」
 とはいえ油断はできない。余裕があるうちに決めた方がいいと、鼎は思う。
 そしてそれは、威降も同意見だ。
 だから行く。
「援護、よろしくね」
 長短二振りの刀を握り、行く。
 目標は刀傷の刻まれた牛だ。荒い呼吸でヨダレに混じる赤い色が、内側にもダメージがあるとわかる。
「ああ、存分に」
 駆ける威降を追い抜くように放たれたオーラの縄が、牛の胴体に絡み付いて動きを制限。それに牛は身を固め、迫る刃には守りをするしかない。
「ーー!」
 防御体制の牛を前に、彼は踏み込む。
 脇差を横薙ぎに一閃。纏う風が傷を抉り、痛みに怯ませ隙を作り、
「止め!」
 必殺の一太刀を、初撃で切り裂いた腹を目掛けて背中へ振り下ろす。
 両断された牛の体は、支えを無くして地に伏した。

 残るマグナと牛の相対は、時間は掛かったが決着は訪れる。狙い打つ遠距離攻撃は、途中から牛の同じ部位を集中して打撃し、蓄積するダメージは致死量に王手を掛ける。
「わりぃな、ほっとくわけにいかねぇからよ」
 逃げる走りが歩きに変わり、速度を落として、もう歩けないと前のめりに倒れる。その姿に、マグナは面白くなさそうな顔で照準を定めた。
 狙いは、頭。打ち出す一撃で頭蓋を砕き、間違いなく絶命を狙えるだろう箇所だ。
 だから、そうした。
「やれやれ……原因、取り除いてくれよ」
 びくっ、びくっ、と痙攣を何度か入れて後、動かなくなった姿に、マグナは深いため息を吐いた。
 これ以上この山が汚される事は、恐らくもうないだろう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

ユズキです、お疲れ様です。
毒無効って凄い強いですね、流石です。
次の依頼でも存分に戦っていただけるよう頑張りますので、よろしくお願いしますね。

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