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シナリオ詳細

幻想アイドルすぴかちゃん~勇気を乗せて

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●大変っ! 魔物が来るよぉ!
 幻想南西部に位置するスターラスの街はずれ。いま此処には新生砂蠍の侵攻によって街を奪われた一部の人々が、難民として一時的な避難を行っていた。
 仮設住宅で、先の不安を感じながら生きる人々。
 そんな彼等を元気づける為に、スターラスの都市長は歌い手達を呼び込み慰問を行わせていた。
 難民を元気づけ、盗賊達に立ち向かう勇気を与える。
 そんなイベントに、彼女――『今日も元気にすぴすぴかっ☆』
幻想アイドル すぴかちゃん(p3n000068)も参加していた。
「みんなぁ~~! 大変なことがあってとっても、とっても辛いかもしれないけれどっ!
 みんなを元気づける為に、すぴか一生懸命歌いますっ!」
 まだまだ幻想全域に広がるような知名度はないけれど、若い人(特に子供)を中心に人気、知名度を持つすぴかちゃんは、大変な営業であったとしても、嫌な顔せず今日も元気に歌う。
 それは心から、幻想の人々に声を届けたいのだと、一生懸命な姿から見て取れた。
「ありがとうございましたっ」
 歌い終わり、一礼して控え室に戻ったすぴかちゃんをマネージャーが出迎える。
「お疲れ様です。良いパフォーマンスでした」
「ありがとうございますっ。
 でも、まだまだだよぉ。他の歌い手さん達はみんなすごい迫力あった……もっとがんばらなくちゃね!」
 自分のパフォーマンスを冷静に振り返るすぴかちゃんに、優しげな目で見つめるマネージャーが一つ頷いて、
「……そうですか。ええ、頑張りましょう。
 それで、次のスケジュールですが――」
 スケジュール帳を開き確認しようとしたところで、悲鳴に近い声が聞こえた。
「な、なになに? どうしたのぉ」
 二人が揃って見に行ってみれば、そこには息を切らしたスターラスの町の若者がいた。
「た、大変だ!
 さ、サウンドイーターが現れやがった! しかも一匹じゃない、群れをなしている!」
「サウンドイーター?」
 音喰い(サウンドイーター)。
 響き渡る音を主食とする大型のモンスターで、主に森林などの環境音の多い場所に生息している。
 その性格は獰猛かつ凶暴。食べられる音とみれば、発生源まで近づいて、周囲の環境事何もかも貪り喰う、恐るべき魔物だ。
「ここで慰問のステージをやってたろう。その音に釣られて出てきたみたいなんだ」
「でも、もうステージは終わりましたよ?」
 マネージャーの言葉に若者が顔を横に振るう。
「一足遅かったんだ。もう奴等は発生源を捕らえている!
 このままだと、此処に向かいながら、手当たり次第に貪り喰っちまう!」
 この仮設住宅地にくるにはスターラスの街を通る必要がある。
 当然、街に魔物が現れれば悲鳴が上がり、逃げる人々の喧噪が広がるだろう。それをサウンドイーターは好物と見なす。
 そうして、何もかも喰らいながら、最後にこの仮設住宅地へとやってくるはずだ。
「とにかくゲストに被害を出すわけにはいかない。
 裏手から逃げられる用意をした。すぐに避難してくれ」
「そんな! それじゃ、残されたここの人達はどうするんですかぁ!?」
「……自警団がなんとか対応しようと協議を重ねているところだ」
 すぴかちゃんの言葉に応える若者の反応は重い。それは当然だろう。一匹でも討伐の難しいサウンドイーターが群れてやってくるのだ。自警団とて命がけ――あるいは犬死にの可能性がある。
 目の前に突然降って湧いた過酷な現実。それを前に、すぴかちゃんが唇を噛み拳を握った。
「すぴか?」
 マネージャーの呼びかけに、すぴかちゃんが力強い眼差しで応える。
「すぴかに……私に囮をやらせてください!
 私の歌で、街から引き離すことができれば……!」
「だめよ! すぴか危険過ぎるわ!」
 マネージャーの制止にすぴかちゃんは頭を振るう。そして”できる”と確信した瞳を向けた。すぴかちゃんは僅かに繋がる、犠牲者を最小限にするか細い糸を引き寄せる。
「協力を頼みます。
 そうすぴかの護衛に来ていた、あの人達ならば――」
 振り返れば、そこには彼等がいる。
 すぴかちゃん人質事件を解決して以降、懇意にしあう幻想きっての優秀な人材である彼等――イレギュラーズが!

●すぴか、囮になります!
 手続きはすぐに取られ、スターラスの都市長からも協力要請を受けたイレギュラーズは、すぴかちゃん護衛依頼に魔物退治のオプションが追加された形となった。
 作戦はこうだ。
 スターラスの街の南、小高い丘に囮となるすぴかちゃんを配し、歌によって東から向かってくるサウンドイーターを誘い出す。
 イレギュラーズは丘の前に陣取り、これを撃破する。
 敵の数は十体、八人で対応するには少し多い。そしてサウンドイーターの習性からすぴかちゃんが優先的に狙われるのは必然だ。すぴかちゃんを傷つけずに、この襲い来る大型の魔物を倒す難易度の高いミッションとなる。
 丘の上に急遽準備された仮設ステージで、すぴかちゃんはマイクを握る。
 自分から言い出したことであっても、やはり怖い。足は震え、喉がカラカラになる。
 ――それでも。
 誰かを守りたくて、誰かを救いたくて。
 歌を届けてそれを成せるのなら、絶対にやりきってみせる。
 スタンバイの合図、そして流れ出すミュージック。
 瞳を伏せていたすぴかちゃんが、瞳を見開き、マイクを手に取った。
「魔物さん! すぴかの歌に付いて来て!
 聞いて下さい、”瞬きのShooting Star”――!」
 すぴかちゃんとイレギュラーズの共同戦線が始まった。

GMコメント

 こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
 幻想アイドルすぴかちゃんの歌をバックに戦いましょう。
 気分は超時空な要塞的なアレです。

●依頼達成条件
 サウンドイーター十体の撃破

●依頼失敗条件
 すぴかちゃんの重傷以上の怪我

●情報確度
 情報確度はAです。
 想定外の事態は起こりません。

●サウンドイーターについて
 音食いと呼ばれる大型の魔物。
 音を探知し、その発生源周辺を無差別に食い荒らす恐るべき魔物。
 通常は環境音の多い森に棲息し、常に音を食べて満腹を維持するが、ステージの音楽にその食欲を刺激され森から現れた。しかも群れて。
 六枚の花びらのような口が顔の全てであり、細長い首に巨大な胴体。短足の四つ足が不思議とその巨体を支える。尻尾は丸い。
 その見た目は古いホーンのついた蓄音機のようだ。
 反応は遅いが、高耐久で物理攻撃力が高い。
 通常攻撃が列攻撃であり、立ち並ぶのは危険。特殊攻撃の噛み付きは近距離に立つ一人に出血の効果をもたらす。

 特殊な習性として、多種多様な音に反応して狙いを変える。
 すぴかちゃんの歌に反応して、すぴかちゃんを狙うが、別の好みの音があれば、そちらにも向かうだろう。大好物の音は個体ごとに異なる。

●同行NPC
 幻想アイドルすぴかちゃんが同行します。
 戦闘はできませんが、歌で敵を引きつけます。
 しっかり守らないとすぐにやられてしまうので、大切に守ってあげて下さい。

●戦闘地域
 幻想南西部スターラスの街。その郊外の平原になります。
 時刻は十三時。
 広い平原で、大きな岩とかもありますが、戦闘に支障は出ないでしょう。
 よく音が響く快晴な空模様です。

 そのほか、有用そうなスキルやアイテムには色々なボーナスがつきます。

 皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
 宜しくお願いいたします。

  • 幻想アイドルすぴかちゃん~勇気を乗せて完了
  • GM名澤見夜行
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年12月02日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

レッド(p3p000395)
赤々靴
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
クロジンデ・エーベルヴァイン(p3p001736)
受付嬢(休息)
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
ケドウィン(p3p006698)
不死身のやられ役
ニーナ・ヘルヘイム(p3p006782)
Spica's Satellite

リプレイ

●頼もしい人達が集まってくれましたぁ!
 スターラス郊外の平原、その小高い丘に、仮設ステージが準備され、音喰い――サウンドイーター――を迎え入れる準備が整った。
 緊張の面持ちのすぴかちゃんを護衛として、そして音喰い討伐の役目を負う事となったイレギュラーズが囲む。
「これも何かの縁っすね。よろしくっす!
 街と難民を守る為に頑張るすぴかちゃんをボクは守るっすよ!」
 以前、耳にしたライヴのすぴかちゃん。その歌を聞いて興味を持ったという『特異運命座標』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)。安心させるように明るくすぴかちゃんに声を掛ける。
「あ、ありがとうございます! 宜しくお願いしまひゅっ!」
 やはり緊張は隠せないだろうか。噛み噛みなすぴかちゃんに苦笑する。
「そう、緊張しなくて、いい。
 すぴかのことは、我々が、責任を持って、守ろう」
 『神話殺しの御伽噺』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)の気遣いにすぴかちゃんは感激する。
 無理なお願いをしているのはわかっていた。それでもイレギュラーズの皆ならきっと協力してくれると信じていた。
 こうして力強い言葉を掛けてもらえることに、感謝する。
「依頼人を危険にさらす様なことはしたくないとこだけど、
 本人がやるって言ってるんだしねー」
「ええ、本来であればすぴか様には安全な場所に退避していただきたい所ですが……、
 アイドルが歌いたいと言うなら、それを叶えるのはプロデューサーの責務です」
「ボクはプロデューサーじゃないけどね。
 しょうがないから、せめて安全くらいは確保しないとー」
 『悪意の蒼い徒花』クロジンデ・エーベルヴァイン(p3p001736)と『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)の二人は共にすぴかちゃんが危険な”ステージ”であることをよく知っている。しかし、そう心配を口に出しつつも、すぴかちゃんの後押しをするのだと、心強い言葉を口にする。
「皆のために命をかけて頑張れるって、すごく勇気が必要で、そしてとっても素敵なことよね。
 すぴかさんの戦いのステージに、ボクも一緒に上がらせてもらえるかな」
「そ、そんな私はただなんとかしなきゃって思っただけでぇ!
 い、一緒に戦ってくれるなんて心強いでひゅ!」
 ぺこりと頭を下げるすぴかちゃんに笑いかけ、『ペリドット・グリーンの決意』藤野 蛍(p3p003861)は優しくすぴかちゃんの手を握り緊張を和らげる。……和らげたはずです。
「お歌が好きな魔物っていうだけなら仲良くなれたかもしれないけど、
 迷惑をかけるような子達にはお仕置きしないとだね」
 ライブにはルールを守って参加しないといけない、と『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)が猛る炎を迸らせる。視線の先には小さく見える音喰いの影。徐々に近づいてくる敵を認識し、身体に力を張り詰めさせた。
 焔の横に並び立つ『殺括者』ケドウィン(p3p006698)は、横目にすぴかちゃんを見る。
「すぴかの嬢ちゃんは根性あるな。嫌いじゃないぜ、そういうやつは」
 アイドルのことはよく分からないケドウィンだが、自分の命を賭けるその勇気には敬意を表すところだ。しっかり守り切ってやろうと心に誓う。
 ケドウィンと同じように、アイドルには疎いという『氷結月下の死神』ニーナ・ヘルヘイム(p3p006782)も思う。
(……歌で人を幸せにする……、とても素敵な事だと……思う。
 ……そんな彼女が……人々の為に囮を買って出る……中々出来る事じゃない……)
 思うのは、たぶんその強い意思も『愛』なのだろうということ。
 ならば、ニーナが彼女に力を貸さない理由はない。すぴかちゃんの歌は守るに価し、それだけの価値があるのだ。
「準備完了! いつでもいけるぞ!」
 音響をセットしていたスタッフが声を上げる。
 その声に、すぴかちゃんが、振り向く。もう”本番”が始まるのだ。
(できるかなぁ……本当に。
 ううん、きっとできる。すぴかだけじゃない、イレギュラーズのみなさんが力を貸してくれるのだからぁ!)
 ぎゅっと胸の前で手を組んで、瞳を伏せる。心に勇気を灯らせて、一つ深呼吸。
(――すぴかはみんなを、笑顔にしてみせるっ!)
 見開いた瞳に現出する星が、一等の輝きを見せた。
 その力強い瞳に満足するように頷いた寛治が、実にプロデューサーらしく伝える。
「セットリストはアドリブだ。状況に応じて私から指示します。頼みますよ、すぴか様」
「はい! すぴか今日も元気にいってきます!」
「ちょっと!? セットリストとかはマネージャーの私を通してくれる!?」
 突然現れすぴかちゃんに指示をだす寛治に、マネージャーが驚きの声をあげ、俄に場が和む。そんな光景も本番前の緩衝材となりうるだろう。
 ステージ中央に立つすぴかちゃんがマイクを握る。イレギュラーズの面々が考えた作戦にしたがい、扇状に広がっていく。
「と、その前にマイクもう一つ借りるっすよ」
 レッドがマイクを一つ手にしてからポジションについた。
「本番! 行きます!」
 流れ出す伴奏曲。同時、伏せた瞳を見開いて、最高の笑顔を輝かせて、すぴかちゃんは音喰らう魔物に声を投げかけた。
「魔物さん! すぴかの歌に付いて来て!
 聞いて下さい、”瞬きのShooting Star”――!」
 今、スターラスの街を救うため幻想アイドルすぴかちゃんとイレギュラーズの共同戦線が始まった。

●魔物さん、こっちだよぉ!

 瞬く間に 流れ落ちるよ Shooting Star
 どうか わたしの想いも 連れていって

 全力で歌い上げるすぴかちゃんの声色に、音喰い達がその進行方向を変える。
 我先にと、その好色の音色を食らい尽くさんとねじり、うねりながら平原を進み来る。
「腹を空かせてやがるな。
 こっちにもお前らの好物はあるぞ――!」
 ケドウィンが用意したロープで数珠つなぎした空き缶がガラガラとけたたましい音を奏でる。地元のダチコーだった音響スタッフが用意してくれたものだが、これがかなりの『騒音』だ。
「へへ、来やがったな」
 首尾良く釣れたことを確認したケドウィンは仲間の援護を待ちながら回避優先で立ち回る。
「……秩序を執行します……。『ヘルヘイム』の名において……貴方達に優しい『死』を」
 ニーナが『スローテンポ』の鎮魂歌を歌い上げる。スピーカーボムによって音量を上げた歌声は、その歌唱技術と相まってすぴかちゃんの歌と共に戦場に響き渡る。
 この歌に二匹の音喰いが釣られ、ニーナの元へと殺到する。
 六枚の花弁を開閉し、美味そうに”音に食らい付く”音喰い。呼吸をしているだけのようにも見えるそれが食事風景なのだ。
「……まるで……餓鬼ね……。
 ……『氷結』よ、我が鎖となりて敵を絡みとれ」
 音の発生源たるニーナに向かう音喰い。持てうる権能である氷結の鎖を放ち縛り上げた。
「ひえぇぇっ、ウネウネで気持ち悪いっすよ!
 けど、アイドルに傷ができちゃあダメっす! こっち来るっすよ!」
 レッドが手にしたカスタネットを叩く。動く度に揺れる鈴の音色と『打音』のリズムが音喰いを引きつける。
「来た来たっ、来たっすよ!」
 大きく開いたその口で飲み込もうとする音喰いの側面に回り込みながら、ビートを刻むように加速し、斬りつける。斬撃音と打音が混ざり、音喰いに混乱をもたらした。
「アイドルみたいに綺麗な声は出せないかもしれないけど――」
 覚えてるアイドルソングを歌唱技術によって歌う焔。音の方向性がすぴかちゃんの歌に似ていることもあって、ややその影響は小さい。だが――
「これもおまけ!」
 リズムに合わせて放つ火炎弾が盛大な『爆発音』を立てる。この音に音喰いの一体が引きつけられた。
 爆発音と歌、この二つを発生源と見た音喰いが焔に迫る。
「リズムを合わせて、ね! これで混乱してくれればいいけど――!」
 加速するビートままに愛用のカグツチを振るう。幾度目かの斬撃によって、ようやくその効果を認めることとなった。
 扇状に広がるイレギュラーズの根元で『重低音』を響き渡らせるエクスマリア。
「だいぶ、好みの音、というのが、分かってきたな」
 後衛の位置から俯瞰して戦場を見ていたエクスマリアは、音喰いを分散させる仲間達の発する音をよく観察して、それを仲間に伝える。
 そして、自身の打ち鳴らす太鼓の音が、音喰いを引きつけていることも確認した。
 音を鳴らしながら、すぴかちゃんと傍で守る寛治へと注意を払う。
 イレギュラーズの考えたこれらの作戦は、音を喰らうという本能を剥き出しにした音喰いには十分に効果的であり、またそれぞれが異なる性質を持った『音』を鳴らす事で上手く分散できたと言えるだろう。
 また、扇状に展開することで、音喰いの範囲攻撃を機能させなくしているのは、被害を減らす上でかなりのアドバンテージとなった。
 平原に多彩な音楽が鳴り響く中、音喰い殲滅へと状況は推移していく。

●イレギュラーズのみんなぁ! 格好いいよぉ!
「きゃっ――!」
 すぴかちゃんを狙う音喰いの凶牙がいくつも迫る。
「やらせません――!」
 その悉くを愛用の長傘で弾き、受け流し、時にはその身を挺して寛治が守る。
「だ、大丈夫ですかぁ!?」
「心配は無用です。さぁすぴか様、次は”スピすぴカラーズ”で行きますよ」
 ネクタイを締め直し、心配を掛けさせまいと立ち振る舞う寛治は、実にプロデューサーである。
 寛治は音喰いの好みを判断しながら、上手く選曲することで、すぴかちゃんへの攻撃頻度を減らし、自身の体力状況と共に戦況をコントロールしていた。
「前衛は頑張って抑えてくれている。
 今のうちにすぴかさんの周囲の敵を掃討するわ!」
 ファミリアーとの視覚共有で戦場を俯瞰する蛍。戦況把握を把握し仲間達を統制する司令塔となる。
 ギフトを用いた体力情報の確認は、目まぐるしく変化する戦況を動かす上でかなり重要な情報となっていた。
 それを確認し、判断し、音喰いの各個撃破を狙いながら、仲間を回復する蛍の貢献は十分なものだろう。冷静沈着に、すぴかちゃんに弱いところは見せず立ち回る。
「SLSの人を傷つけさせるわけにはいかないからねー。
 最優先で対処するよー」
 このチームで一番の火力貢献をしたのはクロジンデだろう。
 超視力と瞬間記憶によって音喰いを識別、仲間が音喰いの見分けが付かなくなったときなどに、声をだし知らせていく。
 そうして、放つ悪意の霧が音喰い達を包み込んでは、殺傷していく。
「ほい、一丁あがりー」
 手繰る見えない悪意がすぴかちゃんを狙う音喰いの一体を追い詰め、息の根を止める。巨体が横倒しに倒れ、砂煙を巻き上げた。
「く――ッ!」
 仲間が優先してすぴかちゃんの周囲の敵から倒してくれてはいる。だが、それでも寛治が受ける負担は大きい。幾度となく噛み付かれ、砂埃まみれのスーツを血で汚しながら、体力の続く限り、すぴかちゃんを守っていた。
 誤算なのは、すぴかちゃんに歌うのをやめてもらっても、音喰いが執拗にすぴかちゃんを狙った事だろう。これは好物の発生源を記憶する音喰いの特性であり、その力を少々見誤ったかもしれない。
 これによって、寛治の負担は大きく増え、ついに力尽き膝をついてしまう。
「そんなぁ! 大丈夫ですか――っ!」
 駆け寄ろうとするすぴかちゃんを手で制し、寛治が声を上げる。
「私には構わず、さあ、行ってください――!」
 後衛陣の元へ行くように促す寛治。
 すぴかちゃんは寛治の瞳を見て、覚悟を決めたようにマイクを持って駆け出した。
「すぴかちゃんがピンチっすね!
 ボクがサポートするっすよ!」
 すぴかちゃんのライバルを自称するレッドが、手にしたマイクと共に”スピすぴカラーズ”を歌いすぴかちゃんへの狙いを逸らそうとする。
 レッドはさらに自身が相手取る音喰いの足に鈴を括りつける。混乱する音喰い同士が、この鈴によって同士討ちを始めた。見事な狙いだったと言えるだろう。
「んだこらてめぇおい! どこ見てんだよあぁ!? 無視すんじゃねぇこっち見ろよおい!」
 その音に『飽きた』のか、ケドウィンを無視して音喰いが動き出す。すぐさま逃げるのをやめて、追撃のステップで敵を追い詰めていく。
「……音を食べる獣よ……どうかこの歌が貴方達の「死」の祝福とならん事を」
 二匹を相手取っていた事もあり、パンドラの輝きに縋ったニーナだったが、ケドウィンを相手していた個体のように『飽き』によって移動を開始した音喰いを追撃する。
 氷結の鎖で縛りあげながら、生み出した魔弾によってその身体を削っていく。
「援護するよ! 一気に全滅させる!」
 この動きに焔も加わって、扇形の陣形はその範囲を徐々に狭くしていく。同時に音喰いが一体、また一体と地響きを立てながら倒れていった。
 陣形の中央で、イレギュラーズに守られながら、すぴかちゃんは力の限り歌を唄い続ける。
 勇気を乗せて、勇気を奮い立たせるその声がイレギュラーズに力を与える。
「折角の、良い歌、だ。魔物の餌で終わるなど、あまりに勿体ない。
 ――それに、自ら囮を買って出た勇者を、みすみす食わせるのも、だ」
 エクスマリアの手繰る無数の見えない糸が、音喰いを縛り上げ、生み出した土塊の拳が、その腹部を殴りつけ破砕する。
「故に、お前達の最後の餌は、己と同胞の、末期の叫びだ。恐らくは、この世の何より不味い味だろうが、な」 
 言葉通り、音喰いの上げる金切り声のような断末魔に別の音喰いが群がる。
「今よ! まとめて一気に――!」
「まかせろー」
 蛍の指示に合わせて、クロジンデを中心とした火力が集中する。
「す、すごいよぉ~!」
 イレギュラーズの怒濤の攻撃にすぴかちゃんが声をあげる。
 そうして、折り重なるように音喰い達が倒れていく。最後に鳴り響いたのは巨体の倒れる地響き、そしてすぴかちゃんの曲がフェードアウトする残響だった。

●勇気を出してよかった
 スターラスの街を襲おうとした音喰いを全滅させたことでイレギュラーズとすぴかちゃんは街の人々から盛大な感謝を受けた。
 特に最初に名乗り出たすぴかちゃんには都市長自ら感謝し、すぴかちゃんは恥ずかしそうに顔を赤らめながら笑うのだった。
 クロジンデは音喰いが出てきた森を調査した。自然会話を駆使して同じような事が起きないことを確認すると、一息つく。
 群れで出てきた事が本当に慰問のステージの音によるものなのかはハッキリとしなかったが、不自然な点はなかったので偶然と呼ぶしかないだろう。
「まあ何にしてもすぴかちゃんが無事でよかったすよ。
 お疲れ様っす。次のライブも期待するっすよ」
「恐ろしかっただろうに、よく戦った、な。一時とは言え、戦友として、誇らしいこと、だ」
「わわ、ありがとうございます!
 イレギュラーズのみんな、とっても格好良くて、強くって、すぴかとっても頼もしかったですぅ!」
 レッドとエクスマリアの労いに笑顔ですぴかちゃんが応える。
「戦闘中にすぴかさんが歌ってくれてた歌。
 とても勇気付けられて……負ける気がしなかったわ。
 どうもありがとう」
 よかったら、落ち着いて聞かせて欲しいと蛍が言う。
「いいんじゃないか? ステージもまだ残されてることだしな」
 ケドウィンの言葉にすぴかちゃんは頷いて、「それじゃ一曲」と、”天窓のビビットスター”を唄ってみせるのだった。
 歌を聴き終えて、焔が拍手しながら声を掛ける。
「あのね! 戦闘中のすぴかちゃんすっごくカッコよかった!
 今度ライブとかも絶対行くよ!
 応援してるから、これからも頑張ってねっ!」
「わ~ありがとうございますぅ!」
 笑顔で握手を交わす二人。その二人の傍にニーナが寄って、無表情ながら感情を乗せて口を開いた。
「……貴女の意志に……何より歌に感動した……私も貴女の……ファンになりたい……」
「よ、喜んで! すぴか頑張りますぅ!」
「……じゃあ……サイン……ください……応援……してます」
 微笑むニーナに、笑顔のすぴかちゃんはサラサラとサインして渡すのだった。
 そして最後に、まるで怪我などなかったかのように現れた寛治が名刺を差し出しながら言葉を掛けた。
「良いステージでした。
 ところですぴか様、グラビアのお仕事に興味はありませんか?」
「グラビアですかぁ? えっと、よくわからないですけど、お仕事なら歓迎ですっ!」
「あ、こら! 勝手に決めないの! ちょっと! 仕事はマネージャーの私を通して頂戴!」
 どこかで見たようなやりとりに、その場が笑みに包まれる。
 すぴかちゃんは思う。
(街の人が……みんなが笑顔でいてくれて、本当に嬉しい!
 みんなが傷付いていくのは、とっても怖かったけれど、街を救えて――勇気をだしてよかった!)
 笑顔輝く一番星。
 幻想アイドルすぴかちゃんとイレギュラーズは一つの街を救い、そこに住む人々の笑顔を守ったのだ。
 そしてこれからも、その笑顔を振りまきながら、幻想アイドルすぴかちゃんはアイドルという険しい道を進んでいく事だろう。
 ――青く輝く空の果てでキラリと星が光った気がした。

成否

成功

MVP

新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ

状態異常

なし

あとがき

澤見夜行です。

皆さんの頑張りのおかげですぴかちゃんは無傷でステージを終えることができました。素晴らしいです。
見事な作戦と役割分担でしたね。個々人の出す『音』も良かったと思います。

MVPは素敵にプロデュースした寛治さんへ贈ります。
ニーナさんにはすぴかちゃんのサイン色紙が贈られます。おめでとうございます。

依頼お疲れ様でした! 素敵なプレイングをありがとうございました!
次なるすぴかちゃんのステージは、きっとすぐに来るでしょう。

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