シナリオ詳細
爆発は芸術か?
オープニング
●芸術家、行きつく。
ボンバンは売れない画家だった。
売れなかったので造形にも文筆にも手を出してみたが、やはり売れなかった。
「もう諦めてまっとうに働きなよ」「才能がなかったのよ」「もう十分やったでしょ」
などと周囲から言われても、明日のパンも買えなくなっても、なんらかの芸術を世に残そうと日々、苦悩していた。
やがて投げられる声と憐憫の視線に耐えきれなくなり、旅に出た先で見た光景が、彼の運命を変えることになる。
それは燃え上がる街だった。
魔物の襲撃を受けたばかりのようで、そこには死と悲鳴と、炎と爆発があふれていた。
ボンバンは離れた位置からそれを見る商隊の幌馬車の中にいた。「幻想じゃ珍しくない」と呟いた中年の商隊長の合図で、数台の幌馬車が出発する。
もしまだ魔物が残っていて、襲われてしまえばたまったものではないためだろう。足どりは早く、十分に離れたところでようやく元の緩やかさをとり戻した。
「これだ……」
行き倒れかけていたボンバンを拾ってくれた商隊の、古い乗り物の中で彼は呟く。
瞬きをするたびに先ほど見た赤い景色が眼前にちらついた。
「これこそが、芸術だ」
この日からちょうど一か月後。
どこから仕入れたのか、栗型の爆弾を従えた男が町や村を爆破して回る事件が発生する。
●爆発は芸術だ
「村が二つと町がひとつ、爆破されたのです!」
青ざめた『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)の言葉に、特異運命座標たちの間に緊張が走る。
「これまでのルートから次の行き先を割り出したのです。次はきっとここにくるのです」
「市民の避難は?」
「もうすぐ終わるのです」
テーブルに広げた地図の一か所に、赤い丸印がついている。同じ色のバツ印は、被害に遭った村と町を示していた。
「犯人は芸術家ボンバンを名乗る男と、大きな栗の爆弾なのです」
「栗……?」
「イガイガした殻がついた栗なのです。倒そうとすると爆発するらしいのです!」
町の自警団がボンバン一行に立ち向かおうとしたらしい。
結果としては壊滅したのだが、その前にローレットに情報を送っていたのだ。
「さすがにこの栗は食べられないのです……」
しょんぼりと肩を落としたユリーカは、それどころじゃないと首を左右に振る。
「皆さん、大急ぎで現場に向かってほしいのです。爆発は芸術じゃないのです!」
そもそも、人に迷惑をかけて町を破壊するような行為を、きっと芸術と呼んではならないのだ。
- 爆発は芸術か?完了
- GM名あいきとうか
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年11月22日 21時15分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●対栗型爆弾
市街地の方々から破壊の音がする。
一刻も早くポンポン栗を討伐し、首謀者であるボンバンを孤立させると決めた特異運命座標たちは、二手に分かれて栗型爆弾の捜索にあたっていた。
煉瓦でできた家々の、屋根より高い位置を飛ぶ『大空緋翔』カイト・シャルラハ(p3p000684)が敵を発見。翼を動かして石を敷きつめた道の近くまで降下する。
「一体いたぞ。あの建物の先で、家を壊そうとしてるぜ」
小声で報告すると、大きな翼で再び羽ばたいていく。上空から奇襲を仕掛けるためだ。
地上を歩く三名の特異運命座標たちが気を引き締める。間もなく、彼らの目にも二メートルほどの栗型の魔物の姿が映った。
イガイガした殻に身を覆ったそれに向かい、カイトが上空から急降下する。
「っらぁ!」
「……!」
奇襲攻撃を受けたポンポン栗が怒ったように建物に体をぶつけた。倒壊しかけていた家がついに耐えきれなくなり、瓦礫に変わる。
「可愛い爆弾どもは我等『物語』を削りきれるのか」
愉快そうに呟いた『Storyteller』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)の衣服の裾がわずかに踊る。Tenebrae――暗黒そのものが混沌たる彼女の身をとり巻いた。
刃が斜めに切断された、ナイフ程度の長さの剣を手に、ゆらりと進み出たのは『破滅を滅ぼす者』R.R.(p3p000021)だ。
「街を破滅させるなら、俺はお前を滅ぼす」
灰色のオーラをまとった剣が、ポンポン栗の殻の割れ目に突き刺さる。
「……!」
声はなかったが、栗が擦れるような騒々しい音がポンポン栗の殻の割れ目から響いた。
「これも効くだろう?」
表情こそ変わっていなかったが、目の前で家屋を破壊されたことに怒る『神話殺しの御伽噺』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)の髪が、炎のように揺れる。
下げられていたマリアの手が、勢いよく上がった。同時に石畳が砕かれている地面から、巨大な土塊のこぶしが生える。
「……!」
殻を割る力こそなかったものの、ポンポン栗がよろめいた。
しかしすぐに体勢を立て直し、R.R.に向かって腕を振るう。彼のすぐ背後にいたおぞましき“物語”が、彼と素早く位置を入れ替えた。
暗闇がポンポン栗の攻撃を受ける。びくりとイガイガに包まれた腕が震えた。
「如何した? 此の程度では、我等『物語』は終わらぬぞ」
ニィ、と唇で弧を描いたオラボナに、R.R.は浅く頷く。
「アンタ、破滅に対しては滅法、強いようだな。別の形の“破滅を滅ぼす者”として、敬意をもって盾にさせてもらおう」
「Nyahahaha! 破滅。成程、我等『物語』の憎き暗黒も又、破滅か。いいだろう」
女の声で哄笑した長躯の暗闇が、腕を緩く広げる。
「滅ぼせ」
爆発音を頼りに、四人は石畳の道を行く。
「ひどいありさまだね」
眉をひそめた『メイドロボ騎士』メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)に、『特異運命座標』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)が大きく首を縦に振った。
「早くやめさせるっす。こんなの芸術じゃないっす」
「まったくですわ。それにこの高笑い……!」
爆発や破壊の音に紛れて、どこからか響いてくる男の声に、『農家系女騎士令嬢様』ガーベラ・キルロード(p3p006172)は眉を吊り上げた。
「オーホッホッホ! 高笑いとはこのようにするものですわ!」
ついに耐えきれなくなって手本のような高笑いを聞かせたガーベラを目の端で見て、『宿主』サングィス・スペルヴィア(p3p001291)が片手を一度、上下に振る。
「静かに。近いわ」
『認知した』
少女の全身を流れる血液を模した呪具が言う。
彼女と呪具が探すのは、血液が循環する存在がいないにもかかわらず、騒音が上がっている場所だ。そこにはつまり、ボンバンでも特異運命座標でもない者がいる。
ポンポン栗、という目下の敵が。
「いた」
今まさに、商店のような建物を壊そうとしているポンポン栗を最前のメートヒェンが発見する。
「市民の家を私の前で破戒するなんて、許しませんわ!」
怒りに満ちた声で叫ぶと同時に、ガーベラが保護結界を発動する。
すでに飛び出していたレッドが加速しながら激しい攻撃を繰り出した。
「自爆するといいっすよ!」
「……!」
狙いもつけずにポンポン栗が腕を振るう。レッドは難なくかわした。
接近したメートヒェンが急停止。ポンポン栗のイガイガした殻の間を狙う。
「私だって怒ってるんだよ」
「……!」
ブロッキングバッシュによるカウンターが炸裂する。さらに、メートヒェンの後ろに立つサングィスが攻撃を重ねた。
「……!」
「許しませんわ!」
ガーベラもポンポン栗の裂け目にレジストクラッシュを叩きこむ。体勢を崩しながらも、敵はメートヒェンに殴りかかった。
「効かないよ!」
魔力を付与された特別なメイド服は、イガイガに引っかかった程度では裂けもしない。
一方でサングィスは見極める。
ポンポン栗の損傷状態と仲間たちに蓄積していくダメージ。最後に爆発がくるという情報が入っている以上、慎重に冷静に推し量る必要があった。
「まだ大丈夫よ」
『冷徹で適切な判断を。我が契約者殿』
分かっているわと、少女は頷く。
肩で息をしつつ、カイトが二回目ののろしを上げる。
別の班もさらにポンポン栗を倒したらしく、赤色ののろしが反対方向から真昼の空に向かって伸びていた。
不意に傷の痛みが軽くなる。振り返ると、エクスマリアが表情のない顔で立っていた。重症具合を憂えてくれているのか、暗い金色の髪がしおれている。
「もう大丈夫だぞ。ありがとな!」
「ああ」
感情が宿らない声でエクスマリアが応じ、首を縦に振った。
「向こうで二体、此方で二体」
同じくエクスマリアの治癒を受けたオラボナが指を折る。
情報によれば敵は近接型と遠距離型をあわせて十体。ボンバンの近くにポンポン栗がいないことは、事前にカイトが上空から確認している。
残りは六体。
「よし! 次行くぞ!」
「近いな」
瓦礫に座っていたR.R.が破滅を聴き、立ち上がった。
やがて、家々が破壊されたため開けてしまった市街の一角に、四人は到着する。
「二体。あれは後衛か」
一番前を行くオラボナが言う。後衛型のポンポン栗と遭遇するのは、初めてだった。
「よし。俺が逃げられねーようにするぜ」
物陰からそっとカイトが羽ばたく。
青空に浮かんだ大鷲のような彼の影が、ちょうどいい位置にくるのを確認してから、R.R.が飛び出した。
「……!」
「……!」
弓を持ったポンポン栗には、殻がついていない。三人の姿を見て殻なしの巨大栗は逃げようとしたが、その背後にカイトが降り立った。
「こっちは通行止めだぜ!」
「……!」
「さて。それを我等『物語』が見過ごすと思ったか」
近接型のポンポン栗がエクスマリアに突撃しようとする。しかし、間に割りこんだオラボナがまとう暗黒がそれを阻んだ。
「マリアに策がある」
視線で続きを促し、R.R.が近接型ポンポン栗の殻の割れ目に攻撃を仕掛ける。しかし、ポンポン栗はわずかに身をねじって殻の部分で弱点を守った。
「カイト、それをこちらに連れてきてほしい」
「おおうっ」
了解とも驚きともとれる返事をしながら、カイトは遠距離型のポンポン栗を蒼い短剣で斬りつける。
「……!」
退路を塞がれたことで、遠距離型のポンポン栗は徐々に後ろ、近接型のポンポン栗がいる位置へと近づいていく。
「マリアも助ける」
「そういうことか」
「我等『物語』も把握した。此方は任されよう」
廃材だらけの地面から土塊のこぶしが出現する。R.R.は眼前の標的の気を引くことに専念した。近接型のポンポン栗が彼に突進しようとするが、オラボナがそれを許さない。
「可愛い爆弾よ。貴様の相手は我等『物語』が引き受ける」
「……!」
二メートルのポンポン栗よりさらに長身のオラボナに行く手を阻まれ、近接型のポンポン栗は腕を振り回した。暗黒がそれを受ける。暗黒に触れたポンポン栗が、ダメージを食らう。
「いってー! もうちょっとか!?」
「あと少し」
弓を使うことを諦めたポンポン栗に蹴られたカイトは、お返しとばかりに刃が波打っている短剣を振るう。オラボナの様子を確認しながら、エクスマリアが抑揚に欠ける声で言応じた。
「破滅よ、滅びを知れ。お前達が世界にもたらしてきたものを、その身に刻んでやる」
R.R.の滅纏刃が殻の割れ目に突き刺さる。斬撃に乗せられた破滅の瘴気が、ポンポン栗の実を蝕み、爛れさせた。
二体の距離は今や触れあえそうなほど近い。追いこまれた遠距離型ポンポン栗は今にも爆発しそうだ。
「離脱」
静かな、しかしはっきりとした声でエクスマリアが端的に要請する。返答より早く三人は後退した。
近接型ポンポン栗が接近しようとする。遠距離型のポンポン栗はぶるぶると体を震わせながら、弓を構えた。
「爆発するといい」
エクスマリアの髪が揺れる。オラボナが三人をかばうように前に出た。
アースハンマーが発動。瀕死のポンポン栗に命中する。
「……!」
閃光がポンポン栗からあふれたかと思うと、轟音を上げて敵が自爆した。
熱を帯びた爆風が市街地を駆け抜け、かつて家だった廃材を転がし、吹き上げる。三人も二度経験した爆発の余波を浴びていた。
しばらくして、衝撃がやむ。
「作戦成功」
「なーるほどなー?」
これはいい、とカイトは驚嘆した。
近距離型のポンポン栗は、真後ろで生じた爆発のダメージをまともに食らっていたのだ。
遭遇した遠距離型のポンポン栗が全力で逃げて行く。
「私、反対側から回りこみますわ」
「ボクもお供するっす!」
二組に分かれた四人は他のポンポン栗に遭遇しないよう、慎重に進む。
「いたわ。早急に仕留めるわよ」
『新手がくる可能性もある』
「そうだね」
頷いたメートヒェンが飛び出すと同時に、ガーベラとレッドが逆方向から現れる。
左右には瓦礫の山、前後に特異運命座標と、完全に挟まれる形になった遠距離型のポンポン栗は、破壊発動をやめて弓を引いた。
空を切って飛んできて矢を、メートヒェンが受ける。
「覚悟はできてるよね?」
「……!」
刺さり爆発した矢をものともせず、接近したメートヒェンのブロッキングバッシュ。一撃を受けたポンポン栗は後退しようとするが、そこにはガーベラがいる。
「逃がしませんわ!」
「ここで倒れてもらうっす!」
ポンポン栗をガーベラが強かに叩き、レッドが加速しながら攻撃した。
「……!」
「この程度!」
振り回された弓をガーベラが盾で受ける。レッドは彼女の背後に素早く滑りこんだ。
「回復するわ」
『新手がこないとも限らん』
傷を負ったメートヒェンの血液にサングィスが干渉、負傷を癒合していく。
殻がない分、遠距離型のポンポン栗には攻撃が通りやすかった。接近しているため爆発する矢をつがえる余裕もないらしく、弓を振り回してくるだけだ。
積もったダメージは適宜、サングィスが癒す。
「後退ー! 後退するっすー!」
やがて遠距離型のポンポン栗がぶるぶる震え出した。レッドの号令でサングィスが下がり、少女を守る位置に立ちながらメートヒェンも退避する。ガーベラも下がった。
それぞれが爆発の範囲から離れたのをさっと確認し、レッドは震えながらも弓を持っていたポンポン栗に接近する。
「終わりっす!」
レッドが獲物を前にした猟犬のように襲いかかり、同時に斥力装置を起動。瓦礫の山の方にポンポン栗を吹き飛ばす。
「……!」
今日何度目かの爆発。保護結界のおかげで損壊箇所が増えることはなかったものの、熱い爆風が特異運命座標たちを襲う。
特に、最も近い位置にいたレッドが被害を受けた。
「弾けるとアッヅイ! ……っす!」
何度くらっても熱いものは熱い。負傷はサングィスが治癒してくれるが、こればかりはどうしようもなかった。
不意に、がざがざと瓦礫の山の上部が音を立てる。
「新手よ」
『間が悪いな』
可能であれば、全員を癒してから次に行きたかったのだが。
「しょーがないっすね、頑張るっすよ!」
「私はまだまだ行けますわ!」
「近接型だね。これで何体目かな」
懐からほら貝を出したレッドが吹く。瓦礫の山を滑り降りてきた近接型の気が彼女に向いた隙に、メートヒェンがのろしを上げた。
十本目の赤いのろしが上がる。
一同は事前に決めていた通り市街の出入り口付近に集合し、体勢を整えてボンバンの元に向かった。
高笑いと爆音が近づいてくる。
保護結界を張ったガーベラが我慢の限界を迎え、駆け出した。
「ハーハッハッハ!」
「オーホッホッホ!」
「なんだ貴様ァ!?」
「私はガーベラ・キルロード! キルロード家の長女にして幻想一、高笑いが似合う女ですわ!」
市街地の北西、見るも無残な姿になった噴水広場で自称芸術家と没落貴族の令嬢は対峙する。
「私、高笑いでは貴方には負けませんわよ! 高笑いとはすなわち高潔なる精神の証なのですわ! オーホッホッホ!」
「我が芸術を見ただろう! あれらを生み出せし我こそ高潔である! ハーッハッハッハ!」
「なにごとだ?」
「うーん。なんていうか、意地の戦いみたいな?」
エクスマリアの素朴な疑問に、カイトが悩みながら応じる。
「此れも混沌か」
「愉快そうにしている場合なのか?」
「危ないっすよー!」
「ずっと怒っていたみたいだからねぇ」
「ボンパンをとめるわよ」
『戦闘開始だ』
高笑い合戦は怒ったボンパンの攻撃で幕を下ろす。ガーベラがカウンターを決めているのを見ながら、特異運命座標たちは爆破事件の首謀者に向かって行った。
「ハハハハ!」
爆弾魔が投げた爆弾が地面で弾け、煙を出す。
「く……っ!」
「ガーベラ、そのまま直進」
『敵は後退しているぞ』
サングィスが状況を素早く分析する。メートヒェンは右目でボンバンの体温を感知し、攻撃に移る。
「それっ!」
「ハハハ!」
ぎりぎりではあったが、ボンバンはメートヒェンの攻撃をかわす。
だが、彼が逃げた先には暗黒をまとい直したオラボナがいた。
「不正解」
「このォ!」
壁のように立ち塞がる混沌から距離をとったボンバンの右手に、R.R.が滑るように近づいた。
「破滅をもたらす者よ、滅べ」
「ぐぅっ!」
斬りつけられたボンバンが、身を無理やりひねりながら懐に差し入れていた左手を引き抜く。
自律自走式の爆弾が、晴れ始めた煙の方へと放たれた。
「エクスマリア!」
「……っ」
回避しきれないとエクスマリアは即座に判断。ボンバンの元に向かっていたメートヒェンが身を翻すが、間にあわない。
爆音。吹き荒れる風が煙を晴らした。
「……ガーベラ」
「ええ、ご無事ですか?」
少女の髪が、驚きを表して張りつめる。彼女を守るように抱き締めたガーベラは、弱々しく微笑んだ。
「……ハハハ! ハッハッハッハ! やはり高笑いは我こそが似合う!」
「うるさいっす!」
「こいつ……!」
呆然自失から復帰したレッドが奇襲攻撃を仕掛け、幻で作った緋色の羽を纏ったカイトはボンバンの後ろに飛翔、鋭い一撃を加える。
「ぐっ」
「我等『物語』が真の芸術を教えよう」
虹色の軌跡を残す小さなリリカルスターが、爆弾魔を叩く。
「ガーベラ殿、しっかりするんだ!」
メートヒェンはガーベラたちへの追撃を警戒していた。エクスマリアがハイ・ヒールを用いる。
「寝ている場合ではないぞ、ガーベラ」
ええ全くその通り、とガーベラは胸の内で応じた。
高笑いが耳につく。あんなもの、ただの騒音でしかない。
そこに高潔さはないのだから。
「ただ人様に迷惑をかける行為を、芸術だとはとても思えませんわ。どうせ芸術を名乗るなら、もっと熱く心を動かせるものにとり組みなさいな……!」
「そうね」
『同感だ』
血液に干渉したサングィスの治癒が、霧散しかける意識を掻き集めた貴族令嬢をさらに癒す。
立ち上がったガーベラは、とり囲まれてなお抵抗をやめないボンバンに叫んだ。
「私のお勧めは恋愛小説でしてよ! オーホッホッホ!」
「ハーッハッハッハ! そうまでして我が芸術を否定するか、凡愚ども! いいだろう、いいだろう!」
煙玉に痺れ玉、SADボマーを使ってなお特異運命座標たちに勝てないとさとったボンバンが、最後の爆弾をとり出す。
ポンポン栗にはもう期待していなかった。どうせ全滅している。
「これこそが真の芸術、我が命を賭けた芸術なり!」
「させるか!」
自身に自律自走式の爆弾を用いようとしたボンバンを、カイトが突き飛ばす。足元に転がった男に、オラボナがにたりと笑った。男の顔が引きつる。
直後、この事件最後の爆破が起こった。
●爆弾魔、捕縛。
自爆なんてさせない。罪を償わせる。
爆破事件の犠牲者にだってならない。あんなやつに負けてたまるか。
「う……」
「起きろ」
抑揚のない声と全身を包む温かな光で、カイトは目を覚ました。安堵したのか、エクスマリアの髪の先が揺れる。
様子を見守っていたR.R.がかすかに頷いた。大丈夫だと、カイトは親指を立ててから起き上がる。
「芸術は爆発だけじゃないっす。絵画や音楽や小説だってあるっす。自分だけじゃなく、他の人も感動の幸せ者にするのが真の芸術家っす!」
レッドの怒りの声に、なるほど説教中かとカイトは納得する。
特異運命座標に囲まれるボンバンは、不貞腐れた顔で正座していた。
「逃げるなら殺すと言ったわ」
『結果、こうなった』
視界の端にカイトを捕らえたサングィスが端的に説明する。
「今回の件は許せるものではありませんが……。貴方の芸術に対する想いは、感じるものがありましたわ。その想い、爆発を題材にした絵にしてみてはいかがでしょう?」
「そうだね。牢屋に画材を差し入れるよ」
「ぐぅ……」
ガーベラの真摯な言葉と、メートヒェンの優しい言葉にボンバンはうつむく。
「芸術は爆発。貴様自身が最終的に芸術と化したな。人間の執着とは愉快なものだ。被害者からは不快に視える。されど第三者からは舞台に視得る。世の中は真に歪な箱庭で!」
Nyahahaha! とオラボナが哄笑する。
ボンバンをすでに滅んだ破滅とみなすR.R.は、腕を組んで事態を静観していた。
「よし! 撤収の前に消火活動っす! ほら、手伝うっすよ!」
「雨が降ればいいんだがなぁ」
こぶしを握るレッドと、R.R.に無理やり立たされたボンバンを尻目に、カイトは天候の変化と風向きを読んだ。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様です。
牢に入れられたボンバンは初めこそ反省した様子がありませんでしたが、毎日絵を描き、少しずつ改心しているようです。
爆発も悪くなかったけど、やっぱり絵がいいなぁ、とこぼしている姿を見た者がいるとかいないとか。
ともあれ爆破事件は皆様のご活躍で無事、解決を迎えました。
おいしい焼き栗を食べた際には、爆発する栗もいたなぁとちょっと思い出してくだされば幸いです。
ご参加ありがとうございました!
GMコメント
お久しぶりです、あるいは初めまして。あいきとうかと申します。
芸術の秋、栗の秋。
●目標
ボンバンの捕縛あるいは討伐。
及びポンポン栗の討伐。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●ロケーション
現場に到着するのは昼です。
敵勢力は市街に現れたため、市街地での戦闘になります。
石畳の道と煉瓦造りの家々、北西には噴水が設置された広場もあります。
隠れる場所には事欠かないでしょうが、爆弾魔たちは街をどんどん破壊し、街路樹を炎上させます。
また、敵は効率的に市街を破壊するために、分散しています。
逃げ遅れた市民はいないようです。
●敵
『芸術系爆弾魔ボンバン』×1
爆発は芸術なのでは? という思いにとりつかれた男。不健康そうな見た目をしている。
すぐ高笑いをする。自信過剰。
芸術家として売れなかったのは、腕や才能だけでなく性格にも問題があるかもしれない。
ポンポン栗たちを操れているわけではない。
・SADボマー(物・遠・範)…自律自走式の爆弾。
・煙玉(物・近・単)…煙が出る爆弾。
・痺れ玉(物・遠・単)…あたると麻痺になってしまう爆弾。
・深呼吸(物・自・単)…まだまだ芸術は続くぞ。
『ポンポン栗(近接型)』×6
体長二メートルの栗。イガイガした殻に包まれている。
動きは鈍いが防御力は高め。統率はとれていない。
殻の真ん中に縦に真っ直ぐの裂け目がある。殻の中の栗部分は防御力が低い。
・イガイガで殴る(物・至・単)…腕部分のイガイガで殴ってくる。
・イガイガアタック(物・近・単)…イガイガした殻で包まれた体で突進してくる
・自爆(物・至・範)…力尽きるときに爆発する。範囲はそれほど広くない。
『ポンポン栗(遠距離型)』×4
体長二メートルの栗。近接型と違い、イガイガした殻がない。
離れたところから攻撃してくる。近づくと逃げるが、足は速くない。
・爆発弓(物・遠・単)…あたると爆発する矢を放つ。
・弓を振り回す(物・至・単)…無我夢中で弓を振り回してくる。
・自爆(物・至・範)…力尽きるときに爆発する。範囲はそれほど広くない。
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