PandoraPartyProject

シナリオ詳細

安寧を守る意味

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 忙しそうに穂を抱え走る女は困った顔で。
「はぁ? ゴブリン? どうせあの悪ガキが騒いでるだけよ。あの子が住んでる家の方から毎日夜中に何かを掘る音がしたり、鉄を打つような騒音がして堪らないんだから」

 紫煙を揺らしてチェス盤を睨んでいた老人達は苦笑して。
「聞いた事ないねえ。隣村の若いのがよくゴブリン退治に行くって聞いたがね」
「それより大丈夫なのかい? 砂蠍のせいで南部が大変だって風の便りに聴いたけどの」
「ゴブリンなんて、まともな魔物すら見たことないよここ数年!」

 赤子をあやす若い母親はあからさまに眉間に怒りを滲ませて。
「あの子ねぇ……! 前にうちの井戸に牛のフン入れて逃げてったのよ! どうせ性質の悪いイタズラでしょう!?」

 ……たっぷり半日も歩き回り十数人の話を聞いた『完璧なオペレーター』ミリタリア・シュトラーセ(p3n000037)は村の田畑を囲う柵に腰掛け、一休み代わりに地図を広げた。
「確かにこの付近に怪しい場所は、ないようですね」
 困った様に空を見上げた彼女は頬杖を突いて唸る。
 先日、彼女が偶然ギルドへ向かっている最中に出会った少年。彼の話では自分の村が凶悪なゴブリンに狙われているのだという。
 どこでそれを知ったのか問い質そうとしたが、急いた彼に捲し立てられた上に村の場所を言い渡され。そのまま逃げられてしまったのだ。
「さて、これは本当に悪戯か。何かの裏があるのか」
 村人と話してみてもミリタリアには引っかかる要素は特に感じられなかった。精度はともかくその程度には相手の多くは嘘をついていない。
 この場合怪しいのはやはり少年だが。どうにも村一番の悪ガキと評判の彼はその悪名ゆえにミリタリアの情報精度を下げている。
 過去に何か問題があったわけでもないような村で、資源も外から入って来る物資頼み。女と子供も数は少ない。
 一つずつ挙げるまでも無く、今回は少年の狂言の可能性がある。
(……帰る前に残りの数件を回ってからにしましょうか)
 それでも彼女は冷静に頷いて、未だ話が聞けていない物件へ向かう。
 例えば、そう。
(次に話を聞くならば……村で一番嫌われている少年の、母親でしょうか)
 子をよく見ているのは男よりも女の目線と相場は決まっている。それに父方は村の守り手たる兵士とも聞く、付近の廃鉱山へ続く入口を護る為に一日中突っ立っている男に聴くのは酷だろう。
(夜中に何か掘っているとか言ってましたね先ほどのマダム。であるならばそこから聞きましょうか)
 ミリタリアは村の外れに聳える山へと向かう。
 悪ガキなる少年の住む家は山の麓にあるのだと聞いていた。


 状況は一変した。
 ミリタリアが少年の家へ到着した時、既にそこに人の気配は無かった。
 問題なのは『残されていた物』である。
「血……致死量ではないですね、この有り様から察するに例の少年が抵抗したとみるのが正しいか」
 荒れ果てた民家。引き倒され、横倒しになった家具や破れたカーテン、撒き散らされた水と桶。
 親子のどちらかが水汲みから戻った所を襲撃されたのだろう。玄関付近まで引き摺られた者は最後に激しい抵抗を試み、そして殴られたか打たれたか、昏倒させられた。
 壁際には小さな穴が開いていたが、彼女は特に気にする物でも無いと視線を巡らせる。
 微かに痛ましい惨状を前に分析するミリタリアはこれがゴブリン相手の依頼ではない可能性があると思い至り、直ぐに民家を出た。
(今の時期にこの様な不穏な動向を見せるとすれば、かの盗賊軍が関わっている可能性がありますね。
 急ぎ馬車へ戻り、依頼としてイレギュラーズを……)

 近くに怪しい気配が無い事を確認したミリタリアは『共に来た馬車』へ向かい移動を始めた。
 駆ける彼女は周囲への警戒を怠らない。こうなると恐ろしいのは人の気配だった。
 村を突っ切れば直ぐに彼女の手の者が待っている。数人規模の砂蠍ならば退けられるだろう。
(周囲100mに敵の存在は無い……筈。問題ありません、大丈夫。いつも通り……)
 チリチリとした予感に首を振る。ミリタリアは何故か不意に過ぎった過去の『失敗』を思い出した。
 不用意に一人で出かけた日に小さな細い路地で自身を襲った魔物達、彼等に連れ去られた日の屈辱。なぜ、今になってそれを思い出してしまったのか。

「────!?」
 刹那。
 彼女はその耳で何かを聴き捉えるより先に、背中からの凄まじい衝撃に耐えられず地面を滑った。
 砂利が頬を薄く切り裂き。後に続いた轟音に肩を震わせた。
(今の、は……!)
 ”銃声” 、彼女は撃たれたのである。
 身を反転させて視界を確保した彼女は目に映る全てをスーツの下に仕込んでいたノートへ素早く書き記す事に尽力した。
(廃鉱山、裏手の麓にある民家、拉致された母子、岩、石、木、木の……陰にいる、のは!)
 最後の一節を記したのと意識を次の一撃で刈り取られたのは同時だった。

 貴族令嬢にして情報屋ミリタリアはこの日、人生で二度目の誘拐をされた。

●“コボルト”
 仮面に素顔を隠した貴族の男は淡々と告げた。
「私は依頼主のフランベルジェ子爵と申します、どうぞよろしく。ミッションを説明しましょう、
 目的は、幻想王都から南下した先にある元採掘施設の内部に棲み付いた敵性モンスター『コボルト』の殲滅ないしは排除を絶対。
 敵の主戦力は、質素な短剣と特殊個体が持つ銃器です。そちらの実力次第ですが、まあ、イレギュラーズが手こずる相手でもありません。
 坑道による暗く狭い閉所での乱戦も予想されますが、採掘場の元責任者に問い合わせた所皆様の人数でも問題無いと回答を頂いておりますのでこれも大きな障害とはならないでしょう」
 まるでトランプでも配る様な手軽さで資料を配り終えた彼は、イレギュラーズへ最後に一枚だけ別の紙を見せた。
 それはノートの切れ端だった。

「此度の依頼における前提として、『ミリタリア・シュトラーセ』の身柄がコボルトに囚われている可能性がある事をお伝えしておきます。
 最終的にはそちらの判断ですが、無理はしない方がよいのでは? 最も、最善を尽くしていただいた方が喜ぶ者が多いのは確かですが」

 淡々と。彼はそう告げた後にもう一度依頼概要を詳細を交えて説明し始めた。

GMコメント

 ゴブリン退治が流行っていると聞きまして、似た様な生物の討伐依頼です。(謎

 以下情報。

●依頼成功条件
 コボルトを絶対に全滅させる
●依頼失敗条件
 コボルトの逃走

●情報精度B
 捕えられた人物達の存在が難易度を上げているようです。

●魔石採掘場
 かつて意図的に鉱脈へ魔法を掛ける事で魔石を量産しようとした、その跡地。
 今では微量の物しか残っておらず、しかし放置するのも危険な為に近くに村を形成して物資の供給を約束すると共に番に就かせていた。
 内部は暗く狭いものの、天上が5m程度しかないのに比べて横幅はまあまあといった所。隊列に悩む事は無いだろう。
 洞窟の壁に魔石がある場合は発光しているので直ぐ分かる。この鉱山が量産していた魔石は【中距離以上の物理・神秘攻撃を跳弾させる】の性質を有しているので注意されたし。

 現在は内部にコボルトなる魔物が蔓延っており、その性能はゴブリンと大差がない。
 強いて言えば……彼等はゴブリンと違い『頭が良く』『手先が器用』である。

 【コボルト】
 詳細な数は不明。採掘場へ続く入口を見張っていた兵士達も拉致されたらしく、現場の様子から見ても10体は下らないと予想される。
 ゴブリンのような子供に近い体躯と、犬と人の中間を模した醜悪な面。特徴的なのは犬耳のようにフサフサした獣耳が垂れている事。
 戦闘力の面では総合的にゴブリン程度ではあるものの。【稀にその手先の器用さを活かした武器の奪取をして来る事がある】ので注意が必要。

 【コボルト・ナイト】
 情報屋ミリタリアが最後に目撃したとされる、二丁拳銃を操る大型のコボルト。
 体格はよりがっしりと、狼男の如き骨格を備えている赤眼。
 遠距離からの精密な射撃が行える他、身体能力も合わせた高度な戦闘も可能と想定される。
 装備している銃は相当に貫通能力があるようだ。

●救出
 情報屋ミリタリアが捕えられている可能性があるものの、依頼人達は特別それを重視しないと言っている。
 彼女の安全を確保するか、危険が及ぶ前に敵を一掃するかは諸君等の裁量に任されている。

  • 安寧を守る意味Lv:4以上完了
  • GM名ちくわブレード(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年11月22日 21時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

那木口・葵(p3p000514)
布合わせ
御堂・D・豪斗(p3p001181)
例のゴッド
九鬼 我那覇(p3p001256)
三面六臂
セシリア・アーデット(p3p002242)
治癒士
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
シュリエ(p3p004298)
リグレットドール
リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先
久住・舞花(p3p005056)
氷月玲瓏

リプレイ


「魔石が邪魔になりそうだっただけに、採掘の許可を貰いたかったのだが……致し方ないであるな」
 聞き込みを終えて来た『三面六臂』九鬼 我那覇(p3p001256)は静かに頭を振る。村人達から聞けた話は情報としては芳しくなかったが、それは仕方のない事だった。
 何事も起きていない。そう信じられる環境ということだ、悪い事ではないだろう。
 それに『村はずれの一家と採掘場の番兵3人が所在不明となっている』らしく、少なくとも現在起きている事と照らし合わせれば情報の裏付けとしては充分だろう。
 暗い空洞が続く採掘場の入口へ着いた一行はそれぞれ準備を検める。
「でも村に行って昔の物とはいえ簡単な地図だけでも手に入ったのは良かったわ。依頼主のおっさんケチだったからね」
 訝し気に腕を組む我那覇に頷きながら古びた羊皮紙をヒラヒラさせる『旋律を知る者』リア・クォーツ(p3p004937)。
 採掘場や坑道は現在では採掘行為は勿論、技術面という点において厳重な機密扱いとして禁止になっていた為に詳細な地図は手に入らなかったのだ。
「やる事は変わりません。なるべく人質救出を優先しつつ、コボルトを討伐していきましょう」
「ごーぶごぶごぶ……え? 今回はゴブリンじゃないにゃ? そんなばかにゃ……」
 『布合わせ』那木口・葵(p3p000514)は採掘場の入口に放置されていた小さなランタンに『リグレットドール』シュリエ(p3p004298)から灯りを分けて貰い、腰に提げる。
「コボルドというと、確か民間伝承の邪な精霊の名前として記憶に在る。同じ物かはわからないけれど、ゴブリンの話を聞く限りは同じか近い物と思っても良さそうね……」
 ゴブリンとどう違うのかは実際に見て見ればわかるだろうか、と『特異運命座標』久住・舞花(p3p005056)は頷く。
「いやはや、バッドラックな者はいるものよな! しかしながら、人の子のレスキューをしないという選択肢はない! 厄介な一件ではあるが、諸君! 見事果たして見せようぞ!」
 極光を背負い『不知火』御堂・D・豪斗(p3p001181)は奥へと続く坑道を指差して出発の時を告げる。
「力を合わせて頑張れば救出も退治も必ずできるよね!」
「うん、その為にも私の出来ることを頑張って行くとするよ! 攫われた人が無事だといいんだけど……」
 これ以上被害を広げたくはない、無事でいて欲しい。
 思う事は『治癒士』セシリア・アーデット(p3p002242)も『ぷろふぇっしょなる!』ヒィロ=エヒト(p3p002503)も同じだ。
 今回の依頼を無事に成功させようと誓い合い、一行は纏まって坑道へと入って行く。
 冷えた空気が彼等を撫でる。


 豪斗の神々しい後光が坑道を照らしつける中、不意にリアが耳を片手で包んで目を閉じる。
 彼女のギフト、『クオリア』が微かに紡がれる感情の旋律を捉えたようだった。
「ミリタリアさんですか?」
「多分……一人だけ、何だか勇壮な旋律が聞こえて来るわ」
 リアの視線は迷う様に宙を彷徨い、やがてその群青の瞳は一点を見つめる。
「”上” ……であるか?」
「ええ、この坑道を進んだ先に旧採掘場があるから。もしかするとそこから上へ行けるのかもしれないわ」
「或いは天井からムーブするのやもしれんな! さっき崩落したホールがあったようにな!」
 豪斗が言った事も有り得る。
 大まかな方向が分かれば、とにかく現状はそちらを目指す事が先決だと一同は確認する。
 そうして暫く進行する内に彼等の前方からヒタヒタと足音がしてきたのをシュリエの耳が捉えた。
 舞花も気付いたのか、一瞬全員に緊張が走る……が。
「先行してる式神が戻って来たみたいね」
「わらわの式にゃ! 何々? ふむ、ふむふむ……この先でコボルトをたくさん発見したみたいだにゃ」
「私のぬいぐるみさんはどうやらこちらも発見したと言ってます。
 ただ、どうも数が少なかったとか……どちらも進行方向に変わりはありませんがそこから先へ向かうにはリスクがありそうですね」
 シュリエと葵のコボルト式が戻って来て得た情報は確かに有力である。
「取り敢えず、数の少ない方から攻めてみましょうか」
 葵がそう言って再度式神達を送り出す。
「ゴッドの光あらば横道の類をファインドするは難しくはなかろう! 念の為見落とし無きように注意して進め!」
「わらわの耳には特に何も聴こえないけどにゃー」
 豪斗が周囲の壁を照らして進む。
 入口から続いていた一本道だけあって、幾度となく人の出入りがあったのだろう。狭くも拡張と掘削を繰り返された坑道は壁の凹凸の激しい部分が見えた。
 とはいえ敵が潜んでいるかどうかは既にシュリエの耳で確認済みなのも確かである。
「ミリタリアさん以外の方の様子はわかりますか?」
「彼女の旋律に雑音みたいなものが聴こえるのよね、怒ってるようで怯える様な音色で」
「怯える……捕まっているかもしれない村人の方でしょうか」
 確か、情報屋ミリタリア以外にも捕まっている可能性があると、依頼人の話でも村人達からの話でも出ていた事をセシリアは思い出す。
 衛兵達、そして彼等の家族。
「最低で5人か……そも、何故人を生して捕えたのか理由がわからない。私達が到着するまで全員無事だと良いけれど」
 ゴブリンよりも頭が良いからこそ、ならば人間とは違う筈のモンスターが何を目的として攫ったのかが不明である事がどうしても憂いとなって残る。
 採掘に使われていた機材が散乱しているのを務めて踏まぬ様にして。木霊する足音が暗い坑道で鳴り響く。
「……!」
 刹那。何処からか聞こえて来た小さな物音に反応して、静かに長刀の柄へ舞花が手を伸ばす。
 シュリエも忙しなく耳を動かして落ち着き無さそうにしている。
 これには流石にヒィロが首を傾げた。
「ど、どうしたの?」
「うーーん……何だか凄い事になってきたのにゃ」
「急に、なにこれ!? あちこちから『怒り』の旋律が近付いて来てる!」
 リアが耳を塞ごうとして、堪らず叫んだ。彼女達索敵能力を有した者達には何となく何が起きているのか分かっていたのだ。
 この時。再度先行させていた式神達がいずれもコボルトに捕まり、敵のいずれかが仲間を呼んで殺到して来ていたとは知る由も無いだろう。
 イレギュラーズと同じく纏まって押し寄せて来たコボルト達はじきにイレギュラーズと接敵する。それは坑道に次第に反響して聴こえて来るようになった雑多な足音や遠吠えの音で分かった。
 暗がりの向こうから木霊して来たのは、まるで喉を潰した犬の様な声だった。

●遭遇戦~エンカウント~
 方針はそもそも、始まりからずっと貫徹していた。
「挟み撃ちされるのも癪ね、だったら行先は分かってる! 走りましょう!」
「グッドアイデアだユー!」
 いっそ侵入がバレてしまったのならば、慎重さは捨てずとも自身が出す音を気にする必要も無いと舞花は叫ぶ。
 前へ。駆けて行く。
 走るリアとシュリエが互いに聞こえる音から大体の敵の数を報せる。
 前方の方が多いが、この騒ぎでいつ捕えられている人々に危害が及ぶか分からない。そこで彼等は人質の救出を最優先に突破する事を選んだ。
 そもそもが殲滅が目的の依頼。逃げられるよりも追われる方が好都合でもある。
「……! 分岐路!」
「”右”よ!」
 咄嗟にリアが示した方へ向け、一行の中から出た舞花と葵が先頭を駆け抜けて行く。
 壁を駆けて飛んだ舞花が長刀を握り、出会い頭に接敵したコボルトへ一閃を浴びせる。
 一撃で即死した。その死体を踏み台にして舞花が奥から突き出された槍を下から薙いだ鞘で弾き、後ろへ下がると同時に二度火花を散らせて次の攻撃を受ける。
 そこで、舞花が瞬時に身を翻して身体を反らした。
【GALLAR!?】
 コボルト達へ襲いかかったのは葵のエーテルガトリングである。
 仕留めずとも全体へ手傷を負わせたのを確認した彼女は静かに後続へ告げる。
「4です」
「コボルト、ユー達も一つの命……その行いには責任も伴うのだ!」
 飛び退いて来た舞花を華麗に横合いへ受け流して、豪斗が躍り出る。
 刹那に輝き光るゴッドパゥワーがコボルト達をスレイしにかかる!
「ゴッドシンパシー、アクセラレーショォンッッ!!」
【~~~!!?】
 神々しい光がコボルトを薙ぎ払い、狭い坑道内に眩い閃光が満ち溢れた。
「えいっ!」
 魔力が偶然荒ぶったか、セシリアが撃った光弾がコボルトを爆散させる。
 次いで飛び込んだ我那覇が残ったコボルトを打ちのめし、逃走に走ろうとするコボルトもヒィロが阻み強烈な打撃で吹き飛ばした。
 いずれも歴戦のイレギュラーズである、首魁無き雑兵など瞬く間にコボルトは全滅する事となる。
「ボク達の力を見たか! なんてね」
「完勝! パーフェクトである!」
 人質、ミリタリア達が囚われている場所までは近い。
 一気に突破してしまおうという意見に賛成して一同は坑道の奥に広がる採掘場へと向かい駆け抜けて行った。

 灯り一つ無い採掘場の元監督官の部屋に閉じ込められていた『完璧なオペレーター』ミリタリア・シュトラーセは外から何者かの足音が近付いている事に気付いた。
「どなたかそちらにいらっしゃるのでしょうか」
 程なくして「離れるである」と低い声が聴こえて来る。
 直後扉を粉砕して入って来たのは我那覇と、そしてイレギュラーズである。
「ひ、ひぇぇえ!」
「皆様ご心配なく、彼等はローレットの者です」
 包帯を巻いた男が部屋の隅へ後退りする中、ミリタリアは他の囚われていた者達の前へ出て来て説明する。
 話が本当だと分かったのか、暫しの間を置いてからその場に安堵の空気が流れた。
「どうも、お姫様。王子様じゃないけど、助けに来たわ」
「ふふ、流石ですねクォーツ様。シュリエ様も、またお会いできて嬉しく思います」
「にゃー?」
 短く感謝の言葉を切り上げると、今度はリアからここまでの状況説明をミリタリアにした。
 そこで、彼女へ今回の依頼はあくまでコボルト達の殲滅がオーダーである事も伝わる。
「フランベルジェ子爵、ですか? 私の旧友です……なるほど彼らしい。
 分かりました。そういう事でしたら皆様は依頼の遂行を優先して下さい、ここで私は村の住人達と共に残ります」
「残る!? せっかく助けに来てくれたんだから、早く逃げた方が良いんじゃないのか!」
「コボルト達……彼等のリーダー含め、敵は分散している状況です。私達が足手纏いになっては間違いなく危険度は上がるでしょう」
「ろ、ローレットだろ! オレらの方が大事なんじゃないのかよぉ!」
 ミリタリアの決定に部屋の中であちこちから抗議の声が上がる。当然だ、いつ殺されるとも知れなかった中でやっと救いの手が伸ばされたのだから。
 しかしここでミリタリアは背後のリアやイレギュラーズへ小声で「今のうちに」と囁いた。
 彼女に促されるまま、イレギュラーズはその場を後にする。
 ただ一人を除いて。
「私達は貴方達を助けに、そしてコボルト達を殲滅しに来たわ。これは依頼の優先度とは関係ない、純粋に貴方達を助ける為に私達が決めてた事よ」
 純白の光が溢れて部屋を照らす。
 リアが放った癒しの光が包帯を巻いた男を包んだ直後、肩や足の負傷が消えたのだ。
 有無を言わせず、彼女はこれを他の村人達や衛兵の男達にも行っていった。
「おお……」
「ねーちゃん、すっげぇ……」
「あたしの優しさに包まれて歓喜の涙を流すがいいわ、ガキ」
「急にドS!?」
 なるほど、ミリタリアが出会った少年とは彼の事かと思いながらリアは思わず口から本音が出てしまう。
 ミリタリアも含め全員の傷を癒した所で、彼女は採掘場へ振り返る。
 仲間達の感情が、『旋律』が不穏な揺れ方をしていたのだ。

●VS銃士
 先ずは来た道を戻って殲滅に移ろうとしたイレギュラーズは、コボルト達と遭遇する事無く元の坑道まで来てしまった。
 戦闘痕があった場所を通り過ぎ、最初の分岐路まで戻って来たのだ。
「あっちにゃ! コボルト、なんで採掘場まで追いかけないで戻ったのかにゃ」
「この先は確か豪斗さんの見つけた横穴があった場所でしたね」
「臭う……臭うぞスメル! 迸るほどストレンジ! ゴッドノーズが怪しいと告げているぞ!」
 罠の可能性を考慮して、灯りを最小限に抑えながら一行は進んで行く。
 シュリエの聴覚でも敵の動きは捉えていた。間違いなく狭い通路の先で複数いると。
 人質を一時的に開放して負傷者達をリアが治している以上、懸念すべき不測の事態は当初と違い無い。
(……? 明るい?)
 次第に、彼等の進行方向から新緑の光が射し込んで来ている事に誰かが気付いた。

【GALLAR……!】

 たった一度。小さな角を曲がった瞬間、一行の目の前に薄明かりに照らされた空間が突如広がった。
 直ぐにこちらへ気付いたのはその手に大量の『本』を抱えている大柄な影。
 赤い眼を鋭く向けて来たそれは、ミリタリアが遭遇した【コボルト・ナイト】と命名されていた特殊個体の姿だった。
「────シッッ!!」
 秒も間を与えず。瞬時に躍り出たのは舞花である。
 先を読んだ彼女の一閃は静かに、空気を切り裂く音も出さず。首を刎ねる間合いで瞬きの剣閃が奔った。
 鈍い音が後から鳴り響き鮮血が舞う。
(! 仕留め損ねた……!)
【……GLLUU】
 浅い。
 太刀筋を見切ったのではなく反射行動で剣閃を避けたナイトは、返す刃の如く腰のホルスターから引き抜いた拳銃を撃ち込んだ。
「残念! ボクが相手だよ!」
 寸前に割り込んだヒィロが曲刀を鮮やかに奮い、火花を散らして弾丸を全て叩き落とす。
 その場に、漸く止まっていた時間が濁流の如く流れ込み動き出す……!
「ここ、魔石が全体にあるよ! みんな気をつけて!」
「魔石とやらは厄介だがゴッドのレンジは元より近距離! そこにハンディは存在しない!」
 葵が腰部のリールから色鮮やかな糸を引き抜き、投擲気味にそれを宙へ放った瞬間。豪斗と共に数匹の蛇がナイトへ襲いかかる。
 周囲で巻物や紙束を運んでいたコボルト達も一斉にイレギュラーズへ殺到して来るのは、或いは。
(恐らくはナイトの存在が彼奴等のブレイブポイントなのであろうな! 一度退いたのもレスキューをオーダーする為か!)
 舞花とヒィロの攻撃を捌いた上で自身へ襲い来る『蛇』を正確な射撃で撃ち抜く。そこまでの勇猛な姿を見れば士気が高まるのも有り得る。
 しかしそこへ放たれる光の奔流がナイトを貫いて吹き飛ばした。
【GAAAA!?】
「おっと!」
 慌てて後退しようとするナイトの前へ追随する、シュリエの姿。
「可愛い猫を前に逃げようとするとは。やはり時代は犬より猫なのにゃ!」
 分かっているのか分かってないのか。シュリエが宣言した言葉に牙を剥いて飛び掛かりながらナイトが抜き撃ちで凶弾を放つ。
 得物を抜かせまいとして彼女の肩口を撃ち抜いたのだろうが、それらはただのダメージに終わる。
 ナイトの眼前に飛び出した小さな掌。輝く紋様から溢れ出し、滲み出るかの如く表出したのは先ほどの葵が放った蛇とは比べようが無いほどに凶悪な気配を背負う大蛇だった。
【……エ】
 首筋に咬み付かれたナイトから零れた声が全てを物語る。
 致命的な一撃だった。即死せずとも、受けた猛毒は最早癒す方法も無い。

【GARR!?」
【GALR! GLLLL!!】
【GARR!!】

「何事であるかッ」
「ボスがやられて動揺している……という所でしょうか?」
 複数のコボルトを相手に奮戦している我那覇を援護するセシリアが敵の様子が変わった事に気付く。
 ハッとして振り返る。
 魔石が広がっている空間には幾つかの坑道への穴が開いている。今ここで逃がせば、捕える事が難しくなるのは間違いない。
「あっ! こらまて逃げるにゃー!!」
 一目散に逃げ出して行くコボルト達は短剣を投げつけたりして脱出を最優先に散らばって行く。
 シュリエや他の仲間達が追いかけ、或いは逃走を阻んで撃破しようとする。だがしかし手が足りない。
 一体だけ、コボルトが乱戦の隙に忍び足で魔石採掘場を出て行こうとする瞬間を、誰も捉えられなかった。

「どこへ行くつもり?」

 後から追い着いて来た、彼女──リア・クォーツを除いて。

●帰って来れた事
 間一髪の所でコボルトの逃走を阻止できたイレギュラーズは、暫し他に隠れている者がいないか確認の後。
 静かに息を潜めて救助を待っていたミリタリア達を彼等は迎えに戻る事となった。
 外に全員で出る事が出来たのは、日が暮れた頃だった。
「あれは……子爵様?」
「依頼人さん、来てくれたんですね!」
 鉱山入口前に馬車の一団が停まっている事に気付いたセシリアが手を振った。
 どうやら依頼人のフランベルジェ子爵が怪我人の為に救護隊を連れて来てくれていたようだった。
「リアさんのおかげで皆無事ですけど、良かったですね」
 葵の言葉にミリタリアが頷く。
「……ええ」

「ほーら! とっとと村の人達に謝りに行くわよ、次からは人に信じて貰えるように身の振る舞いを改める事!」
「わ、わかったよ魔法使いのねーちゃん……」

 村一番の悪ガキと呼ばれていた少年を引っ叩いて歩かせるリアはトボトボ歩いて行く少年を見て、溜息と共に微笑んだ。
 彼は帰って来れたのだ、と。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

この後、とある村の少年は一軒一軒歩きに歩かされ、以降もう不真面目な事はしないように心に誓った……

依頼は成功です。
皆様の活躍(探索で索敵持ちが複数で不意打ち完封、戦闘もビルドからして全く危なげの無い展開を広げる事が出来ていました)により情報屋ミリタリア含め村人達は無事に帰って来る事が出来ました。

時折、皆様の過去を振り返って見ると沢山の人が助けられていたり、救われている事もあると思います。
それは皆様が成功したからこそ得られた結果だとも言えますが、多くは皆様がそれを望み、選んだからだという事が大切なのだと思います。
ご参加いただきありがとうございました。今後も皆様のご活躍を楽しみにしております。

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