シナリオ詳細
安全な幽霊屋敷(情報精度E)
オープニング
●序
『お騒がせ』キータ・ペテルソン(p3n000049)が情報屋を名乗り始めて、およそ一週間が過ぎた。「情報屋は足で稼げ」という金言をどこかで聞いたような気がするので、マラソン大会に出てみた。特に何も起こらなかった。
どうやって情報を得るのか、皆目見当もつかない。『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)に泣きついてみたりもしたが、飯のタネを明かすかとすげなくあしらわれた。当たり前である。情報網とか人脈とか、そういうのが重要らしい。
「あーあ、なんかうまい話がその辺にごろごろ転がっていないかな」
酒場でぶどうジュースを飲んでいるキータの横に、怪しい男が座る。
「おまえ、情報屋か? いい儲け話があるんだが、どうだ?」
「!? ほんとかよ! ぜひ頼む! ぜひ!」
男は黙って手を伸ばしてくる。
「ああ、分かってる。予習したからな」
キータは頷いて金を渡した。主にフィクションで予習した。
「頼む、全財産だ」
「少なっ」
「え?」
「コホン」
男は咳ばらいをすると、背を向けて話し始めた。
「誰にも言うなよ。これはどこぞの道楽貴族が買い上げた屋敷の話なんだがな……」
「ふむふむ……」
●というわけで
「お疲れさん。俺だぜ!」
それから数日ののち、キータはイレギュラーズの前に情報屋として姿を現した。どことなく疲れ切っているような表情だ。
「あれ? 知ってたっけ。情報屋を始めたんだけどな。いや、大丈夫! 大丈夫!」
イレギュラーズは不安そうな表情を浮かべたのだろうか。キータは慌てて否定する。
「今回の話は、簡単な依頼だぜ! 幻想の、そこのはずれにある屋敷を知ってるか? ちょっと、ブケヤシキ? 武家……武家屋敷、みたいなやつなんだけど。
幽霊が出るせいで買い手がつかないって言う曰く付きの屋敷の話なんだがな……もともとの持ち主が3人ほど不慮の死を起こしてるらしくて。依頼人は、それを知らずにつかまされたらしい。
噂を否定するために、一晩過ごしてほしいってことだぜ。イレギュラーズのお墨付きが欲しいんだとさ」
「だが安全なのは間違いないぜ。だって俺、一晩寝てみたけど生きてるしな。まあ、あれから3日くらい……寝てねえけど……」
キータは欠伸をする。クマが濃い。キータの後ろに、青い人魂が見えたような気がした。
- 安全な幽霊屋敷(情報精度E)完了
- GM名布川
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年11月19日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●幽霊屋敷
「ふむ……」
スティーブン・スロウ(p3p002157)は話をひととおり聞き終える。
「幽霊屋敷で一晩過ごせ。成程。此の場合は不可視か神出鬼没か無機物。物体に宿った呪いの可能性が高いな。我等『物語』が携える不幸の菓子と同等だ」
「えっと」
「否。此れを越える代物の危険性も在るな。素晴らしい。此度の愉悦も己が身に憑けて魅せよう。Nyahahahahahahaha!!!」
『Storyteller』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)は哄笑をあげる。
オラボナの所持品からほのかに香る甘い匂い。怪しきホイップクリーム。おぞましき肉片。気圧されたキータは思わず頷いた。
自称『芸術家』のスティーブン。混沌を飲み込み塗りつぶすような混沌じみたオラボナ。
今回の事件の解決にはうってつけといえるような人選だ。……いや、キータの調べでは、なにごとも起こらないはずではあるのだが……。
「奇妙奇天烈摩訶不思議、百鬼夜行に奇々怪々。今回の相手も、その手の類だと思しきものであるらしい」
『第二十四代目天狗棟梁』鞍馬天狗(p3p006226) は悠然と事態を見つめている。
「まぁ、キータも呪われている模様だが、回復すら出来ないとなると、コレは、大丈夫であろうか、気がかりである」
「んー……なんていうかこの目に見えた地雷っていうか。あの子の様子から見て絶対何かあるし、情報は信用できないし」
堕落した装備は、時には想像もつかない効果をもたらすものだ。『「冒険者」』アミ―リア(p3p001474)は可愛らしく小首を傾げる。
「まぁ、今日明日死ぬわけではなさそうなので、1日アレば事足りそうである」
「だねー」
「まあ、俺は引き受けてくれるなら何でもいいんだけどな! 引き受けてくれるのか?」
「……」
『神話殺しの御伽噺』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は黙っていたが、髪が器用に承諾の意を示して上下に揺れた。
「幽霊屋敷デスかぁ、別に怖いとかの感情は全く起きませんが原因がわからないのはスッキリしないデスねぇ……」
『不運な幸運』村昌 美弥妃(p3p005148)は、こういった事態でもけろりと笑って見せる。美弥妃はさまざまな不運に直面してきたものの、ひとつとして乗り越えられないものはなかった。
「みんなでお泊まりも楽しそうデスけれど早く解決したいデスぅ」
というわけで、イレギュラーズたちは呪われたと思しき屋敷に一晩寝泊まりすることとなったのだった。
●幽霊屋敷にご用心
「俺みたいな鎌が本体の同族……魔剣、生きた武器の匂いがする……」
『隠名の妖精鎌』サイズ(p3p000319)は一見して鎌を持った小柄な妖精に見えるが、サイズ【カルマブラッド】こそが本体だ。
自らが武具であるからこそ、今回の事態にある程度の見当がつく。
「……あの情報屋の死にそうな顔……あのやつれかたに見覚えがあると思ったが、まるでカースド品に血や生命を吸われた感じだな……」
そうでなくとも、ただ一晩過ごして済むような依頼ではないことはわかる。
「調べたほうがよさそうだな」
「さて、ここが噂の屋敷ってことだが。先陣はまかされよ」
鞍馬天狗が手を3回高らかに打ち合わせると、どこからともなく烏天狗がやってくる。
「とりあえず、烏天狗、この屋敷を今のうちに調査してくるがよい」
『アイアイ』
「特には、怪しい品々に気を配るべし」
カラスは承諾の意を返し、一足先に屋敷へと入っていった。
「幽霊屋敷、か……」
『暗黒竜王』ルツ・フェルド・ツェルヴァン(p3p006358) は屋敷を見上げる。
「キータや屋敷の主人、その他何人も眠れていないと聞いている……。……彼等の安眠を取り戻す為にも何とかしないと、な」
強面で怖がられがちではあるが、ルツの気質は穏やかなものだ。門をくぐると、先に来ていた仲間たちがルツを迎えた。
「さて。一晩泊まるのであれば、着替えなどはしっかり用意しておかねば……」
「持って……きたか?」
目深に帽子をかぶったマリアがルツに尋ねた。
「ああ」
「そうか……」
互いに黙りがちではあるが、どことなく仲間と過ごすのが楽しそうなのが察せられる。
「そっちは……大丈夫か?」
マリアはオラボナを振り向いた。
「勿論、勿論」
オラボナはゆるりと大げさにお辞儀をして返す。
(何、一晩過ごせるように前日は昼夜逆転の生活に変えておいた)
眠りは赦されない。眠らない気であるらしい。夜更かしの構えだ。
「美弥妃ちゃんは?」
「先に聞き込みって言ってたよ」
アミーリアの問いに、サイズが答える。
「そっか。一通り見て回ったら、加勢しに行こうかな」
●鎧と甲冑
暫く門で待っていると、鞍馬天狗の烏天狗が戻ってくる。
『ヨロイト、カタナガアヤシイゼ』
「成程」
一行は堂々と屋敷に入っていく。キータから概要は聞いていたので、迷うことはない。
烏天狗が一行を導く。
なんといっても人の住んでいない屋敷に禍々しい甲冑と刀が置いてあるというのだから、原因は明らかだろう。
座敷には、組となった刀と鎧が鎮座していた。
「……これが話に聞いた……甲冑とやら、か……」
「よくある刀と鎧か……」
ルツが呟き、サイズが慎重に寄っていった。
腕前の良い鍛冶屋が鍛えたものだろう。ずいぶんな年代物だ。名品であることは間違いない。ただし、並のものではない。禍々しい気配がある。
「生きている」
サイズが断言する。
「ふむ、これが、鎧と刀か。故郷に持ち帰るには、いいものだが、呪われているのは、除外致すしかあるまいな」
鞍馬天狗はそっと甲冑を触る。触る程度では何も起こらない。
「なるほど、美術品か。気になりはするが」
スティーブンは甲冑を眺める。
「結構年代物だな」
「……マリアが甲冑に聞きこもう」
エクスマリアが申し出る。
「なら俺は植物に聞いてみるか」
スティーブンが立ち上がった。
「私はまず資料から当たってみようかな。なにかあるかもしれないし」
アミーリアは、倉庫のほうに回る。
というわけで、まずは手分けをして情報収集となった。
「ふむ、どうするか」
マリアが近づき、対話を試みる。無機疎通。手を触れると、嫌な感触が伝わってくる。
刀ががたがたと動いた。
(……っ)
悪意。敵意。いや、それは武具というものの本能のようなものかもしれない。とにかく人を斬りたい……。
殺意。
「っ!」
赤銅色の肌に鋭い音が響いた。マリアをサイズが咄嗟に引き寄せる。刀がひとりでに、床に落ちている。
(う、うごいた……?)
表情にこそ出さないが、ルツは内心驚いていた。
刀から、それ以上の反応はなかった。
●屋敷の周辺
(静かなものだな)
スティーブンはほうぼうに草の生えた庭に赴く。植物は何かにおびえているようだ。だが、今は安全であることを知っている。どことなく穏やかだ。
「舞台は夜か」
屋敷の倉庫、奥に残された巻物を、アミーリアはするすると読み解いていく。ほとんどは他愛ないものではあったが、一部刀と鎧についての逸話も見つかる。
「取ろう……」
「あ、ありがとう」
ルツはルツで、大きなものを動かし、あちこち屋敷を調べていた。新しく取り換えたらしく、奇妙に色あせた畳が倉庫にしまわれていた。
「『甲冑と刀は戦を求める』『しかし、平和になった後も、血を求め続ける』……まとめると、大体そんなところかな。よくある類の話だね」
巻物を転がし、年相応に背伸びをしたアミーリアは、ふと空を見上げる。
「だいたい調べ終わったし、そろそろ加勢に行くかな」
「俺もちょっくら行ってくるかな」
庭からやってきたスティーブンが、様子を見に来たようだ。
「そうなんデスねぇ」
一方そのころ、美弥妃は屋敷について周辺住民に聞きこんでいた。すっかり迷子になってしまったが、気が付けばなぜか元・使用人の家にたどり着いていた。
「でも、言うなって言われてて……」
「もう10年前のことなんデショう?」
「うう、でも……」
渋る使用人に距離を詰め、そっと肩に手を添える。微笑む美弥妃に、使用人は思わず口が滑る。
「ふむふむ……怪死事件ですかぁ……」
「頼む、秘密にしておいてくれ。ただでさえ買い手がつかないってのに……」
「もちろんデスよぉ」
(まあ、仲間には話しマスけど)
美弥妃はにやりと笑う。
(とりあえず……聞けそうな者には話を聞きたい……)
ルツは、人との聞き込みの際は怖がられないよう配慮している。最初は驚いていた人間も、しばらくするとその気遣いに気が付くのだろう。
足りないところは、アミーリアがフォローする。
問題はないという使用人だが、どことなく正気ではないような気がした。
屋敷の中で何を視たのか。聞こえたか。
(成程。恐れている……。恐れている!)
オラボナは内心手を叩いた。無意識が、何かを恐れている。
「おっと、すまない」
所持していたリングを落としたスティーブンは、へらへらと笑って屋敷の主人に手を差し出した。
「?」
それは、スティーブンのギフト。ボディトークだ。
(言わされている、わけでもない。心底そう思ってるのか……)
おそらくは、考えようとするとぼんやりするのだろう。絶え間なく浮かぶ恐怖は、すぐに何か振り払われるように霧散する。
(洗脳かそれとも乗っ取りか……どちらにせよ、軽いもんか)
●合流
「こりゃ、怪談じみてきたじゃねぇか」
遅れてやってきた仲間が屋敷に合流し、情報を共有する。
「んー……この刀、エーテル製って訳でもなさそうだしなぁ」
アミーリアも改めて武具を眺める。
「動いたような跡、言い伝え、使用人達の状態、10年前の事件……まぁそういう事なんだろうねぇ」
「怪しい。妖しい。何処から如何視ても此れだ。刀で魂を抉るのだろうか」
オラボナが、けらけらと嗤いながら甲冑を観察する。読み取った恐怖。よく似通った形。
「わっ」
じっくりと見ようとした美弥妃の傍に、なぜか抜き身の刀が降ってくる。すれすれをかすっており、けがはないわけだが。
「大丈夫か?」
普段から運が無いようなもの。本人は「またかぁ」程度であった。
「危ないから……鎧と離しておくか?」
「それはまずいかもね」
アミーリアは、鎧と刀を動かそうとした使用人の末路を知っている。
「ま、わざわざ夜まで待つこともないと思うけど……どうする?」
「……まあ、破壊だな、同じ武器のよしみとして、交渉出来るなら交渉したいが……多分話せないだろうし。きっと相手の生命をしょっちゅう吸わないと生きていけないはた迷惑で哀れな下級魔剣だろう」
「そうだな……話し合いは不可能かもしれない」
マリアがサイズに同意する。
「まあ、各言う俺もこの世界に来るまでは同じだったが……結局の所弱肉強食だ」
「早々に破壊すべき、だな」
マリアの提案に、オラボナが頷く。
●待機
イレギュラーズは見張りを立てて、かわるがわる過ごす。食事は、屋敷の者に用意してもらった。
「食事も、内容に文句を付ける気はないが……」
マリアは少し物足りなさそうだ。
「風呂、あいたぞ……」
「了解」
マリアは湯を浴びてなお、目深に帽子をかぶっている。その理由を尋ねる者もいない。
「酒は流石にまずいか……眠気覚ましにコーヒーでも欲しいねぇ」
深夜でなければ危険はないようではあるし、また、それだけで死にはしない。意外と、事態は和やかに進んでいた。
スティーヴンが披露する作品の話に、鞍馬天狗が興味深そうに耳を傾けている。
武具談義。奇々怪々の古今東西の怪談話……。イレギュラーズの談笑は一斉に途切れた。
「来る……」
真っ先にサイズが勘づいた。
刃がカタカタと音を立てる。それが合図だった。イレギュラーズたちは、一斉に戦闘態勢となる。
「行くぞ!」
サイズは仲間に初動を任せ、集中力を高めて飛ぶ刀に狙いをつける。
サイズのほうに向かう刀をオラボナが遮った。
「さあ。物語を始めよう。貴様の在り方を記して魅せよ」
オラボナのTenebraeが、異形をのぞき込む。……目などないのに、目が合った。互いに嗤った。刀は鍔迫り合いをしていったん引き、鎧の傍へと収まった。
「来るぞ!」
「なに……的が、大きく……なったまでだ」
マリアが死神の術書を捲る。甲冑はガクガクと奇妙な動きをした。
アミーリアの式符・黒鴉が鎧へと一直線に飛んでいく。大ぶりな刀をかいくぐり、不吉な予兆を鎧に与える。これから崩れ去るのはイレギュラーズではない。不吉をまとった刀は、刃を思い切り振りかぶった。
「おっと、こっちの得意分野だ」
スティーブンのマジックロープが、鎧の動きを阻害した。すると刀も勢いを失う。隙を作った隙に、すばやくルツが迫っていた。
「……驚かせてもらった分……少し派手にいかせてもらおうか」
ショットガンブロウが鎧を思い切り狙い、後退させる。
「短期決戦だ!」
攻撃に集中するサイズは、切り裂くような魔力を魔力撃に込める。狙うは刃。刀の方だ。
「ふむ、こんなものか」
距離を測っていた鞍馬天狗が、弓を引き絞る。放たれたのはただの矢ではない。体内の気を束ねた光柱だ。まっすぐな一射が刀を射抜く。
「アヤカシと分かっている以上、手加減無用」
さらに鞍馬天狗は素早い動きでもう一筋を放った。
「呪われたものには、こっちデスかね?」
美弥妃の聖光が、刀を射抜く。刀はガタガタと震えている。怒っているようだった。
イレギュラーズたちは果敢に攻めていた。
刀の斬撃が苛烈さを増し、無軌道になる。
斬撃が飛ぶ。
前衛のルツが、まともに攻撃を食らう。
「っ……」
すかさず、美弥妃の緑の抱擁がルツを癒す。
「大丈夫デスか?」
「ああ。そうやって堂々と暴れてくれた方がわかり易い……」
「押さえきれねぇ」
スティーブンのマジックロープがぷつりと斬れる。
「やっべぇ、エクスマリア! 助けて!!」
「隠れろ……」
オラボナが射線に割り込んだ。すかさず、マリアがスティーブンにハイヒールを飛ばす。
アミーリアは斬撃を睨んだ。
あらかじめ把握している刃渡り。射程はともかく、攻撃の範囲は伸びはしない。斬撃の連続、その一撃を、アミーリアはいとも華麗に避けた。
鎧の動きが鈍ってきた。ルツもオラボナも、立っている。だが、オラボナが姿勢を崩す。攻めるか、守るか……。
「回復しマス!」
美弥妃の治癒符が、作戦を上手く補った。
「……これで決める」
「今だ!」
鞍馬天狗のオーラキャノンが鎧を貫く。対象を見失いそうになる瞬間、オラボナのリリカルスターがきらきらと虹色の軌跡を残した。
「そこだ……」
マリアのアースハンマーが、床下を突き破り、鎧の死角から不意を衝く。
(屋敷は傷付けてしまうが……これも必要経費、というやつだ)
目論見通り、鎧はルツの前でぐらりと姿勢を崩す。膝をついた。
「いくぞ……これで終わりだ!」
ルツはひらりと舞い上がり、その勢いのままダイナマイトキックを食らわせた。
●怪異の欠片
脅威は去ったようだった。
「確認しマスぅ……」
美弥妃はボロボロに折れた刀を拾い上げ、眺めた。
「はあ、これは駄目デスねぇ……」
美弥妃は多少残念そうにそう述べる。
「一介の幽霊程度、死神や魔神の力記されし書の力の前に、恐れるまでもなし」
マリアは静かに書を閉じた。
「このままだったら、じゃんけんでもしようかと思ってたんだけどね」
「命を吸う能力のある刀は使い方を間違えなければ強力な武器になりそうデシタからねぇ……」
アミーリアも、もしもこの刀が無傷であれば、家主の許可を得て持って帰る所存だった。だが、もうすでに怪異が去ったあとだ。興味を失ったかのように欠片を一瞥する。
「否、否、破片であるからこそ、だ」
オラボナが鎧の欠片を拾い上げる。
「素敵な物語だ。此れが我等『物語』の頁に刻まれた、新たなる呪物と成ろう。特殊装備の名と見做すべきだ。肉移植の異食と嗤って晒そう。Nyahaha」
「ま、こういう曰く付きってのは案外高く売れるんだ」
スティーブンも意気揚々と欠片を集める。
「たくましい……な」
マリアの髪は面白そうにそよいだ。
「驚きは……今日一日で充分体験したような気がする」
「驚いてたの?」
「床は仕方がないとして……武具はどうする?」
ルツに鞍馬天狗が答えた。
「まぁ、壊してしまった以上は、代わりを持っていくしかなさそうだ。幸い、通常の武器庫から調達できそうなのではあるが。若干、高価ではあるが」
「蔵出しするのか」
後ほど、鞍馬天狗から差し出された品々に、依頼主は慌てて平身低頭断った。あまりに高価なものだというのが見てわかったからだ。
キータをはじめとして、被害を受けていた使用人たちはすっきりした顔をしている。
「握手握手」
「?」
(もう大丈夫そうだな)
スティーブンはひとり頷く。
「これ、持って帰ってもいいかな?」
サイズが尋ねる。
「欠片ですか? ええ、勿論です」
家主は呪われた者に関わりたくないようで、むしろほっとしたようだ。
(せめてもの情けだ)
サイズは、刀の破片に触れた。
これを持ち帰り、溶かして鎌として食らってやるつもりだった。人を斬ることのみに執着した刀は、サイズを廻るのだろう。
「……で、キータはその後、どうだ?」
「聞いてくれ、この前は迷惑かけちまったけど、新しい”美味い話”が……」
相変わらずの様子に、鞍馬天狗は苦笑する。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
おつかれさまです。
屋敷の怪異、イレギュラーズの手によって、見事に解決となりました。
今夜から、情報屋も、屋敷の主人もよく眠れることでしょう……。
また機会がありましたら、一緒に冒険出来たらうれしいですね!
GMコメント
●情報精度
このシナリオの情報精度はEです。
無いよりはマシな情報です。グッドラック。
●目標
・幽霊屋敷で一晩過ごす。
簡単な依頼と銘打たれていますが、万が一、戦闘などが発生した場合は、キータが責任をとってしかるべき報酬をもってくるでしょう(ちゃんとNormal相当の報酬を……)。
●場所
幻想の幽霊屋敷(武家屋敷風)。
1階建ての、畳張の屋敷。広い広間の奥に、甲冑と刀が収められている。とても重い。
今は人は住んでいないが、押し入れや布団、厠などの最低限の設備はある。
畳には動いたような跡がありますが、甲冑が動くはずがありませんね。安全です。
場所は広いので、戦闘の支障にはならないでしょう。ただし室内であるということにご留意ください。
部屋の中で過ごすのが依頼ですが、外にいる人物は影響をうけません。
●登場
甲冑……年代物の甲冑。これを着た人物は戦場で戦果をあげるが、非業の死を遂げるという言い伝えがある。非常に重く、動かせない。それでも動かそうとすると……。
刀……年代物の日本刀。刃は青白く光っている。他人の命を、自分の命に代えるという言い伝えがある。なぜかこちらも非常に重く、動かせない。それでも動かそうとすると……。
「セットで大変縁起が良い」と言われてセットでおいてある。引き離されるのを異様に嫌がるという言い伝えがある。
依頼人の依頼は「屋敷の安全確認」のため、甲冑と刀を破壊しても理由があれば怒られません。
●状況
キータ(NPC)……人魂憑き
幽霊屋敷で過ごしたことにより、キータは現在特殊な状態にかかっています。
【呪い】ステータス状態異常解除無効【不運】ファンブル値2倍【不吉】ファンブル+10
また、最大HPの半分を失っており、宿屋で寝ても回復していません(自然回復していないという意味です)。
これについて尋ねても、キータはよくわからないと言います。
●(隠された情報:聞き込みなどによって判明する)
・屋敷の主人と何人かの使用人も、キータと同じような状態異常にかかっています。無事な人間もいます(屋敷で寝泊まりしていない使用人は無事です)。
この状態異常にかかったものは注意力散漫で、眠れなくなるようです。
・この部屋で不用意に寝たものは、途方もない疲労を感じ、まるでHPが半分ほどになったかのような印象を受ける傾向があります。
おそらくは幽霊屋敷で過ごすという心理的負担がそうさせるのでしょう。
一気に半分になったというよりは、じりじりと半分になったかのようです。不思議ですね。
・丑三つ時(午前二時~午前三時ごろ)に物音を聞いたという証言があります。疲労を感じるのはその時間帯でしょう。
・10年くらい前に、甲冑と刀の破壊を試みたものもいましたが、謎の刀傷による不審死を遂げています。亡くなったのは、戦闘の心得のない者でした。
強盗事件として処理されています。犯人は捕まっていません。
●PL情報(※確実なメタ情報欄)
・開始地点、甲冑と刀が原因だとは判明していません。ただし、あからさまなので、調査すればすぐに察せられるでしょう。
・原因を取り除いた場合は、夜には何も発生しません。
・原因を取り除いた場合は、NPC、関係者含め全員の状態異常もなくなり、すべて元気になります。
・甲冑と刀は夜中に活性化しますが、情報を集め、その前に破壊を試みても構いません。破壊しようとすると、甲冑は活性化します。先に仕掛けるか、待ち受けるかといった違いです。
・破壊を試みなければ、甲冑は刀で生命力を吸います。
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