PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ジャック・オウ・ランタン

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●霜月夜に
 それが何の虫が奏でる音か、気になる者はいるだろう。
 どんな楽器で、どんな弦で、或いはその手脚で、こんな音色を生み出せるのかと。
 だが逆に。演奏における音色こそが全てだという者は何が奏でていようと無関心なものだ。
 興味が無いのではない。
 目の前にある物に魅了され過ぎているが故に、それ以外が見えなくなっているのだ。

 季節柄、どの町も国も賑やかになって来た頃。
 草葉に霜が張る様な冷えた月の夜。
 それは首都とは離れた海辺の町。

 大きな浜辺を中心に広がる『パルウェーロ』の町は深夜、子供達がうっかり海へ行かぬように柵で浜辺をぐるっと覆っている。
 その範囲は海に届く程。柵が途切れていては事だからだ。
 しかしこの夜、それまで不遜な輩でも手にかける事の無かった柵が招かれざる客によって破壊された。
 モンスター避けとしても充分な効果のある鋼の柵が、だった。
 それをやった犯人は静かながらも祭りの気配を漂わせている町を粗雑な ”筏” の上から眺めていた。酷く、無機質な瞳の残光を揺らして。

●漂着する悪霊
 大陸の、それも幻想から流れて来た収穫祭なる催しに乗って。
 パルウェーロの町人は浜辺の近くに建てた宴会場に集まり、日頃獲れる海の幸や家族への感謝を込めて歌を奏で、そして踊っていた。
「海を~駆ける~ゴブリンに打つカウンタ~」
 旅の詩人らしき男も気前よく神託受けし者をなぞった歌を歌っていた。
 その歌声が良いか悪いかはともかく、場の盛り上げに一役買っているのは間違いない。
 だが、宴会場のテントに大きく突風が吹いた後。その歌は途切れてしまった。

「っ……きゃあああああ!!」
 沸き上がる悲鳴。

 それまで思い思いに過ごしていた者達が異変に気付き、そちらへ振り返った。
「……! なんだ、アイツは……」
「おい! 誰か衛兵をッ……!」
「ここに来てるさ!」
 宴の場に集まっていた衛兵達が一斉に剣を抜き、或いは杖を構えた。
 彼等が眼前に捉えているのは、血溜まりの中に沈んだ詩人の男と……その傍らに立つ不気味な人物だった。
 ブリキのような質感で出来たカボチャの頭。黒い襤褸の外套。錆びた具足を備えた細身の手足。
 だがその手は凡そ作物を刈るにしては有り得ぬ大きさの『鎌』を携えていた。傍らで悲鳴を挙げる女をじっと、見つめて震えていた。
「武器を棄てろとは言わん、捻り潰してくれるッ!」
 躍り出る体格の良い兵士が背丈ほどもある両手剣を不気味な来訪者へ叩き付けた。

 直後、彼は自分の体を地面から見上げる事になろうとは思わなかっただろう。


 『完璧なオペレーター』ミリタリア・シュトラーセ(p3n000037)は卓へ集まった者達にまず謝った。
「この忙しくも楽しむべき時に仕事を任せたいと、皆様をお呼びしてしまったのは申し訳ないと思います」
 一同は顔を見合わせ、静かに首を振った。
 ミリタリアは僅かに頷くと、それとなく彼等へ今回の依頼について説明を始めた。
「向かう場所は海洋首都から南へ降りた位置に存在する『パルウェーロの町』です。
 皆様へお任せしたいのはこの町に昨夜現れた悪霊の討伐となります、詳細はそちらの資料で……」

 パルウェーロに突如現れた悪霊は、所謂旅人達が時折話していた『ジャック・オー・ランタン』を彷彿とさせるような恰好をしたゴーストらしい。
 一夜にして8人の衛兵が殺害されてしまったものの、どうにか町の人間も手を貸した事で町の中央にある浜辺へと押し込めたらしい。
 海から上がって来たモンスター対策もあって、鋼で出来た柵は一発の攻撃では壊れない作りになっており。仮に壊せるとしても現在は緊急用の結界でどうにか隔離できているとの事だった。
 だが、問題はここからだ。
 この悪霊はちょっとやそっとの攻撃では致命打とはならず、更には分身して複数体で襲って来るのだと言う。

「基本的には近接タイプのモンスターですが、海洋の騎士を派遣しようにも生半な行動を起こして被害を拡大させるわけには行きません。
 そこで皆様にはこれを現地へ急行し、退治して頂きます」
 どうかご武運を、と告げる彼女は一度区切り。そこへ続けて小声でこう言った。
「……無事に終わると何か素敵なデザートがご馳走されるそうですよ。もし食べれたら後で感想を聴かせて下さいね?」
 確か特産漁業のイカスミアイスとかだったような……この時期にだけ食べられる黄金のジェラートらしい、と彼女は何だか弛んだ顔で語るのだった。

GMコメント

 ハロウィンは楽しんでますかー!はっはーい!

 以下情報。

●依頼成功条件
 悪霊の撃破

●ロケーション
 パルウェーロの町の中央にある浜辺。
 リプレイ開始時は皆様の準備が出来次第柵の向こうへ結界を解いてから突入し、5ターン経過してから再び柵に結界を張ります。
 その為、どうにかして悪霊の気を引くか常に全力の混戦状態を維持しなければ柵周辺の兵士や、町へ逃げられて被害が大きくなってしまうかもしれません。

●敵エネミー
 悪霊:常時『物近扇』攻撃
    分身【本体が消滅するまで発動時の自身と同じステータスの分身体を10体召喚する】
 ※このエネミーは霊体の敵となります。

●デザート
 この町には何やら美味いデザートがあるらしい。余裕があるなら食べさせて貰えるかもしれない。

●情報精度A
 絶対に不測の事態は起きません。

 以上。
 皆様のご参加をお待ちしております。

  • ジャック・オウ・ランタン完了
  • GM名ちくわブレード(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年11月18日 21時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
ティバン・イグニス(p3p000458)
色彩を取り戻す者
桐野 浩美(p3p001062)
鬼ごろし殺し
ワーブ・シートン(p3p001966)
とんでも田舎系灰色熊
ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)
救いの翼
エリシア(p3p006057)
鳳凰
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
リナリナ(p3p006258)

リプレイ

●ストライクオアキルゼムオール!!
「おーっ、金属のカボチャ!」
 ぴょんぴょんと跳ねて指差す『輝く太陽の息吹』リナリナ(p3p006258)は辺りを落ち着きなくグルグル回っていた。
 彼女の周囲ではパルウェーロの町の衛兵達が術式の解除に集中している。
 結界。鋼の柵を覆う形で浜辺を綺麗に包み込んでいる、淡い光の膜は魔性の者を遠ざける事が出来るらしい。
 曰く、異世界ではこうした水の気がある海岸沿いの町では備えとして魔除けの手段や装備が用意されているものだとか。そういう所から生まれたらしかった。
「わざわざカボチャ頭で現れるとは、また随分と時節をわきまえた悪霊もいるモンで。
 とはいえ、あのナリじゃぁ怖がられちまって菓子を貰うどころじゃねぇだろうが――……あぁいや、まさか、な」
 『水底の冷笑』十夜 縁(p3p000099)は浜辺の中央に座り込みながらぼうっと此方を見ているブリキのカボチャ頭を見て首を振った。
 何を間違ったのかは知れないが、まさかあれが『本物』ではないだろうと思いながら。
「随分タイムリーな亡霊でござるな。何を思って現れたか知らぬでござるがこれもイカスミアイスの為、さっさと亡霊を倒してゆっくりとご褒美を頂くといたそう」
「随分と季節感の有る風貌のゴーストだけど。気取った格好でお祭りに水を差したのは許しがたいね」
 衛兵から「もうすぐ解除できます」と一言受けて頷きながら。
 ヒラヒラと、潮風に靡く忍装束を片手で整え装備を検める『黒耀の鴉』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)が『応報の翼』ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)と共に並ぶ。
「……気のせいか、今イカスミアイスの為と言ってなかったか? ……気のせいか、そうか」
 首を傾げる『鳳凰』エリシア(p3p006057)は少し冷たい潮風を浴びて目を細める。朝陽に照らされる彼女の朱く、しかしどこか光の加減で七色に輝く美髪が暖かな炎の様に見えるだろう。
「うまーく依頼を成功させて、いい気分でスイーツを味わいたいっすね。甘いものは好きっすよ。まずは迷惑な悪霊をハントっす!」
「折角の催し物だったのに気の毒なことだが、できる限り事後処理も手伝おうか。俺もスイーツとやらが……まぁ、気になるしな」
 犬歯をコツコツと指で鳴らして『なんでも狩ります』桐野 浩美(p3p001062)が言ったのに『色彩を取り戻す者』ティバン・イグニス(p3p000458)も同意する。
 特に目線を逸らしたり表情に影が差す……というわけでは無いのだが。どことなくティバンからそわそわとした雰囲気が出ていた。
「よくわからないんですけどぉ、悪霊が周りに迷惑かけているって感じですよねぇ」
 ドスン、と座り込んで考える仕草をする『とんでも田舎系灰色熊』ワーブ・シートン(p3p001966)が「うーん」と首を傾げる。
 そんな彼の周りをリナリナがキャッキャと駆け回るのだが、ワーブはあまり気にせずふと思う。
「ジャック・オー・ランタンっていうカボチャ大王ぉ、あれの話を思い出しちゃいますよねぇ」
「あぁ……聞いた事はあるな」
「――曰く、口が回るロクデナシが天国にも地獄にも行けず彷徨う様になった。ってな」
 記憶を探ろうとしたティバンとワーブに近付き縁が口元に人差し指を当てて答えた。
「ここは混沌だからな。天国や地獄がある他所の世界とは違う……まぁ、やってみればわかるだろうよ」
「戦いの舞! はぁ~……おーっ、リナリナ、準備OKだゾッ!!」
 テンテケテンテケ。何とも言えぬ自由過ぎるゆるい踊り、もとい『舞い』で己を鼓舞する。強化外骨格を装着しているせいで余計にシュールさが際立っていた。
 イレギュラーズが集まって来た時から動かずにいるブリキのカボチャ頭。
 傍らに置かれた巨大な大鎌に付着した赤い染みは点々と周囲に散らばっており、既に話に聞いているパルウェーロの町の人間を斬った跡が残されていた。
 少なくとも悪霊の類である事は間違いない。単純明快、あれは倒すに限るのは間違いなかった。
「少々お待ちを……む? 術式が起動出来た……! 結界、解除します!」
 衛兵の声音に緊張が混じる。
 次の瞬間、結界が解除され浜辺を覆う淡い光の膜がシャボン玉が弾けたように音を立てて消失した。
 イレギュラーズの面々が瞬時に柵の向こうへ躍り出る。視界の先でガバリと立ち上がった怪異を討つ為に。

 瞬間、恐るべき速度で飛び出し距離を詰めて来たカボチャ頭の悪霊が鎌を振り被る……!

●”トリック”
 砂粒が乾いた音と共に撒き上がった瞬間、悪霊は大鎌を手に取り漆黒の外套を翻し。文字通りの突撃。
 戦闘の始まり。だが必ずしも身軽な者の手番が早いとは限らない。
「やれやれ、面倒な亡霊もいたものだな……で、その亡霊如きが……神に敵うとでも思っていたのか?」
 何処からともなく取り出した、和装に似合わぬ魔杖がエリシアの手の中で回り。刹那に印を結ぶ事で術式を発動させた。
 放たれるは一条の雷撃。
 日中だというのに、それは瞬きの時間の中で閃光と轟音を引き連れてブリキのカボチャ頭へ突き立った。
【……!……】
 吐息。カボチャ頭の下から煙を噴き出して全身を強張らせる。
 直撃にしては効果が薄い。電流を浴びても本質的な威力は逸らしたか、或いは仕掛けでもあるのか。
 しかし『錆びた具足』は電撃を接地面から流しても未だ紫電を散らしている。更に踏み込もうとした悪霊はその身が思う様に動かず、その場に膝を着く事となる。
「よく効いてるじゃねぇか。さて……とにかくもう一度結界が張られるまでは、気を引き続けて柵に近づかせないようにしねぇとな」
 エリシアに次いで続々と他の仲間達が、柵の内側へと駆け悪霊の周囲へ散開する。
「よぉ、昼になってもまだ元気だそうで。時節を弁えるくらいなんだからその辺統一しとこうぜカボチャの」
 その際に縁がすれ違い様に白煙を吹いて浴びせるが、反応が鈍い。
「この程度じゃ振り向きもしないか……やれやれ、か弱いおっさんには荷が重いぜ」
 気合いを入れて名乗るのは気乗りがしないと後に語る。背に携えていた大盾を取り回して縁は様子を見る。
 というのも。それぞれが展開し終える直前、潮風とは違う柔らかな陣風が吹いたからだ。
「悪霊でもカボチャ大王でも関係ない。お祭りを台無しにしたからには報いは受けて貰うよ」
【……!……!……】
 突如カボチャ頭の悪霊から生える大量の羽根。
 否、それらはミニュイが神秘を纏わせて打ち放った自身の翼が一部である。漆黒の襤褸外套の上からそれらは深々と突き刺さり、悪霊を蝕んでいた。 
 直後……悪霊のブリキのカボチャ頭が激しく振動する。
 その様は苦しんでいるようにも、壊れた案山子が風に揺れているようにも見えた。ミニュイが微かに首を傾げる。
 異能(スキル)を使わせぬつもりで打ち込んだ羽根が悪霊の ”何か” を食い止めていた。
「分身……しない?」
 後方でイレギュラーズを見守りながら結界を再度張ろうと動いていた兵士が呟く。
 ミニュイはその声を聞き逃さなかった。
 当然、他の者達もだ。

【……~~!!……】
 悪霊は怒ったように、カボチャ頭の下から全身を包むほどの煙を吐き出す。

 機は此処である、と見定めた咲耶が声を挙げて悪霊の気を引く。
「遠からぬ物は音に聞け! 近くば寄って目にも見よ! 拙者は紅牙忍、紅牙・斬九郎! 先に成仏したい者からかかってくるが良い!」
 堂々とした振る舞いで懐から瞬く間に飛び出した忍刀を手に、彼女の口上が辺りに木霊した。
 帯電による麻痺に加えてミニュイの羽根に苛まれながらも悪霊は咲耶の方を煩わしそうに振り向いた。大鎌を振り回し細身の体躯が疾走する。
(今度は乗ったでござるな……!)
「おーっ、金属カボチャ倒す。半透明カボチャ全部消える。リナリナそう聞いた!」
【……!……】
 飛ぶマンモス肉。
 と、咲耶が身構えて悪霊の突撃を受けようとした瞬間。視界の端から飛び込んで来たリナリナが両手をぐるんぐるん回転させて割り込んだ。
 これには悪霊も気を散らしたか、振り払われた大鎌はリナリナの拳に弾かれ咲耶の鼻先で空を切る。
「るらー! ゲンコツ!」
「良きタイミングでござるリナリナ殿!」
 悪霊の未だ紫電散る足元を咲耶の得物が獲る。忍刀――絡繰暗器・妙法鴉羽――が鋼糸を伸ばした鎖鎌の様相に変形した物である。
 大鎌を振り抜いたばかりの体勢から分銅で足払い。そこへ偶然一致したリナリナの拳が歪な笑みを刻まれたカボチャ頭に直撃した。
 嫌に軽い手応えと共に空洞を叩いた音が鳴り響いた。
【……!……】
 悪霊は背中から砂浜を転がる。が……微かに凹んだ頭部を振るだけで即座に立ち上がって鎌を振り払う。
 リナリナと咲耶が迎え撃ち交互に打ち合う。
 強化外骨格による殴打の合間を縫って繰り出す手裏剣の波状攻撃を悪霊は軽快なステップからの薙ぎ払いだけで躱し、次いで頭部を狙う咲耶の分銅がそのまま鋭利な紅葉型に開いて襲いかかる。
 しかし打たれても斬られても、次第に手応えが消えて行く錯覚を覚える。
「……なるほど。『ちょっとやそっとの攻撃』では致命打にならないという話はここから来てるのか」
「奴さん、タフというよりかは暖簾に腕押しってやつに近いな」
「そのようだ」
 遠距離術式を浩美が撃つも、今度は外套を煽るだけでダメージが入らない。
 実体はある筈なのに軽いその感触は前衛のみならず、後衛からしても奇妙な手応えを感じさせていた。
(反応としては神秘技が効いていたが)
 好機と見たティバンや縁が距離を詰めていく。
「しぶとい……というより、本当にダメージが入ってるのか怪しい所でござるな!」
 柵との距離が開くにつれ波打ち際が近くなる、咲耶は距離を取ると同時に迫る悪霊へ真空刃を一閃し放った。
 襤褸外套の裾が千切れ飛ぶも、霞が広がる様に再生する。
 見かけだけでダメージの有無を判断する事は出来ないと見て、様子見に徹していた悪霊を背後からワーブが喰らい付いた。
「んん……なんか軽いですねぇ。しかしぃ、時にはぁ、自然もぉ、よくわかんないのが出てくることがあるんですけどねぇ」
「混沌も似た様なもんだがなぁ」
 妙に間延びした声が続くも、彼等の動きは苛烈の一言である。
 瞬時に細長い腕をワーブへ伸ばして彼の巨体を背負い投げ、片手で振り抜いた大鎌が一度にリナリナと縁達含め薙ぎ払ったのだ。
「ッ……!」
 半ばカウンター気味に繰り出した縁のバッシュがカボチャ頭を吹き飛ばすが、その場に鮮血が舞う。
「御三方……!」
 飛ぶマンモス肉。
「痛い! なにすんだるらー! ゲンコツ!」
【……!……】
 咄嗟に掴んだリナリナの手を振り抜いて投げる咲耶。勢い良く飛来した彼女の頭突きがカァン! と小気味良くカボチャを打ち鳴らした。
「今はまだ倒れる時ではないぞ、戦士達よ」
「射程内に集まり過ぎないようにしないと、あれの一振りは強烈だから」
 エリシアが深い傷を受けたワーブを癒す隣を駆け抜けるミニュイが悪霊の背後へ回って聖なる光を放った。
【……~~!?……】
 翼から放たれたその眩い光は振り向いてしまった悪霊を著しく怯ませ、再びその身を跪かせた。
 全身から漏れ出る黒い瘴気が陽射しの下、空気に溶けて行く様にも見えた。
 しかし、そこへ。
「皆様……! もう我々の事は心配いりません! 結界を張り直せました!!」
 跪いたブリキのカボチャ頭が激しく震え始めたのと、兵士がイレギュラーズへ投げかけたその報せはほぼ同時だった。

● ”トリ/ック”
 跳ねる水飛沫に混ざる黒い残滓。
 正確無比に急所(と思われる)胸部を射貫き斬り飛ばしたティバンがフードの下で訝し気に眉を潜めた。
「ミニュイの封印が解けたか」
「面妖な……しかもこの分身共本体を庇っているでござる」
「まぁ危なくなったら自分を守りますよねぇ」
 浜辺一帯を覆う様に結界が再度張られた直後。カボチャ頭の悪霊は全身に刺さっていた羽根を振り払い、その身を一瞬にして分裂させた。
 姿形は勿論、その動きや不気味な軽さは健在である。
 だが、既にそれは脅威ではない。
「はーい、カボチャの幽霊さん。何しに現れたっす? 戦いを求めてるっす? 俺っちらと勝負してみるっす?」
【……!……】
【……!……】
「ヒュー! 釣れた釣れたっす!」
 大声。だけではなく、音に依らぬ別階位からの『メッセージ』を含んだ言葉でその場に響かせたのだ。
 波打ち際に広がって中央の悪霊を囲む分身体ゴースト達の一群が浩美へ向かい鎌を構えた。
「こっちにも待たせてる客がいる事を忘れないで貰いたいでござる……ッ!」
 口笛と共に駆け抜ける咲耶。
「そんだけ気合入った格好なんだ、菓子が一個も貰えねぇってのは寂しいだろ。そら、“悪戯”はもう終いにして、成仏してくれや」
 懐から取り出した小さな包みを一掴みして放る縁。
 彼等三人はそれぞれ全体的に一定距離離れて分散し、悪霊達を引き付ける事に成功した。

【……ト……】
【……とリッ……】
【……トリっく、オぁ……】

 ──くぐもった声で言葉を紡いで迫る悪霊達。
 それを見た縁が思わず苦笑する。
「マジかよ」
 拾っている。細長い手足を伸ばして、屈み、鎌を傍らに置いて。
 砂浜に撒かれたお菓子を悪霊達は何事か呟きながら拾い上げてカボチャ頭の中へ無造作に突っ込んでいたのだ。
 それも、分身体の首魁である本体ですら釣られていた。
「これってぇ、多分ですけどぉ、チャンスなんじゃないですかねぇ?」
「そうだな。畳みかけるぞ戦士達」
「おーっ! リナリナがんばるゾ!」
 マンモス肉。
 思わぬ展開に唖然としている場合ではない。一気に駆けるワーブが分身体を喰い破った後に続いて全員が一斉に本体を狙い撃った。
 再び壮絶な轟雷を纏い、軽々と奮うエリシアを起点に一直線に悪霊達を薙ぎ払う。
 咲耶に殺到していた一群を巻き込み、縁の周囲に集まっていた半数を焼いたその雷撃はくっきりと道を作り出した。
 定められた様に見える焦げた砂浜を走るティバンが頭上を飛び抜けたミニュイへ目配せする。
【……ぁ、ァ……トリー……トリック、オあ、トりぃ……】
 お菓子を詰め込んだ悪霊へ向け、ミニュイの翼が勢い良く開かれて閃光が迸った。遂に庇う事の出来る分身体が消滅した所で朱い長槍が唸る。
「……次はもっと利口になってから出直すんだな」
 反射的な動きで穂先の一投を避けられるも、続く踏み込みから連続で華麗な槍捌きを次々に繰り出し。やがてティバンは遂に悪霊を引き裂いて貫き抜いた。
 浜辺に空白の間が降りる。

 6体の残っていた分身含め、悪霊は吹いた潮風に攫われる様に黒い霞となって霧散した。
 後に残ったのは、小さなキャンディーの包みが一つだけだった。

●実ッッッッ食ッッッ!!!
 幻想では『Phantom Night』も最中、という頃であるが。
 しかしここは海洋首都近辺、潮風が気持ち良い時は決まって陽射しも程良い時と決まっている。
 過ごしやすい晴天と風に運ばれて来る波の音に包まれる中で、イレギュラーズは一仕事終えた後の休息に舌鼓を打つ。
 つまり、デザートタイムである。
「で、でざぁと? おーっ、でざぁとイーグルだなっ」
 それは.50AE弾を撃つハンドキャノンの方である。
「違うのか? じゃあ食い物だなっ!! 美味いのか? 旨いのか?」
「うむむ、アイスのコクと旨さが運動後の体に染み渡る……拙者、感動でござる。ここに来て良かった……」
「美味いのかーー!!」
 件の悪霊による更なる被害は防がれた。
 事件が起きた事には変わらず、悲劇でもあったが。しかし終わった事には変わらない。町の人々は不運だった犠牲者へ花を添え、勇気ある衛兵だった身内へ祈りを捧げて日常へと戻ろうとしていた。
 ゆえに、ほんのわずかな報酬とは別の感謝の印としてイレギュラーズへパルウェーロの町特産品『ゴールド・シャイン』なるアイスクリームを振る舞ってくれていたのだ。
 余りの甘美な甘味に、さしもの咲耶も顔を外見相応に笑顔を浮かべて涙を流していた。
「……ほう、これは中々。人の身になってから味わった中では上等だな」
「んまーいっす! 舌の上で溶ける時の滑らかさがまたもう……」
「……あぁ、仕事の後の甘味は格別だ。なぁ?」
 浩美も咲耶に並んで海が見えるカフェの一室でテーブルに突っ伏して感動していた。
 スプーンをくいと揺らす縁に言われ、ティバンが「あぁ」と頷いた。
「…………飲み込んだ後から香る、この芳しさ。これは一体……」
「なんでしょうねぇ、おいしいですけどぉ」
 首を傾げるより先にスプーンが動くティバン。大きな水瓶に入ったアイスを顔を突っ込んで舐め取るワーブは特に気にせず上機嫌な様子を見せる。
 一方で、カフェの窓辺に足を掛けて風に当たりながら匙を進めるミニュイは、不意に何かを忘れているような気がした。
「んー……」
 一口、二口と黄金に輝くアイスを食べる。
「思い出した。そういえば、デザートの感想を求められていたっけ」
 他の仲間達が覚えているかはともかく、なんとなしに彼女はスプーンを咥えてから食べ掛けのアイスを見下ろした。

「……『とても美味しかった』」

 のちにどこかの情報屋が項垂れつつも羨ましがったのは、言うまでも無い事だった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

シナリオ、クリアー!
お疲れ様でしたイレギュラーズの皆様。
海辺でのんびりとアイスを食べる間、何か思う所がある方もいれば。その味に感心して口数が減る方も居たかもしれません。
ちなみにアイスの原材料はシャイン・スクィードなる発光する墨を体内で生成するイカだとか。ホタルイカのすごい奴、という認識です。

ハロウィンも過ぎれば、また様々な事件やイベントがあるかもしれません。
皆様のご活躍を楽しみにしております。

PAGETOPPAGEBOTTOM