シナリオ詳細
<刻印のシャウラ>老兵死すべし
オープニング
●襲撃
「二番、三番隊は南門の防衛に回れ! 四番、五番隊は避難民の護衛を! 残りは迎撃に出る!」
『了解!』
夜闇を割いて、騎士たちの怒号が響き渡る。騎士達の鎧が立てる、ガシャガシャと言う足音が、逃げ惑う人々の悲鳴と重なり、街の至る所から上がっていた。
幻想南部にある都市、デルウィは、突如の災厄に見舞われた。
夜の闇に乗じて進軍を開始した『新生・砂蠍』の一団は、デルウィの街を襲撃。街の北門よりなだれ込む盗賊たちの軍団は、駐屯していた騎士達の数を上回る大部隊である。
予想外の攻撃に、騎士達の初動は遅れた。騎士達が迎撃の足並みを整え終えたころには、盗賊たちは街の半分ほどの占拠を終えていたのだ。
「盗賊だと? ふざけやがって。下手したら軍隊レベルの動きだ」
悪態をつきつつ、騎士団長が部下を呼びつけた。デルウィ南部の集会所、今や臨時防衛本部となった建物の一室である。
「いいか、お前の仕事の責任は重大だ。今すぐ早馬をやって、ローレットへ走れ。状況を伝えて、援軍を連れてこい」
「ローレット? 騎士の増援ではなく?」
部下の言葉に、団長は舌打ちで返した。
「今は北部国境線で、鉄帝の脳筋共が怪しげな動きを見せている。連中への対応に追われて、こっちに増援を回す余裕もないだろうよ。となると、今一番、戦力になって動けるのはローレットのイレギュラーズだ」
「成程。了解です」
「イレギュラーズに頼む仕事は、都市防衛の援護だ。それが都市奪還の援護になる前に、とっとと行って帰ってこい。いいな。行け!」
「は、はいっ!」
部下は慌てて敬礼を返し、駆けだした。
窓の外には、戦時における人々の様々な声と戦闘音が鳴り響き、夜は、まだ明けない。
「おい、ジジイ。街から騎士が一匹、逃げやがったぞ」
ガラの悪い男の声を聴いて、老齢の男は天幕から顔をのぞかせた。
「おや、そぉ?」
飄々とした声である。髪は白く染まっていたが、顔つきも、その身体も、その年齢とは似つかわしくなく、がっしりとしたものであった。
「良いのかよ? 俺でもわかるぜ、ありゃあ増援を呼びに行ったんだ」
「お前でもわかる事を言わんでもいいよ。いーんだよ、ありゃあ。呼ぶんだよ、イレギュラーズを」
あっけらかんと言い放つ老人の言葉に、男は舌打ちした。
「ジジイの、戦術ってーの? それは確かにすげーよ。街の半分をおとしちまった。でもよ、意味が分かんねーぜ。イレギュラーズが来る前に、占領しちまった方がいいだろうが」
男の言う事ももっともである。ここで増援が来ることをみすみす逃すメリットなど、無い。
「いや、だって」
老人は、
「増援できたイレギュラーズを返り討ちにした方が、かっこよくねぇ?」
濁った眼を、しかしらんらんと輝かせて、猛獣のごとく笑った。
●反撃
早馬を潰し、使者はローレットへとたどり着いた。依頼を受けたイレギュラーズ達は、すぐさまデルウィへと出発。盗賊と騎士団、両軍のにらみ合いが続く市内へと到着し、臨時防衛本部へと迎え入れられる。
「敵の指揮を執っているのは、ジャナ・レヴァンという男だ」
イレギュラーズへの謝辞を述べた団長は、早速と現在の状況を説明し始めた。
「あー、あの人ですか」
仲介役、という名目でついてきた『小さな守銭奴』ファーリナ(p3n000013)が声をあげる。苦虫を嚙み潰したような表情である。
「厄介と言うかなんというか……めんどくさい爺さんですね。元々は騎士だったんですが、問題行動を乱発して追放。その後は傭兵やらなんやらで食いつないで……ほら、いるじゃないですか。常在戦場! みたいなタイプ。アレをさらに見境なくしたような人です。というか、結構なお年なんで、引退したものかと」
「私もそう聞いていたが……まぁ、何はともあれ、君達に依頼したいのは、この男の討伐だ」
この街に攻め込んできた新生・砂蠍達は、ジャナの指揮の下、実に統率の取れた行動をとっており、それがこの街を防衛する騎士たちにとっても厄介な点だ。
しかし、所詮は急ごしらえの軍隊である。頭をとっても仕舞えば、もとより烏合の衆。騎士達で散らすことも容易い。
「ジャナは10名ほどの護衛と共に、街の外に張った陣地に居る様だ。そこに向かって、コイツらをしとめてくれ」
「ちなみに、騎士達でジャナをしとめる、とはいかなかったんですか?」
ファーリナの言葉に、団長は頷いた。
「恥ずかしい話だが……我々の戦力は、君達に比べて、はるかに格下だと言えるだろう。となれば、このジャナのいる陣地に攻め入るにも、相応の人数が必要だ。それだけの人数を防衛線から除けば、瞬く間に町は占拠されてしまう。ジャナを潰しても、街を奪われてしまうのなら、それは本末転倒だ」
「なーるほどね。あっちもそれを分かっていて、この膠着状態を楽しんでいるわけですね」
ふむふむ、とファーリナは頷く。
「戦況は膠着状態だが、逆に言えば、相手も戦力を、下手に動かすことはできない、という事でもある。敵の大部分は、我々騎士達で、前線に足止めできる、と考えてもらっていい」
つまり、敵側も増援はないだろう、という事だ。
イレギュラーズ達が考えるのは、ジャナを含め総勢11名の敵を討ち取る事。
後は、烏合の衆と化した盗賊達の相手をするのは、騎士達でも十分だ。
「では、早速ですまないが、行動を開始してくれ」
団長の言葉に、イレギュラーズ達は頷く。
「私は街の方でお待ちしておりますよ。ではでは、ご武運を!」
ひらひらと手を振りつつ、ファーリナはイレギュラーズ達を送り出した。
- <刻印のシャウラ>老兵死すべし完了
- GM名洗井落雲
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年11月15日 21時00分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●ファーストアタック
都市デルウィの北部、街道より少しばかり離れた平原地帯に、いくつかの天幕がはられていた。そこそこの人数の集団により陣をはられたであろう事がうかがえる規模ではあるが、今、そこに見える人影は、10名ほどである。武器を手にし、辺りを警戒しているようだ。
では、残りの人間は何をしているのか――と言えば、現在南で、デルウィ攻撃の真っ最中である。
さて、そんな盗賊軍達の前線基地を、二つの眼が見つめていた。草をかき分け、するすると移動するその眼の持ち主は、一匹の蛇である。
チロチロと舌を出しながら、興味深げに陣営を見つめていた蛇が、満足したのか姿を消すと、それと入れ替わる様に、幾人かの人影が、草むらに身を隠すように、ゆっくりとやってきた。
「とりあえず、この辺が限界……かな」
静かに言ったのは、美咲・マクスウェル(p3p005192)である。蛇――美咲のファミリアーによる偵察の結果、身を隠しつつ移動できるギリギリのラインが、この草むらであった。最接近とまではいかないが、すぐに飛び出せる距離ではある。無策で移動していれば、もう少し手前で、敵に感づかれていた可能性は高い。
草むらからあたりを覗けば、剣を持った男の姿が見える。数は、2。
「さて、と……」
美咲は式神と、新しくファミリアーの蛇を召還した。式神にクラッカーを持たせ、指示を出す。呼び出された式神は、蛇を伴って歩き出した。美咲は蛇に視界を共有させ、式神の動きを確認する。
要は、囮である。イレギュラーズ達の正反対の位置に移動させ、そこでクラッカーを鳴らそうという作戦なのだが、いかんせん、式神に複雑な命令はこなせない。
最悪、道中で見つかった場合にも備え、イレギュラーズ達は臨戦態勢を整えていた。
幸いにも、式神は無事、陣地の裏手に回ったようである。式神がクラッカーの紐を引き、乾いた音が鳴るのを、美咲は蛇の感覚で確認していた。
盗賊たちが、殺気だった様子で、音の方へと視線をやった。それを確認したイレギュラーズ達は、一気に草むらから飛び出す。
先頭を走るのは、『守護天鬼』鬼桜 雪之丞(p3p002312)である。雪之丞はその手に霊気をこめ、強く、両の手を打ち合わせる。
凛、という、鈴の音にも似た高い音。鬼の、己の存在を告げる声。間近にいた、二人の盗賊の注意が、一気に雪之丞へと向いた隙を突き、『妖精騎士』セティア・レイス(p3p002263)は一気に接近する。
「手加減しない」
呟きと共に『聖骸剣ミュルグレスIII』の刃がきらめき、盗賊へと痛烈な一撃を加えた。
「て……」
盗賊が呻く。すれ違いざまに交差する、セティアと盗賊の視線。駆け抜けるセティアを、しかし盗賊の視線は、追う事はなかった。『ポイズンキラー』ラデリ・マグノリア(p3p001706)によって放たれた魔力が盗賊を激しく打ち据え、そのまま吹き飛ばした。もんどりうって倒れる盗賊は、天幕に激突し、そのまま動かなくなる。
「敵襲! 敵襲だ――」
相方の姿に顔を引きつらせつつ、残る盗賊が声をあげる。しかしその口は、すぐに閉じられることとなった。
美咲が放出した魔力が盗賊に撃ち込まれ、その衝撃に、盗賊が息を詰まらせたように呻いた。その盗賊の延髄に、『カモミールの猫』エメ(p3p006486)の振るう槍が叩き込まれた。振り下ろされた痛打は、盗賊の意識を奪い、地に横たわらせる。
「アンタ達みたいなのがいるから……!」
それを睨みつけるエメの眼が、ゆらり、と赤く光を放ち、帯を描いた。
騒ぎを聞きつけたのか、こちらへと向かってくる。刀剣持ちが1、弓が1――残りは中央を固めているのか、イレギュラーズ達とは正反対の方向の警戒へと向かったのだろう。
イレギュラーズ達の攻撃と、別方向で発せられた囮の音により、盗賊たちは挟撃されたのだと勘違いを起こしていた。結果、僅かな時間であったとはいえ、戦力を分散する事となったのだが、そのわずかな時間とは、イレギュラーズ達にとっては充分な時間であると言えた。
「一気に中央へ向かいましょう!」
『魔法少女インフィニティハートH』無限乃 愛(p3p004443)が声をあげながら、遠距離術式をぷっぱなした。ファンシーなハートをまき散らす破壊の衝撃波が、弓持ちの盗賊の腹部にハートの攻撃痕を刻み込む。見た目はファンシーだが、その攻撃力は絶大である。息を詰まらせる弓持ちの盗賊。
一方、『剣狼』すずな(p3p005307)は刀剣持ちの盗賊へと『桔梗』の刃を振るった。長尺の刀身が、目にもとまらぬ速度で翻り、盗賊の体を斬りつける。
「クソが……ッ!」
悪態と共に放たれた反撃の刃は、しかしすずなの体をとらえることはなかった。桔梗によりその斬撃を受けたすずなは、そのままわずかに刃をずらす。これにより、盗賊の振るった刃のベクトルはあらぬ方へ向き、盗賊はつんのめるようにたたらを踏む。
「未熟にもほどがあります」
隙をさらけ出した盗賊の後頭部を、すずなは鞘で思い切り殴りつけた。昏倒し、盗賊が倒れ伏す。
「ひ……な、なんだコイツ!?」
弓持ちの盗賊の悲鳴が響いた。その視線の先には、『骨啼更紗』紅下(p3p001651)の姿、そして紅下の足元より生えた5,6本の人骨の腕の姿があった。
カタカタ、という音と共に、人骨が踊る様に動いた。
『かいらし』
『愛らし』
どこからともなく声が聞こえる。恐らくは人骨が発しているものだろう。
『ウイネェ』
『愛いねぇ!』
カタカタ、笑うような声。盗賊の顔が引きつる。
「バケモンが……!」
叫び、弓を引いた盗賊へ、紅下の放った術式が叩きつけられた。げふ、とうめき声をあげた盗賊が意識を手放す。
盗賊たちの沈黙を確認したイレギュラーズ達は、一気に陣地内を駆け抜けた。ほどなくして陣地内中央、他の天幕よりは多少豪華な作りの天幕の姿が見える。その天幕の入り口には、巨大な戦斧を担いだ老人の姿があった。そのわきに控えるように、残り6名の盗賊たちの姿もある。
老人は楽しげに、イレギュラーズ達の姿を見やる。イレギュラーズ達と視線が交差した。
イレギュラーズ達は、足を止めた。距離を保ち、老人を見据える。
「速ぇな」
感心したように、老人が声をあげた。
「手際もいい。頭も回る。いいねぇ。ゾクゾクするぜ」
笑う。その笑みは、楽しいゲームに興じる子供の顔めいていた。
「ジャナ・レヴァン殿――でございますね」
雪之丞の問いに、
「おうよ」
老人――ジャナが答えた。顔のしわ、白髪などから年齢を伺わせるが、その肉体は衰えを感じさせぬ程度には鍛えられていた。
イレギュラーズ達は、改めて武器を構え直した。神経を研ぎ澄ませる。ぴん、と張りつめた殺気。
「問答無用か。いいねぇ。ホント、最高だぜ」
「ご存知の通り、問答を楽しんでいる余裕はないのでね」
ラデリの言葉に、ジャナは笑った。
「だろうな! なら希望通り、さっさと始めるか!」
ジャナが、戦斧を振るった。轟、と唸る風切り音が鳴り響き、それを合図に盗賊たちが一斉に構える。
「行くぜ、英雄様達……纏めて狩らせてもらう!」
都市デルウィの行く末を決める戦い――その火蓋が、切って落とされたのだった。
●決戦、ジャナ・レヴァン
「敵をお望みなのでしょう。拙が、お相手しましょう」
雪之丞が、『漣の太刀【ミズチ】』を振るった。交差する太刀と戦斧。響く澄んだ音。
「ハ――一つお相手頼もうか!」
ジャナが笑う。獲物を見つけた肉食動物の笑み。振るわれる戦斧の一撃を、雪之丞は受け、いなし、躱す。釘付けにする――少なくとも、雑兵を全滅させるまでは。
「かかってこい。言っとくけどこれ、地元じゃさいきょーの構えの真似だから」
その言葉はさておき、放たれるセティアの攻撃は充分な攻撃力を持っていると言えるだろう。刀剣の盗賊を切り裂き、蹴散らす妖精の刃。反撃の刃もものともせず、セティアの刃が戦場に踊る。そんなセティアを巻き込むように放たれる、術式の砲撃――近くに着弾した、それの衝撃に、とっさに体を庇いつつ、跳躍して距離をとる。
「おっと、これ以上は狙わせないよ」
対応、ラデリは敵魔術師を狙い、渦巻く悪意の霧をまき散らした。呪いと毒の霧にまかれた魔術師たちが、苦しさに呼吸を荒くする。苦し紛れにはなつ反撃の魔術が、でたらめな所に着弾し、土埃と石片を巻き上げた。
「余計なことするから……!」
その衝撃に顔をしかめつつ、美咲が放った術式が魔術師を撃ち貫いた。一人が地に倒れ伏す。
一方、刀剣の盗賊の相手をしていたエメの槍が、盗賊を貫く。エメの持つ槍、そして瞳が赤い光を纏う――まるで血を流しているかのように。或いはそれは、血なのかもしれない。心の流す血。はるか昔に負った古傷、そこから流れ出る止まらぬ血――。
「……はぁっ」
エメが息を吐いた。震える手を抑え込み、再び槍を構える。
「……無理はなさらないでください」
すずなの言葉に、エメは頭を振った。
「大丈夫……!」
決意のこもったその言葉に、すずなは言葉を返せなかった。ゆっくりと頷き、己もまた刃を振るう。対峙した盗賊を、一刀、斬り伏せた。
(常在戦場……そう志はあれど……)
胸中で呟きながら、攻撃に備え、すずなは刃を構える。
「悪を打ち砕く輝く正義の愛の光! 魔法少女インフィニティハート、ここに見参!」
と、ポーズなどを決めつつ、明るくかわいく元気よく――口上をあげた愛は、しかし次の瞬間には真顔になっていた。
「では――盗賊の皆さんには、その身体に愛を教え込んであげましょう。ええ、物理的に」
真顔から放たれるハートの魔力が、盗賊のハートに風穴を開ける――言葉通りに。倒れたのは、魔術師の盗賊である。
『若造』
『ヒトノコ』
『遊ぼうカ』
骸骨の声――紅下の放つ術式が弓使いを狙い撃ち、その意識を失わせる。
護衛の盗賊たちは、イレギュラーズ達の猛攻により、無力化されていた。
「チッ、やるじゃないの。こっちも少数精鋭、出来る方を集めたつもりだったんだけどナァ!」
力強く振るわれた戦斧が、ガードごと雪之丞を吹き飛ばす。地を滑り、踏みとどまろうとするが、たまらず、片膝をつく。何度かの打ち合いは、雪之丞の体力を確実に削っていた。
「ふ――ふふ。老いてなお健在とは。実に、好い」
しかして雪之丞は笑った。雪之丞もまた、鬼であるのだ。
「いやいや、これで衰えてるもんよ。金持ちの馬鹿どもが不老不死なんぞを欲しがったりするが、あの気持ちが今になって少しわかるってもんさ。不死はともかく、不老は欲しい」
「常に戦場にいるために?」
セティアの言葉に、ジャナは笑った。
「そうさな。俺ァ、殺して、殺されるしか能のない人間よ。戦場以外に居場所なんざないのさ」
「何が……何が楽しいのよ……!」
エメが、吐き出すように叫んだ。
「そういうのに巻き込まれる人の事、考えた事あるの……!? 盗賊(あなた)達の好き勝手に遊ばれて、苦しむ人たちの気持ちなんて、分んないんでしょ……!?」
怒りを湛える瞳は、しかしどこか遠い過去を見ているようにも見える。
「悪いな、嬢ちゃん。分からねぇのさ。俺達みたいな人間は」
ジャナが言った。
「ろくでもないじーさまだわ」
美咲が肩をすくめた。
「年寄りの冷や水って奴。巻き込まれた人達もご愁傷様ね」
「同意するよ……まったく、傍迷惑なご老人だ」
ラデリが頷いた。ジャナが頭をかく。
「常在戦場――その志は、私も目指すところなれど」
すずなが言った。
「しかしあなたは、今やただの賊にまで落ちぶれた。……願わくば、あなたが騎士のまま、相まみえていられれば、どんなにか良き出会いだったでしょうか」
「ゴロツキにゃ、息苦しかったのさ」
「つまり――愛が足りない、という事です」
愛の言葉に、ジャナは笑った。
「愛、か。そういうのにゃあ、確かに縁がなかったわな」
「では、最大限の勇気と愛を――貴方の手向けにしましょう」
愛の言葉と同時に、その右手に蛍光ピンクの輝きが迸った。刹那、爆発するそれを躊躇なくぶっ放す。ギフトによりハートのエフェクトへと変換されているが、紛れもない殺傷能力を持った魔砲の一撃である。着弾。爆風がジャナを襲う。思わず顔を腕で覆うジャナへ、肉薄したのは三人の戦士だ。
セティア/エメ/すずな。三人が各々の獲物へ、各々の感情を乗せて、一気に飛び掛かる。
「わたしは妖精騎士セティア。常在戦場の騎士ジャナ、相手にとって不足ない。たぶん」
振り下ろされた刃を、ジャナは戦斧で受け止めた。いなされ、空ぶったセティアが、着地と同時に横薙ぎの斬撃を放つ。
「ちいっ!」
舌打ち一つ、ジャナは後方へと飛びずさった。着地の無防備の瞬間を狙って、エメが手にした槍を鋭く突き出す。必中のタイミング! しかしジャナも伊達に場数を踏んでいたわけではなかった。身体をひねりながら振り払った戦斧が、エメの槍を弾く。軌道がそれた。肉を食らうその槍の穂先は、浅い傷を付けるにとどまる。
ジャナとエメの視線が交差した。漏れ出る赤い光=憎悪の光。ジャナは肉食獣の如き笑みを浮かべた。エメは手負いの獣の如き唸りをあげた。
「私のお相手もお願いします」
ジャナへ、すずなが迫る。静かな声とともに放たれた、静謐なる一撃――刃はジャナの利き腕を薙いだ。太い腕から、血潮が噴き出る。
「む――うっ?」
ジャナが呻いた。そこへ、美咲の術式が着弾する。直撃に、ジャナの態勢が大きく崩れた。晒された、大きな隙。
「絶対斬る」
追いすがるセティア。『聖骸剣ミュルグレスIII』の刃が煌いた。上段から振り下ろされた刃が、ジャナの軽鎧を破壊した。
このまま追い詰める! 間髪入れず駆けたのは、ラデリによって傷の治療を受けたばかりの雪之丞である。駆け出した速度をそのままに、接敵と同時に『漣の太刀【ミズチ】』を振り抜く。確かな手ごたえ。肉を切り骨を粉砕する、必殺の確信。
「獲った――」
がふり、とジャナが血を吐く。そのままぐらりと揺れ、脱力した身体が――瞬間、再び力がみなぎった。地に踏ん張り、手放しかけた戦斧を再び力強く握りしめる。その生命力の高さは、歴戦の戦士ゆえの物か――死の淵より再び立ち上がった老兵は、その戦斧を、雪之丞へ叩きつけんと振り下ろす。
(――南無三!)
雪之丞は胸中で叫んだ。その凶器が突き刺されば、雪之丞とてただでは済まない。死をも覚悟した雪之丞に、しかしその時は訪れなかった。
まず、ジャナの身体がグラリ、と揺れた。
エメの攻撃である。
槍は――手負いの獣の牙はジャナの太ももに食らいつき、その踏ん張り力を激減させた。
そうしてできた隙の果てに、ドン、という音と共に、何かが弾き飛ばされたのが分かった。
ジャナは呆然と、利き腕の先を見ていた。
手首より先が、無い。
数m後方には、ジャナの戦斧と、それを強く握りしめている利き手が転がっていた。
構えていたのは、愛だった。
放った術式が、ジャナの獲物を吹き飛ばしたのである。
「後は、頼んだよ」
ラデリの放った賦活の術式が、すずなの体を包み込んだ。
「――此処で引導を、渡してあげましょう」
静かに。身体にみなぎる力と共に、するり、と、『桔梗』の刃が振るわれた。
すうっ、と。
滑るように、刃はジャナの体を切り裂いた。
「……お前ら、かっこよくねぇ?」
そう言って、ジャナは笑った。
子供のような笑みだった。
そのままジャナは、地に倒れ伏した。
●デルウィにて
戦局は未だ、膠着したままであった。最前線にてにらみ合う事、幾日か。駐屯騎士たちの緊張も体力も、限界に近づきつつある。
この戦局を打開する、頼みの綱は、イレギュラーズ達だけだった。
イレギュラーズ達による、敵の首領への直接攻撃……成功すれば、勝利は目前と言える。
そんな最前線の上空に、一羽の鳥が、飛んでいた。
ぐるり、と空を舞った鳥は、やがて前線――騎士たちの元へと降り立つ。
それは、勝利を告げる合図。
美咲のファミリアーが一足先にデルウィへと向かい、今到着したのだ。
その報告に、騎士達は沸いた。イレギュラーズ達の活躍が、騎士達に活力を与え、今まさに士気は最大にまで高まったのだ。
騎士団長は号令と共に、総攻撃の命を下した。騎士達は士気高くそれにこたえ、次々と前線へと向かって行く。
やがて、デルウィは盗賊軍から解放され――。
戻ってきたイレギュラーズ達を、騎士、そして住民たちの歓声で迎え入れたのであった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
皆様の活躍によって、デルウィの街は見事解放されました。
街の人々や駐屯兵たちは、皆様を英雄として迎えてくれるでしょう。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
新生・砂蠍達の襲撃が発生しています。
これに対処しましょう。
●成功条件
ジャナ・レヴァンの撃退
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●ロケーション
都市デルウィの北部、草原地帯に設置された盗賊たちの陣地が戦場になります。
時刻は昼であり、フィールドに起因するペナルティなどは一切ありません。
陣地にはいくつかのテントが展開されており、そこにはターゲットのジャナを含み、11人の盗賊達が存在します。
ジャナは中央のテントの中におり、残り10名の盗賊達は、陣地内であたりを警戒しています。
陣地までは、妨害などなく到達できるものとします。
到達するまでの移動方法や、到達後の立ち回りによっては、戦闘開始時に、ある程度の有利を得ることができるかもしれません。
●エネミーデータ
盗賊 ×10
特徴
一般的な盗賊。イレギュラーズより戦闘能力は劣る。
6名が刀剣による武装。物理による近接単体攻撃を主に行う。
2名が弓による武装。物理による中~遠距離単体攻撃を主に行う。
2名は魔導士。神秘属性による中~遠距離・単体・複数攻撃と、微量な回復を行う。
刀剣で武装した盗賊は、陣地の外側に、弓と魔導士は、ジャナのいるテント付近に、それぞれ多く配置されているようです。
ジャナ・レヴァン ×1
特徴
老齢の元騎士。パワーファイター。巨大な戦斧による高い攻撃力が自慢。
『乱れ』を付与する近接単体物理攻撃がメイン。
『飛』能力を持つ至近物理列攻撃も行う。
EXFは非常に高いが、EXAは0。
以上となります。
それでは、皆様のご参加お待ちしております。
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