シナリオ詳細
<刻印のシャウラ>スコルピオプワゾンと不可逆のアンチテーゼ
オープニング
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「どうにも『幸運な事に』、貴族連中は北の鉄帝軍との戦いに備える必要が出来たというわけですかい?」
細目の男は目の前の王に問いかける。
「そりゃあ、俺らにとっちゃあ、ずいぶんと都合がいい。さあてどんなからくりが動いたんでさぁ?」
男は王の前で愉快そうに笑う。
「ってことはなんですかい。幻想の南部が今度の俺達の王国ってわけですかい。そりゃあ、愉快な話でさあ。
王っていうのは、略奪して、蹂躙して、征服してこそだと、俺はおもうんでさぁ。
あんたは最高でさぁ。とはいえ、幻想には厄介なイレギュラーズが存在してまさぁ。今回にもまたしゃしゃりでてくるでしょうよ。
で、俺が暴れてやりまさぁ。
あんたは其の隙に『計画』をすすめてくれりゃあいい。
俺ぁね。あんたが王になるならそれで構わねえ。この新しい盗賊王の国から
いけすかねぇラサの野郎どもをぶっ潰しに行ってやるんでさぁ」
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かわいそう、かわいそう。
蠍の毒にさらされたあのひとたちは何も悪くないのに。
蠍の毒はマリーには似合わないわ。
あのこの目にはきれいなものしか映したくないの。
きれいなものを映して流す涙の真珠はもっともっときれいになるから。
だから、お掃除しましょう。きれいにきれいに。
きれいに、きれいに、きれいにきれいにきれいにきれいにきれいにきれいに。
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「へい、イレギュラーズ! お仕事です!」
元気に声をかけるのは、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)。
「最近あの蠍のやべーやつが元気がいいのはみなさんも知っているとおもうのです。あのやべーやつたちとんでもないことに幻想の南方の領地を占領してきやがったのです。なまえきな」
ずるるっとぶどうのジュースをそこで一気に吸い込む。もうすぐ収穫祭ですね。仮装の準備はととのえてあるですか? と突然世間話を始めるユリーカをあなた達は止める。
「あっと、そうでした! 情報ですね。とある占領地から、幻想に向かってまた新しい領地を占領するために蠍のやべーやつらがうごきだすのです。えっと、なんでしたっけ? しんせーなんたらかんたらってやつです。ご丁寧にも場所と時間を指定して招待状が届きました。ジョンドウってやつから。
「次はジェスティの街を占領するっす! よろしければ止めにくるといいっす! おやつは銀貨100枚までっす!」って。
で、イレギュラーのみなさんにはそれを止めてもらいたい、のですがその……」
歯切れの悪いユリーカ。
「あなたたちのなかにも知っているかも知れませんが、今まで何度か顔を見せた アルルカンという魔種が現れるようです。アルルカンはどうも蠍を潰そうとしてるみたいなんですが」
それなら放置して潰しあいさせればいいじゃないかとあなた達は思う。
「アルルカンの手駒は罪もないジェスティの街の人たちだといったらどうですか?」
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「うそだろう? こりゃ、なんともふざけたクソ脚本の舞台劇でさぁ」
細目の男はジェスティの街の惨状をみてうんざりとする。
とはいえこの状態であの白い魔種を追い払えば、この街を占領するのはたやすくなる。こちらもそれなりの兵を用意はしている。
いざとなれば呼んでおいたイレギュラーズをぶつけることも可能だ。
そもそもこれは陽動だ。イレギュラーズの目を王からそらすことができれば上々なのだ。そのうえうまいことやって占領地を増やすことができれば一石で二羽の鳥を落とすことができる。
「頼むっすよ、イレギュラーズ」
細目の男は動き出す。
- <刻印のシャウラ>スコルピオプワゾンと不可逆のアンチテーゼ完了
- GM名鉄瓶ぬめぬめ
- 種別EX
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2018年11月15日 21時05分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
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「おいおい、ローレットの英雄サマたちってのはどうにもお人好しでさぁ。
其のくせ、こっちを利用しようとする。どうにもまあ、度し難いことでさぁ」
城に乗り込んだジョンドウは、手紙を携えたカラスの首を掴んでいる。
曰く停戦協定。
曰く、アルルカンの攻略法。
なんとも他力本願なことだ。ヘドがでる。こちらにヘビーなことを押し付けておいて、『アルルカンを倒すまでは蠍に手を出さない』。それは裏を返せばアルルカンを共闘で倒したら、消耗しているお前たちを次に叩き潰すと、そういう宣言に他ならない。盗賊たちは其のような殺し殺される世界でいきてきたのだ。そう簡単に他人を信じることはないとはいえ、ここまであからさまであればむしろ面白くもある。
そしてそういった彼らは今、この『王城にはきていない』。それが意味することはなにか? 彼らはその間どうしている? このくそったれな街で口にした其の約束を守ることもなく街に残した配下にちょっかいをかけているのではないのか? そう推測される。
其の推測はあたっていた。彼の配下が新しい敵戦力(イレギュラーズ)の到来を告げにきたのだ。
「まあいいでさあ、攻略法はありがたい。いいか、お前ら、できる限りシンパってのは殺すな。出来なきゃ出来ねえでそれでいい。そんな準備なんぞしてきてねえだろ。白いのに攻撃するには5人殺せってことだ」
ジョンドウはすぐに盗賊たちに指示をする。
「なあ、わかってんだろ? 交渉をするのであれば、まずはもっと誠実にならないといけないんでさぁ。あんたらが俺たちと一緒に突入すると決めたのであれば、俺たちも損得を考えれば共闘したさ。だがな、あからさまじゃあだめだ、交渉にはならない。俺たちのスタンスはこうだ」
ジョンドウはカラスの向こうにいる誰かにむかって声をかけると、そのままカラスを縊り殺した。
「お前らの敵でさぁ」
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イレギュラーズの作戦はこうだ。彼らは時間差で城に乗り込む。その空いた時間の間にジョンドウの配下を倒すというものだ。
彼らはそこで2つの失策をおかした。
ひとつは、取り付けた約束の条件。『蠍には手をださない』を自ら破ったこと。彼らイレギュラーズに襲われれば、盗賊たちはその上官に知らせるのは当たり前のことだ。雑魚とはいえ、彼らもまた『蠍』であることに間違いはない。
もうひとつはこの場所で戦闘を行うこと。アルルカンのシンパは『基本的には盗賊たちを狙うが盗賊と戦闘行為をおこせば盗賊とみなして襲いかかって』来るのだ。それはユリーカもしっかりと彼らには伝えてある事項である。
彼らはその襲いかかる街の人間の対処もすることになってしまうのだ。精鋭がいないぶん、それほどでもないが、街のシンパである人々を倒せないというのは思いの外足止めを食らってしまうことになる。
「だめ、ジョンドウとは交渉決裂よ」
『彷徨のナクシャトラ』暁蕾(p3p000647) が苦々しい顔で唸る。自分の五感を共有するファミリアが殺されたのだ。ダメージこそはない。然しその精神的なダメージは決して小さくはない。
『尋常一様』恋歌 鼎(p3p000741) はすぐに作戦を切り替え、自らのファミリアで、城内部までの最短ルートを割り出す。盗賊との戦闘でロスした時間は5分少々。15分待機して行動するのと変わらない時間になってしまう。すでに領主は殺害されているだろう。
誰かが舌打ちをするがしかたない。彼らは盗賊と領民のシンパたちを振りほどき、城のホール――領主の間にに乗り込む。
『咎狼の牙』リュグナート・ヴェクサシオン(p3p001218) の手にした時計が告げる。
彼らに残された時間は5分間。――――たったの300秒である。
「邪魔だコラァ!イレギュラーズのお通りだ!」
『太陽の勇者様』アラン・アークライト(p3p000365) は扉を蹴り開けて啖呵をきる。
「今は魔種の始末が先決だ。それとも今より不利な状況に立ちたいのか?」
『軋む守り人』楔 アカツキ(p3p001209) が告げるが、盗賊たちはジョンドウを見る。ジョンドウは不敵な笑みを浮かべ「敵が増えた」と端的に答えた。
『悪意の蒼い徒花』クロジンデ・エーベルヴァイン(p3p001736) はまずは状況を確認する。ジョンドウ率いる盗賊たちは20人中半数と少しが倒れている。それなりにダメージをうけつつも、領民のシンパたちと戦っていた。領民のシンパの方は、領主含め、こちらも半数以上が倒れている。不殺で戦闘不能になっているのか死んでしまっているのかは調べないとわからないが、首や手足が吹き飛んだままたおれているものは確実に死んでいるだろう。盗賊の感染者はすぐに始末されたようだ。刀傷で殺された盗賊が数人。自らの部下を斬り殺す其の割り切りの良さになんとも気味の悪さを覚える。
鼎は速やかに機械の驢馬に指示をかけた。この状況で戦闘不能で生きているものを移動させたとしても正直焼け石に水だろう。それでも構わない。鼎はそう思う。
一人でも救えるのであればそれに越したことはないのだ。
「おいおい、遅い登場でさぁ。5人殺せば、攻撃が通る? 殺しても、あの白いのには梨の礫だ。そこまで騙すたぁ、イレギュラーってのはホラ吹きでさぁ? 俺たちより悪人の才能はあるんでさぁ」
傷を負ったジョンドウがホールに飛び込んできた彼らに文句を言う。25分後まで介入を遅らせれば、どちらかに趨勢は傾いているだろうと、情報屋は言った。
ジョンドウもまた強者である。とはいえ、相手は多勢と魔種である。「攻略法」がなければもっとダメージを負っていただろう。とはいえその「攻略法」が不完全であったとすれば、ジョンドウもあたりまえにダメージを受ける。勝敗の天秤の傾きはジョンドウとは逆の方に傾いていくた。
「そんな! 嘘なんてついていないわ!」
暁蕾は否定するが、彼女の渡したメモには「どのシンパを5人殺せばよい」とは書いてはいなかった。端的に伝えることは重要だ。イレギュラーズには優秀な情報屋がいて、この状況の打開策とはいえなくても、攻略法は得ている。
その情報を得ているのであれば端的であっても、通じるだろう。しかして、その情報を知らなければ通じないこともあるのだ。意図的に情報を開示しない部分もあっただろう。然し彼らは取引のうちでも重要になる約束事をやぶっている。それが疑心となり、さらに十全に伝わっていないのだ。
とどのつまりはこの状況に置いて、アルルカンにダメージがまだ通っていない。アルルカンは椅子に座り肘掛けに肘を乗せて微笑んでいる。
椅子についたその腕は以前千切られた腕を雑に赤い糸で縫い合わされて、繋がっている。暁蕾はその腕をみてすこしだけ眉を顰めた。
「幸せなシンパはそれでも4人死んでおりますな。あと一人殺せばダメージは通るであります」
『鉄帝軍人魔法騎士』ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497) もまた状況を即座に読み取り口にする。
(幻想? 知らんでありますなぁ
むしろ幻想の戦力弱体化はむしろ願ったり叶ったり
ワタシは鉄帝軍人。鉄帝の利益になることは優先するでありますよ)
ハイデマリーは涼しい顔で状況を俯瞰する。とはいえ鉄蹄にとっても蠍とアルルカンは邪魔になることだろう。さっさと処分するに限る。
「占領しようがされようが俺に関係はないが、魔種と斬りあうことができるのだろう?
かの蠍も手練れをよこしたと聞く。ならば、ただ斬りあうのみ!」
『墨染鴉』黒星 一晃(p3p004679)はこの状況に特におもうことはない。ただただこの場に強敵が集まっている。それだけで高揚する。口元に獰猛な笑みが浮かぶ。斬り合うことができればそれで構わない。
年若いメイドと思われる使用人が心臓を一突きされ死んでいた。自分とそれほど変わらない年齢だろう。被害をなくすことは難しいのくらいわかっていた。何もわからずに命を落としたというのに笑顔を浮かべているその光の失った瞳の色は青。
折しも『神無牡丹』サクラ(p3p005004) の瞳と同じ色である。彼女は自分の至らなさにぎゅっと歯噛みする。自分の無力が許せない。
「ごめんなさい……!」
その謝罪は戦場に融けてゆく。だれにも、届かない。それでもサクラは謝罪せずにはいられなかったのだ。
「あら、おともだち? あなたたちも笑いましょう? そんな怖い顔はいや。不思議ね。私のお友達はみんな幸せだといってるのに」
「相変わらずクソみたいな事態を作る事だけは巧いよねー」
アルルカンのその言葉にクロジンデは目を細めて言い返す。私がこんなところで死ぬわけないと思っている瞳。それが腹立たしい。
「領主は……そうですか。貴方の死が魂の道行きが良きものであるように」
『ほのあかり』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236) はこの場でもっとも服装が豪華な男が頭をなくして倒れていることに気づき胸の前で十字をきった。簡易的な祈りではあるが、旅立つ彼への優しい祈り。
リュグナートは思うことは山のようにある。だがこの状況を戦略の眼で見た結果、どうするべきかを導き出すのが先だ。
「とにかくにおいて、まずは幸せなシンパをあと一人倒し、アルルカンにダメージを通します。全てはそこからです」
リュグナートの言葉に彼らはうなずき、作戦を執行する。ジョンドウとの共闘はかなわないが、彼ら盗賊とイレギュラーズの位置取りはそれほどに近くはない。彼らも目のまえのシンパよりもこちらを優先して倒しにくる意味は薄い。そもそもにおいてもともと裏切られることは織り込み済みだ。警戒はするつもりだった。構わないとまでは言わないが最悪は覚悟の上である。
「ったく! くそったれが!」
アランは使用人のシンパをかき分け、無理やり笑顔のシンパに肉薄すると、叫びながら突き穿つ一撃をうちつける。其の勢いは獅子のごとく。太陽のごとく。
同じく肉薄したアカツキは組技で笑顔のシンパを狙い不殺でアルルカンから引き剥がそうとする。
「ごにんめころせたよー」
クロジンデの悪意の弾丸はアランが狙ったシンパを穿つ。アルルカンをまもる壁は失われた。
(こんなの、馬鹿げてる、ごめんなさい、ごめんなさい)
クラリーチェは笑顔のままに死んでいくそのシンパたちに詫びる。それで許されるわけではないけれども。
こんな状況において、おくりびとの女は幸せそうな顔の彼らにいっそう心がくるしくなる。
本当の幸せを得ることもないままニセのしあわせのままに死んでいくかれらが、あまりにも悲しかった。せめて苦しみだったら、せめて悲しみの顔だったらちがっていたのだろうか?
いや、同じだ。無残に無慈悲に、そして理不尽に彼らはしんでいくのは変わらないのだから。
「あら? うふふ。あなた達はまるで人を的撃ちの鴨のようにかぞえるのね。うふふ、まるで魔種みたい」
幸せそうにコロコロとアルルカンは笑う。
「貴方がそれを……!」
其の言葉にサクラが激高する。クラリーチェと、暁蕾 は息を飲む。
タァン!
高い音をあげてアルルカンに向けてハイデマリーが静かなるも激しい一撃を穿てば、領主の椅子に座るアルルカンの髪が爆ぜる。
「守りなさい」
アルルカンがシンパに命じる。
一晃が踏み込み一筋の黒い光となりアルルカンに全力の一刀両断を浴びせようとするが、笑顔のシンパがアルルカンに命じられたままに、その攻撃を阻み、笑顔のままに死んでいく。
「うふふ、うふふふふ! ひとつお返しね?」
アルルカンが立ち上がることもなく、眼の前のアランを指差せばアランを中心にシンパに対して近接していた者たちと、近くにいた盗賊も、イレギュラーズの中でも後衛にいたハイデマリーと鼎も含め、8人の足元に黒い魔法陣が浮かび上がると、紫電が発生し彼らを苛む。
8人。おおよそ40人がアルルカンの半径50mで死んだということだ。そしてその増えた攻撃可能人数において、距離はそのフィールドにいる敵対者全員を対象にしている。
前回彼女と対峙した暁蕾とリュグナートとクロジンデは思い出す。中央まで40mずつのフィールド。もう一つのチームにも中央を超え、その効果は発揮していたのだ。
アルルカンの攻撃範囲を離れるということはこのフィールドから撤退することになってしまう。
この場において、アルルカンの攻撃から逃げる方法は己の回避力とそして、ランダム性という運命の女神の寵愛でしかない。
盗賊が二人紫電に焚かれ倒れる。
前衛陣はおおよそ7割ほど削られ、後衛陣は一度膝をつかされるほどの火力が彼らを襲った。なるほど、これが周囲で人が死ぬことで得ることのできる火力なのか。
命中率も低いわけではない。何らかのバッドステータスをつけられるわけではないのが幸かそれとも不幸であるのか。
その火力を身にうけつつも次元多重思考で導かれた絶望的な答えにハイデマリーがパンドラを燃やす。
鼎がハイヒールをクロジンデがメガヒールで前衛二人に回復を施す。
「ねえ、お願い、貴方の仲間はもうほぼいなくなったわ。追撃はしない、だから退いて。このまま削り合いに意味はあるの?」
暁蕾がジョンドウにもちかける。
「なるほどねぇ」
その言葉にジョンドウはアルルカンに向けて刀を構える。特殊なその構えは――。
「好きにさせるもんか!」
サクラはジョンドウに向かって走り、目の間に立つ。
「邪魔でさぁ」
アカツキはジョンドウの構えをみて後ろに下がる。
「阡穿月衝」
ジョンドウは抑えたサクラごとアルルカンを穿つ。その進行上にいた笑顔のシンパとアラン、一晃も巻き込み、そのまま背後の壁も椅子ごと刀から放たれる衝撃派で撃ち抜いた。
破壊により床材が巻き上げられる。一晃はアルルカンとジョンドウの連撃に膝をつき、パンドラに祈る。アランはかろうじて膝をつくことはなかったが次の攻撃があれば、あえなく膝をつくことになるだろう。
「絶対に、好きにさせない。蠍の王様にこの街はあげない!」
細かく砕けた床材の砂塵のベールが重力に引かれぱらぱらと音をたてて落ちる。其の場で体中傷だらけで衣装をズタズタにされたサクラが防御の構えのままにジョンドウに向かい叫ぶ。
「へえ、名前はなんていうんでさあ。俺の阡穿月衝で倒れないなんて、ちょっと凹むでさぁ」
「サクラ」
「覚えておくでさぁ。で、まあ、お前ら。これ以上はもう意味がないでさあ、退くぞ」
ジョンドウが部下に指示する。彼は引き際というものはわきまえている。
「サクラ、俺はまた幻想を潰しに来る。お前が止めにくるでさぁ」
サクラに言葉を残しジョンドウは踵を返すと、生き残りの盗賊たちとともに去ってゆく。
「ありがとう」
暁蕾が其の背中に礼をいうが答えはない。
とまれここからが正念場だ。残り時間はもう少ない。
どちらにせよ、ジョンドウが去った今なら、アルルカンを撃退することに集中できる。
「みな様、攻撃を合わせて! 弾幕を、どちらにせよ反撃はされます」
「そうでありますね。あとは殴るだけであります。ありがたいことに、アルルカンを守るシンパはあの蠍が片付けてくれたであります」
ジョンドウの其の攻撃は支援のつもりはなかっただろう。ただの憂さ晴らしだ。
リュグナートの戦略眼も、ハイデマリーの次元多重思考も告げている戦局の未来は同じだ。
だからやめるのか。それはできない。できないのがイレギュラーズなのだ。
「会うのは2度目だな、『道化』」
アカツキが鋭く踏み込み打撃をその細い体に炸裂させる。
「お久しぶりね。ふふ、元気だった? 怖い顔ね。笑ってちょうだい? じゃないとマリーが悲しむわ」
「よぉ、クソガキィ! 覚えてるか? 俺はお前のことをしっかりと覚えてるぜクソ野郎が!! だりゃあああああああ!」
アカツキの攻撃に重ねるように、憎悪でもってアランはアルルカンに偽千剣を叩き込んだ。アルルカンの雑に縫い付けられていた右腕があっけなく吹き飛ぶ。
「やあねえ、とっても、とっても、野蛮ね。そういうひどい子はマリーのためにも殺さなきゃ」
アランの体力は心もとない、しかしだからどうだというのだ。ここで剣を振らない俺は俺ではなくなる!
そんな彼に向かって、立ち上がったアルルカンは吹き飛ばされた腕をひろってひらひらとふって笑顔をみせた。
「おもしろい。ああ、おもしろいな。この失われた記憶のなか、強者こそが我が残滓よ。
斬って、斬って、斬って、斬って、俺は一筋の刀の煌めく光」
一晃には記憶はない。自分がまともな人間でないことは当然としてわかっている。極楽どころか地獄からも見放された自分に残るは強者を屠るその矜持のみ。
故に男は一本の刀となる。
「ほんとうに、ほんとうに、野蛮だわ」
刀がアルルカンの頬をかすめる。いいながらもアルルカンの微笑みは深まるばかり。
「姉妹揃ってロクでもないね!」
サクラもまた聖刀【禍斬・華】を構え飛び込む。聖刀は答えない、それでも自分がわかっている。この魔種は屠るべき敵であると!
「姉妹? ああ、マリーのことね。わたしたちは姉妹ではないわ。あのこは私のたいせつな■■■■。血の繋がり程度の薄い繋がりとおもわれるのは心外だわ、血の繋がりでしか繋がりを見いだせない人間と一緒にしないで?」
やっと、笑顔はなくなり眉をひそめてアルルカンは否定する。でもそれも一瞬。また淡い微笑みを彼らに向ける。
クロジンデと鼎は引き続き回復を続ける。あの火力の前には焼け石に水なのはわかっている。そして盗賊がいなくなり、また更に5人死んで、あの攻撃に晒される人数は9人。
運のいい一人だけが攻撃には晒されないというだけだ。
前衛はアルルカンへの攻撃に集中する。故に後衛を守るものはいない。そんなものこの人数差の前にはもともと同じような意味ではあるが、使用人のシンパたちは後衛を攻撃する。ダメージと命中率は大したものではないが数人に囲まれると流石に避けることは難しくなっていく。
それによりからくりのうんめいに祈ることでもういちど立ち上がるものもいるが状況は悪いまま。
それでも傷つく体の痛みを無視して、クラリーチェはその魔力を放出し続ける。いつ終わるのかわからない。
カチリ、カチリと時計の針は進んでいく。
リュグナートはそのかすかな音が煩くて仕方ない。序盤こそは不殺のシンパの担ぎ出しを手伝ってはいたが、この状況においてそれに意味はない。後衛への敵の流れを止めようとするも全てをとめることはかなわない。
彼は前にでて、不浄を拒絶するアズールブルーの刀身を振るう。
「ねえ、そうね。ひとつ。一つ取引をしましょう?」
アルルカンが幸せそうに彼らに取引を持ちかける。とかく悪魔との取引は甘い。
「あなた達のだれか一人をちょうだい? そうしたら、私はこのお城をあきらめてあげる。
たくさんの命とたった一人の命を引き換えだなんて、英雄的でしょう? すてきでしょう?」
「アホか! てめーは!! そんな取引に応じるわけがねえだろう!」
アランが叫ぶ。アカツキは眼が告げる。バカバカしいと。
「またそれかよー。ほんとクソみたいな提案とかいいかげんにしろよー」
クロジンデが呆れた声をだす。
「断れば全部倒すということかな? それは取引ではないよ。脅迫というんだ」
鼎は冷静に分析する。
「ふざけないでください。人はあなたのおもちゃではない」
その声音には怒り。静かな怒りでもってリュグナートは答える。
「不平等条約ということばをお知りでないでありますか。魔種の学力の低下が嘆かわしいでありますね。鉄蹄であれば銃殺でありますよ」
ハイデマリーは呆れる。と同時に、アルルカンの驚異レベルをあげておく。
「人を人だと思わない、その傲慢、あなた達は哀しいですね」
クラリーチェがまつ毛を伏せる。
「ふふ、私達は傲慢ではないわ。強欲よ。そうね。不平等、不平等。ふふ。ならばあなた達全員をちょうだいな。みんな私と同じになりましょう? そうすれば笑顔になれるわ!」
アルルカンはとっても素敵な案だわと笑う。みんなみんな笑顔になればいいのだと強欲に求める。ぜんぶ、ぜんぶほしいのだと。
全部全部、ぜんぶ。
「いい加減にしなさい! あなたに下ることはぜったいにないわ。私達はあなたを止めるためにきた!」
暁蕾が叫ぶ。
「俺は魔を斬るだけよ。強者に頭を垂れるよりは挑み、負ければそこで刀の錆よ」
シニカルに一晃は笑う。
「墨染烏、黒星一晃。一筋の光と成りて、三つ巴の戦に終止符を打つ!」
「笑顔っていうのは、本当の幸せがあって、自然に浮かぶものよ! あなたたちの思う通りには絶対にさせない!!」
サクラはフラフラの足取りであっても、その思いの軸はぶれることはない。
「哀しいわ。哀しいわ。楽しくない、幸せじゃない。かわいそう、かわいそう。あなた達はなにもわかっていない。かわいそう」
そういいながら被虐の醜い笑みがアルルカンに浮かぶ。
イレギュラーズはうなずきあい、各々の攻撃をアルルカンにぶつけていく。回復などはもういらない。
一人で立つアルルカンに攻撃が集中するも彼女が撤退ラインを決める数字にはわずか、ほんの僅かだけたりない。
白い髪が吹き飛ぶ。足がきりとばされる。それでもおんなは笑う。
幸せそうに、幸せそうに。
「ふふ
ふふ
ふふふふふ」
其の瞬間、あの紫電を齎す魔法陣が、クラリーチェの足元以外に浮かぶ。
「さようなら」
女は笑う。
紫電が彼らを打ち据えた。静かにそして激しく体を取り巻く効果力の紫電に抗えるものではない。
運命の寵愛を使い切ったものは其の場にあえなく倒れる。
もう立ち上がることが出来ないものはぎりぎり7割には満たない。
それでも。
時間を告げるベルが無慈悲に鳴り続ける。
それでも彼らは戦うとはしなかった。
怨嗟の叫びをあげたのは誰だったのだろうか。
彼らは撤退を決める。
「ふふ、 ふふふ ふふ
ふふ ふふふふ しあわせ
しあわせのおしろ、 ねえ、マリー。あなたのためのおしろをあげる
よろこんでくれるかしら? ねえ、マリー、うふふ」
白いおんなはうれしそうに笑う。幸せそうに笑う。
成否
失敗
MVP
なし
状態異常
あとがき
ご参加ありがとうございました。
理由は本文にて。
数人ですが領民は助けることはできました。
帰り際においても不殺でたおした領民については回収も叶っています。
実際においてアルルカンの残りのHPはギリギリでした。
GMコメント
鉄瓶ヌメヌメです。
めんどくさい三つ巴です。情報量が多いのでよく吟味の上、方針をきっちり決めたほうがいいと思います。
アルルカンがジェスティの街のみなさんを操って、盗賊たちと戦うようです。
放置するという方法もありますが、其の場合、どちらが勝ったとしてもジェスティの街は占領させてしまいます。
アルルカンが勝てばそこにアルルカンの拠点が作られてしまいます。
ジョンドウが勝てば蠍の占領地が増えます。
つぶしあいをさせて漁夫の利ということも出来なくはないですが、アルルカンの兵は領主含めジェスティの街の人々です。
もちろん潰しあったあとに介入してもらっても構いませんが街の人々は領主はじめ大勢死にますので、悪名が上がります。
成功条件はアルルカン、及びジョンドゥ両名の撃破、もしくは撃退
両方とも街から追い出してください。
また、領民の30%の減少で両名を撃退したとしても失敗になります。
其の中には領主も含まれますので領主が殺されていた場合は悪名も上がります。
10分立つごとに、領民の10%が減少していきます。
(盗賊やあなた方との戦闘で失われていく人数ががこのくらいになります)
現在ジェスティの街はジョンドウに先立って侵入したアルルカンによって、シンパにされています。
アルルカンは領主の城で領主とジョンドウを片付けてきれいな街にしようとしています。
ジョンドウは20人の配下と30人程度の雑魚とともに城に向かっている最中です。配下はかなりの手練ばかり(具体的は皆さんの最高レベルあたりの強さでアタッカー、タンカー、ヒーラーとまんべんなく揃っています)
雑魚はそんなに強くないです。街の中に散らせて蹂躙行為を行わせていますので、あえて戦うとしない場合は交戦することはありません。一般人シンパをころころしてます。伊勢海老探してます。
ジョンドウと配下は10分で城に到達します。
あなた達がすぐに出発すれば、5分ほどでジョンドウたちと交戦することができます。
あなた達と接触した場合、10人ほどの配下を置いて、ジョンドウたちは城に向かいます。
倒し終えれば城に向かうことはできますが10分のロスになります。
ジョンドウたちはアルルカン撃破を狙っていますが、ジョンドウと配下についてはあなた達ももちろん攻撃します。
10分待機してから城に向かえばアルルカンとジョンドウたちはすでに交戦が始まっています。
其の場合アルルカン陣営、ジョンドウ陣営にある程度以上のダメージが蓄積されていますが、領主の命はギリギリでしょう。(この場合あなた達が城に到着するのは20分後になります)
15分待機してから城に向かうばあいはすでにどちらかに決着はつきつつあります。漁夫の利で両陣営を撃破(殺害)することも不可能ではありません。(この場合はあなた方が城に到着するのは25分後になります。領主は殺害されています)
・ロケーション
街の人々はアルルカンのシンパになっています。いわゆるゾンビみたいになっています。
基本的には盗賊たちを狙いますが盗賊と戦闘行為をおこせば盗賊とみなして襲いかかってきます。
城の中には百人程度の使用人がいます。アルルカンの命令で盗賊とあなた達を襲います。
殺せば起き上がってきませんが、不殺で戦闘不能になった場合は起き上がってくる可能性があります。(低確率です)
アルルカンの周囲50m以内で殺害があるとアルルカンの火力が増えていきます。
アルルカンは基本的にはシンパは攻撃しません。(シンパを殺して自分の火力を上げるという行動はしません)
シンパは戦闘ができる兵士であればそれなりに戦えますが、一般人はそこそこの火力のある攻撃ですぐに死にます。
兵士は城には30人ほど待機しています。他は普通の使用人です。
アルルカンがいる場所は領主謁見の間。それなり以上に広いです。50m×50mほどの大広間になります。
最奥にある領主の椅子に座っています。
近侍を務める領主含め10人ほどを強化して自分を守らせています。
・エネミー
ジョンドウ
拙作『狂騒スコルピオ』、『<Liar Break>痴愚神礼讃バーレスク』『<蠢く蠍>棘毒デスペラード』などで登場しております。
『屍』ジョンドウ
東洋の刀を携えた剣豪です。強いです。今回の指揮官です。飄々としたお兄さんです。ラサのやつらまじだいきらい!!!!!!
めちゃくちゃ強いです。
めっちゃ貫通するEX攻撃を持っています。抜刀術でめっちゃ高火力のスキルも使えます。速度、回避型のようです。
城にいる仲間が2/3撃破、もしくは状況が始まって30分経過で撤退します。
ジョンドウの配下20人。
アタッカー、タンカー、ヒーラーと揃っています。皆さんのキャップレベルくらいの強さ。
状況に応じて人数は可変しています。
アルルカン
本人が出ているのは拙作『<幻想蜂起>絵のない絵本のセンテンス』『<Liar Break>閉じた世界の陽炎ライムライト』
世界で一番やさしい嘘と血涙パノプリアでも悪さをしていました。
魔種です。マリオネットという魔種と一緒に行動をしていますが、今回はマリーのためのお掃除なので一人です。
通称はアルル。白い髪に赤い瞳の儚げな美少女です。白い綺麗なワンピースを纏い、世界をかわいそうと煽ります。
大切なものはマリオネット。マリーがかわいそうになる世界を求めています。強欲。
戦闘力は高く、耐久性はそれなりに。危険が及べば攻撃もしますが、その単体攻撃は並の防御力であれば一撃で戦闘不能になる火力です。
5人死ぬたびに、攻撃範囲が広くなっていきます。(つまり5人殺せば単体攻撃で攻撃できる人数が1人増えていくということです)
彼女の半径50m内で「死んだ」数によって少しずつ火力が増大していきます。
基本的には攻撃されない限りは反撃はしません。かわいらしく笑っています。
ジョンドウたちはこのことをしりませんので攻撃はするでしょう。あなた達がそれを知らせることができれば、攻撃はしないかも知れませんし、知らせ方によっては無視をするかのうせいもあります。
また、その時点で城内部でのキル数が多ければアルルカンの攻撃可能人数は盗賊たちを超えてあなた方に及ぶ可能性もあります。
●アルルの呼び声
人の妬み、嫉みを増幅し力にします。何らかの鬱屈した思いがそこにあれば、アルルの呼び声に感染します。
感染したものはかわいそうでなくなるために常に笑顔でわらっています。なにがあっても笑っています。笑顔の狂気。
2ターンにつき1/50の確率で盗賊の配下も感染します。
●アルルカンにはひとつだけNGワードがあります。そのワードを使うとどうなるかわかりません。
ジョンドウ撃退時点でHPがのこり20%以下だった場合は退却します。
『幸せ』なシンパ×10
ニコニコ笑っています。彼らはアルルを守ります。
戦闘能力はそれなりですが、殺さずを貫けばまだ呼び声から戻ってくる可能性はあります。5人「殺せば」アルルカンにもダメージが入るようになります。
兵隊のシンパ×30
まあまあつよいです。
使用人のシンパ×70
ある程度の力でなぐれば倒れます。
PCの7割の戦闘不能、もしくは30分経過で自動退却により失敗になります。
30分経過後の戦闘も許可しますが判定は失敗になります。
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