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シナリオ詳細

バルーンヘッドの谷

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●風船谷の都市伝説
 馬車の進む車輪の音が岩間に反響してゆく。
 まるでチョコレートのような甘い香りがして振り返れば、ある女性が細長い煙草に火をつけたところだった。
 ちりちりと焼ける葉。甘い煙がたちのぼり、女の顔半分を覆う火傷跡がどこか妖しく揺れて見えた。
 その印象的な顔から、彼女は『ローストフェイス』バッケルと呼ばれている。
 世界を渡り歩く商人たちで知られるパサジール・ルメスの民。そのキャラバンのひとつを任されている女性である。キャラバンの名前もあだ名からとって『ローストフェイス』といった。
 ローレットのイレギュラーズはたびたび彼女のキャラバンから道中の護衛を依頼されることがあり、今回もそのひとつとして雇われていた。
 とはいえなにもない道中は暇なのだろう。バッケルはこんなことを語り出した。
「アンタ、この辺に伝わる都市伝説を知ってるかい」
 輪っか状の煙を吐いて見せるバッケル。
「ああ……なんだ。また語ったそばから実物に遭遇するって言うんじゃないだろうね。そうポンポン実物が出てちゃ都市伝説にならないんだよ。そうそう、出やしないさ。煙草を一本賭けたっていい」
 彼女の煙草が高級品なのは、その上品な香りからも想像が付く。
 煙草の副流煙をけむたがる者ですら、つい深く吸い込んでしまいたくなるような美しい香りなのだ。ここまで来ると煙草というよりお香の部類である。
 さておき、バッケルは煙草を二本指に挟んでずっと先の谷を指さした。
「風船村の都市伝説さ」

 むかしむかしあるところに、一人の旅人がいた。
 旅人は幻想天義間の旅賃を浮かせるために、この谷を通ることにした。
 その日はどんよりと曇っていて、どこか陰鬱な気持ちにさせる空だった。
 けれど一人旅も楽なもので、カンテラを奏ながら悠々と谷を通り抜けることにしたらしい。
 谷に反響する弦の音。
 小さく口ずさむ鼻歌。
 しかしふと、鼻歌に誰かの声が混ざったような気がして声を止めた。
 いや、そんなはずはない。
 気楽な一人旅だ。この谷には誰も住んでいないと聞いていたし、誰かが合流した様子も無い。
 きっと谷間の反響がそう聞こえただけだ。
 旅人はそう自分に言い聞かせて鼻歌を続けた。
 けれどどうだろう。
 声はやっぱり二人ある。
 それどころか三人、四人、五人六人と増えているように思えた。
 ぴたりと声を止めたのに……歌は続いた。
 旅人が口ずさんでいたのは古い古い童歌だ。
 かすれるような声が、無数に重なって反響していた。
 恐くなった旅人は馬に鞭を入れて急がせた。けれど歌はまだ聞こえる。
 どころか声はもっと増えて、まるで自分を取り囲んでいるようだった。
 どれだけ走っただろう。
 ふと。
 歌声が途切れた。
 深い谷さ。右も左も岩の壁。
 一方通行のそんな道だというのに。
 前を、そして後ろを、いつのまにかいくつもの人影が囲んでいた。
 いいや、人影とは呼べないね。
 奴らはみな、首から上が風船のように膨らんでいたんだ。
 ふつうの3倍はあろうかっていう大きさにぶっくりと膨らんだ頭を揺らして、彼らはこう言った。
 『ナカマダ』

「ハハッ! 旅人はその『バルーンヘッド』に取り殺されてしまったって話さ。
 荒唐無稽だろう? 第一、一方通行の谷で馬車を全力疾走させたっていうのに前も後ろも囲まれてるのがおかしいんだ。
 きっとこれも誰かの作り話で――」
 バッケルが煙草を口元に持って行ったとき。
 童歌が聞こえた。
 かすれるような声で。
 二人、三人、四人五人、もっともっと増えていく。
「…………」
 バッケルは黙って、あなたに煙草の箱を突きだした。

GMコメント

【成功条件と目的】
 全ての『バルーンヘッド』の撃破
 商人たちの保護(生存)

【あらすじ】
 パサジール・ルメスの民『ローストフェイス』キャラバンの護衛を依頼されていたローレットのイレギュラーズたち。
 彼らの道中に突如現われたのは『バルーンヘッド』という都市伝説的存在であった。
 彼らはふくらんだ頭を揺らしながら、あなたたちに襲いかかる。
 商人たちを守りながら、奴らを払いのけなければならない。

【エネミーデータ】
 ここからの情報はプレイング記述・相談用のメタ情報となります。
 戦闘中にPCたちが発見したこと、ないしは察したこととして扱ってください。

●バルーンフェイス
 頭の大きな人間たち。どこを見ているのか分からない目をしており、奇妙な力によって攻撃してくる。
『XXXX(神中単【石化】)』
『XXXX(特殊条件を満たした時のみ発動、物自範【飛】)』
 の二種類の攻撃を主に行なう。
 これ以外の攻撃方法が一種類あり、発動条件や詳細は不明。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

【アドリブ度】
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。

  • バルーンヘッドの谷完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年11月08日 21時40分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

亘理 義弘(p3p000398)
義に篤く
シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)
死を齎す黒刃
イシュトカ=オリフィチエ(p3p001275)
世界の広さを識る者
ショゴス・カレン・グラトニー(p3p001886)
蠢くもの
アルファード=ベル=エトワール(p3p002160)
α・Belle=Etoile
ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)
紅獣
エスラ・イリエ(p3p002722)
牙付きの魔女
モルセラ・スペアミント(p3p006690)
特異運命座標

リプレイ

●谷間に聞こえる歌
 童歌が聞こえた。
 かすれるような声で。
 二人、三人、四人五人、もっともっと増えていく。
「…………」
 バッケルは黙って、煙草の箱を突きだした。
 ほんのりとチョコレートの香りがする煙草を受け取り、口の端で笑う『世界の広さを識る者』イシュトカ=オリフィチエ(p3p001275)。
「これは有難く貰っておくが、今一服する時間はなさそうだ」
「らしいな……あとでゆっくり頂くかね」
 『義に篤く』亘理 義弘(p3p000398)も火をつけず胸ポケットへしまい込むと、こきりこきりと指関節を鳴らし始めた。
「都市伝説の一部になってやるわけにはいかねぇからよ」
(都市伝説、都市伝説ねぇ……何が起きてもそれほど驚かないが……)
 『紅獣』ルナール・グルナディエ(p3p002562)は腰に差していた刀を抜いて周囲への警戒を始めた。
 岩と岩に挟まれた細道の風景は、色の少なさと規模の大きさも相まって距離感がおかしくなりそうだ。ともすれば前後がV字の岩壁に覆われているかのようにすら錯覚する。
 そんな風景の中から、どうやって現われたのかあちらこちらから噂通りの『バルーンヘッド』が現われる。
「この見た目はなんとかならんのかね」
(滑稽な頭部を持つ存在め、素晴らしく気色が悪い……)
 『蠢くもの』ショゴス・カレン・グラトニー(p3p001886)が肉体の先端を警戒色に変え、戦闘と機動に優れた形態へと徐々に変化させていく。
(噛みごたえを確かめよう、さあ貴様等は何味か)
 大きく口を開くショゴス。
 その一方で『α・Belle=Etoile』アルファード=ベル=エトワール(p3p002160)は、持参した水筒を逆さに振って水を取り出すと魔術で操作し始めた。
 頭ではつい先程聞いたばかりのバルーンヘッドの都市伝説について考えていた。
(風船村の伝説について、幾つか気になる点はあるけれど、まず……『取り殺された』というのは、一体どういう意味でしょう)
 肉眼で確認できる個体数はおよそ五人。
 首から上が風船のように膨らんだ人間が、ふらふらとしながらこちらに迫ってくる。
 『牙付きの魔女』エスラ・イリエ(p3p002722)もまた、魔術礼装を起動させつつ戦闘にそなえた。
「孫の手で出来た依頼主やあらゆるところにドリルの生えた戦闘集団なんかも知ってるから今更頭がバルーンの都市伝説がいたってどうも思わないけれど……護衛対象の命に関わるとなれば看過は出来ないわね。それに」
 突然の出来事である。
 個体数は少なくそれほど戦闘に優れていそうな外見はしていないが、これが『全部』であるとは限らない。どんな攻撃方法をしてくるかも不明だ。
「不確定要素の多い敵……。事前情報がないなら観察と対処がより重要になってくるわ」
「おいおい……」
 『黒キ幻影』シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)は穴あきグローブを装着すると、両腕をだらんとぶら下げた姿勢をとった。
 一見リラックスしたような姿勢だが、これもれっきとした戦闘姿勢である。
 ビールジョッキを持って笑っているその一分後に殺されるかもしれないような環境では、こうした姿勢によって相手を威圧し、その姿勢から充分な殺人術を繰り出すことが必要になる。
「ま、キャラバンの護衛依頼を承った以上、相手が何者だろうが関係ねぇさ。さっさと蹴散らしてやろうぜ」
 つい先程まで読んでいた情報誌を強く握る『特異運命座標』モルセラ・スペアミント(p3p006690)。
 情報誌にこの辺りの谷についての情報はなかったが、どことなくだが『ただの谷』として大して気にかけられていない印象があった。
 都市伝説だけがある谷。いわば幽霊が出るトンネルのようなものだ。そんななんでもない場所が……。
(なぜ『村』なのかしら。近くに元々村があったの?)
 疑問が解決するより先に、物理的な危機が迫る。
 イレギュラーズたちは、まずは迎撃を要求された。

●石化
 指先がぱきぱきと石化していく感覚に、義弘は眉を僅かに動かした。
「そっちは任せるぜ。話が本当なら相手がどこから沸いてくるかわからねぇ」
 義弘は一度姿勢を低くすると、バルーンヘッドの集団めがけて銃弾のごとく飛び出した。恐ろしい脚力によって自らを弾とし、広げた両手でバルーンヘッドの襟首をそれぞれ掴んだ。
「――!」
 気合い一発。バルーンヘッドを掴んだままコマの如く激しく回転する。
 残る個体もまとめてなぎ倒し、掴んでいた個体は遠心力で岩壁へと投げつけた。
 はっきりとした、人間を掴んだ感触。そして人間を叩き付けた感触だ。
 しかしどうにも手応えらしい手応えを感じない。
「こりゃあ……」
「と、危ねぇ!」
 シュバルツが義弘の側面から飛び出し、ナイフのように鋭い蹴りを繰り出した。
 革靴の先端がバルーンヘッドの胸を裂き、回転によって更に繰り出された蹴りがバルーンヘッドを突き飛ばす。
 バルーンヘッドを倒すのにそう難しいことは無かった。
 個体数もたいしたことはない。かなり極端な言い方をするなら義弘とシュバルツだけでも対応可能なほどだ。
 が、それで終わるとも思っていない。
「さっきの話を信じるなら、もっとわらわら出てくるんだろ?」
 振り向くシュバルツ。
 思った通りに、馬車の後部より現われたバルーンヘッド数体がふくらんだ頭を左右によたよた振りながら駆け寄ってくるのが見えた。
 対抗するように飛び出すショゴス。
 巨大な食虫植物のごとく変化した腕を振り込み、近こうとするバルーンヘッドを一撃のもとに食いちぎった。
 両手をだらんと下げて駆け寄ってくる個体に対し、腕ごと腰部分を食いちぎるというきわめてシンプルな攻撃である。派手に食いちぎられたバルーンヘッドはその場に倒れ動かなくなる。
 ショゴスはといえば、どうにも釈然としないという雰囲気を出していた。
 一方でルナールがフェアウェルレターで攻撃を開始。
 ドレイクの尻尾と呼ばれる有名な曲刀を二本華麗に振り回し、近づくバルーンヘッドを切り裂いていく。
「一発で当たればラッキー、ってな」
 ラッキーなのかそれとも実力ゆえなのか、ルナールの斬撃はバルーンヘッドを派手に切断し、地面に転がしていく。
 倒したバルーンヘッドたちは頭をしぼんだ風船のようにぺしゃんとさせて、人間の死体同様に転がった。いや、同様とはいえない。頭部のサイズは勿論違うが。もっと肝心ななにかが違うように思えた。
 その琴に考えが及ぶより早く、新たに突然発生したバルーンヘッドが馬車を『側面から』襲い始めた。
「いつの間に――」
「さあ、いつだろうね」
 イシュトカは自らにエンピリアルアーマーを召喚・装着すると、何かをしようとしたバルーンヘッドから商人を庇って立ち塞がった。
 腕がみるみる石化していく。
 これがバルーンヘッドの攻撃方法なのだろうか。しかし見たところ手を触れるでも何かを投げるでも、まして何かを詠唱するようにも見えない。
「……おや?」
 そこでふと疑問がわいた。
 先程からやけに反響して聞こえるかすれ声の歌。
 これはバルーンヘッドが歌っているものだとなんとなく考えていたが、バルーンヘッドの口はぼんやりと開かれているだけで歌を歌っているようには見えなかった。
 自らにキュアイービルの魔術を施しながら、イシュトカは考えを深めていく。
 同じように、アルファードもまた考えを深めていた。
 バルーンヘッドが遠くから突如沸いたように現われ、こちらへよたよたと駆け寄ってくる。
 対するアルファードは衝撃の青を使って迎撃。吹き飛ばす。
「『風船様』の出現方法は判明させたいところですね。風船といいますと上空か岩壁上から落下が思い付きますが、馬車の全力疾走にもついてくるとなりますと……」
「同じ速度で走っていると? なら、どこからともなく現われる意味はなんだろう」
 例えば狼のように高速で走り馬車に追いつけるなら、わざわざ回り込む必要はない。追いついて食らいつけばよいだけの話である。
 都市伝説の内容に嘘があると考えるのはこの場合余計なことになってしまうので、あくまで内容を信じるとして……。
「伝説の通りに今も童歌を歌っておいでなのです、何か意味があるのでしょうか」
 耳をたててみるも、歌の内容はよく聞こえなかった。というより、同じかすれ声がリピートし続けているようにも聞こえる。
「なんなのかしら、一体……」
 エスラははじめファミリアーを使って航空偵察を行なっていたが、バルーンヘッドなんてものは見ていない。上空からでもこのシルエットはわかりやすすぎる。
 今は必要のないもの(集中力をそちらにさくのは非効率になるかもしれない)と考えて五感共有をきっていた。どのみち、偵察にひっかかっていない以上どこかから走ってやってくるわけではない、だろう。
「上から飛び降りてくるって線はないわね。上空から見ていたけど、そんなものはなかったもの」
 遠くから走ってくるバルーンヘッドにロベリアの花を打ち込むエスラ。
 かなり簡単に吹き飛び、そして倒れる。
 そして間もなく新しい個体が現われ、こちらに駆け寄ってくる。
 まさか無限にわき出るのではと考えて、エスラはゾッとした。
 一方でモルセラは魔弾や衝術によって応戦しながらバルーンヘッドの違和感に気づきつつあった。
(この都市伝説の正体はいったい何なのかしら。地面に潜っていた? 空から降ってきた? 隠れていたのか湧いて出てきたのか歩いてくるのか……)
 思い浮かべた可能性はここまでの観察によって否定された。
 岩や土の地面が大きく割れたり穴があいたりという様子はなく、空からも降ってきてはいない。
 しかしその一方で、戦いを続けるにつれ『遠くから走ってくる』という状況が多くなっているように思えた。
 はじめはすぐ近くに現われ、危うい時には馬車の真横に突如現われたというのに、だ。
 その違いはなんだろう。はじめのうちは出来たのに後からは出来ないこととは。
 そして。
 決定的なこと。
 倒れたバルーンヘッドは、なぜ『一滴も血を流さない』のか。
 モルセラは、深く考える。

●風船村の都市伝説――風船谷の都市伝説
「ちっ、まだ来やがるか……」
 義弘は石化した左腕をぶら下げたまま、額にうかぶ汗をぬぐった。
 はじめはボーリングのごとくバルーンヘッドたちを蹴散らしていた義弘だったが、戦いが続くにつれて疲労は蓄積し、義弘の化け物じみたスタミナをもってしても息切れは免れない状況に陥っていたのだった。
 とはいえ身体一つで荒事を乗り切ってきた彼である。身体を石化させるなにかしらの術をかけてくるバルーンヘッドに突撃し、強烈なボディブローで沈ませた。
 後ろの仲間たちのこともある。簡単に倒れるわけにはいかないのだ。
 が、そんな彼が見たのは絶望的な光景だった。
 ずっと遠くから、風船のように膨らんだ頭を左右にゆすりながら駆け寄ってくるバルーンヘッドの集団。
 およそ5体。たいした数ではないが、これが幾度も補充され続ければこちらの疲労や精神的なストレスはます一方である。
 一応イシュトカとモルセラが回復を可能とはしているが、義弘一人の体力を1からフルチャージするのに約20発分が必要となる。状況的に見ても、あまり有効とは言えない治癒力だ。
 さらには【石化】による行動不能がきわめて厄介で、何かしらの対処をしようにもその対処そのものが失敗することもあった。
「へばってんな。もう少し踏ん張れ。鍛えてんだろ?」
 シュバルツがどこか皮肉っぽく笑って見せた。
 とはいえ彼もとっくにスタミナ切れを起こし、もはや気合いと根性で戦っているような状況である。
 ……いや、シュバルツの場合は気合いと根性のリソースが人よりずっと高い。こういう時ほど役に立つ。
 駆け寄ってきて再び微妙な距離から石化の術を集中させてくるバルーンヘッドたちに、シュバルツは急速接近からの膝蹴り。高速でさらなる蹴り技を別のバルーンヘッドへ叩き込んだ。
 稲妻のように駆け抜け、鋭い蹴りを直撃させていくシュバルツ。
「おいバッケル。こいつらについて他に何か知らねぇのかよ。弱点とか正体とか」
「ンなもんアタシが知りたいよ。アンタこそ何か知らないのかい」
「知ってたらとっくに教えてるっつー……」
 シュバルツはがくんと膝をついた。右足が石化し、引きずるようになったのだ。それでも無理矢理動かし、石とかした足で蹴りつける。
「一気にドバッと来ねえだけマシだな。ヤベえのはヤベえが、いきなり全滅するって程でもねえ……」
「………………」
 アルファードは馬車付近から通常攻撃で応戦しながら、バルーンヘッドの様子を観察していた。
「風船様の頭は勿論、目も気になるところですが……狙いやすいとはいえ風船部分を狙ってよいものか。些か気掛りではありますね」
 ここまで、アルファードたちは頭部への攻撃を意図的に行なわなかった。
 攻撃したらどうなるのか分からないからだ。
 一応『その次』の対策として、仮に頭部への攻撃にデメリットが生じるなら攻撃を控えると決めているが、そもそもアクショントリガーにかかっていないのでその対策自体が機能していなかった。
 加えていうなら、ここでいう不利益がいかなる状態を指すかも決まっていない。シンプルに考えれば頭が爆発なりして付近の味方へダメージが飛び散ることを不利益にカウントできるかもしれないが、それが敵にも同じように作用するなら利益分が上回る可能性もある。
「試してみないと分からないわね。どうする? 試す?」
 エスラが指を立てて見せた。マギシュートを無限に打てるくらいにはスタミナが継続するエスラである。いざとなればバルーンヘッドを一人だけ引き離して攻撃を試すこともできるだろう。
「それは……」
 判断に迷うアルファード。
 全員、不気味さや不思議さに警戒はすれど……いや、それゆえに、判断が保守的になりがちだった。
 一方でルナールは主体を格闘攻撃に切り替え、バルーンヘッドと戦っていた。
「燃費の悪さには目を瞑るしかない、っと……」
 幸い石化の効果を受け付けないため、ルナールはバルーンヘッド相手に安定して戦えていた。再生能力や充填能力も良い方向に作用していた。
「俺への回復はいい、他を優先してやってくれ」
 イシュトカにそう告げると、ルナールは再びバルーンヘッドの胸元を切り裂き打ち倒していく。

 戦闘がどれだけ続いただろうか。
 味方の消耗はじわじわと膨らみ、仲間たちの焦りも徐々にではあるが膨らんでいる。
 全て倒しきったかと思ったらまた3体のバルーンヘッドが遠くから駆け寄ってくる。
 冷静に考えてみると、駆け寄ってくるまでの時間が僅かにではあるが伸びているようにも思えた。
「まさか、無限に沸いて出てくるんじゃないだろうね……」
「子、怪力乱神を語らず」
 イシュトカが接近するバルーンヘッドへ銃撃をしかけながら語った。
「学のある者は不可思議なことについて語らないという意味だそうだが、それは殊更に仰々しく語られることによって怪異が影響力を増すからだとも、私は思うわけだ。彼らが旅人を取り囲む不思議もその類だと、私は考えている」
「……つまり?」
「大げさな話に惑わされず冷静に観察すれば、彼らは別に何もない所から突然現れるわけではない。目に付かないほど小さい状態で現れて我々を囲んだ時点で大きくなったか、それとも……」
 話を聞いてモルセラは周囲を一旦探ってみた。
 そろそろ山と積まれ始めたバルーンヘッドの不気味な死体以外は土と岩しかないが……よくよく、そして深く観察してみれば、岩にわずかなくぼみがあることに気がついた。
 まあ谷のことである。くぼみというよりは『最初に見たときよりほんの僅かにくぼんでいるような気がする』程度の些細なものである。
「寄生生物かこういう生き物なのか魔術の産物か……」
 戦い終わった後でも調べることはできるが、今回に関しては『今すぐに』知らねばならない。
「もしかしたら……」

 ここまでの状況を考え直してみる。
 はじめはすぐ目の前に現われた敵。
 戦闘が進むにつれ遠くから駆け寄ってくるようになったこと。
 底が無いかと思うほど次々現われるが、決して大量には現われないこと。
 倒すと頭がしぼんだ風船のようになること。
 そして今も聞こえている歌のようなもの。
 モルセラはある仮説をたてて、ショゴスに対応を求めた。
「……」
 ショゴスは無言で頷いて、身体の半分を巨大な口に変えた。
 駆け寄ってくるバルーンヘッドへ、飛びかかる。
 飛びかかり、そして『頭からまるごと』食らい尽くした。
 一体、二体、そして三体。
 立て続けに食らいつくし、そして……。
 もう、新たなバルーンヘッドは、現われなかった。

 分かったことはいくつかあった。
 バルーンヘッドは何者かに操られた人間の死体であること。
 死体は高圧縮された岩のような形で岩壁に張り付いていたこと。
 『本体』が頭の中にあるだろうこと。
 しかしその本体も戦闘を重ねるうちに摩耗し、徐々に数を減らしていたこと。
 そして今、完全なる消滅に成功したこと。
 全ての『バルーンヘッド』の撃破に、成功したのだ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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