PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<刻印のシャウラ>ヘビに睨まれ、ヘビを睨みながら

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●地方領主の屋敷
「他愛ねえな……」
 幻想辺境のとある町……。
 この地域の防衛の要である領主の館は、今まさに蠍の手に落ちていた。
 今や一大勢力となった蠍は、もはや盗賊とは言えない動きを見せていた。蠍の目的はもはや金や一時の権力ではない。
 木蛇のヤカルは、屋敷の椅子にふんぞりかえった。あたりには、使用人と、蠍の死体が散らばっている。
「やりましたね、ボス!」
「これで俺も、一国一城の主ってか? へっ……いいねえ。いいねえ。踊ってみるか?」
 足元の砂蠍の一員が、ピクリと動いた。
 まだ、蠍には息がある。
 だが、ヤカルは無表情に剣を振るい、男の息の根を止めた。
「戦いについてこれない、弱いやつは俺たちに必要ない。だろ?」
 ヤカルの暴挙に、部下たちは熱狂する。
「……へへっ、だからボスは最高だぜ」
「チッ、それはテキトーに片付けとけ。ウン」
 マクドランは、その様子を冷たい目で眺めていた。ヤカルのもとについてから、何度この光景を見ただろうか。感覚はすでに麻痺してしまっている。
 ……自分も、もはや蠍の一員ということなのだろう。
「次の作戦は?」
「下がれ。もうすぐ援軍が来る」
「貴族どもが鉄帝に夢中だからって、何もしてこないってことはないだろう。こちらにだって、たぶん敵が来る。……退却するべきだ」
「ああ?」
 ヤカルは言葉を止めた。マクドランは一瞬、斬られることを覚悟したが、ヤカルは思いのほか素直に引いた。
「ハ、じゃあ、おまえに任せるか。坊ちゃん。俺は寝てるさ。用が出来たら起こしてくれ。さて、出てけ」
 扉は鼻の先でしまる。
(どうするか……)
 逃げるか、耐えるか。マクドランは考えあぐねていた。もうすぐ別の勢力が、おそらくはイレギュラーズたちが駆けつけるころだろう……。

●一人だけの部屋
「くそが……」
 誰もいなくなった部屋で、ヤカルは腕を押さえた。かつては双剣を操っていたが、襲撃に失敗し、片方の剣をなくした。剣は新しいものをしつらえればよかったのかもしれないが、左手は満足に動かない。
「くそが、これからだ……これからだっていうのに……」
 死体に剣を突き刺した。

●イレギュラーズたちの出動
「なかなかどうして、派手な事をして来やがる。蠍の侵攻に、鉄帝国か。出来過ぎたシナリオでうんざりするぜ」
 そう言って、レオンは幻想の地図に手を伸ばす。
 勢力図に突き刺さったピンは、蠍の勢力図を示している。各地で起こる小競り合いの様子がありありと見てとれた。
「突然呼び立てて悪いな。今回の依頼は、領主の館の奪還だ。……ひいては、町ひとつの奪還、ってところか。ウチは政治的に中立だが、幻想王家、貴族から正式に要請が来た以上は――蠍の駆逐に手加減はいらねえ。だが、くれぐれも油断はするなよ。連中はもうただの盗賊っていうレベルを超えつつある」
 レオンは息をついた。
「こちらが向かうのと同様、相手も援軍を送り込んでくるだろう。蠍の部隊が、およそ30名。接近中だ。おそらく、合流されてしまっては手遅れ……勝ち目はないだろう。急いでくれ」

GMコメント

●目標
 砂蠍を撃退・もしくは討伐し、拠点を奪還する。

●状況
 砂蠍は現在、地方領主の館を占拠している。

 現在、夕方。天気は良好。時刻にして日が沈みかけるころ。
 もうすぐ蠍の援軍が到着する。それまでに何とか、拠点を取り戻したい。
 拠点を取り戻せば、それ以上の侵攻は起きない。援軍が来ても、蠍たちは撤退する姿勢を見せる。

 砂蠍は幻想側の戦力(イレギュラーズなど)が来ることは察しているが、もうすぐ援軍が合流するため、逃げるか、耐えるか、考えあぐねている。

●場所
 蠍に占拠された、地方領主の館。
 豊かな森に囲まれている屋敷。
 周りは森が生い茂っており、東と西へ道が伸びている。
 1階建ての広い屋敷で、入り口はいくつかあるが、廊下や部屋にある窓を割れば任意に出入りできるだろう。

 蠍は館の領主および使用人の多くを殺害。
 暴動で逃げ延びたものは、もう逃げきったため、生存者を気にする必要はない。

(砂蠍の援軍)
 開始から1時間程度で、東側から30名の蠍の援軍がやってくる。
 到着時間、人数は、プレイング次第で前後する可能性がある。

 「もたもたしていられない」ということと、「無理をして粘りすぎると戦闘の続行は可能だが、援軍がやってくるためにかなり危険」ということを押さえておいてください。

●蠍の行動
 イレギュラーズたちが攻勢を仕掛けてくると思うと、蠍は捨て身の攻勢に出る。
 イレギュラーズたちが防衛に回ると感じると、蠍は援軍を待って撤退する構えを見せる。

 上記の行動は、相手の動きから分かっているものとして扱って構わない。また、状況により変化する可能性がある。

●登場
木蛇のヤカル(片手剣)※現在重傷
 新生・砂蠍の一員。
 二本の曲刀を操って戦っていたが、先のイレギュラーズとの戦いののち、無理に幻想に攻め込んだことで重傷を負っている。
 片方の剣は戦いでなくし、今は片剣。
 射程は至近のみ。

 仲間を巻き込んでも構わず攻撃をすることがある。
 行動不能になった部下を口封じに殺すこともある。

 強敵であることに変わりはないが、今ならばあるいは……。
 重傷状態であることは、依頼開始時、イレギュラーズは知らない。

 弱いものは味方であっても文字通り「斬って捨てる」。

 現在、部屋で休養しているが、腐っても盗賊。物音が起きればすぐに目覚める。手ごわい相手であることには変わりはない。

マクドラン
 砂蠍に併合された元山賊団の親分の息子。
 現在、ヤカルに代わり指揮を執っている。攻めるべきか退くべきか、判断に迷っている。戦いの中で、ずいぶんと慎重な性格になった。
 毒、または麻痺毒を仕込んだ剣と弓を扱う。
 蠍を快くは思っていないが、イレギュラーズたちに寝返ることはない。難易度は難しいが、こちらも、上手くいけば倒せるかもしれない。

部下たち×15
 今回の蠍は、いずれも館を落とすときに脱落しなかった精鋭である。ただし、手傷を負っている者もおり、万全ではない。蠍への忠誠心は高い。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
 特に、蠍の動向には不明点が多いです。
 援軍の数、援軍の時間については裏は取れていますが、立ち向かってくるか、撤退を決めるかはわかりません。イレギュラーズたちの動向により、柔軟に作戦を変えてくるでしょう。

  • <刻印のシャウラ>ヘビに睨まれ、ヘビを睨みながら完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年11月15日 21時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)
大悪食
レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)
赤々靴
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
山賊
ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)
生満つる夜の守人
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
アンシア・パンテーラ(p3p004928)
静かなる牙
ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)
極夜
飛騨・沙愛那(p3p005488)
小さき首狩り白兎

リプレイ

●沈みゆく日
「拠点奪還か。罠が仕掛けられてると厄介だけど……なるようになる、か」
 夕日に潜む星は見えないが、星々と星界の魔杖は静かに『星を追う者』ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)の傍らにある。
「施設への突入襲撃か……戦闘員時代を思い出すな。近代的戦術で優位を取れるのは旅人の強み、精々活用しよう」
 ユキヒョウの姿にも似た怪人、アンシア・パンテーラ(p3p004928)はしなやかに伸びをする。かつてのアンシアは、世界征服を企む悪の秘密結社に所属していた。
「砂蠍をのさばらしには出来ないっすね。増援で手が付けられなくなる前に、町を奪還するっすよ!」
『特異運命座標』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)はひらりと前へ踏み出す。
「めんどくせぇ。短期決戦だ。なるべく音をたてないようにはするが、俺は正面から行く」
『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)は豪快に山賊の斧を振った。小気味よい音が風を斬る。
「前衛だ。文句はねぇな?」
「もちろんっす」
「ああ」
『簒奪者』ヴェノム・カーネイジ(p3p000285) と、『極夜』ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201) が答える。
「侵入の案内は任せてくれ」
 アンシアの返事に、グドルフは悪人らしい笑みを浮かべた。表では傭兵を名乗るグドルフは、誰よりも山賊らしい。
「まだ健在だったんだあの二人。とっくに不和起こして潰れてるものかと思ったけどいやはや」
『蒼ノ翼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535) は肩をすくめる。
「……仏の顔も三度まで。それとも三度目の正直? 言い方はどうでもいいですけど……今回こそマクドランお兄さんの首を狩るのです」
『小さき首狩り白兎』飛騨・沙愛那(p3p005488) は胸の前でぎゅっと手を組んだ。手には、禍津刀「首断」が握られている。
「……他人をここまで想ったのは初めてかも?」
 ふと、沙愛那は首をかしげる。
「何か因縁がありそうだな」
 グドルフは面白そうに笑う。
「はい。何度か戦いました。この……「恋」にも似た想いでお兄さんの首を狩ります、首狩り白兎の名に誓って」
「手負いの獣を放置しておく訳も無しってね、ちゃっちゃと乗り込んで片付けようか」
 悪魔ペッカートと半魔ルーキスは視線を酌み交わす。
「狩り、開始っす」
 イレギュラーズは暗闇に紛れる。
(さて「預けてたモン」を取りに行くとするっすか)

●侵入経路
「援軍が来たら頼む」
「よろしく」
 ウィリアムとルーキスの二羽の鳥は、ゆるやかに交差して飛び去っていった。
 かすかな羽ばたきの音が消えると、夕暮れの森は静かなものだ。
 沙愛那の研ぎ澄まされた嗅覚が、マクドランの気配をほんのかすかにとらえていた。白い耳がほとんどゼロにも近いような物音を受け止め、そちらを向く。
「できるならば頭のみ潰して手早く済ませたいが、いきなり見つかりはすまい」
 アンシアが冷静に分析した。
 刃を振り払う感触を思い描いて、沙愛那は身震いする。待ち遠しい感触。
 身を潜めながら森を進むと、屋敷の正面が見えてきた。ヴェノムは器用に枝を伝い、木の上に身を潜める。
(ちょっと、人数が多いっすね)
 敵は三人。物音と気配からして、見えない位置に二人。
 乗り込むのであれば、回り込んだ方が良いだろう。ヴェノムが手で合図をすると、仲間たちは進行方向を変える。
 裏手には、見張りが一名。
「おらあっ!」
 グドルフが思い切り見張りに組み付き、格闘で応戦する。
 敵も歴戦の蠍だ。素早く奇襲に対応しようとしたが、頭上からはヴェノムの襲撃があった。
 体重を乗せたインパクトソードの一撃……いや、これすらも囮だ。視覚外から伸びてきた触腕に、思わず姿勢を崩された。
「行くぜ!」
「梅雨払いは任せろ」
 ペッカートとウィリアムの魔弾が、敵へと降り注ぐ。
 蠍は、手傷を負いながらも館のほうへと走り出す。
 だが、沙愛那が素早く回り込み、刃で足を切り裂いた。
「侵入はまかせる」
 ルーキスにレッドは神妙な顔で頷く。
「もたもたしてる暇はないっすね」
 レッドはじっと足を止め、壁まで近づくと、透視で中を覗き見る。
 屋内に見張りの影はない。いくつかの窓を検討し、鍵が甘い一つに手を伸ばした。手際よく作業を進めると、軽い音がして鍵が開く。
「おっ、やるな」
 グドルフがにやりと笑う。
 ちょうど、ウィリアムの魔弾が見張りの蠍を打ちのめしたところだった。
 アンシアが半分ほど空いた窓から器用に室内に滑り込み、窓を完全に開け放つ。
「こういうの少しドキドキするっす」
 レッドははにかんだ。

●中へと
 見張りを倒したイレギュラーズたちは、屋敷の中へと侵入を果たす。
「警備システム等がない分、セキュリティは薄い……か?」
 アンシアは間取りをぐるりと見回す。
「頭目は上等な部屋に陣取るだろうし、警戒するなら手勢を置ける広間だ」
 アンシアは外観から知った情報と、今の状況を統合して進むべき道を探っていく。
「……さすがに、そろそろバレたっすかね?」
 ヴェノムはちらりと廊下の前方をうかがった。
 騒ぎを感知した蠍がいるようだ。だが、相手から仕掛けてはこない。廊下の向こう、一体が待ち伏せしている。
「ちょっと手伝ってもらうぜ」
 辺りには使用人と思しき人物の死体が転がっている。
 ペッカートの霊魂操作により命を下された魂は、がたがたと窓を揺らした。一瞬だが、蠍はそちらに気をとられる。
 レッドはエルドラドを逆手に持ち、奇襲攻撃を仕掛ける。
「ぐおっ……」
 そこへアンシアが駆け寄り魔力撃を撃ちこんだ。
「不法侵入失礼しまーす」
 ルーキスが堂々と廊下に姿を現し、蠍に向かってライトニングを放った。
「加勢する!」
 ウィリアムもそれに続く。
 二本の雷撃が、廊下を揺るがしてあたりに轟く。奥に隠れていた敵を巻きこみ、二名の蠍はまともに雷撃を浴びた。
 一人は、息も絶え絶えとなった。
「なぁ、ここで諦めたらどうだ? 君のボスの手を煩わせる前にさぁ」
 ペッカートはわざと破魔の杖をもう一人のほうへと向ける。
「どうするっすか? 砂蠍万歳と言いながら華々しく散るっすか?」
 レッドの言葉に蠍は答えず、返事の代わりに武器を振るった。
「良い覚悟じゃねぇか」
 グドルフが斧を振り下ろす。
 廊下の奥へと、一人は逃げのびていく。
「追うか?」
「合流する前に、追いかけるっすか」

●ドラン山賊団の子
 イレギュラーズたちは逃げる蠍に追いついた。
 援軍は一名。思ったほどはこない。どうやら、蠍は籠城を決め、持久戦に持ち込む算段らしい。
 アンシアが吠え掛かると、マジックフラワーが咲き乱れる。火花を散らして、あたりは一瞬、夕日よりもまばゆく輝いた。
 ヴェノムが目ざとく手傷を負っているほうの1名に追撃を加える。
「やっ!」
 レッドのディスピリオドが、相手を地面に引き倒した。
「おらっ!」
 レッドが飛びのくと同時に、グドルフが思い切り斧を振り下ろす。
 鮮血が舞った。
 蠍はちらりと後ろの扉を見る。だが、何かを判断をする暇もなく、ウィリアムのライトニングが直撃する。
 蠍は素早く接近し、ルーキスの懐に入り込んでナイフを振り上げる。飛び掛かり、見下ろした姿勢になったと一瞬は思った。
「近寄ればいけると思ったー? 残念でした、それなりに痛いよ」
 だが、その優位は呆気もなく崩れ去る。ルーキスは降魔の禁書をまくり、神秘攻撃をしかける。気が付けば、蠍は地面に倒れて見下ろされていた。
「死ぬまで戦いたいなら止めないけどな。加減は出来ねえぞ」
 ウィリアムが言った。
 じりじりと後退しながら、蠍は部屋に逃げ込んだ。
「気を付けろ」
 アンシアが仲間に警告する。
 そこは広間だ。
 予想した通り、マクドランと部下たちが陣取っていた。
「イレギュラーズか……出遅れたか。だが、ここでしとめる」
 マクドランは弓を引く。蠍たちは、構えて動かない。グドルフは、マクドランの矢を斧の刃で受け止めた。
「ハッ、大した事ねえなあ!? てめえのオヤジも、所詮その程度だったってこった!」
「貴様、親父を知っているのか?」
「ドラン山賊団──ああ、知ってるぜ。小悪党もいいところの三下どもだったがな。だが、まさか蠍どもに成り下がるとはねェ」
「……!」
 グドルフは思い切り斧を振り上げると、そのままの勢いで家具ごとぶちかます。吹き飛ばされた部下と共に、マクドランは地面に倒れる。
「ゲハハッ! 三下野郎が、二度とおれさまのシマで暴れられねえようにしてやるよ!」
 グドルフの戦い方は、まさに山賊らしい、山賊の戦い方だ。誰にも屈せず、自らの腕で切り拓いてきた者の戦い方だった。
 マクドランは、怒りの中に嫉妬にも似た感情が混じることに気が付いた。
 マクドランは蠍に下り、死線をくぐり抜けて戦い方を知った。強くもなった。だが、この力は借りものだった。
「多少名の知れたドラン山賊団の子と噂で聞いてどんな人か気になったっす。山賊らしい誇りや信念、お互い生き抜き合う仲間の絆が見れると期待してたっすけど」
 レッドのディスピリオド。レッドは一気に踏み込み、恐るべき反射神経で、猟犬のごとく蠍に飛びつく。しかし、その攻撃はマクドランではなく手下を狙っている。構えたマクドランは、あてが外れて一瞬虚を突かれた。
「志が無いこんな期待外れの落ちぶれ者見る価値ないっすね!」
 敵を殺せ、と感情が叫ぶ。だが同時に、冷静になれと頭のどこかがささやいていた。
(時間さえ稼げば……そう、時間さえ)
 マクドランたちは防戦に入り、じりじり後退する。
 完全な退却ではない。狙うは、ヤカルとの合流だ。
「はっ、腰抜けが!」
「ここは通さない……」
「すっかりお兄さんも砂蠍に……ヤカルの同類です。あの世で部下さんも泣いてるのでは?」
 そこに立つ女性が誰であるのか、マクドランは一瞬気が付かなかった。
 沙愛那は、大人びた姿をとっている。
 だが、戦いぶりを見て分かった。容赦のない攻撃。刃を合わせれば、それは確信に変わる。20歳ほどに思えるこの女性は、かつて刃を交わした白兎の少女である。

●遅れてくる蛇
 事態は、蠍が辺りの家具を手当たり次第になぎ倒しながらのゲリラ戦と相成っていた。
 一体の蠍が姿を消したかと思えば、また別の場所から現れる。だが、イレギュラーズたちはよく応戦していた。一体、二体と蠍は倒れていく。
「長いものには巻かれる。わかる、わかるぜ! ただ君は裏切り気配が微塵もない。ツマラネェ」
 ペッカートのピューピルシールが、マクドランの動きを阻害する。
「ぐっ!」
 斬りつけて反撃しようとしたところに、閃光がとどろいた。研ぎ澄まされたルーキスのライトニングだ。
「一回で足りないなら何回でもあげるよ」
 レッドが素早く加速して、また一体をしとめる。
「これも因果応報ってやつだね」
 ルーキスは満足そうに頷く。
「そろそろ終わりにしようぜ!」
 ペッカートが糸を空に撒いた。マリオネットダンス。見えない糸が絡まり、マクドランは思うように身動きがとれない。
 ペッカートは、さらに攻撃を進める。にやりと笑い、攻撃を呪術に切り替える。
 体勢を立て直したところで、ウィリアムの翔星の剣舞……星の剣が軌跡を描き、マクドランを貫いた。叩き落とそうとするが、剣は美しく舞い、まっすぐにウィリアムのもとへと戻る。
「よそ見してる暇はないよ」
 ルーキスが再びライトニングを放つ。
 部下のもう一人が倒れた。

 蠍たちは後退していく。
 一つ廊下を抜けて、戦場は別室へと移り変わっていた。
「来るっすね」
「上っす!」
 サポートに回り、部下たちを払っていたヴェノムが動きを止めた。レッドが叫ぶ。大物の気配だ。
「ちっ、生け捕りにしておくか」
 グドルフは、手傷を負った蠍を扉に押さえつけた。
 敵だろうと見方だろうと、男ならそうすると思っていた。グドルフの狙いの通り、一刀が扉を貫いた。
 ヤカルだ。ヤカルは、扉を部下とともに斬って捨てる。
「なんだ、味方か」
「ハ、ウワサ通りの野郎だな」
「せっかく人が気持ちよく寝てたってのによ」
 ヤカルは口の端をゆがめて笑う。
 真っ先に飛び出していったのはヴェノムだった。洗練された動き。爆彩花が、バチバチと弾けて戦場を貫く。
 ヤカルもそれに応戦する。
「怪我、狙うすよ」
 何度か打ち合う中で、ヴェノムは、ヤカルが手傷を負っていることを見抜いていた。庇う仕草をついて、揺さぶるように攻撃を仕掛ける。
「……」
「あんた、ビビってるすね。失う事を。命を。地位を。拠り所だった「力」が揺らいで恐れてる」
 ヴェノムはまっすぐに獲物を見すえる。
「今なら秒で殺せる」
「言うじゃねえか」
「あん時の「続き」だってなら。賭けて貰う事になるすよ。命」
「上等だ、殺してやるよ」
 ヤカルは一刀を叩きつけた。だが、手傷を負ってもヴェノムは恐れる気配がない。

●蛙の子は
 沙愛那は数体目の部下を斬り伏せて、マクドランに向き直った。
「借りがあんだろ。ひと思いにやっちまえよ」
 グドルフがマクドランの相手を譲り、ヴェノムへ続いてヤカルのほうの対処へと回る。
「さあ、お兄さん……殺し愛を始めましょう」
 沙愛那の攻撃は、変化に富んでいる。斬撃かと思いきや、刀を囮にした沙愛那ちゃん★キック!により、爆風が吹き荒れる。
(ここは、斬りこんで引いたところを退却する……っ!)
 マクドランは剣を構えて突進する。
 沙愛那はふわりと微笑んだ。
 避けない。もとより、避ける気がないのだ。なりふり構わずに武器を持ち上げる。
「どうし、て」
「お兄さんの首を狩れるなら何でもします」
 マクドランは目を見張る。
「さよなら、お兄さん……私の初恋の人」
 沙愛那のオッドアイは涙に濡れていた。
 この少女は。女性は。白兎は、本気で自分との別れを惜しんでいる。そうでありながら、同時に殺すことをいとわない。
 どう表現すればいいかわからない。マクドランはこんな風に、狂った気持ちを知らない。
「ッ……かはっ」
 禍津刀は横一文字に動く。
 一撃。
 クラッシュホーンにより、鮮血が飛び散る。
 マクドランはもがき、手を伸ばした。沙愛那もまた、マクドランの攻撃で深く傷ついていた。
 相対する二人は、手を伸ばす。
「俺には、まだ……」
 首狩り兎は、血に濡れた両手で、首を抱きしめ、その場に崩れ落ちた。
 沙愛那の姿はもとの少女の姿に戻っている。
「多少の足しにはなるでしょう」
 沈む夕日の代わりであるかのように、ルーキスが天球を召還する。ⅩⅩⅩⅥ:蒼梟の天球。偉大なる悪魔が魂と共に遺した天球儀。零れ落ちる光が、仲間を癒した。
「立てるか?」
 ウィリアムのハイ・ヒール。
 沙愛那は今は、立てない。だが、また悪を狩るために立ち上がることだろう。

●タイムリミット
「よお、ヘビ野郎。おれとも遊んでくれや」
 ヴェノムとの舞うような剣の読みあいに、グドルフの豪快な斧が加わる。
 グドルフの斧は、当たれば致命傷だ。器用にかわそうとしてもそこにはヴェノムがいる。さらに手の空いたルーキスが雷撃をない交ぜてくる。
 結局、手傷を負っているヤカルは攻撃の手を絞られ、実質の一択を迫られる。そんな場面が続いた。
 ヤカルとヴェノム、そしてグドルフは互いに引かなかった。部下の数もずいぶんと減っていた。
 グドルフの一撃が、腕に深く突き刺さった。
 ヤカルは構わず、一刀を残酷に振るう。
 だが、ヴェノムは恐ろしくはなかった。
(僕には、失う物も。惜しむ物も。何もない。だから奪う)
 土煙が上がる。
 二度目だ。ヤカルは膝をついた。二度目か。
「退くなら「見逃して」やるすよ。怪我を治して。僕好みの得物を用意して来ればいい」
 ヴェノムは淡々と敗北を突き付ける。
「今日、奪うモノはアンタのプライドだ」
「テメェ……」
 かすかなにらみ合い。ヤカルの腕からはとめどなく血があふれている。
「チッ、預けておいてやるよ。だが、次はこんなもんじゃねぇぞ」
 捨て台詞を吐き、ヤカルは身を反転させる。
 追おうとするイレギュラーズだったが、館の窓からウィリアムの烏、次いでルーキスのファミリア―が飛び込んで急を知らせる。
 援軍がやってくるようだった。
「……退かざるを得ないか」
 アンシアは部下の一人にとどめを刺し、顔をあげた。
「さあさ、時間もないし包囲される前に撤退だ。これ以上面倒事になる前に帰るとしましょう」
 ルーキスに、仲間たちは頷いた。
「これでやる気無くして帰ってくれたらいいっすけど」
 レッドが蠍の部下らの身体や遺留品を窓に並べる。
「蠍の末路らしい光景じゃねぇか」
 ペッカートがぐらついた木を魔弾で倒し、簡易的なバリケードを築いた。
「来るってわかっててもうんざりする。最近は盗賊団に就職するのが流行りなのか? 人生終わってんな」
「蠍に尻尾振るようじゃな」
 グドルフは皮肉交じりに言った。

 ここで撤退、とあいなった。だが、こうなった以上はこの判断は正しかっただろう。とどまっていれば命すら危うい。
 イレギュラーズたちは、館を取り戻すことは叶わなかった。しかし、マクドランを討ち、ヤカルを退け、蠍の戦力に打撃を与えた。
 蠍との一件に決着がつくのは、もう少し先になるだろう。

成否

失敗

MVP

なし

状態異常

飛騨・沙愛那(p3p005488)[重傷]
小さき首狩り白兎

あとがき

蠍依頼、ともあれお疲れ様でした。
いかがでしたでしょうか。
苦労して作った敵NPCに、かっこいい口上や、思いをぶつけてもらえる瞬間というのは、GMをやっていてとても嬉しい瞬間です。
ありがとうございます。
またいずれ、近いうちにお会いできましたら。

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