PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<刻印のシャウラ>ハーレイと四十人の盗賊

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「はあ……」
 酒場の灯火の下、男は大きなためいきをついた。
 見た目はうわついた若い男だ。街で出会ったらなるべく視線を合わたくないタイプの。彼の名はハーレイ。この盗賊団の頭領だ。
 傍らで酒を食らっていたむくつけき野郎どもが寄ってくる。
「アニキ、そんな暗い顔じゃノンノン。いつもの行こうぜ!」
「そうだな……気遣いありがとよ、アンディ。それじゃ行くぜー?」
 ハーレイが立ち上がるとホールにいた野郎どもが一斉にジョッキを掲げた。多い。数にして四十人はいるだろう。

「能ある鷹は?」
\爪を隠す/
「二兎追う者は?」
\一兎も得ず/
「両方知ってる俺様は!?」
\\\『いいとこどり』のハーレイさま///

「はあ……」
 せっかくあげた気勢が本人のためいきでつぶれた。
 少し離れた席にいる手下たちが抑えた声で会話する。
「元気ねえな、アニキ」
「『新生・砂蠍』の上役から村を焼いてこいと命令されたらしい」
「どうしたんだ。普段のアニキなら一も二もなく焼き討ちにいくぜ」
「それが……村というより集落でな、アニキが思ってたよりぜんぜん小せえところなんだよ。場所も山の中で目立たねえ。交通の要がどうとか上役は言っていたんだがな。やりがいがなさすぎてミートパイのはしっこだけ押し付けられた気分なんだとよ」
「なるほどな。それでアニキはあんなに落ち込んでるのか。だが、どうあがいたって上役には逆らえねえから、アニキには気持ちよく焼き討ちしてほしいな」
 ツッコミは不在であった。なぜならここにそろっているのは全員クズだからだ。そして部下が上司を思う気持ちも、奇妙なことにまた本物だった。ハーレイの持つ魔力じみたカリスマが虎の如き男達を犬のようになつかせてしまうのだ。ハーレイはジャーキーをやけ酒でながしこむと、げっぷをしてソファへ寝転んだ。
「まったくハーレイ盗賊団も見くびられたもんだぜ。キディちゃんには逃げられるし、まずいところをくわされるし。今回の大攻勢、犬だって骨くらいもらえるだろうぜ。それが俺にはマッチみたいにすぐ燃え尽きそうなしけた集落ときた」
「アニキ……」
「俺が馬鹿にされるのはかまわねえ。だが、俺『たち』が馬鹿にされるのは我慢ならねえ」
「アニキ……! うれしいですぜ! ああせめてイレギュラーズが駆けつけてくるような大事件に関われたらよかったのに」
 手下の口からぽろりと出た言葉。ハーレイは霹靂に打たれたように身を起こした。
「イレギュラーズ! それだ! でかしたレンズ、よくやったぞ!」
 急にいきいきとしだしたハーレイの思考についていけず、レンズと呼ばれた男はきょときょとと周りを見渡した。
「つまりだな」
 と、ハーレイは一息置く。
「イレギュラーズの名声を利用するんだ。我等ハーレイ盗賊団ここにありって名声のあるイレギュラーズに吹聴してもらうのさ。そのために奴らと一戦を交える。ごほうびは集落の民の命だ。俺たちが勝てば大団円。集落は全焼。イレギュラーズは適度にボコったところを噂を広めるためにわざと逃してやる。イレギュラーズが勝ったところで、俺たちはとんずらこけばそれでいい。というわけで……」
 ハーレイはレンズを指さした。
「ちょっと依頼だしにいってこい。俺たちを捕まえてくれってな」
「へっ!? あ、あっしがですかい?」
「言い出しっぺだからな。俺たちは集落へ先回りして待ってるぜ。さて、今回はどんなキディちゃんがくるかな、楽しみだぜえ……」
 ハーレイは気に入った相手がいればすぐに盗賊団へ勧誘する。ナンパの相手は性別を問わない。そもそもこの盗賊団だってナンパされた野郎どもの集まりなのだ。
 別の男がハーレイへ声を掛ける。
「アニキ、焼き討ちの件はどうします?」
「もちろんやるぜ、イレギュラーズの歓迎パーティーだ! ただし村人は全員とっつかまえて縄でひっくくってから! 殺すんじゃねーぞ、交渉の質にするからな!」
「了解!」
「イレギュラーズとやりあうときもほどほどを心がけろよ。死んだら泣くぜ、俺がな!」
「「了解!!」」
 いつものアニキが戻ってきた。盗賊団は意気揚々と街へくりだしていった。

●というわけで
「つまりいわゆる、マッチポンプだね」
 さすがの『黒猫の』ショウ(p3n000005)も、こういった経験は少ないのか、ややひきつった笑みを浮かべていた。
 まさか犯人から捕まえてくれとの依頼があるとは。
 隣ですまなさそうにしているのはショウをゆうに超える巨漢だ。そんな彼がぺこぺこしているのはどことなくユーモラスではあったが、言っていることはぜんぜん笑えない。
「さて、状況を整理させてもらおうか」
 ショウはいつもの顔に戻り、依頼書を開いた。
「依頼人はそこの彼。『ハーレイ盗賊団』の一員、レンズだ。依頼の内容は集落の焼き討ちを止めてくれってことになるのかな、一応。団員への対処は、できれば捕縛を望んでいるようだよ。
 正直はときに悪徳だね。他人の生活を壊しておいて自分たちだけは助かろうなんて厚顔無恥にもほどがあるけれど、依頼人の頼みなら仕方がない。捕縛を優先してくれないか」
 まあそういうことなら、としぶしぶあなたは同意する。
「でもまあ戦場では何があるかわからないしね。捕縛するつもりでも『ついうっかり力加減を間違えたり』『敵が強すぎて本気を出さざるをえなかったり』するかもしれないよね」
 ぺこぺこしていたレンズがショウを見据えた。その背からはうっすらと殺気が立ち上っている。
「ま、今のは余談だよ。
 本題を続けよう。砂蠍が幻想へ根城を移して『新生・砂蠍』を名乗って久しいのは知っているかな。奴ら、どこからひっぱってるのかわからない軍資金とコネでとうとう国盗りを始めたようだよ。盗賊団じゃなくて強奪団だね。『新生・砂蠍』のキング・スコルピオは南側から幻想を食い荒らしていっている。彼らの進行は速く的確だ。放っておけば南部は次々と攻め落とされるだろう。
 今回の戦場は山間にある十軒ほどの小さな集落だが、交易の拠点になっているところさ。規模は小さいけれどないと困る集落だ。ここが落ちれば交易路が絶えてしまうのは目に見えている。君たちには集落を焼き討ちから守ってほしい」
 なにか質問は? と、言いたげにショウはあなたたちを見回す。そうそう、とショウは続けた。
「こういう時のためのお貴族サマだろうって? いい質問だね。じつは『サリューの王』クリスチアン・バダンデールの諜報によれば、どういうわけか北部国境線で鉄帝が軍を動かす兆しを見せているそうだ。北と南、両方を相手取るのは厳しいってくらいはわかるよね。そこで君たちイレギュラーズの出番なわけだ」
 期待してるよ。そう言ってショウは集落のありかを刻んだ地図を広げた。

GMコメント

●ロケーション
昼間。山間にあるひらけた平地。円を描くように家や小屋などが立ち並んでいます。
集落の住人は全員、中央にある広場へ集められています。
イレギュラーズが到着すると同時に、家屋に火がつけられます。
広場には井戸があります。火は消さないと燃えていく一方なので、活用してください。

●ハーレイ盗賊団
棍棒による近距離担当が20人。
神秘攻撃による中~遠距離担当が20人。
十人一組の4組に分かれて集落の中を移動しながら火をつけていきます。
イレギュラーズを見ると襲いかかってきます。
ハーレイへの忠誠心が高く、彼の号令に盲目的に従います

ハーレイはどの隊にひそんでいるかはわかっていません。いませんが彼のことなのですぐに姿を現すでしょう。

●『いいとこどり』のハーレイ
さまざまな号令の使い手です
号令は二人以上の盗賊に対して効果を発揮します
メインは
・特攻せよ(号令を受けた盗賊が捨て身の一撃を繰り出します
・俺の盾になれ(号令を受けた盗賊がハーレイのもとに集まり彼をかばいます
・俺の剣になれ(ハーレイの号令に応じて集中砲火を浴びせます 人数によってはパンドラ必須レベルです
・転進せよ(逃亡します
HPが50%を切るか、手下が10人以上殺された場合逃亡します。
捕縛はカウントに入りません。

ようこそこんばんは、みどりです。
チャラ男盗賊団ふたたび、です。なんか数が増えてますね。もし次があれば百人超えてるかもしれません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

<蠢く蠍>『いいとこどりの』ハーレイ盗賊団を読んでおくと、にやりとできるかもしれません。

  • <刻印のシャウラ>ハーレイと四十人の盗賊Lv:2以上完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年11月15日 21時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

フロウ・リバー(p3p000709)
夢に一途な
武器商人(p3p001107)
闇之雲
ニル=エルサリス(p3p002400)
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
天音 白雉(p3p004954)
極楽を這う
蓮乃 蛍(p3p005430)
鬼を宿す巫女
ガーベラ・キルロード(p3p006172)
noblesse oblige
白薊 小夜(p3p006668)
永夜

リプレイ

 イレギュラーズが村へ到着すると、村の入り口には派手な格好をしたチャラそうな男が取り巻きに見守られて立っていた。
「……ハーレイ」
『キディキュート』天音 白雉(p3p004954)がぽつりともらす。まさか向こうが待ち受けているとは思いもよらなかったのだ。
「よっ、キディちゃん。入団しにきてくれたのか?」
 そういうと男――ハーレイ――はくくっと喉の奥で笑った。
「ダーメだよお。そんな殺気ピリピリさせてちゃ。見つけてくれって言ってるようなもんだぜ。この世界はメリーゴーランド、楽しんでいこうぜ」
 白雉があきれてため息をつく。
「まさかいきなり頭が出てくるなんて」
「ちょっとしたスリルをご提供できたかな?」
「ああ、なかなか楽しめた」
『闇之雲』武器商人(p3p001107)が一歩前に出る。
「戦うこと自体はかまわないんだけどね、その前に話をしたいと思っていたところだよ」
「話?」
 ハーレイが応じる。
「ええ、お話し(交渉)しにキディが参りましてよ、ハーレイ」
「なんだ入団じゃないのか、残念だな。お待ちかねのイレギュラーズを相手に立ち話もなんだ。とりま広場まで行こうか」
 一行は盗賊団へ先導されて村の広場へ足を踏み入れた。
 縛り上げられた村人がいる。ざっと見て二十人ほどだろう。ハーレイは転がっていた樽に腰掛け、部下に命じてそこここの家から椅子を持ってこさせた。見た目も大きさもバラバラな椅子が用意され、イレギュラーズはそれに座らざるを得なかった。
 椅子を持ってこさせたのはハーレイの計略の一部なのだろう。相手が穏健に出た以上、こちらも武器を抜くわけには行かない。礼儀という名の見えない鎖でこちらの行動を縛っているのだ。また、村人を交渉の証人にすることも考えているのだろう。ただ計算してやっているのか、素でやっているのかはつかみ損ねた。
(内緒で話をすることができませんね……これも計略のうちなら見直しますが、本人を見ると何も考えてない様子。ああ、調子が狂います)
 白雉が不機嫌そうに鼻へしわを寄せる。
(ええい、やつらのペースに飲まれるとは不覚! 砂蠍の影響で国が疲弊し民が犠牲になっているのに……この様な愉快犯が如き行いを平然と行うなど)
『農家系女騎士令嬢様』ガーベラ・キルロード(p3p006172)は周りで待機している盗賊どもを一瞥し、くやしさに顔をゆがめた。
(……度し難い屑共ですわ! キルロード家の名の元に拷問……いえ、更生させて立派な「農民」にしてあげますわ!)
 怖い。
 ニル=エルサリス(p3p002400)は立派な椅子に深く腰掛け、足をぶらぶらさせながらハーレイを見た。
(パームワイン泥棒が動きを見せたと思ったら村人を人質にして村を焼き討ちか。徐々に悪い方向にスケールアップし始めてるわね。今度こそどうにかしないと次は何をしでかすことやら)
「頭が痛くなるような状況ですね」
『夢に一途な』フロウ・リバー(p3p000709)が嘆息する。イレギュラーズと盗賊団、間に村人を挟んでのにらみ合い。緊張した空気がはりつめていく。
(大人数の相手と人質の存在はまだいいとして、砂蠍側から依頼が出るなど想定外もいい所です。人質は勿論、行動が制限されてしまうのは歯痒いですが、今は付き合うしかなさそうですね)
 こわばった空気のなか、ひとりのんびりとしているハーレイへ顔を向け、白薊 小夜(p3p006668)は気配を確かめる。いざとなったら真っ先に切りに行ってやろう、なんてことを考えながら。
(盗賊なんていつもなら切って捨てるところだけれどそういうオーダーなら仕方ないわね、本当に仕方のない……まあ多少の事故はあるかもしれないけれど……ね?)
『ガスマスクガール』ジェック(p3p004755)の隣で、『鬼を宿す巫女』蓮乃 蛍(p3p005430)はあわあわしていた。
(茂みに隠れているはずがっ! で、でも誰の血が流れることもなく交渉のテーブルにつけたのは大きいし、でもでもっ。村人さんたち苦しそうです。こんな酷いことを、どうして平然と……。これが無邪気な悪意というものなのでしょうか。彼らの行いは絶対に阻止しないと……っ!)
「で、話ってなんだ?」
 ハーレイが水を向けた。白雉は少々緊張した趣で、武器商人はいつものつかみどころのない笑みで、ハーレイの言葉に応じる。
「ヒヒ……これは我(アタシ)と白雉だけの意見なんだけどね」
 そう言って話を切り出す。
「我(アタシ)は、キミのカリスマ性や戦闘指揮能力を高く評価しているのさ。風のうわさによれば、砂蠍の中でも新進気鋭の一派と聞いているから、どうせなら頭を狙ってほしい。そのためのささやかな応援として不戦勝を申し込みたい」
 ハーレイはポケットに手を入れ、聞く姿勢を続けた。武器商人も続ける。
「今回の依頼内容からいって、お互いに被害は小さくないだろう。我(アタシ)たちは知ってのとおり、不可能を可能にするイレギュラーズだし、キミたちだって組織の中でも手練れがそろっているはずだ。殺る気もまあまああるだろう?」
「それで?」
 ハーレイは聞き入っている。
「ここには少数の人間しかいないから、話の結末は不具合のない程度に改ざんできる。そのことを踏まえて、できれば早めに引いてほしい」
「ほう……。口裏を合わせて出来レースにしようってのか。ま、そっちのほうが楽っちゃ楽だな。本音は?」
「もちろん、キミがトップの砂蠍の方が今の砂蠍より好ましいからさ。見くびっているわけじゃないぜ? キミの方が戦う時に、より楽しそうって話だ」
「ありがとうよ。お褒めに預かり光栄だぜ」
 ハーレイが機嫌よく笑う。
「私たちのオーダーはあなたたちを捕縛すること。そのためならば人質に犠牲が出てもやり遂げます」
 白雉の発言に村人たちがざわめいた。どうしてだ。助けに来てくれたんじゃないのか。なんか違うらしいぞ。ざわざわと人波がゆれる。白雉の言う人質とは、自分たちが捕縛した盗賊団のメンバーのことを指すのだが、現に縄でぐるぐる巻きにされている村人の前での発言はなかなか強烈だった。
「やりがいのない仕事を任せてくる、あなたの評価をしない輩の言うことを粛々と大人しく従うのですか?
『新生・砂蠍』が大攻勢をかけた今、『いいとこどり』が隠した爪を使って狙うべきは、こんな小さい集落や私たちではなく弱った蠍の首を落とすことではありませんの?」
 ハーレイが口笛を吹いた。
「さすがはキディちゃん。俺の見込んだ女だ。人の自尊心をくすぐるのがうまいねえ」
「イレギュラーズとの交戦が相成った今、うまみのない戦場から撤退し戦力を温存し、のし上がるほうが利があるのではないか、というご提案です」
「なるほどな……」
 ハーレイは考え込んでいる。
「上の言いなりになって村を焼くか、キディちゃんの言うとおり戦力を温存するか悩ましいとこだねぇ。村長、あんたはどうなんだ? 村を焼かれてしまったと口を合わせてくれるか? そうしてくれるなら俺たちは何もしねえ。このままずらかるぜ」
 すると、さるぐつわをかまされた村長だけでなく、村人全員がこくこくとうなずいた。
「まあ命あってのものだねっていうもんな。そっちのお嬢ちゃんはどう思う?」
「へ? うち?」
 急に指差されてニルはひっくりかえりそうになった。
「決まっとる。うちはあんたたちをとっつかまえに来たんだお」
 ハーレイはけらけら笑って言った。
「そうそう、それでこそイレギュラーズだよな。シンプルイズベスト。戦闘こそイレギュラーズの本領発揮ってな。……そんなイレギュラーズと正面から戦うのは、俺はちょっとごめんこうむるぜ」
「ということは」
 白雉が目を輝かせた。
「ああ、今回は引いてやる。ただし、しっかり噂は広めてくれよ。ハーレイ盗賊団ここにありってな。任せたぜ」
 ハーレイはさわやかな笑顔を見せた。交渉は成功したのだ。武器商人は両腕を組んでうなずき、白雉は安堵に胸をなでおろした。
「てめえら! 村人の縄を解いてやれ!」
 ハーレイが号令をかけ、四十人の盗賊たちがそれに従う。村人たちはすぐに解放された。
「それにしても、交渉なんつーから悔い改めよって話かと思ったら、上へ噛みつけとはね。さすがイレギュラーズ、考えることが違うぜ」
 ハーレイが顎に手を当てる。
「しかしこのまま何もとっていかないのも癪だな。酒樽をよっつ、それで手を打とうじゃないか」
 話を振られた村の若人が、倉庫へ走っていって酒樽を持って来る。
「よぉし、こいつで宴会だ! 村人もイレギュラーズも関係ねぇ! 今夜は飲み明かそうぜ!」
「……ふざけた真似はここまでにしてくださらない?」
 振り返るとそこにはガーベラが憤怒の鬼のごとく立っていた。
「武器商人が言ったはずですわ。交渉を持ちかけたのはあのふたりだけの意思だと。つまり私たちは納得しておりませんわよ」
「あーらら。やっぱりそうなるわけ? でも交渉に応じた相手を討つなんて卑怯じゃない?」
「卑怯も何もこの状況を作り出したのはあなたがたではありませんの。責任転嫁は醜いですわよ。さすがは噂にたがわぬハーレイですわね……嗚呼、なんて卑しい顔です事。美形かもしれませんがドブの如き腐った心根が透けて見えますわ。それに嬉々として従う部下も見る目が無くて可哀想ですわ……きっと屑な価値しか無いのでしょう」
 ハーレイがすっと半眼になる。
「おじょーさん、言っていいことと悪いことがあるぜ? 俺はともかく、俺『たち』へはな」
「盗人相手に情けは持ち合わせておりませんわ。オーホッホッホ! 私こそキルロード家が長女、ガーベラ・キルロードですわ! 貴方と私のカリスマ……どちらが上でしょうね?」
 ごうっと鋭い風が吹いた。ガーベラの足元から青い光のベールが広がっていく。保護結界だ。
「そうです、私は反対なのです。みすみす盗賊団を取り逃がしたうえに広告塔になるなど、絶対にごめんです」
 フロウが立ち上がり、銀の指輪をなでる。
 蛍がメカ子ロリババアとともに井戸へはりついた。
「火事なんて起こさせませんよ……、えっと……もし火がついてもすぐに消火して見せます」
「ふふ、お待ちかねのイレギュラーズよ。かかってらっしゃい」
 小夜が剛刀をすらりと抜く。その刀身に光が反射し、ハーレイの顔が映った。
「商人の言うとおり殺る気満々だねえ。いいだろう、こうしようぜ。棍棒使い六人、前へ出ろ!」
「「応!」」
 呼ばれて飛び出た影が六つ。筋肉の鎧を着た大男たちだ。おそらく盗賊団のなかでも剛を競う間柄なのだろう。
「なるほど、一対一で力比べですか」
 フロウが察しよくシルバーリングをかざす。
「話が早くて助かるぜ嬢ちゃん。キディちゃんに免じて村は焼かないでおいてやるよ」
「ならばついでに先手をとらせてもらいましょう!」
 フロウが目の前の男へセイクリッド・インパクトを打ち込む。
 ――ドン!
 大男の巨躯がくの字にえぐれ、背後に転がっていた水桶がバラバラになって吹き飛ぶ。
「まさか一撃で死ぬほど虚弱ではないですよね?」
「くくくっ、やるなあ、だがまだまだだ!」
 男が下がり、次の大男が隣のニルへ襲いかかる。大振りのパンチをたやすく避けてのけるニル。
「ゆる~い一日は歓迎だけど、ゆる~い盗賊団はごめんだお」
 ニルは大男の攻撃を紙一重でかわし、お返しとばかりにヘイトレッド・トランプルをぶちこむ。血反吐をはいて倒れる大男。意識を失っている。
「さすがはローレットだな! 俺の相手は誰だ!?」
 咆哮する大男を前にして蛍があわあわと両手を前後させた。
「えっと……えっと私は……えっと……、アースハンマーなのです!」
「なにっ!」
 突然地を割って現れた巨大な腕に大男は圧倒された。そのまま殴り飛ばされ、戦意を喪失する。
「あ……意外と強いですね私。えっと……だいじょうぶですか?」
 蛍は自分が倒した大男に治癒符をかけてやった。
「さあ、この流れならお次は私といったところでしょうか。手加減は一切しませんわよ!」
 ガーベラの必殺技はレジストクラッシュ。
 自分の目の前にいる相手の脇をすり抜けるように重い一撃を打ち込む。大男はよろめき、たたらを踏んだが、かろうじて立っている。
「最後は私ね」
 小夜は見えぬ眼を通して戦場の気配を感じる。走りよってくるのは体重の重い者特有の足音だ。己の間合いに踏み込むまでひきつけた。大男が棍棒を振り上げ、振り下ろす。その後の先をとって、小夜は刀を走らせた。何かを断つ感触。迸る悲鳴。
 ジェックはというと反撃するまもなく倒された。
「キディちゃんたちをいれて、三分の八か。覚えとくぜイレギュラーズ。総員転進! アジトで会おうぜ!」
「「おう!」」
「あれっ、なんか忘れてる気がするな。まあいっか、忘れるってことはたいしたことじゃねえだろ」
 ハーレイは首をかしげ、すぐにいつもの飄々とした態度へ戻った。いっそ無邪気なほどの笑顔を見せて、ハーレイたちは退却していった。

「ハーレイ盗賊団、あなどれぬ男たちでしたわ! キイイくやしいですわ! くやしいですわ!」
 地団太を踏むガーベラ。
「落ち着くお、数は相手のほうが上。むやみに追うと各個撃破されてしまうお」
「いろいろと残念だけど、次の依頼に期待しましょう。たしかに砂蠍とハーレイが食い合ってくれれば、いいことずくめではあるもの」
 ニルと小夜がガーベラを慰める。
 その傍らで蛍は村が火の海にならなくてよかったと思っていた。
「蛍にとっていちばん大切なのは、えっと……命だから。課題は山積しているけれど、えっと……とりあえず、被害がでなくてよかった、と思う、うん」
「しばらくこの頭痛は続くということですね」
 フロウはこめかみをさすりながら言った。
「望みはこの集落が無事であることでした。今回はうまくいきましたが、次はないでしょうね」
「それはそれで腕が鳴るというものだよ……ヒヒヒ」
 白雉と武器商人はそう言ってハーレイたちが逃げていったほうを眺めた。
 そこにはよっつの酒樽が忘れ去られて置いていかれていた。
「……やはりおバカさんなのでは?」
「馬鹿より怖いものはなしというしねえ」
 二人の会話は夕暮れの近い風に吹きさらわれていった。

成否

成功

MVP

天音 白雉(p3p004954)
極楽を這う

状態異常

ジェック・アーロン(p3p004755)[重傷]
冠位狙撃者

あとがき

おつかれさまでした。
交渉がうまくいってしまうとは私も計算外でした。ハーレイめ……。
またのご利用をお待ちしています。

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