PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<終焉のクロニクル>月は燃える、泣き腫らした瞳のように

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 その日、月が泣いていた。
 真っ赤に、真っ赤に、泣き腫らしていた。
 赤く染まった大きな月は誰の為かも分からぬままに泣いていた。
 さめざめと涙を流す月が幸福を呼んでくれると、大切な片割れがそう信じていた。
 ありえないと一蹴するには私は子供過ぎた。
 同じ年、同じ日に生まれ落ちたもう一人の私に手を引かれるまま、私は月に願う。
 さめざめと泣く月の輝きに魅入られるままに、私は願い続けた。
 もうこれ以上、痛い目に合うのは嫌だった。
 もうこれ以上、好きでもない相手と口づけを交わすのは嫌だった。
 終わらない毎日を呪いながら、見上げた空で、月が泣いていた。
 ――まるで、アタシみたいに。月は、泣いていたんだ。

 世界には争いが有り触れ過ぎている。世界には悲劇が有り触れ過ぎている。
 いっそマンネリに思えてしまうくらいにどこにだって争いはあって、争いがあるところには悲劇があった。
 だから、奴隷(アタシ)なんてのはあまりにも有り触れた存在の1人でしかなかった。

 どれだけ祈っても、月はアタシと一緒に泣いているだけだった。
 いつの頃から、この涙が悲しいからなのか、憎いからなのか、分からなくなっていった。
 結局、弱者は泣き続ける。ただそれだけだでしかない。

 月が燃えていた。
 真っ赤に、真っ赤に、燃えるように輝いていた。
 地平線の果てを焼き、空を焼いて、やがて来る黒に呑みこまれる姿が目に焼き付いた。
 アタシが、黒に呑まれていく。滅びるように、燃えて落ちて行く。
 大切な片割れを置いてけぼりにして、アタシは燃えて落ちて行く。

 ――世界なんて、大嫌いだ。
 結局、何一つとしてアタシから奪って行った。
 あの日の月のように、アタシは泣けていたのだろうか。
 いつの間にか、燃えるような赤の焼け付いた瞳は、あの日の月のように輝いている。

「――なぁ、セレーネ。アンタと同じように世界に祈るなんて、アタシに出来やしないんだ」
 世界へ救いを求めるよりも、世界を滅ぼした方がずっと早い。
 世界が滅びればアタシも死ぬ? 上等だ。
「炎は死の象徴で、再生の象徴だ。けど、あっという間に消えちまう儚いものだよ」
 それは、アイツの命のように――
「だから、どっちかが消えちまうまで、種火は絶やさず篝火を燃やすしかねえんだ――なぁ、魔女様」
 紅蓮の如く、闘志を燃やす。
 同胞を焼く炎と共に、この世界から滅びてしまうために。


 ラサの南部砂漠コンシレラに眠っていた究極の終焉獣――ベヒーモスは決戦に応じるように起き上がる。
 大いなる終焉獣の通った道は黒いヘドロのように滅びのアークが零れ落ちて、進路にあった無数のオアシスは瞬く間に枯れ果てる。
 イレギュラーズやラサの傭兵たち、深緑の森林警備隊や魔導師からすればそんなものは到底許されるものではない。
 Case-Dと称された滅びの概念は影の領域に顕現すると、ざんげは語る。
 マリアベル・スノウを始めとするBad end 8が生み出したワーム・ホールのうち、天義、練達、深緑の3つは閉ざされた。
 そのうち深緑を開きし彼の精霊――『魔女ファルカウ』は、今度は砂漠において活動を始めた。
 究極の終焉獣ベヒーモスから溢れ出るヘドロの如き滅びのアークは、それそのものが『影の領域』であった。
 つまるところ、物理的に世界を塗り替えに来たというわけだ。
 それは懺悔より示された乾坤一擲の策、ワーム・ホールからの逆侵攻とは別に、避けねばならぬ事態と言えるだろう。
 これは即ち、ファルカウやベヒーモス――そして彼女たちの支援をなさんとする魔種達との戦いも意味していた。


 幾つも用意された防衛線の1つが、一瞬にして灰燼に帰した。
 襲撃を察知した傭兵の案内を受け、イレギュラーズが辿り着いた時、既に陣地は余燼も残さず消し飛んでいる。
 砂漠の陽炎に沈んだ陣地の只中に立っているのは1人の幻想種――否や、魔種の一。
 周囲に連れる無数の終焉獣たちの多くは狼や馬、蛇のような姿をしている。
「よぉ、アンタら、頑張ってるみたいで何よりだね」
 ストロベリームーンのような赤色の瞳と髪をした幻想種は、朗らかに笑いかけてきた。
 揺らめく陽炎は砂漠の熱ではなく、彼女の闘志が熱を帯びて発火しているせいだ。
「その弓は……」
 トール=アシェンプテル(p3p010816)は彼女の握る弓を見やり、短く呟いた。
「あぁ? これか。言うまでも無いだろ? セレーネの弓だよ」
 ペン回しでもするかのように弓をくるりと回して、魔種が笑む。
「ディアーナ……今度こそ、あなたは此処で倒すわ! もちろん、魔女様もね!」
「えぇ、私達は負けていない。勝って、終わらせる。進むために」
 藤野 蛍(p3p003861)と桜咲 珠緒(p3p004426)も臨戦態勢を取る。
「そうですね、逃がす理由もありません」
 応じたのはマリエッタ・エーレイン(p3p010534)だ。
「へぇ、元気がいいねぇ、そうこなくちゃな」
 魔種は紅蓮の炎をちらつかせ、銀月の弓は月光を纏う。
 壮絶な殺気が戦場を支配した。
「ま、アタシとしちゃあ、魔女様のお手を少しでも煩わせないように消し飛ばすだけの話。
 ――ついでにアンタらと決着をつけるのも悪くないね!」
 魔種ディアーナが凄絶に、高らかに笑った。

GMコメント

 そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
 さっそく始めましょう

●オーダー
【1】『十字路の女王』ディアーナの撃破

●フィールドデータ
 ラサの南部砂漠コンシレラの一角です。
 フィールドとしては遮蔽物の無い砂漠のど真ん中です。
 周囲では終焉獣達とラサの傭兵たち、深緑の森林警備隊や魔導師が戦いを繰り広げています。
 皆さんはディアーナに集中しましょう。

●エネミーデータ
・『十字路の女王』ディアーナ
 元が幻想種の魔種です。属性は不明。
 ストロベリームーンのような赤色の瞳と髪が特徴的です。

 溢れる魔術的な素養の全てを肉体強化に用いた肉弾戦による近接戦闘を主体とします。
 その他、銀月の弓による遠距離戦闘も可能になりました。
 物神攻、命中、EXA、防技が極めて高く、反応、抵抗がそれに続きます。
 これまでのスキルは以下の通り。

炎刃脚:目の前にいる敵を魔力を籠めた脚で刈り取るように蹴りつけます。
神近扇 威力大 【業炎】【体勢不利】【痺れ】

炎飛脚:足元を強烈に踏み抜き、戦場を駆け抜け対象を蹴り飛ばします。
神超単 威力中 【移】【崩れ】【飛】【業炎】【紅焔】

炎震脚:足元を強烈に踏み砕き広域へ振動を与えます。
物自域 威力中 【崩落】【泥沼】【停滞】

炎武:目の前の敵に向けて連続した猛攻を叩きこみます。
物近単 威力大 【邪道】【堅実】【追撃】【体勢不利】【紅焔】【自カ至】

炎煉武:ある1体を起点にした範囲内全ての敵へと炎武を叩きこむ極撃です。
物遠範 威力特大 【万能】【邪道】【堅実】【追撃】【崩落】【紅焔】

 その他、超貫攻撃やBS回復スキルを有しています。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <終焉のクロニクル>月は燃える、泣き腫らした瞳のように完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2024年04月06日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
終わらない途
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)
真打
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女
セレナ・夜月(p3p010688)
夜守の魔女
トール=アシェンプテル(p3p010816)
つれないシンデレラ

リプレイ


「これで最後となるのでしょう。しんみりと言葉を交わすような間柄ではありません」
「は、そりゃあそうだ」
 笑ってみせるディアーナへ、『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)は静かに構えた。
(思い返せば最初から、剣で与えた傷以外に伝わったものはないように感じます。
 弓があろうと、今ひとりであるならば言うべきは一言)
 振り返り思う、目の前の『敵』との幾つもの戦い。
 あと一歩、そのあと一歩を詰め切れなかった――だが、それも今日で終わりにする。
「――介錯仕ります」
「――は、やってみな、ってのもいい加減聞き飽きたか!」
 少し腰を落とし構えた珠緒にディアーナが笑った。
「お互い、毎度のように消すだとか倒すだとか言いながら、結局ここまで来てしまったけれど……今度は、そっちも退く気はないみたいね」
 彼女を抑え込むのは当然、『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)の役目だった。
 比翼連理たる彼女に導かれるよう払う蛍の剣撃を真正面からディアーナの障壁が受け止める。
「は、退く場所もねぇって話さ……だろ?」
「ええ、決着を付けましょう、ボク達の因縁に!」
 短く挑発的に笑ったディアーナに応じ、聖剣を構えなおす。
(こっちはCase-Dの対処でもてんやわんやだってのに、それを支援しようとする魔種はお構いなし、か。そりゃそうだろうな。
 ……だけど、目の前の魔種からは燃え尽きる様な怒りと、悲しみ、そして虚無を感じる。
 詳しい事情は生憎縁がないので知らないが……そういうことなんだろう。ならば、葬ってやるのがせめてものオレたちの勤めか)
 銃剣を握る『真打』紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)は衝突を始めた先手の戦友たちに応じる魔種を見ていた。
「……秋奈、やろう。こんなところで魔種1人を相手にして躓いてなんていられない」
「むおおーっ! 戦争じゃーい! アガるぅー!」
 相方へと視線を送れば、『音呂木の蛇巫女』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)は目を輝かせている。
「……おっと、無茶しないでくれよ、無茶して倒れたら怒るぞオレでも」
「おっけーおっけー!」
 至極いつもどおりに秋奈は笑って剣を抜いた。
 辛気臭い顔がいくつも見える。
 うっかり転ばないように、足元が見えるように、明るく照らすつもりで。
(砂漠のど真ん中だってのに太陽ってか!ぶははっ)
「……ディアーナさん、始めましょう」
 オーロラドレスを纏う『プリンス・プリンセス』トール=アシェンプテル(p3p010816)は静かに輝剣を構えた。
 言葉など、そう多くかける間柄でもない。負けるわけにはいかない、ただそれだけだ。
 飽和したAURORAの燐光を引いてトールは距離を詰める。
 自然な流れに従うままに振るった斬撃がディアーナの身体に幾つかの異常をもたらす。
「貴方も、奪われる側の存在だったんですね。
 炎という存在に奪われて、奪われたからこそ奪う側に回る……ええ、実に素敵な変遷です」
 そう笑ってみせた『死血の魔女』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)術式を展開する。今日の役割は戦場の維持だ。
「でも、世界というのはどうしても不思議で……奪う側に回ったからと言ってどうしてか不思議と受け入れ続けてくれるものなんですよ。
 諦めない限り、ね。そうでなきゃ、この私……死血の魔女がこちら側に立ってはいなかったでしょうね」
「そりゃあめでたいね。あの頃のアタシに聞かせてやりたいとこだ。まぁ――絶望して死んでただろうけどね!」
 そう、からりと笑ってみせた女が弓を空にぶん投げた。
 くるくると回転しながら浮かんだ銀月の弓が炎矢を纏い、無数の矢を以て直線に降り注いだ。
「全く幻想種っていうのはどうにもこうにも燃やすのが好きな連中だな?」
 文字通りに燃え盛る幻想種を見やり『老練老獪』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)は笑ってみせた。
「まぁね……幻想種(アタシ)らにとっちゃ火は厳禁だ。反転すりゃあ火に憧れるってのも道理だろ?」
 にやりと笑ってみせる女の真意は分からない。
(さて……どうするか。まずは狙撃対決でも興じてみるか?)
 平然と立つ割に存外に隙が無いことはバクルドにはよく見えた。
「赤い月のような瞳。月弧を思わせる弓……
 会いたかった、なんて言ったら不思議に思われるかしらね」
 始まった戦闘の中、『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)は小さく声に漏らす。
「わたしはセレナ・夜月。夜守の魔女。
 戦いましょう、世界が滅ぶか守るか、それを決める為に!」
 か弱き乙女を守るは虹色の望月のような魔力障壁。
「――夜を守るか、素敵なことだね」
 笑みを刻むディアーナにはそれが一体どう映っているのだろうか。
 そんなことを思いながら、セレナは術式を展開する。


 攻勢を仕掛ける魔種の火力はその射程を含めて凄まじく重い。
 その重さを誰よりも認識せざるを得ないマリエッタはそれでもまだ余裕を持っていた。
「どうあれ、私は貴方を倒すことに変わりはない……決着を付けましょう、ディアーナ。
 奪うものとして……貴方のその抱えたモノと想い、奪って行ってあげますよ。これ以上、苦しまなくていいように」
「は、そりゃありがたいね!」
 笑うディアーナが地面に向けて脚を振り下ろす。
 砂が瀑布の如く舞い上がり、衝撃が大地を揺らした。
 戦場を席巻する攻勢、マリエッタは血の陣を巡る。
 やることは多く、けれど確実に戦線を支える2人へと術式を展開していく。
「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるっていうが俺の場合は下手が取れて全弾当ててやらァな。
 避けもさせなけりゃ硬い装甲だって貫いてやる」
 嘯くバクルドの言の葉はその全てが正である。
 オデッセイズレストより放たれた弾丸は嘘のように正確にディアーナの身体を刺し貫く。
 不可能を捻じ曲げ、運命さえも裏返すその弾丸はバクルドの抜群の腕によって魔種の身体に死の刻印を刻む。
「でたらめな技だね、全く――」
 そう笑う魔種の身体にはその痕跡がありありと残っている。
「全く、眩しいことだね」
 肉薄するセレナへと、ディアーナが笑う。
「えぇ、わたしの纏う結界は虹色の満月のようにも映るでしょう」
「たしかにね、そう言うやつもいるだろうさ――」
 目を細めて笑った魔種へと、セレナは月光を束ねた刃を打ち出した。
 無限の如く輝く斬撃は、けれど未だセレナの全力には遠い。
「いいね、いいねぇ! 熱くなってきやがった!」
 猛攻を受けながら、高らかにディアーナが笑う。
 その身体を守る障壁が削れていくのも躊躇わず、笑いながら攻撃は止まぬ。
(それにしても……)
 それを真っ向から受ける蛍はその笑みの理由を測りかねていた。
(ディアーナの隠し玉らしき大技は前回見た。そして、それでもボク達は打ち勝った。
 それなのにディアーナは今回またボク達の前に笑いながら現れた――それも、『決着をつける』と言って)
「どうしたよ、眼鏡の嬢ちゃん、ここまで来て、なにうだうだ考えてんだい!」
 笑みが刻む。苛烈なる殴打を受け止めながら、蛍はグッと身体に力を籠める。
「それはこっちの台詞よ! 何を隠してるの? まさか、負ける気で『決着をつける』なんて言わないでしょう!?」
「――はっ、当然だなぁ! でもよ、その理由なら、相方さんがよく分かってんじゃねえか!」
 にやり、笑みを刻む幻想種は蛍ではなく珠緒を見ている。
「手の内はお互い割れています。
 ですが既知であることと、無効となるほどに破られることは同義ではないのです」
 藤桜剣をの魔力密度を高め『撃ちだす』砲撃の如き斬撃が轟音を立て戦場を席巻する。
 砂の大地を吹き飛ばさんばかりの斬撃がディアーナの障壁を貫通してその身体に傷を入れる。
「――そういうこった! ここまで来たんだ、後はもうどっちが沈むか、互いに全力でぶん殴るだけだろ!」
 笑う。あらん限りの攻勢の中に、ディアーナは笑っている。
「我ガ名、邪摩都御柱ガ礎、桜咲ナリ。世ヲ支ウ柱ヲ光トシ、汝ヲ討ツ」
 その一瞬、珠緒は愛刀を納め、少しばかり身を進める。
 ゆらり、刹那に見えた神性の揺らぎ、全霊の力を籠めた力業の斬撃がディアーナの身体に致命的な傷を描く。
「――刻刀……紫電。参る」
 構え、紫電は奔る。圧倒的な速度を以て、誰よりも速く。
 この戦場に置いてディアーナの先手を確実に取れる者は3人いた。
 光よりも早く、奔り出した紫電の斬光は本体たる黒刀の限定的な能力の解放。
「――紫閃弌刀、時を喰らい空を断つ」
 光すら超越する圧倒的な速度で打ち出された斬撃は空気を穿ち、刃と為す。
 無限の剣閃が空間を『侵略』し、ディアーナの身体を後方へと追いやった。
「は、空間もろとも押し込んでくるなんてね……面白い技を使う!」
 愉しげに笑う女は聞いていた通りに硬い。
「やることなんてお互いこれしかないっしょ!」
 それに続くままに秋奈が駆ける。
 距離を詰めた勢いをそのままに振り抜いた緋き刃が神域の手数で魔種の動きを縫い留める。
「おねーさんは秋奈というの! 覚えといてくれると嬉しいなっ」
「自己紹介ありがとよ。こっちはディアーナってんだ。ま、覚えるまでもないだろうさ」
 ディアーナの魔力障壁の上を削りながら交えた視線、どちらからともなく楽しげに笑みが刻まれる。
「肉弾戦女王とか、私が国だ的な? 殴り合いでバイブス上がって、ありよりのありになりけりーみたいな?」
「は、それぐらいの理解でも全然かまわないさ!」
 そう笑う魔種の反撃の合間、トールが踏み込んだ。
「……死後の世界があるかはわかりません。
 それでも僕は、ディアーナさんとセレーネさんが、穏やかな空の上で分かりあえるよう祈っています」
 実際のところ、トールはディアーナよりも本質的には『速い』のだ。
 彼女が反撃の一手、カウンターの乱打を叩きこみにしさえしなければ、後の先を撃たれることはない。
 極光に輝く誓剣と寂静の剣が織りなす連鎖は落ち着いている。
 誓いを胸に、トールの剣は今はまだ静かに軌跡を描く。


 短くも長く、戦いは続いていた。
 未だ余裕を隠さぬ双方は、それでも魔種の方が遥かに傷が多い。
「うはー! きっつ! 鬼ゲーすぎっしょ!? ヤバッ!」
「言ってる間は余裕ありってわけだ!」
「ぶっはっはっ!めっちゃ燃える! 真っ赤な命が真っ赤に燃えるぜ!」
 テンションぶちあげて風前の灯火をそうとも思わせぬ女へと攻めかかる。
「死んでも燃えてやるよ、その方が楽しいからね!」
 凄絶に笑って応じるディアーナへ繰り出す斬撃は這い寄り巻き付く蛇ごとき軌跡を描く。
 天運を喰らう蛇の斬撃の終わり、閃く緋光。
 奔る光の一閃がディアーナの身体に傷を入れる。
 鮮やかな太刀筋が生みだしたのは大きすぎる隙。
 斬光閃く中、紫電は思う。
(世界を滅ぼして、自分も死ぬ…か、つまるところ、世界を巻き込んでの心中だろう)
 言いたいことは、あった――けれど、その言葉をぐっと堪え、紫電は剣を振るう。
(彼女もまた、七つの大罪の被害者の1人なのだから)
 外されてはならぬ枷を外し、跳ね上げられた最高速度、空間を喰らう斬撃の軌跡がディアーナの身体に痛撃を刻み続ける。
「――死にたいのなら、自分だけで死んでくれ……大勢を巻き込んでの心中なんざ、真っ平御免だってとこかい」
 紫電の呑みこんだ言葉を、傷だらけのディアーナがにやりと口角を上げて言った。
「そりゃあ全くだ。実際――アタシは世界の滅びなんざどうでもいい……それでもだ。
 アンタらがこの世界を続けたいってんなら、アタシらみてぇのは形を変えて生まれ続ける。
 だからどっちかが消えちまうまで、種火を絶やさず篝火を燃やすしかねえ……それだけの話さ」
 消える寸前の炎のように、ディアーナの紅蓮が燃え上がる。
「ボクは、愛する人を必ず守るって決めてるの……!」
 真っすぐディアーナを見据え、蛍は剣を振るう。
 麗しき三連閃、雪月花の閃きがディアーナの身体を抑え込む。
「セレーネを失った貴女のようにはならない! 絶対に!!」
 吠えるように、叫ぶ。
「この期に及んで人の逆鱗に触れるたぁ――上等だ!」
 反撃の拳が蛍を穿てど、たったそれだけだ。
 撃ちだされた拳を捕らえればそれは大いなる隙となる。
「以前は抑え目的で敢えて接近し続けていましたが……こちらが本領です」
 道は開かれた。後は、そこを奔るだけ。
 珠緒の剣は砂漠に道を築き、ディアーナに痛撃を刻む。
 彼女の息を呑むのを感じながら、珠緒は油断しない。
「負、け、る、かあああぁぁぁッ!!!」
 隙など与えない――あらん限りの力をかき集めて、トールが叫ぶ。
「お前の炎を呑み込んででも僕たちは生きる!! ヒトの可能性の……命の炎を絶やさせはしない!!」
「は――良いじゃねえか、それぐらい熱くなってくれりゃあ本望だ!」
 短く笑う声、シンデレラも、シンデレラを守るナイトもそこにはいない。
 そこにいるのは、たった一人の少年だった。
 流れを途切れさせれば、きっと前のようになる。
 踏み込む脚を踏みしめ、前へ。
 ドレスを維持するエネルギーを全て刃に乗せて、トールは全身全霊の力を叩きこむ。
 エネルギーが尽きていく。それは最早、無意識というよりも自棄といった方が近かった。
 制御も何もなく振り抜いた斬撃が、最後にディアーナの身体を斬り裂く。
 痛みを与えることは出来ずとも、紡がれた軌跡は彼女を『動かさない』。
 その軌跡が終わる前にマリエッタは動いていた。
 この期に及んで、治癒など意味はない。
 無限の循環、輝かしき血の鎌を手に、死血の魔女は踊るように刃を振るう。
 既に形を無くした魔力障壁を越えて、魔種の肉体を極限の刃が斬り刻んだ。
「これで終わりにしましょう」
 夥しい血の痕跡を残しながらもなお立つディアーナの頭上、血の雨が降る。
 無数の致命傷を与える刃を持つ血の雨が、その身体を串刺しにした。
 2人の流れるような連携を死血の傍らにてセレナは見据えている。
 もう終わってしまった恋と未だ至らない背中にセレナは思う。
(トールの熱い炎を目の当たりにした。その姿はわたしの目にも焼き付くよう……)
「――あの弓の持ち主の事は報告書で見たわ。
 或いは……わたしもその人と同じ事をするかもしれない。
 けれどそれが叶わない事も知ってる」
 セレナは串刺しにされた魔種を見やり、そう声に漏らす。
「は――そりゃあ良いことだね」
 短く笑った女の心情を窺うことは知れないが。
「……だからこそ……わたしは奪われないように、失わないように戦い続ける。最後まで、守ってみせる!」
 箒の先には無限の光。目の前の魔種のそれとは別の、月明かり。
 胸の奥、燃え滾る復讐の闇が刃に乗った。
 最早守りすらできず、魔種の身体に傷が入り、追撃の術式がその身体をもう一度絡め取る。
「はは、こりゃあ……駄目だねぇ。アタシはここまでみたいだ。
 魔女様……篝火は燃えているかい」
 口元から血を垂らしながらディアーナがどこともなく見上げて笑った。
「……お前さんは火を滅びの炎をとして世界を焼却するものとして見てるみたいだがな」
 バクルドは杖銃の銃口を突きつけて言う。
「篝火はそのうち昇る日を待つために人が見放さずに薪を焚べるんだ、ちっぽけな焚き火から煌々照らす炎へとな。
 その日を、その次の日を生き抜き続けるために人は火を扱うんだよ」
 放浪者はそれ故に最も多くの場所でそれを見届けてきた。
「――あぁ、知ってるよ。よく知ってるさ。
 いつまで経っても昇らない陽のせいで、こうも赤く染まった目が良く知ってるよ」
 五発の弾丸は、やけにぎらつく陽射しから背けるように目を伏せた魔種の心臓を貫くだろう。
 それで終わりだ。砕けた三日月の真ん中で炎のような女の命の火は潰えていた。

成否

成功

MVP

バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
終わらない途

状態異常

藤野 蛍(p3p003861)[重傷]
比翼連理・護

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ。

PAGETOPPAGEBOTTOM