PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<終焉のクロニクル>勇む天への合戦場

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 人類は、ついに影の領域へ侵攻を開始した。
 各地に現れたワームホール。天義、練達、深緑を除き、こちら側の進軍準備も整いつつある。
 そのワームホールが在る場所の一つ。コロッセウム=ドムス・アウレアの内部。
 ワームホールに近い上階層の一つに、物々しい天幕が張られていた。
 ここはどういう場所だろうか。
 青空と、平原。それに森。相変わらず混沌としていて、自分が今、塔のどの辺りにいるかを誤認識させそうだ。
 間違い無く最上階に近い部分ではある筈だが。
「だぁーかーら!」
 その階層で喧騒が聞こえる。
 喧騒は階に入るなりの場所で響いていた。怒号に近いその声は、時間が経つごとに熱を増していた。
「それじゃ、あっという間に全滅だっつってんだろ! こンのクソジジイ!!」
「何をぅ!? お前の攻め方のほうが先に全滅するじゃろうがい! なぁーにが『正面から激突する』じゃ!」
 何処かで聞いた事の有る声だ、と仰々しく天幕が張られている付近を通った『ヴァイス☆ドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)は視線を向ける。
 聞いた事は有るのだが、ここで聞く筈の無い声だとも思う。記憶違いでなければ。
「あら……」
 そしてどうやら、自分の記憶能力は衰えていない事を再確認した。
 言い争っていたのは赤髪の青年と白髪に髭を蓄えた老齢の男性。
 知り合い、という程でも無いかもしれない。少し顔を見た事のある程度。
「確か……ラサの」
「……おぉ!」
 老齢の方の男がこちらを振り向いた。やっぱり、見た事が有る。
「あの時のお嬢さんか! 防衛戦の際は世話になった」
 老人の名は……ゼインだ。確か。
 横の赤髪の青年がカジュ。
 二人共、前はラサの街に居た筈だが。
「どうしてここに?」
 よくよく見れば、この二人の他にも軍事に携わっていそうな者達が集っている。
 ゼインとカジュの間には大きな木製の机。
 簡素だが、机上で議論を交わす分には充分な広さだ。
 見たところ既にそう使われているようで、一枚の大きな紙と多数の駒が置かれていた。
「アンタ、丁度良かったぜ。あの時の敵の事……覚えてるか?」
 カジュは何処か安堵した様な表情でレイリーに声を掛けた。
 あの時の敵、というのをレイリーは頭の中に浮かべる。
 黒の……そう、黒い鎧を着た騎馬と重歩兵の軍勢。
 不毀の軍勢の一人、リーゲンと名乗った者がそれを指揮しており、以下の部隊は何れも変容する獣が進化した者達だった。
「ここから見えるかな……ほら、アレだ」
 どうやら、現在地は小高い丘になっているようだ。
 反対側にも丘が見える。赤い旗が、立っているようだが。
 高台に誘われ、レイリーは真下を見下ろした。
 丘下の平原となっている場所に、先程思い浮かべた黒鎧の集団が列を成している。
 ただ列を揃えているだけではない。
 パッと見て縦に二列、横に五列の長方形。
 その塊が四つ。
「不気味、だろ。ありゃまるで……人間の戦準備だ」
 人数の規模としては少ないかもしれない。
 だがその形は、明らかに戦を意識して整えられている。
「本当に、戦争でも始めるつもりみたいね」
 そう、レイリーは言ってみせた。


 先の防衛戦後、塔について『そういう事も起こり得るのでは』とはレイリーは感じていたのだ。
 鉄帝は、この塔から影の領域へ侵攻するべく塔の攻略に力を注いでいた。
 その後一歩のところで、一つの階層、つまりはこの階で足止めを喰らっている。
 もしかしたら、ワームホール……玉座の間へは他にも到達出来る道が在るかもしれない。
 だからと言ってここを手放しにする訳にもいかなかった。
 もし、多数を率いて影の領域へ侵攻した際に鉄帝ががら空きになってしまったら、そのままこの軍勢に突入される可能性が有る。
 故に、この場に一度防衛線としての陣地を構築せざるを得なかった。
 防衛戦の時と比べればその数は倍以上。既に、イレギュラーズが数人集まったところでどうにか出来る範囲を超えている。
「俺達は一度交戦の経験が有るからな。大した役には立てねぇかもしれねぇが……どう処理するかって相談を受けたんだ」
「先手では叩けなかったの?」
「ワームホールに突入するって頃になって、続々と集合してきたんだ。偵察隊はそのまま戦闘を仕掛けて来ると思ったんだと。まぁ、俺達も話を聞いた時、そうなんだろうと思った」
 それが出て来るのは良いが一向に仕掛ける気配が無い。
 いつもと行動が違う。
 それを不審に思って様子を見ている内に、瞬く間に眼下の陣形を構築されてしまった。
 改めて数を把握しておこう。
 一部隊十人が四つ。全体にして四十。
 あそこまで陣形を整えているなら、一部隊ずつに部隊長となる強力な指揮者が居てもおかしくはない。
 対してこちらの数は鉄帝軍兵が八十。
 数では倍だが、さて、終焉獣相手にはどうだろうか。
 考慮するべきは、相手方の強さ。
 幾ら数で勝っていても、一人一人が脆弱なら極めて不利だ。
「あぁ、それなら」
 と、カジュはレイリーへ報告した。
「偵察っぽい動きをしてた一体、俺らでも倒せたぜ」
「まぁ、ワシとこいつの二人掛かりでじゃがな」
 倒せない、事は無い?
 相手側も急ごしらえで編成したのが原因だろうか。
 つまり人類でいうところの『練兵』はこちらより劣っている、と。
 それでも素の身体能力は向こうに分が有るだろう。
 数は向こうの倍だが、イレギュラーズ達の参戦も含めてギリギリとみられる。
 相手の構成は前列に重装歩兵、後列に騎馬。
 騎馬には弓も見える。衝突の前に、恐らくアレも飛んで来るだろう。
 少数だが宙に浮いているのは魔法隊だろうか。
 それに加えて、戦場予定の眼下では不穏な空気が漂っていた。
 文字通りの薄汚れたような空気の層が、戦場一体を覆っている。

「……ゼイン、さん」
 視界の向こうで、偵察から戻った軍人の一人が、酷く疲弊した様子で返って来たのが見える。
「敵の編成に変わりは有りません……ただ……あの平地に……」
 兵士は、そのまま咳込んで膝を地面に突いた。
 ……毒、だ。恐らく。
 下の平地一面に毒のようなものが散布されている。
 時が進めば、丘の上に在る本陣にも影響が出るだろう。
 いつまでも、ぼんやりと天幕を張る訳にはいかなくなった。
 明らかになっている罠の中に飛び込まなければならない。
 救いなのはすぐさま交戦には入らなかった事か。
 恐らくは、あの場所の防衛が主となっているからだ、とゼインは予測した。
「じゃが、こちらに攻めて来る気が無い訳でもなかろう。隙を見せれば侵攻される」
 ここを突破されれば、塔から大群が鉄帝に押し寄せる事になる。
 そうなれば鉄帝だけの問題には留まらない。
「各地に、な」
 防衛戦では街が一丸となって戦い、それでも苦戦を強いられた。
 それが約三倍の数。止めるとなれば正面衝突は避けられないが、間違いなくこちら側の被害も甚大なものとなるだろう。
「まぁ、最悪それも致し方無しと思っとったんじゃが……お主らが参戦してくれるなら、道が視えて来た」
「それは……どういった?」
「ワシらが雑兵の相手をしている間に、お嬢さんら少数精鋭が敵将の首をもぎ取って来る。まぁ大雑把に言えばそんな感じじゃ」
 遊撃隊ね、とレイリーは悟る。
 一部隊に一人ずつ。
 つまり、合計四体の敵将を討ち取る。
 軍勢とはいえ、あそこまで人類に酷似した戦法を取ってくるなら、大将首が取られた事による指揮の低下も期待が出来る。
 逆に言えば、大将首を取られた怒りで猛攻される恐れもあるが。
「もしくは、こちらも部隊を作っても良いかもしれんが。お嬢さん、軍経験は有るかね? 生憎、ワシはこんな規模の指揮など執った事がなくてな」
 ゼインは、そのまま勝利と敗北の条件までを明示した。
 勝利とは、三体の敵将を討ち取って相手陣地の赤旗を折る事。
 敗北と判断するのは、逆にこちらの陣地に在る青い旗を折られてしまう事。
「お嬢さんらが加わってくれるなら、そちらで全体指揮をお願いしたい。こちらの人数を分けて部隊を作るか、作るならその部隊にも隊長を配置するか……そこも任せよう。必要ならワシらも使ってくれ」
「まぁ……ジジイと話し合っても埒が明かなかったとこだしな。俺もそれで良い。アンタ達なら信用できる」
「特に指示が無ければワシらは本陣で旗を守る。まぁ、気休め程度だがの」
 敵将さえ全滅出来れば、イレギュラーズにも勝ちの目は見えて来る。
 電撃戦とするか、奇策で壊滅させるか。
 開戦の日は、近い。

GMコメント

●成功目標
・総大将『不毀の軍勢・破鎧闘士』ソリテュスを撃破し、相手本陣の旗を取る

・各部隊長、レイゼル、ガナトバ、ロダン、三体の撃破

●失敗(撤退)条件
・味方本陣の旗を取られる

●敵情報
・『不毀の軍勢・破鎧闘士』ソリテュス
敵陣総大将。騎馬状態。
敵本陣の旗付近に位置している。
イレギュラーズ達が何かを仕掛けない限りは、基本的にこの場から動かないようだ。
『破鎧』と呼ばれる装備を身に着けており、これにより能力が底上げされている。
本人自体の特徴は『反応』の速さで全体に迅速な指揮を送る事である。
武器は片手剣。

・レイゼル
左翼大将。騎馬状態。
弓を用いて相手の接近前に攻勢を仕掛ける。
黒い鎧に身を包んだ中身は変容する獣が人型に進化したもの。

・ガナトバ
右翼大将。騎馬状態。
剣を武器にした黒い鎧の、変容する獣が人型に進化したもの。

・ロダン
中央軍大将。騎馬状態。
騎馬状態であるが、重装歩兵と同じく鉄球を武器にしている。
動く破壊者であり、中身は変容する獣が人型に進化したものである。

・黒の軍勢(重装歩兵)×20
黒い鎧を着た変容する獣が進化した終焉獣。
歩兵は歩兵でも重装歩兵である。
恐らく、正面から抜こうとすれば確実に足止めを喰らう。
攻撃方法の武器として所持するのは鉄球であり、攻撃力もあるようだ。
振り回す事によって、範囲的に攻撃することも可能だろう。

・黒の軍勢(弓騎馬)×15
黒い鎧を着た変容する獣が進化した終焉獣。
こちらは騎馬状態にある。乗っているのも変容する獣だが、機動力に特化した為か馬となっている獣に攻撃性能は見られない。
歩兵を抜いた者に追撃を仕掛ける。
攻撃方法は剣と弓の遠近両方の性能を持つ。

・黒の軍勢(飛行魔法)×5
黒く、薄い鎧を着た終焉獣。中身は変容する獣。
飛行能力を持ち、空中から魔法の射撃でこちらを狙ってくる。

・見た目に惑わされそうだが、黒い鎧の軍勢は急ごしらえで編成されたものだと思われる。
 練兵はこちらの友軍が上。上手く動かせば抵抗出来るかもしれない。
 勿論、大きな戦闘部分はイレギュラーズ達に任せられるし、友軍が大将に敵う事はないと思って貰って良い。

●フィールド
コロッセウム=ドムス・アウレア内部上階。
中心に主戦場となる平原が広がっており、その左右に森が存在している。
平原を挟んで南の丘に味方本陣、北に敵本陣が存在し、戦場としてはシンメトリーと思ってもらって構わない。

イレギュラーズ達の正面に三部隊が展開しており
イレギュラーズ達から見て右にレイゼル隊、左にガナトバ隊、中央にロダン隊、中央奥の本陣位置にソリテュス隊の計四部隊が存在する。
(左翼、右翼、中央などで呼んでもらって構いません)
シナリオ出発時、敵陣は全て配置が終わっている状態です。

各部隊はそれぞれ縦二列、横五列の十体構成となっている。
構成内容は以下の通りである。

・レイゼル隊(左翼)
前列、横5体が弓騎馬。
後列、横5体が飛行魔法。
計10体。

・ガナトバ隊(右翼)
前列、横5体が重装歩兵。
後列、横5体が弓騎馬隊。
計10体。

・ロダン隊(中央)
全員が重装歩兵の黒騎士。
計10体。

・ソリテュス隊(本陣)
前列、横5体が重装歩兵。
後列、横5体が弓騎馬隊。
計10体。

また、今回の戦場は以下の『不毀なる廃滅(エミュレート・アルバニア)』という毒の空気が常に漂っている。
これにより、戦場に居るイレギュラーズ達は毎ターンの初めに『毒系列』のBSが付与される事になる。
非常に強力な毒だが、決して対策出来ない訳ではないだろう。

●友軍
・鉄帝国軍人(合計80)
今回、終焉獣との規模の大きい戦いになるという事で招集された。
内訳は以下の通りである。

『剣歩兵』×20、『重装歩兵』×20
『魔法騎馬』×10、『剣騎馬』×30

・カジュ
傭兵剣士。燃えるような赤髪の青年。
一般兵よりは多少戦闘力が高い。
指定が無ければ味方本陣で防衛待機。

・ゼイン
長物の鉄棍を武器にする老兵。
一般兵とカジュよりかは戦闘力が高い。
白髪に大柄な身体。
指定が無ければ味方本陣で防衛待機。

以上、計82名。もし編成を組むなら好きに指定して構わない。
リプレイ開始当初の編成は
【味方右翼:重装歩兵10・剣騎馬10】
【味方左翼:剣歩兵10・魔法騎馬10】
【味方中央:重装歩兵10・剣歩兵10・剣騎馬20】
となって突撃します。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <終焉のクロニクル>勇む天への合戦場完了
  • GM名夜影 鈴
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2024年04月07日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)
流星と並び立つ赤き備
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
天下無双の貴族騎士
三國・誠司(p3p008563)
一般人
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
イルマ・クリムヒルト・リヒテンベルガー(p3p010125)
生来必殺
夢野 幸潮(p3p010573)
敗れた幻想の担い手

リプレイ


「儂らは本陣で良いんじゃな?」
 ゼインは、落ち着いて構える者達へ問い掛けた。
「ええ、大将の首と旗を取ればいいのよね」
 事も無げに『天下無双の白盾』レイリー=シュタイン(p3p007270)は宣言した。
 そうしてレイリーは眼下を見据えて瞼を閉じる。
「……と言っても、私はいつも通り盾役で皆を護る」
 無論、自分達も含めて誰一人の命も流すつもりはない。
「幸潮、貴方が私の背を支えてくれるなら」
 背後に佇んだ気配に向けて、顔は向けずにレイリーは風に言葉を乗せた。
「熱い期待だ。勿論、叶えるとも」
 『敗れた幻想の担い手』夢野 幸潮(p3p010573)は相手の陣を眺めてそう返す。
 紫の瞳に映る相手。数にして四部隊。この中央からなら良く見える。
 偵察から帰還したカジュの舌打ちが聞こえたのはその直後。
「奴ら、陣形を丸々入れ替えやがった」
 左右、ガナトバとレイゼルがこちらに合わせて移動を終えた、と。
 幸潮は自分の元へ寄ったパカダクラ『砂駆』へ水色の長髪を靡かせ跨り隣へ問う。
「らしいが?」
「はっ」
 『騎兵の先立つ赤き備』エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)は片手をヒラヒラと振り、騎乗する黒馬ごと幸潮に背を向けて返す。
「大将首全部とりゃ良いんだろ?」
 自陣に戻りながらのその背中に生えた、黒の翼が脈動するように宙に波を打つ。
「任せろ、その為の矛だからな!」
 新たな馬の足音がこの場に舞い込むのは、右翼の陣より。
「右、騎馬歩兵隊三十。配置完了だ」
 『策士』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)はその伝達だけ終えると、敵の隊列を見て呟く。
「……間もなく、か」
 シューヴェルトが見遣った左の陣で、まさにその時、喊声が湧いた。
 その声は右の陣で待機する『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)の元まで轟く。
「どうやら、刻が来たようですね」
 右翼に在する三十の内、彼が率いる二十の剣歩兵にもその波が伝わって来る。
 今から預かるその命。責任重大、困ったものだ、と思いもする。
 だが、むざむざ死に追いやるつもりも毛頭無い。
 オリーブは刻の瞬間まで、熱く湧く左翼の声に耳を傾ける。
 それが隊の前で『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が戦場に順応する為の祝福の音を奏でたものだと判ると、また一段と声は大きく聞こえた。
「毒耐性の加護だ、受け取ってくれ」
 この一時において、イズマの音色は戦士達に取ってはこれ以上無い労い。
「まったく……こういう最終決戦ってやつはやる気のあるエースたちのステージだってのに」
 武器とする大筒の調子を確かめながら『一般人』三國・誠司(p3p008563)は呟くように言った。
「憐憫か? それとも貴公なりに、戦場に身を焦がした現れか?」
 『生来必殺』イルマ・クリムヒルト・リヒテンベルガー(p3p010125)は、直線の相手陣を覗くスコープから青い瞳を離し、誠司へ問う。
「出くわしちゃった以上は、見過ごすわけにもいかないってだけだ」
 と誠司は返して、後ろに感じる総勢三十の気配を感じた。
 後戻りは出来ない。そも、戻る筈ならその手は大筒から離れているだろう。
 今一度戦場へ眼を向け、イルマは口を開いた。
「これまた徹底した布陣だな。連中も背水の陣か?」
「世界を救う瀬戸際だからな」
 聞こえて来た声は誠司ではなく、イズマからのもの。
「踏ん張って勝ち取るぞ!」
「くっそー、何もせずに世界は平和になってくれると思ってたのに」
 誠司は本当に、無念のように言葉に続く。
「村人ムーブするにはまだ早いってか……!」
 黒馬に乗った彼女が左翼へ戻って来たのは、その時だった。
『この初戦で全部が決まる!!』
 天に大太刀を掲げ、隊列の前を愛馬、フリームファクシと共にエレンシアが闊歩する。
「ここを勝てば総大将まで喉元だ! 負けりゃ一気に雪崩れ込まれる! 本陣には二人、崩れりゃ終わる!」
 もう一往復、左翼陣に向かって。
「だが! そうはならねぇ!! 後ろなんざ振り返る必要はねぇ!」
 一瞬、間を空けて。エレンシアは敵陣へと向いた。
『全員、迷わず突き進め!! 総大将までの道はあたしらが薙ぎ払う!!』
 再びの喊声。紫の瞳は敵陣を直視し、エレンシアは声だけイズマへと向けた。
「前で暴れるのは任せろ。指揮は頼むぜ、イズマ」
「軍師ではないが、音楽の場では指揮もする。全力を尽くそう」
 誠司と、イルマが無言で頷く。士気は上々。
 エレンシアは、大きく息を吸い込んだ。
 振り下ろした大太刀と共に、吸った息全てを込めてその声を戦場の彼方まで飛ばす。
「先鋒隊……突撃ッ!!」


「さぁ、正念場だ。我が愛たるレイリーよ」
 中央の丘より、馬の身体は前傾に滑り降りながら幸潮は言葉を掛ける。
「そうね。でも、貴方が居る」
 レイリーがそう言って揺るぎないのは、きっと己の力だけを信じているのではなく。
「貴方がそこに居る限り、誰が相手でも、沢山でも立ち続けられる」
 その真っ直ぐな信頼が、仲間にとっても戦意の向上となるからかもしれない。
 この美しく愛しい者の為なら我儘な『悪』、未来を乞うて生を全うした恋慕の人から託された、この鉄騎馬と共に駆ける甲斐も有るというもの。
 幸潮が持つは万年筆。剣でも、銃でもなく。
「汝が一挙一動全てこの筆で、最高の合戦場(ライブ)を書き上げよう」
 指でそれを回すと、レイリーの後に続く。
「いざ戦場の央道を駆けようか」
 戦場中央、隊に先んじて到着した二人は敵陣前で停止し、レイリーが一歩前へ出る。
 向かい来る相手へ手を掲げれば、日の光は彼女を示すように明るく照らし出した。
 その光を浴び、レイリーは高々と宣言する。
「私の名はレイリー=シュタイン! ここは迂回禁止よ!」
 その声に合わせて続くのは右翼のオリーブ。これに続かない手は無い。
「我々が剣を持つ意味を、後ろにある物を、守りたい物を、今一度思い出して下さい!」
 開戦した事で敵陣も動き出した。これは単純な鼓舞では無い。鉄帝に属する一人としての切実な感情も込めて。
「その意思が、覚悟が、願いが、必ず未来を切り開くのですから! 抜刀!」
 進撃するなら今。
「騎馬部隊、この僕に続いていくぞ!」
 赤い刃を抜き払い、シューヴェルトと共に駆けるは剣騎馬十名。
 それよりも早く衝突したのは、やはり左翼。
 こちらの突撃に合わせ、相手大将、レイゼルの発射と同時に計五体の獣から宙へ矢が放たれる。
「怯むな! ぶちかますッ!」
 弧を描くように飛来する矢を抜け、黒き馬、フリームファクシの脈動と共にエレンシアが大太刀を払い、中央から突撃。
 即座に反転、より巻き込める方へもう一度激突を重ねる。
 毒への耐性を切らさないようにイズマが再度音を奏で、こちらも自陣が到着する前に更に振られる夜星の剣。
 二曲目の譜面に乗せるのは楽園追放の鎮魂歌。
 俯瞰から一度場を確認する。矢で負傷はしているが、友軍の行動に支障は無さそうだ。
 蹄と剣戟の音を制するように、拡大されたイズマの声が後方に響く。
「まずは穴を開ける! 魔法部隊は次の攻撃の援護を、開いた所に騎馬で突っ込む!」
 言葉が終わると共に、宣言通り殺人剣の極意を弾に乗せ、収束された誠司の魔砲撃が放たれた。
 魔法部隊が詠唱する間に続くのは、イルマの弾幕集中砲火だ。
「どんな防塁を固めようと、絶対に出し抜かれないと思っているのなら命取りだぞ」
 魔法部隊の援護に続き、騎馬隊が大きく崩壊した箇所へ一気に突っ込む。
 それと同時に激しさを増したのは右翼だ。
 天高く撃たれた矢が到達する前にクロスボウを構えたオリーブは、自分より後ろへと声を飛ばす。
「前進! 抜ければ弓矢は脅威ではありません!」
 オリーブがクロスボウでの反撃掃射を放つと共に、その傍らを駆けるは白馬。
 シューヴェルト率いる騎馬隊が、相手の矢を潜って風を切る。
 赤い刃に纏うは神聖の光。切り開くのはこの一閃。
「そこから入るぞ!」
 突撃の勢いのまま、シューヴェルトが部隊と共に敵の正面やや左へ突入。
 次いで相手の陣の中で味方騎馬部隊を散開。当たらせるのは敵の騎馬だ。
 相手の鉄球が飛び交う中に、オリーブが剣歩兵と共に斬り込む。
「敵一体に対し、必ず二名以上で当たって下さい!」
 その中、オリーブだけは敵部隊を友軍に任せ、見据える。
 大将、ガナトバを。
 直線に捉えた敵将へ攻勢の構えを取り。
 今、オリーブの長剣はガナトバの喉元に差し迫った。
 両翼の様子を見れば、中央兵にも焦りが募る。
「レイリー殿、我らはどうすれば……!?」
 自身を鉄壁の白盾と化し、レイリーはあっさりと返答する。
「防御中心でいいわよ。大丈夫、味方がすぐに来るわ」
 やや、焦燥感が強い、か。
 そう判断したレイリーは、ここに来て一つ息を吸い込んだ。
 だが、その口から出たのは檄ではなく。
 戦いの為の歌声。
「それまで私と幸潮が護るから、大丈夫よ」
 不思議と、敵に示したレイリーの後光が味方の兵にも余りにも眩しく映る。、そしてこの戦場において適切かは判らないのだが。そう、可憐な横顔だった。
「伴なる兵らも併せ踊り魅せる絶対防壁(ステージ)は、何人も通り過がらせぬ」
 続く幸潮の言葉に何故、と問うか。理由は簡単だ。
「我が名は『夢野幸潮』。此なる物語は──」
 幸潮の顔が僅かに上がる。敵の視線。この二人より後ろに向いている?
 どうやら、こんなにも美しく光を浴びるカレイドスターの言葉を聞き逃した奴が居るらしい。
「──迂回禁止だ!」
 虚空に走る筆の文が、レイリーに注ぐ輝きを強くさせる。
 戦場の中心で、多勢の黒と白の鎧がぶつかり合う。
「さぁ、私を倒せる者はいるかしら?」
 馬と歩兵の差を活かし、強力な物理装甲で固めたレイリーはロダンへ直接接近しながら魔力を散らせて更に敵を誘い込む。
 こんな美しい彼女。見逃したら、冥土に何を土産とするのか。


 エレンシアの大地を響かせる振動の一太刀で。
「……次ッ!」
 足元に転がるのは敵の飛行兵。
 目標は左陣位置の大将、レイゼル。
 邪魔な取り巻きは突進に巻き込み、友軍の魔法に合わせてイルマが鋼の驟雨となる弾丸の嵐を降らせ、確実に数を減らしていく。
 一番過酷なのはイズマだろうか。流れる血汗もそうなのだが、毒対策の補助、気力体力の充填。目まぐるしく変わる戦況に指揮を執りながら、攻撃にすら転じ、放つ音の波動は一般弓騎馬兵へ。
 誠司のシャゲ弾がレイゼルの身体を飛ばす。更に、光輪での回復を終えたイズマが奥から精神を揺さぶる一打を放ち、釣られたレイゼルがもう一つ奥へ。
 見えた。
 薄くなった敵陣へ、スコープ越しにその姿が現れる。
 被さるのはもう一体の黒鎧。イルマは。
「問題無いな」
 引き金に指を添えた。撃たれる弾は、黒鎧の頭を。
 そして、レイゼルの側頭部を強かに貫いた。
 硝煙の昇る銃を担ぎ、イルマは誰にともなくひっそりと宣言する。
「敵将レイゼル、討ち取った」
 即座、敵と自身の血で赤く塗れたエレンシアは高々と宣告した。
「吠えろテメェら! 勝鬨だ!!」
 エレンシアの喊声に友軍の士気が上がる。それを浴びながらそのまま回り込み、目指すは中央。
 敵に動きが有ったのは、その直後だ。
 イズマが見たのは中央より奥。
 敵の翻弄に使う予定だったイズマの拡散術は、その場で味方全体に使われた。
『敵本陣、中央へ突撃して来るぞ!!』
「……なら、こちらも急がねば」
 オリーブは激しく散る剣戟の最中、響く声に誰ともなく応える。
 初撃、『対神技』の神閃。
 早々に馬を狙われ、引きずり降ろされたガナトバはオリーブとの一騎打ちに。
 ……いや。
「何処を見ている!」
 砂塵に乗って、血を落とし、シューヴェルトも馬上からの蹴撃でガナトバを挟み撃ちにしている。
 毒の脅威も吹き飛ばすシューヴェルトの猛進撃。
 そして続くオリーブの連閃。
 一つ、息を吐いたシューヴェルトの腕に、鬼の力が宿る。
 放つ一撃には経験も怨念も呪詛も、全て乗せ。
 一閃。灰すら塵と化す赤刃の豪咆。
 そして、オリーブの両手剣から放たれる一閃。
 二閃、三閃。
 斜めに落ちたガナトバの身体に合わせ、深く腰を落として四閃。
 そしてその胸を貫く、終幕の五閃。
「……敵将、ガナトバ」
 身体から剣を抜き、その場で払ってオリーブは告げた。
「討ち取った!」
 すぐにシューヴェルトは身を翻す。
 想定より寡兵か。毒の脅威も凄まじいという事。
「道は僕が開ける! 君たちはとにかく前に進んで敵を蹴散らしていけ!」
 あと、どれ程持つ? 今、必要なのは。
 これで終幕へと導く鼓舞。
「僕たちのほうが馬の扱いが上手いことをこの場で証明するぞ!」
 何にせよ、そこが決戦場。
 迫る敵本陣を前に、レイリーは今一度力を込める。
 あれに仕掛けたつもりは無いが、両翼が早々に瓦解した事で痺れを切らしたか。
 あれを全て受け止める。いけるか。
 ロダンの鉄球がレイリーへと投げられる。
 その軌道が、意思を持ったように、不自然なくらい、彼女の寸前で横に逸れた。
「今のは何も無かった、と」
 幸潮の描く『編纂』により、友軍は毒を恐れる事無く持ち堪えている。
 レイリー含めて友軍がここまで向かえているのは、それもまた幸潮が『舞台』を自らの技巧に合わせ掌握し、癒しの力を極限まで引き出しているからだろう。
 重装兵と共になら、或いは。
 遠方より左右に揺れる特殊弾頭が敵本陣に撃ち込まれたのは、その時だ。
 誠司の射撃で敵陣に動揺が走っている。という事は。
「待たせたなレイリー! 一気に行くぜ!」
「エレンシア、ありがとう、流石私の戦友!」
 左翼の決着が着いたという事だ。
「遅かったなエレンシア」
 幸潮は彼女へ軽口のように言葉を投げた。
「ここからはレイリーのアンコールだ。絶対に、聞き逃すなよ。OK?」
 エレンシアの返答は、レイリーの放つ混沌の泥に合わせた突進撃でロダンの隊へ斬り込む事で是となり。
 左右から砂煙が続くのを察すれば、レイリーは今一度己を鉄壁の城塞と化した。
「さぁ、行くわよ!」
 彼女から流れる魔力の誘いはロダンも、ソリテュスにも届き得る。
 最も数を残している中央兵を要に、左翼から衝突。
 右翼からのシューヴェルトもそれに続き、全ての隊がレイリーの元へと濁流のように雪崩れ込む。
 ソリテュスは確かに強者であった。
 反応の速さだけならシューヴェルト、いや、それ以上。
 イズマが竜の吐息を纏い、固まる敵陣へ神聖秘奥の大打撃を放つ。
「愚将は強兵を殺し、賢将は弱兵を生かす。その意味をたっぷりと思い知らせてやろうか?」
 そう語るように放つイルマの魔弾が相手の兵を撃ち砕き。
 その内、姿の見えない一人が居た。
 この流れを読んでいたのか。それとも、考えを読んでいたのか。
「流れが乗ってる時こそ……何か潜んでるもんなんだよ」
 誠司が捉える。真正面に、敵軍を見据え。
 煽るような特殊弾頭が、誠司の大筒から放たれた。
 釣られたロダンを見逃さなかったのは、赤い刃。
「敵将、ロダン……!」
 その刀に、聖なる意思を乗せて。
「取ったッ!」
 血飛沫を浴びながらシューヴェルトが着地、最早、自分か相手か判らぬ色に染まり、尚も止まらない。
 エレンシアはすぐさま身体を反転させる。
「さーて、最後はお前だ総大将! らしい死に様見せてくれよな!」
 誰も彼も血に塗れている。
「必勝、必然――」
 それを詩歌の力で称えるように、幸潮は筆を走らせ続ける。
「――この『物語』は斯く在るべし」
 その話は戦場の皆に届けられる。
 勿論、不都合な題材は頂けない訳だが。
「おっと、そいつは無しって事にしとこうか」
 レイリーへ迫る攻撃を、悉く幸潮の筆が無に帰す。
 治癒とは違う、これは事象の改変に近い回復手段。
 それを受ければ、レイリーの瞳にも一層光が宿る。
「私を倒さない限り誰も死なせない」
 だから、最後まで倒れない。倒れなければ。
「連閃……」
 必ず、仲間が応えてくれるから。
「……落とします!」
 ガナトバとの戦闘で消耗した気力。オリーブの、今放てる最大の対人剣技。
 流れは止めさせない。
 エレンシアが更に斬りつける。乱舞を重ねる気力も尽き、尚も斬りつけるは大太刀の只一刀。
 せめて、せめてもう片手に力が入れば。
 渾身の力を込めてソリテュスの鎧に太刀を食い込ませる。そこに。その上に。
 イズマの剣が重なった。
 押し込まれる。ソリテュスの鎧に切れ目が入る。
 二人、同時に。線は十字に交錯して彩られた。
 そのまま地面に崩れ落ちながら、エレンシアは大太刀を突き立てて立つ。
「総大将……ソリテュス」
 イズマも息を切らし、頬の血を拭って宣言した。
「……討ち取った!」
 呼吸が、酷く重く感じる。
 感じるが、これはどうにも幻では無いようで。
 これだけの終焉獣の数を前に、我々は勝利を掴み取ったのだ。
 敵陣へと到達したイルマは、その旗をへし折ってレイリーへ、そして本陣のゼインとカジュへと向ける。
 レイリーは、開戦前と同じ様に目を瞑った。
 そうして再び開け、振り返る。
「さぁ」
 掛ける言葉は只一つ。
「皆、目一杯」
 コロッセウム=ドムス・アウレア内部上階。
 この日、この時。どの戦場にも負けない程の、戦士達の歓声が。
 勝利の声が、いつまでも轟く事になる。

成否

成功

MVP

エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)
流星と並び立つ赤き備

状態異常

エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)[重傷]
流星と並び立つ赤き備
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)[重傷]
天下無双の貴族騎士

あとがき

大変お待たせ致しました、申し訳御座いません!
依頼完了となります……! お疲れ様でした!

アフターアクションからの依頼で御座いました。
頂いた時からいつかこういう戦場チックな依頼をさせて頂きたいなぁ……!と思っておりまして、最終戦ぽい雰囲気に合わせて「やるならここしかないかな!」と思い立った次第で御座います。
戦場を駆けまわる皆様の熱いプレイングを頂いた時は本当に胸が熱く……あと中央が全然落とせなくてですね! 何でかなぁ!
左は左でちょっと緩めたら突破されるし、右は堅実に破壊されますし……。
勝負という訳ではないのですが、私の戦術負けで御座います。

それでは、ご参加頂き有り難う御座いました!
一GMとしてですが、皆様が無事に帰って来て下さるよう、心からお待ちしておりますね……!

PAGETOPPAGEBOTTOM