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シナリオ詳細

<終焉のクロニクル>Neither the Last Wolf Nor Alone

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●『狩りのヴァルハラ』
「進め、進め進め進め!」
『コロッセウム=ドムス・アウレア』奥へと鉄帝の先行部隊が進んでいた。重装歩兵がスクラムを組み、獣の猛攻を避けながら、真ん中を軽装部隊が突っ切った。味方の弓兵が機械弓に矢をつがえ、打ち出す。
 外からは、大砲の音。

 兵士たちは死を覚悟してやってきた。地獄を承諾していた。
 最後の地獄を予感して、影の領域(ラスト・ラスト)に踏み込んだ。

 足を踏み入れていれば、そこは、驚くほどに現実感がなかった。
 目の前に広がっているのは、墓場のような世界だった。緑と青。だが美しい。すそ野の広い山が遠くに見える。荘厳さがあった。
「ヴァルハラだ……」
 その原風景を持つものはすくない。だが、兵士の一人がつぶやいた。
 戦士たちが、永遠に戦う天国。

 色の彩度は緑と青に振り切っていて、とても冷たい。鉄と鉄がぶつかり合う音がする。戦士たちの怒声がする。しかし、他人事のようにすら思えた。

 鉄帝、全剣王の塔こと『コロッセウム=ドムス・アウレア』内部、『玉座の間』。ワーム・ホールの奥で色の違う獣たち。獣の形の二部隊により、永遠の戦いが繰り広げられていたのだった。刃に倒れ、生き物の形は水になり、崩れ落ちていく。そして、点々と散らばる水たまりから、また無機質な人や獣が生成される。兜、鎧、牙の数。大きさ、とってつけたような個体差はあったが、それのどこにも個性はなく、塩化ビニールの人形のようだった。

『あら、誰か来たの?』
 女の声がした。しかし、その見た目は異形である。
「魔種を確認!」
「あれか、あれが獣を呼んでいるのか」
『? ああ、お外に出てっちゃってたのかしら』
 オオカミたちは広がる瘴気の水たまりに蝕まれて消えるが、また繰り返す。死と再生。無感動に行われるそれは児戯に等しかった。ただ、アイラはお構いなしだ。『魔種』とはそういう存在なのだから。
『惜しいことをしたわね。人が死ぬのは、ぜひ見たかったんだけれど。でも焦ることはないわ。すぐここも終焉になるから。そうしたらずっと遊びましょうね。ソトには色彩があるわね。いいわね。ああ、いいわね。全部欲しい』
 前進。
 少女がつぶやくと、獣たちは姿を変え、吠えかかり、襲い掛かってきた。

●劣勢
 獣たちは何度も立ち上がってくる。しかも形態を変え、サルになるかと思えば巨石を投げ、かと思えばネズミになり攻撃を逃れる。どれにも共通して言えるのは、目が赤く、明らかな殺意をともしていることだ。
 翻って、先行した鉄帝部隊は、なだれ込んでくる獣に包囲されかけている。すでに数名が倒れていた。
 ところが、ここで不思議なことが起きた。水たまりに回収された鉄帝兵士たちは、起き上がり、戦い始めたのだ。
「永遠に戦えるのか、死んでも」
『だってモッタイナイもの』
 アイラは微笑んだ。
『ああ、でも、安心してね。だからってアイラに寝返るってことは、ほんとうにほんとうにないから。死んだときの敵はずっとそのままなの。つまり、死ねば死ぬほど、アンタたちの味方が増えるわね』
 アイラは哄笑し、だからもっと持ってきて、とアイラはねだった。
『どうしてって? だって、ひとりは。つまらないから。人間の意思まで奪ったら、人形と同じでしょ。私が使うのは、私の側の駒だけ……あ、いやだ、逆らったわね』
 震える獣の姿が小さな、仔をかばった。それは本能だったのだろうか。アイラはにらんで指を鳴らした。獣は作り替えられていく。
『精霊ってどうも扱いにくいわ』

 アイラをなんとかすれば、この状況に終止符を打つことができるだろう。しかし、倒しても倒しても減ることのない獣の数は多く、味方の数は絶望的に少なかった。
 偵察隊が血を吐いた。
「毒か……」
 若い鉄帝の将校が、イレギュラーズたちを振り返った。
「イレギュラーズのみなさん。ここは、我々に任せてください。あなた方が道を切り開いてくれればいい」
 そうだ、そうだと声が上がった。
「我々は戦士だ。いつでも死ぬ覚悟ができている。
我々が突撃して道を切り開く。死んでも駒になどなるものか。敵に弓を引いて見せる。最後まで剣を敵に突き立てて見せる。なに、ここで終わればそもそもが世界の終わり、死ぬのはちっとも怖くはない」
 そういって、防毒マスクを渡す。
 兵士たちはそれに従おうとした。
「物資は限られている。だから……後は頼みます」

 その時だった。

「ふーざけんなよ!」

 狼が吠えたてながらなだれ込んできた。

「行け! 行け行け行け、突っ込め!」
 ソリではない、犬の、いやオオカミの群れがホールに突っ込んでいった。
「集めに集めて100と1匹。周辺の部族とも連携したぜ! いやーたいへんだ、すげえ借金になったが。世界がすくえりゃお釣りがくる。金なんて意味がない。ははは。ほらよ、防毒マスクだ。あんまり役には立たないかもだが。ないよりはましだ!」
 もっとも半数以上は補給部隊であり、「戦力」としては期待できそうにはないが、とにかく……。
「飯もある。酒もある。退路もある。何が名誉だ。クソ食らえだ。
こういうのは、終わってからの酒宴が本番だろうがよぉ!
死ぬな。死ぬなよ!」

GMコメント

冬眠してました。
たいへんたいへんご無沙汰しております。
ご縁がありましたら、よろしくお願いします。

●目標
・魔種の討伐または撃退
・友軍の半分以上の生存

●場所
『コロッセウム=ドムス・アウレア』奥、影の領域(ラスト・ラスト)「狩りのヴァルハラ」
空には、赤い星が輝いています。

●状況
・『不毀なる廃滅(エミュレート・アルバニア)』
 非常に強力な『毒系列』のBSがばらまかれているようです。マスクなどでは軽減はできますが物資で解決するのは難しい面があります。

・倒れても倒れても、味方の「影」が戦ってくれるようです。そのため、士気は高く、一部の鉄帝軍や部族は命令を無視して、突撃をしようとしています。

 つまり、倒れれば倒れるほど一時的な戦力が増えるわけですが、それは、帰還できなくなることを意味します。
 死することが名誉である。死ぬのは怖くはない。死ぬほうが簡単です。敗色が濃厚になると突撃をする可能性があります。

(死亡した味方が援護してくれるというメリットになるのに戦略的な裏はなく、ただ死亡してしまうのがデメリットです。)

●敵
『魔種』アイラ:
「戦って戦って戦って、戦うのって面白いよね。ね、何度も戦えたら素敵だよね」
「ねぇ、そうだよね?」
 凶兆を示す星であるノルダインの伝承の影響を受け、別の世界に枝分かれしていた別の存在。
 独りぼっちです。

・いつのまにかひとりぼっち
 孤立した魔物を、HPや防御を犠牲に強化します。

・つくりなおし
 魔物をいったん水たまりにして、作り変えます。無限に思えますが、総量は減っているようです。

 その他、強力な遠隔神秘攻撃も行います。

『変容する獣』たち×???
 滅びのアークそのもので作られた存在です。
 グリズリー、狐、オオカミなど、異形の獣の影をしています。アイラの影響で、戦うことに執念を燃やしているようです。彼ら自身も毒を受け、倒れては沼から這い上がるようです。
 もともとは精霊に類するもののようで、彼ら本来の形があります。
 戦意を削りきるか、解放してやるとよいでしょう。

●友軍
ラグナル・アイデ
「全軍突撃? ……やってられるかよ! 生きて帰るんだ」

・鉄帝軍およびアイデおよび周辺部族の連合
アイデの狼使いが30名ほど、戦える狼が同じくらい。
鉄帝の兵士たちが二部隊。
周辺部族の弓兵部隊が一部隊。

・戦士たちの「影」
かつて鉄帝の戦士たちだった影でしょうか?
競い合っていた戦士たちの亡霊ですが、援護してくれます。

●魔種
 純種が反転、変化した存在です。
 終焉(ラスト・ラスト)という勢力を構成するのは混沌における徒花でもあります。
 大いなる狂気を抱いており、関わる相手にその狂気を伝播させる事が出来ます。強力な魔種程、その能力が強く、魔種から及ぼされるその影響は『原罪の呼び声(クリミナル・オファー)』と定義されており、堕落への誘惑として忌避されています。
 通常の純種を大きく凌駕する能力を持っており、通常の純種が『呼び声』なる切っ掛けを肯定した時、変化するものとされています。
 またイレギュラーズと似た能力を持ち、自身の行動によって『滅びのアーク』に可能性を蓄積してしまうのです。(『滅びのアーク』は『空繰パンドラ』と逆の効果を発生させる神器です)

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●『パンドラ』の加護
 このフィールドでは『イクリプス全身』の姿にキャラクターが変化することが可能です。
 影の領域内部に存在するだけでPC当人の『パンドラ』は消費されていきますが、敵に対抗するための非常に強力な力を得ることが可能です。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

  • <終焉のクロニクル>Neither the Last Wolf Nor Alone完了
  • あるだけ全部持ってきた
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2024年04月06日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
ネーヴェ(p3p007199)
星に想いを
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す
刻見 雲雀(p3p010272)
最果てに至る邪眼
佐倉・望乃(p3p010720)
貴方を護る紅薔薇

サポートNPC一覧(1人)

ラグナル・アイデ(p3n000212)
アイデの番狼

リプレイ

●生きて帰る為に!
 オオン、オオン、オオーーーー。
 狼の遠吠えが響いていた。

 必ず生きて帰る。
『世界で一番幸せなお嫁さん』佐倉・望乃(p3p010720)は、Te amoにキスを落とした。
 ぜったいに生きる。生きて帰る。
……大切な人をひとりぼっちにしないように。

「狩りのヴァルハラ……永遠に戦える地とは、確かにある種の天国だろう」
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は、おぞましくも感じられるこの地に敬意をささげた。
 きれいだ。だからこそ恐ろしい。
(魂が奮い立つ地だが、だからこそ呑まれてはいけないな)
 イズマが一歩踏み出せば、響奏術により音色はかすかに変わる。破壊と絶望から、心なしか勇ましい音へと変じる。
 この戦場において、どうあがいても犠牲はゼロとはいかない。前列の兵士が、攻撃を受けて崩れ落ちる。戦力としては増える形になるが、イレギュラーズたちはそれをよしとはしない。
「死を弄ぶなんて許せない!」
 それが敵であれ、味方であれ……、『天義の聖女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)には受け入れられることではなかった。
 早く決着をつけて解放してあげたい。安らぎを与えてあげたい。
「ラグナルさん。
貴方とはこれが初めてだけど、その言葉には心から同意するよ」
「アンタ、名前は?」
「刻見 雲雀」
『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)は簡単に名乗った。血のこびりついた剣のレプリカは、何か、大きな意味を持っているように思われた。戦場に慣れた戦士であることがうかがえる。
 互いを知る時間は、今はない。必ず……。生きてこそだ。
「頼もしい友軍をありがとう、ラグナルさん」
「こっちのセリフだ。イレギュラーズってのは、いつもいい時に来やがる」
(戦場で死するは誉と聞いて育った人もいるだろう、でも同時に帰りを待つ人たちもきっといる。
その人たちを悲しませちゃいけない)
 雲雀は呪術書に手を添えた。
「……貴方たちを必要としている人たちの為に、俺は俺にできる最善を尽くそう。
生きて帰る為に!」
 生きるために!
 雲雀に続いて、人々が唱和する。
「そうよ。無事に世界を救ったら、皆で沢山お祝いしなくちゃいけないんだから!」
『ベルディグリの傍ら』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)は優しい笑みから、不意にりりしい顔になる。
「誰一人、死んじゃダメよ――最後の一人にも、最後の一匹にもさせるもんですか!」

「終わってからの酒宴が本番、ね。私も同意するわ」
『無限円舞』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)の銀髪が風に揺れる。
「イレギュラーズとは可能性の獣。
ならば彼らが生きて帰る可能性だって掴めるはずよ」
「皆で一緒に帰る為に!」
 スティアが振り上げたネフシュタンがきらめいて、旗印のようにきらきらと輝いた。
「そうです。わたし達が成すべきことは、世界を救い、生きて帰り、その先も生き続けることです!」
 望乃ははっきりと言ってみせる。生命力がみなぎっている。
「この後は勝利の酒宴と、世界の復興が待っているのですから。
まだまだ皆さんの力を必要としている世界の為に、
皆さんの帰りを待っている大切な人達の為に。
命を粗末にすることは、望乃お姉ちゃんが許しません!」
 戦士たちは、頬を叩かれたかのように現実に戻る。
 戦乙女だ、と誰かがつぶやいた。不意にもたらされた春のようだった。英雄叙事詩を歌う望乃は、勝利の女神だった。
「全員! 死ぬ気で! 生きて勝って下さい!!」
 捨て身の攻撃は、一転して泥臭い防御姿勢に変わった。
「戦い抜いて、生きて帰る。そのために持てる力を全て尽くすよ。
勝って戦いを終わらせ、世界を救おう!」
「ええ、ええ。これは、死ぬための戦いでは……ありません」
『星に想いを』ネーヴェ(p3p007199)の黒椿の舞踏脚が地を踏んだ。
「わたくしたちも、皆様も、生き抜くための。この世界で、生き続けるための、戦いです!
皆様で、可能な限りの命を掴み取りましょう。先に散った方がまだ戦い続けてくださるのなら、その想いを、勝利への道筋を無駄にしないように」

 見知ったイレギュラーズたちではあるが、その姿は多少ことなる。
 イクリプス、という現象だ。
「よぅ、ラグナル!」
「その姿は……ルナ!? で、いいのか?」
『駆ける黒影』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)はぽんと戦友の肩をたたいた。
「なりふり構わずいい感じに生き汚くなってんじゃねぇか。好きだぜ、そういうの。金に困ったら、ラサにいい商会があんぜ。繋ぎくらいはしてやるよ」
「そうだな。もうすっからかんだ。でも宴会は欠かせねぇ」
「俺の分の酒は残しとけよ。あと、追加で3人分だ。てめぇと。親父さんと。ついでにてめぇの兄貴も混ぜてやれ」
「……ああ!」
 ラグナルは、しっかりと決意を込めてうなずいた。

●瘴気の道を進め
 ルナは地面に近づけていた顔を上げる。
「おい。ラグナル。空気やらなんやらに毒が含まれてんなら、場合によっちゃ、地面に近い方が濃いかもしれねぇ」
「……一理あるな」
「まして、服も防護具もなく走りながら呼吸するんだ。狼連中の方が先にやられんのは確実だ。
狼のこたぁ、てめぇが誰よりもよくわかるはずだ。
引き際を見誤んなよ」
「わかった」
「おめぇは族長で、そいつらは、家族なんだ。いや、何匹かは借りもんの借金か?
1匹殺すたびにゴールドが飛んでくわけだな」
「もう、ゴールドなんてすっからかんさ。あとは借金生活ってとこか。ははは」
「おぅ、てめぇら。
生き残ったら物資持ってきたあそこのアイデの族長に感謝して、借金返済に協力してやれよ」
 ルナは防毒マスクを仲間たちに放った。
「んじゃ……いってくるぜ、戦友」
 この程度の瘴気では、この獅子の足を止めることはできない。ジルも、ネーヴェもそれに続いた。イズマも微笑む。妖精郷の主である望乃にもまた、この毒は通じない。

「ヘルニールの弔い合戦と行きたいところだがな」
 降り注ぐ弾丸。ルナは振り返りもせずに獣にプラチナムインベルタを食らわせる。ルナに奇襲は通用しない。
「俺ァ別の客がいるみてぇだ」
 一騎当千だった。ルナは道なき戦場を駆け抜ける。矢も、魔力の矢もルナを止めることはできない。展開される魔力が流れ星のように尾を引いて、運命を書き換えていく。
「一人だって喪わない
皆で生きて帰るのよ!」
 イズマが音を変えるなら、ジルは香りを変えている。
 硝煙と血の匂いから、生命力あふれる芽吹きのにおいがした。
 視界が悪い中でも、雲雀は周りの状況を把握していた。闇の帳をまとい、敵の目を抜けて戦場に進み、孤軍奮闘している友軍のもとへと進んだ。
「確かにここはとても危険な戦場だ。
でも、どうか命を投げ捨てようとするようなことはしてはいけない。
どんなに無様でも、生き残って帰ることに勝る経験は存在しないよ。
生きるこそ勝ちなんだ!」
 堕天の輝きは呪いを帯び、死の運命を敵に押し付けた。倒れこんだ男を一人引きずるようにしてかばい、攻撃を受ける。もう少し、あと少し後退すれば勝てる。
「こんな所で死んで操られるのは悲しいからね
どうかご武運を」
 スティアの動きは統率された兵士のそれとはまた違う。その場にある空気と調和し、流れるようなしぐさで神域を展開している。
 アンジュ・デシュ。アン、ドゥ、トロワ。
 三度。
 雲雀は素早く獣の群れを相手取ると、群れを相手取り、下がらせる。
 孤立していた一群が、再び生に活路を見出す。
「戦うのが好きなのはいいけど、ずっと付き合ってられる程俺たちも暇じゃないからね。
他を当たってくれ。もし生き残ればだけどね」

(頼りになる仲間が、たくさんいます)
 生きている仲間が、まだ立っている。
 ネーヴェが、可憐な少女が恐れる様子なく迫ってくるのに、アイラは多少の驚きを覚える。自暴自棄であれば理解の上だが、生きることを諦めていないのが不思議だった。
「アイラ様」
『……?』
 ネーヴェがその名をつむぐ。声には、誰かへの情愛が感じられる。
 ネーヴェが思い出すのは蝶。青い蝶。
(ほんの少し……ちょっぴりだけ、親近感を感じはしますけれど)
 それでも、ネーヴェは歩みを止めない。
「あの子とは別物ですもの、容赦なく、屠らせていただきます!」
 黒椿の舞踏脚で踏み切ったネーヴェは、見事な雷撃を食らわせる。
「ハッ、おまけだ!」
 ルナもまた、それに共鳴している。
 神鳴神威があたりを凪いだ。あっという間だった。雷鳴が明滅すれば、瞬く間に戦況は一変している。
 イズマの指揮によって跳ねられる泥は獣を巻き込んで妨害した。雲雀は耳を傾け、目をくばる。秘咒・点照。強化咒法の一種である。教えはいつだってともにある。混沌ひしめくこの戦場でも立ち続けられる。声もなく号令をかける。活路はある。
 星は巡る。凶兆と破滅を呼び寄せる。
 今、ここに。
(幸い、ここには敵しかいない)
 だから全力を尽くし、殲滅させることができる。
 見える。視える、今、この場がどういう状況であるのか、雲雀にはチェス盤の盤上のように見えていた。冷静な心は戦場をはるかに見渡し分析する。
 雲雀のアンジュ・デシュが、また一撃を加えた。
「下がるんだ。後ろに行けばまだ希望はある」
 昏く重い香り。這い寄るのは蛇。
 視てはいけない、と友軍は肌で直感する。あの物腰柔らかな勇士から漂う香りは尋常ならざるものなのだった。
(近づかれる前に倒す)
 崩落が石になれば止まり、再びよみがえることはない。アイラのおもちゃは増えない。アイラはジルをにらみつける。
「負けません。だから、負けないで!」
 望乃の大天使の祝福があたりをやわらかく照らしている。桃色の光を目指して、負傷者は後退した。何よりも負けず輝くRoseateが、己を呼んでいたのだった。
「わたしがついています。みんなで一緒に帰るんです!」
 気紛れな悪霊は気まぐれに、すれすれの勝利に手を貸した。獣から逃れた友軍が逃れてこちらへやってくる。傷を癒し、死ぬことはない、手を貸すことはできない。
 それでも士気は高かった。
 血泥で目がふさがれた友軍は、イズマの奏でる音色の中に後退する。
「帰る、帰るんだ、……あの音色の中に逃れるんだ」
 スティアはリインカーネーションに祈った。
 魔力を受け継ぐと、ネフシュタンを構える。アイラは哄笑を上げたが、その笑いをアンナの氷がさえぎった。刀身に纏わされた氷は鋭く冷たかった。引かない。己の身を盾とするのだ。崩落する運命。敵は、アンナのもとに引き寄せられて、一撃を食らった。
『つくりなおさ、ないと』
 イズマは騒がしい音を聞きつけ、アイゼルネ・ブリガーデを降り注がせた。敵が作り出されている。あちらとぶつかれば友軍の命は危ない。それは戦力の増強を意味するが、望ましくない。
 獣の鋭い唸り声が、耳元で三度。変容する獣のものではない。変容する獣は何かに吠えるように何もない場所に吠え立てた。けれども見えぬ何かに狩られていった。
(休んでいなさい、起き上がらなくてもいいの)
 もう戦わなくてもいい。
(見えない。目が見えない)
 ルナの不意のアビス・ロブが見えぬ敵を打ち据える。
「鼻は利くだろ、姿勢はあげろ。あっちだ」
 香りが、不意に、途絶える。代わりに提示されるのは音色だった。まるで極上の料理を平らげたかのような満足そうな音色だ。惹かれるようにして立ち上がる力を得ると這いずって後退する。ルナは自力で歩けるものはまかせ、助からなかったはずの命めがけて突撃していった。背に乗せ、後退する。
 天使の祝福が暖かい雨となって降り注いだ。慈雨となって……。

 倒れた獣が叫び、またしても襲い掛かってくる。そんな気配を、わずかな死者の影がこちらに加勢する。
 暗闇を切り裂くように、メロディア・コンダクターが振るわれる。戦場にはリズムがあった。――音楽は自由だ。縛られることはない。
 イズマの放った光の戦慄が、弱った精霊にとどめを刺す。
 今までしてきたこと。鉄帝で、激動の時代を救ってきた勇士だ。その行動は届いている。周りの人間にも届いている。
「皆がいてくれたから、ここまでこられた
アンタも別の世界ではひとりぼっちじゃなかったのよ
アイラ――いいえ、アイラマルコ」
 ジルの優しい一言はアイラの心を揺らした。
 いるはずの半身。欠けてしまったもう一人のもとへ。

●泥にまみれても
 スティアの聖華が、あたりに花を散らしていた。幻の花は雪のように融ける。イズマの音はどこまでも届いている。
 友軍が優勢だ。それも立って、生きている人間が優勢だ。
 絶対的多数になるはずの死者は増えない。
 望乃の神気閃光が、周りの獣の攻勢を止める。
「……あなたと同じ、ひとりぼっちを増やすだけの戦いは、もう、終わりにしましょう?」
『アなたには、いるのね。いとしいひとが』
 望乃の送り出した妖精が、アイラに一撃を加えた。
 ずるい、どうして、アイラは嘆いた。
 アンナの速度が、アイラをはるかに上回る。舞うようにアンナは攻勢を仕掛ける。
 雲雀の紅の一矢が、空間ごと凍り付かせながらアイラに刺さった。
 重くのしかかる災厄。
 天衣無縫のアンナ・シャルロット・ミルフィールがそこに立っている。夢煌の水晶剣を手に。折れそうなほど細い刀身は敵を切り裂いても折れることはない。冴えわたる技は敵の思い通りを封じていく。スティアの放った天穹がアイラを切り裂いた。
(つくり、なおさなきゃ……)
 精霊を、魂を寄せるそぶりを見せたアイラに、スティアが果敢に攻撃する。
「させない!」
 スティアの意志が魔力に、魔力が攻撃に転じる。
「さあ、兎とも遊んでくださいませ!」
 アイラはネーヴェとのダンスに応じる。
「わたくしたちは……戦うために、戦っているのではない
死ぬために、戦っているのでもない」
 ネーヴェの神鳴神威があたりをまばゆく照らし、薙ぎ払う。
「生きたいから、守りたいものがあるから、戦うのです
挫けそうな時は、命を投げ出すのではなく
守りたいものを、帰りたい場所を、思い浮かべるのです」
『そんなもの、ない。ない、ナイ』
「わたくしも、帰りたい場所があるから。この戦いの先で逢いたい人がいるから。ここで死ぬわけにも、負けるわけにも、いきません!」
 ネーヴェが斬神空波を繰り出し、距離をとる。神域が広がった。さみしい荒野に花を象った。場が変更される。スティアは祈る。魔力を旋律に変えて、神聖なる音色を奏でる。イズマはそれを受けて、音色に加える。響奏術・羅。
 イズマが鼓舞すると、誰も口をふさぐことができない。炸裂する音。声。
「世界は終わらない! だから命を諦めるな、戦って生きろ!
戦士が戦いを妥協するな、戦士たるもの勝ち残る事こそが最上の誉れだろう!?」
――死なせない。
 死なせない。イズマは崩れ落ちる友軍を庇った。狼が吠え立てて服を引っ張り、そりに乗せた。とまることを知らぬ四肢はぬかるみなどものともしない。
 俺たちも覚悟を決めた、と、火薬をのせているソリだった。
 何かに引っ張られ、ぐわっとかしいだ。
「オイ、ソリよこせ」
「へ? うわっ」
 ルナは次々と兵士をのせると、輪動制御で戦場をかけた。
「運び屋仕事なんざ朝飯前だぜ。
この戦場にいる限り。
どこにいようと、俺の脚が運んでやる」

●循環しない生命
 思った以上に犠牲が増えなかった。静寂と冷静さを保っている。
 これはアイラにとって、理想的な戦場ではない。薪がない。薪がなければ熱も生じない。
「死んで良いのは、最後まで生きて戦った者だけだ!」

 絶えず運命は星と共に流転する。――雲雀は運の不平等さに思いをはせる。足を取られ、泥にぬかるんで倒れる。不運は、決して偶然ではなかった。
「きょうだいやベルカたちが力を貸してくれるんだもの
負ける気がしないわ」
 もう友軍は大丈夫だ。無理なところはしのぎ切った。犠牲は驚くほどに少ない。だから加勢は少ない。
 アイン・ソフ・オウル。
 イズマは共鳴する精霊たちを寄り分け、混ざりあった魂を引きはがす。どろどろと汚れた精霊は本来の姿を取り戻す。火、水、彼らにも名前がある。
「人も精霊の命も、あなたの寂しさを慰める為に在るものじゃない」
『ちがう、ちがう、ワタシの……』
「今更止めろ、とは言わないけれど。何にしてもここで終わらせるから」
 アンナはきっぱりと断言した。
 悪びれないアイラの目からは、黒い涙が流れていた。心の深いところで何かが揺れているのだろう。
(彼女も反転に至った相応の経緯はあるのでしょう)
 けれど同情している余裕はない。
 仲間が死ぬ前に倒す。それが最善だった。
 撤退の機運も、今だった。けれどもイレギュラーズはそれをよしとはしなかった。もう一歩踏み込んで、決める。
(アイラはここで討ちたい)
 それは戦略的な意味もあるが……彼女が皆に囲まれて眠れるからだ。
 全てを出し尽くす勢いで、イズマは護符を破り捨てた。
「さようなら。貴女も、死人たちの仲間入り。もうひとりではありません、ね?」
 ネーヴェの一撃に、アイラは息をのんだ。救い……そう、彼らは救うためにここに来たのだと、心から理解した。
 これ以上先には闇しかない。静寂と恐怖しかない。
「アンタたちが、本当は優しい子たちだったってこと、ちゃんと知ってるわ。絶対に忘れない」
 そうではないの?
「だから――安心して、生まれた場所に還りなさい」
 向こうに、いるの?

 崩壊を免れえないと信じたアイラは、片星は最後にすべてを巻き込もうとする。
 覚悟していた傭兵たちはそこに立ちふさがるアンナを見た。
 傷をふさぐ光が、あたりに降り注いでいる。

●蛇の食む輪廻の終わり
「けが人はいませんか?」
 望乃は一人ひとり手当てをしている。
「もう敵も味方も見分けがつかないね」
 スティアはそっと気配に触れる。
「元々は精霊なんだっけ……?」
 少しでも安らげるように。
 もてあそばれた形が望むものになるように……。
「よければ皆さんや精霊達も一緒に、歌や踊りをしないか?
今を素敵な時間にして、彼女を見送ろう」
 イズマの提案に、仲間たちは頷いた。
 やせ我慢のような、無骨な歌声があたりに響きだす。
「もう安心して眠って貰って大丈夫だから…ありがとう」
 ガシャン、と音がした。戦士たちの鎧が地面にぶつかって、影はまた魂に戻る。

……。

 傷を押さえた兵士の一人が何か良いもののにおいをかぎ取って、「飯が食べたい」と雲雀を見てこぼした。
「ラグナル。お前は義兄弟みてぇだっつったがな。俺にもお前にも、兄弟っつーのは一人だけだ。そうだろ、戦友。家族じゃねぇがそれでいいじゃねぇか、ダチ公」
「ああ。……ああ」
「なんたって私は天義の聖女だから少しはご利益があるはず?」
 スティアはいたずらっぽく笑った。
「こんな事を思ったら罰当たりだって思われるかもしれないけど
それで死者達が安らげるならそれでいいなって」
 必要とされているのはそういう救いなのだろう。

「ねえ、きょうだい
この戦いが終わったら、借金返済旅行なんてどうかしら?」
「なんだよそれ……?」
「ヴィーザルだけじゃなくて、混沌中を巡って、沢山の人たちを助けるの
ベルカやストレルカ、それにもちろん、アイデの皆も一緒に」
「……いいなあ」
「アタシたちが救った世界を、見に行きましょうよ
いつかヴァルハラへ行く日が来た時に
思い出話も、武勇伝も、両手両足の指じゃ数え切れないくらい持っていけるように」
 あっちに行きたくないと思えばうそになる。きれいな世界だった。でもまだ行かなくていいようだ。泥臭くあがいて、ここにいられれば……。
「……あ、ラサに行った時はルナに案内してもらいましょ♪」
 ゆうに100人は束にして救ったであろう獅子は友軍に囲まれ、歓待を受けている。

成否

成功

MVP

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女

状態異常

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)[重傷]
天義の聖女
ネーヴェ(p3p007199)[重傷]
星に想いを
佐倉・望乃(p3p010720)[重傷]
貴方を護る紅薔薇

あとがき

最終決戦、お疲れさまでした。
アイラはイレギュラーズに敗れ、安らかに眠ることになりました。生き残った友軍の数は驚くほど多く、

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