シナリオ詳細
<終焉のクロニクル>後方支援のヒロイックテイル
オープニング
幻想――レガド・イルシオンが王都メル・メフィート。
もはや国王、あるいは諸貴族が兵団すらも数多の魔種が跋扈し『アークロード』ヴェラムデリクトが支配するワームホールへと進軍を開始し、普段よりずっとその人数を減らしつつも静寂が訪れることは決してない。
先陣を切り、敵を殲滅するは確かに戦の中枢にして武の誉れ。
けれどそれを支えるのも――兵站もまた、軍事であるがゆえに。
「せ、先輩……マジなんですか」
「マジなんです。ほらもうさっさと諦めな」
「だって俺去年入ったばっかりの訓練兵っすよぉ!?」
「アタシだってアンタの前の募集で入ったばっかだよ!」
「ほーら無駄口きいてるヒマがあるなら荷物運べ! 騎士様達や熟練兵の方々なんざ、イレギュラーズの皆さんと一緒にワームホールに突入して戦ってんだ。そのおかげで俺達ぁ死んで当たり前の肉の壁じゃなく兵站輸送に回してもらえてんだぞ」
「でも別に兵站輸送が安全ってわけじゃないですよね」
「当たり前だろ戦地だぞ」
「ひんっ」
「お諦めなさい、どうせどこも戦地ですわ。というか此度の戦に負けたら戦地どころじゃありませんのよ」
「お嬢はまだ帰る家がぁ」
「負けたら吹っ飛びますわよそんなもの」
「ひぃん」
「はいはい鳴いてないで。……大丈夫、こっちにもイレギュラーズの皆さんが手を貸してくれるんですって」
「本当っすか!?」
「ああ、マジだ。オラッ! わかったら気合い入れて荷物積めっ、この物資の一つひとつが一番前で戦ってる人達の役に立つんだ!」
「はいっ!」
「調子のいい奴……」
「前を向くに越したことはなくってよ。さ、行きましょう」
「そうだな。僕達だって……訓練兵でも、兵士だ……!」
幻想国王の騎士団より、ローレットへと依頼。
内容は兵站輸送部隊の護衛である。
既に精鋭や熟練兵と言える者達は前線へと出ている。ゆえに兵站輸送を担当する兵士には訓練兵すらも含まれ、士気こそ高くとも実戦経験のない者も多い。イレギュラーズに依頼されたのは、そういった者をサポートしつつ後方支援を潰そうとする敵、あるいは見境なく誰かを襲いたくてたまらないといった敵から兵站輸送部隊を護衛しつつ、ワームホール近くの後方部隊に兵站を引き渡すこと。
道中は多数の終焉獣、また複数の魔種の姿も確認されている。
イレギュラーズにとってはさほど難敵とはいえなくとも、一般兵また訓練兵にとっては一撃必殺の脅威ですらある。どうかそれを考慮してほしい。
――この戦いを終えた後、幻想を支えることになるのは、きっと彼らだから。
- <終焉のクロニクル>後方支援のヒロイックテイル完了
- GM名旅情かなた
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2024年04月07日 22時20分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
幻想国王兵団の兵営にて編成される、兵站輸送部隊。
「うっし、よろしくな、てめえら!」
にかっと笑って『ガイアネモネ』紅花 牡丹(p3p010983)が右手を上げる。
「おかげでとっても助かってるぜ!」
この戦いの最前線へも身を投じる牡丹の感謝に、わぁっと歓声すら上げたのは此度の依頼で同行する20人のみではない。
戦闘への参加を許されずとも、自分達もまたこの戦いを支えているのだと実感した兵士達は、胸を張って荷車に補給物資を積み、輸送路へと繰り出して行く。
「最前線のみが戦いの場所ではない。医師として、貴方がたのように物資を送り届けてくれる人々には感謝している。本当だ」
そう静かに続けた『61分目の針』ルブラット・メルクライン(p3p009557)の言葉にも、静かに矜持を支えられた者達が胸に当てた拳に力を込め、頷く。
「……本当だよ?」
いやそこ繰り返したらかえって怪しいんだけどなー、という視線も集まったが、まぁうん、仕方ない。
「裏方や縁の下の力持ち、とても大事な役割だね……」
『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)が声を上げる。『木漏れ日のフルール』リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)がヨゾラの言葉に頷いて。
「最終決戦、後方支援だって手は抜かない」
共に過ごしてきた大切な仲間が、家族がいる。
己を育んで、共に過ごしてきた自然がある。
絶対に守り抜きたいからこそ、最終決戦を後ろから支えるためにここにいる。ヨゾラもリディアも、兵士達もだ。守りたいもののために、戦うことを決意してここにいる。
「敵をぶちのめして、人員も物資も守るよ!」
「絶対成功させるんだ!」
リディアとヨゾラの突き上げた拳に続く気勢。出発を控えた兵士達は同じく拳を突き上げ荷運び中でも共に声を上げて。
「駆け出しの者が多いならば、尚のことここで無事に成功させて自信をつけさせてやりたいのう」
『揺蕩う老魚』海音寺 潮(p3p001498)が顎を撫でつつ頷く。鮫人とでも言うべきシルエットに纏った着物姿の後ろから、30cmほどの空中を泳ぐちみっこい鮫がちらちらと賑やかな兵営の様子を覗いている。鮫のものである顔は獰猛さを思わせるが、そこに浮かぶ表情やポチを撫でる手は穏やかだ。年齢重ねた白い眉や丸眼鏡がさらに柔和さを加えて、自分の三分の一ほどかそれより若い彼らを見つめる。
「どんな時どんな状況だって今を生きる新世代は居る 我々はそんな新世代の為にも 今 終わらせる戦いをする……とは言え」
『八百屋の息子』コラバポス 夏子(p3p000808)が普段の軽口を置いてきたかのように、低く呟く。握りしめたギルド『黒狼隊』の紋章に、紅玉をあしらったお守り。夏子の無事を祈って贈られた、その。
「脇を固めるのも大事 担うのが新世代ってなら是非もなし 我々の守るべきモノ 手の届く範囲は……」
贈り主は、もう、いない。
拳を握れば、繋いだまま消えてしまった手とは裏腹の無機質な硬質さが突き刺さる。――少し痛いと感じるくらいに握り締めて、一呼吸。
「うんそう まもんないとネ」
拳と同時に緩めた表情。唇が弧を描き紡ぐ言葉が軽妙を取り戻す。
彼女があの時確かに守った世界を、未来を、これから守り歩んでいくのは。
彼らだ。
「そう、この方法は締め付けた部位を傷める可能性もあるから、慎重に……直接圧迫しても止血できないときにだけ使って」
共に出発する兵士達に『超弩級お節介』暁蕾(p3p000647)が、止血法と心肺蘇生法をレクチャーしている。流浪の旅に出ていた暁蕾にとっては、ローレットで請ける久しぶりの依頼だ。
(頑張るわ。……これを『あの人』に返すまでは、死ねないもの)
しっかりと仕舞い込んだ眼鏡ケースに鞄の上から手を当てる。視力の良い暁蕾には合わない度の入った眼鏡。
真剣に聞き入る兵士達を見つめつつ、『ノームの愛娘』フラン・ヴィラネル(p3p006816)は懐かしいなぁ、と心の中で呟いて目を細めた。
(あたしがイレギュラーズになって初めてのお仕事は、大きな戦いの中で街を駆け回って怪我している人を助けたり、避難を誘導してたっけ)
あの時もまた、幻想王国での戦いだった。
(その時は杖を持つ手も震えて、護らなきゃいけないのに足もすくんでた)
その昔の自分の姿を見ているようだとフランは思う。この決戦の瞬間に、まだまだ若輩として立ち会い、それでも出来ることをしようとする彼らが。
(あれから5年以上経って――あたしも、少しは強くなれたかな?)
あの時も、ううん、あたしが皆を護るって決めたあの日も見ていた先輩たちの背中みたいに。
(今日はあたしが、皆に背中を見せる時!)
杖を握り締めるフランの手は、今日はもちろん震えてはいない。
「ありがと先輩 イレギュラーズとは言え 僕も一般の出 よろしくスよ~」
「ああ、よろしく頼む! 先輩と言われるとどうにも面映ゆいが……」
最終的な予定の確認を兵士とイレギュラーズ全員で終えて、軽い調子ながら部隊長をしっかりと立てた夏子に歳の頃はそう変わらない部隊長は頭をかいた。
「それこそ胸を借りる気持ちで行かせてもらう」
イレギュラーズへの深い一礼は、とても及ばぬ強敵から守ってくれることと同時に未熟な部分を支えてもらうことへの感謝も深く籠められている。何かのフラグになりそうだから絶対生き延びるんだよー! とヨゾラが祈り籠めて拳を握ったのは、帰ってきたら恋人にプロポーズすると話を聞いたからだ。
「出来りゃこんなコトぁしたくは無いわな」
本来ならまだ実戦に出るべきでない訓練兵、経験のまだ浅い一般兵にも。
「でもそう悪くもないよ 皆が楽しく暮らす ソレは君等の頑張りがあってこそ さ」
軽やかに夏子は笑ってみせる。
ルブラットがファミリアの小鳥を飛ばし、ヨゾラや夏子は広域俯瞰を利用して敵影を逃さぬように注意を張り巡らせる。目は、多ければ多いほどいい。
けれど緊張ばかりでも、戦いの時にかえって疲れていてはどうしようもない。それに連帯感は敵に対峙した時の支えに、信頼に繋がるから。
「ねえ、自己紹介しよう?!私はフラン・ヴィラネル、フランって呼んでくれたら嬉しいな。隊長さんは?」
「ああ、俺はマイク。じゃあこっちも順に名前言ってってくれ」
「では。イリュガルテ・ディ=サリューエル、長いからイリーとでもお呼びになって。一般兵ですわ」
「あっ俺はロブ、ぺーぺー訓練生っす!」
「アタシはシィラ、ロブ達よりは1年上だけど、まぁペーペーの内さね」
「じゃあ次は……」
20人の兵士達と8人のイレギュラーズが自己紹介を終える頃には、雰囲気もだいぶ解れてきた。潮が自己紹介とも絡めて話題を出せばまだちょっと控え目ながらも誰かが話し出し、それに夏子が軽妙に合いの手を入れる。自然豊かな村で育った兵士の話にはリディアが目を輝かせて気になったことを問いかけるし、飼い猫がいると聞けばさらにヨゾラも目を輝かせて話をねだる。病を乗り越えたことがあるとか子供がよく掛かる流行り病の思い出話になれば、ルブラットが興味深げに耳を傾ける。
「……む、右方向から敵、おそらく終焉獣、数は……」
「8 いや9体」
「僕からも9体だ」
広域俯瞰を展開している夏子とヨゾラが確かめ合って頷く。
「全力でこっちに向かっているようだ、一度迎撃に集中した方がいい」
ルブラットの言葉に頷いた隊長が部隊に「一旦停止、敵の迎撃に集中する! 荷物の右側に集まれ!」と指示を出す。
「ひえ、て、敵……」
剣に手を掛けつつも踏み出せずにいるロブに、すっと暁蕾が寄り添った。
「あなたを、頼りにしている」
大体幻想の男性の平均身長のロブに対し、暁蕾さん小柄でスレンダー。ベールで鼻から下を覆いながらも赤い切れ長の瞳がじっと見上げ、僅かに小首を傾げれば。
「だ、……だだだ大丈夫! 暁蕾さんは俺が守ります!!」
震える手をぎゅっと握って両手でガッツポーズ。経験は足りずとも士気は十分。
「ちょっとくらいの怪我なら治してあげるから頑張ってみなさい、怖いなら立ち回りだけでもしっかり見ておくといつか役に立つぞい」
「敵1体に1人じゃなくて2人以上で相手を! 焦って踏み込みすぎないように気をつけて!」
フランが呼びかけつつ杖を握り、ファルカウへと祈りを捧げる。最初の戦いと同じく、彼女の役割は支援役。ゆったりと揺るがぬ姿で腕組みし頷く潮は静観の構えだが、ひとたび祈れば強力な回復を戦場に降り注がせるヒーラーである。
「呑み込め、泥よ……邪魔する敵を飲み干せ!」
ヨゾラが星の煌めきを宿しつつもすべてを呑み込むような漆黒の星空の泥を飛び出してくる終焉獣の先頭へと流し容赦なく数を減らす。その泥を追うように羽ばたかせた片翼で加速を付け、纏う炎を散らしながら牡丹が飛び出す。
「っし、部隊にも物資にも手出しはさせねえよ!」
残った獣の注意を自分へと引き付け、単純な攻撃を盾で受け止めながら「オレが引き付けてる内に倒しやがれ!」と呼びかける。
「あと5匹 なら慣れてないコも混じって大丈夫ッスかね」
「背後はイレギュラーズの皆様にお任せしてよろしいのでは?」
夏子と共にイリーが声をかければ、隊長が深く頷く。
「1体に4人でかかれ! 囲んで逃がすな、一般兵は正面を取ってやれ、訓練生に攻撃を経験させる!」
「「「はいっ!」」」
一般兵が先に飛び出して行き、牡丹と共に攻撃を受け止めガード出来る位置を取っていく。訓練兵がアイコンタクトというにはまだ疎通しきれていない視線を交わしつつ、何とか2人ずつ終焉獣の背後に付く。
「訓練の成果を見せろ!」
「そうそう、いいとこ見せな!」
ほとんどの攻撃は牡丹が引き付け、終焉獣の注意が逸れても訓練兵へは届かないようにと先輩達が食い止める。自分達が攻撃される可能性が低いと思えば訓練生も積極的に踏み込み、攻撃を加えてゆっくりではあるが1体、また1体と獣達に止めを刺していく。
「未来を担う大切な人達だ、誰も倒れさせないよ…!」
ヨゾラが、フランが手厚く回復を施していく。実際の回復だけでなく、怪我をしても治してもらえるという信頼もまた士気を支える。
そして初戦は、一般兵のうち数人が僅かな怪我をした程度で終焉獣を倒しきった。
「お疲れ様、怪我をした人達はおいで、手当をしておこう」
ルブラットが呼びかければ「大したことはないですけど」とやってきた兵士達は流石に戦いにも怪我にもある程度慣れているらしく、怪我の具合もちゃんと把握している。
「……ちょっと大袈裟すぎません?」
実際の傷よりも結構大き目に巻かれた包帯に首を傾げる。もちろん動きを阻害するほどではない。敵を油断させる策だとこっそりルブラットが告げれば納得したように彼は頷いて、ちょっとまだ傷みが残っている風に腕を支えつつ戻っていった。なかなか演技のできる男だ。
そうやって数度の襲撃は、時にルブラットや夏子が敵の体勢を崩したり支援を入れ、味方の陣形が崩れれば暁蕾がフォローに入り、その間にフランや潮が回復しリディアが神気閃光でじわっと削って止めを兵士達に任せ、と概ね予定通りに乗り越え。
「や~ い~じゃん! コレでまた一つ平和に近づいた ってモンよ」
軽口めいた夏子の言葉に、けれど実際助かっている実感も籠もる。
そしてそろそろ予定の野営場所へと到着する夕刻。
「なんかすごい勢いで近づいてくるんだけど!?」
「単体 左後方から ……魔種だねー」
「『燃え盛るアークニャ』の特徴と一致するな」
周辺の警戒を続けていたヨゾラが思わず声を張り、夏子とルブラットがそれを補足する。
「左後方からね! 皆さん、右前方へ! もし荷車に延焼したら消火をお願い!」
「了解! 今からイレギュラーズの皆さんから直接の指示にも従うように!」
自分達には手の出ない相手だと察した隊長が頷いて号令を出す。ヨゾラ発案で事前に話を通しておいた、魔種と対峙した時の指揮体系変更。
「長引いて暗くなると厄介だな、使っとくか!」
牡丹が燃え盛るように翼を光らせる。屋外ではやや拡散する本来の発光スキルを上回り、兵士達の辺りまでも広く照らして視界を確保する。狙われる可能性はあれど、見えない恐怖の方が危険と判断。
リディアが荷車を囲むようにオルド・クロニクルを展開し保護結界を張る。意図しての破壊には無力だがそれが炎による攻撃であれば幾らかの軽減効果を持ち、事故や過失による物品への損傷は完全に防げる。おそらく延焼も防げるだろう。潮が消化器の栓を引っこ抜く様子を兵士達に見せ「わしが間に合わなければここを持って火元にこう向けて……」と使い方を説明しておく。
そしてイレギュラーズはアークニャを正面から迎撃するように展開。その頃には全員になんか燃える遠影が見えてきて――
「いやったーたっくさんいるじゃーん!」
頭上に構えた巨大火球を荷車巻き込んだ兵士達に放物線でぶん投げようとするフォームのまま猛スピードで突っ込んでくる女がいた。魔種である。
「はっ、傲慢? 臆病の魔種の間違いじゃねえか!」
「はぁあああ!?」
そして一瞬で狙いを牡丹に変えた。
「弱いものいじめで粋がるしかねえとはよ! オレ達がそんなに怖いのかよ?」
「怖いわけないでしょハッ! 燃やし尽くしてあげるわ!」
炎と炎がぶつかり合って爆ぜる。盾を火球に叩きつけそのまま高速直線飛行で接敵、己の炎を纏ってぶん殴る『たったひとつの冴えたやりかた』を『万雷ノ舞台』にて。
ちなみに20世紀地球にある同名の小説、そういう話じゃないからな☆
「そんな炎で燃やされる程私たちはヤワじゃないですよ?」
さらにリディアが夜葬儀鳳花で重ねる炎。しゃらと錫杖が鳴れば潮の生命力を乗せた神子饗宴が仲間達を強化し、宵闇のカンタレラを纏った刺針がルブラットの手から飛ぶ。
「燃やす事しか能のない魔種、この場で死ぬのは貴様だけだ!」
星空の泥を流し込んでから急接近、発動と共にヨゾラ自身も光輝を放つ零距離での魔術・星の破撃。流星の残滓が如く光が収まるには叩き落とした火球を道連れにして。
挑発すればするだけそこに火球が飛んでくるのだが、負けじと暁蕾やフラン、潮が次々に回復を飛ばしていく。
(予想以上に挑発効くのう……)
さらに後ろまで兵士達を逃がす必要があれば潮も「ちゃんと中まで焼けるかの?」なんて言ってみるつもりだったのだが、回復しつつイレギュラーズの最後尾、輸送部隊すぐ前での守りに徹して良さそうだ。ポチは大人しく荷物に隠れている。かわいい。
「こんなに大チャンスなのに倒せないんだ!」
回復役なのにフランちゃんめっちゃ挑発するじゃん?
潮よりは前、アークニャと輸送隊の直線上には入らないが万が一狙われれば守りに入れる絶妙な位置。えげつない頻度で飛ぶノームの里直伝の回復。
(……いつだって、物語の主役は前で戦う人達でこの仕事は、きっと後世に残りやしない)
それでも。
「あたしの戦いは『護って、支えること』だから! 積荷も、仲間も、護ってみせる!」
確実に要の1人たるフランを挑発のままに集中攻撃するも、アークニャにとっては正解の1つだろう。
だが。
「怒らせねえ内にとっとと逃げ帰ったほうがいいんじゃねえか?」
「あ゛あ゛?」
要所で牡丹の挑発がバチバチに決まって一番頑丈なとこに飛ぶ火球。
その間にあえて戦線から外れていた夏子は、気配と感情に意識を巡らせた。もう一体の魔種が『漁夫の利』を狙いに来る可能性は高い――。
「燃え盛るなんつう大層なあだ名はオレがもらっておいてやるよ、燃えカスのアークニャさんよ!」
特大の火球と豪速の炎がぶつかり、傲慢を宿した魔種が残火と共に散る、時。
(いた)
近づく気配を、はっきりと捉えた。
「はぁ~ ヤレヤレ しんどいわ~ 隊とはぐれるの怖いケド トイレをぉ……」
夏子が1人でふらりと離れ。
あえて傷痕を残し、満身創痍を演じ、けれど万全に治療を進め。
「てめえらは先に行け。オレ達も休んでから行く」
輸送隊へとわざとらしく大きめの声で伝え。
特大の爆音と光の合図が響く。
「ここで君達が死ねば、帰りを待っている者が悲しむよ。逃げるだけでもいい。ただ、足を竦ませるな」
続けざまの戦闘に浮足立つ訓練兵達に、ルブラットが声をかけた。
「ここはあたし達が護るから、積荷だけでも!」
先へと促すようにフランが呼びかけるが、輸送隊にも事情は告げてある。
「禍根は残さないよ 誰の為でもない 僕の為にも」
牡丹がわかりやすく皆の盾なら。
魔種ルミルムを引き付け、逃さぬと動く夏子は隠し盾、か。
満身創痍の演技を見抜けなかった怠惰の魔種を、これまで完全に支援に回っていたフランの魔剣が縫い留める。暁蕾のマリオネットダンス、ルブラットのカンタレラ、リディアの呪――牡丹もまたルミルムの注意を引き寄せ、「殺せそうなら、か……なめられたものだね!」とヨゾラが星の破撃を叩き込む。アークニャ戦と変わらず回復を絶やさぬ潮が後方を支え。
逃げるべきだと気付いた時には逃げる手段を奪われ、2体目の魔種も滅んだのである。
終焉獣の危機は残るも、落ち着いた状況で野営へと入ることができた一同。
料理や呈茶の技術を駆使する牡丹やリディアに、スキルはなくともこれまでの経験を活かして手早く調理を進めていくフラン、手伝うヨゾラや他のメンバー、勿論輸送隊も全員加わって野営の準備を終え、温かな食事と休息に一息。
そして当然のように隊長の恋が肴にされた。
もう恋人にプロポーズする話とか全員に行き渡ってる。
「戦いの最中だろうと 恋人いるなら想いは伝えた方がいーですよ マジで」
物凄く実感の籠もった夏子の言葉に、頑張れとガッツポーズで伝えるヨゾラに、神妙に頷く隊長。
雑談を繰り広げつつ、潮は道中と同じように聞き耳を澄ませ。
夜に現れた終焉獣は見張り担当のイレギュラーズと兵士達で片付け、翌日もまた進み輸送を完了する時には危うさも抜けつつある訓練兵達に、フランが微笑む。
「……やっぱりあたしは、ずっと、ずーっとこうやって誰かを護っていきたいなって思ったんだ」
任務完了、損害なし。
それは守るもの達の、何よりの誉れだ。
成否
大成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした!
いやーオールクリアーです凄い。
ギフトから非戦含めたスキルからすっごい噛み合ってました。
ちなみに隊長さんの恋人は軍属じゃないんだごめん。
プロポーズしたら多分遅いわ!って怒られます。なお成功します。
GMコメント
こんにちは、旅情かなたです。
最終決戦が裏方、縁の下の力持ち、もしかしたら次代が主役の前日譚。
地味に、けれど堅実に挑んでもらえれば嬉しいです。
●成功条件
人員・物資共に8割を守り切っての輸送任務達成。
●兵站輸送部隊
二十人の歩兵と五台の荷車で構成されています。
半数は訓練兵、残りは一般兵。少年~青年の年代の男女です。平民や貴族の三男三女より下の子の混成部隊(平民多め)となっています。
部隊長は28歳平民出身の一般兵男性。戦いが無事に終わったら恋人にプロポーズしたい。
訓練兵は戦闘中に恐慌状態になり行動できなくなる可能性はありますが、自ら戦線離脱することはありません。
また、離脱するよう指示を出した場合も戦闘終了後に合流します。脱走はありません。
●輸送ルート
この部隊は戦場までやや迂回するルートを担当します。野営込み一泊二日。
狼とか猪に滅びのアークが張り付いて凶暴化したタイプの終焉獣はちょくちょく襲いかかってきますがさくさく倒せる程度の強さです。こちらは一番強い一般兵ならタイマンで、訓練兵でも複数人で囲んで殴れば倒せる程度。
ばしゅーんどかーんずんばらりん、って感じで格好良く倒してください。
●魔種について
・燃え盛るアークニャ
傲慢の魔種。撃墜数を重視して「とにかくいっぱい殺せばいいのね!」と弱いやつから殺したがる厄介な女ですが、挑発されるとすぐキレて攻撃目標を挑発相手に変えがちです。
至近~中距離に範囲サイズの炎(BS業炎つき)をボコスカ投げて来ます。単調ながらも威力は高めかつ物体に当たると延焼します。荷車に積んだ兵站とかとても良く燃えます。
・ゆらぎのルミルム
怠惰の魔種。「生きてて殺せそうなら殴っとく」くらいのゆるい感じで輸送ルート上に出没しますが危ないと思ったら逃げるしアークニャとの接触は徹底して避けます。
「輸送任務完了後に何らかの策を講じてイレギュラーズのみで対峙する」ことを選択した場合、任務完了後に戦闘を発生させることができます。ただしそこで逃げられた場合は戦闘終了となります(輸送任務に成功していれば成否判定に影響はありません)。
できるだけ遠距離からBS停滞・不運・石化・魅了のどれか1つ(範囲)か2つ(単体)つきの攻撃を放り込んで来ます。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
それでは、ラストバトルの縁の下へ。
よろしくお願いします。
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