シナリオ詳細
再現性東京202X:黄昏時に影は踊る
オープニング
それは、沈む夕日が地平に消えて、空から赤の名残が消えるまでの僅かな一時。
夜と呼ぶには明るいけれど、昼と呼ぶには暗すぎて。
そこに誰かがいるのはわかれども、それが誰なのかは呼びかけてみなければわからない。
顔見知りか、見知らぬ人か、それともあるいは――人ならざる者か。
故に、古来より人はその時間帯をこう呼んだ。
夜の始まりにして昼の終わりの境界線。
彼岸と此岸が入り混じる逢魔が時。
黄昏時――誰彼時と。
「なあ――お前は誰だ?」
●
再現性東京20XX希望ヶ浜地区、希望ヶ浜学園、校長室。
混沌世界に流れ着いてきたウォーカーたちが作り上げたその街を見下ろすと、黄泉崎・ミコト((p3n000170))は集まったイレギュラーズ達へと静かに振り返る。
「まずは集まってくれたことに感謝を。そして――夜妖<ヨル>の出現が確認された。君達の力を貸してほしい」
ここ、希望ヶ浜地区に現れる怪異『夜妖<ヨル>』。
それは、数多の伝承、怪談、都市伝説に登場する怪異の姿や在り方に通じる存在であり。
科学文明の中に生きる再現性東京の住民達にとっては存在してはいけない、倒すべきもの。
「今回確認された夜妖は、影のような姿をした存在。今から準備をして向かえば……多分、丁度良い頃合いに到着できるはずだ」
部屋の窓から傾き始めた太陽に視線を走らせ、ミコト はわかっている夜妖の情報を手短に語る。
この夜妖に出会う条件は『夕暮れから夜を迎える時間まで、奥梶浦の海岸で海を見つめること』。
そうしていると、ふと気付いた時にはそれぞれの隣に『影』が現れているという。
現れる影は、最初は輪郭もあいまいな人型のような形状。
けれど――それをはっきり見ようと目を凝らすことで、影は像を結び実体を得る。
「被害にあった人から話を聞いてはみたが、『影』がどんな姿になるのかは、見る人によって違ってくるようだね」
友人や知人や肉親。あるいは、自分自身や伝え聞く魔物となることもあるかもしれない。
いずれにしても、確かなことは二つ。
どのような姿を取ろうとも、それらは例外なく敵対的な意思を持つこと。
そして、あくまでも『夜妖』でしかなく本物には成りえないこと。
「君達の前に何が出てくるのかはわからないけれど……まあ、何が出てきても君達なら大丈夫だろう?」
そう言って説明を終えると、ミコトは軽くグラスを掲げて笑みを向ける。
「気を付けて行っておいで。頼んだよ」
- 再現性東京202X:黄昏時に影は踊る完了
- GM名伊瀬 遥
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2024年03月20日 22時20分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
「黄昏時……即ち逢魔時故、夜妖も現れましょうかと」
「逢魔が時はこわいものだよ。それを自分は身に染みているとも。ただ、それはそれ。これはこれ。だよ!」
『死澱』瀬能・詩織(p3p010861)の紡ぐ言葉に『特異運命座標』水鏡 藍(p3p011332)が頷き。
振り返る先で揺らめくのは、一つの影。
いつからいたのか、今現れたのか。
それすらわからず、確かなことは一つだけ。
「では、打ち合わせの通り」
「皆で固まって動くのも良し、ばらばらでも良し。何方でも構わないよ!」
髪に残穢を纏う詩織の、式神を展開する藍の、二人の視界の先で影は輪郭を確かにし――現れるのはもう一人の『詩織』と『藍』。
「蜃気楼のように揺らぎ己を映す夜妖、というわけだな」
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)もまた、『影』の姿に息をつく。
(……俺自身を模した敵と戦うのは、もう何度目だろうか)
世界を憂いたバグ、嫉妬に殺された者、残滓を拾う滅びの獣。
幾つもの形で生まれた自身の影。
その誰もが難敵で――その全てを退け、今に至っている。
「だから今回も怖れる事は無い、乗り越えるだけの話さ」
退くつもりはない。
挑み、乗り越え、進むのみ。
「相手の姿を写し取る夜妖か……面白い」
「なるほどなるほど、自分自身と戦う事が出来るのか……」
呼吸を重ねる『修羅の如く』三鬼 昴(p3p010722)が破砕と金剛の闘氣を身に纏い、
刀に手をかける『狐です』長月・イナリ(p3p008096)が自然な動きで歩を進め――、
「「――っ!」」
渾身の拳が互いの体を捉え、昴と『昴』を弾き返し。
抜き放つイナリの刃を、身を逸らす影がかわし――同時に閃く影刃を身を沈めるイナリが潜り。
切り上げる刃が影の狐火を断つと共に、火の粉の先に影を見据える『生来必殺』イルマ・クリムヒルト・リヒテンベルガー(p3p010125)の銃弾が、影の銃弾を撃ち落とす。
「ほう、姿を真似るとは。そうくるか」
「要するに、自分自身とミラーマッチが出来るという事だろう? お誂え向きに能力まで完全にコピーするようだしな」
「うん……じつに素敵だわ。とても貴重な戦闘経験値を獲得出来そうだわね♪」
そうして影と向かい合い、イルマは、昴は、そしてイナリは笑みを浮かべる。
同じ力を持つ、手の内を知り尽くした敵。
だからこそ、先へ挑む為の相手として不足は無い。
「自分の戦い方は自分が一番良く解ってる筈だから、こっちのしようとする事は、向こうも解ってるよね」
鏡合わせに剣を構える影に、『晴夜の魔法(砲)戦士』マリオン・エイム(p3p010866)は慎重に、しかしどこか楽し気に呟く。
「さて、どうしたら良いんだろうね?」
握る得物も、伝わる技量も同じもの。
違いは、ただ一つ。
男性の姿のマリオンに対して、影は女性の姿を写していることのみ。
(……うん、突破口は思いついたかもしれないマリオンさん。上手くやれるかな?)
そうして――、
「ま、やっぱそうなるよな。マスティマ辺りになってくれたら心置きなく殴れたんだがな」
『影』を見つめ、『ガイアネモネ』紅花 牡丹(p3p010983)は静かに呟く。
その姿は、牡丹ではなく、他の仲間達でもなく。
「けど、十中八九アンタの姿だろうとは思ってたよ……かーさん」
この地に召喚された直後に助けられ。
幾つもの思い出と、たくさんの愛を受け取って。
――黒い太陽からみんなを護り、命を散らした。大切な人。
「んじゃ、やるとするか」
だからこそ、見誤りなどしない。
呼びかける言葉は、偽りの影ではなく、胸の中の彼女へのもの。
「開眼『バロール』。あまたの星、宝冠のごとく!」
破滅の魔眼が光を放ち、握る拳に炎を燃やし。
片翼へと炎を纏い――牡丹は翔ける。
●
打撃、斬撃、魔術に銃弾。
無数の力と技が交錯し――弾ける火花の中を、イナリと昴が駆け抜ける。
「デスティーノ・コイントス!」
「我流之極『修羅』!」
空を裂く大太刀は影の残像を断つに止まるも。
即座に地を蹴り身を翻し、横からの刃を飛び越えざまにイナリが放つ斬撃が影を掠め、数本の髪を宙へと散らし。
「お――ぉおおっ!」
拳と蹴撃が互いを捉え、しかし、崩れることなく踏みとどまり。
続く肘打を堪えると共に、昴の腕が首を捉えて投げ落とし――拳の打ち下ろしと、跳ね起きざまの蹴撃が交錯して二人の身を弾き合い、
「うん、私の分身体なら付与状態でクリティカル100だから下手な攻撃は当てられないわよね。FBしなければ」
「はっ、そう来なくてはな!」
イナリは、昴は、笑みを零す。
自分が相手だからこそ、簡単に刃が届かないことはわかっている。
単純なパワーだけなら、昴は恐らくイレギュラーズ最高。そして単発の火力においても我流之極『修羅』は最高峰であり――必然、相対する『昴』もその領域。
「……まぁ、互いにやる事は一つだけだわ。クリティカル回避を出来なくなるまで連続で叩き込むだけ、さぁサドンデスの開始よ!」
己が本領で並び立てる強敵。
だからこそ、楽しい。
だからこそ、昂る。
風を裂き、砂浜を、岩場を、ブロックの上を跳び渡るイナリと影が交錯し。
全身に巡る氣を活性化させて、最大限まで力を高め――昴が選ぶ業はただ一つ。
極限まで鍛え上げた肉体に、極限まで練り上げた闘氣を巡らせ。物理限界さえ超越した破壊の権化と化して。
昂る闘争心の――修羅道に通じる衝動に身を任せ、殴り、蹴り、投げて、極めて、そして壊す。
――ただ、それのみ。
「私の能力値はクリティカルの数値のみ追及したから、防御面はおざなりなのよね。ほら、私! 一発でも致命傷になるわよ、死ぬ気で気張って避け続けなさいよね!」
「いいぞ。至極の暴力と至極の暴力がぶつかり合うこの瞬間を楽しもうではないか」
イナリが、昴が、彼女達が相対するのは自身を写し取った影。
繰り広げられるのは8つの1対1――否、
「俺の影は俺で引き受ける。だが単なる8つの1対1にはしない、協力と意志の力で上を取る!」
「鏡写しではなく、取り得そうな選択を元に独自に行動をとる、と……では、これはどうです?」
イズマの細剣が宙へと踊り、奏でる旋律が仲間達を包み込み。
詩織が合わせる掌の中で『地廻竜の吐息』が光を放つ。
それは、仲間の力を引き上げる術と道具であり――後者は、武具を含め写し取る影の力の外にあるもの。
「一手は譲ります。ですがこれで三手番分、均衡は崩しました」
揺らめく影の髪を、とん、と地を蹴りかわし。
なおも迫る影髪を見据えて詩織が呪を紡げば、その髪もまた呪を纏い敵へと走る。
「このまま全体を削り、より大きく均衡を破っていくと致しましょう」
黒と影。似て非なる二つの髪が絡みあい、周囲へ広がりながらも互いを断ち切り。
切り込むイズマの刃が、合わせて閃く影の刃と交錯する。
「さあ、奏でよう!」
振るう刃に導かれるように、巡る魔力が無数の楽器を一斉に奏で上げ。
その調べを背にイズマが細剣を握れば、巡る魔力が無形の爪を作り出す。
互いの力は五分――だが今は、支援を重ねた自分達が上。
「このまま、序盤から押し込んでいくぞ!」
振り抜く魔爪が影の刃ごと『イズマ』を押し返し。
入れ替わりに走る『藍』の炎を藍が焼き払うと共に、火の粉を貫く牡丹の拳が『彼女』の炎を打ち払う。
「そう来ることは知ってるからね」
「怒りをされるまでもなく、オレは怒ってるけどな!」
炎が宿す怒りの呪縛は、打ち払う度、突き抜ける度、二人を苛む――けれど。
印を切る藍の炎壁が火の粉すら退け。
牡丹が胸に燃やす怒りの炎で呪縛を焼き払い、影を見据えて強く地を踏めば巻き起こる光が一帯を包み込む。
「万雷ノ舞台、聖骸闘衣、展開!」
魔力を、闘気を、戦場の風を掌握し。英霊の闘志を牡丹が纏い。
藍が怨霊の群れで影の光を相殺し――続け掌を打ち合わせれば、藍と影を繋ぐ夢幻の道が顕現する。
「火力はないけど耐久はそれなりにあるさ。任してくれたまえ!」
「お前の相手はオレだ、偽かーさん!」
飛び退く影へと、幻影を背後へと残す藍が、翔ける牡丹が距離を詰め。
続けざまに放つ連撃は、痛打とするには浅くとも――時間が稼げるなら、それで十分。
「いくよ、マリオンさん」
影の大顎を閃く二刀で切り裂き、白く霧散する余波を抜けてマリオンは影へと肉薄する。
閃く右の刃が影刃と交錯し――捌きざまに影が放つ横薙ぎを左剣で受けると共に、身を反転させ放つ右の刺突が影を掠め。
飛び退く影へと、さらに地を蹴るマリオンが追い縋る。
自分にできることは影にもできるからこそ、支援を受けたこの機は逃さない。
「このまま押し込めるかな?」
「ああ、自由に動かれれば厄介なのはわかっているからな」
切り結ぶマリオンに頷き――直後、その背を狙う影の弾をイルマの銃弾が撃ち落とし。
続け飛び退くイルマの頭上を、足元を、幾度となく軌道を変化させる影の銃弾が狙い撃ち――それを岩塊を盾として凌ぐと共に、撃ち返す銃弾が同じ軌道を描いて物影へと走り。
一瞬早く、飛び退く影へと銃口を向けて、イルマは口の端を僅かに上げる。
「かわすか――だが」
弾をこめ、敵を見据え。放つ反動も利用して次弾を、さらにその次を装填して引き金を引く。
ありったけの銃弾が作り出す弾幕が影へ走り――同時に、影もまた同種の弾幕を作り出し。
「まだだ。見えているぞ」
弾幕を抜ける弾に身を掠めさせながらも、続け放つ次弾が互いの間で無数の火花を弾けさせ。
なおも手を止めることなく、重ねた支援を受けてさらに早く銃を構え――放つ銃弾が弾幕を貫き影の手を弾いて体勢を崩し。
生まれた隙間を縫って短く息を吸い、イルマは狙いを定める。
「動きも技も、呼吸まで真似るのは見事と言っておこう」
「だが、それだけならば、これで終わりだ」
同時に、打ち合いを制した昴の拳が『昴』の体を退かせる。
単純な数値では、イルマと『イルマ』に、昴と『昴』に違いは無い――だが、
「いくら真似たところで偽物は偽物。勝手を知る分本物には勝てまい」
「夜妖ごときがこの燃え上がる闘志まで写し取れるか!?」
放つ銃弾は、体勢を立て直す間を与えることなく『イルマ』の肩を撃ち抜き。
地を蹴る影の拳が昴を捉え――その身を揺らがせながらも、昴の拳が『昴』を弾き飛ばす。
それは、作戦であり、仲間の支援であり。
そして――重ねてきた経験と、意志と気迫の差。
「この身を写すならば、この闘志も写して見せろ!」
なおも拳を握る『昴』を見据え、昴の全身が咆哮と共に雷光を纏う。
「神鳴神威!」
雷鳴の神を冠す、全てを置き去りにする雷撃の如く。
一瞬で間合いを詰める昴と『昴』の拳が交錯し。
「これが私だ。覚えておけ」
昴の頬に一筋の傷を残し、闘氣と雷光を纏う拳に貫かれ。
夕闇に消える『昴』の残滓の先へと、イルマは銃を構える。
「一弾一殺。真似て見せろ」
呼吸を整え、精神を集中し。
赤色に光る瞳で見据える先で、影もまた銃を構え――その引き金が引かれるより早く、
「デッドエンドワン」
空を裂く魔弾が、影の銃を、そして『イルマ』を貫き消滅させる。
「これで二つ」
「手札が尽きる前に、均衡は崩せましたか」
影刃を捌き、光術を同じ術で相殺し。
切り込む影を魔力弾で牽制しながらも、イズマが周囲へと視線を走らせて。
呟く言葉に頷きながらも、詩織が走らせる呪髪が影の髪を絡め捕る。
拮抗しながらも、支援の後押しを得て優位に運んでいた戦況。
それが崩れた。ならば――、
「決着の頃合い、と。そういうことでしょう」
そっと息をつく詩織が舞うように身を翻せば、振り踊る髪は刃となって影の髪を切り散らし――地に落ちる影を縫って走る呪髪が『詩織』の身へと絡みつき。
「至高の恩寵を――熾天宝冠」
広域俯瞰で把握する戦場にイズマの旋律が響き渡り、仲間達を癒し――続け、踏み込み閃く刃が、鏡写しに奏でようとする影の曲を切り落とす。
「私の四手にイズマさんの四手を重ねて八手番。その差が先に倒れるかの分かれ道です」
「だからこそ、その差は埋めさせないよ」
戦況を把握し、支援を行う詩織とイズマの立ち回り。
それは影も同じだからこそ、必要なのは今の自身のさらに先。
「俺は全身全霊で、自分を超えてみせよう」
切り込み、かわし、曲を奏でる。
イズマがよく知るその動きを、重ねた加護と意志の力で一手先へと上回り。
「努力と経験と、力及ばぬ悔しさを知るからこそ。この影をも糧にして、より高みへ行くんだよ!」
影刃を刃で制すると共に、押し当てる掌に魔力を集束し――思いを束ね放つ光が影を飲み込み、消し去って。
「……招くは現より虚ろへと」
その光に照らされ、詩織の呪髪がその色を一際深める。
影の黒よりもなお黒く、暗く、深く。
「……魂命肉叢、貪り喰らいて竭く……暗く冷たき死の澱み、其の底へと引き摺り込みて……残穢 『髪竭喰死』」
紡ぐ言葉と共に蠢く呪髪は絡め捕らえた『詩織』を包み込み、その『存在』を喰らい尽くし。
髪が解け去ったその後に、影は残滓すらも残ることは無く。
「これで、残るは――」
いつしか、暗さを増した戦場に詩織が視線を巡らせれば。
夜色に染まりゆくその中を、速度を落とすことなくイナリが駆ける。
「もっと――もっといけるよね『私』なら!」
矢継ぎ早に交錯する刃でかわす、綱渡りの勝負――だからこそ、面白い。
頬を、首筋を、幾度も刃が掠めるも、恐れず止まらず、さらに前へ、より速く。
残像を残し交錯する二つ影の間で刃が閃き――切り飛ぶ『影』の右腕が夜闇へと消え去るも。
それと引き換えに飛び退き、左腕から放つ影の狐火がイナリへ走る。
――けれど、
「獲ったよ。三光梅舟っ!」
腕を断ち切ろうとも止まることなく。
さらに踏み込むイナリの刃が、炎を潜り『影』を両断する。
「よし、と」
ふ、と息をつくイナリが満足げに笑って刃を納め。
振り返る先で相対するのは、二対の刃を交えるマリオン達。
切り結び、弾ける火花の裏から影の魔弾が走り――半歩身を逸らしてかわすと共に、閃くマリオンの刃が影を浅く薙ぎ。
「今まで、格闘戦主体の近距離では男性モード、魔法戦主体の長距離では女性モードで戦って来たからね」
女性でも格闘戦はできるし、その経験もある。
それでも、重ねてきたのは長距離魔法戦であり――近距離戦では、男性の方が『慣れ』の分だけ上を行く。
「だから、それが突破口。僅かな差だけど、その積み重ねが最後には決定的な差になる、と。そういう事」
その言葉を理解しているのか、投げ放つ刃を牽制として影は強引に距離を取り。
続けて両掌へと、影を通して降ろす魔神の魔力を収束させ――けれど、
「一手、遅いよ」
魔力が放たれるよりも一瞬早く、左の細剣が形作る黒の大顎が魔力を貫き。
止まることなく、身を翻して放つ右の刺突が再度形作る大顎が『マリオン』を喰らい尽くす。
「さて……君もここまで、かな?」
その決着を視界の端に捉え、藍は影へと語り掛ける。
藍が見ることで生まれた藍の影。
『自分』と言う個になれず、『誰か』になるしかできぬ存在。
「……君は誰かになりたいのか。それとも自分になりたいのか」
試すような藍の言葉に、影は僅かに動きを止め――首を振り印を切る『藍』に藍は淡く笑みを浮かべる。
「ああ、そうだ」
これまでと変わらず。けれど、僅かに気配は変わった。
それは錯覚かもしれないけど――それでも、
「それが自分になるということだ。それを語る言葉を持つかどうか。さあ、語ってみるとよい!」
『――ぁ』
鏡写しに――同じ道を歩む姉妹のように。
印を結び、呪を唱え。
放つ炎と炎が互いを照らし、焼きつけて。
「いつか、答えを得たなら聞かせてくれ」
炎の中へと消え去った『藍』へと、藍はそっと言葉を送る。
――そうして、
「……くそっ」
炎を振り払い、同時に炎を退ける『彼女』の姿に牡丹は歯噛みする。
互いに無傷ではなく、しかし決着をつけるまでには至らず。
(つまり、だ。オレ同士だと間違いなく千日手なんだよなあ)
己の得手が回避と防御である以上、こうなることはわかっていた。
そして――仲間の力があれば、崩すことが難しく無いことも。
「加勢いたします」
「……ああ、頼む」
影炎を詩織の呪弾が貫き、続く藍の炎とイルマの銃弾、そしてイズマの魔弾が障壁を穿ち。
さらに重ねて、地を蹴る昴の拳が、イナリとマリオンの刃が。
捌かれ、受けられ――打ち倒して。
「……ただ、おい!」
その姿に、牡丹は唇を噛み締める。
大きく強い『母』の姿を、忘れることなく覚えているから。
「かーさんの姿を模すなら、オレと同等じゃダメだろ!? かーさんはあれで技巧派で未熟なオレよりずっと練度上なんだぞ!?」
怒りと、悲しみと、幾つもの想いを籠めた拳に炎を灯し、片翼に燃える銀河の如き火を輝かせ。
「だいたいオレがかーさんの真似してるのにそのオレの真似してんじゃねえよ!」
炎を纏い、硬き己を弾丸として放つ一撃は、影を炎の中に消し去って。
振り返ることなく、牡丹は拳を握りしめる。
「くそが……作戦通りとはいえ、かーさんの姿でフルボッコ、されてるんじゃねえよ。かーさんはもっと硬いんだよ」
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
かくして、黄昏時の影は夕闇の中に消え去って。
後には静かな夜が残るのみ。
お疲れさまでした。
GMコメント
ここ最近の時期であればだいたい5時半~6時半くらいの時間帯。
逢魔が時は意外と近くにあったりする。
実際に魔に合うかはさておいて、交通事故が起きやすい時間帯なので出かける時には気を付けよう。
ヨシ!
そんな感じで、ひとつ。
初めまして、伊勢遥と申します。
今回のシナリオは再現性東京20XX希望ヶ浜地区。
黄昏時に出会う夜妖と戦うものとなります
『誰彼時の影』:参加者の数だけ現れます
プレイングで指定した相手の姿を取ります
(指定が無かった場合はプレイヤーキャラの姿を取ります)
姿に応じた戦い方をしますが、どんな姿であっても強さは写し取った人と同程度
一対一で五分くらいなので、頑張って倒すべし。
基本的に、やるべきことは至ってシンプル。
行って、倒して、帰るのみ。
そこで何と出会って何を思うかは人それぞれ。
無事に魔を倒して帰ってこれるように、頑張りましょう。
ではー。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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